フィレネの花と騎士の誓い ファイアーエムブレムエンゲージ 作:kim
キムランがソルムへ旅立った後、フィレネ王宮は復興の仕事に追われる日々で溢れていた。
執務室では、セリーヌが机に山積みになった書類に埋もれ、額に浮かんだ汗を拭いながらペンを走らせる。
「この村には水路が必要ね。すぐに手配して」とキビキビと侍女に指示を飛ばす。
彼女の声は力強く、優雅な仕草の中にも王女としての責任感が宿っていた。
ある日、彼女は自ら村を訪れると、子供たちが駆け寄り、笑顔で手を振る中、セリーヌは穏やかに語りかける。
「皆が笑顔になれるよう頑張るわ。これで作物が育つわね」
村人たちからは「ありがとう、セリーヌ様!」と明るい声が返ってくる。
仕事中不意に「キムラン、これをお願い!」と呟いてしまい、ハッとして口を閉じる。
そばにいたルイが静かに指摘した。
「キムランさんは…今ソルム王国に」
セリーヌは一瞬目を伏せ
「…そうね」と苦笑いを浮かべる。
「私がやらなきゃ」と自分に言い聞かせ、書類に目を戻した。
疲れが滲む顔を隠し、ペンを握る手に力を込める。その姿は、キムランに甘えていた自分を超えようとする強さを静かに示していた。
執務室に戻ると、時折、セリーヌは窓辺に立ち、ボーッとソルムの方角を見つめた。
書類の山が視界の端に映る中、遠くの空に視線が伸びる。
そんな彼女を、クロエが軽い足音で近づき、からかうように言った。
「セリーヌ様、またソルムの方見てますね。寂しいのバレバレだよ!ソルムに恋敵でもいるの?」
ニヤリと笑うクロエに、セリーヌは「クロエったら…!」と頬を膨らませるが、すぐに柔らかく微笑んだ。
「キムランを信じてるわ」
その瞳には、寂しさと信頼が混じり合っていた。
セリーヌはキムラン不在の日々を乗り越え、成長を遂げていた。
書類の山を片付け、村人に寄り添う姿には王女としての気高さが戻り、民への愛が彼女を奮い立たせていた。
夜遅くまで書類にサインを続ける彼女は、「私がやらなきゃ」と呟きながら、キムランへの想いを胸に秘め、自分を強く保っていた。
村では子供たちが「セリーヌ様、ありがとう!」と笑い、彼女の周りに花びらが舞う。執務室の窓から見える遠くの空は、彼女の決意を静かに映していた。
キムランがソルムから戻る1週間後、セリーヌは待ちきれず港へと足を運んだ。朝霧が薄く漂う中、船が近づく波音と風が桟橋に響く。彼女は港の端に立ち、遠くを見つめる。朝陽が水面に反射し、フィレネの花畑が小さく遠くに見えた。
船が岸に着き、キムランが姿を現す。荷物を肩に担ぎ、疲れと安堵が入り混じった顔で桟橋に降り立つ彼と、セリーヌの目が合った瞬間、彼女の心が弾けた。「キムラン!」と叫び、優雅さを忘れて駆け寄る。キムランも目を丸くし、「セリーヌ…!」と呟きながら両腕を広げる。二人は強く抱き合い、セリーヌの頬を温かい涙が伝った。
桟橋に腰を下ろし、二人は1週間の出来事を語り合った。セリーヌは少し照れながら、「キムランがいなくて寂しかったけど、村に新しい井戸を作ったり、ハーブティーを配ったりして頑張ったわ」と話す。
その声には誇りと優しさが混じる。キムランは目を輝かせ、「セリーヌがそんなに頑張ってたって聞いて安心しました。やっぱりすごいです」と微笑んだ。
尊敬の眼差しが彼女を見つめ、そっと「セリーヌ…」と呟きながら、再び抱きしめる。
セリーヌはこの1週間で大きく成長していた。キムラン不在でも復興を進め、「フィレネのために」と王女の誇りを取り戻した彼女は、港で彼を迎える姿に優雅さと威厳が戻っていた。
村での「井戸の完成」や子供たちへの語りかけは、「私がやらなきゃ誰がやるの?」と自分に言い聞かせた日々の結晶だった。
「キムラン、これを…」と呟く癖が減り、「私がやらなきゃ」と決意した夜が彼女を強くした。港での「頑張ったわ」は、依存を超えた自立の証だった。
同時に、彼女の優しさも復活していた。民にハーブティーを配り、「皆が笑顔になれば私も嬉しい」と一輪挿しの花を思い出すその心は、キムランへの想いを胸に秘めつつ、民と「小さな幸せ」を分かち合ったことで輝きを取り戻していた。
キムランは彼女の変化に安堵と愛情を感じていた。「セリーヌがそんなに頑張ってたなんて…やっぱりすごいです。俺、安心しました」と呟き、彼女を抱きしめる腕に力がこもる。その眼差しには、セリーヌの強さへの尊敬と、そばにいられる喜びが混じっていた。
港の波が穏やかに打ち寄せ、朝陽が二人を温かく照らす。遠くにフィレネの花畑が小さく揺れ、花びらが風に舞う。二人の再会は、離れていた時間を埋め、互いの成長を確かめ合う瞬間だった。セリーヌの涙が乾き、キムランの笑顔が彼女を包む中、フィレネの未来が静かに息づいていた。