秀尽学園の非常勤講師、ベレス   作:女主人公スキー

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episode1 灰色の悪魔と怪盗団―色欲編―
1.秀尽学園の非常勤講師、ベレス


 東京都立秀尽学園高校には去年から、異国人の女教師が非常勤講師として出勤している。

名を『ベレス=アイスナー』。人の目を惹く緑の髪は本人曰く地毛らしい。

 

 

 抜群のスタイルと美貌で、生徒はもちろん教師陣にも彼女には注目されている。

私服ではホットパンツを好んで着るという噂だが、学内ではスーツをばっちり着こなす。

 

 

 日本には5年住んでいて、日本語は堪能。担当教科は英語、歴史、体育。

非常勤ということもあってベレスの授業は週に2回程度だが、生徒からの評判は上々である。

 

 

 また、部活動の副顧問を担当している。

非常勤講師は原則授業以外はノータッチだが、生徒への的確な指導が評判なこともあり、

校長たっての希望で特別手当を出すことで、授業をした日は部活動を見て回っている。

 

 

 今日は4月11日。新年度の喧騒もひと段落した頃だ。

昼休憩に入り、ベレスは朝の授業を2コマ終えて帰り支度をはじめていた。

 

 

 

「あれ、ベレス先生今日はもう帰るんですね?」

 

 

 

 声をかけてきたのは同僚の川上だった。

くたびれたOLのようなダウナーな雰囲気の、あまり教育熱心ではない教師だ。

 

 

 

「うん、今日はちょっと用事があって……」

 

「そう……業務外のことで頼みにくいんですけど、もし転校生見かけたら早く来いって言ってくれません?」

 

「転校生?

……ああ、そういえば今日が初登校の日だったね。もしかしてまだ来てないの?」

 

「そうなのよ。いきなり遅刻、それも3時間超えの大遅刻よ、信じられます!?

坂本も無断欠席だし、ほんとにもー……!」

 

 

 

 川上はドンッと机を叩いたと思ったら机に突っ伏してしまう。

 

 

 

「はぁ~……とんだ問題児押し付けられちゃった。どーしよ……」

 

「2時間ともなると、逆に心配になるね。何かあったんじゃない?」

 

「えー……もしかして警察呼ばないとダメなパターン?」

 

「場合によっては。でもその彼、確か前歴があるんだよね……不良なの?」

 

 

 

 何でもその転校生君は傷害事件を起こして保護観察中の身らしい。

 

 

 

「そうよ。でも、見た感じは普通の子ですよ? メガネかけてるし、真面目そうに見えた」

 

「事件に巻き込まれてないといいけど……分かった。心配だし探してみるよ」

 

「え、用事あるんなら片手間でいいわよ?」

 

「いや、大した用事じゃないんだ。それに時間にも余裕があるから。それじゃ、お疲れ様」

 

「あ、お疲れ様でーす。こっちに来たら連絡入れますね」

 

 

 

 ベレスは川上の言葉に手振りで応えて、帰路につく。

 

 

 

「ベレ先今日は部活来ないの?」

 

「ごめん、今日は用事があってね。また今度」

 

「はーい」

 

 

 

 すり寄ってくる生徒たちをあしらいつつ、早足で校門前へと向かっていく。

その最中、見覚えのある赤毛と赤リボンの女子生徒を見つけその背中へ声をかける。

 

 

 

「かすみ」

 

「あ、ベレス先生。お疲れ様です。今日はもうお帰りですか?」

 

 

 

 赤いリボンと赤毛のポニーテールの女子生徒、1年の芳澤かすみは振り返ってベレスに応えた。

 

 

 

「うん。用事があってね……かすみは? 早退?」

 

「いえ、コンビニへお弁当を買いに行こうかと。朝寝坊して買えなくて」

 

「なるほど。それじゃ、また今度の体操部で」

 

「はいっ。ベレス先生、またご指導お願いしますっ!」

 

 

 

 ぺこりと頭をさげると、かすみは早足で校門を飛び出していく。

 

 

 

(さて、まず転校生を探さないと。ただのサボりなら遠くには行ってないと思うけど……。

とりあえず聞き込みでもしてみようか)

 

 

 

 いざ校門を抜けてひとまずセントラル街へ向かおうとしたところで、

鋭敏なベレスの耳が、鈍い打撃音を捉えた。

 

 

 

(……校舎裏からかな。転校生も気になるけど、まずは手の届く範囲か)

 

 

 

 音のほうに近づいていくと、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

 

 

「退部したいだと? ふざけるなっ、俺の顔に泥を塗る気かっ?」

 

(この声は……鴨志田)

 

 

 

 『鴨志田 卓』。バレーボールの元日本代表選手だ。

今はここ秀尽で、体育教師及びバレーボール部の顧問と監督を努めている。

 

