綱手の兄貴は転生者   作:ポルポル

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夢の世界

「……」

 

 一つ巴の宿った灰色の瞳を以て己を見据える者を、マダラは注意深く見つめた。

 柱間の使用した防御術に似た防壁は既にその形を失っている。

 

「……」

 

 ―――風遁・大鎌鼬の術。

 

「ほう……。たいした風遁だ。だが……このオレを相手に、使う術はそれ(・・)か?」

 

 再び万華鏡写輪眼へと変貌したマダラの瞳に、何者かから放たれた巨大な風の刃が映り込む。

 うちはマダラ。火遁を得意とする一族にて、かつて最強と謳われた忍びだ。そして再び現世に蘇った今、今代においても、うちはマダラは、最強の火遁使いである。

 マダラは呆れた様に目を細め、素早く虎の印を結んだ。

 

「お前がその気なら……いいだろう。うちはの火遁を見せてやる。―――火遁・業火滅却」

 

 マダラの放った火遁は、竜巻と見紛うほどに巨大な風遁を容易く呑み込み、さらに巨大に膨れ上がった。

 マダラは、火遁を誇りとするうちは一族最強の男である。そんな男に風遁を向けた者へ対し、舐められた―――という、僅かな苛立ちもあったのだろう。

 マダラはわざわざ最大出力にまで跳ね上げた超火力の火遁を放ち、己の力を見せつけんとしたのである。

 

 ―――鉱遁・金剛如雷の術。

 

 次の瞬間、マダラの須佐能乎の前に、巨大な金剛石の巨人が立ち上がる。

 

「―――ほう」

 

 マダラが感嘆の吐息を零した。

 現れた巨人は、マダラの須佐能乎に匹敵する巨大さを誇った。

 そして、現れたその巨人は、風遁を呑み込み巨大化したマダラの火遁へ向けて、二つの腕を突き出した。マダラの爆炎は、まるでその両腕に吸い上げられる(・・・・・・)かのように、移動していく。

 

 ―――炎鎧の術。

 

 石の巨人の腕は膨大なチャクラの炎を纏った。

 炎は穏やかに安定し、ゆっくりと揺らめいている。

 

「―――それ(・・)が狙いだったか。やってくれるではないか。―――面白い」

 

 マダラが楽し気に口端を歪ませる。喉を震わせた、高揚に満ちた声であった。

 

 炎を纏った金剛石の腕が振り上げられ、マダラもまた対抗し、須佐能乎の腕を振り上げた。

 

 ―――重い衝撃。空間を揺らす轟音。

 

 二体の巨人の腕が激突し、闇夜に炎が迸る。

 

(これは……)

 

 マダラが愉悦の表情を下げ、警戒したように目を細めた。

 

 ―――須佐能乎の拳が、打ち砕かれたのだ。

 

 炎を纏った石の巨人の腕は、須佐能乎の拳を叩き割るに留まらず、その重い一撃によって、マダラの須佐能乎を後退させた(・・・・・)

 マダラのチャクラをその腕に纏うことで破壊力を増した石の巨人の拳は、マダラの想定以上の力を誇った。

 それは、慢心し必要以上のチャクラを練り上げて放った、マダラ自身の火遁の力。千手柱間を除き、この世で最強を自負するマダラ自身の力を以て、マダラが誇る『絶対防御』を破壊した。

 

(―――面白い)

 

 相対する者の力量と、その悪知恵の程を一瞬で読み取ったマダラは、新たな強敵の出現に、高揚する精神を隠すこともしなかった。知らず、マダラの口端が吊り上がる。

 

 追撃に放たれた、もう片腕による石の巨人の正拳を、マダラは須佐能乎で打ち返し―――再び、須佐能乎の拳に罅が入る。

 両拳を破壊され、そして更なる後退を余儀なくされた須佐能乎とマダラは―――両目を見開いて、獰猛に、笑っていた。

 

「次はどう来る!? 見せてみろ!!」

 

 石の巨人の頭の上に立つ男の掌の上で、膨大なチャクラが圧縮されていくのを、マダラの瞳は捉えた。

 無尽蔵のチャクラを球体に押し留め、そして『風』のチャクラが注ぎ込まれる。高密度に圧縮されたチャクラは、『風』を取り込みながら高速回転を繰り返し、その威力を増幅させている。

 

(尾獣玉の原理……。球体を纏う風の刃……。なるほど(・・・・)。あれの直撃は死ぬな……)

 

