今年中には完結させる(予定)です
「ナルト!」
「自来也
「……気持ちわるゥ」
翌日。
ナルトが復活したという報を聞いた自来也が、ナルトに会いたがっていることを察したカカシは、自来也を連れて飛雷神の術で渦潮跡地へと再び足を踏み入れた。
自来也は五代目代行として里を背負う覚悟を抱いた綱手や、忍び頭として実際に里の指揮を執るカカシの「相談役」という立ち位置におり、本来はそういった私情は捨てるべきである。
しかし自来也の言動には、兄貴分として慕っていた畳間が可愛がっており、そして自身の弟子でもあるナルトのことが心配だという思いが滲み出ており、後顧の憂いを絶つという意味でも、カカシは自来也とナルトを引き合わせることにした。急遽霧を離れた綱手の護衛および連れ戻し―――という名目もある。
そして叶った師弟の再会は、ナルトの自身への呼び方に鳥肌を立てた自来也の、ハトが豆鉄砲を喰らったかのような表情を以て果たされる。
そしてそんな自来也の反応に、ナルトは顔を真っ赤にして、唾を飛ばしながら声を荒げた。
「き、気持ち悪いって何だってばよ!! こちとら心配かけたと思ってなのに!!」
「カーッ!! これが気持ち悪く無くてなにを気持ち悪いというんだのォ!! おー寒い寒い。背筋が震えおるのォ!! フナ虫のフラダンスを見たような気持ちだわい!!」
「なッ!? フナ虫ィ!? そこまで言うことねーだろ!! このエロ仙人!!」
「ふ……っ。それで良い」
「えっ」
ナルトを揶揄うような言動―――特に身振り手振り―――を見せつける自来也に、羞恥と怒りに耐えかねたナルトがいつもの呼び方を叩きつければ、自来也は嬉しそうに、しかし真剣さを帯びた表情を浮かべた。
「突然冷静になるなってばよ!」、と叫びたいのを堪えたナルトは、しかし自来也の急変に戸惑いを表情に浮かべた。
ナルトを見つめる自来也の瞳は穏やかで―――自来也はナルトの肩に優しく手を置いた。
「ナルトよ。お前に何があったかは、カカシから聞いておる。よく戻って来た。よく……耐え忍んだ」
はっと、ナルトが自来也を見つめ返す。
自来也には、ナルトの気持ちは理解できる。『目的』は決定的に異なるが、自来也もまた大蛇丸という敵を殺すために、畳間を欺き単身戦いへ赴いたこともある。ナルトの過ちは、自来也にとっても、在りえたかもしれない未来だ。それを責める資格は自分には無いと、自来也は思う。自来也も未だ―――迷える旅人だった。
それでも、自来也はまだナルトの先にいる。ナルトがこれから歩んでいくだろう道の先にいる。だから自来也はナルトのことを責めるのではなく、
「ワシを相手に殊勝に頭を下げるその様子を見るに、お前自身過ちを受け入れ、きちんと折り合いをつけたようだのォ……。だがな、ナルト。人は……
自来也は豪快に笑った。そして声を張り上げて続ける。
「ナルトォ!! はっきり言って、お前に忍術の才能は無い!! だが……、気に入った術であれば不得意だろうと関係なく、意地でも習得してやるという根性がある。そして、その意地を曲げず、諦めず、影分身でゴリ押しする変な頑固さものォ」
自来也はけろっと、ナルトをいじる様に目を細め、腕を手前に折りたたみ、掌を自身の顔の前に持ち上げて、人差指をナルトへ向けた。
「天才だ何だと言われておるが……基本的にお前は馬鹿だ。他のことに手を回せばもっと効率よく色々と覚えられただろうに、ミナトの螺旋丸にばかりこだわりおって。そのせいで、ワシとの旅で覚えた術は数える程度……。ワシという超凄腕の忍者を師に仰いで覚えた術がほぼほぼ螺旋丸だけ……。そのうえ、仙術まで螺旋丸の強化に充てる始末……。得意とする性質が違うとはいえ……師として泣けてくるのォ」
「な、何だってばよ、急に。別に良いだろ! 螺旋丸は、父ちゃんの術なんだから!!」
