秀尽学園の非常勤講師、ベレス   作:女主人公スキー

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15.虚飾の美術館①

「――次の改心対象(ターゲット)は『斑目一流斎』だ」

 

 

 

 ベレスはそう宣言して、カバンから調査資料を取り出した。

 

 

 

「先生、まだ候補です」

 

「そうだったね。全会一致したら正式に決定だ」

 

 

 

 ベレスは調査資料を机に広げていく。

事情を知らない面々は、まず斑目の写真を目にする。

 

 

 

「誰だよこのジジイ」

 

「マダラメ……ってどっかで聞いたような」

 

「確か、どっかで個展やってましたよね? 画家の先生だったはずです」

 

「ってことは結構有名人ってことか! なぁ、詳しく教えてくれよ先生!!」

 

 

 

 竜司の声が大きくなるのを手で制し、ベレスは資料の一つを拾い上げて読み上げる。

 

 

 

「『斑目一流斎』。男性、65歳。日本画界の巨匠で、代表作は『サユリ』。

慈善活動家としての側面を持ち、各地の児童養護施設に多額の寄付をしている。

自身も裕福な家庭ではなかったことから、貧しさから絵画の道を諦めざるを得ない若者を弟子にとり、その夢を支援している」

 

 

 

 ベレスはそこまで言って息を吸った。

 

 

 

「良い人じゃん」

 

「立派な人に見えるね、ここだけ聞けば」

 

「何か、裏の顔があるんですか?」

 

 

 

 かすみの質問に答えるために、もう一つの資料を読み上げる。

 

 

 

「『斑目』の元弟子の1人、中野原夏彦の証言によると――ある時期から斑目は弟子の作品を盗作している。

弟子の殆どは親類がいない。その為斑目に生殺与奪を握られている状態で、逆らうことはできず泣き寝入りを余儀なくされている。

 

もちろん弟子は斑目の元を離れていくが、画家を続ければ斑目の妨害に遭い大成は出来ず――

画家を諦め、普通に働くにしても社会経験も学歴もないとなると就職先は厳しいものになる。

 

今回の調査で確認できた弟子20名の内、画家を続けている者が2名。画家を諦め普通に働いている者が8名。

行方不明5名、自殺者が4名。今も斑目の弟子を続けている者が1名と判明している。詳細は別紙参照」

 

 

 

 ベレスが淡々と読み終えると、竜司が机をドンッと叩く。

 

 

 

「クソが……! 弟子を取ってた理由はそれかよッ!!」

 

「自殺した人が4人も……最悪」

 

「これが事実ならとんでもない悪人ですね……」

 

 

 

 それぞれがリアクションを返す中、モルガナが冷静に質問する。

 

 

 

「それで、盗作の証拠は見つかったのか? ベレス」

 

 

 

 ベレスは黙って首を振る。

 

 

 

「連絡の取れた弟子たちから証言は取れたみたい。でも証拠はない、恐らく隠滅された。つまり――」

 

「立件するには、斑目自身に罪を告白してもらうしかない」

 

 

 

 雨宮が続けると、ベレスは頷いた。

 

 

 

「そういうことだ。さて、皆どうする? 今回はキミ達とは無関係の相手だ。そしてたぶん、パレスがあるタイプだ。

メメントスの依頼とは危険度が段違いだけど……それでも『改心』するの?」

 

 

 

 ベレスは全員を見回して、改めて覚悟を問う。

 

 

 

「当たり前だろ! こんな奴野放しにしてたまるかよ!!」

 

 

 

 竜司が吼える。

 

 

 

「まだ弟子やってる人がいるんだよね? なら、その人だけでも助けないと」

 

 

 

 杏が決意に燃える。

 

 

 

「私も手伝いたいです。夢を奪われて、命も絶った人もいる……そんなの、許せません!」

 

 

 

 かすみが叫ぶ。

 

 

 

「怪盗団『ヴィジランツ』の名乗りを上げるに相応しい悪人だな。そう思うだろ、蓮?」

 

 

 

 モルガナが雨宮の肩に乗って問いかける。

 

 

 

