像形拳:中国武術の1つで動物や昆虫、空想上の神獣などから着想を得て武術に昇華させた技術である。有名なのはカマキリを模した蟷螂拳、サルを模した猿拳、なお恐竜を模した武術は存在しない。イメージが大切なことであり簡単なことではない。
雨の影響で撮影が中断している。ボロい倉庫なので、あちこち雨漏りし、スタッフたちが急いで現場の修繕を行っている。プロデューサーの鏑木は煙草をふかしながら、隣にいるスタッフと話していた。
「しかし、かなちゃんがストーカーの代役を連れてくるなんて」
「あぁしかも、かなりのイケメンだ、彼が埋もれていたなんて、俺のサーチ力も錆びついているのかね?」
「まぁメルト君たちとは違うジャンルのモデルですからね、アクア君あの星野アイと同じ苺プロ所属ですよ」
「星野アイねぇ、しかも同じ苗字、これって因縁かね?」
「鏑木さん、星野アイと付き合いあるんですか?」
「昔ね、それほど深いものじゃないよ」
そう言って鏑木はもう1本に火をつけていた。
「しかし、かなちゃんのお陰で、こっちは大分楽できますね」
「そうだな、率先して現場をまとめてくれて、細かいところにも目が行く」
鏑木は有馬かなを評価しているが、それは違う事だった。
「フリーだからギャラを安くしても文句は言わない、媚を売るために尻尾を振って愛想良くてくれる。ネームバリューもあるから注目もされる。夜のお店だったらベスト10の8位ぐらいだな、絶対的に必要ではないが、居るなら使える存在」
「辛辣ですね」
「当然の評価だ、天狗なって落ちぶれて、今ここにいる。もし天狗になっていなければゴールデンに引っ張りだこだ。まぁ落ちていく子役を何人も見ていると共通点があるけどな」
「どういったことですか?」
スタッフの疑問に鏑木は続けながら
「言語化するのは難しいが、自意識過剰かな?自分は凄い、私は最強というのもあるが、周りの大人が囃し立てる。特に母親が顕著に口を出してくる「うちの子を使え」ってね。素人なのにマネージャーの真似事をして現場に口出しする人って嫌だろ?」
彼の発言に黙って頷く
「子供をオモチャのように扱い、私腹を肥やすバカはどの世界にもいるが、子役ビジネスは特に多い。しかも子供が旦那より稼ぎが多くなると、家庭環境は最悪になる。昔あったろ?離婚する両親が親権の奪い合いで泥沼になって、裁判になったやつ」
「ありましたね、そんなこと」
「まぁ結局、母親の方が親権を取ったけど、子供は表舞台から遠ざかってしまい、その後は芸人と結婚・出産・離婚でしか話題にならなかった」
「確か、かなちゃんの両親も」
「そんな子供を使って食いものにしている俺達も、親と同じ人種なのかね?」
「良心の呵責ですか?」
「親の両親にかけて良心と説くか、座布団は取られるな」
くだらない大人たちの会話を遠くに置いて、アクアは目を瞑りイメージを膨らませていた。ストーカーとは難しい役である。大根役者のように、狂ったように叫びながら相手を糾弾するだけなら楽ではあるが、アクアはそれを許さない。相手を引き込む、有馬かなに本気を出させ、メルトから感情を引き出す。生半可な気持ちでは出来ない。自身がアクアになる前の記憶を総動員し、役を作り上げる。
「(悪意の存在、執着心、狂気、闇、殺意、イメージだイメージが重要なんだ、ちゃちなストーカーじゃ駄目だ。かなさんを本気にさせる。)」
彼の出で立ちはパーカーにナイフ装備といった内容で、特徴的なモノは無い
「(パーカー、ナイフ、狂人、相手を逆なでする言語、ならアイツだ)」
アクアの心の中である答えを導き出した。それはとある格闘ゲームのキャラクターで幼少期の主人公を襲い、育ての親を殺めた狂人者である。なお中の人は喉が潰れるから、もう出来ないと言っていた。
