秀尽学園の非常勤講師、ベレス   作:女主人公スキー

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あけましておめでとうございます。今年も本作をよろしくお願いします!

・道化師(シェズ)コープ
・永劫(ベレス)コープ
・マダラメパレス攻略

の3本立てになっています。長いので注意。


18.世界を繋ぐ王

 5月25日。予告状に関する話し合いのため、アジト(連絡通路)に集まっていた。

かすみとシェズを除いた6人(雨宮、竜司、杏、モルガナ、祐介、ベレス)で予告状について話し合う。

 

 

 

「――というわけで、予告状の出し方は以前と同じでいいかな?」

 

「はい。労力はかかりますが、手作りで。ばらまく場所は……祐介、どこがいい?」

 

 

 

 振られた祐介は少し考えて答えを返す。

 

 

 

「展示会でいいだろう。斑目の面子を潰せるのは、どう考えてもそちらだ」

 

「ばら撒くのはワガハイの役目だな」

 

「うん。お願いね、モルガナ!」

 

 

 

 杏が可愛くウインクしてみせると、モルガナは「ふぉぉ!」と奇声をあげて応える。

 

 

 

「問題は文言と予告状のデザインだね。伝わればいい、と言われればそれまでだけど」

 

「怪盗団『ヴィジランツ』のお披露目の場だ。こだわれるところはこだわりたい」

 

「そうだな……前回の予告状を見させてもらったが、文面はともかくデザインが酷いぞ。誰の案だ?」

 

「んだとぉ!! 俺の案だよ、文句あっか!?」

 

 

 

 竜司が祐介に食ってかかる。祐介は得心した様子で溜め息を漏らす。

 

 

 

「なるほど……道理で粗悪なデザインなわけだ。納得した」

 

「てめぇ……じゃあお前がやってみろよな。しょうもないデザインだったらタダじゃおかねーぞ……」

 

「無論だ、任せてもらおう」

 

「張り切るのはいいけど、斑目にバレないようにしてね」

 

 

 

 ヒートアップする祐介にベレスが釘を刺す。

 

 

 

「分かっています。竜司のデザインを元にブラッシュアップする形で作ってみようと思います」

 

「それと祐介、()()()()()()()()()を忘れずにね。できれば彼……中野原くんにも書いてもらいたい」

 

「ああ、そうでしたね。連絡をとっておきます」

 

「で、予告状のデザインはどれぐらいで出来んだよ?」

 

 

 

 竜司が焚きつけるように祐介へ確認すると、ムッとした表情をしつつも冷静に答える。

 

 

 

「明日にでも――と言いたいが、今後のフォーマットになるのだろう? 少し時間がほしい。3日ほど貰えるか?」

 

「わかった。そこから予告状の量産に3日ほど必要になると思う。余裕を見て1週間後――6月1日に予告状を送付しよう」

 

 

 

 最後に雨宮が今後の方針を決定し、全員に目配せして確認する。

 

 

 

「「「「異議なし!!」」」」

 

 

 

 全会一致で、斑目にとっての運命の日は6月1日に決まった。

 

 

 

「それじゃ、今日はこれで解散かな」

 

「はい。わざわざありがとうございました」

 

「喜多川くんのデザインが出来上がったら、私にも知らせてほしい。こっちでも何枚か作るよ」

 

「助かります。それじゃ、みんなもありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

・『道化師(シェズ)』COOP RANK2→3

 

 

 

 同日。作戦会議を終え、暇になった雨宮は渋谷駅の地下モールをぶらついていた。

アルバイト先でもある花屋を覗いてみるとシェズが働いていた。

少し様子を見てみようと遠い場所から働きぶりを眺めてみることにした。

 

 

 

「お姉さん、その花はなんていう花だい?」

 

 

 

 シェズが年配の客に店の奥に運んでいた花の名を聞かれ、作業を止めて考え込む。

 

 

 

「これは、えっと……ジャ……ジャス……ちょっと待ってね……確か……ジャスミンよ」

 

「なんか聞いたことあるなぁ。花言葉とか分かる?」

 

「………………幸福、だったと思う。他にもあった気がするけど、何だったかしら……」

 

「それだけ分かれば大丈夫だ。それ3本ほど買わせてもらうよ」

 

「ありがとうございます! 今お包みしますのでちょっと待ってくださいね……」

 

 

 

 知識の面で多少たどたどしい所はあるが、持ち前の人当たりの良さで問題なくこなせているようだ。

このままずっと見ていても仕方ないし、時間もあるので話しかけてみることにした。

 

 

 

「シェズさん、順調みたいですね」

 

「蓮じゃない。冷やかしに来たの?」

 

「まぁ、はい。上手くやれてるみたいで安心しました」

 

「まだまだよ。何とか誤魔化してやれてるように見えるだけ」

 

 

 

 客がいなくなったのでカウンター奥の作業ブースでハサミで花の手入れ作業を続けていく。

料理スキルもあるシェズは手先が器用なようで、テキパキと片付けている。

 

 

 

「すごいな……俺はそんなに早くできないですよ」

 

「まぁ女ってだけで、色々細かいこと傭兵団の男どもにやらされたからね。年季の違いってやつよ」

 

「なるほど。俺もまだまだ鍛錬が足りませんね」

 

「そうそう。さて、そろそろ上がりね……店長ー! 先上がりまーす!」

 

 

 

 バックヤードから「お疲れさまー!」と店長の声がしたのを確認して、エプロンを返却してタイムカードを押して店をあとにする。

 

 

 

「ところで蓮。ちょっと相談なんだけど、いい?」

 

