秀尽学園の非常勤講師、ベレス   作:女主人公スキー

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※長いです


12.色欲の城、落城-前編-

「何でオタカラがねぇんだよ!?」

 

 

 

 オタカラがない。予想外の事態に坂本が大声で叫ぶが、ベレスが冷静に分析する。

 

 

 

「予告状の影響じゃないかな。狙われてると分かったから場所を移動したか、もしくは――」

 

「カモシダが自分で守っている……ですか」

 

 

 

 雨宮が推測を話しながら、周囲を警戒する。

 

 

 

「探しているのはこれか? ネズミ共!!」

 

 

 

 扉の外からカモシダと思しき声が響いてくる。

 

 

 

「どうやら、家探しの必要はなさそうだね」

 

「玉座の間だ。行くぞ、みんな!」

 

 

 

 オタカラのあった部屋から転がり出る。

すると、そこにオタカラ――直径50㎝ほどの巨大なメダルを手にするカモシダの姿があった。

 

 

 

「メダルか。それがてめーの権威の象徴ってわけだ」

 

「『メダリスト』の威光は絶大だ。学校という閉鎖環境の中で、結果さえ残せば全て許容される。

部員(奴隷)どもを暴力で躾けても、女子部員(メス)どもにセクハラしたり手を出してもな」

 

「クズ野郎……あんただけは絶対に許さない!」

 

 

 

 杏がカモシダを指差して、鞭をしならせる。

 

 

 

「俺様になびかない女はいらん。逆らう野郎共もな。

その上、オタカラを奪おうとするなら――生かして帰すわけにはいかんなぁ」

 

「命を脅かされても、絶対に奪います! 先生みたいな悪魔には屈しません!!」

 

 

 

 かすみが剣をカモシダに向けて力強く宣言する。

 

 

 

「鴨志田卓。お前の欲望を貰い受ける――決着をつけよう」

 

 

 

 ジョーカー――雨宮が一歩前に出てカモシダへ宣戦布告を告げる。

 

 

 

「呼び捨てにしてんじゃねえ、前歴持ちのクズがっ!!

――俺にはな、お前らと違って『価値』があるんだ。

 

何ひとつ奪わせねぇ……奪われるのは、お前らのほうだ!!

 

 

 

 シャドウカモシダから瘴気が溢れ出て、その真の姿を顕にする。

5mほどに巨大化した、赤みがかった醜悪な身体。

頭にはツノが生え、3mはあるだろう舌をだらりと露出させている。

そして巨大な王冠を被り、メダルを首にかけている。

 

 

 

「来るぞ! 全員、気を引き締めろ!」

 

「「「「了解!!」」」」

 

 

 

 雨宮たちとシャドウカモシダの戦いが始まる。

それぞれ、ペルソナを呼び出してまずは小手調べにと一斉攻撃を仕掛ける。

 

 

 

「貧弱だな……ザコどもが!」

 

 

 

 シャドウカモシダは舌をびたんびたんと跳ねさせて吠える。

 

 

 

「効いてねぇ!?」

 

「いや、効いてはいる……ただ、体力がとんでもなく多い」

 

「長期戦になりそう……」

 

「ってことは、地道な訓練の活かしどころですね!」

 

「お前ら、集中しろよ!? 気を抜いたら死ぬぜ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて……私達も始めましょうか」

 

 

 

 シェズがベレスと向き合い、剣に手をかける。

 

 

 

「そうだね。取り決めは前に言った通りでいいかな」

 

「ええ。盤外の手――私の場合はペルソナ、あんたの場合は生徒――は3回まで。

それ以外はガチンコの一騎打ち。でいいのよね」

 

「うん。それじゃ……やろうか」

 

 

 

 ベレスが静かに剣を抜くと、シェズも剣を抜いて構える。

 

 

 

「勝ち目があるって顔してるわね。残念だけど……あの時は本気であっても全てを見せたわけじゃない」

 

「へぇ。それは……楽しみだね」

 

「余裕ぶって……! 見なさい、これが私の――」

 

 

 

 シェズが空いている左手を広げると、もう一つの剣がどこからともなく現れる。

 

 

 

「本当の姿よ!!」

 

 

 

 シェズの顔に紋様が浮かび、悪魔のツノを彷彿とさせる装飾が首周りに浮かぶ。

 

