綱手の兄貴は転生者   作:ポルポル

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日常

「母さん。今、戻ったよ」

 

「アカリさんただいま」

 

「ただいまアカリさん」

 

「おかえり。シスイ、香憐、次郎坊」

 

 しばらくの平和を満喫している木ノ葉隠れの里に、任務を終えたシスイたちが帰還した。

 孤児院に帰還したシスイたちは、割烹着姿のアカリに出迎えられる。

 アカリはいそいそとシスイたちに近寄りながら、久方ぶりに帰った子供たちを抱きしめようと、大きく手を広げた。

 シスイと次郎坊が静かに数歩下がり、アカリは物足りなさそうに眉を顰めるが、その場に残った香憐を抱擁し、その背中を優しく叩く。

 アカリの抱擁を受けた香憐は僅かに頬を染め、明後日の方角へ視線を向けている。しかしぎこちないながらもアカリに抱擁を返しているところを見るに、寂しかったのはお互いさまなようである。

 アカリは娘の抱擁を終えてその肩に手を置くと、無事の帰還を喜ぶように、ぽんぽんと優しく叩いた。

 

「疲れただろう? そうだろう。そうだろうと思って、綱手の伝手で紹介して貰った、腕の良い按摩師を呼んである。そろそろ来るだろうから、お風呂上りにマッサージをして貰うと良い。お風呂はもう沸かしてあるからな。そうだ、今日はたくさんご飯を作ろうな。三人の好きなものだぞ」

 

 にこやかに微笑みながら、アカリが三人に労わりの言葉を掛けた。

 つかれた、と初めての他里での活動、長期任務に精神的にも肉体的にも疲労困憊と言った様子の香憐と次郎坊は、アカリの至れり尽くせりな出迎えに、苦笑を浮かべた。次郎坊と香憐からしてみれば、孤児として孤独な暮らしをしていたころと比べて、天と地ほども差がある待遇である。野ざらしの硬い地面、木の根を枕に眠ったこともある幼少期からして、あまりに恵まれている。按摩師まで呼びつけられるというのは、さすが火影の家。コネと金がある。 

 

 そして二人に比べれば余裕のある様子のシスイは、「思ったよりも出迎えが激しくないな……」と疑問を抱いている。火影からの勅命であったとはいえ、半ば家出同然に里を出たシスイたちである。戻った暁には、有無を言わせぬ激しい抱擁が待っているものだと思っていたが、拍子抜けである。残念だとは思わないが。

 

 言われるがまま、三人は風呂へと向かう。男風呂、女風呂と別れた暖簾で、シスイと次郎坊、香憐は別れた。シスイが服を脱いで、軽く折りたたんで洗濯籠へと入れた。次郎坊は投げ捨てるように。性格の違いである。

 男二人は体を洗い、湯船に浸かる。今回の任務での反省や、思い出深いことを語り合い、笑いあった。男の風呂は短く、二人はそう時間も掛けず風呂を出て浴衣に着替えると、それぞれの部屋へと戻った。

 

 按摩師の施術は、次郎坊から行われる。シスイは自分の番が来るまで、少しだけ散歩をしようと思い立ち、部屋を出た。散歩と言っても、家の庭をのんびり見て回るだけだ。シスイは庭に出て、歩き出した。向かった先は、畳間が育て、ナルトが水やりをしていた盆栽が並べられている区画だ。育て始めたばかりであろう小さな盆栽から、一畳分ほどの大きさの器を突き抜け根を張った、盆栽とは名ばかりに育った巨木まで、様々である。

 

「オカエリ! オカエリ!! シスイ! オカエリ!!」

 

「ただいま。イズナ(・・・)

 

 ぱたぱたと、一羽の鳥が羽ばたいてきて、シスイの肩に留まった。名を、イズナと言う。艶やかな黒羽の烏であった。

 シスイは、イズナの小さな頭を指先で優しく撫でてやった。そうすれば、イズナは嬉しそうに、シスイの指に頭を擦り付けた。幼いころにお小遣いを貯めて買った、長い付き合いの忍鳥である。名づけはシスイである。物心ついたばかりの頃から聞かされていた、うちは一族の英雄うちはイズナに因んだものである。

 烏に名を付けたことを両親に伝えた際、父は何とも言い難い表情で困ったように笑い、母は楽しそうに笑っていた。両親の様子にシスイは理由が分からず困惑したが、しかし、父が本気で困っていることも感じ取った。しかし、烏のイズナはその名を気に入ったようで、カアカア、と嬉しそうに鳴いていたので、今更変更も出来ず、その名に落ち着いた。

 シスイは、イズナと口寄せの契約をしているが、イズナに戦闘能力は無い。しかし知能が発達しており、イズナは人語を理解し、少しならば話すことも出来るため、シスイは情報の分野でこの烏を用いている。下忍時代、迷いペットの捜索では重宝したものである。

 

 にゃあ。

 

「迷いネコか? 首輪が付いてるな……」

 

 並べられた盆栽の影から、丸々とした猫が可愛らしく鳴きながら、シスイに近寄って来た。猫はシスイの足元で止まり、甘えるように鳴くと、首筋をシスイの足首に擦り付ける。

 

