秀尽学園の非常勤講師、ベレス   作:女主人公スキー

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8.女の敵は私の敵

 かすみはベレスとの通話を終えると、4限をブッチして教師に見咎められないように校門へ向かう。

校門を抜けた先の路地裏でスマホを開く。

イセカイナビを起動し、キーワードを入力する。

 

 

 

「えっと、鴨志田、城……っと」

 

 

 

 かすみは、雨宮と竜司とモルガナに追いつかなければ、とかなり焦っていた。

路地裏に誰もいないので、誰も巻き込むことはないと高をくくる。

だから、背後にかすみから隠れるように杏が追いかけてきていたことに気付けない。

 

 景色が歪み、学校が城へと変わる。

 

 

 

「――何これっ!?」

 

 

 

 学校の突然の変貌に、杏は思わず声をあげる。

 

 

 

「えっ!? あ、た、高巻先輩!? 何でっ」

 

「ごめん、なんか鴨志田がどうとか言ってたから気になって尾けてたの。

芳澤さん……だよね。この城って、もしかして鴨志田と関係あるの?」

 

「えっと……これは、その……ですね。何と言いますか……」

 

「それに、その格好は何? 突然制服から変わったみたいに見えたけど」

 

 

 

 杏がかすみの怪盗服をじろじろと凝視する。

 

 

 

「あ、あんまり見ないでください……!」

 

「じゃあ答えてよ。ここ、鴨志田のなんなの?」

 

「いや、あの……」

 

「もういい、自分で直接確かめる!!」

 

 

 

 口ごもるかすみに苛立って、杏は正面の入り口へ走っていく。

 

 

 

「あ、ちょ、待っ」

 

「――鴨志田!! いるんだったら出てきなさ……え、何!? いやっ、離して!!」

 

「高巻先輩!?」

 

 

 

 杏はどうやら敵に囚われてしまったらしい。

助けなければ――と思うが、今は一人。覚醒したばかりで、十全に力を使いこなせるわけでもない。

杏には悪いが、ここは様子見をするしかない。

 

 入口の扉をそろっと開けて、せめてどこに連れていたのかを確認する。

どうやら依然雨宮達が探索した地下牢ではないようだ。

恐らく、雨宮達も地下牢以外を探索しているだろうし、上手くいけば合流できるかもしれない。

 

 

 

「……よしっ」

 

 

 

 とにかく、雨宮達と合流するしかない。

合流して、杏を救出してから現実へ戻ろう。

そう決めて、かすみは以前に聞いた侵入口(通風孔)から、城へ潜入する。

 

 

 

 

 

「鴨志田……先生」

 

「どうも、うちの鈴井がご迷惑をおかけしました。

先生が下で受け止めたと聞きましたが、怪我などしませんでしたか」

 

「ええ、特には……」

 

 

 

 急いでいる時にこの男と出くわすとは、と思うが表情には出さないよう努力する。

それに考えようによってはいい機会かもしれない。

 

 

 

「校長先生がもう授業はいいですからお帰りになってください、と言っておられました。

色々とお疲れではないですか? どうです、これから食事にでも……奢りますよ」

 

「……食事? 鴨志田先生と?」

 

 

 

 普段なら適当にあしらっているところだが、鴨志田とサシで話し合いができると思えば悪くない。

かすみや雨宮達のことは心配だが、どのみち鴨志田に付き纏われればパレスには行けない。

シェズが出てこないかだけが心配だが、彼女の目的が私の命なら生徒には手を出さない……はず。

 

 

「――分かった。労ってくれるなら、ありがたくもらっておこうかな」

 

「おおっ、ではこの先に美味い中華料理屋があるんですよ。行きましょうか」

 

 

 

 鴨志田の案内で中華料理屋へ歩いて向かう。

 

 恐らく鴨志田はベレスと肉体関係を結ぼうとしているのだろう。

鈴井はしばらく入院となり、杏は断られているし鈴井の件もあり警戒されるのは間違いない。

女子生徒に手を出しても問題にならないとしても、やり過ぎれば噂が広まってやり辛くなる。

 

 その点においてはベレスは都合がいい。非常勤で立場も弱い。

ベレスは警戒を強めつつも、逆に鴨志田の自白を録るぐらいのつもりでいた。

それに、退学の件もある。話合いで撤回させられたら、それに越したことはない。

 

 最悪の場合の保険もかけておいた。あとは野となれ山となれ……だ。

 

 

 