大きく脱線しているように聞こえる自来也の話に、ナルトが困惑を滲ませながら叫ぶ。
自来也は呆れた様に目を細めてナルトを見た。
「
「うぐ……っ。だから! それが『気持ち悪い』ってのと、何の関係があるんだってばよ!?」
「関係ある。大ありだのォ。ナルトお前、とりあえず謝れば良いと思っとるだろ」
「ひ、酷い言い方するってばよ……。身も蓋もねえ……。けど、それの何が悪いって言うんだってばよ! まず謝るのが普通だろ?! オレってば、間違えちまったんだから……!」
「そらそうだがのォ。お前のことだ。言っておかんと、一生
「カーッ!? なんだそれ!? 我儘すぎる!! 前から思ってたけど!! ダメな大人の見本みたいなおっさんだってばよエロ仙人は!! 二年前にアカリ姉ちゃんがオレの弟子入りをめちゃくちゃ渋った理由も分か―――いっだーッ!!」
ナルトが喚けば、自来也はナルトに拳骨を落とした。
「言い過ぎだバカ者。もっと敬え」
「どっち!? ひどすぎるってばよ!」
「まあ、ともかく」
こほんと、自来也が咳払いをして話を戻した。
ナルトと自来也が面会しているのは、避難地にある一番大きな屋敷の室内だが、この屋敷内にはアカリがいる。あまりナルトの頭をぽこぽこ叩いていると、義息子の危機を察知したアカリが飛んでくる恐れがある。自来也は引き際を弁えている男であった。
よって自来也はじゃれ合いを早々に切り上げて、本題へと移行する。
「ナルト。確かに、省みることは大事だ。その点は素晴らしい。普段舐め腐っとるワシ相手にもきちんと頭を下げられたことも、だ。そこは正直意外だったというか……ワシもびっくりした」
「一言多いんだってばよこのおっさんは……」
「喧しい。ともかく。己の立ち振る舞いを客観的に振り返り、不適切な言動・思考を修正することは容易なことではない。親しい相手に頭を下げるということもな。だが、お前はそれを恥を忍んで実践した。たいしたものだ。大人の階段、登ったのォ!!」
―――まったく己の立ち振る舞いを客観的に振り返ったり省みず、不適切な言動・思考を修正することを全くしようとしていない大人(覗き趣味)を前に、ナルトは胡乱気に目を細めた。
それに気づいた自来也は、気まずげに「
ナルトは呆れた様に自来也を眺めつつも、しかし話の内容自体は真剣に耳を傾けていた。
ナルトはこの数年間自来也と共に各地を旅していたがゆえに、自来也が真面目なときは真面目だが、しかしふざけながら真剣な話をすることもあることを知っているからだ。
そしてナルトは多少だが、真剣な話をするときに自来也が見せる『おふざけ』は、その場を和ませたり、あるいは必要以上にナルトへ重圧を与えないようにという、自分の身形を考慮し、ナルトを慮った自来也の『優しさ』であることにも、気が付いている。
それはそれとして、自虐の内容に呆れはするが。
そしてそれを感じ取った自来也は、話を続ける。
言葉以外での、師弟による無言のコミュニケーションが、そこにはあった。
「理由を考えると、複雑なものではあるが……お前の成長それ自体は、ワシも非常に嬉しく思う。きっと畳の兄さんも、そう思っているはずだ。お前を連れた旅の最中もそうだ。畳の兄さんとは幾度か手紙のやり取りをしたが……兄さんはお前の成長を心から望み、喜んでおられた」
「……うん。分かるってばよ。おっちゃんはオレを……愛してくれていたから。ぶっちゃけ、旅の最中も何度か会ってるし。すげー喜んでくれてたし」
その度に自身の成長を―――実力も、身長も、精神的なものも含めて―――喜んでくれていたと、ナルトが嬉しそうに、少しだけ寂しそうに話した。
「え?」
それに困惑するのが自来也である。
