ハリー・ポッターと魔法の筋肉   作:ボルシチ

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ノリと勢い2回目。




頭を筋肉にして読んでください。


2話 筋肉と魔力は最高の武器

「ねえ、ハリー」

「なんだい、セドリック」

 

 共に汗を流すセドリックの呼びかけにハリーは応える。

 

「僕は、その…君に試練のことについて、話して…それで、ライバルだとしても、同じホグワーツの、代表だから……なにかしらっ!直接では、なくても…手助け、できればなと!思っては、いたんだ!そもそも僕が!紹介してくれって!頼んだんだけどさ!」

 

 妙に言葉を切って話すセドリックだが、その要因はハリーの言語能力すらも奪っているため言及することはできない。

 

「どうして、僕達は今…スクワットを、させられているんだい⁈」

「ごめんセドリック…それは!僕もわからない!」

「いいスクワットだお前達!筋肉と魔力の脈動を感じるぞ!」

 

 目の前にいる巨漢は、ロシアの魔法使いザンギエフ。

 先日のドラゴンの試練でハリーに『魔力の使い方』を教えた魔法使いであり、筋肉と魔力を使った豪快な戦い方をする魔法使いだ。ハグリッドよりも遥かに威圧感のある風貌であり筋肉をこよなく信頼する異端の魔法使いだが、その実教え方は非常にわかりやすく聡明というギャップがあることをハリーはここ数日の付き合いでよく理解していた。魔法に関する知識や技量で言えば隣で共に汗を流すセドリックすらも凌駕するほどだった。正直、勉学面ではあのハーマイオニーよりも教え方がうまく知識も多い。

 

 だが、彼のとる突飛な行動はあまりにも普通の魔法使いには到底理解できるものではなかった。

 何故か今、ハリーとセドリックは岩を背負った状態でスクワットをさせられている。本来は薪を背負うためのものに岩を乗せて行うスクワットは、二人の大腿筋を痛めつけるには十分すぎる重量だった。

 

 どうしてこうなったのかと思いつつ、目の前で自身よりも遥かに巨大な岩を背負って悠々とスクワットを続けるザンギエフを見ながら少しだけ前のことを思い出す。

 

 

 

 

 

 

「ハリー」

「やあセドリック」

 

 ホグワーツ校内を歩いていると、ハリーはセドリックに声をかけられた。

 

「その……調子は、どう?」

「絶好調だよ。()()()()()でね」

 

 柔らかく笑うハリーにセドリックはホッとしたように笑う。

 先日、次の試練のヒントを見つけられていない状態のハリーは、セドリックからヒントをもらってなんとか次の試練について知ることができた。最初の試練についてハリーから教えてもらったこともあり、ハリーが無事に次の試練のことを知ることができてセドリックは借りを返すことができたことを素直に喜んだ。

 余談だが、この時既に友人であるネビル・ロングボトムに『鰓昆布』を譲ってもらっていた。

 

「前の試練、すごかったよ。あのホーンテール相手に箒で逃げ切るなんて…僕には、とてもできそうにない」

「そんなことない!君もシーカーだろう?練習すればできるようになるよ。僕も最初からあんな風に飛べたわけじゃない」

「練習…?」

「うん。箒に乗ってる時の魔力をうまく使えばできるよ」

「魔力を?どういうことだい?」

 

 ハリーは一瞬だけ魔力の使い方について教えるかどうかを迷うものの、ここまで言った以上答えないのも変かと考え、ザンギエフに教わったことをセドリックに教えた。

 

「…なるほど。箒に乗った時の魔力の流れを正確に把握したのか」

「うん。クィディッチの練習の時にそこに注目してみたんだ」

「そこは考えたことなかったな…次クィディッチの練習する時に少し意識してみるよ。ところでハリー」

「なに?」

「その…ザンギエフって、誰なんだい?」

「ダンブルドア先生の知り合いで、ロシアの魔法使い。今は僕の……なんだろう」

 