 ちゅん。

 

 ぱたぱたと、雀が空から舞い降りて、シスイの頭の上に乗った。

 

「……フンはしないでくれよ。風呂に入ったばかりなんだ」

 

 雀は、風呂上がりでふわふわとしたシスイの頭を巣のようにして、寛いでいる。

 イズナは主の頭の上で寛ぐ雀に嫉妬しているのか、その視線には妬みのようなものが込められているようだった。シスイはイズナの頭を再度優しく撫でた。イズナは嬉しそうに、カア、と鳴いた。

 

「帰っていたのか! お帰り、シスイ」

 

「ただいま、重吾。……相変わらず、外に出るとそう(・・)なるんだね」 

 

「お互いにな」

 

 体中に小鳥を乗せ、鳥人間(・・・)となっている重吾が、シスイに近づいて来る。

 シスイは苦笑を浮かべて、重吾を迎えた。

 動物に好かれる二人は、仙術を扱うという共通点がある。自然エネルギーである仙術チャクラは、動物たちを惹きつける何かがあるようで、よく動物が寄ってくるのである。孤児院の敷地外に出るときは、あまり纏わらないようにと、動物たちにお願いしている二人である。

 気づけばシスイの周りにも、小鳥たちが集まっている。少し離れた盆栽の棚の下で、白蛇がシスイをじっと見つめている。御馳走がたくさん集まっているため、気になるのだろう。

 

「珍しいな。白い蛇か……。見てみなよ、重吾。あそこ」

 

「白蛇か……。白蛇は古来より、天からの遣いとされ、縁起の良い動物として信仰されてきたらしい。一説によれば、家の守り神としての側面も持ち、富を齎してくれるのだとか。だが、一方で祟り神としての側面も持ち、危害を加えた者に災いを齎すとも、言われている……そうだ」

 

「ほう。よく知っているな。まるで白蛇博士だ」

 

「動物のことは好きだからな」

 

 褒められて、重吾は少し、誇らしげに笑った。

  

「ところで……水やりに来たの?」

 

 シスイが訊ねた。シスイが指を向けた先である、重吾の手には、ホースが握られている。

 

「ああ。畳間さんに頼まれてな。ナルトの代わりという訳だ。シスイは、どうしたんだ?」

 

「母さんが呼んでくれた按摩師の順番待ち。今、次郎坊が受けてるから」 

 

「なるほど。廊下に響いてた嬌声はそういうことか」

 

 どうやら、屋敷には現在、次郎坊の嬌声が響いているらしい。次郎坊の、土遁が如くに凝り固まった筋肉が、その指圧によって、惚けるように溶かされているのだろう。

 シスイは戦慄した。それほどに気持ちのいい按摩だというのなら、無様を晒さぬように気を引き締めなければならない。あへェ、なんて言ってしまった暁には、自己嫌悪と羞恥によって、しばらく立ち直れないだろう。

 口端を引きつらせるシスイに、重吾は笑った。

 

「疲れが取れていいじゃないか」

 

「まあ、長旅だったし。確かに、疲れはしてるけど」

 

「お前のことだ。心配は要らないとは思っていたが、無事に帰って来てくれて、アカリさんも安心だろう。畳間さんも大変そうだった(・・・・・・・)

 

「……」

 

 重吾の言葉を聞いて、シスイは苦笑を浮かべた。

 アカリが寂しがって気落ちして、畳間がアカリを元気づけるために、仕事の合間を縫って色々と気を使っている姿を、シスイは思い浮かべた。

 

「肌触りの良い高級抱き枕を買ってきたんだ、畳間さんは。だがアカリさんは、『お前を抱きしめるからいい』と畳間さんに言っていた。そうは言っても、プレゼント自体はとても嬉しかったみたいでな。アカリさんはその日、雛鳥のように、畳間さんの後ろをついて回っていた。畳間さんもどこか嬉しそうだったし、オレも可愛らしいと思ったが……。トイレにまでついて行こうとしたときは、さすがに畳間さんも酷く狼狽していた。それはそれとして、甘えて来るアカリさんに愛らしさを感じていたんだろう。叱ってはいたが、やはりどこか嬉しそうに―――」

 

「おいやめろ重吾。分かってて言ってるだろ」

 

 シスイが薄っすらと頬を染めて、重吾を睨むように見た。自身が不在の間に起きた両親のいちゃいちゃを、何故聞かされなければならないのかと、ご立腹な様子である。さらに言えば、なぜそこまで詳細に知っているのか、疑問であった。重吾は、畳間をストーキングするアカリを、ストーキングしていたのだろうか―――していたのだろう。畳間とアカリの仲睦まじいやり取りは、孤児院の子供たちにとって、ある種の娯楽である。孤児院には、戦争で早くに両親を亡くした孤児、あるいは両親は健在であっても、貧困ゆえに捨てられてしまった子供、また親から虐待を受けていた子供と、様々な境遇の者がいる。そのような子供たちにとっては、新たな両親である畳間とアカリから与えられる愛と同等かそれ以上に、二人の仲睦まじい様子こそが、最大の安心を抱かせる。それは、この暖かい家庭は絶対に崩れたりはしない、もう昔のような冷たい世界を生きることは無い、という安心だ。信頼、と言っても良い。