「ここです。さ、どうぞ」

 

 

 

 店内に入り、個室へ案内される。

適当に注文を済ませると、早速鴨志田が探りを入れてきた。

 

 

 

「鈴井の容体はどうですか。確か足が折れたとか……」

 

「うん、右脚が骨折した。全治1ヶ月と医者は言ってたね。

それとメンタルがやっぱり思わしくない。今はカウンセリングを受けているはず」

 

「そうですか……鈴井は何か言ってましたか」

 

「いえ……言いたくないと言ってました」

 

 

 

 本当は洗いざらい喋ってくれたが、ここはもっともらしい嘘をついておく。

 

 

 

「そうですか……。鈴井にはレギュラーとして厳しい指導をしてきましたから、責任を感じます」

 

「……」

 

「おっと、料理が来ましたよ。いただきましょう」

 

 

 

 しばらくは料理に舌鼓をうちながら、他愛もない話が続く。

流れで生徒の話になったので、ベレスから切り出す。

 

 

 

「雨宮、坂本、三島の退学の件、聞いたよ。本当?」

 

「おや? 耳が早いですね、戻ってきたばかりなのに」

 

「ええまぁ、噂好きの生徒が教えてくれて」

 

「……事実ですよ。体育教官室に押しかけて、証拠もないのに言いがかりをつけてきましてね。

元々不良生徒と前歴持ちだ。退学には十分な理由だと判断しました。

次の理事会――5月2日に退学となるでしょうね」

 

 

 

 残り2週間と少し。それまでにカモシダパレスを攻略するしかない。

 

 

 

「撤回するつもりはない?」

 

「ないですねぇ。何なら坂本には殴られそうになりましたから、警察沙汰にしないだけ温情と思ってほしいぐらいだ」

 

「……停学でもいいのでは」

 

「随分食い下がりますね。停学ぐらいじゃあいつらは反省しませんよ。退学以外あり得ない」

 

「退学は可哀想だ。何とか撤回してほしい……私に出来ることがあるなら何でもするよ」

 

「ほう……そこまで言うなら少し検討してみましょうか」

 

 

 

 鴨志田はニヤケ面を浮かべながら、少し考えて口を開く。

 

 

 

「そうですねぇ……ベレス先生が私と結婚を前提とした交際をして頂けるなら、撤回するのも吝かじゃない」

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩たち、いないな……。敵がいないしルートは合ってると思うけど」

 

 

 

 かすみは1人、カモシダパレスを走り回っていた。

敵は粗方雨宮達によって排除されており、接敵の機会は少ない。

勝てそうなシャドウは倒してきたので、少し強くなった気がする。

 

 

 

「うぅ~こうしている間にも高巻先輩は……こうなったら私一人でも……」

 

 

 

 などとぶつぶつと独り言をつぶやきながら歩いていると、曲がり角で誰かとぶつかってしまった。

 

 

 

「あいたた……すいません、考え事をしてて……って、え?」

 

「あんたは、この前の――」

 

「――シェズ、さん!?」

 

 

 

 かすみは素早く飛び退いて、仮面に手をかける。

 

 

 

「ちょっと待って。私は別にあなたと戦いたいわけじゃないのよ」

 

「でも、この前私を殺そうとしましたよね?」

 

「あれは邪魔されて気が立ってたから……。悪かったわよ」

 

 

 

 シェズは頭をかきながら目を伏せる。

 

 

 

「え、あ、はい……もしかして良い人ですか?」

 

「良い人のハードル低いわね、あんた……私はあくまでベレスを倒したいだけよ。それ以上でも以下でもないわ」

 

「あくまでベレス先生狙いなんですね……あの、どうしてここに?」

 

 

 

 信用できるかはまだ断言できないが、少なくとも会話はできるようだ。

 

 

 

「侵入者が来たって連絡があったのよ……でも、ベレスはいないみたいね」

 

「一応、来るとは聞いてますけど……」

 

「そん時はそん時ね。それより……金髪の子が兵士に連れてかれてたけど、あれあんたの友達じゃないの?」

 

「み、見たんですか? どっちへ行きました??」

 

 

 

 かすみは取っていた距離を縮め、詰め寄る。

 

 

 

「……いいわ。この前のお詫びってことで、案内してあげる」

 

「いいんですか? カモシダ先生に怒られません?」

 

「別に、あたしあいつの味方じゃないし。そもそもあーいう男は大っ嫌いなの」

 