 高揚した精神の中で、しかし歴戦の忍者としての側面が、冷静に状況の分析を終える。

 

(一度退くか)

 

 バランスを崩した須佐能乎。砕かれ使い物にならぬ両腕。

 マダラが須佐能乎の体勢を立て直すために一歩引いた―――瞬間。

 

 ―――仙法。風遁・螺旋手裏剣(・・・・・)

 

 巨人の頭の上に立つ者が腕を振りかぶり、強烈な風遁の球体を解き放った。

 

「―――よく視ている。良い眼だ。さて……どう防ぐか」 

 

 相性で勝る火遁は、使えない。今、そう認識させられた(・・・・・・・)。雷遁は風遁に相性で劣る。そして須佐能乎の頭部―――宙にいるがゆえに土台の作れない土遁では、あの術は防げない。容易に貫通を赦すだろう。

 では、答えは一つ。

 

 万華鏡写輪眼から読み取れるあの超圧縮された風の球体には、生半可な水遁では威力を落とすことも難しい。必要なのは、指向性を持ち、かつ密度の高い術。マダラが咄嗟に思い付いたのは、忌まわしい男の術だった。

 

「―――水遁・水龍弾の術!!」

 

 水の無い空中で、凄まじいレベルの水遁を発動したマダラ。口から吐き出された水はにわかに小山程の大きさにまで膨張し、その姿を龍へと変えて、解き放った咢を以て、風の球体を呑み込んだ。

 その腹の中で膨張し破裂した風の球体は、水龍を内側から破壊したが、風の球体もまた、その場で消滅し、マダラの下へ届くことは無かった。

 

 ―――土遁・土流砲弾。

 

「このオレに、扉間の術を使わせるとは―――」

 

 マダラが言い切る前に、異変が起きた。

 水龍と風の手裏剣が激突し、水が飛び散る空中を、凄まじい勢いで、マダラ目掛け、何かが突っ切って来たのである。

 それは、巨大な岩の砲弾であった。千手畳間の考案した術を用いたその術は、放たれた直後より、空気中に散った水龍の欠片と、そして未だ宙に浮く膨大な水を瞬時に吸収し、巨大な岩石へと成長し、マダラを襲撃したのである。

 

 ―――激突。

 

 衝撃が、須佐能乎を揺らした。しかしマダラは自分が振り回されることも厭わず、須佐能乎の頭部を振りかぶらせ、頭突きによって岩石の砲撃を迎撃し、破壊した。

 

 ―――轟音。岩石の衝突の比ではない、重く響く衝撃。

 

 金剛石の巨人が一気に距離を詰め、須佐能乎の胴体へ、体当たりを叩きつけたのである。単純な攻撃であるがゆえに、反応が遅れたマダラは、その衝撃をまともに受け、よろめいた(・・・・・)

 マダラはふらつく体を安定させるため、片手と片膝を須佐能乎の上に付けた。

 

「―――オレに膝を……」

 

 マダラが驚愕を口にする。しかし同時に、歓喜の色も滲んでいた。

 そんなマダラを、更なる衝撃が襲った。

 両腕に未だ炎を纏う石の巨人が放ったアッパーが、須佐能乎の顎先を殴り抜けたのだ。

 須佐能乎の首は跳ね上げられ、マダラの身体もまた、同じように傾き―――その衝撃に耐えきれず、須佐能乎の防御壁の外へと、弾き飛ばされた。

 

「―――仙法・風遁惑星螺旋手裏剣」

 

 石の巨人の上で、両腕を広げた男。

 その両手の指先に作り出された、小型の風遁螺旋手裏剣。十個。

 そして両掌に生み出された、先ほどと同じ大きさの螺旋手裏剣。二個。

 計十一(・・)個の風遁螺旋手裏剣が、空中に投げ出されたマダラへと、僅かにそのタイミングをずらしながら(・・・・・・)、解き放たれる。

 マダラが、目を細めた。

  

(―――神羅天征の弱点を知っているのか……)

 

 神羅天征。

 あらゆるものをその斥力で排する、攻防共に優れた、輪廻眼の瞳術の一つ。その弱点は、術の発動後に発生する、数秒のインターバルの存在だ。

 今の放たれた十一の螺旋手裏剣は、神羅天征の弱点である、インターバルを想定してのもの。

 タイミングをずらして放たれた十一の螺旋手裏剣は、神羅天征では防ぎ切ることは難しい。継続して発動し続ければ出来ないことは無いが―――男の手には、放たれていない螺旋手裏剣が、一つ残っている。