いつの間に……と思いつつも、飛雷神の術でナルトに会いに来ていたんだなと、腑に落ちる。次の再会はナルトが成長した時―――そういう約束を耐え忍ぶ気が欠片も無かったらしい亡き兄貴分に、自来也は「そら
そして、あることに気づいた。
「ワシ達が孤児院へ数年ぶりに訪れた時、畳の兄さんは数年ぶりに会うはずのナルトには妙に関心が無かった……。あれはつまり、ナルトの近況を知っておったから、ということか……。どーりで……」
そして自来也はいくつもの点が一本の線で結ばれていくような爽快感と、知りたくも無かった真実に辿り着きつつある奇妙な焦燥感、そして考えることを止められない諦念を抱き、呟きを続けていく。
「『なんかやけにワシに絡んで来るのォ?』とは、思っておったが……。いや、確かに妙だとは思っていたが……。そういうことなのか……?」
自来也はあの時畳間に追い駆けられて、最終的には模擬戦を強要させられた恐怖を思い出す。
そして精神的疲労と恨みを込めて目を細め、ナルトを見つめた。
「あの時畳の兄さんが、ワザとらしくワシを追い立てて、孤児院から離れたのは……」
そしてある答えを導き出した自来也の中に、徐々に怒りが湧いて出る
「ナルトの近況を知っておったことを、姐さんに悟られんようにするためか……ッ!!」
解明されたしょうもない事実。強烈なアハ体験が自来也を襲った。
実際、アカリはそのやり取りを、自来也に揶揄われる夫の照れ隠しと受け取っていたので、企みは成功である。
自来也は犠牲にされたのだ。
その答えに辿り着いた自来也は、疲れたように苦笑を浮かべ、肩を落とした。
「まったく……あの人は……」
アカリはきちんと約束を守っていた。
じっとナルトの帰還を待っていた。新たに増えた家族―――可愛らしい双子ちゃんを、同じく愛しいナルトに紹介したいという気持ちの方が強く、再会の場ではそこまで暴走しなかった。
だが、恐らくナルトが周囲の変化を受け入れて孤児院を出奔したりせず、また出奔先で再会したいたいけな少女の心を不用意な発言で傷つけず、怪我をしたりもせず、無事に孤児院で過ごしていれば―――そらもう大層な歓迎がナルトを待っていたことだろう。
だがその場合、アカリはそこで不審に思う。何故自分と同等にナルトを愛しているはずの夫が、そんな平静でいるのか―――ということを。そうなると面倒くさいことになる。ゆえに畳間は自来也を犠牲にした、ということである。
とはいえ、今はどうでも良い話でもある。
「ええい、話が逸れた!」
自来也は頭を振って雑念を払い、話を本題へと戻す。
「つまりだ、ナルト!! ワシが言いたいのは、反省は大事だが、あまり肩肘を張るな、ということだ。あまり心が強張れば平常心を失う。そうなれば、また同じ失敗をしかねん。それでは何の意味も無いのォ! ―――
―――いつからか、
(……おっちゃんもそうだったって、姉ちゃん言ってたな……)
自来也の話を聞いて、ナルトはアカリの話を思い出した。
畳間という男が、亡き師に肖って冷厳で隙の無い忍者を目指し―――しかし無くしきれない『隙』を自覚できず、大きく躓いた話だ。
「忍者にとって大切なのは、常に
「オレの……弱点と長所……」
「うむ。長所を活かし、弱点に気を付ける。自然体を保ちながら、しかし過ちを繰り返さぬように己自身を律し、修正する。それが、畳の兄さんが常おっしゃっていた、『己を知る』ということだのォ。それにな? 弱点を晒しておけば、こいつはそういうやつだと、誰かしらフォローしてくれるものだ」
自来也がしたり顔で言った。
(……。為になる話だけど……)
ナルトは素直に関心を抱くが、同時に引っかかるものもあった。
(エロ仙人は自分の欲望に素直過ぎるってばよ……)
覗き趣味。女好き。