「……分かります。私もその……苦手です」

 

「なんで言葉選んでんのよ。はっきり言いなさいよ、嫌いだって……ほら、こっちよ」

 

 

 

 潜入口から扉を2つ通った先、両サイドに鎧が飾られている先の部屋の前に立つ。

 

 

 

「開けるわよ」

 

「ちょ、ちょっと待ってください。もし戦闘になったら、私一人じゃ……」

 

「……世話が焼けるわね。いざとなったらあたしが逃がしてあげるから、覚悟決めなさい」

 

「は、はい……行きましょう!」

 

 

 

 シェズが勢いよく扉を開けると、そこには拘束された杏の姿があった。

そばには鴨志田と、もう一人の杏が水着姿となって鴨志田に寄り添っている。

 

 

 

「高巻先輩!」

 

「芳澤さん!? ねぇ、これ何!?」

 

「話せば長くなるんですけど、ここは鴨志田先生の精神世界的なアレなんです……!」

 

「全然分かんない!」

 

 

 

 杏の前には武装したシャドウが杏に剣を突きつけ……処刑が始まるところのようだった。

 

 

 

「おっと、お前ら。それ以上動いたらこの女を殺すぞ」

 

「鴨志田先生、やめてください! 高巻先輩は迷い込んじゃっただけで……!」

 

「関係ないな。杏はこの世に二人もいらない、偽者は処刑する」

 

「偽者はそっちでしょうが!! ふざけんな鴨志田!!」

 

 

 

 杏が叫ぶが、鴨志田は取りつく島もなくシャドウ達に処刑続行を指示する。

 

 

 

「ど、どうすれば……」

 

 

 

 動かなければ杏は処刑される。動いても杏は殺される。

いきなり生き死にの状況に放り出され、かすみは二の足を踏み動けないでいた。

 

 

 

「どっちにしろ殺されるなら動いたほうがいいんじゃない?」

 

「そ、そんなこと言ったって……」

 

 

 

 ジリジリとシャドウと杏の距離は縮まっていく。

鴨志田はそんな動けないでいるかすみをジロジロと観察しはじめる。

 

 

 

「確か1年の芳澤――だったか? 新体操やってるだけあっていい肢体してるよなぁ」

 

「……っ」

 

「シェズとか言ったっけ? お前が連れてきたのか。でかしたぞ」

 

「はぁ?」

 

「おい、こっちの女も拘束しろ。こっちは、俺様が直々に遊んでやる……!」

 

 

 

 かすみを続々とシャドウが取り囲み、あっという間に拘束されてしまう。

 

 

 

「は、離して、くださいっ」

 

「よ、芳澤さんまで手を出す気!? あんた、見境なさすぎ!!

 

「うるさいな、偽者が……そもそもお前のせいだぞ?

お前が俺の誘いを断るから、他の女に手を出すしかなくなったんだ」

 

「他の女って……それ、まさか」

 

「何て名前だったっけな……どうでもいいから忘れちまったよ。

屋上から飛び降りたあのバカ女だよ。あんまりうるさいからガムテで口塞いでヤるしかなくてな。

暴れるから気持ちよくないし、一発ぶん殴ってやったら静かになって……ありゃ笑えたな」

 

「あんた、志帆を……!! 許さない……鴨志田、あんただけは絶対に!!」

 

 

 

 杏は拘束を何とか外そうとガチャガチャと暴れる。が、女の細腕ではビクともしない。

 

 

 

「ハッ、威勢だけはいいな。その状況で何が出来るって言うんだ? ん?」

 

「志帆……ごめん。私が、自分可愛さに中途半端なことしてたから――」

 

 

 

 杏の頬に涙が一筋流れる。

 

 

 

「部外者のあたしが言うことじゃないだろうけどさ……そんな奴の言いなりになる必要ないよ」

 

「え……?」

 

 

 

 事の成り行きを黙って見ていたシェズが、我慢しきれずに口を挟む。

 

 

 

「こういう男はね、調子に乗らせたらダメなの。どんどんつけあがって収拾がつかなくなる。

特にこういう性欲に支配された男は、二度と女に手を出せないようにしてやればいい――」

 

 

 

 シェズは鴨志田にツカツカと歩み寄り、

 

 

 

「こんな風に、ねッ!!」

 

 

 鴨志田の金的を思い切り蹴り上げた。

 

 

 

「ぎぇっ!?」

 

 

 

 鴨志田は猛烈な痛みに思わず股間を押さえ、うずくまる。

 

 

 

「き、貴様……俺の味方じゃなかったのか……」

 

「何であたしがあんたの味方しないといけないのよ。ざけんじゃないわよ、このカス野郎」

 

「何だと……」

 

 

 

 シェズは抜剣し、鴨志田に剣を突きつける。

 

 

 

女の敵は、私の敵に決まってるでしょうが……!