 

 

「二刀流か。お手並み拝見といこう」

 

「涼しい顔でいられるのもこれまでよ」

 

 

 

 瞬間、シェズの姿が消えて、閃光がベレスの目の前まで駆け抜ける。

その閃光の正体はシェズであり、瞬間移動とまでは言えないが超高速で距離を詰める技。

以前に見せた『無間の瞬動(ワープ)』の短距離版である。

 

 ベレスは面食らいはしたものの、シェズの初撃に剣を合わせて防ぐ。

 

 

 

「何で反応できんのよ!?」

 

「えっと……勘?」

 

 

 

 シェズは一旦引いて、二刀から斬撃を飛ばす。

ベレスは当然のように躱すが、その躱した直後を狙い『無間の瞬動(ワープ)』で再び距離を詰める。

 

 しかし、それもまたギリギリで反応されてしまう。

 

 

 

「……とんでもない反射神経してるわね」

 

「ありがとう。次はこちらから行くよ」

 

 

 

 ベレスは尚も攻撃を続けるシェズの剣を華麗な剣捌きで押し返す。

シェズは急いで距離を取ろうとする――余談だが、『無間の瞬動(ワープ)』は前進しかできない。

しかし、ベレスはそれを許しはしない。

 

 

 

「『風薙ぎ』」

 

 

 

 回避不能の一撃を通りざまに叩き込む。

 

 

 

「ぐっ……あんたも、あの時は本気じゃなかったってわけ……?」

 

「いや、そうじゃない。キミの動きに慣れただけだよ」

 

「『無間の瞬動(ワープ)』も二刀流も初見でしょうが!?」

 

「技や手数が増えても、キミの癖はそのままだからね」

 

 

 

 シェズの攻撃はほとんどがいなされ、逆に手痛い反撃を喰らう始末。

一度戦っただけのはずだが、完全に癖を見切られてしまっている。

 

 こうなった原因に、シェズの剣術が我流なこともあるだろう。

一度見れば十分なほど、シェズの戦い方は拙く、読みやすいということだ。

 

 

 

「チッ……『ラルヴァ』っ、回復して!」

 

『やれやれ……『ディアラマ』』

 

 

 仕方なくシェズは手札を切って、自身の傷を癒す。

ペルソナを使えるのは残り2回。

 

 

 

「シェズ、キミのすべてを出し尽くすんだ。それとも、出し惜しみして勝てるつもり?」

 

「そうね……戦いが長引けば不利なのはこっち。短期決戦で終わらせるわ」

 

 

 

 シェズは再び召喚機をこめかみに放ち、ペルソナ――『ラルヴァ』を呼び出す。

 

 

 

「――『ランダマイザ』!」

 

 

 

 以前に受け、敗勢に陥った全能力を下げるデバフ魔法がベレスを襲う。

 

 

 

「やっぱりそう来たか」

 

「さぁ、反撃開始よ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 場面は変わって、怪盗団の5人とシャドウカモシダの戦い。

 

 普段は戦闘になった場合、全員で当たらず3人のみで戦い、残りは逃走経路の確保や周囲の警戒をする。

しかし今回はゲームでいうところのボス戦にあたるので、総力戦で挑んでいる。

 

 基本的には男子3人――雨宮、竜司、モルガナ――が前衛となって敵の攻撃を引き付ける。

女子2人――杏、かすみ――は攻撃をしつつ、3人の支援、回復を行う。

 

 

 

「どわぁぁぁっ!?」

 

 

 

 竜司がカモシダの長い舌の薙ぎ払い攻撃を間一髪で回避する。

 

 

 

「竜司、突っ込みすぎだ。――『スクカジャ』」

 

 

 

 雨宮はペルソナ『コッパテング』を呼び出して回避/命中バフ魔法(『スクカジャ』)を竜司にかける。

竜司はカモシダの追撃を躱し、反撃に転じていく。

 

 

 

「ちょこまか、ちまちまと……鬱陶しいんだよ、ゴミども!!

