秀尽学園の非常勤講師、ベレス   作:女主人公スキー

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号泣会見なんてなかった


19.虚飾の美術館、閉館

 6月5日。個展が終了したタイミングで、報道番組が流れる午後6時に斑目一流斎が記者会見を開いた。

 

 

 

「私は、罪を犯しました……」

 

 

 

 集まった記者への簡単な挨拶のあと、放たれた第一声に会見場がざわつく。

カメラのフラッシュが焚かれ、光の集中砲火の中で斑目は弟子の作品を盗作した事実を持ち込んだ証拠と共に、滔々と語り始める。

 

 

 

「画家としての私は、せいぜい二流といったところでした。磨き上げた小手先の技術で、一流を装うことで大家と呼ばれはじめました。

そんな時、私の元に弟子にしてくれという画家志望の者が集まってきました。皆、才能のある子たちでした。最初は私も、真面目に師匠をしていたのです」

 

 

 

「1人、女性の弟子がおりました。若くして夫に先立たれ、腹には忘れ形見の息子を妊娠しており、病気も患っていた。

不幸な身の上だったが、才能は眩しいほどに輝いていた。その女性は出産するまでの間に一つの作品を描き上げ、そしてその後――私の前で倒れた」

 

 

 

「女性が描き上げた絵はまさに一流の作品と呼ぶにふさわしい。今、救急を呼べば命は助かりその絵の名声は彼女のものとなる。

しかし、私が気付かなかったことにして処置が遅れてこのまま死ねば――自分の作品にすることができる」

 

 

 

「女性は息子とその絵を遺して亡くなりました。贖罪のつもりか、天涯孤独となった息子を引き取って私は……その絵を斑目一流斎名義で発表することにしました。

あろうことか、盗作と見られぬようにアレンジを加えて――それが、あの『サユリ』です」

 

 

 

「思った通り私は名声を得ました。しかしそれと同時に私は自分の作品が書けなくなった。スランプ……というよりは自業自得か。

彼女の才能(輝き)が強すぎて、私の絵が所詮小手先の技術だけの二流だということを痛感したのです。発表したところで、恥をかくだけ。

そう思えば自作を発表する気は起きず――その時、弟子の作品が目に入った。まだ制作途中のそれは私にはない才能が、センスがあった」

 

 

 

「私は盗作をした。何度も何度も……そして当然のことながら、弟子は消えていった。作品と夢を奪われた弟子たちの中には、自死した者もいる。

それでも、私が心を痛めることはなかった。それどころか、作品を世に出してやったのだと自己正当化する始末。本当に、救いようのない屑……それが私だ」

 

 

 

 そこまで言って、斑目は立ち上がる。

 

 

 

「これから警察に出頭して、しかるべき裁きを受けるつもりです。元弟子やその家族による民事訴訟も甘んじて受け止めるつもりです。

人を間接的とはいえ殺しておいて、自死す(逃げ)るつもりもありません。生涯をかけて、罪を償って参ります」

 

 

 

 そして、深く頭を下げた。

 

 

 

「私の名声はすべて虚飾の産物でした。私を信じてくれていたファンの皆様、弟子とその家族の皆様……本当に申し訳ございません」

 

 

 

 謝罪と同時に一斉にフラッシュが焚かれる記者会見の様子を、貸し切ったルブランでベレスと雨宮、祐介が眺めていた。

 

 

 

「終わったな……」

 

「うん」

 

「祐介、大丈夫か?」

 

 

 

 祐介は息を吐いて、頷く。

 

 

 

「ああ、もう整理はついた。今日の朝、改心された斑目に会って来た……別人のようだったよ。

俺達のやったことは、けして褒められることじゃない。正しい手段でもない。それでも――俺に後悔はない」

 

「これからどうするの? 確か、特待生だから寮に住めるはずだけど」

 

「あそこは駄目です、不潔だし騒がしすぎる。嫌な思い出もあるが、あのあばら家はやはり絵を描くという点においては良い環境ですよ。

学生のうちはあそこで暮らそうと思います。だが、まだしばらくは住めない。警察の捜査がありますから……」

 

「捜査が終わるまでは、八神さんのところに?」

 

「そうなります。先生と八神さんにはご迷惑をかけることになりますが……」

 

