通風孔を抜けるとそこは小さな小部屋だった。敵の姿はない。
棚から地面へと降り立ったベレスはそのまま部屋の扉を開ける。
扉の向こうの小さな廊下にも敵影はない。
(地下牢はどこだろう……)
このまま闇雲に進んでも辿り着ける自信はない。
一番手っ取り早いのは敵に場所を聞くことだ。出来れば騒ぎにならない方法で。
(少し進んでみて、孤立してる手頃な兵士を探してみよう。
……だけど、そうなると武器が欲しいな。素手でも戦えはするけど)
敵から情報を得る=脅すにはやはり武器は必要だろう。
素手だと首を締めるとかになるが、あのフルプレートの兵士に通用するかは疑問だ。
もう一つの手段は……下手すれば一撃で倒してしまう。わざと外したら敵の反撃を許すだけ。
なので、出来れば刃物や銃が理想だが……。
(銃……銃か。そういえば岩井にもらったアレがあったな)
4年前、教員免許取り立ての頃。
生徒がヤクザに因縁つけられて拉致された時、事務所に押し入ろうとしたことがあった。
その時、岩井という元ヤクザの男がふらっとやってきて、うまく場を収めてくれた。
今は渋谷のセントラル街でミリタリーショップを経営している。
開店祝いに訪れた時、「護身用に持っとけ」と渡されたモデルガン風のスタンガンがカバンに入っていた。
(これならいけるかもしれないな)
スタンガンを懐にしまって、音を立てないように先へ進む。
侵入者騒ぎのおかげか、地下牢方面に警備が集中しているらしい。
2つ目の扉を開くと、武器庫か兵舎のような場所に出る。
そこに一体の兵士が立っていた。所在なげに佇んでいるだけで、警戒心は薄い。
更に追加の侵入者が来ているとは考えもしていないのだろう。
『チャリン』
と硬貨を適当な場所に投げ、敵兵の注意を引く。
敵兵の視線と意識が逸れた瞬間、ベレスは素早くその背中に回り込む。
「? ……今、なにか――」
敵がベレスの気配に気が付くが、時既に遅し。ベレスは敵兵の背中にスタンガンを押し付けて、
「えい」
バチバチッ、と火花が散るほどの電撃が敵兵の身体に駆け回る。
≪HOLD UP!≫
「――動くな」
「っ!? な、何者だ……」
「質問するのはこちらだよ。地下牢はどこにある?」
「……ここの反対側だ。正面ホールの向こう側にある」
「あそこを通らないといけないのか……困ったな。どうしよう」
「な、なぁ……正直に喋ったんだ。命だけは……」
「悪いけどまだダメ、もう少し手伝ってもらうよ。とりあえず――」
ベレスは銃を背中につきつけたまま、兵士を正面ホールまで歩かせる。
「このままゆっくり歩いて向こう側の扉まで頼むよ。私はキミの後ろに隠れて進むから」
「わ、分かった……」
焦る気持ちはあるが、ここでバレてしまっては後が苦しくなるのは自明だ。
ゆっくりと冷静に、敵兵と歩調を合わせて正面ホールを抜けていく。
多少怪しまれはしたが、短い距離ということもありどうにか切り抜けることができた。
「も、もういいだろ!?」
「うん、そうだね。ご苦労様――おやすみ」
ベレスは無慈悲に引き鉄を引くと、再び電撃が敵兵を襲う。
敵兵はガシャンと倒れ伏すと、そのまま動かなくなった。
(死んではいないと思うけど……ん、そういえばこの仮面……)
ふと気になった兵士の仮面。そういえばどの兵士も仮面をつけていたことを思い出した。
先を急ぐべきだが、何となく気になって兵士の仮面を剥がしてみる。
するとバシュゥ!と音を立てて鎧が崩れ去り、代わりに2本の角を持った馬が現れた。
と思ったらそのまま音もなくその身体も崩れていった。
「人間じゃないのか……」
なら容赦しなくていいか、とベレスはもう深く考えることをやめる。
(先へ進もう)
*
急ぎつつも、敵兵から隠れながらこっそりと進んできた。
ようやく地下牢のエリアに降りてくることができた。
可能な限り急いだが、侵入から既に10分経過している。
(流石に厳しいか……? いや、生きていると信じよう)
身体能力に任せて細かいギミックは無視し、地下牢を見て回る。
「……何だ、これ」
ある地下牢の中を覗くと、そこではバレー部員と思われる学生がボロボロの姿で倒れている。
「キミ、大丈夫?」
声をかけてみるが、反応はない。死んではいないようだが……。