 だからきっと、重吾のみならず、鬼童丸たち残っていた兄弟たちも、同じように二人を見守っていたに違いない。

 重吾が悪戯っぽく笑ったのを見て、シスイは深くため息を吐いた。そういうやり取りがあったから、アカリの中の寂しさゲージが和らいで、帰りの抱擁が香憐だけで済んだのだということが分かって、少しだけすっきりした気分である。

 

「まったく! ……相変わらずで何よりだよ」

 

「そうは言いつつ、嬉しいシスイであった」

 

「重吾!」

 

「はは。すまない。つい、な。仲が良い両親で、少し、羨ましく思ってしまった」

 

 重吾の複雑な心境を感じ取り、シスイは片眉を上げる。

 シスイは、重吾が生まれ育った環境を詳しく知っているわけではない。しかし、その特異体質がゆえに、想像を絶する苦労をしてきただろうことは、理解できる。それに、重吾はその特異体質の制御を、現在はアカリに頼り切っている状態だ。ただでさえ迷惑(・・)を掛けている、と重吾は感じている。

 だからこそ、シスイは言い聞かせるように、重吾に言った。

 

「兄弟だぞ、オレ達は」

 

 シスイが拳を握り、重吾の肩に手を伸ばす。シスイの意図を察した鳥たちが飛び立ち、シスイの拳が当たる場所だけ丸く開けた。シスイはそこを、拳で小突いた。

 

「すぐには難しいとは思うけど、遠慮なんてのは、しなくていいんだよ、重吾。父さんも母さんも、分け隔てなくオレ達を愛してくれている。……ナルトはちょっと贔屓にされてると思うけど」

 

「ふふ。シスイもそう思うか」

 

「まあね。ま、ナルトは甘えん坊だから……。父さんも母さんも、甘えん坊には滅法弱い」

 

「オレ達も、だろ?」

 

「違いない」

 

 ナルトに甘いのは、畳間とアカリだけではない。シスイや重吾といった、大人びた兄弟たちもまた、ナルトには甘かった。自分の持たない、あるいは素直に表に出せない、『甘えん坊』というナルトの個性に、羨望と共に愛らしさを感じているからである。

 

「……似た者同士ってことだよ。オレも、お前も」

 

 苦笑するシスイは自分を指さして、その後、重吾へと指先を向けた。

 

「それと……」

 

 そしてシスイは、屋敷の方へと振り返った。

 

親子揃って(・・・・・)さ」

 

 シスイの言葉に、重吾はたまらず笑みを浮かべた。

 孤児院の子供たちに、アカリと畳間は分け隔てなく愛を注いでいる。『線引き』をするとすれば、子供たちの側だった。

 育った境遇ゆえに、また養父と養い子という関係上、そうなるのも仕方のないことではあるのかもしれない。しかし、それでは互いに寂しい思いをすることになる。

 だからシスイは、特殊な境遇ゆえに線引きをしてしまう者に対し、お節介を焼くことがあった。両親(・・)へ一歩を踏み出す勇気を持てるようにと、その心に寄り添うのだ。

 先の任務中、イタチから貰った「月」という言葉は、これまでそれらの行動を無自覚に行っていたシスイに、明確な自覚を抱かせた。先頭を突き進むだけでは、取りこぼしてしまう者もある。最後尾の者が、その歩みに着いて来られない時、置き去りにしてしまうことになるかもしれない。

 火影という、木ノ葉隠れのすべてを背負う父という立場、その責務ゆえに致し方ないと切り捨てざるを得ないところを、シスイは拾い上げたいと思った。今が出来ていないと言うつもりはない。ただ、人手は多い方が良いだろう。だからシスイは、そんな忍者に成れればいいなと、思うようになった。

 

「重吾もナルトみたいに甘えてみたら? 母さん遊ぼうよ、って。父さんも母さんも、喜ぶと思うよ」

 

「それが出来れば苦労はしないさ」

 

 ナルトのようにアカリに甘える自分を想像したのか、重吾は照れ臭そうに笑った。

 

「シスイ。お前の方こそ、どうなんだ」

 

 仕返しとばかりに言った重吾に、シスイは苦笑した。

 

「それが出来たら苦労はしないさ」

 

「お互いに、難儀な性格だな。だが……そうだな。少しばかり、料理の手伝いでもしてみようかと……思う……」

 

「それは良い。今日は母さんがたくさん料理を作ってくれるらしい。人手は多い方が、母さんも助かるだろう。オレも楽しみだ」

 

 甘えられるのに弱い両親と、それに似た息子たち。

 重吾やシスイは、ナルトが構って欲しそうに近づいてくれば嬉しいし、喜んで相手をする。無自覚に人を煽る無垢さがゆえに発生する騒動の尻拭いも、何度もやってきた。だが二人は、それを苦労だと思ったことは無い。その騒動すらも、愛おしいと思っている。それは、ナルトが愛おしい家族だからだ。

