4月30日、早朝。
色欲の大罪人 鴨志田卓殿
抵抗できない生徒へ薄汚い欲望をぶつけるお前の罪はあまりにも深い。
誰も罪を糾弾できない王様気取りのお前の歪んだ欲望を、本日中に頂戴させていただく。
そして、お前の罪は改心したお前の告白によって償ってもらうことにする。
《b》心の怪盗団より
「……何だこれ?」
「心の怪盗団、って?」
「あー……なんか5chとかで見たことあるな」
「欲望を盗むって意味わからんくね?」
廊下という廊下に無造作にばら撒かれた予告状を拾って、生徒のざわめきが広がっていく。
ベレスもまた、その予告状を拾いあげる。
(結局200枚ぐらいしか作れなかったな。手作りは大変だ……)
ひたすら雑誌や新聞から文字を切り抜いた日々に思いを馳せていると、1人の女子生徒に声をかけられる。
「先生、見ましたか? この予告状」
「……新島さん」
黒髪のショートカットが特徴的な、気の強そうな少女がそこに立っていた。
亡くなった父が警察官で、検事の姉がいる現生徒会長――『新島 真』。
真は2枚の予告状を手に取って観察する。
「イタズラかと思ったんですけど、結構手が込んでるんです。
ほら、見てください。使ってる文字、雑誌や新聞の切り抜きですけど、全部違うんです。
つまり、手作りなんですよ。この数百枚はある予告状全部……信じられます?」
「少なくとも、ただのイタズラじゃなさそうだね。相当熟慮の末に作られてる」
「ええ、一体誰がこんなことを……」
真はかなり頭の切れる子だ。あれだけ気をつけても、どこからか嗅ぎつけてくるかもしれない。
警戒しつつ、怪盗団について議論を交わしていると……そこに鴨志田が現れた。
「何だっ……これは!?」
鴨志田は予告状を拾い上げ、その文章を読んで怒りで顔を紅潮させていく。
「誰の仕業だッ!!」
鴨志田は大声で叫び、生徒たちを威嚇するように次々と睨みつける。
「お前か!? お前じゃないのか!? こんなことをして、許されると思ってないだろうな!?」
生徒たちは激昂する鴨志田を遠巻きに眺め、睨まれた者は必死に首を振る。
鴨志田は周囲を見て、そこに雨宮と竜司を見つけると、つかつかと近づいていく。
「……お前らだな!?」
雨宮と竜司に詰め寄り、胸倉を掴んで恫喝する鴨志田。
「俺達、今登校してきたばっかっすよ」
「夜中に侵入したんだろ!?」
「そんなことしたら警備会社が飛んできますよ」
「うるさい! こんなことする動機があるのはお前らぐらいだろ!?」
尚も恫喝し、手が出かかっている鴨志田の間にベレスが割り込む。
「鴨志田先生、そこまでだよ。動機があったとしても証拠はないはずだ」
「……ベレス先生、しかし!」
「この予告状、かなり手が込んでいる。坂本くんや雨宮くんだけで考えつく代物じゃないよ」
「先生、ひっでー。俺だってこのぐらい……」
「いや、竜司には無理だろ」
「辛辣ぅ!!」
鴨志田は渋々竜司から手を離す。
「……心の怪盗団だと? 欲望を盗むだと? ふざけやがって……」
鴨志田は大きな足音を立てながら、体育教官室へ向かっていく。
「どけ! お前ら、邪魔だ! さっさと教室へ行け!!」
鴨志田は生徒を押しのけて去っていった。
「……効果覿面ですね」
雨宮が周囲に聞こえないように小声で呟く。
「放課後、作戦開始だよ。準備は万全?」
「ええ、もちろん」
「待ってろよ鴨志田……必ず改心させてやる!」
「坂本くん、声」
「っす。さーせん」
その様子を真が怪訝な表情で眺めていた。
*
「くそっ、くそっ! 何が心の怪盗だ! 俺に恥をかかせやがって……!!
絶対に許さんからな……!!」
鴨志田は内線で校長へ電話をかける。
『はい、もしもし』
「鴨志田です。校長、今回の件もうご存じでしょう。一刻も早く警察を呼んで頂きたい!」
『えぇ、もちろん知ってますが……イタズラでしょう? 警察沙汰はちょっとねぇ』
「なっ……何を言ってるんですか!! イタズラにしては度が過ぎてるでしょう!?」
『お気持ちは分かりますが……とりあえず2日後の理事会までお待ちください』
「……約束してくださいよ。私が『警察を呼べ』と言ったら必ず警察を呼ぶと」
「分かりました。お約束しますよ……それでは、失礼』
そこで通話が切れると、鴨志田は「クソがッ!!」と叫んで周囲のモノに当たり散らす。
しばらくして心を落ち着かせ、スマホで心の怪盗団について調べ始める。
「……本当に改心された者もいるのか!? まさか、本物……いや、あり得ない!
フェイクに決まってる……欲望を盗むなど、できるわけがない!」
鴨志田は頭を振って、僅かに生まれた恐怖心をかなぐり捨てる。
「『やれるものならやってみろ……! この
鴨志田の傍に、シャドウのカモシダが重なるように現れ立つ。
≪WORNING!!≫≪WORNING!!≫≪WORNING!!≫≪WORNING!!≫≪WORNING!!≫≪WORNING!!≫
警戒度15%→警戒度100%
≪WORNING!!≫≪WORNING!!≫≪WORNING!!≫≪WORNING!!≫≪WORNING!!≫≪WORNING!!≫
*
心の怪盗団の5人と1匹がカモシダパレスの入口に並び立つ。
その後ろには、ベレスを敵視する女傭兵――シェズの姿もあった。
「一気にオタカラの元まで行くよ。シャドウに見つかったら、私とシェズが処理する」
「っす。よろしくおねしゃーす!!」
坂本が元気よく返事してビシッとお辞儀をする。
「カモシダと戦闘になったら、あんたたちだけで戦うのよ。自信のほどは?」
「自信はあります。不安もありますけど」
雨宮が城の上部――塔を見上げながら答える。
「それでいい。大丈夫、キミ達なら乗り越えられるよ。私は信じてる」
「でしたら、私たちもマスターの信じる私達を信じます!」
かすみが力強く宣言する。
「――行こう」
「はい」
ルートを知る雨宮が先導し、オタカラのある最上階の最奥まで最短ルートで突き進む。
ベレスとシェズでシャドウを蹴散らし、その小部屋に辿り着いた、が……。
――そこにオタカラはなかった。