綱手の兄貴は転生者   作:ポルポル

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使える術全部が便利すぎる……(小並感)


鬼にもなれば仏にもなる

「柱間。もう、待ったは無しだ」

 

 マダラのチャクラが荒ぶり、天を震え上がらせる。

 柱間のチャクラが荒ぶり、地を揺らがせる。

 マダラの言葉に、柱間は答えなかった。ただ静かに、鋭くマダラを見据えている。

 

 ―――直後、爆音が響いた。

 柱間とマダラが同時に地を蹴りつけて、駆け出したのである。二つの場所で、同時に地面が爆破されたかのように吹き飛び、土塊と土煙が舞い上がり、飛び散った。

 そして柱間とマダラ、二人の拳が激突する。その衝撃は空気を破裂させ、振動は天地を揺るがした。

 

「我愛羅、下がるぞ。我らは機を見て奇襲をかける」

 

 対峙するマダラと柱間。

 二つの巨大なチャクラがぶつかり合う中、扉間は冷静に、我愛羅へと声を掛けた。同時に、マダラから見えないよう、片手を背に隠し、人差指から小指までを小さく振った。それは、天空でこちらを伺うヒルゼンと大蛇丸へ向けた、『下がれ』と言うハンドシグナル。

 

 我愛羅は頷き、自身の乗る砂の絨毯を天空へと昇らせながらマダラ達から距離を取り、同時に扉間の足元に砂の絨毯を構築し、連れて行く。

 

「我愛羅。この足場の操作権をワシに渡せ」

 

「これはオレの性質変化で操っているもので……」

 

「それは分かっている。ワシとお前の間でチャクラをつなぎ、貴様経由でワシが操作する」

 

「……」

 

 とんでもないことをさらっという人だな、と我愛羅は内心で思った。

 扉間が掌を我愛羅の方へと向け、我愛羅が扉間の掌に己の掌を合わせる。二人の間にチャクラのパスが繋がれると同時に、我愛羅の掌に飛雷神マーキングが刻まれる。

 

 二人がそうしているうちに、柱間とマダラの戦いは、瞬く間に苛烈さを増す。

 マダラの放つ正拳から繋げた肘が、柱間の顔面を吹き飛ばした。

 

 しかし柱間は一切怯まずマダラへと超近距離にまで一気に踏み込んだ。

 マダラは連続で攻撃を仕掛け、柱間のその体を次々に破壊していく。

 しかし穢土転生であるがゆえに己が肉体の崩壊を一切省みない柱間は、ついにマダラの懐へと前屈みに踏み込んだ。

 

 一方―――肉体の損傷の一切を考慮しなくていい柱間とは違い、マダラは血肉の通う生身の肉体がゆえに、柱間の繰り出す攻撃の直撃を、貰うわけにはいかないからだ。

 楽しく攻撃を繰り出していたマダラは一転、防衛を強いられる―――はずだった。

 

「柱間ァ!!」

 

 マダラは柱間の攻撃に対して、真正面からの迎撃を選んだのである。

 輪廻写輪眼により、柱間の動きを完全に読み切っているマダラは、柱間の攻撃がどの位置に来るかを、まるで未来予知かのような正確さで推測し、そこに迎撃の一手を叩き込む。

 

 ―――前屈みに距離を一気に詰めた柱間の頭突きを、己の額で受け止めながら。

 

 柱間の単なる頭突きと呼ぶにはあまりに重い衝撃を受けたマダラの額は割け、鮮血が吹き荒れる。柱間の額もまた破壊されたが、すぐに塵が集まり、修復を開始する。

 

 ―――首相撲。

 

 柱間とマダラは互いの肩に手を掛けて、額をぶつけ合いながら、互いに膝蹴りを放つ。幾度も幾度も、重く早い膝蹴りを、二人は互いの腹部へと叩き込む。

 

「はッ、柱、間ァッ!! 穢、土転、生でなおッ!! おッ、お前のッ、力は!! これッ、ほどかッ!!」

 

 避けもせず、守りもせず、柱間の剛力で放たれる膝蹴りを腹部に受け、どもり、血反吐を巻き散らしながら、マダラは壮絶に笑い、雄叫びのように言葉を吐いた。

 

「……」

 

 しかし柱間は答えない。

 

 ―――木遁分身。

 

 柱間の体が二つに分裂した。

 柱間の本体は前屈みに、マダラの懐に滑り込む。

 木遁分身はマダラの両腕の力でその首を引きちぎられ、その質を樹木へ変貌させた。だが直後、木遁分身から延びた太い枝がマダラの身体をぐるぐると締め上げる。その拘束は一瞬の時も稼げないだろう。

 だが、それで良い。

 

 本体の柱間は、マダラの膝蹴りの直撃を何発も上半身に受け、その肉体が崩壊するが、やはり一切怯まない。

 柱間は地に手が届くほど一気に身を屈め、それを『溜め』とし―――両足で地を蹴りつけて一気に加速。作り上げた熊手型の掌底を、マダラの顔面へ向けて解き放つ。まさに蛙掌底とでも言うべき一撃を放った。

 

「―――ぼ」

 

 マダラは柱間の繰り出したそれを躱しきれず―――いや、柱間の掌底がマダラに当たるよりも前に、掌底が押し出した空気(・・・・・・・)によって、マダラの顎が跳ね上げられた。

 余りに強い衝撃によって、マダラの身体が僅かに宙に浮く。その腹部を、柱間は渾身の力で蹴りつける。

 

「ごえぇ―――」

 

 うめき声がマダラの口から零れ、マダラの身体が吹き飛ばされる。体を何度も地面に叩きつけられながら、吹き飛んでいくマダラが、受け身も取れず地面を転がった。

 