 そんな二人の母親(・・)であるアカリが、重吾の特異体質の制御程度を苦労(・・)だと思うはずが無い。むしろ、子供がそれを苦に思い距離を詰められないことこそが、辛いことのはずだ。

 重吾は、アカリを慕っている。だからこそ、自分の勝手な思いでアカリを傷つけるようなことはしたく無いと思っているし、生みの親には遂ぞ出来なかった『甘える』ということにも、恥ずかしながらとても興味があった。シスイに背を押され、自分なりの『甘え方』をしてみようと思い立ったのだろう。

 

 シスイはそんな重吾を、嬉しそうに見つめる。そしてその後、悔し気に腕を組み、空を見上げた。

 

 アカリと畳間、そしてノノウは血の繋がりに関係なく、子供たちを愛している。そして子供たちは、愛されて、愛を知って、いつしか自立の決意をする。

 たくさんの愛を貰い、幸福な日々を過ごせたからこそ、子供たちは皆に胸を張れる大人になるべく、孤児院を巣立つのだ。そうやって孤児院では、この十年で多くの者が育ち、そしてうみのイルカの自立を皮切りに、多くの者が旅立った。

 都度アカリがごねるのは、旅立つ子供へ向けた、「いつでも帰っておいで」という、意思表示である。子供の自立を阻害するのではなく、挫けそうになった時に、帰る家がここにあるということを伝えるためのものだ―――と思う。

 

「しかし。まさか、ナルトに抜け駆けされるとはなぁ」

 

 シスイも重吾も、まさかナルトが自分達よりも早く、自立へ向けて動き始めるとは、正直思ってもいなかった。どうせ最後まで残ってるんだろうなと、舐めていたと言っても良い。あの父親大好きな甘えん坊が、父親から離れる決断を下す―――ナルトにそんなことが出来るなど欠片も思っていなかった者達にとって、ナルトの旅立ちは、驚天動地の出来事であった。

 

「はは。お互い、まだまだ『甘えん坊』らしい」

 

 特異体質を別にしても、孤児院を出る気など更々ない重吾が、開き直ったように笑った。

 成長のために自立へと進む者がいる中で、どう両親に甘えるか、という段階で悩んでいる少年たちである。遅いか早いかの違いであるし、早ければ良いという訳ではないが、あのナルトに先を越されたというのは、いささかショックが大きいシスイである。

 いつか、シスイは千手一族の長の座を継ぐことになる。そうなれば、親元から離れて暮らすということは許されない。千手一族の―――初代火影・柱間の代から、千手一族の直系が暮らして来た屋敷は、孤児院の隣にあるのだ。その家を空けることは出来ない。

 悔いを残さないようにと考えるならば、今しかない。中忍になった、今しか。

 

「……シスイ?」

 

 重吾が黙り込んでしまったシスイを心配そうにのぞき込んだ。そして、シスイのその真剣な表情を見て、重吾は困惑を顔に浮かべた。

 

「まさか、お前……」

 

 同じく仙術を扱う者同士。通じ合うものがあるのだろう。

 重吾は、シスイの只ならぬ決意を感じ取り、唇を震わせた。

 

「シスイ……。お前が任務で旅立って、それが実は長期任務だと、事後報告が伝令書でうちに届いたとき……。アカリさん、火影邸に突っ込んで行ったんだぞ。畳間さんが帰って来なかったから」

 

「……だろうね」

 

「戦争になるぞ……」

 

「……だろうね」

 

「……決意は固いのか?」

 

「……ああ」

 

「……」

 

 シスイは、孤児院を旅立とうとしている。要は、一人暮らしをするつもりということである。

 重吾は思わず、口元を手で覆った。その手は震えている。

 

「重吾。ナルトが言ってたこと、覚えてる? 旅立ちのときだ。あいつ父さんに、オレが帰ってきたら火影は引退だ、なんて、とんでもないことを言っただろ?」

 

「……深くは考えてないんじゃないか?」

 

「確かに、考えてないだろうね。でも、父さんはきっと、すごく嬉しかったと思うんだ。これまでは口だけだったナルトだけど、今回は違う。そのために(・・・・・)、里を出るなんて、大きな決断もした。あいつのことだから自覚はしてないだろうけど、その軽かった言葉に行動が伴いつつある。重さはまだないけど、それでも進んでるんだナルトは、火影という夢に向かって。……オレも、進みたいと思った。―――本格的に、弟子入りしようと思う」

 

「弟子入りって、綱手様にだろう? それは……戦争になるぞ……」

 

 綱手とアカリがシスイを取り合っていることは、孤児院の誰もが知る事実である。そんなシスイが、綱手を選んだ―――アカリ視点―――となれば、どのようなことになるか、想像も出来ない。

 夫婦喧嘩であれば、重吾たちも笑ってみていられるが、嫁と小姑の戦争ともなれば、さすがに肝が冷える。剛腕の綱手と、剛腕のアカリ。孤児院が廃墟になりかねない。まあ比喩であるが。さすがに場所は選ぶだろう。

