酒飲みとズボラの漫画家を見送り、アクアは洗い物をしながら考えていた。やる気を失ったルビーに関して自分が出来ることが少ないことに、結局のところ彼女と話し合っても上から目線の言葉になってしまい逆効果になるのが目に見えてしまうからである。八方塞がりではないが選択肢が少ないことに頭を悩ませていた。
「あーくん」
有馬が洗い物をするアクアの後ろから抱きつき体を密着させてきた
「どうした?」
水を止めて顔を向けず、聞き返すと
「今はこうさせて」
「甘えん坊さんだね」
「それを受け入れるのが男の器量なの」
アクアは体を反転させ、正面から有馬と抱き合い、互いを見つめ顔を近づけるが
「ん゛ん゛んんんん〜」
出入り口にいた副社長の大きな咳払いによって未遂に終わってしまった。
「あなた達ねぇ〜」
有馬とアクアは床に正座させられるが、互いにくっつきミヤコの雷を巧みに回避していた
「アクア結局のところ答えは見つかりそう?」
正座から椅子に座らせ今回のことについて聞いてきた
「理由が分かっただけでも収穫有りかな」
「理由?どうゆうこと?」
ミヤコの頭にクエスチョンマークが浮かび、アクアが口を開く前に
「その前に副社長、1つ質問ですが」
「なに有馬さん?」
「なんで今回の件をアクアに投げたんですか?」
突然のカウンターにミヤコの言葉が詰まる
「アクアはカウンセラーでもなければ精神科医でもありません」
「それは」
「『アクアなら上手くやってくれるかも』『解決の糸口を見つけてくれるかも』って思いましたか?」
彼女の眼はミヤコを射抜くように冷たく見据えている
「何でもお見通しって訳ね、ごめんなさい。有馬さんの言った通りよ」
ミヤコは立ち上がり頭を下げた
「私だって優しいアクアのことが好きです。でもその優しさに頼ってばかりいるのも駄目だと思います。鮫島先生の耳に直接言いたいですが」
「アクアのことを、よく見ているのね」
「出会ってから長いですからね」
どうやら彼女の怒りは静まり、改めてミヤコは問いただした
「俺というより、俺たちが原因だと思う」
「詳しく説明して頂戴」
アクアは二人に目線を向け
「言ってしまえば、ルビー以外の人達が上のステージに上がってしまったんだよ、特に宮崎旅行以降、苺プロは大忙しだったでしょ?」
彼の問いかけに首を縦に振り、アクアは続けて
「学校でも、同級生の躍進や新入生の活躍を見て、『今の自分はこのままでいいのか?』って、思えばこの1年半トントン拍子で駆け上がってしまったせいで、積み重ねることが出来なかったんだ!」
「何を?」
「自信かな」
「曖昧な言い方ね、あなたらしくない」
ミヤコが指摘すると、有馬が
「デビューして、鏑木プロデューサーのコネでアイドルフェスに参加、PV撮影に新曲は有名人が直々に作ってくれたんじゃ、何も積むことが出来ないわね」
「というか、1年目のアイドルにしては出来過ぎ、本来なら小さいライブハウスでようやく出番があるかないかレベルでしょ?」
若い二人で答えを出すと
「でっ結局、どうすればいいのかが分からないと」
彼女の言葉で振り出しに戻ってしまう
「正直なところ本人次第なんだよね、仮に俺の目標の立て方を教えても意味がないし、作ったとしても砂の城は、スグに崩れてしまう」
「生放送は来月の終わりだけど、レッスンを含めれば時間は限りなく少ないわね」
答えは出ることなく、今日は解散となった。アクアは有馬に手料理を渡し「普通逆だよね」とツッコまれるが「じゃあ今度は期待してるね」と返され、彼女は顔を赤くしていた。なお彼の手料理を食べた有馬は「これに勝つのは無理」と言って3秒で泣いてしまった
自宅に戻ったアクアは台所に立つ、アイにルビーのことを尋ねると
「お昼から部屋に籠ってね、ご飯は食べたんだけど」
絶賛引きこもり中であった
「母さん、ルビーをあの場所に連れて行ってみたら?」
アクアは母の原点であるプラネタリウムのことを伝えたが