 ザンギエフはあれからハリーに魔力の使い方や戦い方を教えてくれている。非常にためになるし、授業では得られない実践経験を得られるのは正直非常にありがたい。特に魔力の講義を受けながらも唐突に何の前触れもなく飛んでくる魔法を防ぐトレーニングは非常にためになる。

 だが先生か、と言われると少し違う。必ず講義の中に筋肉のことを織り交ぜてくるのは正直理解に苦しむ。一応便宜上『先生』とは呼んでいるが、あまり…というか全く教師らしくはない。

 

「うーん……僕に魔力の使い方を教えてくれてる人だね」

「魔力の、使い方?」

「うん。口では説明しにくいんだけど…魔法の使い方をより洗練させるためのものって感じ。すごく役に立ってるんだ」

「へえ…それは興味あるな」

「興味あるの?ロンやハーマイオニーは全然興味を持たなかったんだけど…」

「いや、この試練に役に立つかもしれないだろ?この試練がなくても僕は来年NEWT試験がある。魔法の使い方がよくなるなら、そうなるに越したことはない。それに、ハリーが役に立つって言うならそうなんだろうなって思うよ」

 

 まさかここまで評価を受けているとは思わなかったハリーは少しだけ驚いたように目を見開く。セドリックとの接点はクィディッチ以外ではない。それなのに『ハリーが役に立つと言うのなら』とまで言われるとは考えてもいなかった。

 無論セドリックも最初からそういう評価だったわけではない。ただ圧倒的不利な状況でありながらも勇敢に挑むことをやめず、ドラゴンを出し抜くほどの戦果を見せた。そんな姿を見せられればハリーへの評価も変わってくる。

 

「で、誰が君に教えてくれてるの?」

「えっと…ザンギエフって知ってる?」

「ザンギエフ…ああ、もしかして最近ホグワーツにいるあの大きい人?」

「うん、多分セドリックが言ってる人で間違いないよ」

「大きいよね。もしかして、ハグリッドと同じように巨人の血が入ってる…とか?」

「……いや、多分違う」

「巨人の血がないのにあんなに大きいのか…?」

 

 セドリックの戸惑う姿にハリーは苦笑する。

 魔法界には千差万別様々な生き物がいる。摩訶不思議な存在や通常では考えられないような存在なども探せば無数にいるだろう。しかしザンギエフはただの魔法族。魔法が使えるだけの人間だ。ただの魔法族があそこまで大きくなるものなのだろうか、と考えてしまうのも無理はない。

 

「ねえ、ハリー」

「なに?」

「良ければ、僕にそのザンギエフを紹介してくれないかい?」

「え?」

「彼から教えを受ければ、もしかしたら僕の成長に繋がるかもって思ったんだ。あっ、でも…そうしたら試練のライバルを強くすることになっちゃうのか…」

「…いや、いいよ。紹介する」

「えっ、いいのかい?」

「うん。僕ら、ホグワーツ代表だろう?だから、僕らが成長できるのはきっといいことだ」

 

 ハリーの言葉に少しだけ驚いたような表情を見せるが、すぐに笑顔になる。こんな真っ直ぐな少年を疑ってしまったことを少しだけ申し訳なく思いながらも、セドリックは嬉しくなった。

 ただハリーはとてもためになるがあまりにも強烈なトレーニングを一人で受け続けるのがしんどかったという思いもあったりするのだが。

 

「ハリーこの後は?」

「ちょうどザンギエフのところに行くんだ。セドリックもどう?」

「もちろん!ありがとうハリー!」

 

 そうして二人はザンギエフの元へと向かっていく。

 

 

 その15分後、二人は岩を背負ってスクワットさせらていた。

 

 

「次の試練は水中か!ならば魔力で肉体を活性化させる術を身につけろ!付け焼き刃でも多少役に立つ!よぉしお前達!これを背負え!」

 

 

 

「スクワットだ!!!」

 

 

 

 そして現在に至る。

 