 

「そこは父さんに頑張ってもらう」

 

 しれっと、シスイが言った。

 

「お前……なんか吹っ切れた……か?」

 

「……ふ」

 

 重吾の言に、シスイは意味深に笑って見せた。 

 

 

 

 

 

「イタチ。サスケが取られた。敵は千手だ」

 

「……?」

 

 フガクとイタチは、うちは邸の仏間で、正座をして向かい合っている。

 任務終了のねぎらいの言葉を受け取り、サスケに会いに行くために退座しようとしたイタチを、フガクが呼び止めた。 

 また意味の分からないことを―――と内心で思ったイタチだが、サスケ関係であったので、イタチは背筋を伸ばして、話の続きを待った。

 

「サスケが、五代目火影に弟子入りした」

 

「それは、めでたいことなのでは?」

 

「なにがめでたいか!!」

 

「うちはの若者が火影直々に弟子入りを認められるなど、カガミ様以来の快挙だ」

 

 怒鳴りつけて来たフガクの言葉を、イタチは冷静に受け止めた。

 

「それはそうだ。さすがはオレの息子だ」

 

 ふふん、とフガクは誇らしげに鼻を鳴らした。

 

「それじゃ、オレはこれで……」

 

 早くサスケに会いたい。弟子入りを果たした弟をねぎらってやりたい。

 逸る気持ちのまま立ち上がろうとしたイタチを、「待て」とフガクが留める。イタチは鬱陶し気に内心で舌打ちをして、背筋を伸ばした。

 

「まだ何か?」

 

「お前も、五代目の指導を受けていたな」

 

「父さん。前も言ったが、弟子、というほどではない。里を担う側としての心構え……その手ほどきを受けただけだ」

 

「ミコトも、五代目の弟子だ」

 

 聞けよ。

 

「知っているが……?」

 

 それに、ミコトは畳間の弟子というよりも、先生と生徒、上司と部下の関係にある。五代目火影の持つ技術を手厚く授けられる、「弟子」と名乗れるほどのものではない。二代目火影より五代目火影に受け継がれた術のほとんどを、ミコトは授かっていないのだ。

 

「お前も、五代目の弟子だ」

 

「だから、弟子というほどじゃ……」

 

「サスケも、取られた」

 

「父さん……」

 

「妻には手垢がついていた」

 

「そういう言い方は止めてくれ父さん。やめてくれ。その言い方は誤解を生む。やめてくれ」

 

 サスケに聴かれたらとんでもないことになる、とイタチは疲れた様子も隠さず、手で制した。

 

「そこでだ。五代目火影が、千手がオレから家族を奪おうというのなら」

 

「奪われてないし、奪おうともしていないと思う」

 

「オレはシスイを奪ってやる。家族を奪われる痛みを知れ、千手」

 

 くくく、とフガクは悪い笑みを浮かべた。

 

(ダメだ……早く何とかしないと……)

 

 また眼が悪くなるなと、イタチは眼にチャクラを込めようとして、ふと思い出した。

 

「そう言えばシスイは、アカリ様の光を取り戻したいと言っていた」

 

「……それは、難しいのではないか? 万華鏡によって光を失った者がそれを取り戻すには……」

 

 おふざけを止めたフガクが、真剣な表情で口ごもった。万華鏡写輪眼は、開眼者があまりにも少なく、うちは一族であっても、その詳細を把握しているとは言い難い。酷使すれば失明するということ、そして光を取り戻すには、別の開眼者から、万華鏡写輪眼を奪い、移植しなければならない―――とされている。

 かつてうちはマダラは、弟の眼を奪い、永遠の万華鏡写輪眼へと至ったと伝えられる。しかし、眼球そのものを移植するのか、あるいは角膜を移植するのか、瞳孔や水晶体だけを移植するのか、その実態は語られていない。

 

「まさか、オレの万華鏡を……」

 

 永遠の万華鏡写輪眼を得るには、近親者の写輪眼が良いとされている。アカリとフガクの血縁はそこそこ近い。移植するとするならば、悪い選択肢ではないだろう。フガクは戦慄した。

 

「いや、違う。シスイは、うちはの文献を調べたいと言っていた。文献は秘伝のものもあるから、オレでは判断しかねることだ。そこで、父さんに尋ねたい」

 

「!!」

 

 フガクは、シスイを合法的―――合法的?―――に、うちはに取り込む―――もともとうちはの血を継いでいる―――好機だと思った。

 

「すぐにでも伝えてやれ。うちは一族はいつでも、シスイの訪問を待つと」

 

「ありがとう。シスイも喜ぶだろう。じゃあ、オレはこれで」

 

「ああ」 

 

 ようやく立ち上がれたイタチは、襖をあけて、サスケに会うべく、いそいそと部屋を出た。

 フガクは体を反転させると居住まいを正すと、仏壇(・・)へと合掌した。

 

