『福島代表の緑山高校、上杉君率いる明青高校を破り甲子園初優勝、マウンド上ではバッテリーの二階堂君と犬島君が殴り合いを始めました。そこにキャプテンの花岡君も加わり大乱闘になっています』
事務所の自室でテレビを消したアクアは、ミヤコから相談されたことを振り返っていた。東京ブレイドの公演と特撮の収録が終わり、有馬に抱き着いたまま帰宅したアクアは「晩御飯作らなきゃ」と台所に立とうとしたがアイに止められた。その後すぐに寝てしまい結局起きたのは昼の12時で、昼ご飯を食べずに事務所に向かい、ルビーのことについて聞かされた。
「燃え尽き症候群とかじゃないの?」
アクアがミヤコに問い掛けるが、彼女は首を横に振り
「それとは違うわ、やる気が無いのは同じかもしれないけど」
「母さんのようにアイドルになって、大きな舞台で歌ってテレビや雑誌の取材を受けて、これからって時に」
「一昨日のフェスも二人が頑張ってくれたから、5月よりマシになったけど、このままだとね」
彼女は頬杖をついてため息を吐いた。
「B小町の今後のスケジュールってどうなってる?」
アクアが問いただすと
「9月末に生放送の音楽番組があるわ、3人共それまで仕事は無いし、場合によってはMAYちょのYouTubeで宣伝も兼ねて出演させる予定よ」
「それまでにモチベーションが復活する可能性は?」
「神にでも祈ってみる?」
「それは最後の手段ですよ。ミヤコさん」
「でもルビーのやる気が復活しないと今後の展開にも響くわ」
「とりあえず話してみるけど、俺はカウンセラーじゃないし、最悪なことも想定してね」
そう言って、自室に戻って行った。
「(やれやれ一難去ってまた一難とは、お兄ちゃんも大変だ)」
珍しく弱気なアクアだが、妹のことはやっぱり心配である。頭の中で模索していると、ポケットの中あるスマホが震え、ディスプレイには『独身漫画家(今日あま)』と記され、通話ボタンを押すと
「アクア君、本当にごめんなさい!」
「いきなり謝るなんて、どうしたんですか?吉祥寺先生」
「実はアビ子先生が・・・」
この言葉だけで全てを察してしまった。あのズボラ漫画家しばらくは大丈夫だったのに、ここでギブアップ宣言とは、それでも半年は頑張ったのだから褒めるべきか?
「あの~非常に言いにくいことですが」
「やっぱ駄目ですよね」
「作るのは別に構いませんが、今の立場的に女性のいる家に出向くのがマズイんです。下手に週刊誌に書かれると・・・」
「ごめんなさい。そうよね」
電話越しの彼女のテンションが落ちるが
「タッパ―持って、事務所に来てくれるのなら大丈夫です。公演の終わった舞台インタビューの名目なら問題ありません」
「え!?いいの?」
「その代わり、頼みたいと言うべきか相談したいことがありまして」
「そんなことで良いのなら、お安い御用よ!」
「じゃあ、午後2時頃に起こしください。副社長に話は通しておきますので」
「因みに私の分も・・・」
「連載頑張ってくださいね!」
そう言って電話を切って、ミヤコに今回のことを伝え、明日の買い物をしようと準備していたら
「ねぇ、あーくん」
ドアを開けた音すらせず有馬が目の前に立ち、いつもより声が低く目から光が消えていた。
「さっきの電話だれ?」
「あぁ吉祥寺先生から」
「何の用?」
「アビ子先生がピンチだから、ご飯作ってくれって」
「それで?」
「作る・・・」
最後の「よ」を言おうとした瞬間、目の前から強い衝撃を受けアクアはベッドに押し倒されてしまった。
「ねぇ・・・なんで私が・・いるのに、他の人に手を出すの?」
彼の上に跨り、その両手は今にも首を絞めようとしている。アクアは彼女の手首を握り
「ルビーのことで相談したいんだ、かなだって知ってるだろ?ルビーの様子がおかしいのは?」
「あぁそうゆうことね」
彼女の力が弱まり、アクアもホッとするが有馬が全体重を掛けて覆いかぶさり
「あーくんが優しいのは分かってる。でもその優しさを安売りしちゃいけないと思う」
「分かってる」
「分かってないよ、だから皆が頼ってしまうの」
彼女を抱きしめ、頭を撫でながら
「心配してくれてありがとう。俺は幸せ者だよ」
「あーくん」
目を瞑る彼女との愛を分かち合い、甘いひと時を堪能する。
「ねぇ明日のことなんだけど、私もいていいよね?」
アクアから降りた有馬が尋ねると
「いいよ!というか誘うつもりだったし」
「ありがとう」
そう言って彼女は部屋から出て行った。