 

 神羅天征が終わった瞬間に、その最後の一つを放ち、殺そうとしてくるはずだ。先に放たれた小型の螺旋手裏剣達は、囮であり、合図(・・)だ。

 神羅天征の発動の強要と同時に、それそのものが消し飛ばされることによって、発動の確認を行える。そしてそのタイミングで最後の螺旋手裏剣を―――。 

 

(―――違う)

 

 ―――そこまで考えて、マダラは思考を切り替える。

 

 マダラの視線の先―――石の巨人の額の上。男の空席となっていたはずの指先に、新たな螺旋手裏剣が生み出されていた。

 そして、掌に残っていた、一二個目の螺旋手裏剣が放たれた。

 

(―――こいつにとって、オレが神羅天征を使おうが使うまいが、そんなことは関係ない。ただ投げ続ける気か……。当たるまで(・・・・・)

 

 であれば、マダラに残された手段は、チャクラの吸収。

 

(……いや、悪手だな。チャクラの吸収と術の発動は同時には難しい。そのタイミングで、奴は再び距離を詰めて来る……。須佐能乎から投げ出され無防備なこの状況……。チャクラ吸収をしてしまえば、今のオレに、あの金剛石の巨人の突撃を防ぐ術はない。須佐能乎の再展開が間に合わなければ、あの巨人の体当たりによって……オレは挽肉だ。―――面白い)

 

 マダラの輪廻眼に、チャクラが滾る。

 

「―――輪墓・辺獄」

 

 マダラの身体から解き放たれた、異世界に存在する分身、4体。そのうちの一体が、マダラ本体の身体を、遠方へと投げ飛ばした。 

 そして、もう一体が、本体を投げ飛ばした分身の足を握り締め、空中で旋回し、『敵』へと勢いよく投擲する。さらに残った分身二体の内一体も、もう一体の分身を投げ飛ばした。

 本隊は遠ざかり、向かう分身二体は鋭い勢いで、『敵』へと向かう。

 

「とはいえ……なにも馬鹿正直に受けてやることも無い」

 

「―――ッ」

 

 マダラの『敵』―――すなわち、シスイが何もない空間を見て、驚愕に目を見開く。

 シスイは腕を振りかぶり、螺旋手裏剣を投擲した。

 

「……」

 

 それを見て、マダラは訝し気に眼を細めた。

 シスイは両手に溜めていた螺旋手裏剣を、遠ざかるマダラではなく、何もない(・・・・)空中へと、投擲したのである。

 いや―――シスイの眼には、視えていた。獰猛な、凄まじい笑みを浮かべながら己の方へと突撃してくる、二人のうちはマダラの姿が、である。

 

「……ッ」

 

(すり抜けた……ッ? 幻術か……ッ?)

 

 シスイは、螺旋手裏剣がすり抜けた(・・・・・)ことに困惑する。

 それならばと、シスイは石の巨人を操作し、炎を纏った腕を震わせる。

 石の巨人の腕は、何に当たることも無く、空中を通り過ぎる。

 

(なんだ、これは……。幻術ではない……? 時空間忍術か?)

 

「やはり、か? やはり、お前もか?」

 

 マダラは投げ飛ばされながら、シスイの様子を視界に捉え、その動きに感じた違和感が正しかったことを確信する。

 同時に、マダラは腕から出した鋭利な黒棒を投げ、自分を追い駆けて来る小さな螺旋手裏剣へと投擲した。黒棒は螺旋手裏剣に直撃した瞬間、マダラのチャクラを遠隔で受け取り、螺旋手裏剣の安定したチャクラを乱す(・・)

 螺旋手裏剣はその場で次々と破裂し、空中で小さな台風を巻き起こした。

 

「大した術だが……。投げものの対処法など、いくらでもある」

 

 もっとも、本命は石の巨人の体当たりの方で、螺旋手裏剣は陽動だったのだろうが―――と、シスイの攻撃を凌ぎ切ったマダラは、そんなことを想いながら、地上へ降り立ち、空を見上げた。

 マダラの視線の先には、きょろきょろと周囲を見渡し、何か(・・)警戒しているシスイの姿。

 

「……戦闘経験値は浅いようだな。未知の術への対応に荒さがある」

 

 そして―――金剛石の巨人の上で、まるで下手糞な舞踏(・・・・・・)のように動き回り始めたシスイを見て、マダラは確信を抱く。

 

