秀尽学園の非常勤講師、ベレス   作:女主人公スキー

21 / 30
色々ありまして、大変お待たせしております。
12月も忙しいのでもう1話書けるかは怪しいですが、何とか続けていくつもりですので今後も読んでいただけると幸いです。


17.黒い仮面

「ところで、喜多川お前これからどうすんだ? あの家もう戻れねぇだろ」

 

 

 

 晴れて怪盗団に加わった祐介に、粗方の説明を終えたころ竜司が素朴な疑問をぶつける。

 

 

 

「まぁそうだな……とは言え家事は俺が担当だから、謝罪すれば許してもらえるとは思う」

 

「戻らないほうがいいんじゃないか? 気まずいだろ」

 

「そうしたいのは山々だが、あいにく金がない。今はあのあばら家に戻るしかない」

 

 

 

 これから斑目と接することを思うと気が重いのだろう、祐介は深いため息を吐いてスマホを取り出す。

 

 

 

「私のせいだね、ごめん。本当はもっと穏便に済ますつもりではあったんだけど……」

 

「いえ、あの推理のおかげで俺の目の曇りは晴れたんです。謝らないでください」

 

 

 

 取り出したスマホを開くと――そこには斑目からのメールが届いていた。

 

 

 

「まずいな……。斑目が先生を告訴すると言っている。訴状が学校に届けば失職は確実だ……」

 

 

 

 祐介の報告を聞いて、ベレスと祐介以外の全員が立ち上がる。

 

 

 

「告訴って……んだよそれ!!」

 

「権力あるからって……最低すぎ」

 

「……皆落ち着け。喜多川、まだ告訴されたわけじゃないんだな?」

 

 

 

 拳をぎりぎりと握り締めながら、雨宮は努めて冷静に祐介に詳細を問う。

 

 

 

「祐介でいい。恐らく告訴は個展が終わってからだ。開催中は波風を立てたくないはず」

 

「じゃあ祐介、その辺りは改めて確認しておいてくれ。個展が終わるのは6/5だったな」

 

「それまでに改心させればいい、ってことだな?」

 

「そうだ。残り2週間……なるべく早く片付けよう」

 

 

 

 リーダーらしくやるべきことを明確にして、全員をまとめてみせた雨宮を見てベレスは満足そうに微笑む。

 

 

 

「迷惑をかけるね。もちろん私も手伝うから、斑目を改心させよう」

 

 

 

 ベレスがそう謝意を述べると、元気のいい返事が返ってくる。士気高く、その場は解散となった。

喫茶店の会計を払ったあと、一人待ち構えていた雨宮に声をかけられる。

 

 

 

「先生、この展開を狙っていましたよね。自分に火の粉がかかれば、俺達が奮起すると思って……」

 

「そんなことはないよ。でも、キミ達に火の粉がかからないようにしたのは確かだ。余計なお世話だったかな」

 

「いえ。どの道、改心してしまえば誰に火の粉がかかろうが関係ないので」

 

 

 

 改心は絶対に成功させる、そう宣言するような雨宮の自信と決意のこもった瞳にベレスは薄く微笑む。

 

 

 

「リーダーとしての貫禄が出てきたね。頼りにしてるよ……それと、あの黒い仮面についてだけど」

 

「また出てくるでしょうか。目的が斑目の廃人化だとしたら、俺達がいない時にやられたらどうしようもないですが……」

 

「その心配はないと思う。たぶん、予告状が届くまではシャドウ(マダラメ)は奥に引きこもるはずだよ。かなり怯えてるように見えた」

 

「確かに……。なら、俺達の邪魔を……殺そうとしてくる可能性も考えて、対策はしておきたいですね」

 

 

 

 雨宮の懸念を受けて、ベレスは少し考えて口を開く。

 

 

 

「それなら、少し考えがある。モルガナにも聞いておいてほしいんだけど……」

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 翌日、5月21日。

 

 祐介からLINEで怪盗団へ連絡が来た。

 

 


 

祐介『告訴日時は6/5で確定した。それと、あばら家からは追い出されてしまった』

祐介『一応、幾ばくかの金を渡されたが……2週間は持たない。とりあえず安いホテルを探しているが……』

 

 

雨宮『バイトでもするか? 紹介するぞ』

 

竜司『未成年のバイトって親の承諾とかいるんじゃね? 知らねぇけど』

 

杏『そうだよね……どうしよう?』

 

雨宮『屋根裏部屋のソファぐらいなら貸してもいい』

 

 

祐介『ありがとう。だが、四茶は少し学校から遠い。交通費が嵩むのは避けたい』

 

 

竜司『交通費ぐらいリーダーが出してくれんだろ。なぁ、蓮』

 

雨宮『2週間分の交通費か……出せないことはないな』

 

 

祐介『少し考えさせてくれ。出来れば布団かベッドで寝たい……』

 

 

杏『わかる』

 

竜司『でもよ、贅沢言ってる場合じゃなくね?』

 

雨宮『仕方ない、ベレス先生に相談してみよう。何とかしてくれるかもしれない』

 

雨宮『先生、見ていたら返信お願いします』

 

 

  ・

  ・

  ・

 

 

ベレス『遅れてごめん。とりあえず知り合いに当たってみるから、喜多川くんは新宿駅まで来てほしい』

 

 

祐介『了解。すぐ向かいます』

 

 


 

 

 新宿駅で待ち合わせたベレスと祐介はそのまま、東へ少し進み広い通りを進んでいく。

その通りの名は――『神室町』。

 

 

 

「あの……ベレス先生。これからどこへ?」

 

 

 

 祐介は不安そうにベレスに訊ねる。

神室町の治安の悪さは都内でも指折りだ。ヤクザや半グレがあちこちに巣食っている、そういう話は祐介でも聞いたことはある。

 

 

 

「大丈夫、怖いところじゃないから。色々助けてもらってる探偵事務所だよ」

 

「探偵……ですか」

 

 

 