 柱間が手を前にかざす。

 その腕が木材に変化し、凄まじい速さで吹き飛ぶマダラを追った。そして追いついた木材はマダラの脚に絡みつき―――その瞬間、柱間が一気に腕を引いた。

 マダラの身体は勢いよく柱間へと引き寄せられる。関節が外れ、足が引きちぎられるかと思うほどの力であった。

 

 そして柱間は、マダラを縛った腕を勢いよく引くと同時に、天高く足を持ち上げていた。美しい一本線である。そしてマダラが目前にまで迫った瞬間、持ち上げた足を、マダラの腹部目掛けて、一気に振り下ろしたのだ。

 

 ―――痛天脚。

 

 大地が裂ける轟音と衝撃。

 大地に叩きつけられたマダラの身体は地面を叩き割り、砕かれた岩盤は、そのあまりの威力に宙を舞った。

 

「ガッ!! ァハ!!」

 

 マダラの身体はくの字に折れ曲がり、岩盤にめり込む。

 激痛に悶えながら、しかしマダラは壮絶な、満面の笑みを浮かべていた。短く奇声をあげたマダラは、己の腹に突き刺さる柱間の脚を両腕で握り締める。そして柱間の脚を圧し折り、引きちぎろうと力を込めた。

 

「ぼ―――」

 

 ―――再び、大地を砕く轟音と衝撃。マダラの顔面に、固い拳が振り下ろされた。

 マダラの首が仰け反り、さらに大地へとめり込んだ。

 大きなクレーターの真ん中、地面にめり込んだマダラの体。そして更にその状態から、柱間の剛腕を叩き込まれた首だけが、さらに地中にめり込んでいる。

 顔面が平らに潰されたか、あるいは首が千切れたか―――そう思わされるような光景であった。

 

(……許せ、畳間。許せ、シスイ。不甲斐ない祖父を。不甲斐ない曽祖父を。オレが不甲斐ないばかりに、お前たちの代にまで問題を抱え込ませた。オレが……不甲斐ない、ばかりに……ッ。すまぬ……すまぬ……ッ)

 

 痛苦に歪む柱間の表情。そこに、マダラへの情けはない。

 柱間もまた、木ノ葉の歴史を、畳間の辿ってきた道を、我愛羅や大蛇丸から聞いている。

 自分(柱間)の死後、愛する孫が、どれだけの痛みと憎しみを耐え忍び、生きて来たかを聞いた。受け継いでくれた火の意志を絶やさず、その胸のうちで守り抜いてくれた愛しい孫の、生き様を聞いた。

 うちはと千手の友好―――その先の、婚姻。血で繋がった、絆の証。シスイという存在が、柱間の心を、どれだけの温もりで満たしたか。柱間が視たかった夢の先が、柱間の目指した夢の先が、確かに、ここ(・・)にあったのだ。嬉し泣きなど、いつ以来だったろうか。

 柱間がかつて企んだうちはとの友好―――うちはアカリと千手畳間の結婚。山中イナの存在があったため、そういう道(・・・・・)でも、構わないとは、思っていた。どちらに転んでも―――畳間が幸せであれば、それでよかった。

 だが畳間は、柱間の願いも虚しく、茨の道を歩んできた。イナを失い、友を失い、多くを失った畳間が、やっと掴めた『幸福の結晶』こそが、シスイである。柱間は曾孫の存在にだけ喜んだのではない。畳間が幸せを掴んだという事実に、心の底から喜んだのだ。長い長い旅の果て。辛く苦しい時の先で、柱間が愛した―――命をくれてやっても惜しくはないと感じた初孫は、やっと、幸せな日々を掴み取れたのだと、知ったから。

 

 そのすべてを、うちはマダラがぶち壊した。畳間が愛してくれた、柱間の里を―――木ノ葉隠れの里を破壊しつくし、畳間の命すら、奪い去った。

 柱間が親友(・・)と呼んだ男が、だ。

 マダラの『夢』。それ自体は、否定しない。柱間とは相容れることは無いが、しかしそういう道も、あるのだろう。柱間は、マダラの道自体を、否定はしない。

 

 ―――だが里に仇為す者は許さん(死ね)

 

 その言葉が、全てだった。

 

「―――久方ぶりだ。このワクワクは……!! やはり闘いは、こうでなくてはなァ!! 柱間ァ!!」

 

 ―――柱間の腹部を貫通し、その背中から、チャクラの刃が突き抜けた。そして、勢いよくマダラが起き上がる。化け物染みた笑みを浮かべて。

 

 そして―――完全体、完成体すらも超えた、究極体(・・・)とでも言うべき巨大な須佐能乎が立ち上がる。

 立ち上がり、空へと近づいて行く須佐能乎の中、顔面を血塗れにしたマダラが、壮絶な笑みを浮かべて、細かく震えながら、歓喜を込めて、柱間の名を叫ぶ。

 

「―――仙法・木人の術」

 

 生み出され、立ち上がり、須佐能乎の至近距離にて相対するは―――木々の巨人。

 うねりを上げて柱間の周囲から展開された巨大な木々が絡み合い、一つの帯となり、そしてそれは巨大な人の形を創り上げた。

 

 そして横薙ぎに振られた須佐能乎の刀を、巨大な木々の腕が迎え撃つ。

 須佐能乎の刀は木々の腕を切り裂くが、裂かれた腕はその場でにわかに再生を始め、須佐能乎の刀を縛り上げて動きを止め―――ることは出来ず、木人の腕は無惨に切断され、その胴体を両断される。

