秀尽学園の非常勤講師、ベレス   作:女主人公スキー

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7.退学へのカウントダウン

 ――翌日、4月15日。

 

 ベレスは朝から鈴井の姿を探していた。

話を聞きたいのもあるが、想像が正しければ鈴井のメンタルが心配だ。

 

 担任教師やクラスメイトにも聞いてみたが、今日は()()()()来ていないという。

朝の登校時には姿を見たという生徒もいた。

 

 最悪の想像が頭を過ぎるが、生憎担当授業の時間が迫っていた。

こちらもおろそかにするわけにはいかない。

何も起こらないことを祈りつつ授業を進めると、突然生徒が騒ぎ出す。

 

 

 

「先生、あれ……」

 

「え? ……鈴井さん!?」

 

 

 

 生徒が指を差した廊下側の窓を見ると、屋上のフェンスの外側の縁に鈴井が立っているのが見えた。

 

 

 

「ちょ……あれ、飛び降りるんじゃ!?」

 

「あれバレー部の……鈴井先輩だっけ」

 

 

 

 ベレスは授業を放棄し、廊下の窓を開け放ってその縁に足をかける。

その瞬間、鈴井は中庭の地面へ身を投げ出していた。

 

 

 

「えっ!? ベレス先生、ここ3階――」

 

 

 

 ベレスは受け身をとって衝撃を和らげ、そのまま中庭の落下地点へ駆ける。

それでもギリギリ間に合わないと見て、スライディングで身体を滑り込ませる。

 

 鈴井の脚がグキッと嫌な音を立てて地面とぶつかるが、上半身はベレスが受け止めることに成功した。

 

 

 

「……先、生……?」

 

「ごめんね鈴井さん。守れなくて……」

 

「……先生、私……鴨志田先生に……」

 

「分かってる。話は病院で聞くよ……無事でよかった」

 

 

 

 騒ぎを聞きつけて、授業のない教師陣と養護教諭が駆けつけてきた。

 

 

 

「救急車を呼んでほしい。脚、たぶん骨折してる」

 

「あ、はい! 分かりました」

 

 

 

 杏も志帆の元に駆けつけてくる。それに遅れて野次馬の生徒も集まってきた。

その中には雨宮や竜司の姿もある。バレー部関係者もいるが、鴨志田はいないようだ。

 

 

 

「志帆っ!! 先生!!」

 

「高巻さん」

 

「大丈夫、志帆!? なんでこんなこと……っ」

 

 

 

 志帆を問い詰めようとする杏を、ベレスは手で制する。

 

 

 

「後で話すから。高巻さんは授業に戻って」

 

「先生、でも……」

 

「今はそっとしてあげてほしい。ほら、皆も教室に戻って!」

 

 

 

 ベレスが声を張り上げて生徒たちに呼びかけると、生徒たちは教室へ戻っていく。

しかし、雨宮と坂本だけは別方向へ走っていく――誰かを追いかけているようだ。

 

 

 

(何だろ……いや、今は鈴井さんを病院に送り届けないと)

 

 

 

 

 

 

 

 

 かすみは廊下の窓から状況の推移を見守っていた。

ベレス先生が3階の窓から飛び降りた時はびっくりしたが、流石の身のこなしで見事に鈴井を助けてみせた。

周りではベレスを讃える声や拍手まで聞こえてくる。

 

 

 

「ベレス先生、やばくない? 3階から飛び降りてピンピンしてたよね」

 

「カッコ良すぎ……彼女にしてほしい……」

 

 

 

 一部とんでもない発言も聞こえてくるが、気持ちは分からないでもない。

当のベレス先生は皆を教室に戻るよう呼びかけていた。

そこで、雨宮と竜司の姿を見つける。誰かを追いかけているようだ。あれは――

 

 

 

「……三島先輩?」

 

 

 

 三島はバレー部員だ。いつ見ても傷や痣がある、鴨志田に体罰を受けていると思われる生徒の1人だ。

鈴井の自殺未遂を見て、何か思うところがあったのか。

 気になったかすみは、授業を放り出して雨宮と竜司を追いかけることにした。

 

 だが、3階から1階までは距離もあって2人の姿を見つけることはできなかった。

今更授業に戻っても仕方ないと思い、そのまま捜索を続ける。

 

 10分経ってもまだ見つからない。どこかで入れ違いになったのかもしれない。

ふと体育教官室の前を通ると、中から鴨志田が出てきた。

 

