秀尽学園の非常勤講師、ベレス   作:女主人公スキー

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第3章開始です。


episode3 怪盗団『ヴィジランツ』躍進の時 -暴食編-
21.新島真の正義


「ベレス先生。相談があるんですけど、今お時間いいですか?」

 

 

 

 6月13日。ベレスは生徒会長の新島真に呼び止められる。

ベレスが振り返って見た真の顔は、深刻な表情をしていた。

 

 

 

「わかった。生徒会室でいいかな」

 

「はい、お願いします」

 

 

 

 生徒会室に入り、ドアに鍵をかける。椅子に腰かけ、真と対面で話す。

 

 

 

「先生は『裏バイト』って聞いたことありますか」

 

「単語だけなら。詳細は知らない。これから調べようと思っていた」

 

「何人かの生徒から相談を受けています。どうやら半グレが関わってるらしくて……」

 

「半グレ……ヤクザじゃない犯罪者の集団だっけ。どんな被害があるの?」

 

 

 

 真は生徒から集めた情報を集約した資料をベレスに渡す。

 

 

 

「最初は、普通のバイトと比べて高額時給のバイトがある……そういう話で釣り出されるみたいです。

そのバイト自体が実は犯罪の手伝いだったり、バイト先が反社会的な集まりだったり……」

 

「なるほど……悪質だね」

 

「そこで写真を撮られて、『学校やネットにばら撒かれたくなければ××万円持ってこい』と脅す。

これが基本的な手口みたいです。主に学生が狙われてるようで、ネットでも話題になってます」

 

「なんで私に相談を? 一緒に警察に相談しに行くなら、付き合うけど」

 

「警察も既に捜査はしてるそうです。ただ、拠点が複数あって……検挙するにしてもかなり人手と時間がかかるとか」

 

「そう……だったら尚更、どうして私に?」

 

「――怪盗団に依頼しようと思ってます」

 

 

 

 真が意を決して放った言葉に、ベレスがピクリと反応する。

 

 

 

「怪盗団と私に、何の関係が?」

 

「それは分かってます。ただ……怪盗団に依頼するには、改心してほしい悪人の名前が必要ですよね?」

 

「そうらしいね。つまり……私とその『裏バイト』を取り仕切るリーダーの名前を調べたい――ということ?」

 

「……はい。私一人ではミイラ取りがミイラになりかねない。私が知ってる大人で一番頼れるのが先生なんです。お願いします!」

 

 

 

 真は立ち上がり、深く頭を下げる。

 

 

 

「……分かった。とりあえず今日の放課後、聞き込みから始めてみようか」

 

「――ありがとうございます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「目立った収穫はなし、か」

 

 

 

 放課後、ベレスと真は渋谷セントラル街で学生や少し柄の悪い男女などに的を絞って聞き込みをした。

しかし半グレの首魁(ボス)に繋がるような具体的な情報は何も見つからなかった。

 

 

 

「警察はもう把握してるんでしょうか……教えてはくれないでしょうけど」

 

「名前ぐらいは、たぶんね。けど、来る前に半グレに詳しそうな知り合い(岩井と八神)にも当たってみたけど、空振りだった。

派手に立ち回るタイプなら、その辺も知ってるはず。警察に捕まらないように、巧妙に立ち回ってるみたいだね」

 

「どうしましょう。このままじゃ……何もできないまま……」

 

「心配いらないよ。この調子で嗅ぎまわってれば、()()()()()()()()()()()

 

「え……?」

 

 

 

 ベレスは手鏡を取り出して、化粧を直すふりをしながら素早く背後を確認する。

 

 

 

「見られているね」

 

「それって……」

 

「振り向かないで。そっちの路地に入ろう」

 

 

 

 ベレスと新島は自然な足取りで路地へ入り込む。背後の男たちもそれを追ってくる。

路地に入った途端、ベレスは真を横抱きにして上を見る。

 

 

 

「飛ぶよ。舌を噛まないように」

 

「は?」

 

 

 

 ベレスは真を横抱きにしたまま、壁のわずかな突起を足がかりにビルの屋上まで飛び上がっていく。

屋上から路地を見下ろすと、男たちが二人を探している様子が見てとれた。

 

 

 

「……先生って何者?」

 