「何ですか?」

 

「バイトもうちょっと増やしたいのよ。できれば身体動かす系がいいんだけど……何かない?」

 

「肉体労働ですか? うーん、そうですね……肉体労働……」

 

 

 

 

 

 雨宮は考え込むが、一般的な肉体労働のバイトで紹介できるものは思いつかない。

そもそも、シェズのような身元が定かでない外国人となるとハードルはなかなか高い。

それでもシェズのために、無理矢理に捻りだすことにした。

 

 

 

「少しニュアンスは違ってしまうんですが、いいですか」

 

「いいけど……」

 

「じゃあ、夜にセントラル街に来てください」

 

「夜のバイトなの? もしかして、ふうぞ」

 

「違います」

 

 

 

 その後、夜のセントラル街で待ち合わせ、雨宮の先導である場所へ向かう。そこは――

 

 

 

「……牛丼屋?」

 

「はい。オーナーには話をつけてありますから、とりあえず店内へ……」

 

 

 

 店内に足を踏み入れると、20代の大学生らしき店員が疲弊した様子で厨房内を走り回っていた。

雨宮が手をあげると、ようやく気付いたのか厨房から乗り出さんとばかりにすがりついてくる。

 

 

 

「雨宮くん、来てくれたんだな!! 助かる……!!」

 

「お疲れ様です。今、着替えてきますのであと少しお願いします」

 

「分かった。なるべく早く頼むよ……!」

 

 

 

 そんな会話を聞いていたシェズはというと、その切羽詰まった様子に一抹の不安を抱きつつ、店員に会釈して雨宮と共にバックヤードに向かう。

 

 

 

「とりあえずシェズさんはこの研修用のエプロンをつけて待っててください。俺は着替えてきますから」

 

「わ、わかったわ」

 

 

 

 3分ほどで雨宮は着替え終わり、シェズを連れて厨房内に入った。

 

 

 

「お待たせしました」

 

「来たか! あとよろしく頼むよ!! じゃ僕はあがるから!」

 

 

 

 店員は早口でそう言い残して早足でバックヤードへと消えていく。

雨宮は袖口を捲り上げながら、店内をざっと見回すとまずは片付け作業から片付けていく。

 

 

 

「今のうちに説明しておきますね。シェズさんにやってほしいのはこの店の夜8時から11時の間の()()()()()()()です」

 

「……()()()? 今、すべてって言った? 聞き間違いよね?」

 

「いえ――すべて、です。料理の提供、片付け、皿洗い、レジ……あと物品の納入、お客様が粗相された場合の清掃も――」

 

「ちょ、ちょっと待って。無理でしょそんなの。せめて2人で手分けしないと不可能よ」

 

 

 

 シェズはいわゆるワンオペ業務の過酷さに思わず後ずさる。

 

 

 

「俺もそう思います。でも、やらないと店が回らないんです」

 

「閉めればいいじゃない……」

 

「実はこの時間がピークの一つでもあるんです。だから閉めるのはありえない。

それに……実際やってみれば何とか出来るんです。だからオーナーも人を増やす気はないそうです。

ですけど、本来2人分の作業量を1人でやらせてる負い目もあるのか、金払いはいいですよ」

 

「この業務量で給料据え置きなら、出るとこ出なきゃダメでしょ……」

 

 

 

 そんな話をしていると、仕事終わりのサラリーマンが雪崩れ込むように入店してきた。

店員が1人であろうとお構いなしで、矢継早に注文が飛び込んでくる。

 

 

 

「シェズさんは見てるだけでいいので、動きをよく見ていてください」

 

「……分かったわ」

 

 

 

 雨宮は客それぞれを素早く観察し、注文の内容と順番を把握した上で客の性質に合わせて優先度を判断する。

トラブルを回避するため、温和そうな客には説明した上で後回しにさせてもらい、短期な客を優先して料理を提供していく。

 

 その判断力もさることながら、特筆すべきは料理の提供速度だった。

熟練の職人のようなオタマ捌きで、注文からものの数分で料理を提供していく。

 

 そして客の食事中の隙を見計らって皿洗いなどの雑事をこなす。無駄のない流れ作業にも思える動き――

 

 

 

「すごいわね……このバイト何年やってるの?」

 

「まだ1か月も経ってないですよ?」

 

「いっ……あんた、やっぱおかしいわ」

 

「俺も流石に最初はモルガナにサポートしてもらいながらでしたよ。今は慣れてこの通りですけど」

 

 

 

 そうこうしている内に、怒涛のうちに3時間の業務が終わり……11時以降を担当する店員が来て業務は終わった。

 

 

 

「とまぁこんな感じなんですが……やれそうですか?」

 

「そうね……やってみないとだけど、やれる気はするわ。面接とかあるの?」

 

「面接というか、一応オーナーに会ってもらう必要はありますね。でも書類とかはいらないと思います。

この時間帯のワンオペは採用されてもすぐやめていくので……俺としても助かります」

 

「でしょうね……」

 

「オーナーの都合のいい日、また連絡します。それじゃ、お疲れ様でした」

 

「ん、お疲れー」

 

 

 

 【コープ『道化師』のランクが3に上がった。戦闘中、雨宮が状態異常の時に魔法を使って治してくれるようになった】

 

 

 

 

 

 

 

 

・『永劫(ベレス)』COOP RANK 2→3

 

 

 

 

 少し間が空いて、5月28日(土)。

休日の今日、雨宮は中間試験の反省会という名目でベレスのアパートに訪れていた。

 

 

 

「まずは、学年8位おめでとう。とは言え、安心していい順位じゃないのは分かってると思う」

 

