秀尽学園の非常勤講師、ベレス   作:女主人公スキー

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第2章終了です。本作は全55話を予定しています。


20.社会科見学と歓迎会-ep2 epilogue-

 6月6日放課後。アジト(渋谷連絡通路)で雨宮(モルガナ)、竜司、杏とベレスが集合していた。

 

 

 

「ごめん、急に集まってもらって……」

 

「いえ、問題ありません。何かあったんですか?」

 

「うん。驚くだろうけど、あまり大声を出さないでほしい」

 

 

 

 ベレスはちらりと竜司を見る。

 

 

 

「だそうだ、蓮。リュージの口を塞ぐ準備をしとこうぜ」

 

「そうだな……」

 

「何で俺だけだよ!?」

 

「え、自覚ないの? やば……」

 

 

 

 座り込んだベレスは4人を口の近くに呼び寄せて、小声で今朝のシェズとのやりとりとその結論を打ち明ける。

 

 

 

明智が黒もがふがむが……」

 

 

 

 案の定声をあげた竜司の口を雨宮が手で塞ぐ。

 

 

 

「明智って、あの二代目探偵王子って言われてるテレビで人気の子だよね?」

 

「ああ――この間うちの学校にも警察と一緒に聞き込み捜査していたな」

 

「……あいつが黒い仮面だと? 確かなのか、ベレス」

 

「うん。クロードにも確認した。あの毒は射られた場所が1()0()()()()()()()()()()らしい」

 

 

 

 ただし――とベレスはあくまで冷静に結論を急がない。

 

 

 

「100%じゃない。偶然の可能性は当然ある。ただ、それを加味しても90%ぐらいはクロと見ていいと思う」

 

「言われてみれば、明智なら俺達の動向を掴みやすいかもしれない。俺達が怪盗団だと目星をつけていれば……」

 

「黒い仮面が最初に現れた時――あの頃、斑目に関してはお願いチャンネルにも依頼はなかったよな? なのに斑目のパレスに来れたのは不思議だったんだが……。

そういえば捜査に来た時、あいつは次の標的は斑目かも、とまで言ってた気がする……そう考えるとかなりクロっぽいぜ」

 

 

 

 蓮が明智の怪しいところを述べると、モルガナもそれに乗っかっていく。杏もまた、自分の考えを述べる。

 

 

 

「背格好的には納得。でも何か性格が違い過ぎない?」

 

「二面性ぐらいペルソナ使いならよくある事じゃね? コイツ()だってイケイケで怪盗やってるようには見えないだろ」

 

「まぁ、確かに……」

 

 

 

 竜司の言葉に雨宮は「イケイケって……死語だろ」と溢しながら、ベレスに向き直る。

 

 

 

「それで先生、方針としては?」

 

「証拠があれば告発したいところだけど、生憎それはない。彼が黒い仮面かもしれないことを念頭に置いて、警戒を厳にするしかない」

 

「それしかないか……まぁ対策できるだけありがたいけどな」

 

「そうだな。現実で会うことはそうそうないと思うが――」

 

 

 

 言いかけた雨宮だったが、ベレスが首を振って否定する。

 

 

 

「キミ達は来週会うことになると思う。だから呼んだんだよ。社会科見学、雨宮くんのクラスはテレビ局でしょ? 見学予定の番組で、明智吾郎が出演予定だよ」

 

「……マジ?」

 

「うん」

 

 

 

 これから精神暴走事件の犯人と会う。そう思うと俄かに緊張感が増してくる。竜司がゴクリと喉を鳴らす。

 

 

 

「とにかく、なるべく接触は避けて。向こうもこちらが怪盗団じゃないかと思ってるはず。触らぬ神に祟りなし、だ」

 

「……分かりました」

 

「というか、会って話したら変な感じになっちゃいそう。竜司とか絶対そう」

 

「あぁ? まぁ……そうかもな。その気になれば人の人生ぶっ壊せる奴とかやっぱ普通にこえーしな……」

 

「逆に接触するなら、蓮ぐらいしかまともに話せないかもな」

 

 

 

 立ち上がったベレスは、埃をパンパンと払って時間を確認する。

 

 

 

「伝えたかったことは以上かな。私はこれから八神さんの所に行くよ」

 

「何か調べてもらうんですか? ――もしかして、明智のことを?」

 

