フリルちゃんの決心と本心
「ねぇアクア」
昼食後、目の前にいる不知火フリルが口を開き、思わぬことを発した。
「なに?フリル」
「私たち『家族』になりましょう」
「はい?」
国民的美少女からの突然の申し出にアクアは飲んでいたコーヒーが気道に入ってしまい咽てしまった。
「フリルさん?どうゆうことですか?」
「あら、そのままの意味よ」
彼女の目は鋭く、伊達や酔狂で言っているわけじゃないと分かる。
「プロポーズってこと?俺、彼女がいるんですが」
「知ってるわよ」
「じゃあなんで?」
「アクアと一緒に幸せになりたいから、それ以上に理由がいる?」
彼女はきっぱりと言い放ち、未だに頭が動かないアクアに畳み掛けるように
「私がアクアを幸せにする。アクアは私を幸せにしてほしい」
「答えになってないぞ、それ」
「じゃあ言い方を変えるね『惰性に流される恋愛なんてやめなさい!』」
それは今のアクアにとって耳にしたくない言葉だった
「アクアは優しいから、あかねさんを傷つけないようにしている」
「それは・・・」
「そんなの恋愛じゃないでしょ?お互いに言いたいことを言って本心を伝えないと、言いなりになってしまうわよ」
フリルの言葉は1つ1つ強く、彼の心に拳を打ちつけるように響かせる
「私はアクアを寂しくなんかさせない!あなたが辛くて泣きたい時には隣にいて涙を拭いてあげる。楽しい時は二人で一緒に笑いましょう」
「フリル」
「我慢しなくていいの、今の地位を捨ててもいい、私のことを欲望のまま犯してくれても構わない」
「俺は女の子に対して酷いことはしない」
「言葉の綾よ、女の子にここまで言わせるなんて、罪な男ねアクアも」
「似たようなことを、つい先日言われたよ」
「有馬かなさんね」
彼女が有馬の名前を出して、アクアの表情が一変する
「あら正解だったみたいね、女の勘って眉唾物だと思ってたけど」
「あてずっぽうかよ」
アクアの指摘に不敵な笑みを浮かべながら彼女は
「それにしても、あなたに好意を向ける女って、私を含めてだけど個性的ね」
「フリルが表彰台の真ん中にいるよ」
「嬉しいこと言ってくれるのね」
「褒めてない!」
やっぱりこの二人は似た者同士なのかもしれない
「それでアクアの答えは?」
「今すぐには出せない。流石に急過ぎる」
「そう」
フリルは少し残念そうな顔をしていたが、既に行動を起こしていた
「フリル、なんでドアの鍵を閉めているんだ?それになんでにじり寄ってくる?」
「さぁ、なんでかな?」
彼女はアクアを壁側に追い詰め、逃げれないようにジワリジワリと距離を詰める
「大声をあげてもいいのよ、でもそうしないってことはアクアもどこか期待してるんでしょ?」
アクアは逃げようとしても稽古の時に負った怪我が痛みのせいで、上手く動けない。
「沈黙は肯定として受け取るわ」
「ちょっ、まっ」
「待たない」
フリルはアクアに覆いかぶさり両手で彼の顔を固定し、自身の唇を彼の口に重ね合わせる
「ん、ん・・・んぷ・・、ふぁ・・・・っん」
「はむぅ・・・ちゅっ、んぅっん・・・・・・むぅ」
過去に二人の年上女性に唇を奪われているアクアだが、彼女との口付けは官能的で、今までの経験を置き去りにしてしまう。アクアは何とか抵抗しようとするが、右手が彼女の胸に触れてしまい
「ん、むゅ・・ん、アクアのえっち」
「ごめんフリル、そんなつもりじゃ」
「離さないで、私の心臓すごくドクドク波打っているでしょ、初めてなのこんな感覚」
彼女の目から光が消え、もう1回口付けを交わそうとするが
「流石にこれ以上は駄目だよ、フリル」
「じゃあ今度はアクアの方からね」
アクアの腕を掴み彼女は背中から倒れ、さっきとは逆の位置になった。彼は抜け出そうとするが、女の子とは思えない力でフリルに後頭部を掴まれ
「ちゅゅぅ・・・・・じゅるぅっ・・んれゅ、んんぅ」
「んんん・・・・れぅ、ちゅゅん・・・・・・うゅゅにゅ・・・ん」
今日二度目の接吻を交わす。
結局アクアが解放されたのはしばらくしてからで、二人は会計を済ませて店の外に出た
「ねぇ「なぁ」」
互いの声が重なり、レディファーストということでフリルが先に口を開き
「初めてのキスだったけど気持ち良かった。アクアはもう経験済みだよね?どうだった私の唇の味は?」
「往来のど真ん中で言う台詞じゃないぞ、それは」
右手で顔を覆い、さっきまでのことを思い出していた
「あら、女の子の初めてと2回目を奪っておいて、そんな言い草なんて悲しいわ」
