生配信で放送された星野アクアと不知火フリルの共同生活は視聴者からは割と好評だった。ミステリアスな彼女が終盤で見せたアクアに甘えるシーンは切り抜き動画で56万回再生を超えるモノで、プロデューサーの鏑木はシリーズ化に踏み切る準備を始め、アクアはMAYちょから「アクたん一緒にレトロゲーム配信をしよう」と持ち掛けられている。なおアクアのパパママ論争はSNSで議論の的になり最終的にはアクアがパパでマリンちゃんがママで落ち着いた。
世間ではダサいTシャツを着た幼女がスワンボートでインド洋を航海していたニュースが話題となったが、初夏を迎え苺プロの面々は慌ただしい日々を送っている。アクアと有馬は8月の東京ブレイドの公演が控えているが、アクアは特撮映画のラストシーン撮影が公演と重なり最終週の3日間は東京→高知(東京)→金沢(東京)というデスマーチ、有馬は昨年も出演したアイドルフェスへ参加が決まっている。また事務所宛て届いたファンレターを読んだ星野ルビーは、今まで以上にやる気を見せるようになり
「ステージに立つ私の姿を見ている未来のアイドルたちに、不甲斐ない星野ルビーを魅せてはいけない、私は先輩たちから夢を貰った。だから今度は私が配る番だ!」
と言い放ち、ミヤコに「北海道でもライブしましょう」と提案している。なお札幌ドームは赤字が続いたせいで取壊しになり『世界の下水道博物館』の建設が着工する予定でクラウドファンディングを募っているが2万7千389円しか集まっていない
「やっぱ不知火フリルって凄いですね」
劇団ララライの稽古場で鳴嶋メルトが隣にいる姫川に漏らすと
「黒川と違うベクトルの天才だ、正直なところ不知火の方が段違いにレベルは上になる」
「アクアと同じクラスって陽東ってバケモノの巣窟ですかね?」
「そんなバケモノたちと同じ舞台に上がる。今から気後れしてちゃ持たない、それより星野はどうしたんだ?」
彼の疑問に近くにいた有馬が
「あいつは特撮の方に行ってる」
「映画の方か?」
「アクアは特撮、みたさんは海外、俺も別の仕事が・・・」
「俺もドラマがあるし、本番までに1回は全員集合で通しでやりたいが難しいな」
姫川の嘆息を耳する有馬の目線は、中央で存在感を放つ不知火フリルを射抜くように見ていた。
稽古がひと段落し、帰宅する面々や鍛錬に励む人もいるが、有馬は帰ることを選択した。残ってもいいが事務所に戻ると熱血モードのルビーに付き合わされる可能性がある。荷物を持って外に出ようとした矢先
「有馬さん、ちょっとよろしくて?」
振り返るとそこには不知火フリルが立っていた。正直なところ有馬は彼女のことが苦手で率先して話したくないが、例の生配信以降いつかは接触しなければならないと思っていた。
「なんの用ですか?今から帰るんですが」
「ちょっと話しませんかアクアについて」
フリルは小さな声で彼女の耳元に囁くと爬虫類を思わせる目を輝かせ、外に出るよう促した
「ここなら誰も来ませんよね?」
そこは以前アクアが倒れた時に黒川あかねと入った会議室であった。外には使用中の看板を吊り下げ鍵も閉めたフリルが開口一番に
「率直に言わせてもらいます。アクアのことが好きです!」
「確認だけどLOVEの方よね?」
首を縦に振り肯定した彼女は
「アクアは頑張り過ぎてしまう。止めたとしても次の瞬間には誰かを助けに行ってしまう」
「そうね、あいつは筋金入りのお人好しだから」
「だから止めません。でも傷ついた時は癒し、喜ぶときは一緒に笑いたいんです」
宣言を聞いた有馬はまだ自分が有利な立場だと思っているが
「それにお互いアクアのキスは奪っていますが、彼からされていませんよね?そちらも」
「えっ!!どうゆう?」
有馬は突然のことに驚くが、フリルは続けて
「しちゃいました。私のファーストキスをアクアと一緒に、そのまま2回目と学校で3回目を」
頬を赤らめ照れているが惚気てはいない
「あのバカ、ガード緩すぎでしょ簡単に唇を許すなんて」
「まぁ手負いの状態のアクアを襲ってますし、同じ穴の狢ですね私たち」
「否定が出来ないわ」
片手で顔を覆い溜息を吐く天才子役だが、それをみた彼女は口角を上げ
「そこで提案ですが、アクアを二人で共有しませんか?」
「それって?」
「二人でアクアを愛すれば誰も悲しみませんよ、疲れた彼を出迎える妻と奥さん、「おかえりなさい」って言ってくれるエプロン姿のアクアを私たちだけで独占出来ますよ」
それは悪魔囁きであるが
「そんなの無理よ!だってそんな」
「だって?」
有馬は言葉に詰まった無論そんなこと法が許してくれない、提案を呑んで上手くやったとしても結局は上と下で分かれてしまう。否定の言葉を探しているのに口から声が出ない、どうすれば?