俺へ歯向かうことがどれだけ無駄か教えてやる!」

 

 

 

 カモシダは聖杯のような形をしたトロフィーに入った人形のようなものを喰らい、体力を回復する。

 

 

 

「何それっ!? 反則すぎ!!」

 

「まずはあのトロフィーを破壊するぞ!」

 

 

 

 それぞれカモシダの攻撃をいなしつつ、トロフィーの破壊を試みる。

それをみすみす許す度量がカモシダにあるはずもなく。

 

 

 

「させんっ! 行け、()()()!!」

 

 

 

 カモシダは認知存在のベレスを呼び出す。

期限が近いからか、ウェディングドレスを着ている。

手にはサバイバルナイフを持ち、いかにも適当な構えをとる。

 

 

 

「もう結婚したつもりでいるってことかよ、ゲスヤロー」

 

「勝てるかな……」

 

 

 

 杏がぽつりと不安をこぼす。

 

 

 

「問題ない――あの先生の相手は俺がする。みんなはトロフィーを壊してくれ」

 

「1人で大丈夫ですか? 認知存在とはいえ、あのベレス先生ですよ?」

 

 

 

 かすみが疑問を投げるが、雨宮は首を振って否定する。

 

 

 

「あれは先生なんかじゃない。今の俺達なら、誰が戦ってもあんなのに負けはしない。絶対に勝つ」

 

「そこまで言うなら任せたぜ。お前ら、とっととトロフィーを壊すぞ!!」

 

 

 

 モルガナが指揮を交代して、雨宮は1人認知ベレスと相対する。

 

 

 

「やれ、ベレス! 俺様のためにそいつを殺せ!!」

 

「はい、旦那様。このベレスにお任せください」

 

 

 

 そのセリフを聞いて、雨宮は瞑目し深いため息を吐く。

 

 

 

「カモシダ……お前は先生のことを何も分かっていない」

 

 

 

 目を閉じたまま、ベレスのナイフ攻撃を躱す。

 

 

 

「まず、先生はこんな冴えない戦い方はしないし――」

 

 

 

 雨宮はわざと隙を作って認知ベレスの攻撃を誘導する。

認知ベレスはその隙――雨宮の首を狙ってナイフを振るう。

 

 

 

「そもそも、生徒に手をあげたりしない!」

 

 

 

 来ると分かっている攻撃なら回避はもちろん反撃も容易だ。

雨宮はナイフを躱して、顎を蹴り上げる。

 

 

 

「解釈違いがすぎるんだよ……!」

 

 

 

 態勢を崩した認知ベレスの腕をダガーで切断する。

「アアアッ」と奇声をあげて、のけぞる認知ベレスの腹を蹴って床に転がした。

 

 

 

「杏といい先生といい、お前は女性を姿かたちしか認識していないんだな……。

こんなのが先生であるはずがない……! 燃やせ、『カハク』!!」

 

 

 

 雨宮は妖精のペルソナ『カハク』を呼び出し、火炎属性魔法(アギ)で認知ベレスを燃やし尽くす。

 

 

 

「き、貴様……見知った相手を手にかけて心は痛まんのか!?」

 

「痛まない。あれは先生じゃないし――何より、俺達は悪党だからな。

お前が何度呼び出そうと、その都度斬り捨てるさ」

 

 

 

 その時、トロフィーが壊れて崩れ去る音がする。

 

 

 

「ぶっ壊したぜ、ジョーカー!」

 

「よし。ここからもう一度、総力戦でカモシダを倒すぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ランダマイザ(全能力低下魔法)』を喰らい、流石のベレスもシェズと距離を取ろうとする。

しかし、『無間の瞬動(ワープ)』で即座に距離を詰められる。

能力を下げられたベレスは、さっきのようには反応できない。

 

 シェズの攻撃が面白いように決まる。

打たれ弱くもなっている為、避けきれなかった傷は深いものになる。

 

 

 

「くっ……『エーデルガルト』、お願い」

 

『ここからは私が相手よ』

 

「出たわね、皇帝陛下……!」

 

 

 

 ベレスは自分を回復させる手段に乏しい。

信仰魔法である『ライブ』や『リカバー』は他人を回復することしかできない。

なので、生徒もしくは道具に頼るしかなく、その隙を埋めるため仕方なく手札を切る。

 

 生徒を呼べるのは残り2回。

それぞれ、戦技もしくは魔法を一度使えば終わりというルールになっている。

 

 

 

『逆に言えば、戦技さえ使わなければしばらく戦えるわけね』

 

「武器以外に判定ないとか、反則でしょ……!」

 

 

 

