秀尽学園の非常勤講師、ベレス   作:女主人公スキー

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4.灰色の悪魔と女傭兵

「灰色の悪魔……?」

 

 

 

 紫髪の女の呟いた単語の意味を、雨宮がベレスに確認する。

 

 

 

「傭兵時代の私の異名みたいなものだよ」

 

「厳ついな!? つーかどの辺が灰色??」

 

「昔は今より無表情だったから……たぶんそこが由来」

 

 

 

 説明しながらも、ベレスは女から視線を外さず警戒を続ける。

 

 

 

「あたしの名前は『シェズ』。あんたに傭兵団を潰されてから、あんたを追いかけてきたのよ」

 

「悪いけど、心当たりが多すぎて分からない。それに傭兵なら、よくあることだよ」

 

「まぁね。でもそれはそれとして、恨みを持つのは自由でしょ?」

 

「それは、そう」

 

 

 

 ベレスも、父親を殺された時は激情でおかしくなるところだった。

仕事でたくさん人を殺してきたから、恨まれるのは仕方ない。

 

 

 

「それはいいとして、どうやってこの世界まで……」

 

「呼ばれたのよ。なんとかいう神を名乗る存在にね」

 

「自分で来たわけじゃないのか」

 

「渡りに船だったけどね。名前を聞かなくなった灰色の悪魔とこうして会えたんだもの――」

 

 

 

 しばらく睨み合っていた二人だったが、シェズが抜剣して一気にベレスへ迫る。

ベレスも剣を抜き、シェゾの斬撃に合わせて斬り上げ、二人の剣が激突する。

 

 そのまま動き回りながら、金属がぶつかり合う音が幾重にも重なる。

素人目には互角に見えるが、その様子を見ていたモルガナの額に汗が流れる。

 

 

 

「押されてる……」

 

「は? マジか」

 

「技術的にはベレスが勝ってるから見かけ上は互角だ。

けど、身体能力は完全に上回られてる。まずいぞ、これは……」

 

 

 

 “何か”あれば均衡が崩れる――と、モルガナが掠れた声で呟く。

 

 

 

「余所見している場合か? 今際の際だぞ、貴様ら」

 

 

 

 鴨志田が指を鳴らすと、3体の兵士が姿を現し――2本の角を持った馬(バイコーン)が3体雨宮達を取り囲む。

 

 

 

「こっちもやべぇ、どうすんだ!?」

 

「坂本は下がってろ……俺とモルガナで切り抜けるぞ」

 

「ああ……だがまずいぜ。こいつら、俺達じゃ弱点をつけない」

 

 

 

 突っ込んでくるシャドウへ向けて、道中竜司に貰ったトカチェフ(モデルガン)を撃ち牽制する。

だが、有効な攻撃にはならず早々に撃ち尽くしてしまう。

 

 

 

「くそっ、ペルソナ――『スラッシュ』!!」

 

「来い、ゾロ! 『ガル』!!」

 

 

 

  ペルソナで応戦するが、経験不足と数的不利が重なり追い詰められる。

少しずつ体力を削られ、遂には二人とも膝をつき倒れてしまう。

 

 

 

「く……こんなはずじゃ……」

 

「坂本……に、逃げろ……!」

 

「ざけんなっ、俺だけ逃げるわけには――」

 

 

 

 逃げずに留まり、全員で逃走するチャンスを探る竜司。

だが、抵抗する術を持たない身ではあっという間に拘束されてしまう。

 

 

 

「やめろっ、離せクソ!!」

 

「坂本くん!!」

 

 

 

 その様子を横目で見たベレスは思わず叫ぶ。

 

 

 

「余所見とは余裕ね、灰色の悪魔さん?」

 

「くっ! ……呼びにくいでしょ、ベレスでいいよ」

 

「ぬかせっ!!」

 

 

 

 ガギンッ、と一際大きい金属音を出したあと、二人の距離が離れる。

 

 

 

「このままじゃケリがつかないわね……」

 

「だったら退いてくれると助かるんだけど……?」

 

「そういうわけにはいかない。だから、決めさせてもらうわ――」

 

 

 

 そう言うとシェズは太腿のホルスターから銃を取り出す。

 

 

 

「銃? 今度はそれで戦うつもりか」

 

「まさか。これはね、こう使うのよ――」

 

 

 

 シェズは銃口を自らの頭のこめかみに向け、引き鉄を引く。

 

 

 

 

()()()()

 

 

 

