秀尽学園の非常勤講師、ベレス   作:女主人公スキー

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お待たせしました。


episode2 怪盗団『ヴィジランツ』本格始動-虚飾編-
14.学生の本分を全うせよ


「先生からアジトに集合しろって、珍しいよな」

 

 

 

 5月6日、放課後。

怪盗団のメンバー5人はLINEでベレスからアジト(ルブラン)へ呼び出されていた。

 

 

 

「そうだな……」

 

「なんか大物の悪人でも見つかったとか? どう思うよ、蓮」

 

「たぶんそういうんじゃないと思うが……」

 

 

 

 雨宮は何かを察しているが、竜司は怪盗絡みの何かだと思っているようだ。

 

 

 

「ところで蓮よぉ……何でお前、俺の腕掴んでんの?」

 

「竜司は引き摺ってでも連れて来い、って先生が言ってたからな……」

 

「何だよそれ。どゆこと?」

 

「まぁ、行けば分かる」

 

 

 

 雨宮はそのまま竜司を連れて、ルブランの店内に入る。

 

 

 

「佐倉さん、ただいま」

 

 

 

 常連客がいるだけの店内で、雑誌を読みながら佇むルブランの店主で、雨宮の保護司である佐倉惣治郎に声をかける。

 

 

 

「おう。先生と友達はもう来てるよ。あまり騒がしくするなよ?」

 

「はい」

 

「失礼しゃっす」

 

 

 

 そのまますたすたと店内を抜け、屋根裏へあがる。

そこではベレスと、杏とかすみが待ち構えていた。

 

 

 

「来たね。それじゃ、早速はじめようか」

 

 

 

 屋根裏部屋の真ん中に、どこから用意したのか大き目の机が設置されている。

そして、その上には教科書と参考書の類がどっさりと置かれていた。

 

 

 

「……悪い。俺、用事思い出したわ」

 

 

 

 踵を返し、帰ろうとする竜司の腕をベレスと雨宮が掴む。

 

 

 

「逃がしちゃだめだよ、雨宮くん」

 

「はい……」

 

 

 

 遂に羽交い締めで拘束された竜司は遂に観念して座り込んだ。

 

 

 

「さて。学生の身分であるキミ達にとって、一番重要なことは何かな?」

 

「怪盗で世直し!」

 

 

 

 竜司がせめてもの抵抗とばかりに答えを返すが、ベレスは黙って首を振る。

 

 

 

「もちろん、学業だ。特に坂本くんと高巻さんは一年次の成績が良くない」

 

「ゔっ」

 

「かすみは平均より上をキープしているんだったね?」

 

「はい。コーチからも学業を疎かにするなって言われてるので」

 

「雨宮くんはどうだったの?」

 

「中の上から上の下、ってとこです」

 

「じゃあ、わりと優等生ではあるね。わかる範囲で、3人を教えてあげて」

 

「わかりました」

 

 

 

 ベレスはそれぞれの得意・苦手教科と習熟レベルに合わせて参考書を配る。

 

 

 

「気が乗らないだろうけど、怪盗団のためでもあるんだ。怪盗団の活動開始から、急激に成績が落ちた生徒がいたら警察はどう思う?」

 

「それは……怪しいですね。もちろん、それが証拠にはならないでしょうが」

 

「余計な疑いをもたれないためにも、成績は維持か上向いたほうがいい」

 

 

 

 竜司は目の前に置かれた参考書に、「うぇっ」と露骨に嫌そうな顔をするも頬を叩いて気合を入れる。

 

 

 

「しゃーねぇ、やるか……」

 

「分からないところがあったら遠慮なく言っていいよ。それじゃ、はじめ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 1時間後、勉強会は小休止に入る。

 

 

 

「佐倉さんにコーヒーを入れてもらったよ。17時までは頑張ろう」

 

 

 

 ベレスが1階からコーヒーを持って上がってくる。

 

 

 

「うっす、あざす」

 