 先代、先々々代、と、うちはマダラを除く、歴代のうちは一族当主が祭られている仏壇である。

 千手一族とうちは一族の諍いは、次の世代―――イタチとシスイの代で、完全に消えて無くなるだろう。

 千手はうちはに、うちはは千手に、それぞれ縁を結んでいる。アカリが千手に嫁いだこともあり、実のところフガクは、イタチかサスケが女の子だったなら、シスイの許嫁にしても良かったのにと、最近では思っている。

 

 日向本家が千手に嫁を出そうと画策している情報を、密かに仕入れているフガクである。男の子しか子供がいないフガクには関係のないことであるがゆえに、各一族の千手へのアプローチに対しては、高みの見物を決め込んでいた。火影の嫁はうちはである。それだけで、うちはの立場は盤石だ。

 戦争を終えて、各一族間の軋轢も無くなった。現在は、楽しく喧嘩をしているだけである。それが、一族間での攻防を繰り返して来た先代達への、最後の手向けであると、フガクを含めた古参の当主たちは考えているのだ。今回のイタチの長期任務、「サスケが取られた」をイタチが戻るまで待っていたのも、イタチにこの姿を見せ、止めてもらうためである。

 

 ―――またくだらない諍いを……。

 

 イタチにとって、この父の姿は、ため息を吐きたくなるほどに、くだらないものに見えていることだろう。

 それで良い。次の代で、各一族間の諍いは、消える。きっとイタチは次の世代にて、千手止水と手を取り合い、真の友誼を育んでくれることだろう。

 

「……イタチ。お前は、オレたちの誇りだ」

 

 願わくば、イタチに幸福なる加護を。 

 フガクは仏壇へと向けて、黙祷を捧げた。

 

 その後しばらくして、火影邸にイタチが乗り込んだと聞いて、フガクは白目を向いた。

 やはり、親子である。

 

 

 

 

「それほどまで、オレの服は気に入らんか……」

 

 火影邸。

 五代目火影畳間の隣で、ガイが酷く項垂れている。

 イタチは申し訳なさそうに、佇んでいる。

 畳間は苦笑した。

 

「まあ、久しぶりに帰って来て、サスケがああなってれば、驚きもするさ。ガイもそう落ち込むな」

 

「では畳間様も……」

 

「しかし! お前がここまで素直に距離を詰めて来るとは、意外だったな、イタチよ。火影としては褒められんが、オレ個人としては、お前の新しい一面を知れたことは喜ばしいぞ。イタチ」

 

 さっとガイの追及を避けた畳間が、イタチへと口早に語り掛けた。

 イタチはサスケに再会し、股間がもっこりと膨らんだ緑のタイツを身に着けて、奇声を上げながら逆立ちで走り回っているのを見て、錯乱した。

 イタチの頭には畳間に弟子入りしたという事実だけが残り、弟の奇抜な格好と奇行はどういうことかと、詰め寄ったのである。

 そしてたまたま畳間に用事のあったガイが、扉の前でその声を聴き、半泣きで項垂れて居るというわけである。暴言であっても、だいたいのことは声援として受け止められる巨大な器を持つガイだが、可愛がっている後輩に服のセンスを扱き下ろされれば、落ち込みもする。

 

 イタチとしては、畳間から、サスケは今現在ガイから基礎を学んでいるところだ、と聞いて、納得を示している。木ノ葉最強の体術使いであるガイから指導を受けられるなど、願っても無いことだし、イタチ自身、サスケに必要なのは基礎だと思っていたということもある。

 あの服装はちょっとかなり気になるが。

 

 畳間はイタチの内心を察する。

 ガイの手前言葉にはしないが、あとでイタチには、「サスケがオレから指導を受けるにあたって、あの服は着ないように指導する」と伝えようと思った。 

 

「……お恥ずかしい。猛省の限りです」

 

 この任務中、シスイたちとの関わりの中で、イタチの中にも、余裕というものが生まれているのだろう。任務中や、有事の際ならばともかく、常日頃から気張っている必要も無い。大切なのはメリハリだ。何にもない平和な日常にいるのなら、それ相応の緩さも持ち合わせて居た方が良い。普段から張り過ぎて、いざというときに切れる糸は役に立たない。良い傾向だと、畳間は緩く笑った。

 

「お兄様、少し良い? ……取り込み中のようなら、出直すけど……?」

 

「おお、綱か。構わん構わん」

 

 綱手が姿を見せた。

 畳間は愛しい妹の登場に、破顔する。最近は新しい弟子を取って、博打も自重していると聞いている。感心である。

 

「お願いがあって来たんだけど……。ああ、大丈夫よ。別に極秘なものじゃないから」

 

 静かに去ろうとするガイとイタチを、綱手が呼び止めた。ガイとしては、自身も用事があったので、ありがたいことである。

 

「どうした?」

 

 金の無心では無いだろうが、と畳間は内心で思った。

 

「サクラのことで……」

 

 お願い事とは、最近綱手に弟子入りした、若きくノ一のことであった。

 サクラは最初、様々な思惑を以てアカリへの弟子入りを願い、千手邸の門をくぐった。しかしアカリは火遁のスペシャリストであり、その戦闘術のほとんどが、火遁に依るものである。しかしサクラには、火遁の適性が無かった。

