秀尽学園の非常勤講師、ベレス   作:女主人公スキー

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10.訓練と潜入の日々-前編-

 4月20日。一行は予定通りカモシダパレスに侵入していた。

今回はかすみも加えて6人のフルメンバーだ。

 

 

 

「いよいよだな!」

 

「昨日はぐっすり寝たし、体調バッチリよ」

 

「先輩方、今日はよろしくお願いします!」

 

「オマエら、ベレス(マスター)がいるからって油断するなよ」

 

「わかってる。師匠、よろしくお願いします」

 

 

 

 それぞれが思いの丈を語る中、ベレスは探索の方針を語る。

 

 

 

「今日は私は戦闘には参加しない。探索にも協力するつもりはない。

もちろん、キミたちの命が危うい状況に陥れば助けるつもりだけどね。

 

リーダーはジョーカー、キミだ。思うままにやってみるといい。

今日は、キミ達だけでどれだけやれるかを見させてもらう」

 

「……分かりました。やってみます」

 

 

 

 雨宮は神妙な顔で頷いてみせた。

 

 

 

「特別な力もあるし、先生(マスター)以外ならリーダーはジョーカーがピッタリね」

 

「ビシバシ指示出しお願いしますっ、雨宮先輩!」

 

「おいヴァイオレット、コードネームで呼べって言ったろ」

 

「あ、そうでした。すいません……えーっと、ジョーカー先輩?」

 

「ジョーカーでいい……ん?」

 

 

 

 雨宮は視線を特に何の変哲もなさそうな壁に向ける。

 

 

 

「この扉は…………何?…………わかった」

 

 

 

 独り言を呟いたかと思うと、雨宮はその場で動かなくなった。

 

 

 

「……どうしたのかな、ジョーカー」

 

「なんか様子が変じゃね?」

 

 

 

 杏と竜司が棒立ちする雨宮に近づく。

 

 

 

「おい、ジョーカー! どうしたんだよ?」

 

「ちょっ……微動だにしないんだけど、何これ」

 

 

 

 雨宮の肩を叩いたり、揺すってみても何の反応もない。

5分ほど経って、ようやく雨宮に動きが戻った。

 

 

 

「……夢じゃなかったのか」

 

「おいジョーカー、大丈夫か?」

 

「5分ぐらいぼーっとしてたけど……」

 

「そうか……師匠、この前話した夢の話覚えてますか」

 

「ん、牢屋の夢の話だよね。覚えてるけど……それが?」

 

「あれは夢じゃなかったようです。皆には見えてないみたいですけど、ここに青い扉があって。

扉の近くに看守の女の子もいるんですが……」

 

 

 

 雨宮は虚空を指差すが、そこには何もない。

 

 

 

「見えないな……」

 

「この扉に入ると、あの牢屋に行けるんです。ベルベットルームというそうで。

そこで、ペルソナの処刑……合体ができるようになりました」

 

「うん……うん?」

 

 

 

 突然の衝撃情報にベレスの脳が一度理解を拒んだが、何とか飲み込んだ。

 

 

 

「それで、アルセーヌとピクシーを合体して、『アガシオン』というペルソナを手に入れました。

その代わり、アルセーヌとピクシーは今は呼び出せなくなりました」

 

「えっ、それ大丈夫なの?」

 

「覚醒したペルソナなのに消えちまったのか? マジ?」

 

「一応、手にしたことのあるペルソナはお金を払えばまた手にすることができるみたいです。

3000円ぐらいしたので、とりあえずやめておきましたが……」

 

「……今所持金は?」

 

「5000円ぐらいですね……」

 

 

 

 バイトも何もしていない学生で、かつ準備にかかった金を思えば持ってるほうかもしれない。

ベレスは黙って5000円札を雨宮に押し付ける。

 

 

 

「これでアルセーヌを呼び戻してきて。手札は多いに越したことはない」

 

「……いいんですか?」

 

「後で返してくれればいい。ほら早く」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 

 

 雨宮はお金を受け取ると、再び動きを止め……しばらくして戻ってきた。

 

 

 

「お待たせしました」

 

「それじゃ攻略開始だね。任せたよ、ジョーカー」

 

「はい。とりあえず前に行ったセーフルームまで一気に行きます」

 

 

 

 ジョーカーたちは侵入口である通風孔へ1人ずつ潜っていく。

それを眺めながら、ベレスは後方でひとり呟く。

 

 

 

「シャドウを自分のペルソナにしたと思ったら、今度は合体か。本当、彼には驚かされるな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 カモシダパレスのギミック攻略は、雨宮がベルベッドルームで得たという能力――

『サードアイ』によって、次々と攻略されていった。

 

 3個目のセーフルームにて。

 

 

 

「パーティ変更だ。かすみIN、モルガナOUT。竜司はまだいけそうか?」

 

「おう。蓮の言う通り、なるべく物理と銃だけでやってっからな」

 

「よし……かすみは久々の実戦だ。みんな、フォローしてやってくれ」

 

「お願いします!」

 

 

 

 その様子をベレスが黙って観察する。

 

 

