秀尽学園の非常勤講師、ベレス   作:女主人公スキー

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22.暴食の銀行①

 あれから、自室で目覚めたベレスは雨宮と真から事の顛末を聞いた。

ベレスと真が金城の顧客になったこと。それによって、恐らく金城のパレスに入れるようになった。

 

 

 

「支払い期限については何か聞いてる? 新島さん」

 

「あ、はい。あれから連絡があって、7月9日までに持ってこいって……」

 

「今日が6月15日だから、3週間以上ある。良心的だね……」

 

 

 

 呑気な様子のベレスを見て、雨宮が苦言を呈す。

 

 

 

「先生、反省してます? 今回、下手すれば暴行……殺されてもおかしくなかった。最初に提示した俺が言えたことじゃないかもしれませんが……」

 

「うん、ごめん。想像していたより危ない男だったよ、金城潤矢は……。金目当てじゃなければ危なかった」

 

「先生は悪くないです。私が思いつめて突撃しなければ……本当にごめんなさい」

 

 

 

 改めて謝罪する真の頭をベレスは慰めるように撫でる。

 

 

 

「浅慮だったのは私も同じだ。それより前向きに考えよう。これで怪盗団も動けるようになる」

 

「そうですね。ところで、新島先輩にバレてしまったのは……」

 

「大丈夫よ。誰にも言いふらしたりしない……大体、今の私が怪盗団を貶めても良いことはないし」

 

 

 

 

 

 

 

「それよりも……私も怪盗団に協力させてほしい。金城に近づくには被害者が必要なのよね?」

 

「それなら私がいる。真がまた危険な目に遭う必要はないよ」

 

「でも……!」

 

 

 

 言い募る真をベレスはすげなく拒否するが、雨宮が助け舟を出す。

 

 

 

「先生が常に活動を共にしてくれるなら願ったり叶ったりですね。仕事があっても関係なく参加してくださいよ?」

 

「……キミもずいぶん口が達者になったね」

 

「先生の指導の賜物です」

 

「仕方ない……真。しばらく怪盗団に協力してくれるかな。危険が及ばないようにするから」

 

「はい!」

 

 

 

 元気よく返事した真に頷きを返しつつ、ベレスは時刻を確認する。

 

 

 

「もう時間も遅い。詳しい話は明日話そう。雨宮くん、新島さんを送っていってくれるかな? 佐倉さんには私から連絡を入れておくよ」

 

「分かりました。連絡、助かります。行きましょうか、先輩」

 

「あ、うん」

 

 

 

 玄関先まで二人を見送ってから、自室に戻る。

スマホを確認すると、金城から眠っていた時の写真が送られてきていた。

 

 

 

『この写真データは俺と幹部連中のスマホとクラウドに保存されてる。おかしな真似をすればすぐに流出させるからな?』

 

 

 

 金城ら半グレを潰すには、金城を改心するだけでは足りない。

データと組織が無事である限り、被害者は安心できない。手を出すと決めた以上、無責任なことはできない。

 

 

 

「総力戦になるね……()()にも声をかけておくか」

 

 

 

 そう独り言ちて、スマホを操作していると右手の紋章がチカチカと輝きだす。

 

 

 

「……熱っ!?」

 

 

 

 早く呼べとばかりに紋章の光が熱を持っていく。

 

 

 

「……『エーデルガルト』」

 

 

 

 名前を呼ぶとエーデルガルトが光の中から現れる。その表情は険しい。

 

 

 

「今回の顛末、本当に呆れたわ。(せんせい)の向こう見ずなところに救われた身ではあるけれど、流石に考えなしすぎるわ」

 

「返す言葉もないけど……何で知ってるの?」

 

「呼ばれなくても、(せんせい)のことを想っていれば視えるのよ」

 

「そうなんだ……」

 

 

 

 エーデルガルドは椅子に座り、神妙な態度のベレスと膝を突き合わせる。

 

 

 

「半端な対応をするから悪人がつけあがるのよ。あの子()を巻き込んででも、魔法で制圧すれば問題なく帰れたでしょう?」

 

「……うん」

 

「あの金城という男が金にこだわるタイプで助かったわ。そうじゃなければ、あのまま監禁されて慰み者になっていてもおかしくなかった」

 

「反省してる、本当に」

 

 

 

 シュンとした顔のベレスを見て満足したのか、エーデルガルトは足を組んでリラックスした態勢で今後の方針について問う。

 

 

 

「ならいいわ。金城の組織は、完膚なきまでに叩き潰して。策は考えているんでしょう?」

 

「大まかにはね」

 

「なら、このあとクロードと作戦を詰めなさい。私よりはあの男のほうが適任でしょうし」

 