 シェズがエーデルガルトの攻撃から逃げ回る。

まともにぶつかっても相手にダメージが通るわけでもないので意味はない。

 

 エーデルガルトもまともに相手をしてもらえるとは思っていない。

シェズの脅威となって、とにかくベレスが回復する時間を稼ぐ。

 

 

 

「ありがとうエーデルガルト。もう大丈夫」

 

『そう。それじゃ、これで役目は終わりね――『閃花』!!』*1

 

 

 

 エーデルガルトが英雄の遺産『アイムール』を勢いよく地面に叩きつけると、

その衝撃波と激しい光と火花がシェズを襲う。

 

 

 

「くっ……!?」

 

 

 

 衝撃波は防いだものの、閃光と火花までは予想しきれずまともに喰らってしまう。

軽い眩暈を起こしたシェズの、ほんの僅かな隙をベレスは逃さない。

 

 

 

「これで終わらせる――『オーラ』!!」

 

 

 

 シェズの弱点属性が破魔であることは前回の戦いで知れている。

ベレスの信仰魔法『オーラ』はこの世界では破魔属性魔法として扱われる。

これで勝負は決したかと思ったが――

 

 

 

「待ってたわ。その攻撃を――『ラルヴァ』!!」

 

『――『陰陽の法則』』

 

 

 

 ラルヴァの固有スキル『陰陽の法則』によって、弱点と耐性が入れ替わる。

本来ならば、弱点をつかれて態勢を崩すはずのシェズが、光の中からベレスへ突っ込んでくる。

 

 

 

「終わりよ、ベレスッ!!」

 

「っ!!」

 

 

 

 『ランダマイザ』が有効な以上、ベレスがシェズに打ち勝つのは難しい。

さしものベレスも、攻撃が不発に終わった動揺もある。

勝利を確信するシェズ。

 

 

 

「――負けないよ」

 

 

 

 シェズが剣の射程距離に迫る。

 

 

 

「『紫電』ッ――」

 

 

 

 シェズが戦技を放つ。打たれ弱くなったベレスに対して、至近距離での大技。

まともに喰らえばベレスとてひとたまりもない。

 

 しかし、そこにベレスの姿はなく。

 

 

 

「――何で!?」

 

「手札を一つ切ったんだ」

 

 

 

 ベレスは先程のエーデルガルドの攻撃でシェズが眩暈を起こしている間に、密かに『リンハルト』を呼んでいた。

そして、ベレスが窮地に陥ったのを見て信仰魔法『ワープ』を発動させた。

 

 ベレスはシェズの背後から猛然と襲い掛かり、シェズも動揺を振り払い応戦する。

しかし、それでもシェズの有利は変わらない。現状、ベレスの攻撃は外れる恐れすらある。

 

 

 

「負けられない……負けたくない!!」

 

「私も同じだよ。だから、最後の手札を切る――雨宮くん!」

 

 

 

 ベレスが叫ぶと、かすみと入れ替わっ(バトンタッチし)て、こちらに近づいてきていた雨宮がペルソナを発動させる。

 

 

 

「『エンジェル』、先生(マスター)に勝利を――『デクンダ』」

 

 

 

 『デクンダ』。デバフを解除するその魔法で、シェズの有利は一気に霧散する。

シェズの必死の反撃は力を取り戻したベレスにすべていなされ、躱される。

 

 

 

「終わりにしよう」

 

 

 

 ベレスはシェズの剣の射程範囲外まで引き、もう一つの剣――『天帝の剣』を抜く。

 

 

 

「――『破天』」*2

 

 

 

 天帝の剣の戦技『破天』。伸縮する刃がシェズの射程範囲外から最大4連続の斬撃が飛んでくる。

回避を試みるも、攻撃範囲があまりに広く――シェズは防御して耐えるほかなかった。

 

 膝をつくシェズ。近づいて、ベレスは天帝の剣を突きつける。

 

 

 

「私の勝ちだね」

 

「……そうね。認めるわ。あんたは強い――今の私じゃ勝つ見込みは低い」

 

「そうかもしれない。でも、キミは筋がいい。いずれ勝てるようになる――勝ち越すのは私だろうけどね」

 

「ふん……言ってなさい。今に吠え面かかせてやるから」

 

 

 

 シェズは剣を支えにして立ち上がる。

 