 

(パレス攻略は問題なさそうだ。というか、雨宮くんのほうが優秀ですらある。

パーティ運用もまずまず、問題は見当たらない。問題は戦闘だ――)

 

「それじゃ、探索再開だ」

 

 

 

 セーフルームから出て、再びシャドウ渦巻くパレスへ飛び出す。

モルガナから教わった『カバー』という遮蔽物を利用した移動方法で、シャドウの目を欺く。

 

 

 

「――正体を見せろ!」

 

 

 

 先制攻撃(チャンスエンカウント)の時は危なげない戦いを見せてくれる。

何度も同じシャドウと戦っているので、弱点は把握しているし、完封勝利もよくある。

 

 

 

「くっ! 戦うしかない!」

 

 

 

 通常戦闘(ノーマルエンカウント)の時、敵の攻撃によっては連携が崩れる時がある。

例えば――強力な攻撃、もしくは状態異常をもたらす攻撃を受けた時だ。

雨宮くん以外が受けた時はいいが、雨宮くんが状態異常になると指揮系統が崩壊する。

負けることはないにしろ、危険な状況はそれなりに多かった。

 

 

 

「っ!? しまった!!」

 

 

 

 敵の先制攻撃(ピンチエンカウント)の時は最悪に近い。

敵の猛攻をまともに喰らい、すわ全滅かと思った時が何度かあった。

強引に敵を倒して切り抜けるか、アイテムと回復を駆使してどうにか切り抜けていた。

 

 4個目のセーフルームに辿り着いたのを見て、ベレスはようやく声をかける。

 

 

 

「――そこまで。今日はここで切り上げよう」

 

「師匠、まだいけます。やらせてください」

 

「ダメ。明らかに集中力が切れてきてるよ。

アイテムも心許ないし、次ピンチに陥れば切り抜けられないと思う」

 

「……分かりました。撤退します」

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の21日は休養にあて、翌々日の4月22日。

ベレスに連れられて都内のレンタルスペースへやってきた。

 

 

 

「この前のパレス攻略を見させてもらって……主に戦闘面で不安があった。

キミ達だけに任せることも今後増えていくだろうし、安心して任せられるように鍛えたいと思う」

 

「つまり……訓練てことすか」

 

「そう。だけど、私一人で5人全員を見るのは難しい。だから特別講師を呼んである」

 

「特別講師……?」

 

 

 

 ベレスが呼ぶと、その人物――シェズが入口から入ってきた

 

 

 

「シェズさん!?」

 

「不本意だけど、あんた達の指南役を務めることになったシェズよ。よろしく」

 

「……っていうか、現実に来れるのか」

 

「追い出されたのよ。あの件以来、あたしはカモシダの敵扱いになったらしくてね。

シャドウに追いかけ回されて、面倒になって現実に逃げてきたってわけ」

 

 

 

 シェズは溜め息をついて肩をすくめる。

 

 

 

「そこを私が拾って……今私の家に住まわせてる」

 

「る、ルームメイトってことですか? そんなの、いつ寝首を掻かれるか――」

 

「眠ってるベレスを殺して何が嬉しいのよ。あたしは正々堂々戦ってベレスを超えたいの」

 

 

 

 シェズはムッとした表情でかすみの疑問を切って捨てる。

 

 

 

「あー……そういう感じね? ついに懐柔されたのかと……」

 

「されてない。けど、恩義は感じてるしカモシダはあたしも嫌い。

アンタたちが強くなることでベレスとの戦いに集中できるなら、あたしにとっても利益がある」

 

「シェズには縁のある女子2人を見てもらうよ。男子3人は私が見る」

 

 

 

 ベレスと男子組、シェズと女子組に分かれて、訓練がはじまる。

ベレスはまず、座学から入る。

 

 

 

「さて、戦闘において最も大事なことが2つある。何か分かるかな」

 

 

 

 ベレスの問いに、それぞれ少し考えてから自分なりの答えを出す。

 

 

 

「一つは力……攻撃力でしょうか」

 

「それと、スピードだろ?」

 

「バカかオマエら……バトルってのは頭脳が大事なんだぜ?」

 

 

 

 三者三様の回答を聞いて、ベレスはうんうんと頷いて――

 

 

 

「パワー、スピード、頭脳。どれも大事だけど、最重要じゃない。

正解は『体力』と『瞬発力』だ。

 

 体力、これは『継戦能力』と言い換えてもいい。

体力が十二分にあれば、戦闘が長引いてもパワーやスピードを維持できる。

頭脳……すなわち集中力も持続する、つまり安定した戦いが可能になる。

 

 そして瞬発力。『判断力』、『決断力』と言い換えてもいい。

これが高ければ効果的に攻撃できるし、スピードを生かした攻撃や回避もできる。

頭脳を駆使した戦術も、タイミングを逸したら意味がない」

 

 

 

 ベレスの解答を聞いて、竜司はガックリと肩を落とした。

 

 

 

「なんか陸上でも言われた気がすんな、それ……つまりは基礎が大事って話っすよね」

 