だからこそ、クシナとアカリは、「自来也の様にはなるな」と、前者は遺言で、後者は小言で、口にしているわけである。
一方で、大人になるにつれて常識を備えていったことで、落ち着かざるを得なかった『かつてのスケベ小僧』たちは、老いてなお女湯を覗き続ける自来也こそを、男の中の男と敬っていたりする。
また、自来也は己が女好きだということを自覚し、弱点と認識している。敵対者がそこを突いて来るだろうことは想定済みである。女を使った篭絡、覗き中の襲撃―――日頃からその点に関して警戒を怠ったことは無い。ゆえに自来也は誰に悟られることなく、邪魔が入ることも無く、覗きを行うことが出来る。
弱点を自覚し警戒を強めたうえで、覗き趣味を謳歌する―――最低の一石二鳥であった。
「……ナルト。お前はまだ若い。これから取り返せる。だから……
楽しみにしとるぞ、と自来也は優しく語り掛け、ナルトの頭を優しく撫でた。
それはかつて―――もはや知る者のいなくなった『二代目火影』と『千手畳間』の最期の会話において、扉間が畳間に願ったものと、同じ思い。
当時の畳間はその想いを汲み取れなかったが―――ナルトはきっと。
優しく微笑む自来也から目を逸らすように、ナルトは心苦し気にぎゅっと下唇を噛みしめ、俯いた。
「……でも。サスケは……オレのせいで左手を無くしちまったんだ」
「……。まあ、そればっかりはサスケ本人と話をするしかないが……」
自来也は困ったような表情を浮かべて、しかし穏やかな声音で続けた。
「ワシはサスケの奴のことをたいして知らん。だが……サスケに悔いは無いと思うがのォ」
「なんでそう言い切れるんだってばよ」
「うちはサスケは、畳の兄さんの弟子だ。弟子の忍道は師譲りと、相場は決まっておる。であれば……『仲間を守る千の手』たる畳の兄さんの弟子であるサスケが、腕一本を惜しむとは思えん。……まあ、お前のことだ。それでも―――なんて、考えとるんだろうが……。もしもサスケが
「いや……いくらなんでもそれ軽すぎ……。ぶっとばされるってばよ……。オレでもぶっ飛ばすわ……」
とはいいつつ、少し緊張は解けたらしいナルトが、困ったように額を人差指で掻く。
そんなナルトを、自来也は優しく見つめた。
(……弟子の不始末は師の責任。修業をつけて力を伸ばし、旅に同行させ視野を広げてきたが……。しくじったのォ……。機会が無かったとはいえ、肝心なところを疎かにした。……
サスケの腕に関してはまだまだ受け入れるまで時間が掛かるだろう。優しいナルトのことだ。それを生涯続けないとも限らない。
だがサスケが目覚めない以上、今くよくよしたところで、変化はない。少しは肩の力を抜くべきだと、師である自来也は思ったのである。
そして師である自来也は、その責を代わりに負う覚悟があった。
「? どうかしたってばよ?」
(ほーら……。変に鋭い感性はミナト譲りだのォ)
「何でもないのォ! それよりナルト。ワシはすぐに霧へ戻るが、お前はどうするつもりだ? まさか付いて来る、などと言うつもりでは無かろうな?」
「あ……。それなんだけども。オレってば―――」
そう言い掛けて、ナルトは言い淀んだ。
「……」
ナルト自身、戸惑っているようである。その先の言葉が―――口から出ないことに。
(こいつ……)
自来也はナルトの変化に気づき、目を細めた。しかしそれは一瞬のこと。ナルトは自来也の様子には気づかない。
自来也は瞬時に穏やかな表情を浮かべ、ナルトへと笑い掛けた。
「ナルト。お前はここに残り、この場所を守れ」
「え? ……」
少しの間。
「いや、オレも……」
「いいから、のォ?」
「いや……オレも行くってばよ。母ちゃんと約束したんだ。もう、憎しみとか怒りとか、そういうもんには負けねえ。みんなを守って、それで―――」
「ナルト」