「ただのしがない非常勤講師だよ」

 

「絶対嘘ですよね!? ……それで、あいつらが半グレのメンバー、ですかね?」

 

「たぶんね。ついていけば、ボスにも会えるかもしれないけど……今度は私達が奴らの餌食になりかねない」

 

「先生でも?」

 

「私でも、10人ぐらいの男に囲まれれば制圧される。だから、それは最後の手段だね」

 

 

 

 (数人ぐらいなら平気なんだ?)と内心で思いながら、真は

 

 

 

「怪盗団がボスを改心してくれることを願って、ってことですか」

 

「うん。でも怪盗団も無敵ってわけじゃないだろうし……何より今回は個人じゃなくて組織が相手だ。そう簡単にはいかないんじゃないかな」

 

「確かに、そうですね……それで、これからどうします?」

 

「彼らを尾行する。危険だから、新島さんは帰ってほしいけど……」

 

「嫌です。大丈夫です、尾行は経験ありますから!」

 

 

 

 (だから不安なんだけど……)と思いながら、ベレスは不承不承に頷く。

 

 

 

「私の指示には従うこと。勝手に動いたら気絶させてでも連れて帰るから」

 

「わかりました。ご指導お願いします!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベレスと真は半グレと見られる男2人を尾行して、拠点の一つと思われる廃ビルに辿り着く。

建物の陰に隠れて、見張りと思われる男達の会話を盗み聞く。

 

 やれこの前ハマらせた学生が笑えたとか、内輪のくだらない話が続く。

 

 

 

「色んな名前が挙がってますけど……」

 

「ボスなら呼び捨てにはしない。特にこういう組織は序列には厳しい」

 

 

 

 根気強く聞いていると、男達が会話の中で挙げる名前の中で唯一敬称がついた名前があった。

 

 

 

「……『ジュンさん』、『キンさん』か」

 

「あだ名ですよね。どっちがボスなんでしょう?」

 

「どっちも、という可能性もある。いずれにしろこれ以上は分かりそうにないね……」

 

「そうですね……撤収しますか?」

 

「うん。とりあえず手がかりとしてはこれで十分だ」

 

 

 

 ベレスは立ち上がり、真と共にゆっくりとその場を離れていく。

駅まで戻ってくると、真はベレスに再び頭を下げた。

 

 

 

「ありがとうございました。私だけじゃどうなってたか……先生に相談してよかったです」

 

「どういたしまして。後は私に任せてくれる?」

 

「何か策が?」

 

「餅は餅屋ってことで……情報を持ってるのは警察だけじゃない。マスコミに当たってみるよ」

 

「なるほど……分かりました、お任せします」

 

 

 

 ベレスは真と別れ、一度自宅に戻る。そして夜を待って新宿に足を運ぶ。

目的地は「バー・にゅうカマー」。

 

 

 

「いらっしゃ~い。あらぁ……珍しいお客様ね。好きなとこ座って?」

 

 

 

 およそバーの店主とは思えない風体の女性――いや、店名からしてニューハーフか――の店主に接客される。

 

 

 

「飲みやすいのを一つ……それと、大宅という雑誌記者がここの常連と聞いた。今日はいる?」

 

「あら、あんたに用みたいよ? そこの飲んだくれが大宅よ」

 

 

 

 店主が、カウンターに凭れかかって酔っぱらっている女性に声をかける。

それに反応して、薄目をあけて大宅がこちらを見て首をかしげた。

 

 

 

「ん~? あんた誰よ。な~んか見覚えあるような気もするけどぉ……初対面よね?」

 

「秀尽高校で会ったはず。覚えてない?」

 

「秀尽……って、怪盗騒ぎがあったとこかぁ! ああ、居た気がする。校長を諫めてくれたっけ~」

 

「ここのことは八神探偵に聞いたんだ。少し聞きたいことがある」

 

 

 

 大宅はふらつく足で立ち上がり、テーブル席を指差して「あっちで話そうよ」と言いソファーにどさっ、と座る。

ベレスも近くの席に座ると、話を切り出した。

 

 

 

「秀尽と、渋谷近辺の学校で『裏バイト』ってのが問題になっているんだ。半グレグループが関わってる、という所までは分かってる。

それと、そのボスか幹部に『キンさん』とか『ジュンさん』と呼ばれる人物がいることも」

 