 祐介は探偵という響きに少し心を躍らせるが、しかし現実は浮気調査や人探しなどが主で事件に立ち入ったりはしない。

というか、怪盗団的には敵にあたる職業だな……と思い改めて確認する。

 

 

 

「大丈夫なんですか? その、怪盗団的に」

 

「彼はその辺りも承知しているから問題ない。元弁護士でしっかりした人だよ……ただ」

 

「ただ……何です?」

 

「松金組(ヤクザ)と付き合いがあるらしい」

 

「真っ黒じゃないですか!?」

 

 

 

 そんな話をしていると、八神探偵事務所のあるビルがもう目の前に来ていた。

ビルの2階にあがると小さな事務所があり、そのドアを開ける。

 

 

 

「八神さん、いるかな」

 

 

 

 ベレスが声をかけると、奥のデスクに座る八神が顔をあげる。

 

 

 

「ベレス先生じゃないですか。今日はどういった用件で?」

 

「うん。新たに依頼したいこととお願いがあってね」

 

「依頼はともかく、お願い? その子は……確か斑目の?」

 

 

 

 八神はそう訊ねながら立ち上がり、応接用のソファに座り二人も座るように促す。

二人ともソファに腰かけ、ベレスが切り出す。

 

 

 

「この子――喜多川祐介くんをしばらく預かってほしい。知っての通り斑目の弟子で、追い出されてしまって」

 

「何やらかしたんです? 先生」

 

 

 

 どこかばつの悪い態度のベレスを、八神は怪訝な目で見つめる。

 

 

 

「返す言葉もないな……流石に私の部屋に泊めるのはまずいしね。立地的にここしかなかった」

 

「まぁいいですけど、食費までは賄えませんよ? そんなに余裕ないんで」

 

「喜多川くんが斑目から渡された金があるし、足りない分は私が補うよ。それでお願いしていいかな」

 

 

 

 ベレスの提案に八神はしっかりと頷く。

 

 

 

「分かりました。期間はいつまで?」

 

「とりあえず2週間、6/5まで。喜多川くんは、それ以降はどうするか考えておいて」

 

「はい、分かりました。何から何までありがとうございます、先生。八神さんも暫くの間よろしくお願いします」

 

「はは、まぁそんな堅くならなくていい。短い間だけどよろしく。寝る時は狭いけど仮眠室があるから、そこで」

 

 

 

 八神は立ち上がり、事務所の中を案内する。祐介は説明を受けながら、ヤクザの話は本当なのか確かめたりしている。

「ヤクザは来させないから安心して」と言われ、ひとまず納得し仮眠室に荷物を運び込んでいく。

 

 

 

「それで先生、新たに依頼したいことって何です?」

 

「うん。明日、斑目の家の周辺を警邏してほしい。実は怪盗団が命を狙われるかもしれなくて、その対策なんだ」

 

「穏やかじゃない話ですね……分かりました。俺一人でいいんですか?」

 

「うん。当日は私とシェズも警邏するつもりだよ」

 

 

 

 話し終えたベレスは立ち上がり、事務所をあとにする。

 

 

 

「それじゃ、後は任せたよ。また明日、八神さん」

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 翌日、5月22日。

ベレスとシェズを除く怪盗団はいつも通りパレスへ潜入する。

そしてベレスとシェズ、八神の3人は現実にて斑目のあばら家周辺を警邏し、怪しい人物がいないかを確認してまわる。

 

 八神の手には「黒い仮面」の身長、体格などが記されたメモ書きと祐介による人相書きがある。

 

 

 

「とりあえず、怪しい人がいたらマークしてほしい。特徴に合致しなくても、路地裏とかの人目につかないとこでスマホ触ってる人に注意して」

 

「了解。何かあったら連絡しますよ」

 

 

 

 八神はそう言い残して、足早に去っていく。

 

 

 

「面倒くさいわね……私達が直接あいつらを守ったほうがいいんじゃないの。2人なら勝てるでしょ」

 

 

 

 シェズはガードレールにもたれかかって、じっとベレスを睨む。

 

 

 

「もちろんそれで捕縛できれば一番だけど……そう簡単にはいかないと思う。勘だけど」

 

「一人で動くってことは自信はあるんでしょうね。でも、警戒しすぎじゃない? 戦争のない国の人間に私達が負けるとは思えないわ」

 

「慢心は厳禁だよ、シェズ。認知世界では身体能力も上がるし、そっちの経験は私達もまだ浅い」

 

 

 

 そう言ってベレスはシェズを置いて歩いていく。

 

 

 

「シェズは南のほうをお願い。私と八神さんで北・東・西を周るから」

 

「はいはい」

 

 

 

 ――そして二時間後。

 

 特にこれといって怪しい人物も見当たらず、何もないならそれで良い……と思っていたところで雨宮から連絡がくる。

 

 

 


 

 

雨宮『現実に戻ってきました。それと……向こうで黒い仮面に遭遇しました』

 

竜司『やべぇよアイツ……一撃でも喰らったらぶっ倒れるわ』

 

 

ベレス『こっちには怪しい人物はいなかった。全員無事?』

 

 

杏『私達は平気。打合せ通り、逃げに徹したからね』

 

祐介『モルガナの潜入道具がなければ危なかったがな……』

 

かすみ『でも、この調子だとパレスの攻略が進みませんね……』

 

 


 

 

「網が完璧だったとは言えないけど……どういうことだろう。他に侵入方法があるのか……」

 

 

 

 ベレスはシェズと八神に連絡を取り、その日はそれで解散となった。

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 翌日、5月23日(月)。

黒い仮面のこともあるのでパレス攻略は休みとした。

 

 午前の授業が終わり、昼休みに入ると雨宮にベレスからLINEではなくメールで連絡が来る。

文面は簡潔に『昨日何があったか報告してほしい。屋上で待ってる』とあり、雨宮は急いで屋上へ向かう。

 

 

 

「お待たせしました、先生」

 

「構わない。誰にも見られたり尾けられたりしてない?」

 

「はい、大丈夫です」

 