「……とはいえ、視えているのは素直に驚いたが」

 

 輪墓の世界にいる二人のマダラに襲い掛かられているシスイは、巨人の頭の上では攻撃を凌ぎ切れないと判断したのか、煙幕―――火遁・粉塵隠れの術を用いて身を隠すと、巨人を捨てて地上へと飛び降りた。

 少し遅れて、マダラの分身二体が、シスイを追撃する。

 

「―――地獄道」

 

 空中で身を翻したシスイの身体の前に、奇妙な物体が現れる。

 

「あれは……やはりそうか」

 

 それは本来ならば見えないはずのものであるが、マダラの輪廻眼には、その姿がはっきりと視認できた。

 そしてそれ(・・)は迫るマダラの分身二体の頭を鷲掴みにすると、有無を言わさず、己の口の中へと呑み込んだ(・・・・・)

 

「―――その眼、輪廻眼(・・・)だな」

 

「―――速い……ッ」

 

 身近で聞こえたマダラの声に、シスイが驚嘆の声を零す。

 シスイが地上に降り立った瞬間―――かなり距離があったはずだが、マダラは既に、シスイの懐近くへと潜り込んでいたのである。

 シスイは咄嗟に腕を体の前で交差し、ガードを固め、襲い来るマダラの攻撃に備えた。

 マダラが放った蹴りは、シスイの腕が重なり合った最も守りの厚い箇所(・・・・・・・・)を直撃し―――シスイの護りを、力を以てねじ伏せた。

 

「―――ギッ」

 

 凄まじい衝撃がシスイの身体を襲い、シスイの身体は吹き飛ばされる。蹴りの直撃を受けた両腕が圧し折れなかったのは、ひとえに父と母より貰った頑強な肉体がゆえだった。

 跳ね飛ばされるシスイの腕が、マダラの強烈な蹴りのダメージによって痺れ、感覚が薄くなる。力が入らず崩れた腕。守りを失い無防備になった体。

 

「戦いの最中だ。気を抜くな」

 

 ―――追いかけて来たマダラの拳が、シスイの腹へと突き刺さる。

 

「―――ガ」

 

 シスイの両目が見開かれ、口が大きく開き、唾液が飛び散った。そして、吐血(・・)。鼻からも、少なくない血が逆流した。

 くの字に折れ曲がったシスイの身体は、その内臓を大きく損傷した。ネジの八門遁甲による攻撃を受けてなお軽症で済んだシスイの肉体を、たったの、一撃で、である。

 だが、シスイは医療忍者である。にわかにチャクラを練り上げたシスイは、瞬時に損傷した内臓の修復を開始する。しかし―――。

 

「―――遅い」

 

 再び、マダラが接近していた。

 自ら殴り飛ばしたシスイに、追いつき、追撃を仕掛ける。

 八門遁甲や飛雷神の術レベルの動きを、マダラは素で、苦も無くやって見せているのである。

 そしてそれは、ただ速いだけのものでは無い。

 その一撃一撃は鉛の様に重く、その衝撃はシスイの身体に染みわたる様に、五臓六腑に伝播する。

 

 それこそが、うちはマダラの―――本気の攻撃(・・・・・)

 

「―――プッ」

 

「……ッ」

 

 だが、シスイもただではやられなかった。

 マダラが再度接近した瞬間、シスイは血を吐いた(・・・・・)

 それを視認するよりも前に(・・・・・)、マダラは急停止し、後退する。

 

 シスイの吐き出した血は鋭利な千本のような形状で、マダラが来たはずの場所(・・・・・・・)を通り過ぎ、地面に突き刺さった。

 そして、まるで水中に刃が潜り込むかのようにして、その姿を地面の中へと隠した。

 地面の硬さをものともしない、凄まじい貫通力である。

 

 ―――相手が勝利を確信したタイミングでの、全力かつ簡潔なカウンター。

 

 須佐能乎でも防げていたかどうか―――距離を取ったマダラが、その一撃を見て、眼を細めた。

 内臓が破壊され、骨が圧し折れ、想像を絶する痛みの中、逆転の一手のためにチャクラを練り上げていたことは、賞賛に値する。

 敵が満身創痍、瀕死の状態であれば、逸るのが人心というものだ。あと一撃で勝利する―――その誘惑に、勝てる者は少ない。ほとんどの者は、今の一撃で、呆気なく殺されているだろう。

 もっとも、マダラは例外の側であるのだが。

 

(うちはマダラ……これほどとは……。戦闘経験値が、違い過ぎる……ッ)