 

 

「それじゃ、約束通り怪盗団に協力してもらうよ」

 

「今までも協力してたけどね……敗者の身だし、勝者に従うわ」

 

「頼りにしてるよ。さて、カモシダのほうはどうなったか――」

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、俺のメダルがぁぁぁ!? 返せ、返しやがれぇぇ!!」

 

 

 

 カモシダを追い詰めていくと、強力なスパイク攻撃が飛んできて防戦一方になっていく。

このままではジリ貧になると雨宮が判断し、まずオタカラを奪いカモシダを動揺させることにした。

 

 竜司を別行動させ、他4人が気を引いている間に高所へ昇り、銃でメダルを狙い撃つ。

銃弾によってメダルの紐が切れ、地面に転がり落ちる。

 

 それをモルガナが素早く奪い取ると、カモシダは激しく動揺したのだった。

 

 

 

「畳みかけるぞ!!」

 

 

 

 雨宮が号令をかけて、竜司とモルガナを連れて前線へ突っ込んでいく。

かすみと杏はその場で攻撃を続けていたが――

 

 

 

「何やってんのあんたらッ!! もう大詰めなんだから、男子に任せっきりにしない!!」

 

 

 

 シェズが女子2人組に大声で叱責する。

 

 

 

「「は、はい!!」」

 

 

 

 叱責を受けて、かすみと杏は慌てて男子と共に前線で攻撃をしかけていく。

 

 

「ったく……平和な時代ってのも考えものね」

 

「あれが普通だよ。私達が特異なだけ……それにしても、教師役も案外様になってるね」

 

「冗談。それより、私達も加勢する?」

 

「必要ならね。今は見守ろう」

 

 

 

 銃で、ペルソナで、武器で――カモシダへ怪盗団総出で攻撃を繰り返す。

メダルを奪われた怒りと、波状攻撃への対応でカモシダの動きは精彩を欠いている。

 

 

 

「くそっ、まだ倒れねぇのか!?」

 

 

 

 魔力が尽きた竜司は、体力を削ってペルソナの物理攻撃を叩き込む。

 

 

 

「もう少しだ。弾も魔力も、すべて出し尽くせ!!」

 

 

 

 雨宮は全員の状況を気にしながら、魔力を振り絞って攻撃を続ける。

 

 

「さっさとくたばりなさいよ、クソ野郎!!」

 

 

 

 杏は残していた銃弾をすべて撃ち込んで吠える。

 

 

 

「お前ら、無理するなよ! 来い、ゾロ――『メディア』!」

 

 

 

 モルガナは全体回復魔法で全員を癒しつつ、残魔力を気にしながら風魔法を放つ。

 

 

 

「先輩方、ファイトです! 私も全力で――!」

 

 

 

 かすみは華麗な動きでカモシダの攻撃を躱し、武器とペルソナの物理スキルを交互にぶつけていく。

 

 

 

「クソがぁぁぁぁ!! 何でお前ら如き無価値な人間に、結果を残し続けた俺が奪われなきゃいけない!!

逆だろ、普通は! 俺が奪う側で、お前らは奪われる側であるべきなんだッ!!」

 

 

 

 カモシダが理不尽な主張を叫ぶ。

 

 

 

「確かに俺達は何も成し遂げてはいない。怪盗団も、けして世間に誇れることじゃない。

まだスタート地点につけてすらいない……なんならマイナスかもしれない。

 

そんな無価値な人間でも、今のお前がどうしようもないクズだということは分かる。

散々人から奪ってきたんだから、奪われるのは当たり前だろう?」

 

 

 

 それを雨宮が剣と言葉で斬って捨てる。

 

 

 

「どんだけ価値とやらがあってもよ、許されるラインを遥かに越えてんだよお前ッ」

 

 

 

 竜司が鈍器で殴りつけながら、吐き捨てる。

 

 

 

「自分だけが評価されたい。評価される自分は何してもいい……ホント子供みたい。

ううん、子供だってもうちょっと分別は持ってる。

あんたはもう化け物……『改心』しないといけない、最低の教師よ!!」

 

 

 

 杏が鞭を激しく打ちつけながら、カモシダを否定する。

 

 

 

「『改心』を受け入れるんだな、カモシダ!!」

 

 

 

 モルガナがパチンコで狙いをつけながら叫ぶ。

 