「はい。数学のケアレスミスと化学の記述問題の減点が痛かったですね。そこを改善できれば、ってとこですかね」

 

「そうだね。歴史と英語はほとんど問題なかったよ」

 

「先生のおかげです」

 

 

 

 その後、間違えた箇所を確認し終えるとおもむろにベレスが口を開く。

 

 

 

「とりあえず、この取引は継続してもらえるんですよね」

 

「もちろん、そういう約束だからね。でも、それだけでいいの?」

 

「先生と過ごせるだけで十分ですが……」

 

「キミはそういう子だったね……でも、それじゃモチベーションが続かないと思う」

 

「そんなことは……いえ、もし何かご厚意を頂けるのなら、甘えさせてください」

 

「可愛くないな……まぁいいか。目標達成のご褒美をあげるよ」

 

 

 

 ベレスは立ち上がり、玄関に向かい雨宮を手招きする。

 

 

 

「出掛けるんですか?」

 

「うん。メメントスに行くよ、二人で」

 

「メメントス……ですか。デートではなさそうですね」

 

「まぁね。私が教えられるのは勉強だけじゃないから……行こうか」

 

 

 

 

 メメントスの浅い層に降り立ったベレスは周囲にシャドウがいないことを確認し、雨宮と向かい合う。

 

 

 

「これから教えるのは『流星』という戦技だよ。フォドラの兵種『ソードマスター』の奥義だ」

 

「奥義……と聞くと難しそうですが」

 

「現実で習得するのは無理かもしれない。でも認知世界なら可能だと思う。一度、やってみせるね」

 

 

 

 少し歩いた先で、シャドウを発見し接敵する。ベレスは剣を抜いて、一気に敵へ肉薄し――

 

 

 

「――『流星』」

 

 

 

 シャドウの周囲を凄い速さで駆け回りながら、5連撃を斬り込んでいく。シャドウが消滅すると、剣を収め雨宮へ向き直る。

 

 

 

「これが『流星』。簡単に言えば超スピードで5回斬る技だよ。ただし、1回の攻撃は通常よりかなり弱くなるけどね」

 

「強い技ですね……」

 

「いや……はっきり言うとこの技は弱い」

 

 

 

 雨宮の感想に対し、ベレスが気まずそうに否定する。

 

 

 

「流星の1回の攻撃力は通常の30%と言われてるんだ。()()()()()()1.5倍になる」

 

「……1回外せば1.2倍、2回外せば0.9倍……」

 

「普通に攻撃して必殺(クリティカル)狙ったほうが効率がいいんだ。しかも防御を固められると当たってもダメージが殆どないこともある」

 

「そう聞くと使えない技ですね……でも、利点があるから教えてくれるんですよね?」

 

 

 

 雨宮の指摘にベレスは頷く。

 

 

 

「利点の一つは必殺(クリティカル)が一撃ごとに発生すること。全部クリティカルになればかなりのダメージになる。

もう一つは、フォドラでは使えない技だけど認知世界では輝ける技だと思ったから」

 

「ああ、そうか。『チャージ(攻撃倍化)』や『タルカジャ(攻撃上昇)』、『スクカジャ(命中上昇)』『ラクンダ(防御低下)』を使えば……。

さらにクリティカル率を上げる『リベリオン』を使えば、物凄いダメージになる」

 

「問題は、そこまでお膳立てしないと使えないってとこだけどね……。さぁ、練習してみよう」

 

 

 

 

 それから暫く、雨宮とベレスはザコのシャドウを相手に戦闘を繰り返し『流星』の指導と練習を行う。しかし……

 

 

 

「はぁ、はぁ……」

 

 

 

 肩で息をする雨宮を、ベレスが心配そうに見つめる。

ベレスの目から見ても、なかなか良く動けている。だが、『流星』が出来ているかというとそうではない。

形にはなっているものの、実用できる代物ではなかった。

 

 流石にソードマスターという兵種を極めた上で習得できるものを、認知世界とは言えいきなり習得するのは無理だったか――とベレスが思った時。

雨宮はそれを感じ取ったのか、息を整えて今一度戦闘の構えをとる。

 

 

「雨宮くん、無理はしなくていい。別に今日習得する必要はないんだし……」

 

「いえ……今日習得してみせます。ですが、習得するのは()()()()()()()()()()――」

 

「……!」

 

 

 

 雨宮は仮面を剥がし、ペルソナを召喚する。

 

 

 

「来いッ――『アルセーヌ』!!

 

「ペルソナに習得させる……できるの、そんなこと」

 

 

 

 雨宮は頷き、アルセーヌは剣を構える。

 

 

 

「出来ます。俺のペルソナなら――そうだよな、アルセーヌ」

 

『フッ……久々に我が名を呼んだと思えば、無茶を言う。だが――やってみせよう』

 

 

 

 アルセーヌはシャドウへ一気に近づき、

 

 

 

先生(マスター)の動きを思い出せ、アルセーヌ!」

 

『言われずとも――行くぞ!』

 

 

 

 

「『流星』」

 

 

 

 

 ベレスに劣らない速度でシャドウに肉薄し、瞬く間に5連撃を斬り込む。

シャドウの消滅を確認すると、雨宮は再び仮面を被りアルセーヌを心の内に戻す。

 

 

 

「すごいね……完璧だ。流石だね、雨宮くん」

 

「ありがとうございます。先生の指導のおかげです」

 

「それにしても――アルセーヌは合体?していなくなったんじゃないの?」

 

「呼び戻したんですよ。こうやって先生の技を習得させられるなら、今後も有用ですね」

 

 