「……教師がわざわざぁ? 警察に任せればいいじゃ~ん」

 

「その組織のボスの改心を、怪盗団に依頼しようと思っている。正確には私じゃないけど」

 

 

 

 その言葉にへべれけだった大宅の顔が真顔になる。

 

 

 

「へぇ……なるほど。それで名前が知りたいってわけ? 怪盗団って確か名前がないと動かなかったし」

 

「話が早いね。何か知らないかな?」

 

「……教えるのはいいけど、こっちも何かネタが欲しいな。鴨志田と怪盗団の記事、かなり評判良かったのよね。

独占取材できたのはマジでデカかった。でも斑目の時は後追いだったからイマイチでねー……ね、何かない?」

 

「怪盗団のネタか……」

 

 

 

 ベレスは少し逡巡したのち、雨宮と三島を売ることにした。

 

 

 

「私が教えている生徒に、雨宮蓮という子がいる。鴨志田の被害者の1人で、怪盗団の熱烈なファンでね。

怪盗団のことなら、彼が一番詳しい。それと、三島って子は『怪盗ch』の管理人なんだ。彼からも話が聞けると思う」

 

 

 

 内心で二人に謝りつつ、知っている雨宮の連絡先を渡す。

 

 

 

「雨宮蓮……そのコってもしかして、テレビで明智くんと討論してたコだったりする?」

 

「それは本人に聞いてほしい。私からは言えない」

 

「あっそう……分かった。とりあえずそれでいいわ。教えてあげる……っても名前だけだけど」

 

 

 

 大宅は酒をぐっと呷ると、ぷはぁと息を吐いて口を開く。

 

 

 

「――『金城潤矢』。あんたが言ってる半グレのボスは金城だと思う」

 

「金城潤矢……なるほど。金城でキンさん、潤矢でジュンさんか。間違いなさそうだ」

 

「怪盗団、動いてくれるといいわねぇ……ララちゃ~ん! もういっぱ~い!!」

 

 

 

 ララと呼ばれた店主は、心底呆れた表情で大宅に追加の酒を注ぐ。

 

 

 

「あんたいい加減にしなさいよ……ぶっ倒れても介抱しないわよ」

 

「ごちそう様。私はそろそろ失礼させてもらうよ」

 

 

 

 ベレスはグラスの残りを飲み干すと、席を立って店を出る。

 

 

 

「え~!! もうちょっと呑んでこうよ~!」

 

「明日も早いから、ごめんね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、6月14日。朝、ベレスは真へ『金城潤矢』のことを報告する。

 

 

 

「金城、潤矢……それがボスの名前ですか」

 

「うん。間違いないと思う」

 

「ありがとうございます。早速依頼してみますね!」

 

 

 

 真を見送ったベレスは、今度は雨宮へ連絡を入れる。

金城のこと、大宅のことを簡単に報告したあと、アジトへ放課後に集合してもらうことにする。

 

 そして放課後。アジトに集まったシェズを除く面々はベレスによって『金城潤矢』と金城が率いる半グレの所業の説明を受ける。

 

 

 

竜司

「聞いてるだけで胸糞が悪くなってくるぜ……クソすぎんだろ」

 

祐介

「それも氷山の一角だろう。もっとえぐい目に遭っている者もいるんじゃないか」

 

雨宮

「だろうな。見ろ、生徒会長から依頼が来てる」

 

 

 

 


 

『金城潤矢』という人が率いる半グレのグループが、学生を中心に高額バイトと称して犯罪の手伝いをさせて

弱みを握って大金を搾取したり、女子には売春をさせたりなど主に渋谷で被害が拡大しています。

 

どうか改心をお願いします。

 


 

 

 

 

「売春させるとか最低すぎ……。名前も分かったし、改心するよね?」

 

ベレス

「全員が異存なければ。どうかな?」

 

 

 

 全員を見回すと、黙って頷いてみせた。

 

 

 

モルガナ

「よし、全会一致だな。さっそくパレスに向かうか?」

 

雨宮

「ああ。とりあえずは様子見といったところだが……まず場所とキーワードを考えよう」

 

かすみ

「場所は……確か拠点がいくつもあるんですよね。特定の場所っていう感じじゃなさそうですけど……」

 