 

 

「直接の恨みはなくても、許せない気持ちは同じです。覚悟してください、カモシダ先生!!」

 

 

 

 かすみが小剣で舞うように斬りつけて詰め寄る。

 

 

 

「黙れ……黙れ黙れ黙れェ!! クズども、いいからメダルを返せ!! それさえあれば、俺は、俺はぁ……!!」

 

 

 

 あと一押しでカモシダは倒れる。そういう感覚を全員が覚えた。

別に誰が最後の一押しを決めてもいいのだが――皆の気持ちは一つのようで、ある人物に視線が集まる。

 

 

 

「……ん?」

 

 

 

 見られていることに気付いて、ベレスが首を傾げる。

 

 

 

先生(マスター)、最後の一撃をお願いできますか」

 

「――私が? 皆はそれでいいの?」

 

「はい。先生(マスター)あっての怪盗団ですから」

 

「そう……分かったよ」

 

 

 

 ベレスは再び天帝の剣を抜こうとするが、押し留まる。

 

 

 

「この剣をカモシダの血で汚したくないな……」

 

 

 

 そう呟いて、いつもの銀の剣を抜く。

 

 

 

「今更、説教を垂れるつもりはないよ。全ての罪を告白して、償ってくれたらそれでいい」

 

 

 

 ベレスはカモシダに静かに語り掛け、ゆっくりと近づいていく。

 

 

 

「やめろ……来るな!」

 

 

 

 カモシダが長い舌を振り回したり、奴隷たちがトスするボールを次々と投げていく。

が、ベレスはそのすべてを何でもないように簡単に躱してカモシダに迫っていく。

 

 

 

「カモシダ。キミを……断罪する」

 

 

 

 一瞬で、消えたように見えるほど素早く、シャドウカモシダの懐に入る。

何の戦技でもなく――ただ剣を持ち上げ、振り下ろした。

 

 

 

「い……嫌だぁぁぁ!! 俺は、俺はぁぁぁ――」

 

 

 

 断末魔をあげながら、悪魔化したシャドウカモシダの身体は崩れ去っていく。

そして、そこにはただの人間の姿の、シャドウカモシダのみが残った。

 

 

 

「くそ……負けたのか。この、俺が……」

 

 

 

 膝をつくカモシダを怪盗団とベレスが取り囲む。

 

 

 

「終わりだな、カモシダ」

 

「お前の歪んだ欲望、確かに頂いたぜ」

 

「すべての罪を告白して、罪を償いなさい。本当は殺してやりたいぐらいだけど……それで終わりにしてあげる」

 

「これで万事解決、ですね! お疲れ様でした!」

 

「オタカラ♪ オタカラ♪ ニャッフーーー!!」

 

 

 

 それぞれ、カモシダや仲間に思い思いの言葉を述べる。モルガナだけはなぜかオタカラ(メダル)を弄ってはしゃいでいる。

 

 

 

「キミがなんでこうなったのかは知らない……知りたくもない。

生徒への接し方は最悪の一言だけど、指導者としては結果が出てる以上有能だったんだろうね。

 

 だとしても、もう学校という場所にキミの居場所はなくなる。

もうメダリストでも体育教師でもない……ただの犯罪者だ」

 

 

 

 最後にベレスがそう告げると、カモシダは地面に手をついてうなだれる。

 

 

 

「俺は……現実の俺に戻る。そして、全ての罪を告白し償うよ……」

 

 

 

 カモシダは震える声で懺悔する。

怪盗団がそれぞれ、達成感と喜びを身体で表現する。

 

 これでカモシダの改心は成った。

シャドウカモシダの身体が薄くなり、消えていく。

 

 色欲の城は、怪盗団の手により落城したのだ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待ちなさい」

 

 

 

 シェズがカモシダの腕を掴み、存在を引き戻す。

 

 

 

「へっ?」

 

 

 

 まさか、今の流れで止められると思っていなかったカモシダが素っ頓狂な声をあげる。

 

 

 

「甘いわよ、アンタたち。改心させてそれで終わり? それでいいって思ってるわけ?」

 

 

 

 カモシダの腕を掴んだシェズが、怪盗団の面々を見回す。

 

 

 

「何か問題があると?」

 

 

 

 雨宮が冷静に訊き返す。

 

 

