■ コープ『審問官』 丸喜拓人 ■
5月13日、秀尽学園にスクールカウンセラーが赴任してきた。
鴨志田教諭の事件を受けて校長が招聘した。名前は丸喜拓人。
丸喜は試験終了後、鴨志田との関りが深かった者へカウンセリングを受けるよう、声をかけていた。
それに応え、メンタルトレーニングの教授を取引し、雨宮がカウンセラー室へ足を踏み入れていた。
話題は多岐に渡り、鴨志田とのこと、前歴のこと、学生生活のこと……。
丸喜としては、カウンセリングし甲斐のある経歴だと思っていたが、どうやら雨宮は心に傷を負っていることはないようだ。
鴨志田にしても前歴にしても、憤りは感じつつもそれはもう終わったことだと切り替えができている。
通常、この年齢でそこまでの達観は得られないが、友人の存在――それと、彼女の影響が大きいのかもしれない。
「経歴を聞いて心配していたけど、取り越し苦労だったみたいだね。学生生活が充実してるようで、何より」
「充実……そうですね。少なくとも退屈はしてません」
「理不尽も刺激と考えれば悪くない?」
「いえ、そこまでは。理不尽はないに越したことはないです」
「はは、だよね」
丸喜はそう言って、空になった飲み物を注ぐ。
「ベレス先生に色々世話になってるんだって?」
「ええ、まぁ。勉強を見て頂いたぐらいですが……」
「彼女の前の職場でも僕はカウンセラーをしていてね。そこからの付き合いなんだ。彼女、教育熱心だよね」
「はい、とても……。俺が会った中で、一番尊敬できる大人だと思います」
「彼女の存在が、キミの心の土台を支えている……そんな気がするな。良いことだけど、依存しないように気をつけて。
ベレス先生は強い人だけど、完璧ってわけじゃない。凭れかかるばかりじゃ、良い関係とは言えないよ」
「肝に銘じておきます」
その後、雨宮は丸喜に約束通りメンタルトレーニングを教わった。
雨宮が帰った後も、生徒が何人か訪れ……丸喜が帰り支度を始めた頃、ベレスがカウンセラー室へ入ってきた。
「邪魔するよ……っと、今日はもう帰り?」
「うん、そうだよ。まだ全員は診れてないけどね。流石に人数が多くて……」
「だろうね。大変だろうけど、頑張って。被害の度合いは様々だけど、皆傷ついてるはずだから」
「分かってる。やれるだけのことはやるつもりだよ」
そう言って、カバンを背負った丸喜はカウンセラー室を後にして、ベレスもそれに続く。
「そういえば、芳澤さんの様子はどうかな」
丸喜が振り返って問うが、ベレスは首を振る。
「あまり芳しくはない。思うような成果が出てないみたいだ」
「そうか……」
「そもそもうまくいくはずがない。自分を見失っていては、身体はついてこれない」
「……うん。特に新体操は繊細な競技だ。影響は大きいだろうね……」
ベレスは丸喜を追い越して、正面から向き合う。
「だったら、もうあんなことはやめるべきだ……違う?」
「悪いけど、カウンセラーとして彼女が深く傷つく可能性があることを実行に移す気はないよ」
「でも――」
食い下がるベレスを振り払うように、丸喜はベレスの横を通り過ぎる。
「残酷な真実と優しい嘘なら、僕は後者を選ぶ。間違っているとしても、僕の信念は曲げない」
「乗り越えられるとは思わない、と?」
ベレスは立ち止まったまま、遠ざかる丸喜の背中へ問いかけた。
「ゼロとは言わない。でも僕の見立てでは乗り越える前に潰れる。それよりは、今のほうがまだ救いがある……と思うよ」
「……分かった。私も彼女を追い詰めるのは本意じゃない」
「ありがとう。それじゃ、また明日」
ベレスはそのまま、姿が見えなくなるまで丸喜を見送っていた。
■ 終 ■
■ コープ『道化師』 RANK2 シェズ ■
中間試験の5日前。
今日は図書室で勉強していくつもりで、雨宮は廊下を歩いていた。