「分かった。そうさせてもらう」

 

 

 

 ベレスはクロードを呼ぶ前に、エーデルガルトの手を取り薄く微笑む。

 

 

 

「心配してくれてありがとう、エル」

 

「貴女ほど替えのきかない将はいないのだから、諫言するのは当たり前のことよ。

今は怪盗団に貸し出しているけれど、戻ってきたらこき使ってやるんだから」

 

「お手柔らかに頼むよ。いつ戻れるかは分からないけど……もし年老いて戻ってきても見捨てないでね」

 

「仮に戦力として数えられなくなったとしても、あなたがいるといないでは大違いよ。それぐらい大きな存在ってこと、自覚して頂戴」

 

「期待が重いな……」

 

 

 

 苦笑いを浮かべながら、ベレスはエーデルガルトに別れを告げてクロードを呼び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、6月16日。放課後、アジトに集まった怪盗団。欠席しがちなかすみやシェズも今日はいる。

そして、その中には真の姿もあった。

 

 

 

雨宮

「――というわけで、今後しばらく新島先輩に協力してもらうことになった」

 

竜司

「生徒会長が……マジかよ」

 

「昨日そんなことがあったんだ……先生、会長も大丈夫? 変なことされてない?」

 

ベレス

「大丈夫。心配かけてごめんね」

 

「早まった行動で先生を巻き込んでしまって、本当にごめんなさい。でもこれで、金城を改心できる――のよね?」

 

かすみ

「そのはずです。えっと、改心の方法とかって新島先輩にはまだ?」

 

雨宮

「ああ。口で説明するより見てもらったほうが早い」

 

モルガナ

「それもそうだな。じゃ、早速行くか」

 

「……猫?」

 

 

 


 

キーワード 【金城潤矢 銀行】

 

▼ナビゲートを開始します・・・・・・・・・

 


 

 

 

 

「えっ!?」

 

 

 

 真は様相の変わった渋谷を見て、驚愕の声をあげる。

 

 

 

モルガナ

「これが金城のパレスだ。もっとも、本丸じゃないがな」

 

「猫がしゃべってる!? それに、皆のその格好は……いつの間に?」

 

ベレス

「そのあたりも説明するよ」

 

 

 

  ・

 

  ・

 

  ・

 

 

 

「まだ飲み込めてないけど、とりあえず把握しました。それで、ひとつ疑問なんですけど……先生はその仮面つけてないんですね?」

 

ベレス

「私はペルソナを持ってないからね。その代わり魔法が使える」

 

「別世界から来た、って言ってましたね。元は傭兵だとも……色々納得しました。

もう一つ、そこの紫髪の女性……えっと?」

 

シェズ

「シェズよ」

 

「シェズさんも仮面がないってことは、ペルソナを持ってないんですか?」

 

シェズ

「持ってるわよ。ただ、皆とは召喚方法が違うの」

 

 

 

 シェズは太腿のホルスターから召喚銃を取り出してみせる。

 

 

 

「その銃でこめかみを撃って……? そんなやり方もあるんですね」

 

雨宮

「パレスではペルソナがないとシャドウに勝てない。先生やシェズさんぐらい強ければ別ですけど」

 

「空手ぐらいじゃ……駄目よね。大人しくしてるわ。それで、金城のパレスの本丸って?」

 

 

 

 真が問うと、全員が空を指差す。

 

 

 

「空飛ぶ……銀行? これが金城の――認知世界」

 

ベレス

「さて……私達がいれば入れるはずだけど」

 

「……そうですね。呼びかけてみましょうか」

 

 

 

 真は一歩前に出ると、銀行に向けて大声で呼びかける。

 

 

 

「支払い方法の相談がしたいの。そちらに伺いたいのだけど、どうしたらいいのかしら」

 

 

 

 すると、銀行が高度を下げ、空からタラップが降りてくる。

 

 

 

『ニイジマ様、ベレス様。どうぞご入場ください』

 

 

 

 緊張を隠し切れない真を慮って、ベレスが先にタラップを踏んで皆に振り返る。

 

 

 

「行こうか」

 

 

 

 客であるベレスと真が先導する形でタラップを登り、銀行に入っていく。

入り口前の空間には金の成る木や金色の豚の貯金箱などが飾られている。

 

 

 

祐介

「まさしく金の亡者、だな」

 

竜司

「つーか、俺らも普通に来れたな? 拒否されるかもとか思ってたんスけど」

 

かすみ

「それだけセキュリティに自信があるって事じゃないでしょうか?」

 

「まぁ銀行だしね。攻略大変そ~……」

 

 

 

 そんな話をしつつ辺りを見回すが、扉以外の潜入口は見当たらない。

 

 

 