 

 そんな話をしていると、メメントスの雰囲気がズンと重くなる。遠くから、仄かに鎖を引き摺るような音も聞こえる。

 

 

 

「そろそろ帰ろうか」

 

「そうですね」

 

 

 

 メメントスから帰還すると、もう辺りは暗くなっていた。

 

 

 

「先生、今日はありがとうございました」

 

「どういたしまして。ルブランまで送っていくよ」

 

「いえ、俺が……」

 

「“ご厚意には甘えさせてもらう”んじゃなかったかな」

 

「……そうでした」

 

 

 

 並んで駅に入り、改札を通り抜ける。3分後に来る電車を待つ間、ベレスが口を開く。

 

 

 

「ご褒美と言うには、ちょっと武骨だったかな」

 

「そんなことは……」

 

「遠慮しなくていいよ。他にしてほしいことは?」

 

 

 

 思いがけないベレスの提案に、雨宮は深く考え込み……おずおずと望みを口にする。

 

 

 

「手を……繋いでもいいですか」

 

「……前も言ったけど、キミと付き合うことはできない。私に懸想しても、キミが傷つくだけだ……それでもいいの?」

 

「はい」

 

「そう……じゃあ、好きにするといい」

 

 

 

 ベレスの差し出した手を、宝石にでも触れるように慎重に手を取って、指一本一本の感触を確かめるように己の指を絡めていく。

 

 

 

「大切に扱ってくれるのは嬉しいけど、流石にじれったいよ」

 

「すみません」

 

「ほら、電車来たよ」

 

 

 

 繋がったままの雨宮の手を引いて、電車に乗り込む。

休日だからか、車内は混雑していて席には座れずに手を繋いだまま反対のドアに凭れかかる。

 

 

 

「次は学年5位以内が目標だよ。それ以下なら――その次に5位以内に入らない限り、君と2人では会わない」

 

「やり遂げます、必ず」

 

「うん、頑張って。キミならやれると信じてる」

 

 

 

 

【【コープ『永劫』のランクが3に上がった。アルセーヌが『流星』を習得した】

 

 

 

 

 

 

 

 

 6月1日。予告状の決行日に、怪盗団はアジト(渋谷駅連絡通路)に集まっていた。

 

 

 

「モルガナ、首尾は?」

 

「おう。今朝、派手にばら撒いてきたぜ。嫌でも目に入るだろうな」

 

「ヘマしてねぇだろうな?」

 

「するわけねぇだろ! ワガハイを誰だと思ってる」

 

 

 

 竜司とモルガナの会話を横目に、雨宮はスマホを開く。

 

 

 

「SNSでも既に話題になりかけてるな。間違いなく斑目に耳には届くと思うが……念の為様子を見に行くか」

 

「そうだな。だが大勢で行くわけにも行くまい。俺と蓮の二人で行こう」

 

「分かった。皆は先にパレスで待機しててくれ」

 

 

 

 雨宮と祐介以外の全員が頷いて、アジトから揃って離れていく。

その中でベレスとシェズが足を止める。

 

 

 

「私達は先にパレスに潜って潜入ルートの露払いをしておくよ」

 

「助かります。盗むのはあくまで俺達で、ですよね」

 

 

 

 「そう。だけど……」とベレスは言い淀む。雨宮はそんな様子を見て首を傾げ、ベレスの言葉を待つ。

 

 

 

「黒い仮面のこともある。何か仕掛けてくるかもしれない」

 

「怪盗団の邪魔はしない、と言ってましたが……もちろん、敵の言葉を鵜呑みにはできませんけど」

 

「うん。その言葉を敵に都合よく言い換えれば――邪魔しなければ何してもいいんだよ」

 

「それで何が出来るのか、あまり想像できませんね……」

 

 

 

 戸惑う雨宮に、ベレスは「あくまで一つの例だよ」と

 

 

 

「相手にしてみれば、言葉を律儀に守る必要もない。勝算があるなら、平気で反故にしていいんだ」

 

「確かに……これから常に警戒は必要ということですか」

 

「厄介な奴に目ぇ付けられたもんよね……ったく」

 

 

 

 シェズが溜め息をついて、通路の壁にもたれかかる。それまで黙っていた祐介が腕を組んで口を開く。

 

 

 

「そうだな。だが、怪盗には追っ手がつきものだ。あらゆる障害を排してお宝を盗むから泥棒ではなく『怪盗』と呼ばれるのだ」

 

「いいことを言うな、祐介。俺達は黒い仮面には負けない……今は先生達に頼るほかないが」

 

「ふっ、締まらないな……そろそろ行くぞ、蓮」

 

「ああ。それじゃ、先生お願いします」

 

「うん」

 

 

 

 

 

 

 

 


 

才能が枯渇した虚飾の大罪人、斑目一流斎殿。

 

権威と恩義を笠に門下生から着想を盗み、盗作すら厭わぬ似非芸術家。

 

若者から生きる望みを奪い、自死に追い込んだ外道を裁くために

 

我々はすべての罪をお前の口から告白させることにした。

 

その歪んだ欲望を頂戴する。

 

――心の怪盗団『ヴィジランツ』より――

 


 

 

 

 

これは何だ!?