 須佐能乎の刀はなおも止まらず振り抜かれ―――解き放たれた斬撃が凄まじい速さで空を切り裂いて飛んで行き、遠方の山を両断した。

 柱間は横目にその光景を捕え、厳めし気に眉を寄せた。両断された木人の、上半身と下半身から木々が伸び、修復を始める。

 

(今のマダラはこれほどか……)

 

 切り替え。柱間は視線を前方へと戻す。

 

 マダラは歪んだ笑みを湛えている。柱間との時を越えた戦いに、高揚しているのだろう。

 だがそれに対し、柱間の心には今、マダラに対して思うことは何もない(・・・・)。ただあるのは深い悲しみと、己に対する嫌悪感。

 

 マダラに対して抱くものがあるとすれば。

 かつて同じ夢を見て、そしてどうしようもないほどに歪み、道を違えてしまったかつての友(・・・・・)に、柱間が抱くものがあるとすれば―――それは、憐れみだけだった。

 柱間は、うちはマダラという男の本質を知っている。信心深く、情に厚い、優しい男だった。そんな男がここまで狂い果ててしまったことが、柱間にはただただ―――憐れであった。

 

 ―――だから柱間は、『もう眠れ』と、そう願わずにはいられない。

 

(……ッ)

 

 マダラは、急ぎ過ぎた。

 オレ達の代で届く必要など無かったのだと、柱間は心の内で悲痛に叫ぶ。

 

 ―――お前が(・・・)すべてを為し遂げる必要など無かったというのに。無理を通そうとして更なる『無理』を呼び、その連鎖の果てに、『今』となった。

 

 マダラは、急ぎ過ぎた。

 

 ―――大切なのは、後に続いてくれる者を育てることだったというのに。だからこそ(・・・・・)の、『里』だったというのに。

 

 だが、もはや道は違えた。それも、決定的に。

 ゆえに柱間が出来ることは―――狂い果てた友を、微睡へと(いざな)うことだけだ。

 

「―――扉間ァ!!」

 

 柱間の怒鳴り声。それは、合図であった。

 しかしその怒号が響くよりも前に、既に扉間は先を読み、既に行動を開始していた。

 

 ―――水遁・水断波。

 

 既に須佐能乎へ接近していた扉間は、須佐能乎の周囲を、浮遊する砂に乗って旋回する。その最中、鋭く圧縮された水の刃を窄めた口から放出する。扉間の放った水の刃が、マダラのいる須佐能乎頭部に直撃し、扉間の動きに合わせて、移動する。

 

「……その程度か? 扉間」

 

 マダラが嘲笑を浮かべる。

 水断波は須佐能乎頭部の表面を抉るが、貫通するには力が足りなかった。

 

 ―――しかしそれは想定済。

 

 扉間は水断波を放ちながら、マダラの周囲を旋回し続ける。

 

「無駄なことを―――。……なんだ?」

 

 ―――土遁・土砂崩れの術。

 

 上空から急降下するヒルゼンが、口からゲロゲロと大量の土の塊を吐き出した。土はマダラの須佐能乎に降り注ぎ―――扉間の吐き出す水分を吸い上げて、急速に成長を開始する。

 

「オレの視界を塞いだところで意味など無い」

 

 瞬く間に、須佐能乎の頭部は巨大な土によって覆われた。巨大な土の球体が、マダラの視界を奪う。だが、マダラは既に仙術チャクラを完璧に取り入れている。チャクラ感知など、扉間以上の正確さで行える。

 

 ―――風遁・螺旋(ガン)

 

 扉間の背後。

 大蛇丸が両手を合わせ、両指を組み、人差指だけを伸ばした状態の手をマダラへと向けた。

 その人差指の先に、風遁を纏った螺旋丸が形成される。その形態は『ティアドロップ』。薄く薄く、長く長く形成されたチャクラの弾丸は、空気抵抗を極限まで削り、貫通力に特化させたもの。

 

 ―――シュート。

 

「……ッ!」

 

 マダラが小さく苦悶の音を零した。

 大蛇丸が放ったチャクラの弾丸は、空気の壁を瞬時に貫いて、須佐能乎を覆う土の壁を突き抜けて―――瞬く間に須佐能乎を貫通する。残された弾痕に歪みはなく、その貫通力の高さを物語っている。

 

「―――いい術だ」

 

 マダラが素直な賞賛を口にする。

 螺旋銃は、マダラの胸部を貫通した。その凄まじい貫通力は、貫通した瞬間においても、マダラの身体が、マダラの意思以外では微動だにしないほどだった。

 達人に斬られた草花は、己が斬られたことを自覚せず、再び癒着すると伝承に語られるが、それに類する一撃だった。違うのは、その一撃が貫通で在り、骨肉が吹き飛んだことで、癒着できるはずが無いということである。

 須佐能乎の中で、口端から血を流しながら、しかしマダラは楽し気に笑う。

 

「無意味だがな」

 

 にわかに、マダラの傷が修復される。

 

「……頭を外したようだな」

 

「ごめんなさいねぇ。さすがに私も、あなた方ほど感知が上手なわけではありませんからね……」

 

 扉間が悪態を吐き、大蛇丸が悪びれた様子も無く詫びの言葉を告げる。

 

(……避けられたわね。必殺の一撃だったけど……。……想像以上に速い。『次』は無さそう……)

 

 大蛇丸は内心で、外したのではなく、外されたと推測する。

 ちなみに。この術、波の国で、やろうと思えばカカシ相手に使えていた。そうなればきっとカカシは瀕死の重傷を負っていただろう。

 使わなかったのは同郷の情があったとか、そういうことでは無い。なんなら『ちょっと痛い目見せたろかな』くらいには思っていた大蛇丸だが、畳間が可愛がっているカカシにそんなことをすれば『なんやこいつ。やっぱ裏切りもんやったんけ。ついでにここで殺しとこ』となるため、自重したのである。