 足に魔力を集中させてひたすらスクワット。それが今二人がやっている特訓だった。

 

「筋繊維一つ一つに魔力を集中させろ!魔力と筋力、二つの力を使え!ただ漫然とこなすな!」

「確かにこれは…ためになるけど!」

「しんどい、よね!」

 

 本来なら二人は持ち上げることなどできない重量の岩石を持ち上げられている以上、魔力の影響はある。ただ慣れない魔力の使い方をしていることもあり、二人の体力は開始5分で既に限界。そしてこの課題を与えてきているザンギエフは、二人よりも遥かに大きい岩を背負って悠々とスクワットを続けている。ザンギエフの体格ならできそうな気もするが、これほどまで体力に差があるのはやはり、魔力操作技術に大きな差がある故だろう。あまりにも体力差がありすぎるのでもはや岩に浮遊魔法を使っているのではないかと錯覚するが、ザンギエフの杖は相変わらず足につけられた杖ホルダーに収まったまま。杖なし魔法もある程度使えるザンギエフだが、ここまでの岩を持ち上げられるほどの魔法を杖なしでは使えない。

 

 つまりザンギエフは己の筋力と魔力のみでこの岩を持ち上げているということ。その事実にセドリックは本気でドン引きしていた。

 

「油断するなディゴリー!『インカーセラス-縛れ-』!」

「っ!『プロテゴ-守れ-』!」

 

 スクワットを続けていたセドリックに向けて突如杖を抜いたザンギエフは魔法を放つ。セドリックも咄嗟に盾の魔法で防ぐが、魔力操作を崩して膝を突いてしまう。

 

「いいぞディゴリー!よく俺の不意打ちを防いだ!だが一瞬警戒心を解いたな⁈そのせいで魔力操作が疎かになったな!」

「は、はい…」

「咄嗟に杖を抜いて盾で防ぐ反応は素晴らしい!だが慣れないことをしているとその後が崩れるな!それに今俺が放ったのが『死の呪い』だった場合…お前は死んでいたぞ!」

「えっ…」

「お前が言いたいことを当ててやろう!『死の呪いが飛んでくることなんてないだろう』!そう思っているな⁈」

 

 セドリックは思わず口を閉ざす。

 もしかしたら、セドリックが思いつかないような理論が飛び出してくるのではないかと。

 

「その通りだ!!!」

 

 お前は一体何を言っているんだ。

 

「確かに『死の呪い』なんぞそうそう飛んでくることはない!だが、絶対に無いと言い切れるのか?」

「え?」

「イギリスだろうがロシアだろうが、闇の魔術を使う魔法使いはいる!不意にそういう奴に遭遇した時にやられる可能性はあるだろう!そういう時に、不意打ちで撃たれたらどうするのだ!」

「っ!」

「相手への危害を加えない盾の魔法にしたのは相手を害さないためだろう!だがどんな時でも!攻撃系魔法で撃ち合いにできるくらいの気概を持て!それがお前達の命を守ることになるやもしれんからな!」

 

 セドリックは唖然としているが、これと同じ話をハリーは聞かされている。ダンブルドアから命を狙われることが多いと聞いたからこそ、ザンギエフは咄嗟の反撃を身につけさせようとしていた。その事情を把握しているハリーは今のセドリックの気持ちが手に取るようにわかる。

 

 こんなふざけた見た目と行動と言動の割に、言っている内容が相当まともかつ実践的だから驚くのも無理はない。

 

「油断するなポッター!『ステューピファイ-麻痺せよ-』!」

「『エクスペリアームス-武器よ去れ-』!」

「いいぞ!俺から目を離さなかったな!反撃が身についてきた証拠だ!だが…魔力操作が疎かになっているぞ!」

「うっ…」

「よおしいいぞお前達!だがまだ甘い!」

 

 

 

「さあ気合いを入れてやる!投げ飛ばしてやろう!」

 

 

 