 

 

 

 個展関係者が恐る恐る差し出されたそれを、斑目がわなわなと怒りに震えながら問いただす。

 

 

 

「け、今朝入口周辺にばら撒かれておりまして……! 可能な限り回収しましたが、なにぶん広範囲でして……目にした者は多いかと」

 

 

 

 斑目は予告状をくしゃっと握り潰し、さらに個展関係者を詰めていく。

 

 

 

「警備員は何をしていた!! 防犯カメラは!?」

 

「あ、怪しい人物はいなかったと……カメラにも猫の影ぐらいしか写っておらず……」

 

「怪盗団だと……ふざけおって! 警察には連絡したのだろうな!?」

 

「も、もちろんでございます! 先生、どうか落ち着いて……盗作は事実ではないのですよね?」

 

「当たり前だ!! マスコミどもが騒がないようにしっかり釘を刺しておけ、いいな!」

 

 

 

 斑目はギロリと個展関係者を睨めつけて、背を向けてずかずかと足を踏み鳴らしてその場を離れていく。

 

 

 

 

「怪盗団……? くだらん悪戯を……嫌がらせのつもりか」

 

 

 

 斑目はブツブツと呟きながら、ふと立ち止まる。

 

 

 

「祐介か、あの女教師の差し金か……。馬鹿め、罪状が増えただけだ……ククッ」

 

 

 

 それは怒りか余裕の表れか、斑目は口角を上げて笑い声を零す。

そんな班目の傍に、シャドウマダラメが重なるように並び立つ。

 

 

 

『儂の栄華はこんなところで終わらん! 怪盗団なんぞ敵ではないわ……!』

 

『心を盗む!? ふっ、やれるものならやってみろ……返り討ちにしてくれる!!』

 

 

 


≪WARNING!!≫≪WARNING!!≫≪WARNING!!≫≪WARNING!!≫≪WARNING!!≫≪WARNING!!≫

 

 

警戒度15%→警戒度100%

 

 

≪WARNING!!≫≪WARNING!!≫≪WARNING!!≫≪WARNING!!≫≪WARNING!!≫≪WARNING!!≫


 

 

 

 

「効果ありのようだな。班目――年貢の納め時だ」

 

 

 

 班目の後方の曲がり角から班目の様子を観察していた祐介と雨宮が顔を引っ込める。

 

 

 

「そうだな。それにしても、尾行が様になってるじゃないか」

 

「八神さんの仕事を何度か手伝っているからな……よし、俺達もパレスに向かおう」

 

「ああ。俺達で班目を改心させ、先生を告訴から守る。覚悟はできたか?」

 

「無論だ。やってやるさ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻、マダラメパレス内。

ベレスとシェズは潜入ルートを通り、シャドウを見つけ次第討伐していく。だが……

 

 

 

「おかしいね」

 

「ええ。シャドウの数が少なすぎる……」

 

 

 

 剣を鞘に納めて、周囲を見回し耳を澄ませる。敵の姿はほとんどなく、不気味なほどパレスの中は静まり返っている。

 

 

 

「……班目が何かしたのかな。それとも……」

 

「考えても仕方ないわ。とにかく、やるべきことをやるしかない」

 

「そうだね……とにかくメインホールのセーフルームまで行こう」

 

 

 

 数少ないシャドウを掃討しながら、やがて最奥のセーフルームまで到達する。

その後少し遅れて雨宮達がやってきた。

 

 

 

「お待たせしました……何かありましたか?」

 

 

 

 セーフルームに入った雨宮は、難しい顔で椅子に座るベレスとシェズに疑問を投げかける。

 

 

 

「道中のシャドウが少なかった。その理由を考えていたんだけどね……」

 

「たぶん、私達以外の侵入者がいるわ。つまり……」

 

「――黒い仮面ですか」

 

「そうなる。何をしてくるか分からない、警戒だけはしておいて」

 

「分かりました。とりあえずは、手筈通りに作戦を始めます」

 

 

 

 セーフルームを出た怪盗団は、2手に分かれて行動を開始する。

ベレス達は作戦には参加せず、周囲の警戒に努めるだけにして雨宮と行動を共にする。

 

 

 

「いつかな」

 

「さぁ。あいつの言葉を信じるなら、オタカラを盗み出すまでは何もしないだろうけど……」

 

 

 

 やがて、全ての準備が整いメインホールの電源が落ちる。

復旧するまでの僅かな時間で、ワイヤーフックに固定されたモルガナがオタカラを上から掻っ攫う。

 

 あとは脱出を残すのみだったが、扉がロックされてしまう。

しかしそこは雨宮が、天井の窓から外に出られることに目敏く気付き脱出に成功する。

 

 首尾よく中庭に降り立ち、広い場所に出たので物陰に隠れて一度止まる。

 

 

 

「順調だね」

 

「入念な準備のお蔭だな。おいジョーカー、念の為オタカラの確認だ」

 

 

 

 モルガナの言葉に雨宮は頷き、風呂敷に包まれたオタカラを衆目に晒す。

感触と大きさからして、絵――つまり『サユリ』と思われたが――

 

 

 

「これは……オタカラじゃないぞ!」

 

 

 

 「へのへのものじ」と描かれただけの落書きが額縁に入っていた。

どうやら予告状を受けてからすり替えられていたようだ。

 

 

 

「やられたな……」

 

「む――皆、離れろッ!!」

 

 

 

 トラップが作動し、怪盗団を捕らえようとするが祐介の声でどうにか逃れることに成功した。

その時、クックックッとしわがれた笑い声が背後から聞こえた。

 

 

 

「所詮は鼠……知能は低いようだな? あんなもの(予告状)を出して、何の対策もせんと思ったか!!」

 

「班目……!!」

 

 

 

 マダラメが護衛と共に姿を現す。気付けば、周囲にも警備員(シャドウ)たちが取り囲むように出てくる。しかし、数は疎らだ。

 

 

 

