フィレネの花と騎士の誓い ファイアーエムブレムエンゲージ 作:kim
邪龍ソンブルとの戦いが終わり紋章士達が去ってから明日で一年になろうとしていた。
フィレネでの終戦1年記念式典の前日、王宮の長い廊下をキムランが歩いていた。
石畳に靴音が静かに響き、窓から差し込む夕陽が彼の影を淡く伸ばす。
セリーヌの「関係を進めてもいいかしら?」という言葉が頭を巡り「俺でいいのか…?」と自問しながら、少し俯きがちに歩を進めていた。
その時、廊下の奥から緩やかな声が響いた。
「おお、キムランじゃないか!」
顔を上げると、アルフレッドがのんびりと近づいてくる。鍬を肩に担ぎ、汗で少し乱れた金髪を笑顔でかき上げながら、「ちょうどいいところにいたよ」と気さくに言う。
「アルフレッド様」とキムランが驚いて立ち止まり、軽く頭を下げる。
アルフレッドは「そんな堅苦しくしなくていいって」と手を振って笑い、彼を窓辺の小さなベンチに誘った。
「ちょっと座ってくれよ。君に渡したいものがあるんだ」と言いながら、ポケットから小さな布袋を取り出す。
袋を開けると、中から赤い宝石が輝く金の指輪が現れた。
慈愛の王女の指輪だ。キムランは目を丸くし「こ、これは…!」と息を呑む。
アルフレッドは指輪を手に持って眺め
「懐かしいよな。セリカが宿ってた頃、セリーヌがこの指輪を使って戦っていた。今はただの指輪だけどね……これを君に預けたいんだ」
と穏やかに言った。
キムランはこんな物受け取れません!とアルフレッドに返そうとする。
「勘違いしないでくれよ。君にあげるんじゃない。君からセリーヌに渡してほしいのさ。誓いの指輪としてね」
キムランは一瞬喜びが胸を過ったが、すぐに不安が顔を曇らせる。
「でも…俺、平民の俺がこんな大事なものを…セリーヌ様にふさわしいのかって…」
と吐露する。声が小さくなり、目を伏せて指先をそわそわ動かす。
その言葉には、彼の純粋さと自己への葛藤が滲んでいた。
アルフレッドは鍬を膝に置いてキムランの顔を見やり、少し真剣な目つきになった。
「第一王子の僕が言ってるんだよ。キムラン、それで十分じゃないか」
優しく笑いながら言う。
だが、キムランがまだ迷う様子を見せると、アルフレッドはさらに続けた。
「それにさ、セリーヌが平民だとか王族だとか、そんな事気にすると思うかい?」
その言葉に、キムランはハッと顔を上げた。アルフレッドの穏やかな口調の中にある確信が、彼の心に静かに刺さる。
セリーヌの笑顔が脳裏に浮かび、幼い日に村で聞いた「王族も平民も関係ないわ」という言葉が蘇る。
彼女は確かに、そんな違いを気にしない人だった。自分が平民であることを悩むのは、彼女の想いを信じ切れていない証拠かもしれない。
アルフレッドはキムランの表情を見てニッと笑い
「ほら、そういう顔だよ。セリーヌは君がそばにいてくれるだけで嬉しいんだ。僕だって、妹を笑顔にしてくれるならそれでいいさ」
と指輪をキムランの手にそっと渡した。指輪の冷たい感触が手のひらに伝わり、キムランは胸が熱くなるのを感じた。
「アルフレッド様…ありがとうございます」とキムランが目を潤ませて言うと、アルフレッドは「堅苦しいのはやめてくれって!」と笑い、彼の肩をポンと叩く。
「明日、式典でしっかり頼むよ。セリーヌ、喜ぶからさ」とウインクして立ち上がった。
そして、鍬を肩に担ぎ直し、振り返って穏やかに言った。
「セリーヌをよろしく頼むよ、キムラン」
その声には、緩さの中にも兄としての深い信頼と愛情が込められていた。
「さて、鍬の鍛錬でもするか!」と緩く手を振って去っていく。
キムランは指輪を握りしめ、夕陽に照らされた廊下で一人立ち尽くす。
「セリーヌがそんな事気にするはずない…俺が信じなきゃ」と呟き、決意が胸に灯った。指輪の赤い宝石が小さく輝き、覚悟を静かに後押ししていた。