「ミルクとか砂糖も貰ってきた。欲しい人は言ってね」

 

「あ、じゃあください!」

 

 

 

 雨宮とベレス以外は皆ミルクを入れて、コーヒーを口に運んでいく。

 

 

 

「おいしっ」

 

「うま~……やっぱプロが淹れると違うね」

 

「だな。あと1時間半……なんとか頑張っか。つっても全然頭に入っていかねーけど」

 

 

 

 竜司は参考書の問題と解答のページを交互にめくりながら、頭をひねる。

 

 

 

「今はどの教科を?」

 

「歴史っす。俺、覚えるの一番苦手なんすよね……」

 

 

 

 そう言って、竜司はコーヒーを一口すする。

 

 

 

「そんなことないよ。皆と東大生で、脳の性能に差はないはず」

 

「つっても、結果として俺は赤点ギリギリなんすけど……」

 

「それは坂本くんが歴史に興味がなくて、無理矢理覚えようとしてるからだよ。

人間は興味があればわざわざ時間をとって勉強しなくても覚えられるように出来てる」

 

「そんなもんっすかねぇ……」

 

 

 

 まだ納得のいっていない様子の竜司に、ベレスは何か思いついて再度口を開く。

 

 

 

「じゃあ、試してみようか。クイズを出すから、分かった人は答えて」

 

「突然のクイズ!?」

 

「面白そう! 息抜きにもなるし、いいじゃん」

 

 

 

 少し間を置いて、ベレスが問題を読み上げる。

 

 

 

「問題。女子マラソンで金メダルを獲得した日本人選手をすべて答えなさい」

 

「『高橋尚子』と『野口みずき』っすよね。この2人しかいないはず……」

 

 

 

 竜司がさらっと答える。

 

 

 

「正解。続けて問題。ファッションショーでモデルが歩く細長い舞台のことを何という?」

 

「『キャットウォーク』!! 常識でしょ」

 

 

 

 今度は杏が食い気味で答えた。

 

 

 

「正解。じゃあ次いくよ? 問題。新体操が正式にオリンピックの種目になったのは何年?」

 

「意外と最近なんですよね。確か、『1996年』……だったかと思います」

 

 

 

 かすみが冷静に思い返しながら答える。

 

 

 

「正解。次が最後だ……問題。パレスで戦った敵シャドウ「アガシオン」「バイコーン」「ベリス」の弱点をそれぞれ答えなさい」

 

「アガシオンが風、バイコーンが電撃、ベリスが氷結……ですよね?」

 

 

 

 雨宮が少し自信なさげに答える。

 

 

 

「正解、さすがリーダーだね」

 

「何で俺だけパレスの問題なんですか……」

 

「だってキミ、部活入ってないし……私に関するクイズのほうがよかった?」

 

「……からかわないでくださいよ」

 

「ごめん。ともかく、これで私の言いたいことはわかったと思う」

 

 

 

 ベレスが全員を見回して言う。

 

 

 

「それぞれ、わざわざ勉強して得た知識ってわけじゃないはずだ。

自発的に調べたり、ニュースや友人との会話で耳に入ってた。そんな感じじゃないかな。

自然な形で浸透して、定着した記憶として残ってる。だからすぐに答えられたんだ」

 

「……じゃあ何すか、東大行くような連中は勉強に興味があるってことすか?」

 

「そう。正確には、知識や教養を身につけることが楽しい、って感じかな」

 

 

 

 ベレスは更に続ける。

 

 

 

「そういう人たちは授業の時間だけで大体覚えられる。だからテスト前は殆ど確認作業だけでいい。

その分、数学とか覚えるだけじゃない教科へ時間を割ける」

 

「授業、真面目に聞いたことなんてねぇな……そりゃ差が出るわけだ」

 

「中間試験や期末試験は、授業を聞いてれば解けるはずの問題しか出さないから、耳を傾けたほうがいい。

その上で、興味を持てればより頭に入ってくると思う。難しいだろうけど……」

 