 

「―――ハッ、ハッ」

 

 シスイが息を整える。同時に、肉体の損傷を急速に回復していく。

 輪廻眼から戻ったマダラの万華鏡写輪眼が、苛立ちとも情景とも違う、あるいはどちらも入り混じった複雑な表情(・・・・・)で、その様を見つめた。

 そして何を想ったか、攻撃の手を止め、近寄ってくる素振りも無く、口を開いた。

 

「……小僧。聞きたいことがある」

 

「……」

 

 黙っているシスイに、マダラが苛立たし気に続けた。

 

「回復の時間をくれてやると言っている。答えなければ……、次は無い。多少傷を負うことになろうと、次は確実に殺す」

 

「……なんだ」

 

 数瞬の迷いの後、シスイは口を開いた。

 素直なのは良いことだ―――マダラは目を細め、言った。

 

「貴様、柱間の子孫だな?」  

 

「……千手柱間は、オレの曽祖父だ」

 

「やはりそうか。柱間には及ばぬまでも……及第点だ。それなりの規模の忍術。印を使わず発動する肉体再生。その術は……扉間の色もあるようだが。……イズナの息子か?」

 

「……オレの両親は千手畳間とうちはアカリだ」

 

 ―――イズナはペット()の名前だ。とは、内心で留めた。

 

「やはりそうか」

 

 マダラは何かを思考するかのように、少し俯いて、目を細めた。

 

(うちはと千手……相反する二つの力……。その輪廻眼は、そう言うことか……? しかし、一つ巴(・・・)。輪廻眼、ではないのか……? どうなっている? オレの知らぬ何かが……。輪廻眼にはまだ『先』がある……?)

 

 そして、マダラはシスイを見据えた。

 

「一輪……恐らくは写輪眼の巴が増えるのと同じように、まだ覚醒途中……。一つの道(地獄道)しか、使えないようだが……。間違いなく、その眼は輪廻眼だ。……その眼。どうやって手に入れた? やはり、千手とうちはのチャクラの統合によるものか?」 

 

「……」

 

「用心深いな。答えなくとも、どのみち、お前はオレに瀕死に追い込まれ、幻術で聞き出されることになるわけだが……。まあ、いいだろう。イズナの息子であるお前に、少しだけサービスしてやる。お前が答えればオレも一つ、貴様の質問に答えてやろう」

 

 マダラから情報を引き出せる。そのチャンスを、逃す手はない。どのみち、この眼の開眼理由は、知ったところで、どうにもならない(・・・・・・・・)

 マダラの纏う雰囲気に噓偽りは感じない。今は答え、情報を引き出し、回復の時を稼ぐのも有りかと、シスイは口を開いた。

 

「……母の胎内にいるときに、贈り物を貰った」

 

「それほどの過去を、覚えているというのか?」

 

「……体が、感覚を覚えている、と言った方が正しい」

 

「貴様に『贈り物』をしたというのは、何者だ? イズナ(畳間)あの小娘(アカリ)には、そのような真似は出来まい」

 

「……」

 

「―――答えろ」

 

「……忍びの祖だ。相反する二つの力(・・・・・・・・)が結ばれた、史上初めての命(・・・・・・・)の誕生。その、祝福だと。朧げな感覚だが……この眼の開眼と共に、思い出した」

 

「忍びの祖、だと……!?」

 

 マダラが驚愕を口にする。

 

「……居る(・・)というのか? 未だこの世に……。だとすれば何故……。あの石碑は……」

 

 ぶつぶつと呟き始めたマダラに、シスイは問う。

 

「あなたの目的は、なんだ。何故、今になって蘇った」

 

「―――恒久的な平和のためだ」

 

 真顔で言い切ったマダラ。その本気を感じ取った、シスイは、その狂気に驚愕し、目を見開いた。

 

「―――馬鹿な!! こんなことをして、どうして世が平和になる!? 争いをばら撒き、世を乱す! あなたがやっているそれは、平和とは真逆のものだ!!」

 

 シスイの慟哭にも似た叫びを、マダラは小さく鼻で笑った。

 

 ―――燕雀安くんぞ鴻鵠の志を知らんや。

 

「お前には分かるまい。オレには見える。ただ、それだけだ。さらに『先』が……。先の夢が」

 