 

 静かにそう呟くと、シェズの背後に白い衣に白い髪、赤い瞳のペルソナが現れる。

 

 

 

「ペルソナ……!?」

 

「力を貸しなさい――『ラルヴァ』」

 

 

 

 シェズのペルソナ、『ラルヴァ』はかすかに微笑むと、ベレスに向けて手を翳す。

 

 

 

『ランダマイザ』*1

 

 

 

 その魔法を受けたベレスは、自分の力が失われる感覚がした。

 

 

 

「なんだこれは――っ」

 

「死になさい、灰色の悪魔ッ!!」

 

 

 

 動揺の隙をついて、シェズの刃がベレスに迫る。

ベレスは寸でのところで身をよじり、致命傷だけは避けられた。

しかし、肩から胸まで浅く斬りつけられ、血が流れる。

 

 

 

「ぐぁっ……」

 

「「先生ッ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 みんな、みんな倒れちまった。

あのくっそ強かったベレ先まで……。

 

 俺が、もう一回パレスに行きたいなんて思わなければ――!

 

 

 

「聡明なベレスがむざむざ危険へ飛び込むとは思えん。

どうせお前の発案だろ? 向こう見ずのお前らしいな、坂本ぉ」

 

「うるせぇ……」

 

「陸上部も潰して、今度は会ったばかりの転校生と世話になってるベレスまで……。

本当に救いようのないゴミクズだな、お前は!?」

 

「うるせぇって言ってんだろ鴨志田ァ!!」

 

 

 

 湧いてくる感情に突き動かされるまま俺は叫ぶ。

 

 

 

「陸上部を潰したのはお前だろ!? 監督を追い出して、臨時で顧問になったテメェは!

体罰と過剰なトレーニングで部員を壊して、俺の脚もぶっ壊した!!

それだけじゃ飽き足らず、俺を挑発して暴力沙汰を起こさせて、廃部に追い込んだ!!」

 

「俺様の考えたトレーニングについて来れないお前らがクズだっただけだろ?

暴力事件も、きっかけはどうあれお前が実際に殴ったのは間違いないんだよなぁ?」

 

 

 

 鴨志田のクソみてーな反論を聞いて、握りこぶしに血が滲む。

 

 

 

「大体、目障りだったんだよ。お前ら陸上部は……。

秀尽で光を浴びるのは俺だけでいいんだ……!」

 

「てめぇ……!」

 

「このまま殺してやってもいいが、もう一本の脚も折って不様に生きるお前を眺めるのもいいな。

選ばせてやろうか、坂本? どっちがいい?」

 

「ふざけんなッ!! んなの、どっちもごめんだ……!

鴨志田ぁ……俺はな、俺は……お前を……」

 

 

 

 

「お前をブン殴るためにこの城に来たんだ!!」

 

 

 

 

 

 

「な、何ですかこの状況は……!?」

 

 

 

 芳澤かすみは城のことが気になって、結局言いつけを破って入る方法を探していた。

しばらく方々を彷徨って、スマホにインストールされていた『イセカイナビ』に気付く。

 

 侵入履歴から、城に入ることはできた。

とりあえず……と正面の扉を少しだけ開けてみたらとんでもない光景が目に入る。

 

 血を流して膝をつき、紫髪の女の人に剣を突きつけられているベレス先生。

 

 敵に囲まれ、倒れ伏している今朝会った2年の男子生徒と、謎の猫みたいな生き物。

 

 そして、敵に拘束されている2年の……確か、坂本先輩。

 

 

 

(どうしてこんなことに? た、助けないと……!)

 

 

 

 しかし下手に割って入っても状況が悪化するだけだ。

まず、何をするべきか。誰の手助けをするべきか……。

 

 

 

(……ベレス先生だ。あの人なら、きっと何とかしてくれる)

 

 

 

 特に理由も根拠もない、ただの直感だ。

とにかくベレス先生を追い詰めているあの女の人の気を逸らす。

私にできることがあるとすれば、それぐらいだ。

 

 そう決意した時、坂本先輩と、裸マントの男の人が――

 

 

 

(ってあれ、鴨志田先生!? なんであんな格好を??)