「うん……でも、しっかり授業聞かなきゃって思ったよ。時間もったいないしね」

 

 

 

 杏が真面目な顔でうんうんと頷く。

 

 

 

「勉強はいつでもできるけど、大人になったら自分で時間を捻出しないといけない。

時間を気にせずに出来るのも、知識を吸収しやすいのも今だけだ。頑張ろう」

 

「はい。ご助力、お願いします」

 

「頑張りましょう、坂本先輩! 高巻先輩!」

 

 

 

 再び、勉強会が再開される。

時折、ベレスや雨宮に質問を交わしながら、静謐な時は流れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 勉強会の後、客のいなくなった店内で再びコーヒーと会話を楽しんでいた。

 

 

 

「なーんか、頭よくなった気がするわー!」

 

 

 

 ぐっと伸びをして開放感に浸る竜司に、杏がツッコむ。

 

 

 

「調子に乗りすぎ。ちゃんと家でも勉強しないとすぐ忘れるくせに」

 

「お前もだろ~? まぁ興味持てない以上、反復して覚えるしかねーよな……」

 

 

 

 竜司がガクッと肩を落として溜め息を吐く。

 

 

 

「先生、この勉強会はまたやってくれるんですか」

 

 

 

 ふと雨宮がベレスに訊ねる。

 

 

 

「そうだね……テスト直前にもう1回ぐらいは」

 

「ありがとうございます。それまでは自宅で勉強します」

 

 

 

 全員、コーヒーを飲み終えたところでベレスが立ち上がる。

 

 

 

「それじゃ、そろそろ解散しよう。佐倉さん、今日はありがとう」

 

「こちらこそ、うちの蓮が世話になってるようだしな。また来なよ」

 

「はい、それでは……行くよ、みんな」

 

 

 

 ベレスが連れ立って、雨宮以外の3人と共に去っていく。

 

 

 

「いい先生だよな。人気があるのも頷ける」

 

 

 

 帽子を手にとって、惣治郎は店を後にする。

 

 

 

「店じまいと後片付けしといてくれ。じゃあな――ああ、それと、ここの鍵を渡しておく。戸締りは任せたからな?」

 

 

 

 そう言い残して、店のカギをカウンターに置いて惣治郎は去っていく。

そして、それと入れ替わるようにモルガナが入って来る。

 

 

 

「蓮、勉強会は終わったのか?」

 

「ああ。モルガナも居てよかったのに、どこ行ってたんだ?」

 

「散歩だよ、散歩。ワガハイが居てもしょうがないだろ? 勉強も必要ないしな」

 

「そんなこと言ってると、竜司のほうが頭よくなるかもしれないぞ?」

 

「なっ……それは嫌だな」

 

「だろ? 次はモルガナも居てくれ俺と先生だけじゃ手が回らなくてな。猫の手も借りたいんだ」

 

「だから、猫じゃねーって!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 5月7日、放課後。

中庭のベンチで『怪盗お願いチャンネル』を閲覧していたベレスに、生徒会長――新島真が話しかけてきた。

 

 

 

「ベレス先生。今、お時間いいですか」

 

「いいよ。どうしたの?」

 

「先生、昨日ルブランで雨宮くん、坂本くん、高巻さんと1年の芳澤さんと一緒に居ましたよね?」

 

「そうだけど……何で知ってるのかな?」

 

「えっと、それはですね……その」

 

「ひょっとして……尾行でもしてたのかな?」

 

 

 

 ベレスが指摘すると、真は慌てて冷や汗を流す。

 

 

 

「……すみません! 私、怪盗事件を個人的に調べてて……それで」

 

「私や雨宮くん達が怪しいと?」

 

「いえ、まだそこまでは……ただ、あの3人は鴨志田先生とトラブルを抱えてました。

前にも聞きましたが、そんな3人とベレス先生が親密にしてるのが気になって……」

 

「そう……でも、昨日は私の提案で中間試験に備えた勉強会をしただけだよ。

気になるなら他の4人に聞いてもいい。ルブランのマスターも証人になるかな?

