「――『サンドリヨン』!!」
「――『キャプテンキッド』ォ!!」
「――『エーデルガルト』」
――戦況は一変した。
まず、かすみに振り下ろされた剣は、かすみのペルソナ『サンドリヨン』がギリギリで受け止めた。
「なっ!?」
シェズの目が驚愕に見開かれる。
が、呑気していられる状況ではない。新手が迫っている。
ベレスの手の紋章が
そこから白い髪に紫の瞳、赤い豪著な装束を身にまとう少女がベレスの傍らに現れた。
「かすみを助けて」
短くベレスが彼女――エーデルガルトへ願いを告げる。
『任せて、
エーデルガルトもそう短く応え、シェズのほうへ駆けていく。
シェズは展開の激変に動揺しつつも、ベレスから脚を離して再び戦闘態勢をとろうとする。
「逃がしません――『コウハ』」
「うぐ!?」
かすみの放った
その隙をエーデルガルトが逃すはずもなく。
『失せなさい、下郎』
エーデルガルトは巨大な銀の斧を思い切り横薙ぎに振る。
「ちっ……!!」
崩れた態勢からでは躱しきれず、シェズは両腕を前に出し致命傷だけは避けた。
『なかなかセンスがあるわね、貴女。弱点も突けるなんて、運も良い』
エーデルガルトはかすみへ振り返ると、そう言ってウインクをしてみせた。
「えっ、あ、はい! ありがとうございます!」
かすみは見知らぬ少女にぺこりと頭を下げる。
この城の本当の城主はこの少女なのではないかと思うほど、高貴な雰囲気がある。
『……貴女、何か失礼なこと考えてない?』
「い、いえ。そんなことは、全然っ」
『そう? それにしても悪趣味な城ね……』
*
そして、竜司もまたペルソナを覚醒させる。
「どきやがれッ――『ジオ』!!」
竜司のペルソナ『キャプテンキッド』が放つ
弱点を見事に尽き、敵に動揺が走る。
「先輩っ、猫さん!」
かすみが、シェズとエーデルガルトの戦いの最中に銃をこちらに投げて寄越す。
モルガナは目の前に転がった銃を見て、痛みをこらえながら立ち上がる。
「ワガハイはっ、猫じゃねええええ!!」
そう叫びながら、スタンガンをでぶっ放す。
「オマエも根性見せろ、切り抜けるぞ!」
「言われなくとも……!」
肩で息をしながらも、雨宮も立ち上がる。
「やるじゃねぇかモルガナ。これで――形勢逆転だ! 『ジオ』!!」
≪HOLD UP!≫
「ま、待て。分かった、この場は退こう。だから――」
「逃がすかよ。いいなお前ら、総攻撃だ。んで――鴨志田をぶっ飛ばす!!」
「「「総攻撃タイムだ!」」」
*
『それにしても悪趣味な城ね……』
そう言いながら、エーデルガルトは周りをきょろきょろと見回す。
それを隙と見て、シェズはエーデルガルトへ襲い掛かる。
「その首、もらった!」
「あぶないっ」
かすみが叫ぶが、エーデルガルトは防御の構えすら見せない。
エーデルガルトの首を、シェズの剣が捉えるが――斬った感触はなく
『残念、私に実体はないわ。物質として存在するのは武器だけ』
「何それっ!?」
『そんなことより、自分の心配をしたほうがいいわね』
「何を――はっ!?」
背後から、傷の癒えたベレスが猛然と迫る。
「くっ……!」
ギリギリで剣を弾き、その勢いを利用して大きく3人と距離を取る。
「3対1は流石に……」
「退いてくれるなら見逃すよ。私は別にあなたに恨みはないし。
でも、かすみを殺そうとしたし……退かないなら容赦はしない」
「チッ――ここは退くわ。また会いましょう、灰色の……いえ、ベレス」
「やっと名前で呼んでくれたね。嬉しいよ」
「うるさい。なんか調子狂うわねあんた……じゃあね」
「またね。出来れば会いたくないけど」
ベレスは小さく手を振る。その姿を忌々し気に睨むと、シェズは踵を返す。
「『
そう呟くとシェズは光と共にどこかへと消え去った。
*
危機を脱したベレスはほっと一息ついた。
『
「うん、分かってる」
雨宮たちのほうを見れば、敵はすべて片付いていた。
残っているのは、パレスの主――カモシダだけだ。
「使えん兵共め……それにあの女、勝手に退きやがって……!」
「よぉ鴨志田……さっきは好き勝手言ってくれたな。是非お礼がしてぇんだが、いいか?」
「クズが……!! ここは退かせてもらう、ぞッ!」