 

 

 

 シェズは反転し、目にも止まらない速さでかすみを拘束しているシャドウ達を一太刀で斬り伏せる。

 

 

「シェズさん……! ありがとうございます!」

 

「さぁ……杏とか言ったっけ? あんたもいい加減、反抗してみなさいよ」

 

 

 

 シェズにそう言われた杏は――

 

 

 

「……私、間違ってた。こんなクズの言いなりになって、何も解決するわけなかった。

志帆――私、今度は……今度こそ間違えないって誓うよ」

 

 

 

 杏は目を見開いて、鴨志田をキッと睨む。

 

 

 

「鴨志田――あんたの全てを奪うまで、私は戦う!!

 

 

 

 その時、杏の頭の中に声が響く。

 

 

 


 

『やっと立ち向かう勇気を出せたんだね……。

お前の恨みを晴らせるのはお前しかいないのよ……でもまだ遅くはない。

許す気がないなら、とことん痛めつけてやるといいわ――』

 


 

 

 

「あぁ……ッ」

 

 

 


 

『我は汝、汝は我……やっと契約、結べるね。さぁ、名前を呼んで……』

 


 

 

 

「来て……『カルメン』ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「結婚? 面白い冗談だね」

 

「いやいや、冗談なんかじゃありませんよ……ベレス先生と結婚できるなら、あんなクズどもどうでもいいですから」

 

 

 

 鴨志田は言いながら席を立ち、ベレスの背後に立って肩に手を置く。

 

 

 

「どうです? 生徒想いのベレス先生と言えど、流石に気が引けますか」

 

「……本当に退学を撤回するなら、一考の余地はある。3人の卒業を保証してくれるなら」

 

「男に二言はありませんよ。今後、あいつらが多少の問題を起こしても目を瞑ってもいい。庇える範囲なら、の話ですが」

 

「……そう」

 

 

 

 万一、改心できなかった時の保険と考えれば完全にナシではない提案だ。

改心できなければ自分が犠牲になるとなれば、皆も奮起するだろう。

 

 

 

「……少し考えさせてほしい」

 

「もちろん構いませんよ。人生の重要な選択ですからね……。

理事会の日までに決めてくれればね……さて、そろそろ出ましょうか」

 

「そうだ、ね――?」

 

 

 

 席を立とうとしたベレスだったが、強烈な眠気に襲われてふらついてしまう。

椅子を支えにして何とか姿勢を維持するが、気を抜けば今にも眠ってしまいそうだ。

 

 

 

「……やっと効いてきたか」

 

「え……」

 

 

 

 鴨志田は醜悪な笑みを浮かべると、ベレスの肩を抱き、腰に手をやって支える。

睡眠薬を盛られるような展開は想定していたが、盛る隙はなかったはずだ。

となると、店員に協力者がいたということだろうか。

 

 

 

「理事会までとは言わず、即日決断できるようにその身体に教え込んであげますよ」

 

 

 

 鴨志田は肩を抱く手を胸に伸ばし、腰に回した手で尻を撫でまわす。

 

 

 

「や、めろ……」

 

 

 

 ベレスは抵抗しようとするが、眠気で力が入らない。意識を保つので精一杯だ。

 

 

 

「ふははッ、これでベレスも俺の女だな――……うぐぉ!?」

 

「!?」

 

 

 

 勝ち誇った鴨志田だったが、何故か突如股間を押さえて悶絶し始める。

 

 

 

「い、今のうち、に……」

 

 

 

 ベレスは眠気を必死に我慢しながら、店から脱出しようと壁づたいに歩いていく。

そこに見知った顔が現れた。

 

 

 

「おいベレス、無事か?」

 

「……岩井」

 

「ちっ、睡眠薬でも盛られたか。下衆な真似しやがる……おら、肩貸せ」

 

「すまない……」

 

 

 

 万が一に備えて、岩井に備えてもらっておいて正解だったようだ。

岩井の肩を借りて、店を出る。しかし、そこでベレスの眠気が限界になった。

 

 

 

「おい、寝るな。まだ店出ただけだぞ」

 