(確か……この子はちゃんと登校していたはず。ここにいるはずは……。
可哀想だけど、助ける手段もない……先を急ごう)
関係のなさそうな地下牢は無視して駆け抜けていくと、背後から声をかけられる。
「おい、おい!!」
「……?」
ベレスは声の主に探す。どうやら敵兵ではないようだが、見当たらない。
「下だよ下! 目線を下げろ!」
「下? ……あ」
目線を下げると、そこには牢屋の中に猫のような生き物がいた。
仮面を被っている、
「猫だ。魚あげたいな……ってあれ? 声かけたの、もしかして……」
「ワガハイだよ! それと、猫じゃねー!!」
「猫じゃないんだ……」
ベレスはがっくりと肩を落とす。
「悪いけど、猫じゃないなら話は後でね。今は急いでるんだ」
「はっ? ま、待てって。猫でいいから話を聞け!」
「うん、何かな? もしかして牢から出してほしいってこと?」
「話が早くて助かるぜ。お前、パレスに侵入したのは初めてだろ? 手助けしてやるぞ」
「侵入したくてしたわけじゃないよ。何か変なアプリが起動して、景色が切り替わったんだ」
「アプリだと?」
「そうだよ。『イセカイナビ』だったかな」
「『イセカイナビ』……お前らはそうやって入るんだな」
「キミは違うの?」
「ワガハイはそういうのなくても入れるぜ。すごいだろ?」
フフン、と鼻を鳴らす猫(?)。
「すごいね。牢屋に入ってなかったらもっとすごかったけど」
「うぐっ……」
「これ、カギがないと開かないよ……悪いけど――」
「待て、これを使え」
そう言うと、猫(?)は牢屋の隙間から何かの道具を渡してきた。
「これは?」
「キーピックだ。使い方を教えてやる――」
1分ほどかかって、猫(?)はようやく牢屋から出ることができた。
「ふぅ……ねぇ、このキーピックで牢屋にいる他の生徒もあとで助けたいんだけど、いいかな?」
「いや、あれは認知存在……偽者だから助ける意味はないぜ」
「認知存在……? よく分からないけど分かった。
――ところでキミ、名前は? まだないならつけてあげるけど」
話しながら、ベレスは二人を探すため再び走りだし、猫(?)も追いかけてくる。
「モルガナだ。お前は?」
「ベレス。ねぇ、高校生の二人組見なかった?」
「見たぜ。この先の牢屋に連れていかれたはずだ」
「分かった。急ごう」
ベレスはペースを上げようとするが、突然ブレーキをかける。
「敵か?」
「うん。しかも扉の前に陣取ってる。戦わないと通れそうにない」
「ベレスは戦えるのか?」
「自信はあるよ。でも武器がこれしかない。拳闘の心得もあるけど」
言いながら、ベレスは懐から拳銃型スタンガンを取り出す。
「銃……いやスタンガンか。悪くないけど、他にはないか?」
「ない……かな」
「武器っぽいものなら何でもいいんだ。ミニチュアとか、模造品でもいい。何かないか?」
「ミニチュアか……それならあるかも」
そう言ってカバンから細長い箱を取り出して開ける。
中には銀色に輝く剣と、片刃がギザギザになった意匠の凝った剣。
それぞれ全長10㎝ほどのミニチュアサイズの剣だ。
「それは?」
「傭兵時代に使ってた剣……のミニチュアかな」
「傭兵!? それにこの時代に剣をメインに使ってたのか??」
「そのへんはややこしいから聞かないでくれるかな。それで、これが武器になるの?」
「ああ。この世界は『認知世界』だ。
モデルガンでもミニチュアでも、それが本物に見えれば本物の武器になる」
「……なるほど?」
「水鉄砲が拳銃になることはないが、精巧に似せられたモデルガンなら拳銃として使える。
認知ってのは言い換えれば『思い込み』だ。真実が何であれ、『どう見えるか』が大事なんだ」
「思い込み、か……」
「お前がこれを使ってた頃をイメージしてみろ。上手くいけばその動きにくそうな服装も変わるぜ」
「確かに、スーツだと戦いにくいね。これ結構高いし、破れたら面倒だ」
そう言ってベレスは目を閉じてフォドラにいた頃の自分をイメージする。
更に言えば、あの剣――『天帝の剣』を手にし、『ソティス』と融合したあの頃の自分を。
ぶわっ、と炎のようなものがベレスを包んだかと思うと、ベレスの姿が変化する。
黒い
ベレスの『いつもの戦闘服』だ。
「おおっ……な、なんか、その……刺激的だな」