「ああ。相手にとって不足はない。必ず改心させよう、俺達の手で!」

 

 

 

 雨宮が全員に呼びかけると、全員が頷く。

 

 

 

「これで、全会一致だね。決まりだ――次は『斑目一流斎』を改心させる」

 

 

 

 ベレスはそう言って、調査資料を紙袋に戻していく。

 

 

 

「それで先生、もうパレスに行くのかよ? これだけ資料あるなら行けるよな?」

 

「そのつもりだよ。可能なら、本人と接触しないまま改心したいからね」

 

「リスクを減らす、ってことだな?」

 

 

 

 モルガナの問いに、ベレスは同意する。

 

 

 

「鴨志田の時は日数制限もあって大変だった。トラブルも嫌だけど、パレス攻略のリスクは可能な限り減らしたい」

 

「確かに、ゆっくり攻略できるに越したことはない」

 

 

 

 雨宮がそうこぼすと、全員が頷く。

 

 

 

「つっても、こんだけ人数もいるし先生や(今日はいないけど)シェズもいるんだぜ? かなりイージーモードって気がするけどな」

 

「そういう油断が危ないんだ。せっかくだし、打ち上げの日にあったことを共有しておこう」

 

 

 

 竜司を窘めて、ベレスは『獅童正義』のパレスに3人で入った時のことを皆に話す。

 

 

 

「ヤバ……シェズさん居なかったら死んでたんじゃ」

 

「獅童のパレス……そんなにやべぇのかよ」

 

 

 

 壮絶な鉄火場に杏と竜司が絶句する。

 

 

 

「斑目のパレスにそういう相手がいないとは限らない。油断は厳禁だよ」

 

 

 

 ベレスは改めてパレスの危険性を訴える。

 

 

 

「俺も、あんな思いはもうしたくないですね。みんな、命懸けということを再認識してほしい」

 

 

 

 雨宮が総括して、全員が頷いた。

 

 

 

「よし。それじゃ、行こうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 同日(5月14日)、都内近郊にある小さなあばら家のような木造の2階建ての一軒家。

ここが斑目一流斎の住居兼アトリエだ。

 

 

 

「ここが? けっこうボロいな。広さはそこそこだけど」

 

「イメージ作りの一環なのかも。豪邸よりは印象いいじゃん?」

 

「なるほど。ありそうな話ですね……」

 

「金は持ってるはずだよ。複数の弟子の面倒を見れる程度には」

 

「それで、先生。キーワードは判明したんですか?」

 

 

 

 雨宮が切り出すが、ベレスは首を振る。

 

 

 

「さすがにまだだよ。1人で行くわけにもいかないし。でも、鴨志田や獅童のパターンを考えれば――」

 

「本人や、本人の認知と関係ある施設ってとこですか? 美術関係とかですかね?」

 

「今個展やってるんだっけ? 『展覧会』とか、どう?」

 

 

 

 杏が呟くが――イセカイナビは反応しない。

 

 

 

「じゃあ、『画廊』とかですかね?」

 

 

 

 かすみが発した単語にも、イセカイナビは反応しない。

 

 

 

「シンプルに『美術館』でいいんじゃないか」

 

 

 

 雨宮がそう呟くと、イセカイナビが反応を返し――ナビゲートをはじめる。

視界が歪んで景色が切り替わり――あばら家のアトリエが金ピカの悪趣味な美術館に変貌する。

虚飾の美術館、マダラメ・パレスが怪盗団の前に現れた。

 

 

 

「んだこりゃ……やべぇ」

 

「美術館か。怪盗らしくなってきたじゃねーか」

 

 

 

 姿を変えたモルガナが短い腕を振り回してやる気を漲らせている。

 

 

 

「無茶はさせないけど、可能な限り潜入ルート開拓を進めたい。ジョーカー、指揮は任せたよ」

 

「はい。侵入できそうなのは――」

 

 

 

 壁際に停車したトラックから、壁を登れそうだ。

一同は順番に壁を登り、オブジェが立ち並ぶ庭へ降り立つ。

そこからオブジェの上を渡っていき、美術館の1階部分の天窓に辿り着いた。

 

 

 