シェズ

「見た感じ、入れそうなとこは入口以外ないけど……」

 

モルガナ

「いや、そんなはずはない。カードに表と裏があるように、人に二面性があるように……()()()()()()()()()()()

 

竜司

「適当言ってんじゃねーだろーな!?」

 

モルガナ

「……確かだぜ。経験としか言えないがな」

 

ベレス

「信じるよ。手分けして裏口を探してみよう」

 

 

 

 それほど広くもない空間だ。数分後に雨宮が『サードアイ』で金色の豚の貯金箱に何かがあると睨みをつける。

基底部を調べるとかすかに風を感じる。像を動かすと地下に続く入口があった。

 

 だが、その入口は()()()()()()()()()()()。一度中へ入り、中から開けないと潜入口としては使えない。

 

 

 

ベレス

「どうしようか、雨宮くん(ジョーカー)

 

雨宮

「ひとまず入口から中に入るしかないですね。ただ、この人数で入るのはスマートじゃない。

陽動部隊が先に入って敵の注意を引いている隙に本隊が入って、潜入口を確保したら今日は一度撤退します」

 

ベレス

「いいと思う。陽動部隊は客である私と真、それとシェズとかすみ(ヴァイオレット)の協力者組で行こう。私達がいれば囲まれても何とかできるだろうし」

 

雨宮

「はい。お願いします」

 

 

 

 怪盗団は後方に控え、ベレス達が入口の前に立つ。

 

 

 

「えっと……1年の芳澤さんよね? 前に勉強会で一緒だった」

 

かすみ

「はい、芳澤かすみです。よろしくお願いします!」

 

「ええ、よろしく……。あの、ヴァイオレットっていうのは?」

 

かすみ

「えっと、こっちではコードネームで呼ぶことになってるんです」

 

「コードネーム……なるほど」

 

 

 

 真は納得したのか頷きながら、ベレスとシェズのほうへ振り向く。

 

 

 

「先生とシェズさんのコードネームは?」

 

ベレス

「マスター、と呼んでもらってる。シェズは……」

 

シェズ

「ないのよね。実はしっくりくるのがなくって……」

 

「傭兵でしたっけ……マーセナリーはちょっと長いですよね。いや、ヴァイオレットのほうが長いですけど……」

 

かすみ

「でも分かります。呼びやすさが違うっていうか……」

 

ベレス

「無駄話はそこまでだ。行こうか」

 

 

 

 入口の扉を開け、客として入口の扉を開ける。

中に踏み入れると、いきなり警備員の姿をしたシャドウが立ち塞がる。

 

 

 

『本日はどういったご用件で?』

 

「頭取に支払い方法について相談があるの。取り次いでくれるかしら?」

 

『失礼ですがアポイントは……』

 

「私達がお金を出さないと困るのはそっちだろう。いいから取り次いで」

 

 

 

 顔を見合わせ小声で相談をはじめるるシャドウ。その時、館内放送で『お通しして差し上げろ』と金城の声がする。

 

 

 

『失礼いたしました。応接室はそこの奥になります』

 

『それと、余計な場所には立ち入らないでください』

 

 

 

 シャドウ達が道を空けると、ベレス達は堂々とその間を歩いていく。

 

 

 

「別の場所に行こうとすれば、彼らの目を引けそうだね」

 

 

 

 ベレスが小声でそう呟くと、それぞれ頷き揃って脇道に逸れていく。

 

 

 

『おい待てッ、そっちじゃない!』

 

『うろちょろするな!!』

 

 

 

 警備員が持ち場を離れ、ベレス達を追いかける間に怪盗団がこっそりと入り込み潜入口の確保へ動く。

それを見届けたあと、警備員たちに連れ戻されながら今度は本当に応接室へ向かう。

 

 

 

ベレス

「このままシャドウの金城と会って相談や交渉しても意味はない。だから、適当にあしらって帰ろう」

 

「そのあと、怪盗団(みんな)と合流するんですね?」

 

ベレス

「うん。潜入口から脱出して、今日は解散」

 

 

 

 言いながら、応接室の扉を開ける。そこのソファにシャドウ金城が座っていた。

 

 

 

「お待ちしてましたよ。ベレスさん、真さん……そしてお連れの方も。どうぞ、そちらに腰掛けてください」

 

 

 

 言われた通りに座ると、シャドウ金城はベレス達を順番に舐めるような視線で観察しながら口を開く。

 

 

 

「支払いに関する相談と聞いていますが……?」

 

「期限、何とか延びませんか。3週間じゃとても……」

 

 

 

 意味がないと知りつつも、真が期限の延長を求める。

 

 

 

「でしたら、延長どころか期限なしになるプランもございますよ。私どもの提示する条件を飲んで頂ければ、ですが」

 