自来也がナルトの言葉を遮る様に名を呼んだ。
「お前は、確かに強くなった。だが、敵の狙いは尾獣であり、それにはお前の九尾も含まれる。今回の戦い―――人柱力は前線には参加せず、後方で匿われることとなった。お前も、ここで身を潜めろ」
「そうなの? ……」
考え込むような素振りを見せるナルトを見て、自来也は確信を抱いた。いつものナルトならきっと、是が非でも自来也に「行く」と詰め寄っただろう。
それが無いのは、確かに精神的に成長したからなのだろうが、自来也はそれだけではないことを見抜いた。ナルトは愛の力を以て、怒りや憎しみを退けた。ナルトが憎しみに囚われることはもう、無いだろう。だが、
一つだけ、
それはきっと、アカリにも自来也にも、そして―――例えこの場にいたとしても―――畳間にも取り払うことが出来ないものだ。そして、それが出来るのは―――。
「それと……お前には伝えんとならんことがある。砂隠れと……我愛羅についてだ」
「!! 我愛羅……。そうだ。あいつも、オレと一緒……。人柱力だってばよ。エロ仙人!! 我愛羅に何かあったのか!?」
「砂隠れの里は、恐らくはマダラの手によって、滅ぼされた。岩隠れに派遣されている木ノ葉の者からの情報だ。一尾は既に、奴の手に堕ちていると見て間違いない」
尾獣を抜かれた人柱力は、例外なく息絶える。それは、うずまき一族のような頑強な肉体を持つ者であっても、例外ではない。尾獣を抜かれた人柱力を生き永らえさせるただ一つの方法は―――奪われた尾獣を取り返すこと。それも、人柱力が衰弱し息絶えるまでの、短時間での奪還が求められる。うずまき一族の血を引くナルトですら、封印術による仮死状態を維持しなければ、ものの数時間で息絶えていたことを考えれば―――我愛羅は既に。
「―――ッ!!」
ナルトが息を呑み、目を見開いた。そして唇を戦慄かせ―――沸き上がる何かを堪えるように、拳を強く握りしめた。
自来也は『耐え忍んでいる』ナルトを見守りながら、静かに続ける。
「だが、希望はある。重吾は九尾奪還に向かう最中、我愛羅へ必死に治療を施している老婆を見たと言っている。重吾も、チャクラを少し分け与えたと言っていた。あるいは―――」
「……いや」
ナルトが自来也の言葉を遮り、静かに、弱弱しく首を振った。
「尾獣を抜かれた人柱力は、例外なく死ぬ。そんで……死んだ人間は、戻らねェ……。―――我愛羅……っ」
義父との別れ。母との決別。
哀しみと共に幼年期の終わりを迎えたナルトは、静かに現実を受け入れた。
そして―――残されたものへと、眼を向けた。
「―――エロ仙人。砂隠れの生き残りは?」
「……それはワシにも分からん。マダラが砂隠れを相手に、どこまでやったのか分からんからな。だがもしも『砂を滅ぼす』ことを目的として襲撃したのだとすれば……絶望的と言わざるを得ん。木ノ葉の者の大半が速やかに撤退し生存できたのは、第三次忍界大戦の折、
「……我愛羅が、火の国の国境に……? それって……」
「……」
自来也が痛ましげに目を伏せる。
ナルトの背筋に、寒気が走った。
「我愛羅はオレ達に、助けを―――」
「……それ以上は考えるな、ナルト。もう、過ぎたことだ。それに、砂隠れが陥落したのは、木ノ葉で
「……ッ。我愛羅……ッ!!」
ぐ、とナルトは何かを呑み込み、耐えるように俯いた。
「我愛羅はきっと、里を守ろうとしたはずだ。ぜってェ、里を守りたかったはずなんだ。あいつは……砂隠れの里が、大好きだったから。そんな我愛羅が、里に背を向けて……ッ。我愛羅……ッ!!」
「ナルト。やめろ。もうやめろ。考えるな。それ以上は無意味だ」
自来也は、怒りに震えているナルトを心配そうに見つめ、その肩に触れようとして―――急に顔を上げたナルトに少し驚いて手を止める。