「そう。相手も探偵で、黒い仮面かもしれないから、長期の依頼になるだろうけど」

 

 

 

 ベレスは鞄を腕に通して、軽く手を振ってアジトから離れていく。

 

 

 

「……そういや、今回は祝勝会みたいなのしねぇの?」

 

「豪勢なのは出来ない。『サユリ』は売るわけにはいかないしな。一応、祐介の歓迎会みたいなのは考えてる」

 

「いいじゃん。どこで何やるの?」

 

「今のところは、うちの屋根裏で鍋パーティを考えてる。社会見学終わった6月11日ぐらいにできたら、と」

 

「具材とか持ち込む感じか? そういうのもいいな。もう祐介には伝えてんのか?」

 

「いや、まだだ。今初めて言ったしな……祐介は八神さんの事務所だろうし、先生に伝えてもらおうか」

 

 

 

 そう言って、雨宮がベレスを追いかけていったので、会合はそこで解散になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 6月9日。社会科見学は2日にわたる行事で、その初日。

雨宮のクラスはベレスが伝えた通りテレビ局に向かうことになった。首に「見学中」と書かれたカードをぶら下げ、テレビ局内を関係者に案内されながら練り歩く。

 

 局内を一通り案内された後、観覧席が設けられた番組収録を見学することになった。

よく明智吾郎が出演している、ニュースをネタに討論するよくある番組だ。だが、明智の姿はない。

 

 

 

「いねぇな明智……いないほうがいいんだがよ」

 

「まだ腫れが引かないんじゃないか? 出てくるとしたら明日だろうな」

 

「本番は明日かぁ……」

 

 

 

 今日は明智は出てこない、と油断していたところ突然それはやってきた。

 

 

 

「えー残念ながら明智くんは今日欠席なんですが、電話での出演は可能ということで今、彼と電話が繋がってます。明智くーん?」

 

「!」

 

 

 

 退屈にしていた3人に緊張が走る。

 

 

 

『どうも、明智です。今日は来られなくてすみません。少し怪我をしてしまいまして……』

 

「大変じゃない。大丈夫なの?」

 

『ええ、明日は出演できると思います。それで、今日の議題は何です?』

 

「今日の議題は話題の『怪盗団』について! それではまず――」

 

 

 

 司会の男性が話を振り、出演者が怪盗団について自分の考えを述べる。

最初は「実在しない」とか「手口が謎すぎる」など怪盗団そのものに関する議論で、次第に「怪盗団は正義か悪か」という話題にシフトしていく。

 

 

 

「明智くんはどう思うかな? 怪盗団は正義? それとも悪?」

 

「そうですね……はっきり言ってしまえば怪盗団は悪だと思います。少なくとも正義ではないですね。

人を無理矢理改心させるなんて許される所業じゃないですよ。例え相手が悪人だとしてもね」

 

「なるほど。でも、彼らのおかげで救われた人もいるよね。それについては?」

 

「結果論ですよそれは。その理屈がエスカレートすれば、殺人も容認されかねない。それはまずいでしょう?」

 

「ふーむ……それはそうかもしれないね。明智くんとしては、あくまで犯罪者は法によって裁かれるべきだと?」

 

「はい。その為に僕のような探偵や、警察の皆さんがいるんですから。彼らのやっていることは、殺していないだけで私刑と変わりません」

 

 

 

 明智の言葉に対して、竜司は歯をギリギリと噛みしめている。

 

 

 

「あの野郎、好き勝手言いやがって……!」

 

「落ち着け。別に間違ったことは言ってない。むしろ一般論だ。誰に何と言われようとやる、そう決めたんだろ。雑音は気にするな」

 

「……そうだったな。ワリ、ちょっと熱くなってた」

 

「あのサイコっぽい黒い仮面とは別人みたい。それに、あんな事言ってるけど自分は精神暴走事件をやってるんだよね?」

 

「どういう神経してんだってカンジだな……」

 

 

 

 いかにも優等生な回答をする明智に引いていると、司会がチラッとこちらを見てくる。

 

 

 

「ところで明智くん、今日実は面白いゲストがスタジオに来てるんだよね」

 

『え、何です?』

 

「実は社会科見学で秀尽高校の生徒さんが観覧席にいるんだ。秀尽、知ってるよね? 最初の大きな改心事件の舞台になった高校だよ」

 

『もちろん。捜査に伺ったこともあります』

 