「条件ね……一応聞いておこうか」

 

「条件は私どもが経営する違法風俗店に勤務すること。真さんの場合はお姉さんと一緒にお願いすることになります」

 

 

 

 

 

 

 

「ふざけないで!!」

 

「条件に納得していただけなければ、期限内に300万支払っていただく。それしかありませんね」

 

「……分かった。金は何とか用意するから……帰ろう、真」

 

 

 

 ベレスが席を立とうとすると、扉からシャドウが入ってきて扉を塞ぐ。

 

 

 

「帰れると思ったか?……お前ら、怪盗団の仲間だろ」

 

 

 

 シャドウ金城の背後にもシャドウが現れ、取り囲まれる形になる。

 

 

 

「警備員の注意を引いて、それだけでいけるわけねぇだろ。監視カメラにばっちり写ってんだよ、馬鹿が」

 

「セキュリティには自信があるみたいだね……」

 

「当然だ。俺自身と金、すべてを守る堅牢な要塞だ。怪盗団如きに突破できてたまるか」

 

 

 

 シャドウ金城は座ったまま、シャドウ達に命令する。

 

 

 

「全員捕まえろ。怪盗団への人質にする」

 

「――真。私の後ろに。シェズ、フォロー頼むよ」

 

「任せなさい」

 

 

 

 ベレスはかすみに目配せして、背後のシャドウへ向けて同時に魔法を放つ。

 

 

 

「――『オーラ』」

 

「来て……『マハコウハ』!!」

 

 

 

 二つの光の奔流にシャドウは飲み込まれ、あっという間にその姿を消す。

 

 

 

「逃げるよ」

 

「「はい!」」

 

 

 

 逃げようと扉に手をかけるが開かない。外から鍵がかかっているようだ。

 

 

 

「逃がすかよ……!」

 

 

 

 金城は懐から拳銃を取り出して、シェズとかすみへ2発撃ち込む。

しかし、シェズが2本の剣を抜き放ち、2つの銃弾を弾き落とす。

 

 

 

「なっ……」

 

「剣は銃よりも強いのよ。知らなかった?」

 

 

 

 シェズは二刀流に構えたまま、閉ざされた扉の前に立つ。

 

 

 

「どいてなさい。私とベレスで斬り破る――『連閃』っ!!」

 

 

 

 怒涛の連撃で鋼鉄の扉が凹む。その凹みに向けて、ベレスが『破天』を叩き込むと破断音と共に扉が開く。

応接室から飛び出すと同時にかすみが煙幕を投げつける。

 

 

 

「急いで合流しよう」

 

「「はい!」」

 

 

 

 ロビーまで戻ると、そこは大量のシャドウが待ち構えていた。

 

 

 

「そんな……っ!?」

 

「ずいぶん警戒されてるね。斑目の時の比じゃない」

 

「怪盗団も認知世界(こっち)じゃ有名になったってことかしら。現実じゃ、存在すら疑われてるけど」

 

「こ、このままじゃ合流できませんよ!?」

 

 

 

 動揺するかすみの両肩をベレスとシェズが叩く。

 

 

 

「やることは一つよ」

 

「斬り抜ける。それしかない――行こう」

 

 

 

 ベレスとシェズが先陣を切って、敵の群れに突っ込んでいく。

 

 

 

「 『火薙ぎ』 」

 

「 『連閃』 」

 

 

 

 シャドウたちを薙ぎ払い、出来上がった道をかすみと真が進む。

 

 

 

「――『ベルナデッタ』、敵の足を止めて」

 

『い、いつもいつも突然んん!』

 

 

 

 呼び出されたベルナデッタは戦技『囲いの矢』を放つ。低い姿勢から低空に放たれた矢が敵の移動を阻害する。

止まったシャドウにつんのめって、後続のシャドウたちの足も止まる。

 

 

 

「今よ!」

 

 

 

 僅かな間隙を突いて、合流を試みるベレス達。そして、入口の近くで交戦する雨宮たちの姿を捉える。

 

 

 

雨宮くん(ジョーカー)!」

 

「先生――後ろに!」

 

 

 

 振り返ると、シャドウ金城が拳銃を構えていた。その銃口は真に向いていた。

 

 

 

「させない――っ!?」

 

 

 

 間に割り込もうとするベレスの前に、赤いオーラを纏った腕のない武人のシャドウ(タケミナカタ)が立ち塞がる。

ベレス達と遮断されたことに笑みを浮かべて、銃を構えたままシャドウ金城がつかつかと真に歩み寄る。

 

 

 

「結局、こうなるわけだ。正義にも悪にもなれない半端者じゃ、本物には勝てない」

 