祐介

「依頼文にある通り、渋谷全体で被害があるんだろう? なら、渋谷でいいんじゃないか」

 

竜司

「渋谷全域ってことかよ。やべーな……それで合ってるとして、あとはキーワードだな」

 

モルガナ

「こいつらの目的は金だろ。金に関係するところじゃないのか?」

 

雨宮

「金か……。最初(バイトとして)金を渡して、後でそれ以上の金を回収するというのは『銀行』に近いと言えなくもないが……」

 

ベレス

「銀行か。試してみよう」

 

 

 

 


 

キーワード 【金城潤矢 銀行】

 

▼新規パレスの反応がありました。

 

▼ナビゲートを開始します・・・・・・・・・

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 異世界の渋谷は様相が変わり、金城の認知により道行く人がATMに手足が生えた状態で歩いている。

 

 

 

竜司

「んだこれ……」

 

雨宮

「すごいな……今までで一番規模の大きい認知の歪みだ」

 

かすみ

「渋谷の人たちを金蔓って思ってるってことですよね、これ」

 

「街ごとパレスって……やばいでしょ金城」

 

祐介

「だがキーワードは『銀行』だろう。どこかに奴の根城があるはずだ」

 

ベレス

「そうだね……探してみよう」

 

 

 

 

 異世界の渋谷を歩く。『城』の城門前、『美術館』の外観のようなものなのだろう。

ATMと化した人の姿はあってもシャドウの姿はない。

 

 そして時折、煙を吐いたATM人間の姿を目にする。金城の被害者だろうと判断し話を聞くことにする。

殆どの被害者は絶望の言葉を吐くばかりだが、1人まともに受け答えができる被害者もいた。

 

 

 

「金城は、『足のつかない場所』にいる……俺はそこから墜ちた」

 

 

 

 その言葉から、『銀行』は高所にあると考え、空を見上げる――

 

 

 

モルガナ

「嘘だろ……」

 

竜司

「浮いてやがる……」

 

 

 

 そこには空に浮かぶ巨大な銀行が渋谷上空を航行していた。

 

 

 

雨宮

「なるほど……足がつかない場所か」

 

「感心してる場合じゃないでしょ。どうすんのよ……あんな高いとこ」

 

モルガナ

「ちなみに、ワガハイは車にしかなれないからな」

 

かすみ

「困りましたね……」

 

祐介

「足がつかないだけでなく、外野に手出しさせない強固なセキュリティか。一見どうしようもないように思えるが……」

 

雨宮

「入る方法はあるはずだ。今日は仕切り直して、考えよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、6月15日。朝の登校中、雨宮と竜司が昨日のことを話していた。

 

 

 

「金城のパレス、なんか思いついたか?」

 

「いや……」

 

「だよな。今回ばかりはマジで無理かもしれねー……」

 

「……かもな」

 

 

 

 その後方で登校していた真は、「金城」というワードに反応して耳を聳てる。

 

 

 

異世界(あっち)にヘリコプターでもあればな。パラシュートで空中降下とか、怪盗っぽくね?」

 

「確かに、それはかなり怪盗だな。あのパレスより高い建物があれば、ハンググライダーとかもアリだ」

 

「いいねぇ……っても、ない物ねだりは虚しいな。今回ばかりは怪盗団もお手上げか……潜入すら出来ないとは思わなかったぜ」

 

「潜入は無理だろうな……全うに入る方法はあるかもしれない」

 

「え、マジ?」

 

 

 

 竜司が驚いて振り返る。真は生徒の背中に隠れながら、更に耳を澄ませる。

 

 

 

「金城の顧客になれば入れるはずだ。あの被害者も元はあのパレスにいたんだろうしな」

 

「おお……でもそれって、金城に弱み握られるってことだろ? やばくね?」

 

「そうだな。自分から被害者になりに行くのは……先生が反対すると思う」

 

「だよな……」

 

 

 

 真の中で一本の線が繋がる。やはり心の怪盗団は雨宮たちだったのだ。

そして、詳細は不明だが金城の被害者にならないと仕事を始められないらしい。

 

 

 

「誰かが犠牲になれば……みんなを助けられるなら、私は――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同日放課後。雨宮はベレスと人のいない廊下で、パレスの潜入方法について相談していた。