「それじゃ、早速教えてほしい。黒い仮面に遭遇した時のことを」

 

「分かりました。あの時、俺達は――」

 

 

 

 

 あの時、俺達はマダラメパレスの宝物殿のラウンジを越え、巨大な絵が飾られているエリアに差し掛かったところでした。

曲がり角の先で、黒い仮面が待ち構えていました。

 

 

 

「お前ら、邪魔なんだよ。パレスに俺以外のペルソナ使いはいらねえ……」

 

 

 

 仮面越しのくぐもった感じと、恐らく変声機を使っていると思います。ですので、声からの特定は難しいです。

口調からして男っぽい感じはしますが……確信はありません。

 

 

 黒い仮面がペルソナを出す素振りを見せたので、俺はすぐに撤退を指示しました。

時折背後を確認しながら全力で逃げ出しました。

 

 

 シャドウと戦闘にならないように潜入道具の『煙幕』をばらまいて……これは黒い仮面の追撃にも有効でした。

主に銃を撃ってきたんですが、幸い当たることはなく。

 

 

 しかし、黒い仮面を引き離すことはできませんでした。出口までは一本道ですし……散開するのもリスクが大きい。

結局一塊になって行動せざるを得なく、振り切るのは難しかったです。

 

 

 そこで活躍したのが潜入道具『スポットライト』です。本来は味方に攻撃を集中させるアイテムですが、先生に言われた通り黒い仮面に使いました。

効果は覿面で、シャドウが黒い仮面に群がっていって……そこで振り切ることができて脱出に成功できました。

 

 

 

 

「念のための準備が報われてよかった。よく全員無事に戻ってきてくれたね」

 

「今回は流石に肝が冷えました。振り切る直前、振り返った時に黒い仮面のペルソナの放つ魔法が見えたんですが……もしあれを今の俺達が喰らえば一発で壊滅するでしょうね」

 

「それほどか……。あの男――獅童のパレスで戦ったシャドウと比べればどっちが強いかな」

 

「難しいところですが、恐らく同じぐらいだと思います。なので、先生とシェズさん、エーデルガルトさんの3人ならあるいは」

 

「ともかく、このままではパレス攻略はできない。一度戦って……話をしてみないと」

 

「確かに、シャドウと違って黒い仮面は人間なので話し合いはできるかもしれませんが……」

 

 

 

 濁らした言葉に不安を滲ませる雨宮。ベレスとて、話し合いがうまくいかない可能性も考えている。

最悪の場合はベレスとシェズがつきっきりで攻略していくしかない。黒い仮面を撃退しながら。

 

 

 

「それと……黒い仮面がパレスへどうやって侵入したのか。あれからずっと考えててね……少し試したいことがある。放課後、付き合ってくれるかな」

 

「分かりました」

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 放課後、雨宮とベレスとモルガナはメメントスに侵入していた。

 

 

 

「先生、どうしてメメントスに?」

 

「現実のあばら家周辺は私達が見張っていた。監視網が完璧だったとは言わないけど……不可解だった。だから思ったんだ、他にパレスに侵入する方法があるんじゃないかと」

 

「他の侵入方法……ですか」

 

「メメントスは『みんなのパレス』……そう言ってたよね、モナ」

 

 

 

 ベレスは二人の背後に控えるモルガナに問いかける。

 

 

 

「ああ、その通りだが……まさか、そういうことか?」

 

「何となく、パレスはメメントスとは独立したものだと思っていた。でも、もしかしたら違うのかもしれない。

パレスとメメントスは元々同じもので、繋がっているんじゃないか……そう思ってね」

 

「つまりメ(・)メ(・)ン(・)ト(・)ス(・)か(・)ら(・)パ(・)レ(・)ス(・)へ(・)侵(・)入(・)で(・)き(・)る(・)……ということですか」

 

「それを今から試してみよう」

 

 

 

 ベレスはスマホを取り出し、イセカイナビを開く。画面には『侵入中:メメントス』と表示されている。

その状態のまま、『斑目』『美術館』と呟くと――

 

 

 

 

『再ナビゲーションを開始します』

 

 

 

 

 その音声と共に再び空間が歪み……目の前にはマダラメパレスの入口の見知った風景が広がっていた。

 

 

 

「マジかよ……」

 

「黒い仮面はこうやってパレスに来ていたんですね」

 

「恐らくは。こんなやり方があるなら、対策は無意味だ。メメントスは駅ならどこからでも入れるしね……」

 

 

 

 3人は実験の結果を見届け――今日は踵を返して、現実へ戻ることにした。

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 翌日、5月24日(火)――怪盗団はベレスとシェズを含めたフルメンバーでマダラメパレスに侵入していた。

 

 

 

「来ますかね、黒い仮面」

 

「分からない。だが、どの道いずれはぶつかることになる。早めに来てくれたほうが有難いよ」

 

「雑魚の相手はあんた達に任せたわよ。私とベレスは黒い仮面に専念するから」

 

 

 

 シェズの言葉に雨宮は黙って頷き、怪盗団のメンバーを先導して攻略済のパレスをサクサクと進んでいく。

回避の難しいシャドウや消耗なく勝てるシャドウとだけ戦い、それ以外は徹底して回避する。

2つ目のパレスにして、怪盗団の成長を感じる充実ぶりだ。もうモルガナも彼らを素人とは呼ばないだろう。

 

 

 そうこうしていると、前回の到達地点に辿り着いた。

黒い仮面の姿はない――ことに怪盗団の面々が安堵した時だった。

 

 

 

「「伏せてッ!」」

 

 

 

 ベレスとシェズの声が重なり、怪盗団が慌てて身を伏せたその直後……2発の銃声が鳴り響く。

 

 

 

「はっ!」

 

「甘い!」

 

 

 

 ベレスとシェズの頭部を狙ったその銃弾は、それぞれの剣技で防がれる。

 

 

 

「今のを防ぐか。もしかして、とっくに気付かれてた?」

 

 

