星野ルビーは事務所で考えていた。それは兄のアクアについてであり、破局後にクラスメイトから言われた『星野アクアが女性から狙われている』ということだ。字面だけを読むなら物騒だが、簡単に言ってしまえば兄はモテるのだ。少なくともこの1年で2人の女性とキスを交わしている。だがどちらとも唇を奪われる形でのキスであり、【今ガチ】以降ネット上では『受けアクア』と呼ばれている。妹の身としては双子の兄がそう呼ばれることに抵抗はあるが、自分より知名度が高くSNSでもトレンドにあがるので、複雑な感情を持ってしまう。
「ルビーどうしたの?」
副社長のミヤコと珍しくオフだった母のアイが、声を掛けてきた
「いや、少し考えてまして」
「ミヤコさん119番をお願い!ルビーが考え事なんて」
「そうね、今度の生放送もキャンセルしましょう」
「私だって、考え事の1つぐらいするよ」
ルビーが頬を膨らませて抗議すると
「冗談よ」
「いつもルビーに振り回されているから、これぐらいことをしないと」
二人の大人にからかわれる現役アイドルであった。
「それで、何を考えていたの?」
アイがルビーの対面に座り尋ねてくると
「学校で言われたんだけど、『お兄ちゃんが狙われているって』」
「ルビーどうゆうこと?狙われるってアクアは何をやらかしたの?」
「まさかスキャンダルじゃ」
「そうじゃなくて、お兄ちゃんって黒川さんと別れたでしょ、その後釜を狙っている人がいるみたいで、フリルちゃんやみなみちゃん、それに先輩を介して近づこうって人が」
不祥事やスキャンダルではないことに安心した二人だが、頭の痛い話であることに間違い。
「失恋直後の男を慰め依存させてゴールインなんて、よく聞く話だけど、それを息子が味わうことになるとは」
「壱護も言ってたけど、傷心中だとまともな判断が出来なくなるって、だから別れた直後に『アクアから目を離すな』って」
二人は長年の経験で今後のことを予想していたが
「そもそも、何でお兄ちゃんはモテるの?」
「「え?」」
「そりゃ妹の身から見ても、イケメンだって分かるけど、それがモテるに直結するのかなって」
背もたれに体重を預け、天井を見つめる彼女は続けて
「お兄ちゃんよりもイケメンは沢山いるし、優しい人や料理も出来る人もいる。じゃあなんで、その人達を差し置いてモテるの?」
「ミヤコさん、これって」
「そうね近くにいるから、アクアの有難みが薄れているんだと思うわ」
「学校でも似たようなことを言われた気がする。じゃあ二人がお兄ちゃんと同年代だったら彼氏にしたい?」
ルビーの発言に二人は黙り、妄想してしまう
「(アクアが彼氏!?確かに成長してアイツに似てきたけど、でもアクアが隣に居てくれたら毎日が楽しいだろうな、ライブが終わって疲れている時に優しくしてくれたら惚れちゃうよね、制服を着てデートした時も良かったし、流石に息子に手を出すのは)」
「(考えたこと無かったわ、でもアクアは雰囲気を察したり空気を読んで動いてくれるから、こっちの不調を見抜いてサポートしてくれるだろうし、それにあの子って割と無茶をするからブレーキ役として隣にいれば、それに私が仕事から帰ってきた時にエプロン姿のアクアが「お帰り」って言ってくれるなんて・・・」
「二人ともガチ悩みするのは、ドン引きなんですが」
本人の居ない所で生みの親と育ての親を惑わせるアクア君は
「アビ子先生、掃除ぐらいしてくださいよ!」
「ごめんなさいアクアさん、年度末進行のせいで」
東京ブレイドの作者である鮫島アビ子の自宅で家事をしていた。吉祥寺先生からヘルプの連絡が届き、暇だったので彼女の家に出向いたのだが、短期間で汚部屋に変貌していた惨状を見て、溜息を吐きながら燃えるゴミと燃えないゴミの分別をしていた。