「それが老朽化で取壊しになって、今は駐車場なの」
二人とも頭を抱えるのであった。
結局ルビーは部屋から出てくることはなく、久しぶりの母と息子だけの食事となり、アクアは昼間の出来事を伝えると
「確かにね、周りがレベルアップしているのに自分だけが成長してないって感じるわね」
「ルビーの場合、母さんのようになりたいという願望があるけど、そのための道筋が見えないというのも原因かもね、結局のところ何をすればいいのか分からないに行きついてしまう」
「こればっかりは本人次第ね」
母の問いかけにアクアは頷く
「ところでアクア、ミヤコさんから聞いたけど、有馬ちゃんと結構仲良くしているみたいね」
アイの眼光が鋭くなるが
「好きだからね、かなのことが」
昔のアクアなら慌てふためく彼だが、今は違う
「とりあえず在学中に、お腹が大きくなることだけは決してしないでね、約束よ」
「善処します」
「絶対にしないと約束しなさい」
深夜2時頃、目が覚めてしまったアクアは水を飲もうと、台所へ向かった時に物音を耳にした。気づかれないように足音を殺し、部屋に入ると冷蔵庫を開けているルビーが座っていた。
「ルビー、何してるんだ?」
「お兄ちゃん!これはちょっと」
彼女の手には羊羹や魚肉ソーセージが握られていた
「ったく、椅子に座って待ってろ」
アクアは冷蔵庫から、余ったご飯と卵を取り出し中華スープの素とルビーが持っていた魚肉ソーセージを加えた即席おじやを作って、彼女の前に置いた。
「ありがとう」
「お腹が空いているなら晩御飯の時に出て来い」
「だって、お兄ちゃんも怒るんでしょ」
「少なくとも、お前の行動を見て褒める奴はいない」
冷蔵庫からアイスコーヒーを出したアクアはグラスに注ぎながら答えた
「目標がみつからないのか?」
「うん、今までは『アイドルになる』で頑張れたんだけど、次が見つからなくて」
「東京ドームや武道館に立つのは違うのか?」
「それも夢なんだけど、じゃあ何をすればいいのか分からなくて」
彼女は食べていたお椀をテーブルの上に置いて続けた
「お兄ちゃんや皆が頑張っているのに、私だけ何も出来なくて、独りでレッスンしている時に、置いていかれるように思っちゃって」
「(相当参っているな、俺も忙しくて気付いてやれなかった)」
「学校でもフリルちゃん達が、忙しく芸能活動をしているのを見ると段々と心苦しくなって」
ルビーの声が段々と涙声になっていく
「お兄ちゃんは凄いよね、色んなことをやって結果を出して、前に進んで行くんだもん」
「俺は止まれないだけだよ、凄くもないし失敗もする」
「ねぇ、お兄ちゃん、何で違うのかな?」
「違うって?」
「同じ日に双子で生まれたのに、こんなにも違うなんて」
「ルビー、それ以上は言うな」
アクアの語気が多少強くなるが、彼女は
「ねぇ私、お兄ちゃんの妹のルビーだよね?」
両目から涙がこぼれ落ち、アクアを見ていた
「ばか野郎、目の前にいる星野ルビーは正真正銘の俺の妹だよ」
「ありがとう、お兄ちゃん」
「俺はカウンセラーじゃないが、ルビーのお兄ちゃんだ、何も憶せずさらけ出して話せばいい」
アクアは既にお手上げ状態だが、妹の為に悪あがきをするが
「ありがとう。今は大丈夫」
「そう」
「ご飯作ってくれてありがとう。もう寝るね」
「片付けはやっておくから、さっさと寝ろ」
「うん、おやすみ」
そう言ってルビーは台所から離れ自室に戻って行った。残されたアクアは天井に目線を向けて
「(今のままじゃ駄目だな、完全に火が消えてやがる)」
アクアにとって今回の問題は簡単にはいかないようである。果たして彼はルビーを復活させることが出来るのであろうか?続く
アクア君も妹の復活の為に頑張りますが、一筋縄ではいかないようです。
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