「(ユウキ・テルミ、あぁ最高のモデルが居た。だが真似るだけじゃ模倣にすぎない、あくまでベースなんだ、憑依させろ悪意を、作り上げろ狂気を、教えてやれ殺意の在り方を)」
アクアの作り上げたストーカーは完全に彼にインストールされた。
現場の修繕が終わり、撮影が再開される。それぞれの立ち位置についた時、有馬はアクアの雰囲気に鳥肌が立った。幼少期に共演した時とは違う。気を抜けば彼に吞まれてしまう。だが本気を出せる相手に巡りあうことが出来た。久々の高揚感に心がときめく。
対する主役のメルトは恐怖していた。アクアとは雑誌の撮影で一緒になる。同年代ということもあって、軽口をたたく間柄で遊びもする。こっちの冗談にもツッコミを入れてくれる。なのに目の前にいるのはナンダ?本当に星野アクアなのか?彼の選択肢に「逃げる」コマンドが追加され、カーソルを動かしてクリックしても逃げ出すことは出来なかった。
「よーい、スタート」
カチンコの音が鳴り響き、撮影が始まった。
ストーカー役のアクアが登場し、メルトは彼を糾弾したが相変わらず大根演技だが、アクアの醸し出す殺意に声が上ずっている。そんなメルトに近づき、彼の耳元でこっそりと
「滑稽だねぇメルト、楽しいか?チヤホヤされて?」
「はぁ、なんつったお前ぇ」
アクアの胸ぐらを掴み激高するメルト、アクアは口角を上げて
「耳が腐っているのか?もう1回言ってやるよ、そんな女、守る価値なんて無いって言ったんだ」
アクアとメルトに強い照明が当てられる
「この子は、俺の大事な友達だぁ」
「ともだち~?仲良しこよしで傷の舐めあいっことは、泣けるね~、そんなに彼女が大切なのか?じゃあ?【死んだらどうなる】」
メルトを突き飛ばし、右手に持っていたナイフを回転させ逆手持ちにする。その瞬間、有馬は
「(いい、とっても原作っぽい、いや原作以上に狂ってる)」
アクアの演技に見惚れていた。
「(アクアに会えて、本当に良かった)」
右足に渾身の力を入れて有馬に目掛けて駆ける。
「(さぁ、お膳立てはしたんだ。ここからは頼むよ先輩)」
彼女に近づき、ナイフを突き立てる瞬間、メルトが駆け寄りアクアの顔面に拳を立て、殴り飛ばす。
「ヒッヒヒィ、お前なんて誰にも必要とされてない、あるのは絶望だけだ。人の夢なんて儚い無駄なんだよ、楽しいか?俺は楽しいぜ、希望を打ち砕かれて失意の底に沈む顔は最高なんだ、せいぜい楽しませて朽ちてくれよ」
「(さぁ仕上げてくれよ、有馬かな)」
有馬かなの表情が今日あまの主人公リナと重なる
「それでも―――それでも光はあるから」
収録が終わり、アクアはメルトから謝罪を受けたが「問題無い」と言って受け流した。なお遊びにいくのは流れてしまった。またアドリブを入れたことには注意されたが、面白いモノが撮れたという理由で特に問題にはならなかった。
最終回が放送され【今日あま】の評価は、全体を通して低評価だったが、最終回のラストだけは見る価値ありという微妙な結果だった。だが一部のクソドラマ愛好家から好意的な意見も寄せられ、のび太君のテストよりマシにはなった。
~お疲れ様会の会場~
「アクア君お疲れ様、急遽な代役だったけど、君のおかげで良い作品が撮れたよ」
プロデューサーの鏑木が近寄ってきた。有馬は原作者の吉祥寺先生と談笑中だ
「まぁ、有馬からの頼みでしたし、事務所の方針で俳優として再デビューさせるには、これぐらいが丁度いいって、社長が言ってました」
「斉藤社長も厳しいことを言ってくれるね」
「こちらとしても、久々に良い経験をさせてもらいました」
「そんな堅苦しいのは抜きにして、ところでアイ君は元気か?」
「先輩をご存じで?」
「彼女が若い時に、いつくかの仕事を紹介してね。彼女は絶対売れるって初対面で感じたよ」