「お昼は簡単にしますね」
「お願いします」
アクアは台所に立ち、冷蔵庫にあるものでナポリタンを作りテーブルの上に置いた。なお今回は作り置きおかずは作ってはいない。吉祥寺先生から「甘やかすな」と言われているが、通い妻(夫)をしている時点で相当甘やかしていると思う。
対面で座り食べていると、先生の口周りはケチャップで赤く染まっていたので
「アビ子先生、動かないでくださいね」
手元にあったタオルで汚れた部分を拭いてあげていた
「アクアさん流石に恥ずかしいです」
「女の子が汚部屋に住んでいる方が、もっと恥ずかしいと思いますよ」
食べ終わり彼は上着を手に取って玄関に向かい
「じゃあ帰りますね。気をつけてくださいよ」
「ありがとうございます」
彼女の家を後にして、本屋に向かおうとしたらMAYちょからLINE通知が届き
『アクたん助けて~』
と書かれた文面と土下座をする猫のスタンプが貼られていた。アクアはMAYちょのスマホに着信するが繋がらず、心配になった彼はタクシーを拾い彼女の住む部屋に向かい、チャイムを鳴らすと
「ア゛グだ~ん、出だんだよ゛あいつが」
半ベソ状態のMAYちょが飛び出しアクアに抱きついた
「何が出たんだ?」
「Gが」
「G?」
「でかいゴキが出たんだよ!」
アクアが部屋を覗くとアビ子先生宅並みに汚い部屋が広がっていた。
「なぁMAYちょ、最後に掃除したのはいつだ?」
額に怒りマークを付けて、彼の右手にはキングオブハートの紋章が浮かんでいた
「え~っと、アクたんが助けに来たとき以来かな?」
その瞬間、彼女の顔はアクアの手で覆われ自称18歳の意識は闇に落ちることは無かった
「イダダダダ、アクたんマジで痛いから、ギブギブ」
「ギブって何をくれるんだ?あ゛~」
どうして自分の周りには、家事の出来ない女の子が多いのか?その前に25歳を女の子と呼んでいいのか疑問ではあるが、結局アクアは薬局に行ってブラックキャップやスプレーなどの撃退グッズを購入し、彼女の家の掃除も行った。
「いや~ホント、アクたんにはお世話になりっぱなしだね」
「自覚があるなら改善しろ、四捨五入で30歳」
「ひ~どい、まだ20代だよ私は」
必死の抵抗をするMAYちょだが
「三十路手前のYouTuber」
「ゴフッ!!」
非情なる一撃で彼女のヒットポイントは限りなく0になってしまうのであった
「とりあえず週1でもいいから水回りだけでも掃除しろ、あと生ゴミを入れた袋は口を縛っておくこと」
「分かりましたアクアママ」
「あと冷蔵庫に甘いもの入れておいたから」
アクアはそのまま外に出ようとするが
「待って!」
突然呼び止められ振り向くとMAYちょに抱きつかれ
「ありがとうアクたん」
「おい」
「ヒロインはヒーローにお返しをしないと」
「ヒロインって言える年か?」
「もうそうやって、はぐらかす」
頬を膨らませる彼女だが
「前にも言ったけどアクたんのピンチにはいつでも駆け付けるからね」
「そういったことが起きないことを願いたいね」
そういって9歳年上の配信者の家を離れ自宅に戻り就寝した。
翌日もオフだったアクアは家の掃除を終わらせ、日用品の買い出しの為に街へ出かけていた。彼が通うデパートへ行くには場外馬券場の近くを通るのだが、姫川大輝が大声で叫んでいることは無視して歩みを進めた。
彼は必要なモノを購入し、趣味の料理に使う調理器具のコーナーを散策していたら
「あっアクアはん」
「寿さん?」
クラスメイトでグラビアアイドルの寿みなみと遭遇した
「アクアはんもオフでっしゃろか?」
「寿さんも?」
「そうどすえ」
「でもなんでこんな所に?」
彼女が料理好きとは聞いたことはなく、疑問に思い尋ねると