「(あそこまで愛してくれるなんて、本当に幸せ者だな俺も)」
首を絞められそうになったのに、こいつも大概にヤバい奴である。
~翌日~
事務所の台所で料理をしているアクアの近くで、有馬・吉祥寺・鮫島の3名はインタビューという名のお喋りに興じていた。彼はその声をBGMにしながらテキパキと進めている。
「え!?アシスタントの人が結婚したんですか?」
「はい、まぁ幼馴染の彼氏さんがいて、誕生日にプロポーズを受けて」
「っで、そのアシスタントが、アビ子先生の身近な世話をしていたから、居なくなった途端に前の生活に逆戻りしちゃって、私にヘルプしてきたの」
「ごめんなさい。舞台終わりのアクアさんに頼むのも悪くて、でも結局頼るハメになってしまって」
小さいアビ子が更に縮んで謝罪した。
「料理をするのは好きなので、いいですが頑張ってくださいよ先生」
エプロン姿のアクアが彼女たちの所へ向かい、椅子に座った。
「アクア君、その姿いいお嫁さんになれるわよ」
「吉祥寺先生、喧嘩を売っているのなら3割引で買いますよ」
「アクアさんがお嫁さんなら、私は旦那さん?」
ツッコミ不在の空間って怖いよね。
「それで、相談って何?」
ようやく真面目モードになった吉祥寺がアクアに尋ね、妹のルビーについて話し始めた。有馬も彼の横に居ながら、稽古やライブでの印象を伝えると
「スタートとゴール地点の違いですね」
小さくなっていたアビ子が声をあげた
「その子は『アイドルになる』というゴールを目指してしまったから、次の目標が見つからないの、多分だけど今まではゴールした時の残り火で頑張ってこれたけど、火が消えてしまっているね」
「これはどの業界でも言えることなんだけど、例えば『プロ野球選手になる』をゴールにするか『プロとして活躍するぞ』をスタート地点にするかでモチベーションは違うの」
漫画家の二人は、目の前の高校生へ向けて話を続けた。
「アクア君の妹なのも原因かもね」
「どうゆうことですか?」
「身近な人が活躍すると今の自分と比較しちゃうの、ましてや双子の兄なら尚更ね」
アクアはふと、この世界に来る前のことを思い出した。歌の世界で妹がユニットを結成し売れてしまい、先にデビューしていた姉は「〇〇の姉」というレッテルを貼られ肩身の狭い思いをしたこと、結局は立場が逆転し、妹の方が「〇〇の妹」「姉の名前で飯を食っている」と言われた。
「私も初めて連載を持ったとき焦ったわ、周りには同じ世界で結果を出している重鎮たちと同じ土俵にいる。自分の作品は読者の目に留まるのか?もしかしたらページを飛ばされてしまうんじゃないのか?」
「どうやってモチベーションを作ったんですか?」
「特別なことはしてないわ、好きなことをトコトコ突き詰めて自分の中で最高を追い求めていた結果、私はここにいる」
メガネを外した吉祥寺がアクアを見据えていた
「ごめんなさいね。はっきりとした答えじゃなくて、でも必ず火を復活させる方法はあると思うわ」
彼女は頭を下げたが、アクアは
「いいえ、僅かですが光が見えました」
「そう言ってくれると助かるわ、アビ子先生そろそろお暇しましょうか?」
「はい、アクアさん今回もありがとうございます」
彼女たちはアクアから料理を受け取り、苺プロを後にした。
「先生気になったのですが?」
「どうしたのアビ子先生」
帰りのタクシーで二人は顔を合わせ
「アクアさん達、付き合っているのでしょうか?」
「有馬さんとアクア君が?どうして?」
「女の勘と言うべきか、なんとなくと言うべきか」
こんな漫画家でも女の勘は当たるものである。
「もし有馬さんたちが結婚したら『今日あま婚』かしら?離れていた二人を引き合わせた作品になるし」
「そこは『東ブレ婚』にしましょう。劇中で刀鬼とつるぎは惹かれあいます」
「まぁ有馬さんたちが結婚したら考えましょう。ところでアビ子先生」
「なんですか?」
「苺プロに拠点を引っ越そうなんて思ってませんよね?」
メガネを外し眼光鋭い目でアビ子を睨み付け
「イヤダナ~、ソンナコト、ミジンもオモッテマセンヨ~」
明らかに動揺し目が泳いでいる
「あなたはいい加減、家事を覚えなさい」
「嫌だ~、あそこに住めば衣食住、完璧なんだ~」
皆さまも、こんな大人にならないよう御注意ください。
アクア君にとって吉祥寺先生も頼れる大人です。
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