 

 いわゆる体育会系の、体罰も辞さない強権的な指導をするという噂の、いけすかない教師だ。

運動系の殆どの部活に顔を出しているベレスだが、バレー部には顔出しを許可されていない。

それ故に部活でどんな指導をしているか詳しくは知らない。

 

 

 だが、バレー部員たちの痣や生傷の多さから何となく察している。

しかし一介の非常勤講師でしかないベレスに出来ることは少ない。

せめて部活外の蛮行は止めるべく、足を速める。

 

 

 

「――鴨志田先生、暴力はやめろ。ここはお前の城じゃない。行き過ぎた指導は(ナビゲートを開始します)――」

 

 

 

 鴨志田を諫める言葉を言い終わる前に、目の前の光景が歪む。

思わずまばたきをすると、目を開けた時には『学校』は『城』へと変わっていた。

 

 

 

「……は?」

 

 

 

 あり得ない現象にベレスの足は止まり、両目は驚愕に見開かれる。

 

 

 

「ここは……城? 私は学校にいたはず……」

 

 

 

 キョロキョロと辺りを見回すが、見知った光景、人は見当たらない。

 

 

 

「まさか……『また』異世界に?」

 

 

 

 日本、いやこの世界に転移した時のことを思い出す。

しかし、あの時とは現象が違う気がした。

 

 

 

(そうだ、この現象は前触れがあった。歪みの前に聞こえたあの音声――)

 

『ナビゲーションを開始します』

 

(あれは、確か私のスマホから聞こえた気がする)

 

 

 

 ベレスは懐からスマホを取り出す。アプリ一覧を見ると、見慣れないアプリを見つける。

 

 

 

「『イセカイナビ』……?」

 

 

 

 これが原因だろうか。もちろんこんなもの、インストールした覚えはない。

 

 よく見ればアプリは起動中になっている。

アプリを開くと、そこには『侵入中:カモシダパレス』と表示されている。

 

 

 

「鴨志田……パレス?」

 

 

 

 ひとまず、この異世界に飛ばされた原因はこの『イセカイナビ』だとしよう。

そして、この異世界はどうやらあの鴨志田に関係する異世界らしい。

 

 

 

「……考えても仕方ないか。それだけ分かってれば充分だ」

 

 

 

 この異世界、もしあのアプリが方々にばら撒かれていたとすれば。

転校生もこの異世界に迷い込んでしまったのかもしれない。

無論そうと決まったわけではないが、だとしたら急がないと命の危険があるかもしれない。

どうにも異様な、危険な雰囲気を感じる。21年過ごした、『フォドラ』の戦場の空気に似ている。

 

 

 

(行ってみよう)

 

 

 

 正面の扉に手をかけ、慎重に少しだけ扉を開く。

扉の隙間から内部を覗くと、中世の――『フォドラ』で見たような鎧を身につけた兵士が数体見えた。

耳をすませると、彼らの話し声も聞こえてくる。

 

 

 

「侵入者はもういないようだ」

 

「地下牢にカモシダ様が向かわれるそうだぞ。あいつら、終わったな」

 

「死刑か。馬鹿な奴らだ、正面から入ってくるなんてな」

 

「まったく、間抜けな侵入者もいたものだ」

 

 

 

 その会話を聞いたベレスはそっと扉を閉める。

この扉から入るのは得策ではないようだ。

 

 

 ベレスは元傭兵で、これまで数多の戦場で敵と戦ってきた。

正面から行っても何とかなる可能性はある。

だが、未知の場所で今は武器や防具もないのだ。油断は命取りになる。

 

 

 あらためて城の外側を見回して観察する。

 

 

 

(内部に見張りはいるけど、外側に門番の類はいないのか。ちぐはぐだな……)

 

 

 

 生徒に命の危険が迫っているが、冷静に周囲の観察を進める。

すると、2mほどの高さにある通風孔を発見する。大人でも入れそうなサイズだ。

周囲の物を足場にすれば内部に潜入できるだろう。

 

 

 

(……行こう)

 

 

 

 転校生は『死刑』になるとあの兵士は言っていた。

だとすれば一刻の猶予もない。迷っている暇はない。

 

 それに「あいつら」と兵士達は言っていた。つまり、巻き込まれたのは転校生だけじゃない。

そういえば今日は『坂本 竜司』も朝から来ていないとか。もしかすると彼かもしれない。

 

 ……顔も名前も知らない子供のために命を張るなど、川上ならあり得ないと一笑に付すだろうか。

しかし、元傭兵のベレスにとっては本来命を張るのは『いつものこと』なのだ。

 

 だから助ける、必ず。それに――

 

 

 

(名前は知らないわけじゃなかったね……確か、『雨宮 蓮』――だったか)

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