 銃を構えた黒い仮面が怪盗団の背後からゆっくりと姿を現す。

 

 

「殺気には敏感なのよ」

 

「そんなもので簡単に殺せるとは思わないでほしいね」

 

 

 

 ベレスとシェズは剣を構えて戦闘態勢を取る。黒い仮面から視線を外さないまま、後ろ手で怪盗団へ「離れて」とハンドサインを送る。

 

 

 

「厄介だな、あんた達……鬱陶しいよ本当に……」

 

 

 

 黒い仮面は俯いて仮面に手をかけて一気に引き剥がす。

 

 

 

「来い――『ロキ』ィィィッ!!」

 

 

 

 黒と白を基調とした禍々しいペルソナが二人の眼前に姿を現し――

 

 

 

「死ね」

 

 

 

 手を前にかざし、殺意を込めて自身の有する中で最強の魔法(『メギドラ』)を放つ。

広範囲を撃滅せし得る破壊の嵐が狭い空間を制圧する。回避は不可能だと、誰もが考えた。しかし――

 

 

 

(手ごたえがない……!?)

 

 

 

 まさか回避したのか、と黒い仮面は辺りを警戒する。魔法が収縮し、視界が開けると――目の前に二人が迫っていた。

その遥か後方の怪盗団から、「なぁ、今二人とも壁走ってなかったか!?」と知能指数の低そうな声があがる。

 

 

 

「クソがッ!!」

 

 

 

 悪態を吐きながら、サーベルを素早く抜き放って先に迫っていたシェズの剣に合わせて弾く。

正直言って敵を見縊っていたシェズは防がれたことに驚くが、冷静に態勢を立て直して道を空ける。

 

 

 

「――『風薙ぎ』」

 

 

 

 開いた進路へ、ベレスによる回避不可能の斬撃が走る。

黒い仮面は咄嗟に防御の態勢をとって大ダメージだけは防ぐ。

 

 

 

「……あばずれ共がぁ……」

 

 

 

 黒い仮面は大きく距離をとって態勢を立て直す。

 

 

 

「あばずれって……傷つくわね」

 

「それにしても強いね。今の連携を凌ぐなんて……」

 

「そうね。ちょーっとばかし舐めてたかな」

 

 

 

 ベレスとシェズは油断なく構えたまま、その場に佇む。

 

 

 

「どうした? 来ないのか」

 

「キミこそ、退かないの? 私達と怪盗団がリスク度外視で戦えば、キミを拘束するのは容易い」

 

 

 

 ベレスの警告に、黒い仮面は「ははっ」とこらえきれず失笑する。

 

 

 

「アンタにできるわけないだろ。聖職者でいらっしゃるベレス先生がよぉ!!」

 

「……!」

 

 

 

 そう言って黒い仮面は、ベレスにサーベルの切っ先を向ける。

 

 

 

「私を知ってる人間はそう多くはないと思うけど……いいのかな、そんなヒントを貰ってしまって」

 

「そりゃ自分を過小評価しすぎだな。割と有名人だぜ、あんた」

 

「そう……なのか。知らなかったな……」

 

「くだらねぇハッタリはやめて、かかってきなよ」

 

 

 

 自信満々に片手をクイクイと拱いて、黒い仮面はベレス達を挑発する。

 

 

 

「……何かありそうね。一発逆転の秘策とか」

 

「うん。でも、退路に陣取られてる以上やるしかない」

 

「私達が負けたら次はあいつらがやられるんだから、気合入れなさい」

 

「分かってる。必ず勝つ……出し惜しみはしない」

 

 

 

 そう宣言しながらも、紋章の力は使わずにおく。相手の出方も分からないうちに全ての手札を晒すわけにはいかない。

対する黒い仮面は、サーベルを手に持ちながら悠然と佇んでいる。余裕か慢心かは不明だが、必ず何か違うことをしてくるだろう。

警戒を厳にしながら、二人は同時に動き出した。

 

 

 

「来なさい、『ラルヴァ』!!」

 

 

 

 シェズは黒い仮面に近づきながら、こめかみに召喚銃を当てペルソナを発動させる。

ラルヴァが現れて『ランダマイザ』を黒い仮面に放つと、動きにキレがなくなっていく。

 

 

 

「ベレス」

 

「うん」

 

 

 

 ベレスは天帝の剣を抜き放ち、併せるようにシェズも剣を構えて脚に力を溜める。

 

 

 

「破天」

 

「紫電」

 

 

 天帝の剣がその切っ先を龍のように伸ばすと同時に、稲妻のような斬撃が走っていく。

黒い仮面は回避を早々に諦めて、防御を選び――壮絶な破壊音が彼を襲う。

 

 

 

「くそ……がぁ……」

 

 

 

 黒い仮面は膝をつき、倒れ伏す。あっけない幕切れに首を傾げながら、シェズは黒い仮面に近づいて首筋に剣を突きつける。

 

 

 

「喧嘩を売った相手が悪かったわね。拘束させてもらうから」

 

 

 

 シェズはロープを取り出して、黒い仮面を拘束しようと更に近づく。

順調すぎる流れに不穏なものを感じとったベレスが声をかけようとするが、既に遅かった。

 

 

 

「近づきすぎたな、マヌケが――『暴走のいざない』」

 

「っ!?」

 

 

 

 黒い仮面の背後からペルソナ(ロキ)の腕から黒い瘴気が噴き出て、シェズの全身を包み込む。

シェズはうずくまり、何かに抗うようにもがく。

 

 

 

「何をしたの」

 

 

 

 ベレスが距離を取ったまま、黒い仮面に静かに問いかける。

 

 

 

「見てれば分かるよ、先生」

 

 

 

 瘴気が薄れ、シェズは静かに立ち上がる。

 

 

 

「シェズ……?」

 

「ベレス……あんたは――私が殺す」

 

 

 

 シェズは剣を抜いてベレスへと斬りかかる。その目は血走っていて、とても正気には見えない。

同時に黒い仮面も参戦し、1対2の盤面になる。

 