カモシダはジャンプ一回で中央階段を昇り切ってしまう。
「待ちやがれっ――うぐっ!?」
「坂本くん!」
ベレスが膝をついてうずくまる竜司に駆け寄る。
「くそ、頭がいてぇ……なんか身体もだりぃし、何で……」
「無理もねぇ。覚醒直後にあんな大立ち回りしたんじゃな」
気が付くと、カモシダの姿は消えていた。
「かすみは大丈夫?」
「私もちょっと、だるい感じが……」
「そう。モルガナ、脱出しよう。もう兵士の目もないし、今のうちだ」
「そうだな……お前ら、ついてこい」
*
城の外――
「雨宮くん、モルガナ。とりあえず傷を治すよ……『ライブ』」
「ありがとうございます……ベレス先生は大丈夫ですか?」
「問題ないよ。それにしても、危ないところだった……」
ベレスは改めて全員無事に脱出できたことに安堵し、ほっと息を吐く。
そして、かすみに向き直り少しムッとした顔で詰問する。
「かすみ……どうして来たの。大人しくしてって言ったのに」
「す、すみません。どうしても気になっちゃって……だって、学校がお城ですよ?」
「気持ちはわかるけど……はぁ、もういいよ。かすみのおかげで助かったところもあるし」
ベレスはそう言って、かすみのおでこを指でピンッと弾く。
「痛いです、先生……」
「とりあえず反省はして。危うく死ぬところだったんだから……」
「はい……」
かすみはしゅんとして肩を落とす。
「ところでよ、先生……こちらの人はどなた?」
竜司がエーデルガルトを指差してベレスに問う。
『人を指差すなんて、失礼よ? 教育がなってないわね、
「キミと違って担任教師じゃないから……これから指導するよ」
『あらそう』
「この子はエーデルガルト。私のいた世界での教え子で、
「「「「皇帝陛下!?」」」」
3人と1匹の声が見事に重なる。
「道理で高貴な雰囲気があると……!」
『そう見えたのなら幸いね。まだ皇帝になったばかりだし、まず世界も違うわ。
そんなにかしこまらなくっても大丈夫よ』
「あの……彼女はペルソナなんですか? どうも違うように見えるんですが」
雨宮がエーデルガルトを見て疑問を呈する。
『それは違う、と断言するわ。だって、
「ですよね。私のペルソナは『我は汝、汝は我』って言ってました。
よく分からないですけど、要するにもう1人の自分、みたいなことですよね、これ?」
「そうだぜ。詳しい説明は後でベレスに聞いてくれ。パレスについてもな」
「はい。お願いしますね、ベレス先生」
「はいはい……。ねぇ、エーデルガルト」
ベレスがエーデルガルドへ向き直って質問する。
『何かしら?』
「キミは無制限に呼び出せるのかな? それとも……」
『無制限は無理ね。さっきも言ったけど、私に実体はないの。
物質として存在してるのは武器だけ。だから武器が壊れたらもう呼び出せないと思う」
「なるほど……他の生徒も呼べるの?」
『私みたいに紋章があって、あなたを強く慕っている生徒(支援A)なら呼べると思うわ。
そうね……『リンハルト』や『ベルナデッタ』あたりかしら。
『フェルディナント』はまだそこまで仲良しじゃなかったようだし、たぶんダメ。
紋章を媒介に呼び出しているみたいだし、紋章のない『カスパル』や『ドロテア』、『ペトラ』は残念だけど無理ね。
あと『ヒューベルト』も……もっとも、彼は紋章があっても来ないでしょうけど」
「ふふ、確かに。分かった……ありがとう、エーデルガルト。また呼んだら来てくれる?」
『もちろん。それじゃ、また会いましょう。
そう言ってエーデルガルトはフッと消え、ベレスの紋章も元に戻った。
「さて……帰ろうか。坂本、部員の顔はちゃんと覚えてる?」
「当然。とりあえず今日は解散して、明日聞き込みだな」
「じゃあ、解散!」
各々、校門を潜って現実世界へ戻っていく。
その姿をベレスとモルガナがじっと眺める。
「モルガナはどうするの?」
「ワガハイか? そうだな、特に決まってないが……」
「家に来る?」
「えっ? い、いやそれは……」
口ごもるモルガナをベレスは黙って抱きかかえる。
「じゃあ、決まりだね」
「なっ、ワガハイは何も……あっ、柔らかい感触がっ」
「~♪」
ベレスは鼻歌を歌いながら、モルガナを連れて現実世界へ戻っていった。