あんなことがあって、学業に集中できなかっただろうし。珍しく暇そうだったから、芳澤さんも誘ってね」

 

「……そうなんですね」

 

「納得できた?」

 

「ええ、まぁ……」

 

 

 

 そう言いながらも、真の眉根は寄ったままだった。

まだ疑いは晴れてないだろうが、完全に晴らすのは無理だ。

このまま泳がせておくしかないが、逆にもう少し踏み込んでみてもいいかもしれない。

 

 

 

「まだ気になるのなら……よければ新島さんも参加してくれないかな?」

 

「えっ?」

 

「私と雨宮くんだけじゃ教えるのも限界があってね。次は試験直前にするつもりなんだけど、どうかな」

 

「……いいんですか?」

 

「もちろん。手伝ってくれるならとても助かるよ」

 

「分かりました。私で力になれるなら……」

 

「ありがとう。その時になったら声をかけるから、予定空けておいて」

 

 

 

 この判断が吉と出るか、凶と出るかは分からない。

だが、試験には良い結果として返ってくるのは間違いない。

 

 

 

「それじゃ、私は帰りますね」

 

 

 

 真がぺこりとお辞儀をして去っていく。ベレスは小さく手を振り、真を見送る。

再びスマホを開き、『怪盗お願いチャンネル』をスクロールしていく。すると……

 

 

 

「……これにしようか」

 

 

 

 

 

 

 

 


 

【ベレス先生を囲う会】

 

 

ベレス『NO.xxxの依頼、これを受けようと思う。どうかな?』

 

 

竜司『元カレがストーカーか……いんじゃね?』

 

杏『放っといたらやばそうだし、異議なし!』

 

雨宮『同じく』

 

かすみ『いいと思います。今日行くんですか?』

 

 

ベレス『うん。でも行くのは私と雨宮くん(とモナ)だけだ。他は勉強しておくこと』

 

 

竜司『そんな! 先生の鬼、灰色の悪魔!』

 

杏『それ罵倒になってなくない?』

 

かすみ『分かりました! お気をつけて!』

 

雨宮『了解。駅で待ってます』

 

 

ベレス『それと、次の勉強会は新島さんも参加してもらうから。ボロを出さないようにね』

 

 

竜司『マジ!?』

 

杏『怪しまれてるから逆にってこと?』

 

かすみ『確か、3年生で学年1位って聞きました。充実した勉強会になりそうですね!』

 

雨宮『成績アップ間違いなしだな』

 

竜司『前向きだな、お前ら! まぁお手並み拝見といくか』

 

杏『先生、話変わるんですけど、相談いいですか?』

 

 

ベレス『いいよ。どうかした?』

 

 

杏『実は最近、誰かの視線を感じることがあって……』

 

雨宮『まさか、生徒会長?』

 

杏『たぶん、男だと思うからそれはないかな』

 

竜司『ストーカーか?』

 

杏『そんなに頻繁じゃないから。駅とか、人の多いとこで見られてる感覚があって……』

 

 

ベレス『何だろう、気になるね。念のため、防犯グッズを用意しておこうか』

 

 

杏『そうします。何かあったらまた相談させてください』

 

 

ベレス『分かった。気をつけてね』

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同日、メメントス。

『怪盗お願いチャンネル』に書かれた依頼は以下の通り。

 

 

 


 

『元カレがストーカー化して困ってます。助けてください。

この前は家の前で待ち構えてました。そのうち押し入ってくるかも……。

名前は『中野原夏彦』です。区役所の窓口係やってる男です。お願いします!』

 


 

 

 

「ジョーカー、モナ、準備はいい?」

 

「はい」

 

「いつでもいいぜ!」

 

 

 