ふと、窓の外を見てみると校門前にどこかで見た紫髪の女性が立っていた。
「……シェズさん?」
ベレスを待っているのか、と思い様子を観察していると、気付かれて目が合ってしまう。
見ているのが雨宮だと見るや、シェズは手を振って「こっちに来い」と手招きしてくる。
「仕方ない、行くか……」
フゥと溜め息をついて、階段を駆け下りて校門前へ向かう。
シェズは対面の建物に寄りかかって待ち構えていて、雨宮を認識するとこちらに近づいてきた。
「悪いわね、来てもらって」
「今日は勉強するつもりだったんですけど……」
予定が狂って不機嫌な様子を隠さない雨宮を、ベレスが手で制する。
「大丈夫よ。勉強会の直前に、ベレスがつきっきりで見てくれるらしいから」
その言葉に雨宮は目を見開き、数秒喜びを噛みしめて――シェズに向き直りニッコリと微笑む。
「――それで、何の用ですか? 気が済むまで付き合いますよ」
「あんたって、ベレスのことになるとちょっと気持ち悪くなるのが玉に瑕よね……」
シェズはじとーっと半目で睨みながら、口を開く。
「前に紹介してくれた花屋のバイト、あんたの名前出したら一度あんたと一緒に来てほしいって。
その日の仕事ぶりを見て判断するんだって言われてね。ってわけで、一緒に来て」
「なるほど、そういうことなら喜んで」
「助かるわ。それじゃ、行きましょうか」
二人は連れ立って駅地下モールへ移動していく。
10分ほどで着くと、従業員用の勝手口を開けて花屋のバックヤードに入る。
「店長、お疲れ様です。雨宮です」
「失礼しまーす……」
二人が扉を開け、声をかけると女性の店長は作業を止めて振り返った。
「雨宮くん、来てくれたのね。それで、その人が……?」
「はい、この前紹介したシェズさんです」
「シェズです。よろしくお願いします」
シェズは違和感のない流麗な日本語で自己紹介して、頭を下げる。
「敬語とか使えたんですね」
「はっ倒すわよ? ……傭兵なんて粗野なだけじゃまともな仕事もらえないんだから」
「そういうものですか」
そう言えば――シェズは日本へ来たばかりなのに、ベレスと同じぐらい日本語を喋れている。
恐らくは彼女を呼んだという神とやらが何か便宜を図ったのだろう。
「外国人って聞いてたけど、日本語が上手ね。それに美人」
「ありがとうございます。バイト初めてなので、フォローお願いします」
「もちろん。それじゃ、まずは制服に着替えてもらおうかしら」
店長とシェズは連れ立ってロッカールームへ向かう。その間に雨宮もロッカーへ向かい着替えを済ませる。
バックヤードに戻って、改めて店長から仕事の説明を受ける。
「――って感じ。どう、いけそう?」
「接客とレジは大丈夫だと思います。でも、花の知識は……」
今まで花を愛でるような女らしい人生を歩んでいないこともあり、不安を滲ませるシェズ。
「そこは俺や店長がフォローすればいいので大丈夫です。シェズさんは接客に集中してください」
「助かるけど……それだけでいいの?」
「十分十分。それじゃ、早速店に出てみましょうか」
――シェズの接客:老婆編――
人の良さそうな老婆が入店してくる。
「いらっしゃいませー」
シェズはゆっくり近づき、接客をはじめる。
「お客様、どんなお花をお探しでしょうか?」
「えぇと、実は孫が今度結婚するの。それで、花束を渡してあげたくて」
「それはおめでとうございます。ええと、結婚式の花束でしたら――」
片耳につけたイヤホンから、スマホの通話機能を使って雨宮から助言が飛んでくる。
「――白いバラなどがおススメですが、お孫さんの好みの花があればそちらもご用意できますよ」
「好みは分からないわねぇ……花は嫌いじゃないと思うけど、自分で買って愛でるほど好きじゃないかもしれないわ……」