「その逃走経路も織り込み済みよ。どのルートでもこの中庭に通ずるようになっておる。まさに袋の鼠だな? 観念しろ、楽に殺してやる……!」

 

 

 

 勝ち誇るように、「ガハハハ!!」と大きく高笑いをあげるマダラメに、雨宮は首を傾げる。

 

 

 

「袋の鼠か……それは()()()()()()

 

「はっ?」

 

 

 

 予想だにしない返答に、マダラメが辺りを見回すと――周囲の疎らなシャドウはベレスとシェズ、そして怪盗団によって粗方撃破されていた。

 

 

 

「ばっ、馬鹿な……」

 

 

 

 気付けばマダラメを守るシャドウは傍に控える護衛のみとなった。

そんなマダラメの周りを怪盗団が取り囲む。

 

 

 

「あの程度で俺達を追い詰めたつもりか? 知能が足りないのはお前のほうだったな、班目」

 

 

 

 銃口を突きつけて凄む雨宮に続いて、祐介も剣を抜いてマダラメへ向けて口を開く。

 

 

 

「班目、その『サユリ』を俺達へ渡せ。それはお前が持つべきものじゃない」

 

「黙れ! 『サユリ』は儂の権威の象徴。賊などに渡してなるものか……!」

 

 

 

 マダラメはハンドサインで『サユリ』を抱え込む警備員を館内へ逃がす。

追いかけようとした雨宮だったが、電磁バリケードに阻まれてしまう。

 

 

 

「『サユリ』さえあればこちらのものよ……! 怪盗団、貴様らは手ずから葬ってくれる!!」

 

 

 

 マダラメは憤怒の表情と共にその姿を大きく変える。2つの目、鼻、口の5つのパーツが額縁に納まる形で別れていく。

シャドウカモシダの時とは違う異様な姿に、怪盗団はまず距離を取って各々の武器を構える。

 

 

 

「俺と祐介、モルガナと杏でマダラメと戦う。竜司とかすみ、先生たちは脱出路の確保とオタカラの奪取を――」

 

 

 

 雨宮が矢継早に指示を飛ばし、その通りに動こうとする。しかし――

 

 

 

そう上手くいくかな?

 

 

 

 くぐもった、聞き覚えのある声が上から聞こえてきた。全員が見上げると、美術館(パレス)の屋上から黒い仮面が怪盗団を見下ろしていた。

 

 

 

「――黒い、仮面」

 

 

 

 「やはり来たか」と、小さくベレスが呟く。

 

 

 

「てめぇ、何しに来やがった!? 『邪魔はしない』って言ってたよなぁ!?」

 

ああ、確かに言った。だから俺は邪魔しないよ――()()()

 

「どういう意味だ――」

 

 

 

 黒い仮面が指をパチンと鳴らすと、4人の眼前――美術館の入口を塞ぐようにシャドウが湧いて出てくる。

そのシャドウ達はどれも美術館内で見たことのあるものだが、一体の例外もなく黒い瘴気を帯びていた。

 

 

 

「暴走させられている!?」

 

ご明察。存分に踊ってくれよ?俺が用意したこの舞台でな!!

 

 

 

 暴走したシャドウ達がベレス達に襲い掛かって来る。試しに剣を交わしてみれば、明らかに力が強化されていた。

 

 

 

「……竜司とかすみは必ず2人で戦って。時間かかってもいいから焦らないで」

 

「分かった!」「了解です!」

 

「危なくなったら言って。回復は私とベレスでする――まずはこいつらを蹴散らすわ。それから……」

 

「オタカラを奪い返す!」「ですよね?」

 

「分かってるじゃない。気合入れなさい……!」

 

 

 

 ベレスとシェズを前衛に、暴走させられたシャドウたちとの戦いに突入する。

一方の雨宮達も、変貌したシャドウマダラメとの戦闘が始まる。

 

 

 

「オタカラは先生(マスター)たちに任せて、俺達はこっちに集中するぞ」

 

「ってか、余所見してる余裕ないし!」

 

「ああ、こっちもあっちも手助けできる状況じゃねぇ。集中しろよ、オマエら!」

 

「斑目……命までは取らん。だが画家としての引導を今日、渡してやる」

 

 

 

 その様子を、黒い仮面は屋上から高みの見物をしていた。

ベレスとシェズは事前の予想通り、暴走させられたシャドウと言えど相手になっていない。

一太刀で複数撃破されることもあり、その無双ぶりに思わず舌を巻く。

 

 

 

流石に強いな。だが、シャドウはまだまだご用意してるんでね

 

 

 

 黒い仮面が指を鳴らすと、暴走シャドウが倒した数と同じかそれ以上に湧いて現れる。

暴走シャドウは攻撃力は強化されているものの、体力(HP)はそのままで理性をなくしているというデメリットもある。

 

 

 

「キリがないわね……!」

 

「このままじゃ、オタカラに追いつけないね。ひとまず道を作ろうか、シェズ」

 

「分かった――合わせなさい、ベレス」

 

 

 

 ベレスは竜司とかすみに腕と目で合図をして、道を阻むシャドウ達へ剣を構える。

 

 

 

「この一週間、私達ものんびり遊んでいたわけじゃない」

 

 

 

 ベレスとシェズは黒い仮面に辛勝してからというもの、仕事の合間を縫ってメメントスやパレスに潜り武者修行に勤しんでいた。

時には新しく加入した祐介を、雨宮達に追いつけるように鍛え上げる目的もあった。

 

 それほど長くまとまった時間をとれたわけではないが、得る物はあった――即ち新技。

 

 

 

「道を拓くよ――『火薙ぎ』」

 

 

 