「というわけで、秀尽の生徒さんに話を聞いてみようと思います。誰か意見ある人~?」

 

 

 

 司会が観覧席に話を振るが、誰も手を挙げない。

 

 

 

「うーん、消極的。最近の若者って感じだな~。それじゃあこっちが指名しようかな。えーっと――」

 

 

 

 司会の男が品定めをするように観覧席の生徒を眺める。ほぼ全員、目を逸らしたり下を向いている。

そんな中、雨宮だけが前を向く。

 

 

 

「それじゃあ、メガネをかけたそこのキミ。怪盗団は正義か悪か、どっちだと思う?」

 

 

 

 杏や竜司に話を振られるよりは、と思って普通にしていたが案の定指名されてしまった。

仕方なく立ち上がり、ADからマイクを受け取って質問に答える。

 

 

 

「……鴨志田教諭は悪だったと思います。その鴨志田に罪を告白させた怪盗団は正義――と言いたいところですが」

 

 

 

 そこで一度言葉を切り、自分の考えを整理する。そして、なるべく波風を立てないように言葉を選ぶ。

 

 

 

「明智さんの言う通り、怪盗団は悪だと思います。僕は怪盗団のファンですし、支持してます。でも、そこは切り分けないと。

救われた人にとっては正義だとも思いますしそこは否定しません。でも人の心を無理矢理捻じ曲げる行為自体に正義はない……と思います」

 

「ほう……なかなか饒舌に語るね」

 

『…………』

 

 

 

 (まずいな……少し語りすぎたか)と雨宮は内心汗をかく。

 

 

 

「明智くんはどう思う? 今の彼の意見」

 

『興味深いですね。怪盗団のファンだというのに怪盗団を悪だという彼……とても面白いです』

 

「あ、意見じゃなくて彼自身が気になる感じ? あ、じゃあどうだろう。明日、彼と2人で討論するってのは」

 

『一般人と討論ですか。なかなかすごいこと考えますね……彼が良いなら僕は歓迎ですよ』

 

 

 

 その言葉を聞いた司会はこっちに向き直って、雨宮に問う。

 

 

 

「というわけなんだけど、いいかな? 社会見学は明日もだったよね。これも社会勉強だと思って、ねぇ?」

 

「いや……テレビに出るのは流石に……」

 

 

 

 雨宮が断ろうとすると、司会に加えて番組のプロデューサーやスタッフ、他の出演者が睨みを効かせてきた。

 

 

 

「そう言わずにさ。顔は写さないし、声も変えたっていい。学校に怒られるなら僕が謝りに行くからさ……お願いします!」

 

「…………分かりました」

 

 

 

 雨宮はついに大人たちの圧に負け、頷いてしまう。

 

 

 

「おい、何了承してんだよ!? 先生に接触するなって言われたばっかじゃねーか……!」

 

「仕方ないだろ……断れる雰囲気じゃない」

 

 

 

 度胸が【ライオンハート】なら断固として断れただろうが、今の雨宮では無理な話だった。

 

 

 

「それじゃあ、よろしくお願いね。先生にはこっちで話をつけとくからさ。はい、それでは次のコーナーへ――」

 

 

 

 そのまま恙なく、番組の収録は続きそして終わっていった。雨宮たちはテレビ局のエントランスで明日の番組出演について相談する。

 

 

 

「おい蓮、どうすんだよ……」

 

「どうもこうも……カメラの前で了承しておいて、今更断るわけにもいかない。秀尽の評判が悪くなれば、また目を付けられるぞ」

 

「やるしかないよ。蓮なら大丈夫、うまくやれる」

 

「ありがとう杏。何とかこなしてみるよ」

 

「しゃーねーな……万が一お前が暴走させられたら、俺が身体張って止めてやんよ」

 

「竜司……悪いな。頼りにしてる」

 

 

 

 竜司と杏がそれぞれの形で雨宮を励ます。

 

 

 

「蓮、くれぐれも気を抜くなよ。奴は精神暴走事件の犯人で、俺達を殺そうとした黒い仮面だ。何をしてくるか分からねえ……いいな?」

 

「分かってる」

 

 

 

 モルガナが釘を刺し、雨宮は深く頷いた。その日はそれで解散となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 6月10日。社会見学2日目。

雨宮たちは要請通りに昨日のスタジオに向かい、観覧席に座る。

 