「でしたら――ブリザードフラワーやアレンジメントフラワーがおススメですよ。どちらも花瓶なしで飾ることができます」
「そうなの? じゃあ、そうしようかしら。お見積りしてもらえる?」
「はい、ありがとうございます! 少々お待ちください」
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「ありがとうございましたー! またのご利用お待ちしてます」
シェズはお辞儀をして、店先で老婆を見送る。
「最初にしては上々じゃないですか。この調子ですよ」
後方で見守っていた雨宮が声をかける。
「どうも。助かったわ……便利ね、これ」
懐に入れたスマホ(店長のもの)と耳につけたワイヤレスイヤホンを指して呟く。
「ベレス先生ならサブのスマホ持ってるかもしれないし、今度は貸してもらってください」
「そうね。自分のないと店長一人の時は使えないし、今度聞いてみる」
「それじゃ、次は呼び込みやってみましょうか」
――シェズの接客:呼び込みで男子ホイホイ編――
シェズは店先に立って通行人に花屋を宣伝する。
「お花はいかがでしょうかー。手頃な値段の花もありまーす。贈答用、観賞用にいかがですかー」
騒音にならない程度の声で呼びかけるが、結果は芳しくない。
シェズの容姿に目を惹かれる者はいるが、花は生活必需品ではないので必要がなければ買うことはない。
「ねぇ、花屋ってこういう呼び込みするの?」
「通常しないですね。さっきみたいに来た客に対応するのが普通です。でもシェズさんなら何とか呼び込めると思いまして」
「……買い被りすぎよ。でもまぁ、やるだけやってみるわ」
引き続き、呼び込みを続けるシェズ。そこに、1人の高校生らしき男子が通りがかり……ふと、シェズと目が合う。
シェズはここぞとばかりに男子にウインクをして、手を振ってみせると男子の足が止まり、シェズに近づいてくる。
「お姉さん、見ない顔だよね。もしかして、外国の人?」
「ええ。今日はじめてのバイトなの。よかったら何か買っていってくれない?」
本来は年下であろうと敬語を使うべきだが、雰囲気的にタメ口のほうがいいと思いそのまま続けていく。
「えー……でも花なんか興味ないっすよ」
「じゃあ、気になる女子に贈ってみるとかは? そういうコ、いないの?」
「いますけど、花贈るとか流石にキモくないっすか?」
「相手の子が花好きなら全然アリじゃない? でも、まぁ分からんでもないわね。それじゃ――」
再び、イヤホンから雨宮の助言が飛んでくる。
「お母さんに贈るのはどう? 先週母の日だったけど、どうせ何も贈ってないんでしょ?」
「決めつけないでくださいよ~。まぁ贈ってないっすけど……でも、今持ち合わせが少ないっすけど」
「カーネーションの1本ぐらいは買えるでしょ。ほら、入って入って」
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「ありがとうございましたー! またのご利用お待ちしてます」
シェズは頭を下げて男子を見送る。その背後で雨宮が、店長とこそこそと話す。
「店長、いけますね」
「ええ……看板娘シェズ、ここに爆誕よ!!」
「何の話してんのよ……」
シェズの物珍しさもあり、その日の売り上げは通常の1.5倍だったという。
バイトが終わり、給料を受け取りシェズはホクホク顔で帰路についた。
「今日はありがとね、蓮。そういや、傭兵の戦闘術を教えるって話だったっけ」
「ええ、そういう取引でしたね」
「今教えてあげるわ。蓮、私に殴りかかってきなさい」
周囲に人がいないことを確認して、蓮は言われた通りにシェズへ殴りかかる。
それを、シェズは手にしたカバンで防御し、完璧なタイミングで攻撃を弾く。
「これが『ジャストガード』よ。敵に見つかった時、うまくこれを決めれば