 

 

 

「……やっぱり駄目ですか」

 

「駄目だよ。金城を改心させないといけないのは分かる。でも、自分から被害者になりにいくのは違う」

 

「斑目の時は、先生自ら敵の懐に入っていきましたよね。同じことじゃないんですか」

 

「私は大人で、現実でも戦える力もある。職を失っても貯金がある。でもキミ達は違う。現実では弱い未成年が、いらないリスクを負うべきじゃない」

 

 

 

 ベレスの隙のない正論にたじろぎながらも、怪盗団のリーダーとして反論を返す。

 

 

 

「改心すればリスクはなくなると思いますが……」

 

「絶対に成功するとは限らないよ。自信を持つのはいいことだけど、自分の力を過信すべきじゃない。

それに今回はただ金城を改心するだけじゃリスクはゼロにはならない。反社会的な組織を相手にする以上、慎重に動かないと」

 

「じゃあ、金城の改心は諦めるんですか? 他に入る方法はないと思いますが」

 

「視野狭窄になってない? 他にも方法はあるはずだよ。時間はあるんだからゆっくり考えて――」

 

 

 

 その時、ベレスのスマホが鳴動する。着信元は真からだった。

 

 

 

「……新島さん?」

 

『先生……私、今渋谷にいます。この前見た2人組を見つけました。これから、話を聞きにいきます』

 

「待って。何でそんなことを」

 

『今朝、雨宮くん達の会話を聞いたんです。金城は怪盗団でも手を出せない、被害者にならないと金城の近くには行けないって』

 

 

 

 ベレスは雨宮をちらりと窺い見る。

 

 

 

「新島さん、落ち着いて。方法はそれだけじゃない。あなたが犠牲になる必要は――」

 

『でも、これが一番手っ取り早いんでしょう? 私、怪盗団のこと信じてますから』

 

 

 

 そこで真からの通話は切れた。ベレスは鞄を手にして、真を止めるべく歩き出す。

 

 

 

「――俺も行きます」

 

「駄目。みんなは待機していてほしい。新島さんは私が助ける」

 

「……でも、先生」

 

「もう行くから」

 

 

 

 急ぎ足で去っていくベレスを、雨宮は拳を握りながらただ見送る。

 

 

 

「先生、またそうやってあなたは……俺だって先生を守りたいのに」

 

 

 

 雨宮は自分が庇護対象(生徒)であることは自覚しつつも、現実でも異世界でもベレスに頼らざるを得ないことに寂寥感を覚える。

異世界で力を得たとは言え、現実では一介の学生でしかない。それをまざまざと突きつけられた気分だ。

 

 

 

「強くならなきゃな……せめて異世界では先生を助けられるぐらいに」

 

 

 

 

 

 

 

 

「金城さんと話をさせてくれませんか? 学生を騙して脅して、金を搾取するのはやめてほしいんです」

 

「なんだこのガキ……なんで金城サンのことを知ってんだ?」

 

「さぁ、何ででしょうね。早く案内してもらえるかしら。下っ端に用はないの」

 

「何だとこのアマ……」

 

 

 

 男達は真に凄んでみせたが、真は一歩も退かずに男たちを睨み続ける。

 

 

 

「まぁいいか。質問に答えたら案内してやってもいい。保護者は何の仕事してる?」

 

「答えたくありません」

 

「あ? いいから答えろよ。金城サンに会いたいんだろうが」

 

「……年の離れた姉が検事をしてるわ」

 

「いいねぇ。姉妹で売り出せばいい商品(金蔓)になりそーじゃん。ついて来な」

 

 

 

 真の顔と体を厭らしい目つきで観察してくる男に怖気を走らせつつも、真は路上に停められた車に乗り込む。

車窓から風景を眺めていると、見知った緑髪の女性と目が合った気がした。

 

 

 

「先生……」

 

 

 

 半グレの懐に飛び込み、罠にハマりにいく真を止めに来たのだろう。

間に合えばいいが、手遅れになればベレスもまた金城たちの毒牙にかかってしまうだろう。

 

 ベレスを巻き込むつもりはなかった――ではなぜベレスに連絡したのか? 勝手に行動して、事後報告でいいものを。

以前に一緒に調査した時に釘を刺されたから、知らせておくべきだと思った。そういう気持ちもあっただろう。

 