 ばたばたと番組収録の準備が進むなか、背後から声をかけられる。

 

 

 

「キミが昨日の秀尽の生徒さんかな?」

 

 

 

 ――明智吾郎。その人だった。

 

 

 

「はい。捜査の時以来ですね?」

 

 

 

 雨宮は平静を装って明智と相対する。

 

 

 

「ああ、やっぱり。何か聞き覚えのある声だと思ったんだ。あの時も怪盗団について熱く語ってくれたよね」

 

「まぁ、俺達は怪盗団の古参ファンなので」

 

「でも怪盗団は『悪』だと思ってるんだ?」

 

「ええ。怪盗団は悪です……()()()()()()()()()()()()。俺はそう思います」

 

 

 

 雨宮の言葉に明智がピクリと反応する。

 

 

 

「なるほど……正義は無力だと?」

 

「そうは言いません。でも、全てを救うことはできない……これ以上は番組で喋りましょうか」

 

「あはは、そうだね。それじゃ、お手柔らかによろしく――そうだ、名前を聞いてもいいかな」

 

「――雨宮蓮です。こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 

 

 明智が差し出した手を、雨宮は躊躇なく掴む。明智が黒い仮面でも、この場で力を使うことはないはずだと信じて。

そして、しばらくして番組が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

司会

「2人とも準備はいいかな? 早速始めてもらいたいんだけど」

 

 

明智

「はい、問題ありませんよ」

 

 

雨宮

「大丈夫です。始めてください」

 

 

司会

「はい、ということでね。まず昨日は『怪盗団は正義か悪か』を語ってもらったよね。

そこで明智くんも彼も『怪盗団は悪』って言ったんだよね。二人とも同じ意見ってなるとディベートって成立しないんだけど、大丈夫かな?」

 

 

明智

「それはちょっと違いますね。同じ意見ではありません。僕は怪盗団を『悪として断罪(否定)する』立場。

彼は怪盗団を『悪として肯定(支持)する』立場で、まったく違います。だからちゃんと成立するので安心してください」

 

 

司会

「な、なるほど。じゃあまずは何を議論してもらおうか?」

 

 

 


 

 

 

 

「始まっちまった……これ先生ブチ切れねぇ?」

 

 

 

 竜司が不安そうに呟く。

 

 

 

「大丈夫だって。先生が怒ったこと見たことないし……」

 

 

 

 杏も不安そうだが、雨宮なら上手くやるだろうと信じて見守っている。

 

 

 

 


 

 

 

明智

「じゃあまずは『怪盗団の改心は本当に必要だったのか』にしましょうか」

 

 

雨宮

「必要だったのか、ですか。じゃあ逆に改心がなければどうなってたと思います?」

 

 

明智

「改心がなければ……か。鴨志田教諭の場合は学校内での王様的な振る舞いはどんどん悪化していっただろう。

学校内で彼を止めるのは不可能だ。何せ、校長もそれを容認していたようだしね」

 

 

雨宮

「……流石、詳しいですね。秀尽に必要だったのは外からの力でした。それが怪盗団じゃなくてもいいとは思います。

ただ、怪盗団は鴨志田教諭が確実に裁かれるであろう方法を取ってくれた。自分から罪を告白させる、という」

 

 

明智

「確かに自白は何より強い証拠だね。内部告発や何らかの外圧があっても、学校ぐるみなら証拠の隠滅もあり得る。

そういう意味では最良の方法かもしれない。だけど、人の心を捻じ曲げていいとは僕は思わない」

 

 

雨宮

「僕もそう思います。改心した鴨志田教諭は別人のようでした。悪人のまま裁きを受けてほしい、そう思うこともあります。

しかし、そんな方法はありません。学校やPTAにも守られていては、警察や法律も手を出せない」

 

 

明智

「一理あるとは思うよ。でもやっぱり、内部告発から教育委員会や警察を動かすのが現代社会のやり方だ。

思った通りに動いてくれないかもしれない。それでも根気強く行動すれば山が動くこともあるんじゃないかな?」

 

 

雨宮

「言葉にするのは簡単ですよね。でもそういう正しい手段を用いた場合――大抵被害者は救われない。

告発した段階で学校や会社にはいられないですし、やり遂げても被害者の人生は狂ってしまっていることが多い」

 

 

明智

「……そうだね。正しい手段よりも、怪盗団の改心のほうが被害者は救済できる。それは確かだ。

だからと言って、社会として怪盗団のような存在を許容はできない。暴走する可能性は捨てきれないからね」

 

 


 

 

 

 

 放送日に三島はテレビにかじりついて見ていた。

 

 

 

「そうだ! あのまま全うに抗ってたら俺達みんな退学させられてた。ベレス先生まで奴の餌食になるかもしれなかった!