 

 

「ん? 何だお前、確か1年の芳澤だったか。何してる、教室に戻れよ」

 

「鴨志田先生!? えっと、保健室に行く途中で……」

 

「ふーん……まぁいいか。それよりお前、2年の不良生徒とつるんでるって本当か?」

 

「不良って……誰のことですか」

 

 

 

 かすみはムッとして訊き返す。

 

 

 

「決まってるだろ? 坂本と雨宮だよ。もうすぐ退学になる奴らだからな、もう近づかんほうがいいぞ」

 

「退学!?」

 

「俺が体罰しただの、証拠もないのに脅してきたからな。次の理事会で決まりだ。

ほら、予鈴も鳴ったことだしさっさと教室に戻れ」

 

「……はい」

 

 

 

 かすみは踵を返して教室に戻る……ふりをして階段の踊り場でスマホを取り出す。

この前交換した雨宮の電話番号をコールする。

 

 

 

「……出ない? もしかして鴨志田先生のパレスに行ったんじゃ……」

 

 電子機器はパレスでは使えないことから、そう推理するかすみ。

そんなかすみの様子を階段下から怪訝な表情で見つめる杏の姿に、かすみが気付くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ありがとう、鈴井さん。辛いだろうに、ごめんね」

 

「いえ……」

 

 

 

 ベレスは鈴井の証言をICレコーダーに録音し終え、それをカバンにしまう。

 

 

 

「それじゃ、後は任せるよ――丸喜」

 

 

 

 証言取りに同席していた顔見知りのカウンセラー、『丸喜 拓人』に声をかけ、帰り支度をするベレス。

 

 

 

「うん、任せてほしい……それで、ベレスさんはその証言をどうするつもりなんだい?」

 

「いずれ、然るべき時に捜査機関に提出するよ。今すぐはたぶん意味がない」

 

「意味がない?」

 

「鴨志田先生を懲戒免職に追い込むには、この証言だけじゃ確実とは言えない。

それに……噂だけど、校長は警察上層部とコネがあるって話もある」

 

「今警察に訴えても、握り潰される可能性があるってことか……」

 

「そういうこと……けど、必ず何とかするから」

 

 

 

 チラ、と病床でうつむく鈴井を見て、静かに決意を表明する。

 

 

 

「……無茶しないでよ。聞いたよ、鈴井さんを助けようと3階から飛び降りたって?」

 

「まぁね。キミと違ってひ弱じゃないから、そこは安心してほしい」

 

「はいはい……。その鴨志田先生にも注意したほうがいいよ。キミは若くてその……美人だし」

 

「そうだね……。忠告痛み入るよ。それじゃ、学校に戻るから」

 

「うん、鈴井さんは僕が責任もって見ておくから」

 

 

 

 ベレスは鈴井と丸喜と別れ、学校へと足を向ける。

特に急ぐ理由もないし、歩いて帰ろうか――と思っているとスマホに着信が鳴る。

発信者は――かすみだ。

 

 

 

「もしもし」

 

『先生、たっ大変なんです! 雨宮先輩と坂本先輩が!!』

 

「落ち着いて。何があったの?」

 

『あ、はい。えっと……私も詳しくは分からないんですけど、あの後2人は三島先輩と話をしたみたいで。

それでその……鴨志田先生に直談判しに行ったらしくて……それで』

 

「……それで、どうなったの?」

 

『た、退学って……言ってました。鴨志田先生が……』

 

「退学!?」

 

 

 

 思わず大声を出してしまい、口元を覆う。

 

 

 

『もう学校中に広まってます、退学の噂……。

それで、雨宮先輩に電話しようとしたんですけど、繋がらなくて。もしかしてパレスに行ったのかも』

 

「……だとしたら『改心』するつもりかもしれない。退学って言われて焦ったのかな」

 

「ど、どうしましょう先生。追いかけたほうがいいですか?」

 

「……そうだね。とりあえず連れ戻してほしい。私も急いで戻るよ。くれぐれも気をつけて」

 

「は、はいっ、分かりました!」

 

 

 

 かすみとの通話を切り、タクシーを呼ぶ。

10分ほどで学校へ辿り着き、適当な路地裏でパレスへ入ろうとした時――

 

 

 

「ベレス先生、鈴井の付き添いお疲れ様でした」

 

「鴨志田……先生」

 

 

 

 鴨志田に声をかけられた。

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