 だが、本当のところは保身のためだ。半グレに近づいて無事に済む保証などない。

ベレスなら助けてくれるだろうという打算があったのは否定できない。

 

 

 

「何が正義よ、この半端者……覚悟もないのに突っ走って……先生を巻き込んで……!」

 

 

 

 今更、真の手足がカタカタと震えだす。自分の弱さを自覚したことで、向かう先が破滅への道だと知覚して。

ベレスが助けられる保証も、怪盗団が改心できる保証もない。そんな当たり前のことに今更気付く。

 

 

 

「どうしよう、お姉ちゃん……私、とんでもないことを――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベレスは真と同じ方法で、金城の拠点に連れ込まれた。以前の拠点とは違う場所だ。

 

 

 

「降りろ」

 

 

 

 後部座席に座っていた男にせっつかれ、車から降りる。

運転していた男と合わせて2人の男に挟まれながら拠点の入口に向かう。

 

 入口では見張りと思われる男が2人。計4人の男にベレスは囲まれ、見定められる。

 

 

 

「へへへ……いい女だろ」

 

「外人か? よく見つけてきたな、こんな上物」

 

 

 

 べたべたと髪や肩、腰などを触ってくる手を振り払い、ベレスは口を開く。

 

 

 

「ここに私の生徒が来ているはず。彼女を無事に帰してくれれば、私は通報したりしない」

 

「生徒? ってことは教師かよあんた」

 

「さっきのガキかね? 連れ戻すために、わざわざこんなとこまで来たのかよ」

 

 

 

 ニヤニヤと笑いながら、ベレスを取り押さえるべく取り囲む輪を狭めていく。

 

 

 

「キミ達と問答するつもりはない。彼女を帰してほしい、さもなくば」

 

「さもなくば、なんだよ。女が男4人相手に何かできるつもりか?」

 

「…………」

 

 

 

 男達はベレスが何か動きを見せたら、その瞬間拘束しに動くつもりだった。

しかし、ベレスは全く動くことなく。

 

 

 

「――『サンダー』」

 

 

 

 逆に男達の身に電流が走り、1人また1人と気を失っていく。

ふう、と溜め息を吐きながらベレスは先に進む。構成員が1人で悠々と歩くベレスを取り押さえようとするが、すべてベレスの魔法の前に倒れていく。

 

 一番奥の部屋に辿り着くと、そこには夜の店にあるようなソファやテーブルが用意されていた。

半グレの幹部と思われる数人の男と、何人かの女性。そして中央に座る青いスーツを着こんだオールバックの太った男――恐らく彼が金城だろう。

 

 そんな彼らに囲まれ、肩を掴まれ縮こまっている女性――真の姿を見つける。

 

 

 

「新島さん、帰るよ」

 

 

 

 かけられたベレスの言葉に、俯いていた真がバッと顔をあげる。

 

 

 

「――先生っ! 逃げてください! こいつら、やばいんです――うぐっ」

 

「黙ってろ。おい、見張りはどうした」

 

「彼女を離すなら教えるよ。私としても手荒な真似はしたくない」

 

「チッ……舐めてんじゃねぇぞ女ぁ!!

 

 

 

 ガタイのいい筋肉質の男が立ち上がり、怒りのままベレスへ向かっていき拳を振り抜く。

ベレスは何でもないようにあっさりと躱し、カウンターで男のみぞおちに肘打ちを当てていく。

 

 男は崩れ落ちて膝をつく。うめき声をあげて痛がる姿に嘲笑の声があがる。

 

 

 

「ギャハハ! 何避けられてんだよ、だせぇな」

 

「しっかり反撃喰らっててウケる~w」

 

 

 

 そんな中、青いスーツの太った男――金城潤矢だけは真顔のままだ。

 

 

 

「お前ら馬鹿か? 笑ってる場合じゃねぇ……この女は見張りを全部倒して来てるんだよ。ただの女じゃない」

 

 

 

 金城は立ち上がり、距離を取りながらもベレスと向かい合う。

 

 

 

「あんたが俺達を殺すつもりなら、簡単にできそうだ。そうだろ?」

 

「……キミが金城潤矢でいいのかな?」

 

「そうだ。意外だったか? こんなデブが半グレのボスやってるのは……だがな」

 

 

 

 金城は懐から何かを取り出してそれを真へと向ける。

 

 

 

「えっ……は? や、やめ――」

 

 

 

 それは拳銃だった。金城は狙いを定めると躊躇なく引き鉄を引いた。

 

 

 

パァン!!