 生まれ持った性質変化を調べる実験において、サクラの適性は、土と水であることが判明したのである。土も水も、アカリには使えない。しかしアカリは自分を慕い弟子入りを希望して来たサクラを、なんとか鍛えてやろうと奮闘した。が、出来なかった。

 そこでアカリは、畳間に相談した。水と土は、千手一族の得意とする性質変化である。畳間もまた、水と土の性質変化は高いレベルで習得している。

 しかしサクラを弟子にするほどの時間は、畳間には無い。サスケという弟子入り候補も控えている。水と土であれば、サクラの担当上忍であるカカシも高いレベルで習得しており、本来ならばカカシが教導するべき案件だ。しかしカカシはカカシで、自分のことで精いっぱいである。部下を持つ担当上忍という立場からすると、それでいいのかカカシと思うところではあるが、許したのは畳間だった。

 そこで畳間は、アカリがダメなら綱手が良いと、精一杯の―――木ノ葉のくノ一ツートップを名指しするという―――図々しいサクラの願いを快諾し、綱手を紹介したのである。

 綱手も、大好きな兄である畳間のたっての願いということで承諾し、ここしばらく、サクラに修業を付けてやっていた。

 

「あの子は中々筋が良い。お兄様が化ける(・・・)といったのも分かる」

 

「そうだろう。もう少し基礎がしっかりしていれば、シスイと一緒に中忍にしても良かった」

 

 今年は豊作だと、畳間は満足げに頷いた。

 

「そこで、お願い事なんだけど。もう少ししたら、ナルトや自来也のように、私もサクラを連れて旅に出てみようと思う。辻斬りならぬ、辻治療で修業というわけ」

 

「……」

 

 畳間は思考する。

 ナルトのように旅立つ。それは構わない。医療忍者の後継は充分育っている。綱手という最高責任者がいない状態で、下の者がどう動くのか、という前例も欲しい。カブトやシズネが育っている今、綱手にしか対応できないという案件はそうはないが、あったとしても、飛雷神の術で呼び戻せる。そのために、旅立つ条件として、綱手にマーキングを施せばいいだろう。

 あとは、綱手が行く先々で賭博に興じ、伝説の鴨という通り名を広めなければ、それでいい。里を出て賭博に興じようというのなら、連れ戻す。サクラには綱手の監視という役割を、密かに担わせてみよう。定期的に報告をさせる。綱手も、また、里の実力者の一人だ。気づかれずに監視するというのは、下忍のくノ一には難しかろう。隠遁という意味でも、修業になるはずだ。

 

(しかしサクラ、ナルト、サスケと部下が全員別々の師の下に就くというも如何なものか。カカシの立場は一体―――。いや、サスケが『火影の弟子』となるにふさわしい実力を身に着けるまで導いたのはカカシ……。いや、ガイか……? うーむ……)

 

「サクラは了承しているのか? サクラの両親は?」

 

「まだ話していない」

 

「……そうか。サクラのためになることだとは思うが、ご両親にはお前からきちんと話を通しておけ。一応、許可を出す方向で前向きに検討するが、任務で里を離れるのとは、訳が違う。ご両親から反対されたら、オレは頷けんぞ」

 

「えー」

 

(やっぱり賭博旅行が本命か……)

 

 不服そうに間延びした声を漏らした綱手に、畳間は頭を抱えた。

 

 

 

 

「おいチョウジ。サボるな。しっかり修行しろ」

 

「えー。ちょっと休憩しようよ、シカマルー」

 

「ダメよチョウジ。ちゃんと修業して、次の試験には合格するんだからね!!」

 

 奈良一族が管理する森の中で、次代の猪鹿蝶トリオが、連携修業に励んでいる。

 シカマルが影を操作して逃げ惑う小動物を追い駆け、いのもまた、動き回る小動物へ向けて心転身の印を向けている。

 

「シカマルー。らしくないよ。いつもならめんどくせーって、一緒にサボるのに」

 

「オレだってめんどくせーけどよ……。ったく、チョウジがこれじゃしょうがねえ。いの、ちっと休もう」

 

「もう!!」

 

 影の操作を中断したシカマルがその場に座り込んで胡坐をかき、いのは淑やかな所作で短いスカートの裾を内側へ丸め込みながら、三角座りでその場に腰を下ろした。

 

「へへ!」

 

 チョウジが嬉しそうに、どこからともなくお菓子を取り出して、食べ始めた。

 

「そんなんだからデ―――」

 

「いのおおおおお!!」

 

 チョウジに対する禁句―――すなわちデブと言う言葉を遮って、シカマルが吼える。

 チョウジは一瞬猛禽類のような鋭い視線をいのに向けたが、いのが「なんでもない」、と慌てて取り繕ったので、お菓子を食べることに戻った。

 

「あのな、チョウジ。前も言ったけど、次か、その次がチャンスなんだ」

 

 シカマルがため息を吐いた。

 

「ナルトがいない今、サスケとサクラは次の中忍試験には参加できねェ。出来ても、参加しようとはしねェだろうな」

 