 

 しかし火影たちの追撃はまだ終わらない。

 柱間は木人の再生が完了すると同時に、マダラの須佐能乎へと吶喊。体勢を崩された須佐能乎は後方へ仰け反った。

 柱間は更なる追撃を叩き込もうとして―――翼をはためかせ、空へと飛ぼうとする須佐能乎の動きに気づく。

 

「させぬッ!」

 

 上空へ逃げられれば、柱間に追撃の手段はない。大地での質量勝負において右に出る者はいない柱間の木遁だが、さすがに飛行能力は持ち合わせていない。

 地上から木遁を伸ばすにしても、自由に空を飛び回る須佐能乎に有効打を与えることはまず無理だと断じざるを得ない。我愛羅の砂に乗っての戦いでは、そもそも大規模な木遁は使えない。

 柱間は木人を須佐能乎の身体にしがみ付かせると、巨大な木へと木人を還し(・・)た。木人の脚は大地に根差し、須佐能乎を地に縫い付ける。

 

「猿!!」

 

「承知!! 大蛇丸、合わせよ!!」

 

 ―――水遁・大爆水衝波。

 

 ―――土遁・土砂崩れの術。

 

 ―――火遁・業火滅却。

 

 須佐能乎の周囲を旋回していた扉間が、小山程もある水の球体を生み出し、須佐能乎の翼へと叩きつけた。

 次いでヒルゼンが土砂崩れの術を同じ場所へ叩きつけ、須佐能乎の翼が膨大な泥に覆われ―――大蛇丸が放った火遁が、泥の塊を超高温で硬化させていく。

 

「―――ぬるい」

 

 凄まじい衝撃波。

 マダラの須佐能乎が、本気で身じろいだ。ただ、それだけのことで―――須佐能乎を縛らんとしていたすべての拘束が、はじけ飛ぶ。

 木人が粉砕され、柱間もまた衝撃で吹き飛ばされる。

 宙を浮く柱間は、静かにマダラの須佐能乎を見据えた。

 

「―――木人では無理か」

 

 柱間が両手を叩き合わせる。瞳を閉じて、見開いた。

 

「―――仙法 木遁・真数千手」

 

 宙を浮く柱間を攫い―――直後、巨大な千の手を背負う仏像が降誕する。

 

 真数千手の上で中腰に着地した柱間は、須佐能乎(マダラ)を鋭く見下ろして、チャクラを練り上げる。

 

 ―――頂上化物。

 

 マダラの究極体須佐能乎すら凌駕する高度から、千の手が一斉に振り下ろされる。

 

 扉間は瞬時に飛雷神の術を発動。巻き込まれる位置にいる大蛇丸と我愛羅のもとへ次々に飛び、さらに柱間の傍へと跳躍する。

 放置されたヒルゼンは穢土転生なので問題ないという判断である。

 

 ―――マダラが、口端を吊り上げた。

 

「―――威装・須佐能乎。仙法―――木遁・真数千手」

 

「―――な」

 

 柱間の驚愕。

 柱間の目の前に現れたのは、もう一つの真数千手。そしてその真数千手は―――須佐能乎を、纏った。

 

 千の手が、千の手を迎え撃つ。

 一方が背負うは、千の同胞の意志。

 一方が背負うは―――千の呪い。

 

 柱間の真数千手は生前に匹敵するか、あるいは祖のチャクラによって生前を凌駕するだけの破壊力と強度を有していた。

 しかし、その条件はマダラもまた同じ。そしてマダラには、『究極体・須佐能乎』があり、そしてその須佐能乎は、単体で真数千手に匹敵しかねない代物である。

 

 ―――大地を破壊する轟音が鳴り響く。

 

「……ッ」

 

 柱間が僅かに息を呑む。

 柱間の真数千手は、須佐能乎を纏ったマダラの真数千手を、破壊できない。穢土転生がゆえに使用できる無限のチャクラによって、柱間は真数千手の腕が破壊されるたびに再装填をし、間髪入れぬ連撃を繰り出している。だが、須佐能乎を纏ったマダラの真数千手を突破することが出来ない。

 

「……まさか。これほどとは……」

 

 二つの真数千手が繰り広げる拳の激突、撃ち落とし合いを、扉間は表情に驚愕を滲ませながら、柱間の隣で見つめている。

 千手柱間の真数千手は、未だかつて破られたことの無い、正真正銘の切り札である。それを真正面から拮抗、あるいは打ち破らんとする術があることは、さすがの扉間にも想定外の事態であった。

 

(……穢土転生である兄者に、スタミナ切れはない。このまま限界までマダラを消耗させ―――疲弊したマダラを、瞬身で討つ。―――そのためにはやはり、飛雷神のマーキングを……)

 

 マダラを攻撃するために動き出そうと、扉間は身を屈めた。そして、傍らに立つ大蛇丸へ、指示を出す。

 

「大蛇丸。猿を口寄せしろ」

 

「なるほど……」

 

 大蛇丸は言われた通り、ヒルゼンを口寄せした。真数千手に巻き込まれ、バラバラになったヒルゼンの身体が現れる。しかしヒルゼンは穢土転生体であり、にわかに塵が集まり始め、元の人型へとその体を再構築させていく。

 扉間は影分身を二体作り出した。作り出された影分身は、それぞれ我愛羅、大蛇丸の体に触れる。そして扉間本人は再生を終えたヒルゼンの身体に触れ―――真数千手から少し離れたマーキングのある場所へと飛ぶ。

 

「猿。ワシと貴様で、マダラの気を引く。我愛羅と大蛇丸は上空へ退避せよ」

 