「何を……」

 

「そうだろうが。力も覚悟もないのに首を突っ込んで、怪盗団に縋ることしかできない。そんなお前が半端者じゃないなら、何だ?」

 

「……」

 

 

 

 シャドウ金城は銃口をグリグリと真の眉間に押し付ける。引き鉄に手をかけながら。

 

 

 

「可哀想に、小鹿みたいに震えてるぜ。死ぬのが怖いか? なら、俺に従え」

 

「……従う? 私が、あなたに?」

 

「なぁ、これまでもそうしてきたんだろ? お前は姉に庇護されなきゃ生きていけない身だ。

姉の指定した高校に通って、姉の指定した大学を目指す。そのために、内申点を稼いで教師には媚び諂う。何か間違ってるか?」

 

「……いいえ」

 

「だが、お前はもう失敗した。俺という本物の悪に捕まった。敷かれたレールから外れたんだよ。

 

なら、今度は俺の敷いたレールを進め。今俺に従うと誓えば姉には手を出さないでおいてやる。

お前は俺の言う通りにして、秘密裏に身体を売って300万稼いでくれればいい。どうだ、破格の条件だろ?」

 

 

 

 真は顔を俯かせて、拳を強く握る。

 

 

 

「新島先輩、そいつの話に耳を貸すな!!」

 

 

 

 遠くから雨宮の叫びが聞こえる。一瞬そちらに目を向けるが、髪を掴まれ引き戻される。

 

 

 

「黙ってろコソ泥ども。俺は今こいつと話してるんだ。現実の俺に会って話つけてこい。出来るよな、優等生の生徒会長サマ?」

 

「……確かにあなたの言う通りね。私は、姉や大人が敷いたレールに沿って生きてきた。

そして道を外れてしまった。もう元の道には戻れないかもしれない。だとしても……それでも……だからこそ」

 

 

 

 真の目に光が宿り、シャドウ金城をじっと見据えて睨みを利かす。

 

 

 

「私の信じた正義は貫く。その為なら、悪の道も喜んで歩いてみせる!」

 

 

 

 反抗されると思わなかったシャドウ金城の一瞬の動揺を突いて、銃を握った右手目がけて掌底を当て、狙いを逸らす。

暴発した銃弾が真の頭上を掠めるが、気にせずにそのままハイキックで金城から拳銃を取り上げ、落ちてきた拳銃を今度は真が手にする。

 

 

 

「――馬鹿なっ!?」

 

「女だと思って甘く見たわね。こう見えて、一通りの護身術は父から習っているの」

 

 

 

 今度は逆に真がシャドウ金城の眉間に銃口を向ける。

 

 

 

「形勢逆転ね」

 

 

 真はシャドウ金城の腕を捻り上げて拘束して人質にする。

そんな様子を見て、ベレス達や怪盗団も驚愕の声をあげる。

 

 

ベレス

「無茶をする……」

 

「生徒会長……ヤバ」

 

祐介

「ピンチがチャンスに裏返った……!」

 

雨宮

「これなら……!」

 

 

 

 シャドウ金城を助けようとシャドウ達が近づいてくるが、真は金城のこめかみに銃口を当てながらそれを制する。

 

 

 

「動くなっ! 動いたら撃ち殺すわ」

 

「い、いいのかよ俺を殺してしまって……!? 『改心』がお前らの目的だろうが!?」

 

「現実のあなたを殺せば殺人罪だけど、認知世界のあなたを殺してその後あんたがどうなろうと別に捕まるわけじゃないし、どうだっていい。

事件を終わらせたいなら他の幹部を改心させるわ。金城の改心がベストではあるけど、マストじゃないの。分かるかしら?」

 

 

 

 真はそう言って、引き鉄に指を掛けながら金城を連れて移動していく。

シャドウに道を空けさせて、ベレス達と怪盗団との合流に成功する。

 

 

 

「肝が冷えたよ」

 

「すいません、先生。どうしても、足を引っ張りたくなくて……」

 

「話は後にしよう。今は脱出を――」

 

 

 

 合流した気の緩みから、ほんの少し拘束が甘くなる。その隙を突かれて、シャドウ金城が拘束から逃れてしまう。

肥満体とは思えない機敏さでゴロゴロと転がって距離を取り、懐からもう1丁の拳銃を取り出す。

 

 

 

「死ね!」

 

 

 

 真の眉間を貫くかと思えた銃弾は、ベレスが素早く真の襟を引っ張ったことで空を切る。

 

 

 

「すみません、先生……」

 

「まだ弾は残ってる。もう充分だから、あとは私に任せて」

 

「待ってください。私にやらせてくれませんか」

 

 

 