怪盗団だけなんだ! 俺達を救えたのは!! 社会や正義じゃ救えなかった……手段を選ばない『悪』じゃなきゃ!

 

 

 

 


 

 

雨宮

「怪盗団が社会に必要、とまでは思いませんが――怪盗団を必要とする人がいる限りあっていいと思うし、俺は応援したいです。

警察や法律が狡猾な大人を裁けるなら、なくてもいい。でも現実は違う」

 

 

明智

「収録が始まる前に言ってたね。『悪だからこそ巨悪を討てる』って。

キミとしては『悪は正義に勝る』って言いたいのかな?」

 

 

雨宮

「正義がすべてを救えないのは確かです。なぜなら正しいことには制限が付き纏うからです。手段も限られているし、法律やルールを守らないといけない。

悪はルールを守らなくていいし、手段も何でもありですから……同じ目的を達成するなら、悪のほうがやりやすいとは思います」

 

 

明智

「そりゃあ誰だって遠回りより近道のほうが良い。正しい手段は時間がかかりすぎる所はある。

こうなると、怪盗団は現代社会にとっての『必要悪』として存在していいように思えてくるね……」

 

 

司会

「ええっ!? ちょっと明智くん、負けちゃってるじゃない。大丈夫?」

 

 

明智

「被害者を速やかに救うという点においては怪盗団()のほうが正義よりも優れているのは確かですからね。

大丈夫ですよ、ここから盛り返しますから」

 

 


 

 

 

 

 同じく放送日。非番だった善吉は自宅で、放送を苦虫を噛み潰したような表情で眺めていた。

 

 

 

「あの馬鹿、何考えてやがる……。これじゃ怪盗団を宣伝してるようなもんじゃねぇか。ちゃんと盛り返せるんだろうな……?」

 

 

 

 


 

 

明智

「次は怪盗団の危険性について論じていこうか。怪盗団の正体・手口は謎に包まれてるけど、恐らく特殊な力を持った一般人の集団だ。

いかに信念を持っていようと人の心は変わる。今は彼らの力は悪人に向いているが、悪人以外に向けられる可能性は捨てきれない」

 

 

雨宮

「悪人以外、とは具体的には?」

 

 

明智

「例えば警察長の長官や政治家を、保身のために改心する。とか……あるいは怪盗団を批判するタレントを黙らせるために改心する、なんてのもあるかもしれない」

 

 

雨宮

「そんなことは起こらない――というのは通用しませんよね。困ったな……」

 

 

明智

「キミが怪盗団のファンで、彼らを信じたい気持ちは理解できる。それでも、追い詰められれば人間は何をするか分からない」

 

 

雨宮

「そもそも『改心』という手段そのものが危険ですし、怪盗団が危険と言われれば反論は難しいですね……」

 

 

明智

「ははは、確かに。今回は僕の勝ちってことでいいかな?」

 

 


 

 

 

 

 新島真もまた、放送日にこの討論の様子を視聴していた。

 

 

 

「怪盗団は悪で、危険な存在……悪による救済が正しいわけがない。だけど、正しさで被害者を守れないなら……私がするべきことは――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 約15分ほどの討論を終え、雨宮は観覧席に戻ってきた。

 

 

 

「お疲れさん」

 

「ん……疲れたな。今日はもうこれで解散だし、どこかで軽く食べて帰ろうか」

 

 

 

 雨宮は首を回して、観覧席に置いた鞄を背負う。

 

 

 

「ねぇ蓮、先生にはもう報告したの?」

 

「昨日した。少し苦言をもらったけど、今回は不可抗力だから仕方ないって」

 

「そりゃそうか……これ以上絡まれないうちにとっとと帰ろうぜ」

 

「何か食べるならワガハイ、来る時に見たデカいパンケーキが食いたい!」

 

 

 

 そんな話をしていると、背後から声をかけられる。

 

 

 

()()()()()を食べに行くのかい? 羨ましいな。僕はこれから用事があってね……」

 

 

 