「―――オレが、砂隠れを守るってばよ。我愛羅の分まで。我愛羅の代わりに。
力強い瞳を自来也に向けながら、ナルトはそう言い切って―――その後、力なく項垂れた。
「砂隠れとの友好は―――火影を目指すオレの……一番最初の……っ、目標だったんだってばよ……。ガキの頃……我愛羅と、約束して……。一緒に『夢』を叶えようって……だから……」
ナルトの声は、震えている。
しかしナルトは、我愛羅という親友を失った悲しみを耐え忍び、『その先』を見つめんとしている。親友の遺志を汲み、夢の先を描かんとしている。
「そうか……」
自来也はそんなナルトを見て、胸を締め付ける切なさを感じる。同時にその成長に喜びを抱いた。だからこそ、自来也は決意する。
この命に替えても、うちはマダラは殺す。
「ナルト。……ワシ等もまた、これが今生の別れになるやもしれん」
「あ……」
ナルトが呟いた。
縁起でもないことを、とはもう言えなかった。
これから自来也たちが戦う相手は、うちはマダラ。現代最強と名高い五代目火影が敗北し、尾獣最強の九尾を有する、仙人に至った若き木ノ葉の人柱力が敗北した相手。
犠牲無しに勝利を掴むことは難しいだろう。きっと犠牲は出る。そしてその犠牲に、自来也がならないとは限らない。致し方ない犠牲。平和のための犠牲―――その犠牲にな。
「ワシの生き様は、見せて来た」
(そうかな……?)
「ナルト。ワシからは一つだけ。諦めるなよ。お前の夢を」
「―――うん。『まっすぐ、自分の言葉は曲げねェ』―――それが、オレの忍道だから」
「……ふ。良い道を据えたな、ナルト。―――これも師が良いからかのォ!!」
「うーん……それは微妙なとこだってばよ」
「このガキ……」
ナルトが「うーん」、と真剣に悩む素振りを見せ、自来也は苛立たし気に口端を引くつかせる。湿っぽい別れは、ガラじゃない―――それが、奇妙な以心伝心を見せた、師弟の別れの言葉であった。
そんな時、扉をノックする音がして、自来也は振り向いた。
直後、入室の一言あって扉が開き、姿を現したのは―――はたけカカシと、
「自来也様。そろそろ時間です」
「分かった。ナルト。名残惜しいが、ワシ等は行く。―――別れの時だ」
「あ……ッ。 ―――っ」
イタチの姿を見て、ナルトがびくりと体を震わせた。
うちはサスケの、兄。腕を失わせてしまった男の、兄。
何故ここに、とナルトは思ったが、霧隠れ解放戦争に置いて、イタチは自来也達と行動を共にしていた人間だ。自来也がここにいる以上、イタチがいてもおかしくはない―――そう結論付ける。
もっとも、壊滅した木ノ葉を経由し、その持ち前の洞察力で里民の大移動の跡を追って来たイタチ達が合流したのは、自来也より少しばかり遅れてのことではあるのだが、ナルトには知る由も無い。
「イタチさん、オレ―――」
その眼の包帯もそうだが、町の散策をしているときも、全く姿を観なかった。
眼の包帯から察するに、目を負傷して治療していたのかもしれない。ナルトの頭の中を色々と思考が巡る。とはいえ、まずは謝罪だ。サスケのことを、謝らなくては―――。ナルトはそうして謝罪の言葉を口にしようとしたが―――。
「―――謝らなくていい。ナルト君」
―――イタチによって、止められる。イタチは眼を包帯で覆っており、ナルトの表情の変化などは見えないはずだが、さすがの洞察力といったところか。衣擦れの音、呼吸のリズムなど僅かな情報でナルトの心情を見抜いたらしかった。
「事の顛末は、オレも、ある程度は耳にしている。サスケはオレの最も愛しい弟だが……今のサスケは、一人前の忍者でもある。いつまでも、オレの庇護が必要な子供ではない。サスケが自ら選んだ道であるならば、それをオレに謝罪するのは見当違いだ」