「あの番組のおかげで料理するのが、楽しゅうなりまして、それにアクアはんの言うてた自分で管理するのも大切やと思いまして」
「なるほどね、それで何をお探し?」
「それが色々あって目移りしてもうて」
「それなら先に料理本とか買った方がよくない?そこから必要なモノを揃えていけば余計なモノを買わなくて済むし」
二人はその場を後にしてデパート内の書店に向かい料理本を購入したあと、ベンチに座り休憩していた。
「休みの日やのに手伝うてくれて、ありがとうございます」
「別にいいよ」
「あの~」
彼女は少しモジモジしながら口を開き
「どうしたの?」
「また『天音ニシキ』をやってくれまへんか?」
「もうやらないって言いましたよね?」
アクアの少し辟易しながら尋ねると
「それが事務所の人やグラビア仲間からも『会いたい』という人が多くいまして」
「だから繋がりのありそうな寿さんにコンタクトを取る人が・・・」
「無論断っておりますが、強く懇願されてしまうと」
次第に声が小さくなるが
「正直なところ、あのメイクを準備するだけで2時間ぐらい掛かるし、それに首を縦に振ると同じように頼んで来る人が増える」
「そうなりますな」
「1回だ」
「えっ?」
「出血サービスで、あと1回だけなら良いですよ。細かいことは双方の事務所で相談になりますが」
アクアは苦虫を嚙み潰したような顔だったが
「ありがとうございます。お礼にうちの身体を」
「それ以上は言わない、女の子がそんなことを口にするのはNGだ」
そう言ってデパートで彼女と別れ、途中に四つん這いで叫ぶ姫川をスルーすると、両手に荷物をぶら下げるMEMを発見した。声を掛けると彼女は荷物に振り回されながら近づき、話を聞くとミヤコから買い出しを頼まれて帰宅中だった。アクアは彼女の荷物を半分持ち、一緒に事務所へ向かった。ミヤコから「オフなのに休まないのね、貴方は」と言われ、逃げるように事務所を後にした。
自宅に戻ったアクアは夕食の準備に取り掛かり、胸に『ぐれーとまじしゃん』と書かれたエプロンを着用し、帰ってくる母と妹のことを思い包丁を握る
夕食と入浴を終え、リビングのソファーで読書をしていると風呂上りのルビーが前を通り、冷蔵庫を物色していた。アクアは妹の方へ目線を向けると髪が濡れていることに気付き、ルビーをソファーの下に座らせ、ドライヤーで髪の毛を乾かし始めた。
「ねぇお兄ちゃん」
「なんだ?」
「フリルちゃん達が言ってたんだけど、お兄ちゃんを狙う女の子が沢山いるんだって」
「ふ~~ん」
「無関心?気にならないの?」
ルビーが尋ねると
「メルトからも似たようなこと言われてね、俺が破局したから後釜狙いが多いんだろ」
「そうなんだ。ねぇなんでお兄ちゃんはモテるのかな?」
「それを本人に聞く?」
ドライヤーのスイッチを切り、近くにあった櫛で髪の毛をとかす
「だよね、お兄ちゃんに聞いても意味ないもんね」
「ほら終わったぞ、まだ冷えるから暖かくして寝なよ」
「は~い」
妹が部屋に入るのを見たアクアは、明日の朝食の下拵えをしてから部屋に戻りベッドに入った。睡眠の妨げになるからスマホは持ち込まず電気を消して目を閉じて夢の世界に落ちていく
口は悪いが頼まれれば断らない、お人好しのアクア君そんな彼の優しさに触れたからこそ好意を持つ異性がいる。ダメ人間製造機と呼ばれるかもしれない、彼の優しさを悪用する人もいるだろう。本人はそんなことを気にせずに明日を迎えていく
アクア君の日常回になります。当初の案では、ルビーの制服を着たミヤコさんを登場させるつもりだったのですが、流石に無理があったので変更しました。
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