 明智吾郎がそこに立っていた。

 

 

 

「明智さん、何か?」

 

「連絡先を交換しておこうと思ってね。キミと話をするのは面白い。色々と良い刺激を貰えそうだ」

 

「……そうですね。俺も明智さんから学べることがありそうです。連絡先ぐらいなら構いませんよ」

 

 

 

 雨宮はスマホを取り出し、お互いの連絡先を交換した。

 

 

 

「それと、敬語はやめてほしいな。学年が一つ上なだけだろう?」

 

「分かった。明智と呼んでもいいか?」

 

「構わないよ。僕は暇な時は吉祥寺のダーツバーによく行くんだ。よかったら声をかけてよ」

 

 

 

 雨宮の頭の中で双子の看守の声が聞こえる。明智のアルカナは「正義」――(どこがだよ)というツッコミを寸前で飲み込んだ。

 

 

 

「完全に目ぇつけられたな……」

 

「……それより、聞いたか?」

 

 

 

 振り返って3人に問うと、竜司は「あ?」という顔をして呆けているが杏とモルガナは雨宮の意図を察して頷いた。

 

 

 

「パンケーキでしょ? 普通の人には聞こえないはずのモルガナの言葉に反応した……」

 

「完全に真っ黒じゃねぇか……明智吾郎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、6月11日。

 

 

 

「佐倉さん、お邪魔するよ」

 

 

 

 バイトのあるシェズと体操の練習があるかすみを除いた4人を引き連れて、ベレスはルブランにやってきた。

 

 

 

「ああ、先生。どうも……」

 

 

 

 勉強会と称して何度もルブランには来ているので、佐倉惣治郎も最早慣れっこだ。

 

 

 

「ん、新顔がいるな。名前を聞いても?」

 

「喜多川祐介です。『サユリ』の件、ありがとうございます」

 

「おお、あの絵の出所はお前か。こちらこそありがとうよ。寂れた店に彩りができた」

 

 

 

 杏と竜司はぺこりと頭を下げて挨拶をして、屋根裏に上がっていく。祐介とベレスもそれに続こうとすると惣治郎に呼び止められる。

 

 

 

「ところで、これは何の集まりなんで? また勉強会ですかね」

 

「いや、この子……喜多川くんの慰労会のようなもの。歓迎会も兼ねているけれど。喜多川くんは斑目さんの弟子だったからね。

たまたま知り合って、相談を受けていたのだけど……これからは勉強会に参加したい、と請われて」

 

「なるほど……大変だったな喜多川くん。でも、いい大人に出会えてよかったじゃないか」

 

「はい。それじゃ、行きましょうか。先生」

 

 

 

 連れ立って階段を上がり屋根裏部屋へ上がる。すでに雨宮がカセットコンロと鍋が用意して待っていた。

 

 

 

「ふむ……初めて来たがなかなかいいな」

 

 

 

 祐介は雨宮の屋根裏部屋を見回して呟く。

 

 

 

「マジか? 狭いし埃っぽいし……俺は住むのはちょっときついわ。たまに来るぶんには秘密基地感あっていいけどな」

 

「あ、それわかる。なんか懐かしい感じするよね」

 

「というか、祐介が言ってるのはアトリエとしてだろ?」

 

 

 

 言いながら、雨宮はテキパキと椅子と食器を並べていく。

 

 

 

「当たり前だろう? 1階が喫茶店でコーヒー飲み放題というのもいい……なぁ蓮、あばら家と交換しないか?」

 

「断固として断る。先生、こちらへ」

 

「ありがとう」

 

 

 

 雨宮がベレスの椅子を用意して座らせ、箸と食器をそれぞれに渡す。

 

 

 

「おい蓮、ワガハイのぶんも忘れるなよ」

 

「分かってる」

 

 

 

 鍋パーティの準備が整いさぁ食べようかと思ったところ、ベレスが口を開く。

 

 

 

「ところで、明智くんと討論したんだって?」

 

「……はい」

 

「しかも連絡先を交換したと聞いたけど、本当?」

 

「はい。報告が遅くなってすみません」

 

「それはいいよ。それで、どうするつもりなの?」

 

 

 

 珍しく少しピリついた空気に、一同に動揺が込み上げる。

 

 

 

「明智は俺に興味があると言いました。暇な時には声をかけてくれ、とも」

 

「……まさか交流を続けるつもり?」

 