そしてイタチは、少し痛ましげに表情を歪めて、続ける。
「君の周りで起きたこの数日の出来事や、それによって受けた心の傷、そこから想定される今のメンタル状態を想えば、あまり厳しい言い方をしたくはないが……。オレへの謝罪は、自らの意志で友を救わんとしたサスケへの侮辱に等しい。それは、看過できない。サスケのためにも……。そして、ナルト君。君自身のためにも」
「……イタチさん」
「……」
後でミコトに謝ろうと思っていた自来也は、イタチの言葉に少しばかり気まずげな思いを抱くが、しかし厳格な表情は崩さず、第三者に徹している。
「だが、独断専行し、周囲に迷惑と心配をかけたことに対しての謝罪は受け取ろう。それに関しては、オレも無関係ではない」
イタチはナルトのことを幼少期から知っている。サスケに向ける程ではないが、ナルトのこともまた弟の様に可愛がっていたのだ。ゆえにイタチもまた、ナルトのことを心配した、と言っているのである。
「あ……。それに関しては、本当にすみませんでした。もう二度としません」
(こいつワシより説教上手い……)
にこやかに告げたイタチに、ナルトが素直に謝罪する様子を見て、僅かな敗北感を感じる自来也であった。
そしてイタチは、最後にアドバイスだ、と付け加えて、言った。
「ナルト君。君が今、
「感謝の言葉……」
「サスケが負傷したことは結果に過ぎない。オレは
「……えっと」
「ふ……。サスケは君のことを、腕を失っても惜しくない―――最も親しい友だと、そう感じているということだ。命懸けで手を差し伸べた親友から返って来る言葉は……、『ごめんなさい』か、『ありがとう』か―――ナルト君。君なら、どちらが嬉しいかな?」
「―――!!」
ナルトが腑に落ちたとばかりに背筋をピンと伸ばしたのと同時、自来也とカカシが内心で感嘆の言葉を零す。
基本的にダメな大人たちであるから、
「ありがとう。イタチさん。オレ、ちょっとすっきりしたってばよ」
「ふ……」
(なーんかワシの話全部すっ飛んでそうだのォ……)
クールに笑うイタチと、何かしら吹っ切れたような様子のナルトを見て、自来也は何とも複雑な思いを抱く。
一方、ナルトはあっけらかんとした様子で、イタチへと気になったことを問いかけた。
「あのさ、イタチさん。その眼、どうしたんだってばよ?」
「……カカシさん。自来也様」
イタチが蚊帳の外になっていた二人の名前を呼ぶ。
それは自分一人の判断では答え兼ねるという意志表示で在り、二人の指示を仰いでのことだった。
自来也は困ったように頭を掻き、カカシは少し悩んでから、頷いた。
「構わないんじゃない? いずれ、分かることだ」
「……知らんぞ。姐さんに後でどやされても」
「アカリ様、オレには優しいんで」
「ぐぬぬ」
自来也がアカリの叱責を恐れるようなことを言えば、カカシは可愛がられているから大丈夫と余裕をかます。さすが畳間とアカリにとって無二の親友の忘れ形見。余裕の表情である。自来也とは生まれ持ったものが違った。
「では……」
二人の承諾を得て、イタチが眼を覆う包帯を、さらさらとほどいていく。
包帯による封印が解かれ、隠されていたイタチの、閉じられた瞼が空気に触れる。
そしてそれがゆっくりと開かれて、ナルトは驚いたように息を呑んだ。
「その眼―――」
イタチの両目に光るのは、万華鏡。本来のイタチの万華鏡である手裏剣模様に、別の模様が加わったもの。
アカリの瞳をベースにし、イタチへと移植された万華鏡写輪眼。
イタチ本来の瞳術である天照、月読説教を捨てることによって為し遂げられた――――十数年前に失われた瞳術の、復活。
永遠の万華鏡写輪眼―――輪墓。
これこそが、うちはマダラ討伐の要。
千手畳間の火の意志が伝播したように。
時代を超えて―――