「そう?」
そして、手には銀の剣が握られている。
もう一つの剣――『天帝の剣』もしっかり元に戻っている、がこちらは鞘にしまっておく。
「よし……これで戦える」
「ベレス、お前『ペルソナ』は?」
「『ペルソナ』?」
「持ってないか。でもこの程度の敵なら問題ない」
「よく分からないけど――行くよ」
ベレスとモルガナは敵兵の前に躍り出る。
「貴様ら、侵入者か!? ここは通さん!!」
敵兵の仮面が剥がれ、正体を表す。
カボチャ頭のランプを持った亡霊のような姿。
「こいつはワガハイに任せろっ! 来い、『ゾロ』――」
モルガナが何かをしようとする前にベレスが猛スピードで敵へ駆け出す。
そして、手にした銀の剣でランタン男はいとも容易く一刀両断されてしまう。
「――へ?」
「なにぼけっとしてるの? 先へ急ごう」
*
少し進むと、敵兵が集まっている牢屋があった。
「……いた」
目を凝らすと牢屋の中で金髪の男子が敵兵に拘束されているのが見える。
「坂本くん……それにあれは……鴨志田?」
鴨志田は中世の王様がつけるようなマントを裸で羽織り、頭には王冠をつけている。
まさに『お城の王様』といったような格好だ。
「そぉれ! クズがっ!! ゴミ虫め!!」
鴨志田は拘束された竜司を殴りつけ、『処刑』しようとしていた。
それを見てベレスは助けに入ろうと足を踏み出す。
「待て! 敵の数が多い、今は様子を見るべきだぜ」
「生徒が傷つくのを黙って見てろと?」
「そうじゃねぇ。敵が警戒してる最中に突っ込んで、人質に取られたらどうすんだ!?」
「……キミ、意外と冷静だね」
「意外とは余計だ。とは言え、どうしようもなくなれば突っ込め。
お前が暴れてる間にワガハイが何とかしてやる」
「分かった。頼らせてもらうよ、モルガナ」
「ああ――ってちょっと待て。様子がおかしい」
今まさに処刑されようとしている竜司。そして壁に押し付けられている転校生――雨宮。
状況は最悪のように見えたが、その転校生の様子がおかしい。
「ふざけるなっ……!」
雨宮が竜司の処刑を止めようと叫ぶ。
「何だと……? そんなに先に死にたいか」
処刑の切っ先が雨宮に向かう。
「よし……なら死ね」
鴨志田が顎で兵士に雨宮の処刑を命じる。
兵士が剣を振り上げた時、いつの間にか雨宮の顔に『仮面』が張りついていた。
「!?」
雨宮がその仮面を力任せに引き剥がすと、血が流れると共に青い炎が立ち上る。
そして――雨宮の服装が漆黒の怪盗を思わせるそれに代わり。
さらに、何かが彼の背後に現れ立つ。
『我が名は逢魔の掠奪者『アルセーヌ』! 我はお前に宿る反逆者の魂。
お前が望むなら、難局を打ち破る力を与えてやってもいい――』
「何でもいい、その力を寄越せ!」
『良かろう――!』
アルセーヌと名乗った存在が、雨宮の意志に呼応して動き出す。
「貴様は一体……!? 兵隊ども、こいつから片付けろ! 殺してしまえッ!」
鴨志田がそう叫ぶと、次々と兵隊たちがその正体を現していく。
*
「あれは一体……」
ベレスが目の前の現象を処理できずに思わず呟く。
「あれが『ペルソナ』だぜ! あいつ、この土壇場で覚醒しやがった!」
「ペルソナ……?」
「説明は後だ! それより今がチャンスだぜ!!」
「そうだね、行こう!」
ベレスは敵兵、そして鴨志田と思われる城主が混乱の隙をつき、地下牢の中へ雪崩れ込む。
「なっ――」
驚愕の顔で固定された鴨志田を通り過ぎ、まずは竜司の近くの敵を斬って捨てる。
「坂本くん、無事?」
「んなっ……べっ、ベレ先!?」
竜司はベレスの突然の登場と、その服装に釘付けになっている。
「転校生――雨宮くんも無事で何より。それ、ペルソナって言うんだって」
「ペルソナ……ですか。ところで、貴女は……」
「名前はベレス。秀尽で非常勤講師やってるから、よろしくね。
ペルソナについてはあの猫が後で教えてくれるみたい」
ベレスが指差した先で、モルガナが敵と戦う構えに入る。
「来いっ――『ゾロ』ぉ!!」
モルガナが叫びと共に自らの仮面を引き剥がすと、背後にレイピアを持った紳士風の偉丈夫が現れる。
「あの猫もペルソナを……!」
「みたいだね。私も今初めて見たけど」
「の、呑気に話してる場合かよ!?」