 

 

 

 ――何やら口論していて、皆がそっちに注目している。

 

 

 

(今しかない)

 

 

 

 そう思って、姿勢を低くして扉から中へ入る。

そのまま、ベレス先生のほうにゆっくり近づき、徐々に加速する。

一気に駆け出すと、流石に二人は私の存在に気付く。

 

 

 

「かすみ!?」

 

「誰? どうでもいいけど――」

 

 

 

 シェズはベレスを脚で踏みつけて拘束し、剣をこちらへ向ける。

 

 

 

「先生から、離れてくださいっ!!」

 

「邪魔するなッ!!」

 

 

 

 羽虫でも追い払うかのような、いい加減な斬撃。

一般人相手ならこの程度で充分とでも言うような。

 

 まったく舐めてもらっては困る。確かに私は一般人だけど、ただの一般人じゃない。

 

 

 

「新体操選手を――舐めないでください!!」

 

 

 

 しなやかな、メリハリの効いた動きで斬撃を華麗に躱す。

 

 

 

「かすみっ」

 

 

 

 ベレス先生が何かを投げつける。それを、どうにか受け止めた。

形的に銃みたいな何か。考えている余裕はない。

紫髪の女とは目と鼻の距離まで近づいた。やるしかない――!

 

 

「えいっ」

 

 

 引き鉄を引く。すると、銃口から強烈な電撃が放出される。

スタンガンだ。電圧は完全に違法だけど……さすがベレス先生、これなら――!?

 

 

 

「……残念だったわね。電撃には耐性があんのよ」

 

「え――」

 

 

 

 あ、終わった。

 

 

 

「邪魔したんだから、死ぬ覚悟はできてるわよね?」

 

 

 

 そう言って、その女性は剣を振り上げる。

 

 ああ、短い人生だったな……。

 

 私は今までの人生を思い返しながら、静かに目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 殺される。私のせいで、生徒が。

かすみ、どうして来てしまったんだ。大人しくしてって言ったのに。

 

 どうする。どうすればいい。

私はシェズに踏みつけられ、身動きは取れない。

手は動くけど、剣はシェズには届かない。

 

 

 雨宮も、モルガナも倒れてすぐには動けない。

誰も助けには来れない。誰も、誰も、誰も――。

 

 こっちに来てから、『ソティス』の存在を感じない。

いなくなったわけじゃないけど、繋がりが絶たれた感じがある。

()()()()()()()()()

 

 

 間違えた。失敗した。かすみが殺される、目の前で。

父が殺された時と同じじゃないか。何もできないまま、あっさりと――!

 

 

 ふと、父――傭兵時代のジェラルトの言葉が頭を過ぎる。

 

 

 

 

『お前はもうちょっと仲間を頼れ。1人で出来ることなんざ、たかが知れてるぞ』

 

 

「助けて……」

 

 

 とても情けない声が口からこぼれ出る。

馬鹿みたいだ。誰も助けてくれるわけないのに――

 

 

 

 

『助けが必要なの? (せんせい)

 

 

 

 

 

 

 

 

 閉じかけた目を開ける。私は、死ぬわけにはいかない。

あの子のために生きなきゃいけないんだ。泥水をすすってでも!!

 

 ()()()の夢を、こんなところで終わらせない……!

 

 

 

 

 

 


 

『仮初を演じてでも、歩みを止めることはない。夢を叶えるために。

本当に不器用な子。でも、最後まで踊ってあげる……』

 


 

 かすみの頭の中で声がする。

 

 

 

 


 

『随分と待たせたものよ。ぶん殴るか、いいだろう。

 

力を貸してやる……契約だ。

 

どうせ消せない汚名なら、旗に掲げて暴れてみろ』

 


 

竜司の頭の中で声がする。

 

 


 

『戦が始まって、(せんせい)のことはもう忘れようとしたのよ。

でもダメ。私の心はいつだって(せんせい)を求めてる。

そしたらほら……ついに心だけになって会いに来てしまった』

 


 

ベレスの頭の中で懐かしい声が聞こえる。

 

 

 


 

『我は汝、汝は我……儚くとも信念を示したいのなら』

 

『我は汝、汝は我……賊の旗を掲げる覚悟は出来たか。ならば』

 

(せんせい)、私の助けが必要なら』

 

 

 

 

『『――その名前を呼べ!!』』

 

『私の名前を呼んで、(せんせい)

 

 


 

 

 

「――『サンドリヨン』!!」

 

 

 

 

「――『キャプテンキッド』ォ!!」

 

 

 

 

「――『エーデルガルト』」

*1
敵一体の攻撃・防御・回避/命中を低下させる補助魔法




ベレス先生は紅花(覇王)ルートを選択してこの世界に来ています。
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