「先輩に元気が無い日の方が珍しいですよ」
「確かにそうだ」
ハハハとでも聞こえてきそうな意味の無い会話であった、だが鏑木はアクアの目を見て
「ところで、アクア君、今後の仕事って決まってる?」
「いえ、特には決まってませんが、役者業に段々とシフトしていく予定です。その辺は事務所との相談ですね」
「アクア君、恋愛リアリティショーに興味あるかい?」
お疲れ様会が終わり、アクアは有馬を送る為、2人で夜道を歩いていた。有馬は彼に近づいて
「アクアありがとう」
「それは、何に対してのお礼?」
「全部かな」
「なら、受け取っておくよ」
「実はね、これギャンブルだったの」
「と、言うと?」
「アクアなら、何かやってくれるかも」
「ご期待に添えて、何より」
「アドリブを入れようって言ってくれた時も嬉しかった。演技している時は久々に心が燃えたの」
「まぁ俺も、思うところがあったからね、共犯に乗ってくれたことに感謝してるよ」
「かなさんは、これからどうするの?」
「これからって?」
「今まで通り、フリーで続けてくの?」
「そのつもりだけど」
アクアからの何気ない一言に、かなの心がざわつく
「この先もずっと、誰かの顔色を伺って生きていくと?」
「どうゆうことよ?」
「言葉のままだよ、それ以上でもそれ以下でもない、偉い人や現場の空気を読んで、自己を殺して振る舞い、愛想良くする。上手くいけば仕事が貰える。それって楽しい?」
「言ってくれるじゃない、若僧のくせに」
かなが震えながら、拳を握っていた
「そうしないと生きていけないの、昔は、実力さえあればどうにかなるって思ってた、思ってたのに、現実は違うの、あんただって分かるでしょ?」
「理解はする」
「じゃあ」
「ただ納得はしない」
「え?」
「先輩は過剰な自己満足を追求した結果、今の便利屋みたいな立ち位置になってしまった。便利屋ってね使われているうちは華なんだけど、将来有望・期待の若手といった人たちが入ってきたら、スグに切られてしまう。そんな明日に希望の無い人生って虚しいでしょ」
アクアは手を広げ道化師のようにおどける。
「アンタねぇ、言わせておけば」
有馬はアクアに詰め寄り、胸ぐら掴み
「分かってる、そうよ明日なんて分からない、でもこうやっていかないと、自分が置いていかれて忘れられるのが怖いのよ」
「人は二度死ぬって言うな、最初は肉体が朽ちた時、次は人の記憶から無くなった時って」
「もう私は役者として死にたくないの、生きて演技をしたいの」
彼女にもう力はなく、涙を堪え震えているだけだった。
「今回、俺のことをギャンブルに使っただろ?」
「え?」
「なんで、自分を賭けないんだ?【有馬かな】という存在を何故ベットしない?」
「それは」
「失うのが怖い?先輩、ギャンブルって失う覚悟があるから最高に面白くなるんですよ。夢なんでしょ?演技を続けて【有馬かな】という存在を伝えるのが」
「なら、やりましょうよ役者人生を賭けるギャンブルを」
「やるって、どうやって?」
「苺プロに来ませんか?俳優部門はいつでも募集中ですし、少なくともフリーで活動するよりチャンスが巡ってくる確率は上がると思います」
「でも、いいの私なんか来ても?」
「副社長と相談になりますが、問題ないと思います。それに頼れる先輩がいると、俺も心強いですから」
「何言ってるの?」
「先輩の演技を近くで観られるのって最高だなって言ってます」
「言ってくれるね、そのギャンブル最後まで付き合いなさい」
「仰せのままに」
徹夜明けのテンションで書いたので、後日読み直して修正します。
数話挟んで「今ガチ」編に行こうと思います。
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