 真は金城から視線を切らさずに、真剣な声色でベレスに懇願する。

 

 

 

「危なくなったら介入するけど、それでもいいなら」

 

「はい!」

 

 

 

 真とシャドウ金城は、互いに銃口を向けながら向き合う。

 

 

 

「ハッ、銃の腕前で俺に勝つ気か? どう考えたって俺に一日の長があるだろうが」

 

「そうかしら。扱った期間は長いようだけど、構えは素人に見えるわ」

 

「んだと……」

 

「かっこつけて片手で構えてるけど、両手で構えたほうがブレは少なくなるのよ。こんな風に――」

 

 

 

 真が狙いを定めて、引き鉄に手を掛ける。撃たれると思ったシャドウ金城が先に発砲する。

引き鉄を引く瞬間に頭を下げて、真は銃弾を回避する。

 

 

 

「狙いが見え見えよ」

 

 

 

 そのまま真は動きながら狙いを定める。シャドウ金城は真へ向けて2発、3発と撃つ――が、片手撃ちと動く的のせいで狙いは逸れる。

 

 

 

「――そこっ!!」

 

 

 

 不安定な体勢ながら、両手でしっかり構えてシャドウ金城の右手を撃ち抜く。

 

 

 

「うぎゃああああっ!!」

 

 

 

 金城は拳銃を落とし、撃ち抜かれた右手を押さえる。真は身構えたまま、シャドウ金城へ語りかける。

 

 

 

警備兵(シャドウ)を退かせなさい。私達も今日は退く。“怪盗如きに突破されない”んなら、今躍起にならなくてもいいはずよ」

 

「――ボケてんじゃねえ。お前らはまだ包囲されてるんだ」

 

 

 

 シャドウ金城は懐から札束を取り出して、シャドウ達にばらまく。

 

 

 

「お前ら、やれ!! 一匹たりとも逃がすな!!」

 

「――本当に救えない男ね」

 

 

 

 

 

「新島さん、下がって!」

 

「後は俺達がやる! だから――」

 

 

 

 ちらっと振り返った真の顔にはいつの間にか武骨な鉄仮面が張りついていた。

 

 

 

「――ごめん、下がらない。私にもリスクを背負わせてほしい。悪党と呼ばれてでも、自分の手で改心したいの。

先生に止められても、お姉ちゃんに罵られても……私、もう止まらないから!」

 

 

 

 服装も変化する。黒のライダースーツと、棘のついた肩パッド。そして拳にはメリケンサック。

普段の彼女からはかけ離れた、抑圧されていた反逆の意志が一挙に噴き出した「賊」としての新島真の姿に変わる。

 

 

 

「ねぇ……いるんでしょ? 私のペルソナ。だったら応えなさい……!」

 

 

 


 

 

戦う覚悟はできたようね? それなら速やかに契約に移りましょう。

 

――我は汝、汝は我――

 

正義を貫くと誓ったその言葉、違えることなきように。

 

 


 

 

 

「豚は豚らしく、豚箱に入ってろ――金城潤矢!! 来い、『ヨハンナ』!!

 

 

 

 苦悶の声をあげながら仮面を引き剥がすと、真のペルソナ『ヨハンナ』が顕現する。

その姿もまた、女性でありながら教皇になったという伝説になぞらえてか、女性の顔が前面についた大型バイクという型破りなものだった。

 

 

 

「退かないなら()いてあげる――『金剛発破』!!

 

 

 

 ヨハンナに乗って敵に突っ込んで、体当たりしつつドリフトによる衝撃波を生み出す。

シャドウ金城もろとも、敵シャドウたちも吹き飛んでいく。

 

 

 

「みんな! 今のうちに!!」

 

 

 

 呼びかけられた怪盗団は一瞬呆気に取られながらも、見つけた潜入口からの脱出に向かう。

経路を悟られないように巻いた煙幕の中から、ベレスが1人出てくる。

 

 

 

「新島さんも早く。無茶しすぎだよ」

 

「まだやれま……うっ!?」

 

 

 

 意気込む真だったが、ペルソナ覚醒による負荷が一気に押し寄せ、膝をつきペルソナも霧散してしまう。

 

 

 

「優等生だと思ってたけど……悪い子だね」

 

「幻滅しました?」

 

「ううん、魅力が増したと思う。でも、優等生であろうとする新島さんも私は好きかな」

 

「……ありがとうございます。帰りましょう、先生」

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの後、金城のパレスから無事脱出した一同は、渋谷のカラオケ店で集まっていた。

 

 

 

竜司

「しっかし凄かったな、新島先輩。いや世紀末覇者先輩と言うべきか……」

 

雨宮

「まさかステゴロとはな……格闘技とかやってたんですか?」

 