「……」 

 

 頷いたヒルゼンと大蛇丸に対し、我愛羅は少しばかり悩んでいる様子である。

 先ほどから、まともに戦いに加われていないことを、気に病んでいるのだろう。

 扉間は自身の操る砂の上に飛び乗ると、我愛羅を見下ろして、言った。

 

「我愛羅。この戦い、機動力を担う貴様が要よ。貴様の死は、我らの敗北に直結する。貴様が生きていること(・・・・・・・)が、重要なのだ」

 

 そして少しだけ穏やかな口調で、続ける。

 

「砂隠れの『五代目風影』よ。貴様の父を誇れ。……砂隠れは、我らに最も必要なものを遺した」

 

 我愛羅がはっと顔を上げ、目を大きく開いて、扉間を見た。

 扉間は優しく口端を緩ませて、我愛羅を見つめている。

 ゆっくりと、我愛羅の顔が歪み―――その目尻に涙が滲む。そして、我愛羅は力強く頷いた。

 そんな二人のやり取りを、白けた様子で見ているのが、大蛇丸である。

 

「私はこの子のお守、という訳ですか」

 

 わざわざ我愛羅を苦しませるような軽口を宣った大蛇丸に、扉間は鋭く視線を向ける。 

 

「そうだ。必要に迫られたなら、我愛羅を守り死ね」

 

「こんなのばっかねぇ……。まあ、しょうがないけど」

 

 大蛇丸は苦笑する。

 穢土転生を成功させた以上、もう大蛇丸の役割は終わっている。術者が死んだところで、穢土転生は止まらないからだ。だからこそ、空を自由自在に飛び回り、自分以外の人間を移動させることが出来る我愛羅の方が、命の価値は高い。影という立場、これからの時代を担う若き風という意味でもだ。

 

 四人は扉間とヒルゼン、我愛羅と大蛇丸と別れ、空へと飛びあがる。

 

 ヒルゼンと扉間は真数千手を大きく外回りし、マダラの側面へと移動する。

 巨大な腕が振り回されている以上、至近距離には近づけない。二人は支援の機を伺いつつ、細かく大規模な術を放つ。それがマダラの気を逸らす、あるいはウザがらせる以上の効果が無いことを分かっていても、今はそれくらいしか出来ることが無かった。

 

 二代目火影。三代目火影。共に、当時の木ノ葉隠れの里において、最強を冠した忍者である。それでも―――マダラと柱間の戦いは次元が違い過ぎた。

 

 水断波すら寄せ付けない須佐能乎の絶対防御。あらゆる拘束を容易く振りほどく剛力。空を自由に飛び回る機動力。もしも―――マダラが柱間との真っ向勝負に拘っていなければ、恐らくマダラは最初から空を飛び、上空から真数千手による拳の流星を放ち、すべてを塵芥に変えることが出来ただろうし、今もその気になれば出来るはずだ。

 そうなれば、扉間とヒルゼンに対抗手段は存在しない。

 

「……」

 

 水遁、火遁―――ヒルゼンと扉間は有効打を探し、術を放ち続ける。

 そんな扉間の脳裏に、嫌な考えが過った。

 

「鬱陶しいな」

 

 一方、柱間とのラッシュ勝負を楽しんでいたマダラは、ちまちまと周囲を飛び回る『蠅』に鬱憤を募らせていた。

 

 ―――楽しみを邪魔する蠅は、早めに排除するに限る。

 

「―――輪墓・辺獄」

 

 マダラの輪廻写輪眼にチャクラが籠る。

 輪墓の世界に、マダラの身体から分身が出現した。マダラの思考とリンクする分身達は、速やかにその場から飛び立った。

 輪墓の世界がゆえに、マダラの真数千手をすり抜けて、輪墓内の分身達は扉間とヒルゼンのもとへと向かう。

 近づいて来る脅威に、扉間とヒルゼンは気づけない。

 

「―――扉間!! 猿飛!! 何故動かん!? まさか、見えておらんのか……ッ!? マズい……ッ!! 扉間!! マダラから出た何かがそちらへ向かっておるぞ!! ―――扉間!!」

 

 唯一異変に気づいた柱間は、しかしマダラの真数千手と打ち合いの最中。動くことなど出来るはずもない。

 せめてと、柱間は大声で二人へ向けて声を飛ばすが、この轟音の中、当然届くはずもない。

 柱間は自身の真数千手が放つ拳の流星の軌道を一部変え、扉間たちの方向へ向かう『なにか』を叩き潰そうとする。

 

 ―――よそ見をするな。オレを見ろ。

 

 しかし、マダラがそれを妨害する。

 マダラはそれに意味はないと知っていても、敢えてその行動を取ることを選んだ。輪墓の中にいる分身に、こちらの世界から攻撃を当てる方法は存在しないからだ。

 しかし、柱間の気が逸れたことで、このままマダラが攻撃を続ければ、拮抗していた真数千手同士の激突のバランスが崩れる。そんなつまらない決着は不要。

 実際には、柱間の攻撃は『当たる』。マダラの余興へのこだわりが、利になった瞬間であった。

 

 そして―――。

 

「な―――ッ!!」

 

「二代目様!! ―――ガッ!?」

 

 突如として扉間を凄まじい衝撃が襲い、吹き飛ばされる。

 その隣で浮遊していたヒルゼンは扉間の方へと視線を向け、同時に周囲の気配を探るが、なにも感じ取れぬまま、凄まじい衝撃に襲われ、扉間とは別の方向へ吹き飛ばされた。

 

 扉間は吹き飛ばされる最中、飛雷神の術でヒルゼンのもとへ飛ぶと、ヒルゼンを抱えて再び柱間の傍へと跳躍する。

 