 

 

「くっ……シェズ、正気に戻って!」

 

「ハハハハ、無駄無駄! 絶体絶命だなぁ、先生!!」

 

 

 

 その様子を見ていた怪盗団は浮足立つ。

 

 

 

「なぁ、加勢したほうがいいんじゃねぇか!?」

 

「しかし、足手まといになってしまっては元も子もないぞ」

 

 

 

 竜司が戦いの趨勢を見ながら雨宮に判断を問うが、祐介は冷静に力不足だと指摘する。

 

 

 

「シェズさんはどうしてしまったんでしょう……あの人のペルソナが何かしたように見えましたが」

 

「私もそう見えた。ねぇジョーカー、なんとかシェズさんを正気に戻せないかな?」

 

 

 

 かすみと杏が雨宮に疑問をぶつけると、雨宮は少し考えて口を開く。

 

 

 

「……あの状態異常は普通じゃない。恐らくだが、ペルソナの魔法では治せない気がする」

 

「そうだな、ワガハイもそう思うぜ。なぁジョーカー、あの症状どっかで聞いた覚えがないか?」

 

「まさか……『精神暴走』か?」

 

「あぁ。例の精神暴走事件ってのは、あいつが犯人かもしれないぜ」

 

 

 

 雨宮とモルガナの指摘に全員が息を呑む。

 

 

 

「精神暴走事件は1年以上前から続いてるはず……道理で強いわけだ」

 

 

 

 あの黒い仮面は怪盗団が活動を始めた1年以上前から、パレスやメメントスでペルソナ能力を鍛えていたのだろう。

 

 

 

「ど、どうすんだよジョーカー!」

 

「……このまま見ているのはありえない。だが、全員で加勢するのは犠牲が出る恐れがある。

だから――ここは俺とモルガナで行く。皆は待機しててくれ」

 

「勝算はあるの?」

 

「ああ。シェズさんを正気に戻す。それだけで形勢は逆転できる」

 

「そりゃそうだが、どうやって?」

 

「確証のない作戦だが――」

 

 

 

 怪盗団が作戦会議をする最中もベレスとシェズ、黒い仮面の戦いは続いていた。

天帝の剣を駆使して二人の攻撃を辛くも凌いでいたが、小さなダメージは蓄積する。

 

 

 

「――そこよ」

 

 

 

 一瞬、ふらついたベレスの隙を逃さずシェズが剣を心臓目掛けて突き刺そうとする。

ベレスはどうにか身体を傾けて回避するが、右の肩口を深く斬られて血が噴き出す。

傷口を左手で押さえながら、二人から距離を取って肩で息をする。

 

 

 

「今のを躱すなんて流石。でも、それじゃもう腕は動かないはず」

 

「……まだ左手は使えるよ」

 

「それで私に勝てると思ってるならおめでたい頭ね」

 

 

 

 止血を諦め、血を流しながら左手で剣を構えるベレスに、シェズが少しずつにじり寄っていく。

 

 

 

「トドメを刺せ、シェズ」

 

「言われなくても」

 

 

 

 床を蹴り、ベレスとの距離を詰めようとするシェズ。その前に雨宮が立ち塞がる。

 

 

 

「どきなさい。あんたに用はないわ」

 

「退くわけにはいかない。先生(マスター)は俺が守る」

 

「じゃあ、死になさい!」

 

 

 

 シェズは剣を雨宮へ向けて振り、斬りつけようとする――雨宮はその寸前で、姿勢を低くしてシェズの足の間めがけてスライディングで抜けていく。

雨宮は股抜きの最中、シェズの太腿のホルスターから召喚銃を掴み取り――

 

 

 

「モナ!!」

 

「任せろ!」

 

 

 

 ずっと雨宮の背中に張りついていたモルガナが飛び出して空中で受け取る。

そしてそのまま、シェズの後頭部に取りついて召喚銃を押し当てる。

 

 

 

「目を覚ませ、シェズ!!」

 

 

 

 引き鉄を引いて、暴走したシェズの人格とペルソナ(ラルヴァ)を叩き起こす。

うまくいく保証のない、ぶっつけ本番の作戦だったが……ともかく実行には成功した。

 

 ペルソナを引き出されたシェズは暫く放心していたが、すぐに意識を取り戻し剣を握り締める。

 

 

 

「うまくいったのか?」

 

 

 

 地面に降り立ったモルガナが雨宮へ確認するが、雨宮は首を振って否定する。

 

 

 

「分からない。もしこれでダメなら、俺を囮に皆は脱出してくれ」

 

「いくらリーダーの命令でもそりゃ聞けないな。全員で戦うぜ、玉砕覚悟でな!」

 

 

 

 そう言ってモルガナはベレスを庇うように前に立ち、武器を構えるモナ。

雨宮は溜め息を吐きながら、モナに付き合い臨戦態勢を取りつつシェズに注視する。

 

 

 

「早く殺せよ。お前の『敵』なんだろ、そいつは」

 

「……そうね。その通りよ」

 

 

 

 シェズにとって、ベレスは不倶戴天の敵。敗北した現在は居候の身で、手を貸しているがそれでも倒したい相手なのは変わりない。

 

 

 

「でも、今の『敵』はあんたよッ!!