「そうだね。仲良しだからね、あの三人」

 

 猪鹿蝶トリオ以上につるんでいる姿を、チョウジはよく見かけていた。

 

「つまり、対抗馬が減るってことだ。あいつらと一緒に試験を受けたら、また落ちちまう。次も同じ試験内容とは限らねェけど……本選まで行ければ、勝敗に関係なく、『中忍の資質』を見て貰える。けど、予選で落とされれば、どうしようもねェ」

 

「別にいいじゃん。のんびりいけばさ」

 

 お菓子を口いっぱいに頬張りながら言うチョウジに、シカマルはため息を吐く。

 

「オレだってそうしてェよ。めんどくせー。けど、一族のご意見番がうるせェんだ。予選落ちってのが、どうにも気に入らねェらしい。しかもオレ達は、チーム戦で負けてる(・・・・・・・・・)

 

 猪鹿蝶と言えば、木ノ葉で並ぶものの無い、コンビネーションの代名詞である。そんな猪鹿蝶の次代を継ぐ者達が、よりにもよってチーム戦で予選落ちというのは、面倒くさい老人たちにとっては、看過しがたいことだったらしい。

 シカクが立場的に逆らえず、苛められているのを、シカマルは知っていた。

 

「うちも似たようなもんよ。チョウジのことはそういうの無いわけ?」

 

「ないねー」

 

 本当はあるのかもしれないが、あったとしても、チョウザがうまく隠しているのだろう。チョウジはマイペースに、お菓子を食べている。

 

「でもさ。ナルトたちがいなくても、リーさんとかいるじゃん。ぶっちゃけ、勝てるとは思えないよ」

 

「……まあな。オレ達の一期上、頭おかしいし。シスイさんが抜けてくれたのだけは有難てェけど」

 

 シカマルはため息を吐いた。

 

「もー! 辛気臭いのはやめてよね!!」

 

 があ、と陰気な空気を掻き消したいのは、そうだ、と手を挙げた。

 

「サクラが綱手様に弟子入りしたって話だし、私たちも誰かに弟子入りしましょう!?」 

 

「誰かって、誰にだよ」

 

火影(お義父)様とか!」

 

「それはヤダ。火影様って弟子にはすごく厳しいらしいもん」

 

「ああ、それならオレも親父から聞いた。カカシ先生が最近姿を見せねえのは、蟲毒ばりにヤベェことさせられてるからって話だしな」 

 

「そ、そんなに……?」

 

 ―――猪鹿蝶の苦難は続く。

 

 

 

 

「やあ!!」

 

「きゃうん!!」

 

「赤丸!! ぐ……っ!!」

 

 木ノ葉隠れの演習場で、赤丸と同時にヒナタへ襲い掛かったキバが、ヒナタの流れるような体捌きによって放たれた掌底によって叩き落され、地を転がった。

 

「回天!!」

 

 続いて、ヒナタは体中の天穴からチャクラを放出し、周囲にチャクラの防壁を創り上げる。ヒナタの周囲を飛んでいた虫たちが弾き飛ばされた。

 

「め、めが……」

 

 しかし、勢いよく回り過ぎたヒナタは、目をぐるぐるとさせて、ふらつきながら尻餅をついた。チャクラを使い過ぎたということもあるようで、座り込んでなお、その上半身は左右にふらふらと力なく揺れている。

 そんなヒナタの眉間に、虫が数匹ふらふらと飛んで来て、止まった。

 少し離れた場所では、ポケットに手を入れたシノが、佇んでいる。

 

「うーん。キバはちょっと猪突猛進が過ぎるわね。もう少し緩急をつけた方が良いかも。それか……もっと思い切り威力を上げる! 一撃必殺!! かな? ヒナタは力み過ぎよ。もう少し余裕をもって。シノは……良いんじゃない?」

 

 さらに少し離れた場所で、三人の練習試合を観戦していた、三人の担当上忍である紅が、今の試合を観ていて気付いたことを、口にする。

 

「……オレだけ投げやりなのでは?」

 

「だって、言うことないんだもの」

 

 紅はにこりと笑った。シノは変わらず、佇んでいる。

 

「はあ……ネジ兄さんみたいには出来ないなぁ」

 

 荒い呼吸をしているヒナタが、悔しそうに笑う。

 

「……まだまだこんなもんじゃ届かねェ。ヒナタ! ……は無理そうだな。先生! もう一回頼む! もっともっと威力を上げる! ナルトに勝った我愛羅の砂の絶対防御も、ヒナタの兄貴のアレもぶち抜いて、オレが最強になる!! 火影になるのはオレだ!! 行くぞ赤丸!!」

 

「わん!!」

 

「ちょっとキバ! 私は肉弾戦あんまり得意じゃ……!!」

 

 幻術のスペシャリストである紅に、肉弾戦に定評のある犬塚一族の修業相手をしろと言うのも酷だが、担当上忍であるから仕方がない。

 各々騒がしくも楽しい、修業の毎日であった。

 




青春ももう充分満喫したかな?
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