「扉間!」

 

「何が起きた、猿」

 

「分かりませぬ」

 

 砕け散った鎧に塵が集まり修復されていく中、扉間は冷静に思考を巡らせる。

 そんな扉間に、柱間が言う。

 

「マダラから何か……見えない分身のようなものが現れたのを感じた」

 

 なに?、と扉間が呟く。

 

「……見えぬ分身? ……輪廻眼の固有瞳術か。今しがた、兄者の真数千手の軌道が一部変わったのはそれが理由か?」

 

「そうだ」

 

「何故、兄者にはそれ(・・)を感知できる?」

 

「分からん……」

 

「……兄者。先ほどから気になっていたが……その額はなんだ」

 

 扉間は柱間の額へと視線を向ける。

 いつの間にか柱間の額に生えていた、『白い角』である。

 何が起きているのか理解に苦しむ。やはり兄者は人外だったかと冗談を内心で考えもする。

 が、柱間は昔から規格外な存在なので、扉間はそれについては考えることを止めることにした。

 重要なのは、穢土転生の身でありながら柱間の力が生前を凌駕しており、そうなったのは、この角が生えてからである、という事実である。

 

「……兄者。兄者のチャクラを寄越せ。それで―――」

 

 ワシにも見えるようになるかもしれん。

 そう続けようとした扉間の目の前に、突如として何か―――時空の歪み、とでも言うべき黒い裂け目が現れた。

 

「―――扉間!」

 

 柱間が叫ぶ。

 同時に、柱間は木遁分身を生み出した。

 生み出された木遁分身は、その『歪み』から現れた『何か』へと攻撃を仕掛ける。

 

 柱間の木遁が砕け散って初めて、扉間とヒルゼンは目の前に『何か』が現れたことに気づく。

 一方で、マダラは輪墓の分身に柱間の分身が触れたことに驚き、さすが柱間だと一人感嘆している。

 

「飛べ、扉間!!」

 

 扉間はヒルゼンを回収する間もなく柱間の叫びに従ってその場から跳躍し―――飛んだ先に、再び黒い(ゆがみ)が現れたことで、扉間は初めて冷や汗を流した。

 眼に見えぬ敵。感知できぬ影。こちらからは対抗手段がまるでなく、マダラは一方的に攻撃が出来る。一度、この目の前の歪みから『何か』が現れた以上、再び見えぬ触れぬ『何か』が現れると考えざるを得ず―――扉間は飛雷神の術を強いられる。

 

 そして扉間は再び別の場所へと飛雷神の術で飛び―――また再び、目の前に黒い時空の歪みが現れる。再び扉間は別の場所へと飛ばざるを得なくなり、そしてその先でもまた、時空の歪みが現れた。

 

「―――これで、扉間の邪魔はない」

 

 須佐能乎の上で、マダラは楽し気に笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「これほどとは……」

 

「なんだよ、アレ……」

 

「はは……。……幻術か?」

 

 柱間一行とマダラの戦いが始まって半日ほどが経った頃。

 マダラが限定月読より解放されるより一足先に合流していた忍び連合は、雷の国で起きた『異変』―――須佐能乎と真数千手の出現―――の連絡を受け、マダラ復活を知り、その場所へと急行していた。

 

 真数千手の出現。

 その報告を受けた者達の中には、当然、ある希望が芽生えた。

 お兄様。五代目。火影様。火影。

 

 千手畳間の復活である。

 千手畳間が何らかの方法―――穢土転生など―――で復活を果たし、マダラを倒すために戦っているのではないか、という考えだ。

 逸る気持ちを抑え、しかしその足は素早く、連合の忍者達は進んでいた。

 特に綱手の焦り、期待は透けて見え、自来也から指摘を受けるほどだった。

 当然だろう。奇跡を、願ったのだ。甥を助けてくれと、神に願ったのだ。その矢先の、真数千手の出現に、期待するなと言う方が、無理な話だ。

 

 そして―――彼らは激突する二つの真数千手を目の当たりにする。

 

「これは……何が起きとるんじゃ……」

 

 オオノキが言った。

 呆然と、人間の戦いとは思えない光景を見つめる。人の入り込む余地のない、まさに神の領域の戦い。山を遥かに上回る高さの建造物が、その巨大な千の手を縦横無尽に振り回し、互いを削り合っているのだ。

 離れていてなお感じる衝撃と轟音。最初は違和感から―――近づくにつれて徐々に大きくなっていくそれらに不安と恐怖を覚えつつ進んでいた軍勢は、それを目の当たりにしたことで、進むべき足を止めた。

 ざわめく軍勢を、上空から見つめる影が一つ。

 その影は徐々に高度を下げ、先頭に立つカカシの前に降り立った。

 

「―――カカシさん」

 

「お前、我愛羅か!?」

 

「風影の息子か! 生きていたとは!!」

 

 四代目雷影・エーが驚嘆に叫ぶ。

 

「我愛羅。何が起きとる?」

 

 近くにいた自来也が我愛羅へと問いかける。

 我愛羅は頷くと、口を開いた。

 

「だが、一つだけ教えて欲しい。ナルトは……無事なのか?」

 

「ナルトは無事だ。今は後方支援(・・・・)をしとる」

 

「……。そうか。それだけ聞ければ、充分だ。……良かった」

 

 我愛羅は柔らかく笑った。ほっと、安堵の息が零れる。

 そして、我愛羅は事情の説明を始める。

 己が一度殺されたこと。その後四代目風影達の尽力で生き返り、木ノ葉へ向かい、途中で大蛇丸との戦いを経て―――操られていた三代目火影を解放したこと。木ノ葉が壊滅していることを知ったこと。そして三代目火影と共に、穢土転生を行ったこと。