 

「馬鹿な――ロキの力を破るだとっ!?」

 

 

 

 シェズは振り返ったその勢いで、『影刃』を黒い仮面へ放つ。

予想だにしない翻意に面食らい、黒い仮面はまともに喰らってしまう。

 

 

 

「よくもやってくれたわね……ベレスにはそりゃ勝ちたいけど、こんなやり方じゃないのよ……!」

 

 

 

 今にも黒い仮面を斬らんとばかりに足を踏み出すシェズを、ベレスが止める。

 

 

 

「待って、次暴走させられたら正気に戻せる保証はないよ」

 

「二度も喰らわないっての……でもまずはあんたの回復ね――『ディアラマ』」

 

 

 

 シェズはペルソナ(ラルヴァ)を召喚し、ベレスの傷を回復魔法で癒していく。

出血が止まり、人心地ついたベレスを確認したシェズは、再び黒い仮面に向き直りながらベレスに問う。

 

 

 

「で……どうすんのよコイツ。あの力を警戒してたら碌に近づけないわよ?」

 

「そうだね。でも、向こうも軽々にその力は使えない……でしょ?」

 

 

 

 ベレスは黒い仮面に確認する。

 

 

 

「ふん……確かにペルソナ使いには効きづらいらしい。だが、効かないわけでもない……」

 

 

 

 瘴気を腕に纏わせて、不敵に笑いながら一歩、また一歩と近づいてくる。

 

 

 

「全員暴走させて、同士討ちさせてやる……!」

 

 

 

 尚も交戦の意志を見せる黒い仮面に向け、剣を構えるシェズだったが――ベレスが手でそれを制する。

 

 

 

「シェズは駄目だ。遠距離攻撃できないキミじゃ、リスクが大きすぎる」

 

「はぁ? じゃあ、あんた一人でやるっての? 傷は治っても体力と血は戻ってないのに、馬鹿言わないで」

 

「――大丈夫」

 

 

 

 ベレスはシェズを制した手をひっくり返して、紋章が刻まれた手の甲を見せる。

それを見てシェズは渋々といった様子ではあったが、大人しく引き下がる。

 

 

 

「狙うなら、まずは私にしたほうがいいよ。私はペルソナ使いじゃないから」

 

「へぇ……ならそうさせてもらおうか。お望み通り、その手で生徒を手にかるといい」

 

 

 

 黒い仮面は猛然とベレスへ向けて駆けだして、ペルソナを発動する。

 

 

 

「来い、ロキィィ!!」

 

 

 

 対するベレスも天帝の剣を抜き、一定の距離を保って黒い仮面の接近を許さない。

剣とレイピアがぶつかる音と銃声が響き、ロキから放たれる魔法の破壊音がそれに続いていく。

 

 一対一だと本来なら互角だが、ベレス側には近づけないという制約がある。

今は黒い仮面のほうが先手を取りやすく、また体力と血を失っているベレスは万全とは言い難い。

拮抗した戦いを演じてはいるが、徐々に黒い仮面へと趨勢は傾きつつあった。

 

 

 

「――うっ」

 

 

 

 失血の影響か、ベレスの剣捌きが一瞬鈍る。その隙を黒い仮面は逃さない。

 

 

 

「怪盗団を殺せ、ベレスッ!!」

 

 

 

 一瞬でベレスに接近し、『暴走のいざない』の射程距離内に入るとロキの瘴気がベレスへと向かう。

 

 

 

「先生ッ!!」

 

 

 

 怪盗団の悲痛な叫び――その声に隠れてベレスが小さく最も信頼する者の名を呟く。

掻き消されたそれが黒い仮面に伝わることはなく、また伝わったところでその意味も分からない。

 

 

 

 禍々しい瘴気は、ベレスの紋章の輝きと共に――“英雄の遺産”(アイムール)を掲げた彼女に直撃する。

しかし……この世界に物質としては存在せず、魂の在り処は別世界に存在する彼女には通用しない。

 

 

 

「な……に!?」

 

 

 

 巨大な斧が黒い仮面の眼前に振り下ろされ、その衝撃で黒い仮面は吹き飛ばされる。

 

 

 

 

「――下がりなさい、下郎」

 

 

 

 

 床面を抉った斧を持ち上げながら、彼女――エーデルガルトはベレスの前に庇い立つ。

 

 

 

「師(せんせい)にそれ以上近づけば、その腕……斬り落とすわ」

 

「な、何だお前は……っ!? 何なんだ……!!」

 

 

 

 膝をつく黒い仮面の問いに、エーデルガルトは溜め息を吐きつつも答えを返す。

 

 

 

「顔も見せられない者に名乗る名前なんてない……と言いたいところだけど、私が言えた義理じゃないわね。

いいわ、名乗ってあげる。私の名はエーデルガルト。フォドラに覇を唱えるアドラステア帝国の皇帝よ」

 

「フォドラ? アドラステア? 皇帝?? ふざけるのも大概にしろよ……」

 

「正常な反応をどうもありがとう。戸惑うのも当然の話よ――それはこの世界じゃない、異世界の話なのだから」

 

「異世界……ね。こんな場所(パレス)にいる身で何だが、信じがたいね」

 

 

 

 会話をしながらも、睨み合いを続ける二人にベレスが口を挟む。

 

 

 

「退いてくれないかな。これ以上戦っても君の勝ち目が薄いことは分かったはずだ」

 

 

 

 ピクリと黒い仮面が反応する。

 

 

 

「師(せんせい)、正気? この男、捕まえたほうがいいと思うのだけど」

 

「捕まえても、彼が精神暴走事件の犯人だと証明できない。彼を無力化するならそれこそ、監禁でもするか……殺すしかない」

 

 

 

 殺す、という言葉に怪盗団は二の足を踏む。

 

 

 

「悪人だろうと殺しは怪盗団の流儀に反する。そうだよね、雨宮くん」

 

「はい、もちろん。俺達のやること(シゴト)は、悪人の改心だけだ」

 

「そういうわけなんだ。もちろん、まだ戦いたいというなら相手になるよ。」

 

 

 

 ベレス、シェズ、エーデルガルトがそれぞれの得物を構える。

 

 

 

「ただし――次、怪盗団の邪魔をすれば容赦はしないよ。私達はこれまでに何人も戦場で命を奪っているし、立場としては怪盗団の協力者でしかない。

怪盗団のポリシーに縛られることもない以上、キミを殺すことに躊躇はしない」

 

 

 

 2人の女傭兵と、皇帝に刃を向けられた黒い仮面は乾いた笑いをこぼす。

 

 

 

「3対1とか大人気ねぇの。聖職者とは思えないね……」

 

 

 

 黒い仮面はお手上げのポーズをしてみせて、銃とレイピアを収める。

 