 『火属性魔法(ボルガノン)』と共に、天帝の剣を薙ぎ払うように振り回す。炎と合わさって火災旋風が巻き起こり、大勢のシャドウが上空へ巻き上げられる。

その開いた空間の先にもまだシャドウが待ち構えていて、今度はそこにシェズが突っ込んでいく。

 

 

 

「邪魔よ!! 『連閃』!!」

 

 

 

 前方広範囲を切り裂く斬撃が矢継早に繰り出され、さながらモーゼのように一本の道が通っていく。

 

 

 

「「行って!!」」

 

「りょーかい!」「任せてください!」

 

 

 

 竜司が勢いよく駆け出し、かすみがそれに続く。

元/現運動部の2人ならば、オタカラを奪い返すのは時間の問題だろう。

美術館の中に入っていった2人を見届けたあと、シャドウの大群――そして屋上の黒い仮面と向き直る。

 

 

 

「で、どうすんのこれ。このペースで群がられたら流石にキツいんだけど」

 

「うん。黒い仮面をどうにかできれば――」

 

 

 

 言いかけたところで、背後からシャドウが襲い掛かってくる。素早く振り向いて、一撃で斬り伏せる。

 

 

 

「同感だけど、私達じゃ無理。1人じゃ捌き切れずに怪盗団(あっち)にシャドウが行っちゃうわ。

仮に辿り着けても、暴走させられたら終わりだし……リスクがあまりにも大きい」

 

「そうだね……紋章(生徒)の力を借りるしかないかな――『ベルナデッタ』」

 

 

 

 この場から黒い仮面を倒すには遠距離攻撃以外有効な手立てはない。

ベレスとシェズも魔法は使えるが、流石に距離が離れすぎていて届かない。もし届いたとしてもシャドウの相手をしながら黒い仮面を狙うのは不可能だ。

 

 突然呼び出されたベルナデッタは「何ですかここぉ!」と喚きながらも、戦っているベレスを見てひとまず息を整える。

 

 

 

「ど、どういう状況ですか!?」

 

「ベル、あの屋上にいる黒い仮面の人物――射抜ける?」

 

「へ? あれですか……ちょっと遠いなぁ。と、とりあえずやってみます!」

 

 

 

 ベルナデッタは弓を構え、矢を番えて弦を引きながら狙いを定める。

意を決して放った矢は放物線を描きながら、屋上の黒い仮面へ到達する。しかし――

 

 

 

おっと……

 

 

 

 矢の勢いは距離の長さで減衰し、黒い仮面にあっさりと回避されてしまう。

 

 

「やっぱり無理ですよ先生ぇ……私のは普通の武器ですし、この距離じゃ威力が乗らないです……」

 

「ごめん、無理を言ってしまったね……」

 

 

 

 弓で無理なら、銃であれば――と考えたが、銃声で回避される可能性が高い。

完全に不意撃ちできれば当たるだろうが、当たり所が悪ければ死んでしまうかもと思えば使用は躊躇う。

そもそも、それ以前にベレスとシェズは銃を持っていないのだが……。

 

 

「なら、英雄の遺産なら……どうかな」

 

「い、いけると思います。あ、でもでも……あの黒い人も狙われてるのは分かってるわけですし……何か策がないと当てるのは大変な気がします」

 

「そうだね……ありがとうベル」

 

 

 

 ベレスはベルナデッタを戻そうとするが、ベルナデッタが慌てた様子でそれを制止する。

 

 

 

「あ、あのですね。エーデルガルトさんが言ってたんです。クロードさんに手紙を書いたって」

 

「手紙を?」

 

「はい。こっちの世界のこと、先生の状況、怪盗団のこと……全部伝えて、協力してほしいって書いたそうです」

 

「そうか……分かった。試してみる」

 

 

 

 今度こそベルナデッタを戻し、ベレスは紋章に意識を集中する。

 

 

 

「どうか、応えてほしい――『クロード』!」

 

 

 

 その時、ベレスの脳裏に存在するはずのない記憶が蘇る。

金鹿の学級(ヒルシュクラッセ)』の担任になり、クロード達と1年間を駆け抜けたこと。

 

 そして、ガルグ=マクの戦いのあと、生き別れになり――眠りから覚めた5年後に再会したこと。

 

 帝国(黒鷲)王国(青獅子)、かつての学友と殺し合い……多くの犠牲を払いながら勝利したこと。

 

 すべてが鮮明に、とはいかなかったが……夢や妄想だと片付けるには妙な現実感があった。

 

 

 

「……そういうことだったんだな、先生」

 

 

 

 声のした方向に振り返ると、そこには『フェイルノート』を背負ったクロードがいた。

 

 

 

「――クロード」

 

「よう、久しぶりだな先生。5年ぶりか……相変わらず愛想のない顔で安心したよ」

 

「うん、久しぶり。ねぇクロード……今、何か――」

 

()()のことかい? まぁ、色々話したいことはあるんだが……今はそれどころじゃないだろ」

 

 

 

 クロードは屋上に佇む黒い仮面を眺める。

 

 

 

「あれが黒い仮面ってやつか。あいつの手紙にも書いてあったな……高みから見下ろして、さぞいい気分だろうな」

 

「クロード、フェイルノート(英雄の遺産)なら彼を射抜けるかな。出来れば殺さないように」

 

「うん? 無理無理。いくらコイツでも下から上に射抜く自信は俺にはないよ」

 

 

 

 あっさり希望を砕かれたベレスは一瞬、落胆した表情を浮かべる。だが、以前として飄々とした様子のクロードを見て絶望するには早いと感じる。

 

 

 