 

「シスイは? 千手止水は、どうしている!?」

 

 綱手が叫んだ。

 我愛羅は目を伏せて、首を振った。

 

分からない(・・・・・)。一緒にいるのでは、ないのか?」

 

 我愛羅は、シスイについて、敢えて知らぬふりをした。

 綱手がシスイを可愛がっていることは、幼少期を木ノ葉で過ごした我愛羅も知っている。

 今、あえて教える必要はないと判断したのだ。

 

「……そうか」

 

 綱手が不安げに俯く。

 その横で、カカシが思案気に呟く。

 

「しかし、歴代の火影様が……」

 

「ではあの真数千手は、柱間殿のものか?」

 

 オオノキが我愛羅に訊ねた。

 

「片方は、そうだ」

 

「ではもう片方は!? 真数千手を扱えるのは、お兄様とお爺様だけ! 何故、二つの真数千手が戦っている!?」

 

 我愛羅の返答に納得の出来ない綱手が訊ねる。

 カカシもまた、我愛羅に視線を向ける。片方が千手柱間の真数千手であり、もう片方と戦っている以上、もう一つの真数千手の使い手が千手畳間である可能性は無いに等しい。だが、カカシにとって、真数千手とは、千手畳間の代名詞である。在りえない希望を、僅かにでも抱いてしまうのだ。

 そしてそんな希望を、我愛羅は知らず切り捨てる。

 

「片方はうちはマダラだ。マダラは初代火影の細胞を取り込み、木遁を使えるようになったようだ」

 

「お爺様の細胞を……。ではやはりお兄様は……。……」

 

 綱手は哀し気に俯いた。

 しかしすぐに顔を上げ、力強く我愛羅へと視線を向ける。覚悟は終えていた。今更、立ち止まる時間など無い。

 綱手が我愛羅へと問いかける。

 

「我愛羅。我らは、何をすれば良い。ここにいる者の中で、一番情報を持っているのは、お前だ。お前の意見を聞きたい」

 

「……正直、オレにも分からない。二代目火影とも、三代目火影とも分断され……しばらく経つ。オレは……二代目火影より、死ぬなと厳命されている。あの場所へは近づけない」

 

 我愛羅は真数千手へと視線を向ける。

 扉間に厳命されたがゆえに、我愛羅は離れた場所で、戦いを見守ることしか出来なかった。

 

「だからこそ、近づいて来るお前たちに気づけたが……」

 

「―――分からないって、どうすんだよ。そもそも……あんなの、オレ達にはどうしようもないだろ」 

 

 連合の忍者の、誰かが言った。

 投げやりな、力のない声だった。

 真数千手の激突は、かつて『木ノ葉隠れの決戦』に参加した者達の心を折り、また当時は戦争に参加しなかった若い世代の心すら、打ち砕いてしまった。

 

 あんな化け物同士の戦いに、自分たちが入り込んで、何が出来ると言うのか。

 台風に巻き込まれた蟻のように、為すすべなく消し飛ばされるだけだ。

 

「そもそも……マダラは木ノ葉の抜け忍だろ? 木ノ葉の奴らで、やればいいじゃねーか……」

 

 再び、誰のものかも分からない声が響いた。

 しかしそれは、直接的な被害を受けていない雲隠れ、岩隠れの忍者達の本心でもあった。

 

 木ノ葉隠れの忍者達は、既に覚悟を決めている。暁に煮え湯を飲まされ続けて来た、霧隠れの者も同じだ。

 例えどのような絶望的な状況でも。己の力のすべてを捧げ、マダラを討つ。あれほどの戦いであっても、何か力になれることがあるかもしれない。かつて九尾を皆の力で退けた様に、かつて四大国の連合を、皆の力で退けたときの様に、些細な力であっても、何か、何か、役に立てるかもしれない。

 

 だが一方で、岩隠れと雲隠れの里の者達は、頭では危機を悟っても、心が付いて来ていない。実際に被害を受けたわけでは無いのだ。命懸けで戦う理由が、彼らには無かった。

 

 痛みを知る木ノ葉と霧に対し、岩と雲は痛みを知らないまま。

 知る者と、知らない者。

 二つの間にある溝は、あまりに大きく―――この土壇場で、浮き彫りとなった。

 

「―――何を言っとんじゃぜ!!」

 

 オオノキの怒声が響いた。

 オオノキは鋭い視線を、岩隠れの里の集団へと向ける。

 

「我ら岩隠れは、かつて木ノ葉を裏切り、攻め込んだ! だというのに、五代目火影は大戦で敗北した我らを赦し、友と呼んだんじゃぜ! 今、ここで再び木ノ葉()を見捨てて、我らの『石』が輝くか!!」

 

 オオノキはそう叫び、皆に背を向けた。

 

「儂はもう、己を捨てることはせん。……逃げたい者は、逃げよ。これより……ただのオオノキとして……儂は『己』の道を行く」

 

 岩隠れの者達が互いに顔を見詰め合う。戸惑いが多い。無理もない。あまりに青臭い(・・・)言葉だ。老いさらばえた老人が口にするような言葉ではない。だからこそ―――その『石』の輝きは、伝播する。

 

「……ありがとうございます」

 

 カカシがオオノキにだけ聞こえるように、小さく言った。

 

「気にせんでいい。マダラは危険じゃ。放置すれば、岩隠れも無事ではすまん」

 

 オオノキが嘯いた。カカシは苦笑し、小さく頭を下げる。

 

「爺一人に行かせられるかっての」

 

 近寄って来た黒ツチが言った。

 

「でもさ、どうすんだ? 実際、アレ(・・)の間に入るのは自殺行為だろ」

 