「そうだよ。戦闘に限った話じゃない。体力や瞬発力を養うのは今後も絶対に無駄にならない」

 

「確かに……」

 

「体力に関しては一朝一夕で身に付くものじゃないし、自分でトレーニングしてほしい。

自分で続けられそうな方法でいいし、頻度も各々に任せる」

 

 

 

 ベレスはそう言いながら、ぼそっと「サボったら許さないけど」と呟く。

その呟きに戦慄しつつ、それぞれどうトレーニングするか考えはじめる。

 

 

 

「ワガハイは……町中を走り込みでもするか」

 

「車には気をつけてね」

 

「猫扱いすんな! ……でもまぁ、気をつけるぜ」

 

「ジムでも行くかぁ~……?」

 

「セントラル街にあったよな。俺も行ってみよう……あ、でも金がないか」

 

「あー……なら、走り込みしかねぇな……」

 

「だな」

 

 

 

 ベレスはコホンと咳払いをして、生徒たちをこちらに注目させる。

 

 

 

「今日の訓練は瞬発力のほう。やるのは『30メートル走』だ」

 

「30メートル走?」

 

「超短距離走に一番重要な要素は何? 坂本くん」

 

「スタートダッシュだろ。出遅れたらぜってー勝てねぇし」

 

「そうだね。でも、ただスタートダッシュの訓練をするだけじゃ戦闘には活かせない。

陸上ならスターターの銃声とか、分かりやすい合図があるけど、戦闘じゃそうはいかない。

敵のほんの些細な癖とか、決まったパターンを見逃さないことが重要だ。

 

 だから今回、スタートの合図は3種類のうちどれかを出す。

1つめは『足の爪先をほんの少し浮かせる』。

2つめは『腕組みした状態で、左右どちらかの人差し指を上げる』。

3つめは『ウィンク』。

 

この3つを見逃さないように、常に集中してスタート位置につくこと。

これを『全員が同時にスタートできるようになるまで』やるからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 シェズは杏とかすみの前に立って方針の説明をする。

 

 

「あっちでベレスも言ってるでしょうけど、とりあえず体力作りは大事。これは各自でやって。

かすみだっけ? あんたはブカツってのやってるからいいけど、杏。あんたは特にね。

 

瞬発力も大事だけど、前線に出るのは男どもが担うでしょうし今は二の次でいい。

あんたらに必要なのはそれより度胸ね」

 

「度胸……」

 

「必要とあれば前へ出て、真っ向から敵に立ち向かう。それには度胸が必要になる。

後ろで援護だけする、なんて言ってたら仲間を失うことになるわ」

 

「シェズさんが言うと、言葉が重い……」

 

「ってわけで組み手をやるわよ。手加減するけど、容赦なく投げ飛ばすから何度でもかかってきなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 4月23日、24日と現実で訓練を行って、25日は休養日。

そして来る26日、再びカモシダパレスへ潜入する。

 

 

 

「今日は余裕のあるうちは攻略を進めて、残りは実戦での訓練にする。

まぁ、ゲームでいえばレベル上げってところかな」

 

 

 

 先日のように雨宮(ジョーカー)をリーダーとして攻略を進める。

訓練の成果か、先制攻撃(チャンスエンカウント)の比率が上がり、敵の先制攻撃(ピンチエンカウント)の比率は下がっている。

 

 

 

「下手に戦闘を避けようとするとかえってピンチになりやすい。シャドウは全部倒すつもりでいこう」

 

「で、消耗したら帰ればいいってわけね。まぁそのほうが分かりやすくていいか」

 

 

 

 効率は悪いが経験を積むにはこれ以上ない方法で、パレスを突き進む。

明らかに回避可能なシャドウ以外はすべて倒しているので、進みは遅い。

1時間ほどかかって、巨大な塔の入口にまで辿り着いた。

 

 そこからは出現するシャドウが様変わりした。

 

 特にベリスという騎馬兵のシャドウにしばらく苦戦する。

杏の火炎(アギ)、竜司の電撃(ジオ)、モルガナの疾風(ガル)、雨宮の呪怨(エイハ)、かすみの破魔(エイハ)

どれも弱点ではなく、しかも銃撃無効。

 

 試行錯誤の末、雨宮がペルソナを『シルキー』に変えて『氷結魔法(ブフ)』をぶつけると、それが弱点だった。

しかも妙に体力が多く、ブフからの総攻撃でも倒しきれない。

 

 

 

「これ、ジョーカーの消耗が激しくなるね……」

 

「もう少し強くなれば安定して倒せるようになるはずだ。今は消耗してもいいから、安全に勝ちに行く」

 

「了解……」

 

 

 

 塔の中にセーフルームを見つけ、今日の攻略はそこまでとなった。

 

 

 

「あとは限界ギリギリまで下層のシャドウ相手に実戦訓練だ。

倒すだけじゃなくて、あえて敵の攻撃を受けてみるといい。回避の練習になる。

撤退時は私が先導するから、そこは安心していいよ」

 

「はい」

 

「きち~」

 

 

 

 その日は全員、クタクタになって家に帰ることになった。

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