「……何故、そのような考えを持つに至ったんだ。あなたは、木ノ葉隠れの里を―――『里』というシステムを構築した、偉大な忍者の一人だったはずだ。あなたがいなければ……うちはマダラと言う英雄が居なければ、木ノ葉隠れの里は存在しなかった。里と言うシステムも、生まれなかった。あなたがいなければ忍界は今もなお一族同士争い合う戦国時代のままだったはずだ。そしてそうであれば……うちはと千手は敵対したままで……オレも、生まれてはいなかった。初代火影と共に里にいれば、あなたは間違いなく、『英雄』だったのに!!」

 

 そしてシスイは、惜しむように、眉を寄せた。

 

「今、戦って、分かった。あなたは、紛れもなく強い。オレが知る誰よりも……。オレの……父よりも。そんなあなたと、あなたに匹敵した(・・・・)という初代火影……。あなた方二人が揃った木ノ葉に、敵はいない。絶対的力による抑止―――始まりはそうなるかもしれないが……時代を経れば、きっと、争いの無い世を築けたはずなのに……ッ。 何故、初代火影と道を違えたんだ……ッ! やはり―――千手扉間と(・・・・・)、相容れなかったのか……? 確かに彼は、苛烈だったと聞いているが……。やはり、そういうことなのか……?」

 

「ふん……。許した質問は一つだけだが……。まあ、良いだろう」

 

 そして、マダラは語った。

 シスイの言葉の端々から伝わる尊敬(・・)と、畏怖(・・)

 『里』から排斥され、守りたかった一族からすら理解を得られず、最も親しい友と袂を分かち、孤独となったマダラにとって、その『想い』は、生前、ついぞ得られなかったものである。

 そして、千手一族直系にして、次代の当主たるシスイ―――その戦法が酷似している、千手一族の後継者に、あの扉間が否定された(・・・・・)ことが面白くて、マダラは少しだけ笑った。

 そして―――マダラは無意識に警戒を緩め(・・・・・・・・・)、口を開いた。

 

 ―――里との亀裂。一族との乖離。扉間との確執。柱間との決別。

 

 マダラも、そのすべてを赤裸々に語ることはさすがにしなかったが、しかし誰に語ることも無く、耐え忍び(・・・・)続け、心の内に溜まっていた(ストレス)の一端を、シスイへと吐き出したのだ。

 それは、シスイがその生い立ちゆえに聞き上手(・・・・)であり、また子孫であるがゆえに柱間に似たチャクラを持っていたが故に生じた、『緩み』。

 

 ―――そして、一通り話し終えたマダラが、僅かに優しくなった目元を緩め、シスイへと問いかける。

 

「同じうちはの血を継ぐ者だ。曲がりなりにも、『甥』でもある。どうだ? お前も、共に来ないか」

 

 ゆっくりと近づいてきたマダラが、優しい声音で、シスイへと投げかける。

 マダラは畳間の中のイズナの魂に惹かれているのであって、その血縁自体に思うところは何もない。ゆえにシスイにも、甥とは言いつつも、肉親の情などは欠片も抱いてはいなかった。マダラにとって、シスイはただうちはの血を引く他人でしかなかった。

 だが、今しがたの会話によって、マダラの中に僅かに情と言うものが芽生えたのである。それはささやかなもので、少しでも不穏な動きをすれば瞬時に排除する程度のものであり、もしも手を取るとしても、心臓に隷属の呪印を刻みつける前提の誘いではあったが―――マダラはシスイへ、手を伸ばした。

 

「確かに、あなたの夢には、一理ある」

 

 そう言ったシスイは逡巡する素振りを見せ、俯いた。

 悩むシスイを、マダラは静かに見下ろしている。その写輪眼は、シスイの妙な動き(・・・・)の一つも、見逃すことは無い。

 

 少しの時間が流れる。

 悩み、苦悩しているシスイを、マダラはやはり、静かに見下ろしている。少しだけ、期待があった。

 オビトとは違う―――自ら理解を得た、『後に続く者』の獲得。少しだけ、本当に少しだけだが、心のどこかで、戦いによるものとは違う高揚が、マダラの中に芽生えていた。

 

(だけど……あなたの出しゃばる―――夢じゃない)

 

 そしてシスイは、伸ばされたマダラの手に、自らの腕を重ね―――勢いよく、頭を上げた。

 

 ―――瞳術・輪廻眼。解放・限定月読(・・・・)

 

 シスイの両目に宿った、輪廻眼の固有瞳術(・・・・)。異世界を創り上げる程の、究極の幻術が、始動する。

 

 ―――そうして。

 

 二人の姿が、この世から消えた。

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