 モルガナがバスに変身し、メメントス内を駆け回る。

うろつくシャドウを蹴散らしながら、シャドウ中野原の居所を探る。

 

 

 

「雨宮くん、勉強は順調?」

 

 

 

 運転しながら、ベレスが雨宮に話しかける。

 

 

 

「ええ、まぁ。俺は授業、まじめに受けてますから。内容は大体頭に入ってますよ」

 

「へぇ……そうなの? モナ」

 

『まぁな。ワガハイの助言もあるが、教師に回答振られても間違えたことはないぜ』

 

「それはすごいね。流石リーダー」

 

「先生、今の左に曲がったところじゃないですか?」

 

「え、本当? ちょっと待って、Uターンするから」

 

 

 

 ベレスは急いでハンドルを切り、勢いよくUターンする。

 

 

 

『いてててッ! 擦ってるぞおいッ、こんな狭い通路でUターンするな!』

 

「ごめんごめん、でもここみたいだよ。行こうか、準備は?」

 

「万全です」

 

「よし、行くぞ! 久々の仕事だ、気合入れてけ!!」

 

 

 

 3人揃ってシャドウ中野原の空間へ転がり込む。

その奥に、黒い瘴気をまとったシャドウ中野原が静かに佇んでいた。

 

 

 

「なんだ、お前ら……まさか、噂の怪盗団か!」

 

 

 

 シャドウ中野原は3人の姿を認めると、警戒の姿勢をとる。

 

 

 

「元カレにしつこく付きまとっているそうだな」

 

「一方的に別れを告げられたんだ……俺はまだ納得いってない。

あの女……俺のモノだったのに勝手に離れていきやがって……!!」

 

 

 

 シャドウ中野原の身勝手な主張に、ベレスは肩を竦める。

 

 

 

「そういう態度だから別れを告げられたんじゃないかな。改めたほうがいい」

 

「うるさいッ!! 俺だってあの殿()()()()にモノ扱いされてきたんだ!

同じことをして何が悪いって言うんだ……!」

 

「いや、同じことしたら悪いだろ……ってか殿様野郎って何だ??」

 

 

 

 モルガナが聞くと、シャドウ中野原は何か思い出したのか感情を爆発させる。

 

 

 

()()()()だッ!! 俺なんかより、アイツのほうがずっと悪人だ!!

俺じゃなくて、アイツを改心しろよッ!! 俺からすべてを奪ったアイツを!!」

 

「マダラメという悪人、確かに気になるが……それとこれとは話が別だ」

 

「まずはキミが改心してからだ」

 

「その歪み始めた欲望、頂戴するぜ!!」

 

 

 

 3人が武器を構えると、シャドウ中野原は正体を現す――

 

 

 


 

みんないっしょうけんめいたたかっている!

 


 

 

 

 戦闘はあっさり終わり、シャドウ中野原は元の姿に戻る。

 

 

「俺、本当は画家になりたかったんだ……だけど、悪い師匠に作品を奪われて……!

でも、だからって人に迷惑をかけるのは間違ってたよ……」

 

「悪い師匠――それが、例の『マダラメ』か……」

 

 

 

 シャドウ中野原の身体が薄くなっていく。

 

 

 

「そうだ、『斑目一流斎』――近々個展を開くあの日本画家界の巨匠だよ……。

お前ら、悪人を改心させられるんだよな? だったら頼む、アイツを改心させてくれ!

今も被害に遭ってる弟子がいるんだ……あいつを、助けてほしい……」

 

 

 

 そう言い残してシャドウ中野原は消え、オタカラの芽が残った。

雨宮はそれを掴み取り、懐にしまう。

 

 

 

「……斑目一流斎、か。この名をこんな形で聞くことになるとは」

 

「まさか……知り合いですか」

 

 

 

 ベレスは静かに頷く。

 

 

 

「昔、美大志望の生徒を受け持ったことがあってね。

それで、絵の練習をしてたら見かねた斑目さんがアドバイスをくれたんだ。知り合いと言ってもその程度だけど」

 