「ごめん、もう無理……どっか、で……眠らせ、て……」

 

 

 

 ベレスは消え入るような声でそう呟いて、眠りの世界に落ちて行った。

 

 

 

「どっかで……って……ったく」

 

 

 

 

 

 

 

 

「来て……『カルメン』ッ!!」

 

 

 

 杏の顔に仮面が顕現し、服装も反逆の意志を示す雌豹のような赤いボディスーツの怪盗服に変わる。

杏は現れた仮面を剥がし、覚醒したペルソナ、『カルメン』を背後に顕現させる。

 

 

 

「はぁっ!!」

 

 

 

 『カルメン』の炎で脆くなった拘束を破壊し、シャドウの剣を奪う。

そのまま飛び上がって認知存在の杏を一刀両断する。

 

 

 

「貴様ぁっ……この反逆者どもめ! 貴様らの相手はこいつだ……!

出て来い――番兵隊長(ベルフェゴール)!!」

 

 

 

 番兵隊長(ベルフェゴール)と呼ばれたトイレに腰掛けたような紫色のシャドウが3人に立ちはだかる。

 

 

 

「こんなザコで足止めできると思われてるとか、心外なんだけど」

 

 

 

 シェズが敵を眺めて溜め息を吐く。

 

 

 

「シェズさん、一緒に戦ってくれるんですか?」

 

「そうね……でも、矢面に立つのはあんた達よ。今後もこの城を攻略するなら、これぐらい倒せないとね。

安心しなさい、援護ならしてあげる――さぁ、構えなさい!」

 

「えっと、誰……?」

 

 

 

 シェズのことを知らない杏が不安げに呟く。

 

 

 

「えっと……味方です、一応! 今は……ですよね?」

 

「少なくとも敵ではないわ……あたしの目的はベレスだけ」

 

「よく分からないけど……援護お願い! 協力して、芳澤さん!!」

 

「もちろんです、高巻先輩――それと、かすみでいいです!」

 

 

 

 二人とも仮面を剥がし、ペルソナを顕現させる。

 

 

 

「『カルメン』!!」

 

「『サンドリヨン』!!」

 

 

 

 その様子を見ていたカモシダに、僅かに焦りの表情が混じる。

 

 

 

番兵隊長(ベルフェゴール)だけでは荷が重いか……ならばっ」

 

 

 

 カモシダの背後から、いつからいたのか女性が姿を現した。

 

 

 

「来い、()()()。俺様は撤退する、時間を稼げっ」

 

「はい、()()()……」

 

 

 

 認知存在のベレスは、ベールのない、露出多目のウェディングドレスを着ていた。

手には剣ではなくダガーを手にしている。

 

 

 

「え、ベレス先生!? なんで花嫁衣裳なのよ!?」

 

「ふん、ベレスは期限が来たらクズどもの退学の代償に、俺様と結婚するからな」

 

「なっ……」

 

 

 

 カモシダは言いながら、扉を勢いよく開け部屋から逃げ出す。

 

 

 

「待ちなさい、鴨志田……!」

 

「先輩、今はこいつらの相手をしないと」

 

「く……行くよ、カルメン……『アギ』!」

 

 

 

 杏が番兵隊長(ベルフェゴール)火属性魔法(アギ)を放つと、弱点だったのか態勢を崩す。

 

 

 

「チャンス! 偽先生も――」

 

 

 

 続けて、認知ベレスにも『アギ』を放つが、華麗なステップで回避されてしまう。

そのまま、ダガーを構えて杏の元へ素早く迫る。

 

 

 

「うそ、早ッ――」

 

「――遅すぎる」

 

 

 

 ベレスが低い声で呟いて、杏の喉を切り裂かんとナイフを振りかぶる。しかし――

 

 

 

「あんたがね」

 

 

 

 シェズがその間に割り込み、剣を斬り上げ、認知ベレスのダガーを弾く。

 

 

 

「……!!」

 

「本物とは比べるべくもないわね。武器も中世イメージで持ってるだけで使いこなせてないし」

 

「……旦那様の敵は、全て殺す」

 

「その声で……気持ち悪いことを喋んじゃないッ!!」

 

 

 

 シェズの剣に電撃が纏ったかと思うと、次の瞬間にはレーザーのような速度で認知ベレスに迫る。

 

 

 

「そんなっ――」

 

「避けられはしない――『紫電』!!」*1

 

 

 