 

 

 

 と乾いた銃声が響き渡る。銃弾は真の顔スレスレを通り抜け、壁に穴が開いた。

ベレスが真を庇いに行く暇すらなかった。もし、その気になれば金城は真を殺せる。殺されてしまう。

 

 

 

「あんたなら分かるだろ。俺が今わざと外したってことがよ。次は当てるからな?

俺はガキ1人の命ぐらい、どうだっていいんだ。だがお前は違うよな?」

 

「…………」

 

 

 

 ベレスの魔法と金城の早撃ち、どちらが早いか。自信はあるが、同時に放った場合真が撃ち殺される。

それを思えばベレスとしては金城には手を出せない。業腹だが、金城に従うしかない。

 

 

 

「おい、そのガキを押さえとけ。お前が撃たれたくなければな」

 

「へっ、へい」

 

 

 

 男の一人が真の肩や腰を掴み、身体を固定する。金城は未だ、真へ銃口を向けている。

 

 

 

「……どうすればいいのかな。このまま真と一緒に大人しく帰してくれるなら、私はキミのことを忘れるけど」

 

「帰ろうとすればガキを殺す。お前にはしばらく眠ってもらう――おい」

 

 

 

 金城に命じられた男が、コップに入った水に何か粉末を混ぜ入れる。それをベレスが受け取る。

 

 

 

 

「飲め。30秒以内に飲まなければ――」

 

「分かったよ」

 

 

 

 ベレスは渡されたコップの水を一気に飲み干す。飲んだ直後から眠気が襲い、それは徐々に強まっていく。

意志で抗うにも限度がある――もって数分程度で意識が落ちてしまうだろう。

 

 

 

先生っ!!

 

「……新島さん、ごめん。私の考えが甘かった。ここまでとはね……」

 

 

 

 ベレスは強烈な眠気に膝をつく。目を開けるのも億劫になってきた。

 

 

 

「ハハハッ、結局暴力には勝てねぇわけだ。これで晴れてあんたも俺達の顧客リスト(金蔓)の1人だ。よろしくな?」

 

「……金城潤矢。キミ達は、必ず――」

 

 

 

 破滅させる――と言い終わる前に、ベレスは倒れ伏す。

 

 

 

「……さて、撮影会といこうか。お前、先生をソファまで持ってこい」

 

 

 

 男の一人が意識のないベレスを抱え、ソファに寝かせる。

ベレスの鞄を漁り、身分証を探り当てる。

 

 

 

「ベレス=アイスナー、21歳……若いな。だが成人してるなら酒やタバコは意味がねぇ。そもそも意識がないなら……」

 

 

 

 金城は少し考えて、まだ脇腹を押さえている筋肉質の男に目を向ける。

 

 

 

「お前、こいつにやり返したいだろ? 抱かせてやるよ。つっても()()だが」

 

「そういうことっすか……へへ、殴られた甲斐があるってもんだ」

 

 

 

 男は金城に言われるまま、意識のないベレスに近づく。

 

 

 

「あたかもヤってるかのような写真にするからな。服は脱がせろ。全裸か下着姿かはお前に任せるが」

 

「了解……へへへ」

 

 

 

 男はベレスの服を一枚ずつ脱がせていく。その様子を見ていた真が金城に懇願する。

 

 

 

お願い、先生にひどいことしないで! 私はどうなってもいいから……

 

「黙れ。お前に発言権はないんだよ……殺すぞ」

 

「……っ」

 

 

 

 金城が真の額に銃口をぐりぐりと当て擦る。真は一度撃たれた恐怖から黙り込む。

 

 

 

「眠ってると分からないように、対面座位で……服は近くに置いとけ。お前も上着は脱いで肩のタトゥーが見えるようにしろ」

 

「ふぅ……やべぇな。生殺しもいいとこっすよ潤さん。別にヤっちまってもよくねっすか」

 

「馬鹿が。大事な商品を傷つければ価値が下がるんだよ。あとで商売女に処理してもらえ」

 