ただし、警戒度は上がったままだから注意しなさい。あくまで戦闘を対等にできるってだけ」
「ありがとうございます。ちょっと練習が必要ですが、役立ててみせます」
「ん、頑張りなさい。それじゃ、また明日」
「はい、また明日」
【コープ『道化師』のランクが2に上がった。パレスで『ジャストガード』を使えるようになった】
■終■
■ コープ『永劫』 RANK2 ベレス ■
中間試験の2日前。
放課後、雨宮は再びベレス達のアパートを訪れていた。
インターホンを押すと私服のベレスが迎えてくれる。
「先生……私服可愛いですね」
「ありがとう。何だかキミ、シルヴァンみたいになってきたね……」
「誰ですか、そいつ……」
知らない男の名前を出され、眉根を寄せる雨宮。
「生徒の1人だよ。学級が違うけど、軟派な子でよく絡まれたんだ」
「俺は先生一筋ですから、そいつとは違いますよ」
「そうかな……まぁ、そういうことにしておくよ。とりあえず、入って」
ベレスに連れられてリビングに入る。そこには既に教科書や問題集などが机に置かれていた。
以前はここにシェズもいたのだが、今日はその姿はない。
「今日はシェズはいないよ。気を利かしたのか出かけていってね」
「先生と二人きり……ですか」
雨宮はポーカーフェイスを貫きながらも、内心喜びに打ち震える。
「勉強に集中できないようなら、その窓から放り出すから」
「……ここ3階ですけど」
「怪盗団のリーダーなら、大丈夫でしょ」
「ひどい無茶ぶりだ……分かりました。先生にそんなことはさせませんから、安心してください」
「その意気だ。それじゃ、はじめようか」
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【雨宮の知識パラメータが大幅アップ! 「物知り」→「インテリ」に昇格した!】
「ここまでにしようか。ここまでやれたら、学年トップも夢じゃないと思う」
「ありがとうございました。充実した時間でした……」
雨宮は息を吐いて、メガネを外して汚れを拭き取る。
「まだ明日の勉強会もある。私としては、そっちが本番だ」
「……教師としては、やっぱり出来の悪い生徒のほうが気になりますか?」
「まぁそうだね。杏や竜司のほうが伸び幅は大きいから、楽しみでもある」
「先生の視線を独占したいんですが、どうしたらいいですか」
「……目を離せない存在ではあるよ。良くも悪くも」
「俺ほど真面目な生徒もいないと思いますが――
先生のためなら改善するので、悪いところがあるなら教えてください」
「……そういうところだよ」
ベレスはふぅと息を吐いて立ち上がる。
「せっかくだし、晩御飯も食べていく?」
ハンガーにかけたエプロンを手に取って、雨宮に振り返る。
「是非――何なら手伝いますが……」
ベレスの純粋な手料理と、好感度を稼ぐことを天秤にかけ、後者が優った。
「座ってていいよ。頑張ったキミへのご褒美だ」
「わかりました。じゃあ、お待ちしてます」
ベレスはエプロンを身につけ、キッチンへ向かっていく……。
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「ごちそうさまでした。美味しかったです、先生」
「口に合ったようで何よりだよ。たぶん、シェズのほうが美味しいと思うけど」
「だとしても、先生のほうが美味しいです」
「だとしてもはおかしいでしょ……」
ベレスは食器を片付け始め、雨宮もそれを手伝う。
洗い終えると、雨宮は帰り支度をはじめる。
「それじゃ、今日はありがとうございました。また明日、学校と勉強会で」
「うん。試験結果楽しみにしてるよ。頑張って」
「はい。それじゃ、お邪魔しました」
【コープ『永劫』のランクが2に上がった。パレスでピンチに陥った時、ベレスが助けに入ってくれるようになった】
■終■