「ここからいけそうだけど、少し高いな」

 

 

 

 天窓から地面までは5mほどの高さがある。下りるだけなら問題ないが、戻ってこられないのはまずい。

 

 

 

「こんなこともあろうかと、ロープを用意しておいたぜ!」

 

 

 

 モルガナがそう言って、取り出したロープをしっかりと柱に結んで天窓から室内へ垂らしていく。

一体どこに仕舞ってたのかという疑問を胸にしまいつつ、一同は館内に降りていく。

 

 

 

「中は普通の美術館っぽいな。見ろよ、絵が飾られてるぜ」

 

 

 

 10代から20代と思われる男女の巨大な肖像画が、いくつも並んでいた。

額縁の下には名前と年齢が書かれている。この肖像画の人物のものだと思われるが……。

 

 

 

「これは……斑目の弟子みたいだ」

 

 

 

 ベレスは調査資料の写真を思い返し、そう推察する。

この弟子たちは師と仰いだ斑目に着想を盗まれ、ほとんどは画家の道を諦めざるを得なくなったのだ。

 

 

 

「許せねぇな……てか、どういうつもりで飾ってんだ? 斑目は」

 

「わかんないよ。コレクションとか、そんな感じじゃない?」

 

「感謝の表れ……かもしれないよ。彼らの着想のおかげで、斑目はこれまで以上の名声を得たわけだから」

 

 

 

 かつての斑目と、調査資料を元にベレスが考えを述べる。

 

 

 

「どっちにしろクソじゃねーか」

 

「会ってないのに考察しても仕方ないけどね。先を急ごう」

 

 

 

 シャドウを警戒しながら先に進む。しばらく同じ光景が続き……ある絵の前でベレスが足を止める。

 

 

 

「この子……『喜多川祐介』が今も斑目の元で修行しているっていう弟子だ」

 

 

 

 絵にはスラッとした長身の男子が克明に描かれている。

繊細で堅物な性格が表情から伝わってくるような絵だ。

 

 

 

「この絵、他のと比べて何か違う気が……解像度って言うんですかね?」

 

「確かに、なんかクオリティたけぇ気がすんな」

 

 

 

 かすみと竜司の疑問にベレスが答える。

 

 

 

「彼は赤子の頃から斑目と一緒にいるらしいからね。過ごした年月の違いが出てるのかも」

 

「なるほどな……斑目にとっては我が子も同然ってとこか。だが、コイツからも盗作してるんだよな?」

 

「恐らく。でも、八神さんも彼とは接触できなかったらしいから、詳しくは分からないよ」

 

 

 

 ベレスはそこで話を打ち切り、移動を促す。

が、杏がなぜか絵の前から動かずじっと眺め続けていた。

 

 

 

「どうかしたか、パンサー?」

 

 

 雨宮が話しかけると、杏がぼそっと反応を返す。

 

 

 

「この人、どっかで見かけたことがある気がして……」

 

「そうなのか? でもまぁ同じ都内にいるんだし、そういうこともあるだろ」

 

「たぶん、すれ違ったとかじゃないと思うんだけど……まぁいいや。ごめん、先進も!」

 

 

 

 杏は思い出すのを諦め、駆け足で少し先で待つ一行に追いつく。

怪盗団はさらに先へ進み、今度はエントランスに足を踏み入れる。

 

 今のところ、シャドウの姿はない。

モルガナによれば、本人と会ってないことでパレスの警戒が緩くなっている可能性が高いという。

少し不気味に思ったが、好都合とばかりに進めるだけ進んでいくことにする。

 

 『無限の泉』と題された胸糞の悪いオブジェを通り抜け、最初のセーフルームに到達する。

シャドウも罠の類もなく、スルスルと先へ進んでいく。

そして辿り着いた大き目の部屋では、真ん中に黄金の壺が鎮座していた。

 

 

 

「おい、この壺を――」

 

 

 

 壺に飛びつこうとするモルガナを、ベレスが首根っこを掴んで止める。

 

 

 

「あからさまに罠でしょ。落ち着いて」

 

「あ、あぁ……そうだな。悪い、どうかしてたぜ」

 

