フィレネの花と騎士の誓い ファイアーエムブレムエンゲージ   作:kim

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11.ソルムへの旅立ち前編

フィレネの復興が進む中、ある日、王宮の謁見の間に静かな緊張が漂っていた。

 

イヴ女王が穏やかな声でアルフレッドとセリーヌを呼び寄せ、柔らかな微笑みを浮かべた。

 

「セリーヌ、アルフレッド。ソルム王国との交易交渉が必要なの」とイヴが優しく告げる。

 

「キムランを指名したいと思うわ。しっかりやってくれる子だから」と付け加え、その瞳に信頼が宿る。

セリーヌは「なら私も準備しますわ」と席を立とうとするが、イヴが穏やかに制した。

 

「今回はキムランだけでに行ってもらうわ。それにセリーヌはまだ復興のための仕事がたくさんあるから」

 

その言葉にセリーヌは一瞬動きを止め、「分かりました」と頷くが「キムランと一緒に行くのが当たり前だと思ってたのに……。1週間も離れるなんて」と困惑と寂しさが胸をよぎる。

 

隣でアルフレッドがのんびりと口を開く。

 

「ソルムとは戦争前から友好関係だったからね。イルシオンと違って、王族が出張る必要はないさ」

と緩く笑い、ふとセリーヌに目を向ける。

 

「なぁ、セリーヌ。最近らしくないんじゃないか?」

 

「そんな事ないわ」

 

とセリーヌは返すが、内心では「どういう事?私がらしくない?」と自問が芽生える。

 

顔には出さず、唇が小さく引き締まり、瞳が一瞬揺れた。

 

その夜、キムランはセリーヌの寝室に初めて呼び出され、胸を高鳴らせていた。

 

「セリーヌ様の寝室ってどんな感じだろう?豪華なのかな?」と期待と緊張が交じり合いながら、燭台の灯りが揺れる廊下を進む。

扉の前で深呼吸し「失礼します」と静かに叩いた。

中に入ると、予想とは裏腹にこざっぱりした空間が広がっていた。

 

金属製の装飾はなく、簡素な木のベッドと机が置かれ、窓辺には一輪挿しに小さな白いスズランが挿してあるだけ。

キムランが驚いた顔で

「セリーヌ様、ここって……」と呟くと、セリーヌは穏やかに答えた。

 

「金属製の物はすべて寄付して、農具や道具を作る足しにしてもらったの。豪華な物は要らないわ。一輪の花を愛でる事さえ出来れば……それが幸せだから」

 

その言葉にキムランは感嘆しつつ、彼女の隣に立つ。セリーヌはベッドの縁に腰掛け、目を潤ませて彼を見上げた。

 

「あなたがいないと寂しくて仕事ができなくなるわ」と小さく呟く。

 

キムランは一瞬悩み「セリーヌ…」と呟いた後、心からの想いを言葉にした。

 

「俺、一緒にいるとセリーヌの力になれてる気がして、ほんと嬉しいんだ。でも、俺がいないとダメになっちゃうのは…依存だと思うんだよ。誰かがいないとダメじゃなくてさ、二人でいたらもっと強くなれる関係でいたいな」

 

その真剣な言葉に、セリーヌは一瞬息を呑んだ。キムランの言葉が、彼女の胸に静かに突き刺さる。まるで心の奥に隠していた薄い靄が、突然晴れたかのように、視界がクリアになる感覚だった。

 

「依存…?」と自問が頭をよぎり、彼女は目を軽く見開く。いつもそばにいてくれるキムランの存在が、いつの間にか当たり前になっていた自分に気づいたのだ。

 

彼のいない1週間を想像しただけで寂しさが湧き上がっていたのは、確かに甘えだったのかもしれない。

セリーヌは自問する。キムランと出会う前や邪龍との戦いの中での自身は今よりも、もっと強かったのでは無いのかと。

 

彼女は騎士として支えてくれる彼に頼りすぎて、彼がいなければ立ち行かない自分を無意識に許していた。

その気づきに、セリーヌの心が小さく震えた。唇が一瞬だけ引き締まり、瞳に微かな揺れが走る。

 

でも、それは後悔や悲しみではなく、自分を見つめ直すための澄んだ光だった。

 

彼女はゆっくりと息を吐き、襟を正すように姿勢を整える。

 

そして、キムランを見上げて「ありがとう、キムラン」と柔らかく微笑んだ。

 

その声には、感謝と共に新たな決意が宿っていた。

だが、すぐにその瞳が細まり、ほんの少しだけいたずらっぽい光が混じる。

 

 

「だけど…今夜だけは少し甘えてもいいかしら?」

と囁くように言い、そっと彼に身体を預けた。気づきを得たばかりの強さが、彼女を気高く保ちつつも、今夜だけは素直に彼の温もりに寄り添いたいという気持ちが勝った瞬間だった。

 

 

キムランは驚きつつも彼女を抱きしめ、二人は言葉なく寄り添う。

燭台の灯りが揺れ、スズランの花びらがそっと床に舞い落ちる中、温もりが静かに二人を包んだ。灯りが消え、夜の闇が優しく二人を隠す。

 

 

 

翌朝、フィレネ王城の門前には朝霧が漂い、静寂が広がっていた。

 

キムランは馬に鞍をつけ、ソルムへの旅立ちの準備を整える。セリーヌがそばに立ち、「港までは馬で?」と聞くと、キムランは「はい、そこから船でソルムまで」と明るく答えた。

 

セリーヌは「港まで送れれば良かったのだけど」と寂しげに呟き、キムランが「いいえ、そのお気持ちだけで」と返す。

 

だが、彼は馬に跨がった瞬間、セリーヌを置いていく不安が胸を締め付け、目を伏せた。

 

「セリーヌ様…俺、置いていくのが心配で…でも、すぐ戻ります」と声が少し震える。

 

その言葉に、セリーヌは前夜の気づきを思い出す。

胸を張り「あなたに心配されるほど、私はか弱く見えるかしら?」と優雅に、でも力強く微笑んだ。

 

その瞳には気高さと愛情が宿り、彼女の中で何かが目覚めたようだった。

 

キムランはその笑顔にハッとし「セリーヌ様…!」と目を上げる。「いってまいります!」と力強く宣言し、馬に鞭を入れて走り出した。朝霧が彼の背中を包み、蹄の音が遠ざかる。

 

セリーヌは彼が見えなくなるまで見送り、寂しさが瞳に揺れる。

 

「フィレネのために頑張ってね」と笑顔で隠すが、霧の中で一人になると、静かに涙が頬を伝った。

でも、すぐに「だめね!このままじゃ彼に笑われてしまうわ」と頬を拭い、気を取り直して王宮へ戻る。足元に落ちた花びらが朝霧に溶け、彼女の静かな決意が響き合った。

 

 

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