 

 

「わかったよ。俺の目的とぶつからない限り、怪盗団(お前ら)の邪魔はしない……それでいいだろ」

 

 

 

 そう言って、黒い仮面は踵を返してパレスから去ろうとする。

 

 

 

「――待て!」

 

 

 

 その背中へ祐介が声をかける。

 

 

 

「……何故、お前は先生――斑目を殺そうとした?」

 

 

 

 その言葉に黒い仮面は足を止め、振り返って答える。

 

 

 

「愚問だな。世に害を為す悪人は生きてる価値がないからだ」

 

 

 

 その回答を、祐介は首を振って否定する。

 

 

 

「俺はそうは思わない。少なくとも斑目には利(・)用(・)価(・)値(・)はある。画家としては二流でも、奴の審美眼は本物だ。

殺してしまってはその才能が失われる。俺は斑目が命尽きるまでその審美眼でもって才能を見出すことが、最大の贖罪となると思う」

 

「……そうかい。被害者のお前がそう思うなら、何も反論はないね」

 

 

 

 「だが……」と黒い仮面は再び背中を向けて低い声で怪盗団に告げる。

 

 

 

「俺の目的の障害になるのなら、その時死ぬのはお前らだ」

 

 

 

 そう言い残して、黒い仮面はパレスから去っていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ……うっ」

 

 

 

 脅威を退けられた安堵と、貧血と疲労によりベレスは倒れ込む。

 

 

 

「「「「「先生!」」」」」

 

 

 

 怪盗団が駆けつける前にシェズがその身体を受け止め肩で支える。

 

 

 

「血を流しすぎたわね。無茶しすぎよ……」

 

「そうだね。今回ばかりは、流石に――」

 

 

 

 ベレスが意識を失い、シェズの肩にどっと重量がかかる。

それに伴い、エーデルガルトの姿が急激に薄れていく。

 

 

 

「師(せんせい)のこと、任せたわよ」

 

「ええ。助かったわ、ありがとう」

 

 

 

 そう言って、エーデルガルトは姿を消す。それと共に怪盗団がベレスの元に集まってくる。

 

 

 

「先生、無事か!?」

 

「大丈夫よ、疲れて眠ってるだけ。ジョーカー、重いしちょっとそっち持って」

 

「はい」

 

 

 雨宮とシェズとでベレスを互いの肩を支える。

 

 

 

「……とりあえずセーフルームまで運ぶわよ」

 

 

 

 他のメンバーにシャドウを警戒してもらいながらベレスを2人で運び、ソファに寝かせて作戦会議をはじめる。

 

 

 

「とんでもねぇ奴だったな……あの黒い仮面」

 

「うん……てか強すぎ。あの心を暴走させる力もそうだけど」

 

「だが、ひとまずは撃退できた。しばらくは影に怯えることもないはずだ」

 

「ああ、ベレスのおかげだな。守られちまって情けない限りだが……いつか逆に守れるぐらい強くならねぇとな」

 

「そうですね。それで……このあとどうします? 先輩」

 

 

 

 かすみが雨宮(リーダー)に今後の方針を問う。

 

 

「先生を病院に送らないといけないし、一旦――」

 

 

 今日は戻ろうか、と言いかけたところでシェズから横槍が入る。

 

 

「パレスの攻略は続けなさい。ベレスは私が病院に連れていくから」

 

「一人で、ですか。先生を抱えてじゃ、流石に危ないんじゃ……」

 

「戦わなきゃ平気よ。あんたらは最初以外ろくに戦ってなくて、まだ元気でしょうが。

時間もないんだから、とっとと潜入ルートを確保しなさい。告訴まであと何日よ」

 

「12日……ですね。予告状のことを考えれば10日以内にルートを確保する必要があります」

 

「だったら気張りなさい。こんなことで歩みを止めてる暇はないはずよ」

 

「……分かりました。聞いたな、皆。俺達だけで今日、いける所まで行くぞ」

 

 

 

 雨宮の指示に全員が頷く。

 

 

 

「よし。それじゃ行きなさい。私はもう少し休んでから脱出するわ」

 

「はい、気をつけて。それと……病院に行くなら四茶の『武見内科医院』へお願いします。俺の正体は知りませんが、協力者なので」

 

「わかった。それじゃ、もう行きなさい」

 

 

 

 雨宮は頷いて、怪盗団を率いて再びパレス攻略に戻っていった。

 

 

 

「……はぁ、疲れた」

 

 

 

 シェズは30分ほど休んだのち、ベレスを背負ってパレスから脱出を始めたのだった。

 

 

 

 

*

 

 

 

 

「……ここは?」

 

 

 

 ベレスは見知らぬ天井で目を覚ました。

まだ気分はすっきりしないが、とりあえず日常生活を送るぶんには問題なさそうだ。

 

 

 

「目が覚めたんですね。気分はどうです?」

 

 

 

 椅子に座り、足を組んだ20代後半ほどの白衣の女性が話しかけてきた。

 

 

 

「良くはないけど、歩いて帰れると思う」

 

「それはよかった。私は武見妙、この診療所の院長です。あなたの生徒――雨宮くんの知り合い」

 

「そうなんだ……。もしかして、彼が時々使ってた薬の出所があなたなのかな?」

 

「そういうことです。何で使ってるのまでは知らないし、聞くつもりもありませんけど」

 

 

 

 ベレスはむくりと起き上がる。血を失ったせいか、少しぼーっとするが立ち眩みを起こすほどではない。

 

 

 

「何があったか知りませんけど、血をかなり流したと聞いてますから……一応貧血用の薬を出しておきますね」

 

「ありがとう。シェズ……私を連れてきた人は?」

 

「外でお待ちになってますよ」

 

「そっか。それじゃ、待たせては悪いし私は帰るよ」

 

「お大事に。雨宮くんにまた治験よろしく、とお伝えください」

 

「治験……なるほど、そういうことか」

 

 

 