「空手はやってた。護身術とかは警官だった父から。ボクシングとか見るのも好きだったし、その影響かな……あと、世紀末覇者先輩はやめて」

 

「ライダースーツにペルソナもバイク型だし、不良に憧れてたり?」

 

「憧れなんて……奔放に振る舞えて羨ましいと思ったことはあるけど」

 

モルガナ

「まぁ暴れるのは異世界だけにしとけよ。釈迦に説法だろうけど」

 

「分かってる。正直、めちゃくちゃ気持ちよかったけど……現実であんなことしたらお姉ちゃん倒れちゃうもの」

 

かすみ

「それで先輩、どうするんですか?」

 

「もちろん、怪盗団に入るわ。金城の改心が終わっても、続けるつもり。よろしくね?」

 

祐介

「歓迎する。ブレーンは何人いてもいいからな」

 

「先生。これからもご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします」

 

ベレス

「頼りにさせてもらうよ。特に今回は、これまでみたいにはいかないだろうし」

 

 

 

 そんな会話の最中、シェズはメニューを眺めていた。

 

 

 

シェズ

「ねぇ、なんか料理頼んでもいい?」

 

ベレス

「シェズ、今は真面目な話を――」

 

シェズ

「いや、この人数で何も頼まないとかないでしょ。今9人よ?」

 

雨宮

「結構な大所帯ですね……何も頼まないと怪しまれるか……」

 

「ていうか、せっかくだし皆で1曲ずつ歌わない? 新島先輩の歓迎会も兼ねてさ」

 

かすみ

「いいですね! じゃあ私は……」

 

祐介

「歌か……演歌なら分かるんだが……」

 

竜司

「お前マジか……」

 

モルガナ

「ワガハイも歌なんか分からないぞ? ベレスはどうだ?」

 

ベレス

「私も詳しくはないかな。テレビはニュースしか見ないし……」

 

 

 

 選曲用の端末を弄りながら、ベレスは頭をひねる。

 

 

 

「えー! 先生の歌声聞きたい」

 

ベレス

「そう言われてもね……シェズも歌えないだろうし、私達は――」

 

シェズ

「あら、私は何曲か歌えるけど。働いてない時、よくテレビ見てたし」

 

雨宮

「先生、この曲歌ってくれませんか。音源あるので覚えれば歌えると思います」

 

ベレス

「雨宮くんまで……モナも一緒に歌ってくれるならいいよ」

 

モルガナ

「ワガハイも歌うのか!?」

 

 

 

 誰かがリクエストした曲のイントロが流れる中、真のスマホにメールの通知音が鳴る。

内容を確認した真が一瞬表情をしかめる。

 

 

雨宮

「どうしました?」

 

「金城からの返済の催促よ。ご丁寧にあの時の写真付きで」

 

雨宮

「今は忘れましょう。新島先輩も、何か歌ってください」

 

「ありがとう、そうするわ。実はカラオケって初めてで……それと、真でいいわ。もう仲間でしょ?」

 

雨宮

「分かった。真は何か好きな曲はあるか?」

 

「音楽か……お姉ちゃんの影響でクラシックは勉強のお供によく聞くんだけど、流行の曲はあんまり……」

 

 

 

 真は考え込んで、しばらく黙り込む。その間にも杏や竜司がリクエストした曲が流れ、それぞれ歌声を披露する。

杏は日曜午後アニメのOPにもなった女性シンガーの曲、竜司は有名な日本のパンクロックバンドの代表曲をそれぞれ選曲した。

 

 

 

雨宮

「竜司のイメージには合ってるけど、世代じゃないよな」

 

竜司

「あー……まぁな。認めたくねーけど、クソ親父の影響ってことになんのかな。親父が残してったCD聞いてドハマリしちまってよ……」

 

「……お父さん」

 

 

 

 続いてかすみは海外でも活躍した女性シンガーの復帰作、シェズは大所帯アイドルグループの朝ドラの主題歌を選曲。

祐介は馬主としても有名な男性演歌歌手の曲。ただし本人は冬の女性の演歌のほうが好きらしいが、原キーで歌えないので断念。

 

 

 

「雨み……蓮は何を歌うの?」

 

雨宮

「俺は……この曲を」

 

 

 

 雨宮が選曲したのは卑猥なバンド名で有名な、元は3人組で現在は2人組のバンドの最大のヒット曲。

 

 

 

祐介

「良い曲だな。ノリのいい曲なのに、どこか物悲しさがあるのが良い」

 

雨宮

「こっちに来てから、歌詞に共感するところがあってな……」

 

竜司

「お、おう……どんまい?」

 

 

 