「そりゃ、向こうは覚えてるかビミョーなレベルの知り合いだな」

 

「覚えてないと思うよ。でも、その時は良い人に見えたけどな……」

 

 

 

 ベレスは首をひねるが、悪人は善人ぶるのも得意だったりするものだ。

一度会っただけの印象などアテにはならないということだろう。

 

 

 

「とりあえず戻りましょうか」

 

「そうだね……」

 

 

 

 3人はメメントスから脱出し、駅前に戻る。

 

 

 

「斑目さんの件は八神さんに調べてもらうよ。キミはテスト勉強に集中、いいね?」

 

「はい。お願いします」

 

「悪いな……お金とか大丈夫なのか?」

 

「貯金は結構あるから、気にしなくていい。それじゃ、今日は解散だ」

 

 

 

 

 新たな大物の改心対象の登場に心をざわつかせながら、その日は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして3日後の5月10日。

怪盗団のいつもの面々に加えて、生徒会長の新島真を加えた勉強会がはじまった。

 

 

 

「それじゃ、新島さんは高巻さんと芳澤さんを見てあげて。私は雨宮くんと坂本くんを見るから。

もちろん、手に負えないときは私も手伝うよ。いいかな?」

 

「はい、わかりました。えっと……高巻さん。芳澤さん、よろしくね」

 

 

 

 真はそう言って、杏とかすみの正面に座る。

 

 

 

「あ、はい。よろしくお願いします」

 

「新島先輩、今日は来てくださってありがとうございます! どうぞよろしくお願いします!」

 

「それじゃ、高巻さんから見ていくわ。芳澤さんは自習しておいてくれる? 分からないところがあったら、聞いてくれていいから」

 

「はいっ」

 

「なんか、緊張するなぁ……」

 

 

 

 緊張からか背筋を伸ばして、杏が問題集を解いていく。真はそれを静かに眺め、手が止まれば助言をする。

その様子を見てベレスは微笑み、自分は竜司と雨宮へ向き直る。

 

 

 

「それじゃ、私達もはじめようか。まずは前回の復習から」

 

「うっす……」

 

「頑張れよ、竜司。先生を独占できる機会なんてそうそうないぞ」

 

「それもそうだな……っし、いっちょやったりますか!!」

 

 

 竜司は吠えて、鉛筆を勢いよく掴み取るが……1問目で筆が止まる。

ベレスは内心溜め息を吐きつつ、竜司に懇切丁寧に指導していくのだった。

 

 

 

  ・

 

  ・

 

  ・

 

 

 

「杏殿、ここ間違ってるぞ」

 

 

 

 じっと杏の様子を見ていたモルガナが前足で間違いを指摘する。

 

 

 

「え、うそ! ホントだ……ありがと、モルガナ」

 

 

 

 杏がうっかり会話してしまうのを見ていた真は怪訝な顔をする。

 

 

 

「貴女、猫と会話できるの?」

 

「えっ!? そんなわけないですよ……たまたまです、たまたま」

 

 

 

 杏は冷や汗をかきながら何とか取り繕う。

 

 

 

「そうよね……それにしても、あなた賢いのね」

 

 

 

 真はモルガナの頭を撫でる。

 

 

 

「ニャァ~……あっぶねぇ」

 

 

 

 モルガナはどうにか誤魔化せたことに安堵し、そこからは大人しく猫でいることにしたのだった。

 

 

 

  ・

 

  ・

 

  ・

 

 

 

「みんな、お疲れ様」

 

 

 

 終了後、6人は客の居なくなった店内で雨宮の淹れたコーヒーをご馳走になっていた。

 

 

 

「雨宮くんは問題なし。坂本くんは何とか平均点ぐらいは取れるかな。悪くても赤点はない。新島さん、そっちはどう?」

 

「はい、高巻さんもそれぐらいはいけるかと。芳澤さんは上位を狙えるかもしれません」

 