 雨宮と武見の協力関係、その中身を察したベレスは「加減してあげてほしい」と武見にこぼす。

武見は苦笑いを浮かべながら「善処します」とだけ言って、デスクのパソコンに向き直った。

 

 ベレスが診察室を出ると、うとうとしながら待つシェズの姿があった。

 

 

 

「待たせてしまったね、シェズ」

 

「ぁ? ああ、起きたのね……もう18時よ。どっかで食べて帰りましょ」

 

「そうだね……ところで、皆は?」

 

「あの後、まだ余力あるから続きを攻略させて、もう帰ってるはずよ」

 

 

 

 念のため、ベレスはLINEを確認する。そこには雨宮によって「全員無事です。次でルート確保できると思います」と書き込まれていた。

 

 

 

「無事みたいだね。とりあえずこれで、斑目に集中できる」

 

「そうね。出来ればもう戦いたくないわ、あの黒い仮面とは……」

 

「うん。でも、対策はしておかないと。あの世界で活動する以上、どこかでぶつかるだろうし……」

 

「面倒ね、あの力……」

 

 

 

 *

 

 

 

 

 食事を終え部屋に戻り、薬を飲んで床に入ろうとした所、ベレスの紋章がうっすらと輝く。

 

 

 

「何だろう……呼ばれてる? もしかして、エーデルガルトかな」

 

 

 

 ベレスの呟きに呼応して、エーデルガルトが姿を現す。

 

 

 

「寝るところだったのね。ごめんなさい、師(せんせい)。話したいことがあって……」

 

「構わないよ。それで、話って?」

 

「あの黒い仮面って、あの瘴気で何かしてきたのよね」

 

「そう。あの瘴気に触れられると精神が暴走させられてしまうんだ。シェズがやられたけど、ペルソナを呼べば正気に戻せた」

 

 

 

 ベレスの説明を聞いて得心がいったのか深く頷き、話を続ける。

 

 

 

「多分、今回みたいな手はもう通じないわ。次は私を避けて師(せんせい)を狙ってくる」

 

「だろうね。それで?」

 

「あの瘴気のせいで近づけないせいで、敵に有利を取られるのはまずいわ。

やっぱり師(せんせい)の手札を増やすべきだと思うの」

 

「手札? というと、こちらに呼ぶ生徒を増やすということ?」

 

「ええ。今は私とベル、リンハルトだけだったわね? 紋章持ちの生徒で、かつ仲が良いこと(支援A以上)が条件。

だから紋章があってもフェルディナントは駄目なわけだけど……」

 

「……エル、もしかして」

 

 

 

 エーデルガルトは頷いて話を続ける。

 

 

 

「ええ。金鹿――『レスター諸侯同盟』の生徒を呼べるようにしたいの。特に盟主である『クロード』をね。

黒い仮面対策で遠距離攻撃がほしい。ベルナデッタでもいいのだけど……性質上、いきなり鉄火場に呼び出されるのに彼女だけに頼るのは少し酷でしょう?」

 

「ベルには悪いけど、そうだね。彼の頭脳にも頼れるなら頼りたい。でも……彼(クロード)は『敵』だよ」

 

「分かっているわ。いずれぶつかり、倒さねばならない相手。でもそれはフォドラでのことでしょう?

先生が行方不明なのは彼も知っていて、良くも悪くも気にしているはず……」

 

「彼とは学級も違ったし仲もそんなに良く(支援も進んで)ない。それでも応えてくれると?」

 

「……少なくとも『ディミトリ』よりは可能性があるわ。とりあえず、目が覚めたらクロードに手紙を送ってみるわ。

この世界のことを認知して、彼にその意志があれば……あるいは」

 

「分かった。キミに任せるよ。話はそれだけ?」

 

 

 

 少しだけあくびを漏らしながら、ベレスがベッドに腰掛ける。

 

 

 

「いえ、あと一つ……。師(せんせい)、仕方のないことだとは思うけど……私のこの姿についてよ」

 

「? どういうこと?」

 

「あれから4年……もうすぐ5年になるわ。皆あれから成長して、新たな兵種に就いた者も多い。

私は『カイザリン』という皇帝専用の兵種に就いているわ。今のこの、5年前の姿とは違ってね」

 

「そうなんだね。その姿は私(・)の(・)記(・)憶(・)に(・)紐(・)づ(・)い(・)て(・)い(・)る(・)……ということなのかな」

 

「そういうことでしょうね。出来れば、本来の姿で戦いたいのだけど……」

 

「無茶を言うね。見たこともないんだから、それは無理じゃないかな」

 

「そうよね……。今の姿を師(せんせい)に見せられればいいのだけど……ごめんなさい、忘れて」

 

 

 

 気落ちしたエーデルガルトを見て、ベレスは微笑む。

 

 

 

「それは、フォドラに戻った時の楽しみにとっておくよ」

 

「そうね。きっとこの世界での役割を果たせば……戻ってくるわよね」

 

「必ず戻るよ。信じて待っていてほしい」

 

「もちろん信じてるわ。おやすみなさい……師(せんせい)」

 

「おやすみ、エル」

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 翌日、5月25日の放課後。

アジト(渋谷駅連絡通路)にて、ベレスと雨宮が立ち話をしていた。

 

 

 

「先生、もう平気なんですか」

 

「うん、おかげさまでね。武見先生がまた治験よろしくって言ってたよ」

 

「そうですか……そろそろ行かないとな」

 

「それで、今日もパレスに?」

 

「はい。今回で潜入ルートを確保してしまおうかと。皆には先に行ってもらってます」

 

「私も行こうか?」

 

「いえ、先生はお休みになっててください。俺達だけで問題ありませんから」

 

「分かった、ありがとう。無理はしないようにね」

 

「はい、終わったらまた連絡入れますね。それでは」

 

 

 

 その日の夕方、雨宮から「ルート確保しました。本番(予告状)について相談したいので、また明日アジトで』との連絡が入った。




※「メメントスからパレスへ入れる」は捏造した設定なのでご注意ください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。