満身創痍の竜司が息も絶え絶えに二人を急かした。
「そうだね――雨宮くん。まずはここを切り抜けるよ」
「はい――来い、『アルセーヌ』ッ!!」
*
戦闘はベレスの活躍もあり、驚くほどあっさりと終わった。
「強いですね……ベレス先生」
「まぁ……ね。雨宮くん、怪我は?」
「俺はありませんよ。坂本くんがかなり痛めつけられたので、治療するなら彼を」
「そう。坂本くん、じっとしてて――『ライブ』」
ベレスが竜司へ手を翳し呪文を唱えると、竜司の身体は光に包まれてみるみる傷が癒えていく。
「はぁ!? べ、ベレ先、今のって……」
「魔法、ってやつかな。皆には内緒にしておいてくれると助かる」
ベレスはほっと一息ついた。ひとまず救助には成功した。あとは脱出するのみだ。
「何者なんですか、先生」
「しがない非常勤講師……じゃ納得できないか」
「当たり前だろ!?」
竜司が至極当然のツッコミをする。
「説明してあげたいのは山々なんだけど、今はそれどころじゃないかな。
とりあえず、ここから脱出しないとね」
「確かにそうですね。ベレス先生、ご助力お願いできますか?」
「もちろん」
一行は地下牢を抜け、外へ抜け出す。
「なぁ、あれは……鴨志田は放っておくのか?」
竜司が指差した先に、気絶した鴨志田らしき男が横たわっている。
「そうだね。まさか殺すわけにもいかないし」
「だよな……」
暫く無言で歩くと、雨宮の足が止まる。
「どうしたよ?」
「あれ……」
雨宮が指差した牢屋では、何人ものバレー部員たちがボロボロの姿で倒れている。
「なんだアレ……バレー部の奴らじゃねぇか……」
「知ってる顔があるのか」
「ああ、何人かはな……どういうことだよこれ」
「私もよく分からないけど……たぶんここは鴨志田先生の心象世界なのかもしれない。
あと、彼らは『認知存在』と言って、偽者……幻みたいなものらしい」
「ってことは、これそのものは本人じゃないにしろ、
実際のバレー部もこんなことされてるってことかよ!?」
「声が大きいよ、坂本くん。いつ敵が出てきてもおかしくないんだから」
「あ、すんません……」
そうこうしていると、奥からモルガナがトコトコと走ってくる。
「モルガナ、どうだった?」
「敵の姿がかなり少ない。カモシダが気絶してるせいかもな。
逃走ルートは確保できたし、今ならスムーズに脱出できるぜ」
「よし。それじゃ、脱出だ」
*
静まり返った城内を進み、ベレスが侵入した通風孔の前まで到着した。
「なぁ、いい加減教えてくれよ。ペルソナって何だ? この世界は?」
「あと、ベレス先生の強さの理由も」
竜司と雨宮がベレスとモルガナに詰め寄る。
「フゥ……やれやれ。仕方ない、簡潔に教えてやる。耳かっぽじってよーく聞けよ?」
モルガナ曰く。
この世界は歪んだ欲望を持った人間、『鴨志田卓』の認知世界『パレス』。
パレスではその人間の歪んだ認知によって変質した現実が現れる。
パレス内にいる人物は侵入者以外は本人ではなく、歪んだ認知が生んだ幻だという。
つまり、鴨志田は学校を自分の『城』で、自分は王様だと思っている。
そしてバレー部員は自分に従うしかない奴隷のようなものだと考えている。
「なんだそれ……クソすぎんだろ」
「同感」
そして『ペルソナ』とは心に宿るもう一人の自分。
反逆の意志が形を成して顕現した姿であり、それが『心の鎧』となり戦う力となる。
「オレも欲しいナー……」
「無理だろ」
「冷たくね!?」
竜司が辛辣な雨宮に突っ込むと、今度はベレスのほうに向き直って詰め寄っていく。
「ベレ先、今度はそっちの番だぜ」
「いいよ。でも信じられないような話だけど真面目に聞いてね」
「今更だろ」
「それもそうか……まず私はね、この世界の人間じゃないんだ」
「「「はぁ!?」」」
3人のリアクションにベレスはほらやっぱりね、といった顔をする。
「私の居た世界は、こっちでいう中世で、魔法がある世界。そして――」
ベレスは手の甲の紋章を浮かび上がらせる。
「こういう紋章のあるなしで貴族と平民が分かれたりする。
それと、あまり平和じゃなくて戦争とまではいかなくても小競り合いや野盗の類が暴れたりしててね。
私はそんな世界で21歳まで父親の傭兵家業を手伝っていたんだ」
「ベレス先生、紋章持ってるのに傭兵を?」