「そう、よかった。ありがとう新島さん、助かったよ」

 

「いえ、私もいい経験になりました。それに、疑いも少し薄まりました」

 

 

 

 真はそうこぼすと、コーヒーに口をつける。

 

 

 

「疑い?」

 

 

 

 脳が限界を迎えつつある竜司が、朦朧とした頭で訊き返す。

 

 

 

「こっちの話よ、気にしないで。それじゃ私はこれで失礼しますね」

 

「うん、また明日」

 

 

 

 真はベレスに頭を下げると、ルブランから出て行った。

 

 

 

「あー……疑いってあれか。俺らが怪盗団じゃねーかって……」

 

「気付いてなかったのかよ……」

 

「しょうがねぇだろ、珍しく脳みそフル回転させたんだからよ」

 

 

 

 竜司がぐでっとソファーにもたれかかる。

 

 

 

「みんな、今日は早めに寝ること。勉強はもうしなくていいから、頭を休めてね」

 

「はーい、てか言われなくても今日はもうムリ」

 

「ですね……でも、かなり自信がつきました」

 

「確かにな。何つーか、充実感があるわ。今までは憂鬱なだけだったけど、ちっとだけ楽しみですらある」

 

 

 

 どうやら、それぞれ今回の勉強会で得るものがあったようだ。

 

 

 

「ハマったか……勉強に」

 

 

 

 くいっとメガネを光らせながら、雨宮が呟くが……

 

 

 

「「それはない」」

 

 

 

 竜司と杏が声をハモらせて否定される。

 

 

 

「さて、帰ろうか」

 

 

 

 ベレスはコーヒーを飲み干し、席を立つ。

 

 

 

「ベレス先生、今日はありがとうございました!」

 

 

 

 かすみがビシッと90度にベレスにお辞儀をする。

遅れて、他の4人も頭を下げる。

 

 

 

「「「「ありがとうございました!」」」」

 

「結果を楽しみにしてるよ。みんな、がんばってね」

 

 

 

 こうして2度目の勉強会は終わる。

そして翌日からいよいよ中間試験が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

【雨宮】

 

(いい調子だ。これなら学年上位は確実……と思いたい)

 

 

【竜司】

 

(よし、回答欄は全部埋まったぜ……あとはなるようになれ!)

 

 

【杏】

 

(まだ時間あるし、見直しとこ。目指せ平均点以上!!)

 

 

【かすみ】

 

(いつもよりスラスラ解ける気がする。あ、これ勉強会でやったところだ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 5月14日、中間試験はすべて終了した。

ベレスは再び怪盗団の面々をルブラン屋根裏のアジトへ招集する。

 

 

「試験結果の発表は20日の予定だけど、私は教師だから知ることができる。

――といっても流石にさっきの今ではまだ採点は終わってないから、大まかな結果だけどね」

 

 

 

 そう言って、ベレスはそれぞれの結果を発表する。

竜司は数学が少し平均を下回ったが、それ以外は平均前後。

杏は見直しが功を奏したのか、全体的に平均を僅かに上回った。

かすみは全教科平均点を10~20点ほど上回る好成績だった。

 

 

 

「雨宮くんは、上位20人以内は間違いない。10位以内かどうかは、採点しないと分からない」

 

「でしょうね。20日を楽しみにしておきます。約束、守ってくださいね」

 

「それはお互いにね。さて、話は変わるけど次の改心対象(ターゲット)について話しておこう」

 

 

 

 ベレスがそう切り出すと、竜司がガタッと音を立てて立ち上がる。

 

 

 

「見つかったんすか!? 次の大物の悪人が……!」

 

「うん。雨宮くんは知ってるけど――次の改心対象(ターゲット)は『斑目一流斎』だ」

 

 

 

 そう言って、ベレスは机の上に調査資料を並べ始めたのだった。




オミットした丸喜のエピソードは次の14.5話で。

また、一部サブタイトルを変更し、章分けをしております。
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