「冗談です!」
「えっ?」
「流石に今の日本じゃ重婚はできません。アニメや漫画なら可能ですが現実は違います」
「あんたねぇ」
血圧の上がった彼女は額に怒りマークを浮かべるが
「だから勝負ってことにしませんか?アクアがどちらを選んでも恨みっこ無しで」
「面白いことを言うわね」
「えぇ負ける戦なんて、する価値ありませんから」
「大した自信ね、その勝負乗ったわ!」
「ではルールを定めませんか?」
「ルールって?」
「例えば無理やり肉体関係を結ぶとか、強迫行為をするのは禁止で」
フリルの提案に逡巡した有馬は賛成の意を示し、互いに握手を交わすことで、この勝負を受けて立つことを決めた。
「1つ気になったんだけど」
「なんですか?」
「あいつが私たちを選ばなかったら?」
「その時は二人でアクアを殴りに行きましょう」
互いに吹き出してしまい、二人だけの会議室は笑いに包まれた。
「でもアクアってかなりの変人よ!」
「知ってます。少し前ですが二人っきりの個室で手錠を使って彼と私の腕を結んだときも『そんなことをしたらフリルを抱き寄せることが出来ない』って言ってきました」
割とヤバい発言だが有馬はスルーし
「私も生配信が終わった後に、アクアに問い詰めたの『不知火フリルとはどういった関係なの』って?そしたら煮え切らない態度と返答だったからベッドの上に押し倒して、こうやって両手で首を絞めたんだけど、あいつ何も抵抗しないでこっちを見つめて小さな声で『これで、かなの気が済むなら受け入れるよ』って」
「同じ男を好きになる私たちって、気が合いそうですね有馬さん」
「そうね」
そんな彼女たちからヤバい愛を受けるアクア君は
「ヤバい!ヤバい!ヤバい!落ちるって」
縄梯子に捕まりヘリコプターで空の旅を満喫していた。
彼が出演する今回の特撮映画では潤沢な予算が割り当てられ、監督やスタッフも「CGに頼らないアクションを多く撮ろう」ということになり、燃え盛る教会内で主人公とヒロインの結婚式を行い、高速道路を走る大型トラックの荷台でライバルとの戦闘を繰り広げるなど、令和の世には珍しい破天荒な内容になっている。アクアもそれに巻き込まれ、手首に細い命綱をつけた状態で縄梯子に捕まり空を飛んでいた。
「(でもちょっと楽しいかも)」
やっぱコイツはマゾヒストだと思う。また今回の撮影と並行して東京ブレイドの稽古があり、1月とは違いアクアの演じる刀鬼にも剣戟アクションが組み込まれているので、撮影の合間を縫ってアクションシーンの鍛錬に励んでいるとギャラリーが寄って来てしまう。刀や剣を扱うアクションは特撮の十八番であり、アクアの動作1つ1つに指摘を入れつつ手本を見せるなど本職からの生授業を受けるアクアにとって至福の時間であった。授業が終わる頃には自然な形で抜刀と納刀が出来るようになり、ララライの稽古場で披露すると
「お前だけが上手くて浮いている」
と金田一から苦言を言われてしまった。事務所に帰れば有馬とマンツーマンで稽古を行い、学校では鞘姫役のフリルと一緒に台本を読みながら溝を埋める作業をしている。夏休みに突入すると東京ブレイドの公演が始まり慌ただしい日々が始まりますが、彼等はそれを無事に乗り越えることが出来るのでしょうか?
ヤンデレって恐怖するよりも、相手の愛を深く受け入れて「もっと俺のことを想ってくれ」と言うレベルで接していけば最高なんだと思います。
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