「気にしなくていい」

 

 

 

 祐介はコーヒーを飲み干して席を立つ。

 

 

 

「もう行くのか」

 

「ああ。何かあれば連絡してくれ、すぐ駆けつける」

 

「分かった。それと……『サユリ』はいいのか? 祐介が持っているべきものだろ」

 

「構わない。手元に置きたくなる時まではルブランで預かっていてくれ。人の目に多く触れるほうが、母もきっと喜ぶ」

 

 

 

 祐介はルブランの入口横の壁に飾られた『サユリ』を暫し眺める。

世間一般で認知された『サユリ』と違い、雲に隠されていた部分には母の腕に抱かれた赤子の姿がある。

認知世界から盗み出したオタカラで、厳密には本物ではないが――祐介にとっては紛れもなく母の遺した形見となる。

 

 

 

「じゃあ、またな。先生も、色々とありがとうございました」

 

「困ったことがあれば、遠慮なく言ってほしい」

 

 

 

 ベレスの言葉に祐介は頷いて、扉を開けて帰っていく。

 

 

 

「……『喜多川祐介』、他校の生徒で斑目の弟子――」

 

 

 

 そして、その様子を物陰で伺っているものがいた。

 

 

 

 

 

 

 都内某所のマンションの自室にて、新島真は2つのカードを机の上に並べていた。

それは鴨志田宛ての予告状と、斑目宛ての予告状だった。その2つを見比べているのだ。

 

 

 

「素人目だけど、明らかにデザインが洗練されているわね……」

 

 

 

 鴨志田宛ての予告状は、いかにも学生が遊び半分で作ったような「悪戯」と思われても仕方ない代物だった。

しかし、斑目に宛てられた予告状は作成者の本気度が伺える。前者が私文書なら、後者は公文書のようなキッチリした堅いデザインになっている。

 

 

 

「喜多川祐介、彼なら可能なはず……」

 

 

 

 夕方、他校の生徒でありながらベレス先生と雨宮蓮と会っていた男。

斑目の弟子でもある彼なら、怪盗団の予告状のリデザインなどお手の物だろう。

 

 

 

「けど、逆に言えばそれだけなのよね……イコール喜多川くんが怪盗団の一員とはならない。

単に怪盗団にリデザインを依頼されただけかもしれないし、それなら喜多川くんに限定は出来なくなる……」

 

 

 

 真は鴨志田の事件から、雨宮蓮、坂本竜司、高巻杏、そしてベレスが怪盗団の一味、もしくはその協力者とアタリをつけている。

しかし、今のところ証拠は何もない。予告状からはもちろん、不用意な会話を録音することもできなかった。

 

 

 

「彼ら、なかなかボロを出さない……無関係なのか統制されているのか」

 

 

 

 真は秀尽の校長から、怪盗団の調査を依頼されている。だが、それだけで怪盗団を追っているわけはない。

 

 怪盗団の行いは法律的には悪だ。実際に法で裁けるかは別問題として。

だが、世間……特に悪い大人に苦しめられている少年少女にとっては「正義」であるとすら言える。

 

 法律はすべてを解決し救えるわけじゃない。捕まれば裁かれるだろうが、狡猾な大人は逃げおおせることが出来てしまう。

そんな大人たちの被害者を助けられるのは怪盗団のような超常の存在だけではないだろうか?

 

 

 

「……()()()()の件、どうにかしないと。怪盗団に依頼……いえ、まずはベレス先生に相談するべきか」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……怪盗団『ヴィジランツ』か。いよいよ本格始動ってわけね」

 

 

 

 同日、夜。長谷川善吉は都内の牛丼屋に入り、遅めの晩御飯をとろうとしていた。

片手にはあの日手に入れた予告状がある。

 

 

 

(結局、奴らがどういう手段で斑目を改心させたのかは分からず終いか。あの日から斑目を張っていたが、怪しい訪問者はなかった……)

 

 

 

 もしも本当に超常能力による犯行であるなら、警察では手も足も出ないだろう。司法的にも裁くのは難しい。これまでの捜査も完全な無駄骨だ。

しかし、善吉の所属する公安としては例え捕まえられないとしても怪盗団を特定する意義は大きい。

そういう意味でも怪盗団が活動を続ける限り、善吉は捜査を続けることになるだろう。

 