 

「大ありよ。まず、『改心』ってコイツが死ぬまで続くものなの?」

 

「それは……たぶん、そうなんじゃないか?」

 

 

 

 モルガナが自信なさげに答える。

 

 

 

「分かんないでしょ。最近始めたことなんだから。

まぁ、でもそこはいいわ。罪を告白する以上、指導者には戻れないだろうし。

問題は……こいつの『性欲』よ」

 

「性欲って……」

 

 

 

 杏が顔を引きつらせる。

 

 

 

「『改心』で奪ったのはあくまで『歪んだ』欲望でしょ? 欲望そのものを奪ったわけじゃない。

それを奪ったら廃人になる……そういう話だったはずよね。

 

だったら、こいつの性欲自体は残ってるってことになる。

その上で、さっきの話に戻るけど。

 

もし改心の効果が切れたり、新しく『歪んだ欲望』が産まれたら?

この男の――生徒でも教師でも見境なく襲いかかるほど強い性欲を、こいつが抑えられると思う?」

 

 

 

 シェズの言葉に、誰もが押し黙る。カモシダは嫌な予感から冷や汗を流している。

 

 

 

「また被害者が出るわよ。それはもしかしたら杏や、かすみかもしれない。

逆恨みして、住所突き止めて襲ってくる可能性――ゼロじゃないはずよ」

 

「そこまでは思い至らなかったな。確かに、ありえる話だ」

 

 

 

 ベレスは顎に手を当てながら、深く頷いている。

 

 

 

「でしょ? だったら、()()()()()()()()()べきじゃない?」

 

「……どうやって?」

 

「そんなの決まってるでしょ――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()の。潰すぐらいの勢いでね」

 

「はぁ!? おまっ、それって……」

 

 

 

 竜司が思わず股間を押さえる。

 

 

 

「ベレスが鴨志田に襲われそうになった時、鴨志田が急に股間を押さえてうずくまったそうじゃない。

たぶんちょうどその時、私がシャドウのカモシダの股間を蹴り上げたからだと思うのよね。

 

つまり、シャドウは本体と連動してるってわけ。

殺せば死ぬし、()を潰せば……まぁ二度と機能しなくなるんじゃないかしら」

 

 

 

 シェズの発言を聞いて、カモシダが激しく暴れるがシェズが取り押さえる。

 

 

 

「ってわけで……玉蹴り大会を開くわよ。誰からいく?」

 

「シェズさん――」

 

 

 

 杏がシェズと、腕の中で暴れるカモシダを見つめる。

いくらなんでもやりすぎじゃないか、そんな気持ちが杏の中に去来する――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、私からいくね」

 

「ぱ、パンサー!?」

 

 

 

 ――わけがなかった。

 

 

 

「今更良い子ぶったってしょうがないじゃん。ジョーカーの言う通り、私達は悪党。

正義を貫くために悪事を許容するなら、中途半端なことはしたくない」

 

 

 

 杏は言いながら、足の素振りをして準備をする。

 

 

 

「お、おい……冗談だよな? まさか、そんな人の道に外れたことを――」

 

 

 

 カモシダが杏を諫めようと試みるが――

 

 

 

「外道はあんたでしょ、このクズ男ッ!!」

 

「ぎぇぇぇぇぇぇ!?」

 

 

 

 全く効果はなく、助走からの膝蹴りがカモシダの股間に直撃する。

カモシダは激しい痛みに悶絶し、拘束への抵抗力が弱まる。

 

 

 

「ちなみに、一番汚い声をあげさせた奴が優勝よ。さ、次は誰?」

 

 

 

 そう言ったシェズの前に、眉根を寄せた竜司が前に出る。

 

 

 

「シェズさん、俺達は真面目に怪盗やってんスよ。優勝とか、そういうのは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――で、優勝賞品は何すか!?

 

「そうね……ベレスの個人授業とか、どう?」

 

「乗ったぁ!!」

 

 

 

 ガッツポーズをキメた竜司が、カモシダへつかつかと歩み寄る。

 

 

 

「や……やめろ、やめてくれぇ、坂本……り、陸上部のことは、謝るから……」

 

 

 

 まだ鈍い痛みが続いているのか、息も絶え絶えのカモシダが竜司を必死の形相で止める。

 

 

 

「謝られたって俺の気持ちは晴れねぇな。てめーが潰した俺の脚で、てめーのナニを潰すってのはいい意趣返しだと思わねー?」

 

「やめろぉ!! 男のお前なら分かるだろ!? これが潰れたら、俺の人生の楽しみが――」

 

 

 

 同情を誘うカモシダの言葉は、竜司には――

 

 

 

「てめーの人生に楽しみなんていらねぇだろ。人をいたぶるのが趣味のクソカス野郎がよぉッ!!