「……っす。とりあえずこんな感じでいいすか? おい、写真頼む」

 

 

 

 ベレスとタトゥーを入れた反社風の男が抱き合い、ソファーで性行為を行っているような写真が撮られる。

顔は写っていないものの、特徴的な緑髪、傍に置かれた服、身分証から言い逃れはできないだろう。

 

 

 

「……パンチが弱いな。テーブルに覚せい剤でも置いとくか」

 

 

 

 改めてもう1枚写真が撮られる。そして金城は次に真へ顔を向ける。

 

 

 

「次はお前だ、生徒会長さん。新島だっけか……ま、そこの先生みたいな恥ずかしい写真は勘弁してやるよ」

 

 

 

 金城が合図すると、真の前に酒とタバコが用意される。

 

 

 

「まず酒からだ。次にタバコ。品行方正な生徒会長サマなら、これだけで致命傷だろ?」

 

「……最低」

 

「言う通りにしろよ。今度は先生を殺すからな?」

 

 

 

 金城は再び服を着させたベレスに向けて銃口を向ける。

 

 

 

「写真を取ったら帰してくれるのね……?」

 

「丁重にな。大事なお客様だ、当たり前だろ? 分かったら早くしろ」

 

「……絶対に」

 

 

 

 絶対に赦さないから。

そんな言葉を呑み込みながら、酒が注がれたジョッキを手に取り、口に含む。

 

 パシャリ、と写真が撮られる。

 

 続いてタバコを口に咥えて、火をつける。その様子も写真に撮られてしまう。

いずれも学生証と一緒に。学校に知られたら……特にあの校長なら退学は免れないだろう。

 

 

 

「とりあえず新島、お前は300万持ってこい。そっちの先生は1000万だ。しっかり伝えとけよ」

 

「なんで先生だけ、そんな……」

 

「社会人だからな。いざとなれば闇金とかで借りれるだろ? お前はオネーチャンに頼むんだな。検事ならそれぐらい払えるだろ」

 

「……どうせ払っても脅してくるんでしょう?」

 

「かもな。でも払わなきゃ確実に破滅だ。賢い選択をしろよ」

 

 

 

 真は立ち上がり「帰ります」といってまだ眠るベレスに近づく。

 

 

 

「お客様がお帰りだ。送ってやれ……丁重にな」

 

「っす」

 

 

 

 男の一人がベレスを抱えて、真と共に部屋を出ていく。

真と眠ったままのベレスは、車に乗せられて帰路につく。

 

 

 

「先生、ごめんなさい……私のせいで……」

 

 

 

 眠るベレスへ懺悔のように言葉をこぼす。

やがて車は見知った場所に辿り着き、そこで二人とも下ろされる。

 

 

 

「名前も連絡先も抑えてるからな。逆らうんじゃねーぞ。払えないなら身体で稼いでもらうからな」

 

 

 

 男はそう言い残して車で走り去っていった。

 

 

 

「…………」

 

 

 

 眠ったままのベレスを膝に抱えながら、真は呆然と佇む。

その時、ベレスの鞄から着信音が鳴り響く。取り出すと、画面には「雨宮蓮」と表示されていた。

 

 

 

『もしもし、雨宮です。先生、今の状況は――』

 

「雨宮君。先生は今眠ってるわ。今――にいるから、迎えに来てくれると助かる」

 

『その声は……生徒会長? 眠ってるって、何があったんですか』

 

「その話は会って直接しましょう。それより……雨宮くん達は怪盗団、なのよね」

 

 

 

 電話越しに雨宮が息を呑む音が聞こえる。暫し沈黙が続いたが、意を決したのか雨宮が口を開く。

 

 

 

『……朝の会話、聞いてたんですね』

 

「ええ……お願い。先生を助けてあげて。これで心を盗めるのよね?」

 

 

 

 雨宮は「はい」と力強く肯定し、宣言する。

 

 

 

『金城潤矢。奴の歪んだ欲望は、俺達が必ず頂戴する。そして助けるのは先生だけじゃない……新島先輩や被害者全員だ」

 

 

 

 

 




金城や半グレ(原作では自称マフィア)の設定はジャッジとクロスしてることもあり、多少盛ってます。
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