「気になるなら、次の機会でね」

 

「分かった。足止めちまってすまねぇ」

 

 

 

 2つ目のセーフルームを抜けると、ちらほらとシャドウが現れはじめる。

腕試しがてら、すべて倒していくことになった。

それぞれの担当する属性で弱点が突けるシャドウもいれば、ジョーカーでなければ弱点を付けないシャドウも出てきた。

シャドウ自体も強くなってきており、苦戦とまではいかないが消耗はいつもより激しい。

 

 

 

「ジョーカーの負担が大きくなっちゃうね……大丈夫?」

 

「問題ない……が、コーヒーを増産しておこうか」

 

 

 

 汗を拭いながら、別のシャドウと戦うベレスとかすみの様子を伺う。

かすみが銃でシャドウの弱点を突くと、凶魔シャドウにベレスが戦技を叩き込む。

一撃で凶魔シャドウが弾けて爆発し、戦闘が終了する。

 

 

 

「やっぱつえーな……」

 

「ああ……流石先生(マスター)だ」

 

 

 その後、一同は中央庭園に辿り着く。

その先の建物――看板によると『宝物殿』――は赤外線センサーで完全に塞がれていた。

解除しようにも、施錠された柄つきの奥の扉を抜けた先にある警備室に行く必要があるようだ。

 

 

 

「……これ以上は進めないね。どうしようか……」

 

「たぶん、この扉は斑目にとって誰にも入らせたくない部屋の扉なんだと思う。

『斑目以外は入れない・入ったことがない』という認知がある限り、この扉が開くことはないぜ……」

 

 

 

 立ち尽くすベレスにモルガナが考えを述べる。

 

 

 

「つまり、どうすればいい?」

 

「言葉にするならシンプルだぜ? 現実のその扉を開けて中に入ればいい。

ただし、本人が見てる状態じゃないとダメだけどな……ちなみに扉の鍵はワガハイがこじ開けれるから、そこは心配いらないぜ」

 

「ということは、斑目に直接会う必要があるのか……」

 

「……秘密裏に改心するのは無理そうですね」

 

 

 

 本人が入らせないようにしている部屋に踏み入るのは、どう考えても穏便には終わらない。

改心のためにはある程度のリスクを許容するしか道はないようだ。

 

 

 

「出直すしかないね。今日はこれで解散しよう」

 

「斑目にどうやって接触するか、策を練らねーとな……」

 

「なるべく穏便にいきたいけど、難しいよね」

 

「だろうな。だが、改心に成功すれば問題はない」

 

 

 

 雨宮は目の前に立ちふさがる閉ざされた扉を一瞥して、踵を返す。

本日のパレス攻略は終わり、怪盗団は現実へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 斑目のアトリエ前を後にして、帰りの駅に向かう途中のこと。

坂本とかすみは先に帰り、雨宮とモルガナ、ベレスと杏の4人は労をねぎらって喫茶店で一息ついていた。

 

 

 

「ルブランほどじゃないが美味いですね」

 

「そうだね……どうかしたの、高巻さん」

 

 

 

 コーヒーに舌鼓を打ちながら他愛もない会話を楽しむベレスだったが、そこで杏がさっきから窓の外を気にかけているのに気付く。

 

 

 

「いえ……あの、あそこにいる人ってもしかして――」

 

 

 

 杏が指差した先にはどこかで見たような、線の細い青年がスケッチブックを持って鉛筆を走らせていた。

 

 

 

「――喜多川くん?」

 

「なんか、こっちをチラチラ見てる気がしません?」

 

「描いているのかもな、俺達を」

 

「いや、あの感じ……描いてるとしたら杏殿じゃないか? 杏殿だけ窓際だし、こっちには目もくれてないぞアイツ」

 

 

 

 喜多川はこちらをじっと見つめ、スケッチを続けるが……納得いくものができなかったのかページを捲り、頭を抱える。

 

 

 

「どうします、先生。接触してみますか?」

 

「そうだね。まずは外堀から埋めていこうか……支払いはしておくから、皆先に行って」

 

 

 