 食券を購入してカウンター席に座った善吉は、目の前の店員に食券を渡し注文を告げる。その数分後。

 

 

 

「お待たせしましたー! お熱くなってますので気をつけて」

 

「早いな。助かるよ……いただきます」

 

 

 

 丼を受け取った善吉は、割り箸を割り冷水をコップに注いで食事をはじめる。

しばらくすると、一息ついた様子の店員から声をかけられる。

 

 

 

「誰かと思ったら善吉じゃない」

 

 

 

 声に反応して顔をあげると、そこには制服とエプロンに身を包んだ見知った女性がいた。

その紫の髪で片目を隠した外国人は、善吉にとって忘れられない存在だ。

 

 

 

「シェズさんか! あんた、こんなとこで何を……」

 

「何って、バイトよバイト。ここ金払い良いから」

 

「マジか……」

 

 

 

 シェズは善吉のテーブルに無造作に置かれた予告状に目を向ける。

 

 

 

「それ、例の予告状? 心の怪盗とかっていう……」

 

「ああ、何だシェズさんも知ってるのか」

 

「まぁ話題としてね。面白いじゃない、心を盗むってさ」

 

「そうだな……でも、そんなこと出来ると思うか?」

 

「普通は無理だけど……事実として改心しちゃったのよね? あの画家の人と教師は」

 

「ああ、人が変わったみたいにな……おかげで警察も与太話と馬鹿にできなくなった」

 

「善吉って警察官なんだっけ? 警察は怪盗団のこと、どれぐらい力入れて捜査してるの?」

 

 

 

 問われた善吉は、改めてシェズの顔を伺う。

警察の内部事情や捜査の進展を問われることは少なくないが、そういうことを聞く相手が実は重要な情報を握っていることも珍しくない。

シェズもそうなのかと改めて観察するが、シェズは単なる好奇心で聞いているだけのように見える。

 

 

 

「まだ本腰は入れてないな。怪盗団を検挙してのし上がってやろうって、とある女検事が息巻いてるぐらいだ。

公安()ではまだ俺しか動いてないし、大きな問題が起きなければそんなもんじゃねぇかな……」

 

「へぇ……善吉1人で捜査してるの? 相棒的な人はいないんだ?」

 

「外国人のくせに刑事ドラマの見過ぎだろ……はぁ、相棒ねぇ」

 

 

 

 善吉は溜め息をつきながら、言うべきか暫し逡巡する。

 

 

 

「まぁ捜査情報じゃないからいいか……相棒はいるぞ。聞いたことないか、二代目探偵王子。あいつがそうだ」

 

「よくテレビに出てるあの? 子供じゃない」

 

「子供だが能力を買われて協力関係にある。生意気なガキだが、事件を解決に導いた実績があるんだ……」

 

「なんか大変そうね? 結構気難しいカンジ?」

 

「そういう訳じゃないがな……なんか怪我したらしくてな。怪盗団が大きく動いたってのにあの野郎――」

 

 

 

 怪我、という単語にシェズが耳聡く反応する。

 

 

 

「怪我って大丈夫なの? 骨折とか?」

 

「いや、いまいち要領を得ないんだが()()()()()()()んだとさ」

 

「へー……」

 

 

 

 そんな話をしていると、善吉は食べ終わったようで席を立つ。

 

 

 

「ごちそうさん。美味かったよ」

 

「そりゃどうも。また来てよね」

 

「気が向いたらな……」

 

 

 

 手を振って善吉を見送ったシェズは、頭の中で善吉が残した言葉を反芻する。

 

 

 

「右肩を、ねぇ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ってなことがあったのよ。どう思う?」

 

 

 

 翌日6月6日、朝。簡単な朝食後にシェズが思い出したようにベレスに昨日のことを話した。

 

 

 

「……そういう大事なことは、もっと早く言ってほしい」

 

「だってあんた寝てたじゃない。私も今思い出したんだから、仕方ないでしょ……で、どう?」

 

 

 

 ベレスはこめかみを抑えながら、冷静に与えられた情報を整理する――

 

 

 

「その話が確かなら、二代目探偵王子こと『明智吾郎』は――精神暴走事件の犯人(黒い仮面)かもしれない

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