「先生はやめるべきだと?」

 

「もちろん。あまりに危険すぎる。彼の力は異世界でしか見てないけど、現実でも使える可能性はある。

もし二人きりの時に暴走させられても、キミを助けてあげることはできない……分かるよね」

 

 

 

 優しく諭すように、雨宮の目をじっと見詰めて話すベレスだが、その言葉は普段より冷たく感じる。

雨宮を大事に思うからこそだろうが、有無を言わせない圧が雨宮にのしかかる。それを振り払うように、意を決して口を開く。

 

 

 

「――先生。明智は確かに精神暴走事件の犯人です。でも、昨日彼と討論して思ったことがあります。

()()()()()()()()なんじゃないかと。正義とは程遠い所業でも、悪ふざけでやっているわけじゃない」

 

 

 

 雨宮もまた、ベレスと目を合わせて努めて真摯に意見を述べていく。

 

 

 

「信念――かどうかは分かりません。誰かに命令されているのかもしれないですが、対象は選んでいるはずです。

気に食わない、邪魔な奴を無差別に暴走させるようなことはしない。明智は罪人であっても悪人じゃない。俺達が悪党であっても悪人じゃないように」

 

 

 

 思えば、ベレスに反抗したのはこれが初めてだ。それが敵であるはずの明智を巡っての事なのは複雑な思いがある。

雨宮も明智をまだ友人よりは敵に近いとは思っているが、頭ごなしに否定されれば反発したくなるのは当然だろう。

 

 ベレスは未だ見詰めることをやめない雨宮から、根負けしたように目線を外して

 

 

 

「悪人じゃない、か。実際に殺されかけた身としては信じがたいけど……キミが言うならそうなのかもしれない」

 

「じゃあ――」

 

「ただし、明智くんとの交流内容を私に報告してほしい。私としても、敵を知ることはメリットではある」

 

「分かりました。ありがとうございます」

 

「礼を言われることじゃない。生徒を凶悪犯に近づけるなんて、教師としては最悪だ。けど、キミの判断は尊重する」

 

 

 

 ベレスは溜め息を吐いて、他の4人の気まずそうな顔を見渡す。

 

 

 

「ごめん、歓迎会でする話じゃなかったね。それじゃ、食べようか」

 

 

 

 ぐつぐつと沸き立つ鍋を前に、全員が手を合わせる。

 

 

 

「「「「「いただきます!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 鍋をつつきながら、お互いの身の上話をしたりして時間は過ぎていく。

次第に、話題は怪盗団の今後――次の標的(ターゲット)の話になる。

 

 

 

「次は決まってるのか? また大物に行くのか、斑目のような」

 

「いや、何も。それに、大物を改心させたいわけじゃない。目を付けた悪人が大物だっただけだ」

 

「それな。まぁ俺としてはもっと有名になってチヤホヤされてー気持ちもあるけど」

 

「正体がバレないとチヤホヤされようがないけど。獄中でってこと?」

 

「俺が、じゃねーよ。怪盗団がだよ。もっと褒められてーだろ?」

 

「俗物すぎる……。まぁ、否定はしないが。罵倒されるよりはいい」

 

 

 

 鍋がついに空になり片付け作業に入る中、竜司が一人ごちる。

 

 

 

「つっても大物の悪人なんかそうそう見つからねーし、しばらくは小者を改心しつつ様子見かねぇ……」

 

「うん? さっきの話にあった『獅童正義』は?」

 

 

 

 祐介が疑問を投げかけると、ベレスが首を振って即座に否定する。

 

 

 

「まだ無理だ。私とシェズでもあそこのパレスは難しい。きっと、世間への影響が大きい大物ほどシャドウが強いんだと思う」

 

「そうか……だがいずれは挑むんだろう?」

 

「もちろんだ。必ず改心させる、あの男だけは――」

 

 

 

 雨宮が決意を滾らせていると、ベレスが難しい顔をしていた。雨宮が声をかけると、ベレスが口を開いた。

 

 

 

「標的は私も当てはないけど、不穏な噂は耳にしたな。『裏バイト』だとか……」

 

「……調べてみますか?」

 

「そうだね。まずは自分で調べてみるかな――」

 

 

 


 

 

 【あなたは怪盗団を支持しますか?】 ―― YES 19%

 

 【正義に無力感を感じたことがある?】 ―― YES 35%

 

 


 

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