 

 

 

 もちろん届くはずもなく、勢いよく蹴り上げた竜司のつま先がカモシダの金的に突き刺さる。

 

 

 

「おごっ、いぃぃぃぃ……!!」

 

 

 

 あまりのするどい痛みにカモシダは白目を剥き、口から泡を吹く。

 

 

 

「やべ、死んだ?」

 

「大丈夫、まだ生きてるわ。起きなさいカモシダ、気絶なんて許さないわよ」

 

 

 

 シェズがカモシダの頬を引っぱたいて強制的に覚醒させる。

 

 

 

「ベレスは参加しないの?」

 

「私? どうしようかな。賞品が私じゃ、メリットないし……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひぎぃぃ!?」

 

 

 

 ベレスはコメントも予備動作もなく、流れるように股間を強烈に蹴り上げた。

 

 

 

「意外とスッキリするね」

 

「でしょ? 次は誰がやる?」

 

 

 

 残り3人にシェズが順番を振る。

 

 

 

「ワガハイとヴァイオレットは直接的な恨みはないからな……」

 

「そうですね……。でも、まぁ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤信号みんなで渡れば怖くないって言いますしね?」

 

「ここで引くのは悪党らしくねぇよな! やるぞ、ヴァイオレット!」

 

「はい!」

 

 

 

 構えをとり、モルガナとかすみは連続でカモシダの股間を狙い撃ち、蹴り上げる。

 

 

 

「あがっ、ふごぉ!!」

 

 

 

 カモシダはもはや人間の言葉を発せず、痛みにリアクションを返すだけの人形のようになっている。

 

 

 

「うーん、いまいちですね」

 

「だいぶ痛みに慣れてきてんじゃねぇか? ジョーカー、あとは任せたぜ」

 

 

 

 モルガナは最後に残ったジョーカー、雨宮に最後のバトンを託す。

 

 

 

「……カモシダ、起きろ」

 

「ぁ……な、何だ……も、もう十分だろ……?」

 

 

 

 カモシダはか細い声で雨宮を諫める。

 

 

 

「いいや、こんなものじゃないはずだ。鈴井や、バレー部員の受けた苦痛は。

改心して、罪を償っても……お前が奪い、失ったものは戻ってこない。

 

きっちり潰させてもらう。司法は初犯には甘いからな……執行猶予がつく可能性もある。

それじゃ誰の気も晴れない。悪党らしく、お前を私刑に処すことにする」

 

 

 

 雨宮は長い脚を高く上げる。かかと落としの体勢だ。

 

 

 

「やめろ……やめてくれぇぇぇぇぇ!!

 

「お前の歪んだ欲望の象徴を――頂戴する」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴッ、という鈍い音と共に――ぶちゅん、と何かが潰れる音がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぎゃぁぁぁあぁぁあぁぁああぁぁあぁぁ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カモシダは、青い顔をしながら現実の鴨志田へと戻っていった。

 

 

 

「優勝は雨宮くんね。異論は?」

 

「ないよ。それよりシェズ、パレスではコードネームで呼んでほしい」

 

「コードネーム? そういや変な名前で呼び合ってたわね……」

 

「シェズのコードネームも決めないとね……まぁ、今度でいいか」

 

 

 

 二人がそんな話をしていると、パレスを激しい振動が襲う。

 

 

 

「な、何だ!?」

 

「パレスの主が『改心』されていなくなったからな。パレスは存在意義がなくなったんだ。崩壊するぜ、急げ!!」

 

「そういうことは早く言えっての!!」

 

 

 

 大急ぎでパレスを脱出し、その日はそれで解散となった。

*1
敵1体に物理属性の中ダメージ 高確率で眩暈

*2
敵1体に3-4回万能属性の中ダメージ




次回は少しお時間をいただくことになりそうです。1週間ぐらい……?
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