「策ってほどのものじゃないが、奴を射抜く方法は思い浮かんだ。協力してくれるかい、先生」

 

「もちろん。私は何をすればいい?」

 

「ああ、まずは俺を――」

 

 

 

 クロードは人差し指を上空に掲げ――

 

 

 

「この空に打ち上げてくれ」

 

 

 

 クロードは歯を見せて笑うと、寄って来るシャドウを倒しながらその『策』を説明する。

あまり頭のいい作戦とは言えないが、これならクロードの技量次第では確実に黒い仮面の喉元に届き得る。

 

 

 

「いくよ――『火薙ぎ』」

 

 

 

 さっき敵を上空に巻き上げた要領で、今度は思い切り剣を振り上げて周りのシャドウごとクロードを上空へ打ち上げる。

 

 火災旋風に巻き込まれるような形で上空へ飛び上がれば、普通の人間ならばひとたまりもない。

だが、今のクロードは紋章によって呼び出された存在で、武器(本体)が破壊されない限りダメージは入らない。

 

 

 

「さすが先生だ。最高到達点(てっぺん)まで、3、2、1――」

 

 

 

 言いながら、クロードはフェイルノートを構える。まだ炎が邪魔して黒い仮面の姿はハッキリとは見えない。

なので、頂点に到達した一瞬で狙いを定めて射るしかない。

 

 簡単にできることではないが、今のクロードならそう難しいことではない。

5年後のクロードはドラゴンに乗りながら、すれ違いざまに弓矢を放つような離れ業を何度も成功させている。

 

 

 

「見えた――『風神』」

 

 

 

 黒い仮面とほぼ直線上に放たれた矢は、裂くような風切り音と共にまっすぐ飛んでいく。

気付いていれば回避されたかもしれないが、生憎炎によって直前までクロードの姿が隠れていては気付けるはずもなく。

 

 

 

ぐっ、ぐぁぁぁぁ!!?

 

 

 

 矢は黒い仮面の右肩を貫いて、その衝撃で吹っ飛んでいく。

絶叫し、熱と痛みで転げ回る黒い仮面へクロードは落下しながら声をかける。

 

 

 

傷は魔法や薬で治ると思うが、矢じりに塗った毒は10日は治らないからな!

 

毒……だと

 

あんたが軍門に降るなら、治してやってもいいぜ! そうしないなら療養するのをおススメするよ

 

……クソが

 

 

 

 黒い仮面は右肩を押さえながら、どこかへと消えていく。それと同時に、シャドウの暴走も消え供給も途絶える。

そして無事着地したクロードをベレスが出迎えた。

 

 

 

「うまくいったみたいだね。流石クロードだ」

 

「先生の力あってこそだ。俺はいつも通り敵を討っただけさ」

 

「これからも頼らせてもらっていいかな。フォドラに戻れたら敵同士だけど……」

 

「複雑な気持ちはあるけどな。あんなもの(記憶)見ておいて突っぱねるのは俺の信条に反するんでね。まぁ、よろしく頼むよ先生」

 

 

 

 クロードが差し出した手をベレスが取り、固い握手を交わす。

 

 

 

「向こうも終わりそうよ」

 

 

 

 シャドウの残党を掃討したシェズが、剣を収めてベレス達に近づく。

 

 

 

「あんたがシェズか。聞いてた通りなかなか強いな……諸侯同盟(うち)に来ないか?」

 

「初対面でスカウトしないでよ……あんたがクロードね。見てたけど、大した腕前してるじゃない」

 

「ちと厳しい環境で育ったもんでね。血筋はともかく、生まれは傭兵とそう変わりないんだ、実は」

 

「へぇ……そうなのね。結構親近感が――あ、終わったみたい」

 

 

 

 怪盗団のほうへ目を向けると、今まさにシャドウマダラメを倒したところのようだった。

 

 

 

「ひぃ!!」

 

 

 

 腰を抜かすマダラメに祐介が近づいていく。

 

 

 

「斑目……現実に戻ってすべての罪を告白しろ。俺が望むのはそれだけだ」

 

「く……はははっ! まだ分かっておらんようだな。パレス(この世界)の核はオタカラなのだ。あれが儂の手元にある限り――」

 

 

 

 その時、館内のほうから声が響いてくる。

 

 

 

「お前ら、待たせたな!!」

 

「オタカラ取り返してきましたー!」

 

 

 

 オタカラを抱えた竜司とかすみが走り寄って、雨宮にオタカラを渡してハイタッチを交わす。

紆余曲折あったが、オタカラは怪盗団の手に渡った。これでマダラメパレスは攻略完了だ。

 

 

 

「お前のオタカラ(歪んだ欲望)、確かに頂戴した」

 

「ば……馬鹿な……この斑目一流斎が賊なんぞに……」

 

 

 

 呆然と怪盗団を見詰めるマダラメの眼前に、祐介の刀の切っ先が突きつけられる。

 

 

 

「罪を告白しろ。そしてしかるべき裁きを受けろ。大人としての責任を果たせ……! いいな!!」

 

「わ、分かった。分かったから……! 全ての罪を告白する。甘んじて裁きも受けよう……!」

 

 

 

 祐介に凄まれたマダラメはそう言い残して、現実の斑目へと帰っていく。

そして、それと同時にパレスの崩壊が始まる。

 

 

 

「脱出するぞ!!」

 

 

 

 ベレスとシェズ、そして怪盗団は脱出口を目指して駆け出す。

そんな中で、祐介は立ち止まり崩壊するパレスを暫し眺めて呟いた。

 

 

 

「さようなら――斑目先生」

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