「そっちが奪ったんだろ!」
「そうだっけ?でも言ったよね、アクアもどこかで期待してたでしょ」
「俺も男だからな」
「偶に女装するけど」
「殴るぞ!」
「うわ~~~ん、DV彼氏が怖いよ~」
この二人は波長が合っているのかもしれないが、芸能界で身を置く若手の二人が店内で熱い口付けを交わしていたなんて誰も思わない。
「それに、あんなことがあったのに逃げずに、私の荷物を持って送り届けてくれるなんて」
「流石に『はい、さようなら』なんてしないよ」
「優しいのね。そんなところが好きだけど、誰彼構わずはやめてほしいわ」
「どうして?」
「アクアの優しさは暖かくて貰うと心が落ち着くの、じゃあアクアの心はどうなの?」
フリルは彼の正面に立ち
「いつか貴方の優しさを悪用する人がいるかもしれない、騙されても『それが人生だ』とか言って笑うと思う。でも近くで見ている人にとっては嫌なの傷つくのが」
「フリル」
「多分、私がこんなことを言ってもアクアは人を助ける。だからその背中に背負うモノを少しでもいいから私に分けて、二人でなら悲しくても半分で済む」
彼女の目には薄っすら涙が溜まっていたが、流さずアクアを見つめていた
「ありがとうフリル、愛されているんだね俺は」
彼は照れたように頭を掻きながら顔を赤くし
「愛してるのは私だけどね!」
そういって彼の腕に抱き着き、家の前まで連れて行った
「ありがとう運んでくれて、上がってく?」
「貞操が危ないんでパスします」
「あら、私の予定ではここで熱い夜を過ごすつもりだけど」
「そんな予定、燃やしちまえ!」
アクアは彼女の家に背を向けて歩き出し、今日のことを思い出していた。まさかこの1年で3人の女性に唇を奪われるなんて、ただ今日のは抵抗出来たはずなのに出来なかった。心のどこかで求めているのかもしれない。
自室に戻ったフリルはベッドに倒れ、店内で交わしたキスを脳内から引きずり出していた。まだ仕事で1回もしていない口付けを彼と2回もしてしまった。忘れられない感触とアクアを組み伏せて支配出来た感覚は、とても気持ち良かった。ライバルはいるが負ける気はしない。
宮崎旅行組が帰宅し星野アクアは、黒川あかねと破局した。表向きは彼女の留学によるものだが、アクアは彼女の本心を見切っていた。SNS上では鳴りを潜めていた『黒川あかね否定派』の動きが活発となり、アクアは彼女に弄ばれた男子高校生という立ち位置になってしまった。無論【今ガチ】のメンバーは彼女の名誉を回復させようとしたが焼け石に水となり、彼女は日本から離れた。
「(ったく、本人たちのことを無視して外野は勝手にストーリーを作りやがる)」
アクアは学校をサボり、喫茶店で今回の騒動に辟易していた。メルトからの情報では俺のことを狙う女性タレントがいることを教えてもらい「俺の方にも何人か接触してきている。今はまだ大丈夫だけど、先輩から詰められたら断ることが出来ない」と漏らしていた。
「よう!星野」
競馬新聞を片手に姫川大輝が現れた
「なんですか?またオケラにでもなったんですか?」
「大丈夫だ。メインは外したが最終と高知で多少取り返した」
ギャンブラーの取り返したは大抵当てにならない
「黒川の件は聞かないでおく、お前も痛い腹は探られたくないだろ?」
「優しい人ですね。それならこの前貸した2万を返してくれませんか?」
「大丈夫だ。今週末のフェブラリーで倍にして返す」
皆さまもギャンブラーの「返す」は信用してはいけません。
「金田一のおっさんからの言伝だが、夏の東京ブレイドで鞘姫役に不知火が起用される。まだ内定の段階だが、ほぼほぼ決まりだと思っていい」
「フリルか、しかしよくオファー出来ましたね?」
「どうやら向こうの事務所から売り込んだみたいだ、言っちゃ悪いが黒川の後任としては破格すぎる」
「教えてくれてありがとうございます」
アクアは頭を下げ、会計を済ませて行き先を決めずに歩きだした。
「(どうやら、神様は喜劇がお望みのようだな)」
彼にとって不知火フリルはクラスメイトであり、心を許せる友人でもある。彼女の告白を受けて心が乱されているのが分かる。しかし有馬と違い自分のことを想い、声にだして愛を叫んでくれた。ならその愛に応えるのが道理であるのは間違いない。
執筆してて思った。フリルちゃんルート書くの凄く難しい。表ルートとは違う展開に持っていきますが、仕事をするより頭を使います。
感想を書き込んでいただき本当に感謝しています。頑張ってフリルちゃんルートの完結を目指します。