 3人は席を立ち、ベレスに支払いを任せ喜多川の元へ向かう。

まず杏が喜多川の前に立つと、存在に気付いた喜多川が顔をあげる。

 

 

 

「キミは……!」

 

「――そうだ、思い出した! あんた、私に付きまとってた奴!!」

 

「付きまとうとは心外だな。俺はキミという優れたモデルを見つけて、人間観察をしていただけだ」

 

「それが付きまといだって言ってんのよ!!」

 

 

 

 杏が怒って詰め寄ろうとするのを、雨宮が肩を掴んで止める。

 

 

 

「落ち着け。別に彼も害意があったわけじゃないんだし」

 

「そうだけど……」

 

「何だ、お前は」

 

 

 

 喜多川は不機嫌そうに雨宮を睨む。

 

 

 

「名乗るならまずお前からだ。それとも、ストーカー君と呼ばれたいのか」

 

「……喜多川祐介だ。画家を目指していて、絵のモデルを探していた」

 

「そうか。俺は雨宮蓮」

 

「私は高巻杏だよ」

 

 

 

 自己紹介を終えると、祐介は立ち上がって雨宮に詰め寄る。

 

 

 

「それで、お前は高巻さんの彼氏か何かか?」

 

「いや、違う、だが……大事な友人の1人だ」

 

「そうか……なら問題ないな。高巻さん、どうか俺の絵のモデルになってほしい!」

 

 

 

 祐介は杏の手を取って、頭を下げて懇願する。

その際に持っていたスケッチブックが落ちて、先程まで描いていたスケッチが杏の目に入る。

 

 

 

「うわ、上手っ」

 

 

 

 そこにはデッサン段階ではあるものの、緻密に描かれた杏の絵が描かれていた。

祐介はそれを拾い上げ、カバンにしまう。

 

 

 

「見苦しいものを見せてしまったな。実は、人物画は練習中なんだ。専門は抽象画や風景画だが、少し行き詰っていてね」

 

「これで練習中……? すご……」

 

「それで、どうかな。モデルの話、引き受けてくれないか?」

 

 

 

 突然の話に困惑する杏だが、改心の件を考えれば受けない手はない。

ちらっと雨宮のほうを見ると、雨宮は黙って頷く。

 

 

 

「わ、わかった。いいよ」

 

「本当に!? ありがとう……! ちなみに、俺が描きたいのは裸婦画なんだけど問題ないよね」

 

「ら……裸婦画!? ぬ、ヌードってこと!?」

 

 

 

 祐介の衝撃的な発言に、一歩後ずさる杏。

 

 

 

「もちろん。人物を表現するには生まれたままの姿が一番わかりやすいんだ。

勘違いしてもらっては困るんだが、わいせつな目的では断じてない。芸術を追及するためなんだ!」

 

「曇りのない眼をしているな……どうする、杏?」

 

 

 

 雨宮に問われた杏は唇をわなわな震わせて叫ぶ。

 

 

 

「ふ、ふざけんなっての! 受けるはずないでしょ、そんなの!! ナシナシ、今の話はナシだから!!」

 

 

 

 杏は激昂して、そっぽを向いて帰ろうとする。それを、雨宮が腕を取って止める。

 

 

 

「気持ちは分かるが、これを逃せば接触するのはかなり難しくなる……頼む」

 

「そ、そんなこと言われたって……ヌードだよ!? 嫌に決まってんじゃん……」

 

「何も馬鹿正直にヌードにならなくていい。モルガナが扉をこじ開けるまで時間を稼げばいいんだ」

 

「でも……あ」

 

 

 

 雨宮と杏がひそひそと話していると、支払いを終えたベレスがこっちに向かって来ていた。

 

 

 

「どういう状況?」

 

「実は……」

 

 

 

 雨宮が簡単に経緯を説明する。

 

 

 

「なるほど、わかった。高巻さん、大丈夫。無理しなくていいよ」

 

「う、うん。でも、だったらどうやって……」

 

 

 

 杏の疑問には答えずに、ベレスは祐介の前に立って――

 

 

 

「そのヌードモデルの話、私じゃダメかな?」

 

 

 

 驚きの提案をしたのだった。

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