 ベレスとモルガナは雨宮が選曲した、2人組のロックバンドの代表曲の一つをメロごとに交互に歌う。

歌い終えると、パチパチと拍手が巻き起こる。

 

 

 

ベレス

「なんでこの曲……男性ボーカルは歌いにくいよ」

 

雨宮

「特に深い意味はないです。女神が含まれる曲で一番有名なのがそれだったので」

 

モルガナ

「それだけかよっ!?」

 

 

 

 歓談の中、最後まで残った真が決心した様子で曲を選ぶ。

 

 

 

雨宮

「……この曲は?」

 

「ウルトラマンの曲よ。子供のころ、お父さんと見てたの。良い曲だなって思ったのを思い出した。

もう1曲、『ポリスストーリー』って映画の曲と迷ったんだけど、あれは広東語だから歌うなら日本語のこっちかなって」

 

 

 

 画面には『英雄/doa』と表示され、心を奮い立たせるようなイントロが流れてくる。

真は大きく息を吸って、意を決して歌いはじめる。

 

 

 

-カッコつけてるつもりで得意になって-

-大事なことは全部置き去りにしちゃって-

-自分で自分を苦しめているシュウジン-

-そんな僕にサヨナラさ transformation!-

 

 

 

 真はうろ覚えの歌詞を、トチりながらも熱を籠めて歌い上げる。

 

 

 

-男なら 誰かのために強くなれ-

-歯を食いしばって 思いっきり守り抜け-

-転んでもいいよ また立ち上がればいい-

-ただそれだけ できれば-

-英雄さ-

 

 

 

竜司

「知らねーけどめっちゃアツい曲じゃん。俺も歌っていいか!?」

 

「もちろん」

 

 

 

 それぞれ、思い思いに手拍子したり歌えるところを歌ったりして盛り上がる。

 

 

 

-男なら 誰かために強くなれ-

-女もそうさ 見てるだけじゃ始まらない-

 

-これが正しいって 言える勇気があればいい-

-ただそれだけ できれば-

-英雄さ-

 

 

 

 最後、繰り返しのラスサビを全員で合唱して、真の初カラオケは大盛り上がりで終わった。

真は呼吸を荒くして、どかっとソファに座り込む。

 

 

 

「疲れた……全力で歌うってこんなに大変なのね」

 

「お疲れさま。初めてなのに歌上手かった! はい、水」

 

「ありがと。……何だかスッキリしたわ。皆、改めてよろしくね」

 

 

 

 微笑を浮かべる真にそれぞれ言葉を返す中、ベレスが真に改めて問いかける。

 

 

 

ベレス

「怪盗団に入ることで、将来に不利益が生じるかもしれないよ。もちろん、そうならないよう全力を尽くすつもりではあるけど」

 

「構いません。私の正義は困ってる人を助けること。手段を選んで助けられないのは嫌なんです。

怪盗という悪をもって、悪を誅する――それが出来るなら例え逮捕されたって後悔はありません」

 

ベレス

「そう……なら、何も言うことはないよ。新島さんの意志を尊重する」

 

竜司

「なら、あとはコードネームだな! 何にするよ?」

 

 

 

 竜司の提案に考え込む一同。まず杏が手を挙げる。

 

 

 

「あの暴れっぷりすごかったよね。だから……『スケバン』とか?」

 

祐介

「いや、あのペルソナとライダースーツから『ライダー』というのはどうだ?」

 

「スケバンは絶対に嫌。ライダーは悪くないけど……運び屋みたいで嫌」

 

モルガナ

「杏殿の案、発想はいいんじゃないか? 強い女子って感じの言葉が合ってると思う」

 

竜司

「強い女か……ならもうアレしかなくね? 金城のこと豚って呼んでたしよ」

 

雨宮

「――『女王様(クイーン)』か

 

 

 

 武器的には杏のほうがふさわしいが、本人の気勢を考えれば不思議としっくりくる。

 

 

 

「意味合いには異議を唱えたいけど……いいわ。気に入った」

 

雨宮

「決まりだな。よろしく、クイーン」

 

 

 

 雨宮と真は立ち上がり、固く握手を交わす。こうして、怪盗団の6人目の仲間に新島真が加わったのだった。





それぞれの歌唱曲はこちら


杏 again/YUI
竜司 TRAIN-TRAIN/THE BLUE HEARTS
かすみ 花束を君に/宇多田ヒカル
シェズ 365日の紙飛行機/AKB48 ※流行曲歌っただけ
祐介 まつり/北島三郎 ※好きなのは 津軽海峡冬景色/石川さゆり
雨宮 アゲハ蝶/ポルノグラフィティ
ベレス&モルガナ 裸足の女神/B'z
真 英雄/doa ※迷ったほうは 英雄故事/ジャッキーチェン


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