 その後、しっかり投げ飛ばされた。

 地面に転がりながら二人は空を眺める。

 

「は、ハリー…」

「……なんだい、セドリック」

「すごい人だね、ザンギエフ…」

「色んな意味で、ね…」

 

 息も絶え絶えになりながらも、ハリーとセドリックは目を見合わせて笑う。

 そんな二人にザンギエフが歩み寄る。

 

「悪くなかったぞお前達」

「ザンギエフ先生…」

「大腿筋に魔力を集中させることで足の力を爆発的に高める!潜るのであれば、泳ぐ時にも役立つだろう!」

「そういう、ことだったんですね…」

 

 何故スクワットだったのか。

 それは足に魔力を集中させる訓練をさせるため。そしてそのためには足を使う運動が一番だとザンギエフは判断し、足に強い負荷をかけるために岩を背負わせた。

 

「大腿筋は泳ぐにしても走るにしても要となる!足に魔力を集中させることができれば、泳ぐにしても走るにしても大いに役立つ!次の試練までにある程度モノにしておけ!」

「は、はい…」

「だがこのままでは重度の筋肉痛で泳ぐこともままならないだろう!」

 

 ザンギエフは杖を抜くと、ハリーの太ももに杖を添える。するとハリーの大腿筋に溜まった疲労感がみるみる抜けていった。ザンギエフはそのままセドリックの筋肉の疲労感も取っていく。

 

「これは?」

「筋肉の疲労と溜まった乳酸を取り除く魔法だ。この魔法で回復すると筋肉の超回復もされる!筋肉を鍛えた時に実に有用だ!あとで教えてやろう!」

 

 別に筋肉鍛えたいわけじゃないんだけど、とハリーとセドリックは思うものの口にはしない。

 

「だが筋トレをした後は必ずタンパク質を摂ることだ!でなければ筋肉は大きくならんからな!」

 

 だから別に筋肉を鍛えたいわけじゃないんだけど、とセドリックは思う。なお、ハリーは何度言っても全く聞く気がないことを察したためもう何も言わない。

 

 これだけ人の話を聞かないザンギエフの元に通う理由として、ザンギエフは『生き残る』という意味で非常に役立つことを教えてくれるからだ。特に闇の魔術への対応は授業ではまず学ぶことができないようなことを学べる。何度も命の危機を経験したハリーからすれば、どれだけ学んでも足りないほど求めている能力だった。

 

「よぉし次だ!魔力を無駄に使わないためのトレーニングを続けるぞ!」

 

 

 

「自分の筋肉に魔力を激らせろ!!!」

 

 

 

 ポージングをしながら全身に魔力を激らせるザンギエフを見ながらセドリックは呟く。

 

「ハリー」

「なに?」

「大変だね」

「でしょ?」

 

 確かに実力で劣る部分の多いハリーにとってザンギエフは必要な人材。ただ、癖が強い人物の多い魔法界の中でも異色の個性を持つザンギエフから教えを乞うことは、実に心労が多いだろうとセドリックは心からハリーに同情した。

 

 ハリーは遠い目をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、そこの筋肉男」

 

 どう考えても自分しかいないであろう呼び方をされてザンギエフは振り返る。そこには白銀の髪を携えた少年がいた。その後ろには体格のいい少年も二人。

 

「それは俺のことか?」

「他に誰がいる。全く…脳みそまで筋肉なのか?」

「脳みそまで筋肉だと?」

 

 ザンギエフがギロリと鋭い目を向けてくる。その威圧感に少年は思わず杖を抜きかけた。

 

 

 

「いくらなんでも褒めすぎだろう!!!」

 

 

 

 お前は一体何を言っているんだ。

 想定外の返答に思わず少年…ドラコ・マルフォイは真顔になる。

 