「む……」

 

 正論であった。オオノキが困ったように眉を寄せる。

 悩むオオノキ達から少し離れて、『四代目雷影』エーが険しい表情を浮かべている。

 

「ブラザー」

 

 エーの傍に立つビーが、エーに声を掛ける。雲隠れはどうするつもりか、ということを尋ねたいのだろう。

 エーはそっぽを向いて、口を開く。

 

「ふん。我ら雲隠れに臆病者はおらん。それに、だ。マダラが人柱力を狙う以上、いずれ戦うことになる。ならば、戦力は多いに越したことは……」

 

 そこまで言って、雷影は何かに気づいたかの様に、周囲を見渡した。

 

「おい、ビー。ユギトは―――」

 

「―――オレに考えがある」 

 

 雷影とビーの会話が、我愛羅の言葉によって遮られる。

 

「二代目火影と合流したい。……二代目火影は今、何かから逃げるように、飛び(・・)続けている。彼の身に、何かが起きているんだ。きっと、救援を必要としている」

 

「何故、二代目様はお主の傍に現れんのだ? マーキングはされているという話だがのォ」

 

 自来也が訝し気に尋ねる。

 我愛羅は、自分が移動の要の役割を持つがゆえに、二代目火影が我愛羅を危険に晒したくないと考えていることを伝えた。だからこそ、我愛羅のもとに現れないのではないか、という推測である。

 

「―――半分は正解だ」

 

「え!?」

 

 突如として我愛羅の目の前に、扉間が現れた。

 これに仰天して声を漏らしたのが我愛羅である。

 我愛羅と扉間はチャクラで繋がっている。扉間が劣勢に追い込まれていることはチャクラを通じて分かっていた。

 我愛羅は、扉間が我愛羅につけたマーキングを避難地に選ばないのは、我愛羅が先ほど述べた様に、敵まで連れて来てしまうことを危惧してのことだろうと考えていた。そしてそれを述べた矢先に、扉間が現れたのである。驚かない方が無理だった。

 扉間は、遠方から近づいて来る膨大な数のチャクラに気づいていたのである。そしてその中に、よく知ったチャクラ―――すなわち、大姪である綱手のチャクラがあることにも気づいていた。

 ゆえに扉間は、この膨大な数のチャクラが、恐らくはマダラを倒すために集った者達であることにも感づき、到着を待っていたのである。そして我愛羅と連合が接触したことで、影分身を送りこんで来たのだ。

 

「―――影分身、ですね。二代目火影様」

 

「その通りだが……。貴様は……うちはの者か」

 

「うちはイタチです」

 

 現れた扉間を、永遠の万華鏡写輪眼で見つめていたイタチが、会釈しながら、静かに名乗る。

 扉間は自身が影分身であることを見抜いたイタチに、警戒の視線を向けた。

 

「あの、二代目様。イタチはいい子で……」

 

 綱手がイタチと扉間の間に割って入った。

 綱手は、扉間がうちはを警戒していたことを知っている。しかも、イタチは永遠の万華鏡写輪眼の保有者なのだ。扉間的警戒度はマックスであろう。

 

「……」

 

「……」

 

 扉間とイタチが見つめ合う様を、他の者達は固唾を呑んで見つめている。

 この場にいる最年長であるオオノキすら、扉間よりも世代は若い。千手扉間は、まさに伝説に語られる忍びである。扉間を直に知っているのは、この場には数えるほどしかいない。

 そんな忍びの露骨な警戒心を目の前で見せつけられては、動ける者は少ないだろう。木ノ葉の最年長組である自来也でさえ、扉間とは直接話したことは無い、雲の上の人物だ。

 そして身内である綱手の、扉間に対する認識は、ことあるごとに兄に修業を付ける(を虐待する)怖い大叔父である。

 

「オレは……」

 

 気まずい沈黙の中、イタチが口火を開く。

 

「五代目様の師であるうちはカガミを、うちはの英雄だと考え、尊敬しています」

 

「……ふ。貴様はマダラより頭が切れるようだな」

 

 扉間がにやりと笑い、イタチは再び会釈した。

 たった一言で扉間から笑みを引きずり出したイタチに、綱手は尊敬の念を抱いた。

 

「おい」

 

 扉間が言った。

 

「ここに山中一族の者はいるか」

 

「えと……。はい。私がそうですけど……」

 

 恐る恐る、おっかなびっくり、とでもいった様子で歩み出て来たのはいのであった。

 扉間はいのの顔を見て、面影(・・)を感じ、僅かに目を細める。

 いのは、人の顔を見た途端、更に強面になった扉間を見て、怯えた様に息を呑んだ。眼が黒く体中がひび割れているので、恐ろしさも倍増であった。

 

「……そう怯えんでいい」

 

 呆れた様に表情を緩めた扉間は、しかしすぐに表情を引き締めて、我愛羅へと視線を向ける。

 

「我愛羅。この者とチャクラを繋げ。貴様を経由し、儂の本体から山中の者に情報を渡す」

 

 我愛羅にそう告げた扉間は、次いで我愛羅から視線を切り、いのへと視線を向ける。

 

「貴様は―――綱手でなくても良い。この軍勢の指揮官へ、儂からの情報をそのまま(山中の秘術で)伝えよ。そして貴様たちの持つ情報を、儂に渡せ。情報を擦り合わせたのち―――策を練る」

 

 それだけ言って、扉間の影分身が消滅する。

 

 ―――うわ、すっげえ頼もしいなこの人。

 

 扉間は、どうすべきか悩んでいた連合に、一瞬で『答え』を叩きつけて見せた。

 この場にいるほとんどの者の心が一つになった瞬間であった。 

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