フィレネの花と騎士の誓い ファイアーエムブレムエンゲージ   作:kim

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9.イルシオンの夜に

戦争が終わり、フィレネは復興の道を歩み始めていた。

 

豊かな自然と民の笑顔が戻りつつある一方、邪竜の本拠地だったイルシオンは多くの民と資源を失い、荒れ果てた大地が静かに佇む。

 

イヴ女王はそんなイルシオンと正式に国交を結び、支援の手を差し伸べるため、セリーヌを大使として派遣することを決めた。

 

出発の日、王宮の庭で久しぶりに集まったセリーヌ、キムラン、ルイ、クロエの4人。

 

クロエが目をキラキラさせ、「イルシオンか〜どんな珍しい食べ物があるかしら?」と楽しそうに言うと、キムランが「イルシオンには一部地域でコウモリを食べる文化があるらしいですよ」と真面目に答える。

 

ルイは冷静に「コウモリですか…私はつつしんで遠慮いたします」と静かに首を振る。そんな懐かしいやりとりに、セリーヌは微笑みながら「皆とこうやってるの…久しぶりね」と胸が温かくなる。

 

仲間たちの変わらない姿に、戦場の記憶が優しく甦った。

 

イルシオンに到着すると、王城で温かい歓迎を受けた。

 

夜にはささやかなパーティーが開かれ、久しぶりに再会したアイビーやイルシオンの仲間たちと、セリーヌたちは思い出話で盛り上がる。

 

アイビーが「セリーヌ、あの戦いの時のお茶会、懐かしいわね」と微笑めば、クロエが「アイビー様の竜、あの時もかっこよかったよ!」と目を輝かせる。

 

笑い声が響く中、キムランはふとセリーヌの姿がないことに気づいた。皆が楽しそうに話すテーブルを見渡し、「セリーヌ様…どこに?」と小さく呟く。

不安が胸をよぎり、彼はそっと席を立つ。アイビーが「キムラン、どうしたの?」と尋ねるが「ちょっと外の空気を」と誤魔化してバルコニーへ向かう。

 

王城のバルコニーに出ると、冷たい夜風が頬を撫で、遠くのイルシオンの荒れた大地が月明かりに照らされていた。

 

そこでセリーヌの後ろ姿を見つける。

 

長い髪が風に揺れ、静かに佇む姿がどこか寂しげだ。

 

「セリーヌ様、イルシオンの夜は風が冷たいですよ」と声をかけると、彼女が振り返る。

その瞳は涙で濡れていた。

 

「セリーヌ様!?」とキムランは驚き、慌てて近づく。

セリーヌは目を拭い、「ごめんなさい、キムラン。ちょっと昔を思い出してね」と小さく笑うが、声が震えている。

 

キムランは彼女のそばに立ち、「どうしたんですか…?」と優しく尋ねる。

 

セリーヌは静かに語り始めた。

 

「リュール様と共に戦った日々は辛いこともあったけど、皆と居て楽しかったわ。皆で協力して戦い、戦いが終わればお茶を淹れて、笑い合って…そんな日々はもう戻らないのね。そして、失った人々の命も…」

 

彼女は自分の掌を見つめ、言葉を続ける。

「私も戦争とは言え、少なくない命を奪ってしまったわ。特にこの国、イルシオン兵の方達は……。これから私はそんな命を一人で抱えて行けるのか、少し不安になってしまって…」

 

気丈に振る舞おうとするが、涙がぽろぽろと溢れる。

 

キムランは胸が締め付けられ、彼女と向かい合って真っ直ぐ目を見る。

 

「セリーヌ! 一人じゃない! これから先ずっと俺も一緒に背負っていきます! セリーヌが辛かったら、その分俺が抱えます!」と熱く、力強く言う。

 

その真っ直ぐな想いに、セリーヌは涙をこらえ、静かに目を閉じた。

 

キムランは彼女の涙を見て、心が震える。

 

そっと屈むように近づき、緊張で少し震える手でセリーヌの頬に触れる。

 

セリーヌは目を閉じたまま、小さく頷くように首を動かしてキムランに顔を寄せる。控えめにキスをせがむその仕草に、キムランは一瞬息を止める。

 

彼女の優しさと想いに胸を打たれながらも、初めてのことで頭が真っ白になり、唇を重ねる勇気がすぐに出ない。

 

「セ、セリーヌ…」と呟き、緊張で少し躊躇するキムランに、セリーヌはそっと彼の手を握る。そして、優しく自分の方へ軽く引き寄せた。

 

キスをせがむその手に込められた小さな力が、キムランの心を動かす。

 

彼は彼女の想いに応え、ついに優しく唇を重ねた。初めてのキスはぎこちなくて、冷たい夜風の中で温かさがじんわり広がる。

 

セリーヌの手がまだキムランの手を握っていて、二人の絆がそこに宿っていた。

 

唇が離れると、セリーヌは目を開け、キムランの顔をじっと見つめる。

 

涙が乾いた瞳に、驚きと愛しさが混じっていた。セリーヌは少し照れたように微笑み、「キムラン…」と囁く。

 

そして、今度は彼女が背伸びをして、キムランの唇に近づく。

 

目を細め、そっと息を吐きながら、柔らかい唇を重ねる。少しだけ大胆に、彼の下唇を軽く挟むようにしてキスを深め、優雅な指先でキムランの頬をなぞる。

 

その感触に、キムランは「セ、セリーヌ…!」と声を震わせ、顔が真っ赤に。

 

彼女の吐息が頬に触れ、花のような香りが漂う中、セリーヌは唇を離し、「約束、だからね」と囁く。

 

その声は甘く響き、涙の跡が残る頬に誘うような笑みが浮かんでいた。

 

キムランは「はい…ずっと、セリーヌと一緒に」と頷き、彼女の手をぎゅっと握り返す。

 

バルコニーに冷たい風が吹き抜ける中、二人は見つめ合い、静かに微笑む。

 

遠くのパーティー会場からクロエの「ええっ!?」って驚く声が聞こえてきそうだけど、今は二人だけの世界だ。

 

イルシオンの夜空の下で交わした初めてのキスと、その後の甘い口づけは、過去の痛みを癒し、未来を一緒に歩む約束になった瞬間だった。月明かりが二人を照らし、どこか遠くでイルシオンの風が優しく唸っていた。

 

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