「さて、いきなり褒め言葉を寄越してきた少年よ。お前の名はなんというのだ」

「ぼ、僕はドラコ・マルフォイ。高貴なる純血一族の者だ!」

「ほう!あの聖28族のマルフォイか!会えて光栄だ!俺はザンギエフ!ロシアの魔法使いだ!」

「…ふん、異国の魔法使いか。お前、最近ホグワーツに出入りしているな?」

「うむ、その通りだ」

「……ポッターの指導をしていると聞いたが、本当なのか?」

「そうだな、その通りだ」

 

 その言葉と同時にマルフォイの表情が剣呑になる。

 

「…全く、落ちたものだなこの学校も。あんな奴のためにわざわざ異国から魔法使いを呼んでくるとは。ご大層なものだ」

「なんだ、気に食わんか?ダンブルドアに頼まれたからやっているに過ぎんが」

「あの老いぼれも耄碌したな。こんな異国の筋肉ダルマに頼むなんて」

 

 明らかに機嫌が悪くなったマルフォイを前に、ザンギエフは腕を組む。そして何か名案を思いついたように声を上げた。

 

「何やら気に食わないようだな!」

「ああ気に食わないね。あんな奴を贔屓するこの環境も、お前も」

「そうか!ならいい解決方法があるぞ!」

 

 ザンギエフはジャケットを脱ぎ捨て、杖を構えた。

 

 

 

「さあ!どこからでも来ぉい!!!」

 

 

 

 なんでそうなった。

 

「不機嫌な時は決闘をするといい!さあ、どこからでも来い!後ろの二人もまとめて来い!」

「…僕単体ならともかく、三人まとめて勝てると?」

 

 後ろの二人、クラッブとゴイルはお世辞にも優秀とは言えない。最低限決闘はできるものの、決闘で使えるレベルの魔法はあまり多くない。だが体格がいいだけあり、腕っぷしと耐久力はそれなりにある。どれだけ筋肉があろうと、最悪二人がザンギエフを抑えている間にマルフォイが魔法を撃ち込むこともできる。

 

「お前達、あの筋肉ダルマの動きを止めろ。どんな手法でもいい。イギリスの純血一族を侮ったことを後悔させてやる」

「わかった」

 

 マルフォイの言葉に頷いたクラッブとゴイルはザンギエフの動きを止めるべく動き出す。クラッブがザンギエフの腕を、ゴイルが足を掴んで動きを止める。

 尤も、動きを止められているかどうかはまた別だが。

 

「緩い!緩いぞ!ダブルラリアット!!!」

 

 ザンギエフは体格のいい二人の束縛をものともせず、回転して二人を弾き飛ばす。まさかこんな飛ばされるとは思っていなかった二人は思わず呆然としてしまう。

 

「何をしてるお前達!『インカーセラス-縛れ-』!」

「ぬぅん!!!」

 

 マルフォイの放った魔法の縄すらもザンギエフは筋肉で引きちぎる。

 

「なっ…どんな魔法を使ったんだお前!」

「魔法?いいや違う…筋肉だ!!!

「そ、そんなわけあるか!魔法が筋肉に負けるなんて…!」

 

 

「身体の鍛え方が違うのだ!!!」

 

 

 ポージングをしながら言うザンギエフの言葉が本当に何を言っているのか理解ができず、マルフォイは呆然としてしまう。

 そこで吹き飛ばされたクラッブがザンギエフに掴み掛かるが、ザンギエフは笑いながらその腕を引き剥がした。

 

「いい根性だ!よおし、ならば俺の技を見せてやろう!」

 

 ザンギエフはその巨体に見合わぬ素早さでクラッブの背後に回ると、クラッブの胴体に腕を回した。そしてそのまま後ろにのけぞるようにクラッブを持ち上げていく。

 

「な、何をする気だ⁈」

 

 

「筋肉の時間だ!!!」

 

 

 クラッブの体がのけぞったザンギエフによって後ろ向きに叩きつけられる。そしてその勢いを利用しつつ、己の筋肉と魔力を利用してさらに高く飛び上がった。

 

 

「ロシアンスープレックス!!!」

 

 