 電撃の刃が認知ベレスを貫き、急所に当たり態勢が崩れる。

 

 

 

 

≪HOLD UP!≫

 

 

 

 

「さぁ、観念しなさい!」

 

「高巻先輩、総攻撃タイムです!」

 

「何それ?」

 

「つまり……ボッコボコにするってことです! 行きますよ!! シェズさんも!」

 

「……しょうがないわね」

 

 

 

 

「「「これで、終わりよ/ですッ!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!? 今、何時?」

 

「起きたか……今は午後4時ってとこだな。3時間は寝てたな」

 

 

 

 岩井はタバコをふかしながら、ベッドに腰掛けてそう答える。

 

 

 

「岩井……ありがとう。それで、ここは?」

 

 

 

 ベレスは周囲を見回す。ホテルのようだが、内装が少し変わっている。

 

 

 

「近場のホテル……まぁ、いわゆるラブホだな」

 

「そう……何かした?」

 

「してねーよ、見くびるな。金は立て替えといてやるから、先に出てろ」

 

「すまない、恩に着るよ」

 

 

 

 ベレスは服装を整えて、カバンを手に取ると足早に部屋から出て行った。

 

 

 

「……はぁ、危なっかしい女だな」

 

 

 

 岩井は溜め息と煙を吐きながら、10本目のタバコを懐から取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 番兵隊長(ベルフェゴール)と認知ベレスを倒したら、シェズはいつの間にかいなくなっていた。

 

 

「高巻先輩、大丈夫ですか?」

 

「うーん……ちょっとだるいかも」

 

「ですよね……とりあえず城から脱出しましょう」

 

 

 

 ふらつく杏を支えながら、かすみは潜入口を目指す。

その途中で、雨宮、坂本、モルガナとばったり出会う。

 

 

 

「雨宮先輩達……! やっと会えた」

 

「芳澤……それに、高巻さん――その格好はまさか」

 

「格好って? ……え、えぇ!? な、何この格好!?」

 

「おいおい、高巻もペルソナ使えるようになったのかよ!?」

 

「はい、そうなんです。あの、私がうっかり連れてきてしまって……」

 

「タカマキ……なぁ、下の名前は何て言うんだ?」

 

「え? 杏だけど……って猫が喋ってる!?」

 

「猫じゃねーって! アン殿……アン殿か」

 

「猫なのに猫じゃない……? なぞかけ?」

 

「あの、モルガナさんのことは深く考えないほうがいいかと」

 

「そうなの? どうでもいいけど、早く出ようよ」

 

「そうだな……急ごうか」

 

 

 

 シャドウは粗方排除してきたので、スムーズに城の外に出ることが出来た。

外であれやこれやと話していると、かなり遅れてベレスがパレスへやって来た。

 

 

 

「遅くなってごめん、色々あって」

 

「「「「「ベレス先生!」」」」」

 

 

 

 4人と1匹がベレスへ駆け寄る。

 

 

 

「雨宮くん、坂本くん……それにモルガナも。勝手にパレスへ行くなんて……心配したんだよ」

 

「すみません先生。退学と言われて、冷静な判断ができませんでした」

 

 

 

 雨宮がベレスへ頭を下げる。

 

 

 

「元はと言えば俺が悪いんだ。我慢できなくて鴨志田に直談判しちまって、それで……」

 

 

 

 竜司がバツの悪い顔で、短絡的な行動を悔やむ。

 

 

 

「まぁ説教は後でするとして……高巻さんもペルソナを使えるようになったんだね」

 

「あ、はい。そうみたいです」

 

「何でこんなことになったかは後でかすみに聞くけど……引き返すなら今のうちだよ?」

 

 

 

 心配そうにかすみを諫めるベレスだが、かすみは首を振って否定する。

 

 

 

「いえ、先生……鴨志田を『改心』させたい気持ちは、皆と同じ……いえ、それ以上のつもりです」

 

「……だろうね。分かった、その件については明日また話そう。

それにしても、高巻さん……その格好……」

 

「えっ……な、何ですか?」

 

 

 

 杏は身体を隠すように手を交差させて身構える。

 

 

 

「――ちょっと刺激的すぎない?」

 

「「「「「あんたが言うな!!」」」」」

 

 

 

 全員の声が完全にハモって、城に響き渡った。

*1
敵1体に力依存で電撃属性の大ダメージ クリティカル率が高め




ストックが尽きましたので次の話まで早ければ2日、長くて5日かかると思います
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