「そのあたりはややこしいからパスで……。
で、ひょんなことから修道院の士官学校で教師をやることになって……。
色々あって崖から落ちたのが向こうでの最後の記憶かな。そこから目が覚めたらこっちにいた」
「だいぶ端折りましたね……。
こっちで教職に就いたのは、士官学校での経験があったから?」
「まぁそうだね。自分では分からないけど、教師は向いてるらしい」
そこまで話し終えると、静かだった城内が再びざわつきだした。
「カモシダが目覚めたみたいだな。お前ら、とっとと脱出したほうがいいぜ」
モルガナが通風孔を指して脱出を促す。
「モルガナはどうするの?」
「ワガハイはもう少しこのパレスを調査するから、ここでお別れだな」
モルガナは片腕を振って3人に別れを告げる。
「なぁ……今気づいたこと言っていいか?」
「どうした?」
「猫が喋ってる!!」
「猫じゃねーよ! てか今更かよ!!」
*
恐らく元は校門だった場所をくぐると、景色は現実に戻った。
突然現れたように見えることへの配慮なのか、戻された場所は路地裏だった。
『ホームに帰還しました。お疲れ様でした』とスマホから声がする。
「も、戻ってこれた……」
「とんだ転校初日だったな……」
ベレスと雨宮の服装もスーツと学生服に戻っていた。
そのまま急いで学校へ向かう。すると――
「お前ら、こんな時間までどこほっつき歩いてた!?」
秀尽の指導教師が校門に待ち構えていて、二人を怒鳴りつける。
「うげ!? え、えーっとだな……今まではその、城に……」
竜司がしどろもどろに言い訳をしようとするが、ベレスはそれを手で制する。
「二人はトラブルに巻き込まれていたんだ。それで、さっきまで逃げ回っていて。
トラブルは私が解決したから、もう大丈夫。だよね? 雨宮、坂本」
「えっ、あ、おうよ」
「そうです。ご迷惑をおかけしてすいませんでした、ベレス先生」
「ということなので、今回に限っては大目に見てほしい」
ベレスは指導教師に向かってぺこりと頭を下げる。
雨宮もそれに追随して頭を下げ、それを見た竜司も渋々頭を下げた。
「ベレス先生がそうおっしゃるなら……。お前ら、次はないと思えよ」
「うーっす」
「ありがとうございます」
指導教師はそう言って去っていく。それと入れ替わるように別の教師がやって来た。
「トラブルに遭ったんだって? 災難だったなぁ、坂本」
「鴨志田……!」
竜司が鴨志田を睨みつける。
「おいおい、心配して来てやったのに睨むなよ。転校生、お前も災難だったな?
これはアドバイスだが、友達は選んだほうがいいぞ?」
「……」
雨宮は拳を握りしめ、反論せずに黙り込む。
勇気があればここで言い返すこともできたのだろうが、言い返したとて意味はない。
「ベレス先生、お疲れ様でした。問題児の世話は大変でしたでしょう。
どうです? 労いの意味も込めて今夜食事などは?」
「すまない、夜は塾講師の仕事があるんだ。また今度」
「――そうですか。お忙しいんですね。
……お前ら、もうすぐ午後の授業始まるぞ。急げよ」
鴨志田はそう吐き捨てて去っていった。
「クソ野郎……ベレ先にちょっかいかけてんじゃねぇぞ」
「あれが鴨志田か……。現実のほうもパレスと負けず劣らずだな」
「……雨宮くん、坂本くん」
ベレスが二人の肩に掴んで耳元で語りかける。
「二人とも、今日パレスで見たことは忘れるんだ」
「はぁ!?」
「それは無理があるのでは?」
「無理でも何でもいい、忘れなさい。あそこは命の危険がある。忘れたの?
特に坂本くん、キミは殺されるところだったんだよ?」
「う……」
「たまたま私が来なかったら、雨宮くんが力に目覚めなかったら……キミは死んでた」
「……忘れるのは無理っすよ」
竜司の脳裏にパレスで見た様々な光景が巡る。
「とにかく、パレスには関わらないこと。
鴨志田先生のことは――私が何かできないか考えてみる」
「……言っちゃ悪いですけど、非常勤講師に何ができるんですか」
「耳が痛いな。でも、何かできることはあるはずだよ」
ベレスはそう言いながら、二人の背中を押す。
「とりあえず、午後の授業始まるから坂本くんは教室へ急ぐこと。
雨宮くんは私と一緒に職員室へ。川上先生に申し開きしないと」
「……うっす」
「分かりました」