 高く飛び上がったスープレックスでクラッブが叩きつけられた。勢い的に死にそうな気もするが、手に持った杖でザンギエフは着地地点にクッション魔法を使っている。ただ衝撃は消し切れていないため強烈な衝撃がクラッブの全身を走る。外傷は何もないが、投げられた衝撃と恐怖でクラッブは気絶してしまった。

 

「次ぃ!!!」

「ひっ…さ、『サーペンソーティア-蛇よ-』!」

 

 ザンギエフに視線を向けられて怯えたマルフォイは咄嗟にザンギエフに向けて蛇を出した。蛇はザンギエフの体に叩きつけられたが、そのままザンギエフの腕に絡みついてその牙を丸太のような腕に噛みつく。

 

 しかしその牙がザンギエフの腕を貫くことはなかった。

 

「は⁈どうなってる⁈毒はないが鋭い牙を持った蛇だぞ⁈人の腕くらい貫けるはずだ!」

「何を言っている」

 

 

「牙が鍛えぬいた筋肉に敵うわけがないだろう!!!」

 

 

 お前は本当に何を言っているんだ。

 

「マルフォイよ。お前は鋼がどうできるか知っているか?」

「は、鋼?」

「そうだ。鋼は熱して叩いて鍛えられるんだ」

「そ、それがなんだ!」

 

 

 

「叩いて鍛えられた鋼は容易には砕けず、錆びん!筋肉も同じだ!俺の筋肉を簡単に貫けると思うなよ!!!」

 

 

 

「ま、魔法使いが筋肉を鍛えるなんて邪道だ!筋肉ばかり鍛えて魔法なんかロクに使えないんだろう⁈」

「魔法も筋肉も最高の武器だ!両方とも鍛えているとも!『ヴェンタス-風よ-』!!!」

 

 ザンギエフは回転しながら魔法を放つ。風を纏いながら回転するザンギエフは、小さな竜巻。マルフォイの体は一瞬にしてザンギエフに引き寄せられ、逆さになった状態でザンギエフに抱えられた。

 

「な、何をする!僕に何かあったら父上が黙ってないぞ!」

「投げられれば気分もスッキリするぞ!!!」

「お前は本当に何を言っているんだ⁈」

 

 

「行くぞォ!!!」

 

 

 抱えたマルフォイごと、ザンギエフは地面に向けて倒れ込んでいった。

 

 

「どぉりゃあぁ!!!」

 

 

 凄まじい衝撃。

 しかし痛みはない。どうやらクラッブの時同様にクッション魔法を使っていたようで、無傷であることにマルフォイは呆然としながらも理解した。

 

 このザンギエフという男、本当に人の話を聞かない。

 そして、筋肉はともかく魔法の腕も本当に立つ。名家に生まれたからこそ、いろんな魔法使いを見てきたマルフォイだからわかる歴戦の雰囲気。それこそホグワーツ教師陣に全く引けを取らないほどの腕を有していることを理解した。

 

「…ザンギエフ」

「どうしたマルフォイ少年。投げられて気分もすっきりしただろう?」

「最悪の気分だ…まったく。それより、一つ答えろ」

「なんだ」

「お前、ポッターを鍛えているんだってな」

「言った通りな」

「ポッターにも、こういうこと(投げ飛ばしたり)してるのか?」

 

 

「無論だ!ポッターにはこんなものではないぞ!!!」

 

 

 マルフォイはハリーのことは嫌いだ。

 だが、このことについてだけは本当に心の底からハリーに対して同情の念を向けた。正直、ネタにして馬鹿にしてやろうとも思ったりしたが、この瞬間はそんなことを思えなくなるほど心の底からハリーに同情せざるを得ないほどザンギエフは強烈だった。

 

 やはり選ばれし者になんぞなるものではない。

 心からそう思った。

 

 

 そうこうしているうちに、ハリーは無事第二の試練を乗り越え、第二位として最終試練へとたどり着くのだった。

 

 

 




筋肉でした。
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