綱手の兄貴は転生者   作:ポルポル

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①から読んでください。連続更新です
なお作者は夜勤なので予約投稿。
感想はどれだけ頂けても嬉しいものですし、いただいた感想には頑張って返信します。
たくさん感想もらえて捗りました。ありがとう。
感想を返す、仕事もするどっちも―――(ry。



『伝説』を越えるとき③

「アレは……三尾……?」

 

「なに?」

 

 人柱力を主軸に、マダラの木分身二体と交戦を続けていた連合は―――ついに、分身の排除に成功していた。

 尾獣のチャクラ量は、尾の数に比例する。

 比較的余裕のある八尾―――それでもかなりのチャクラを最初の一撃で持っていかれたが―――を主軸に連合達は残る分身達へ戦いを挑み、その間、尾獣たちはチャクラ回復を優先した。

 マダラの分身達は、分身の身でありながら、かつてのマダラに匹敵するほどの、化け物染みた強さを誇った。

 死ななければ綱手が治す―――それでも、マダラの攻撃によって即死する者は少なくない。カツユ越しの繋がりが絶たれるたびに、綱手の心の中には激しい痛みが走った。

 綱手自身、百毫の術を解放し、前線に参加。その不死身とも思える再生力を存分に発揮し、五代目火影代行としての役割を果たす。

 

 それでも、ガイを温存し秘匿するという作戦上、戦力が欠けることは否めない。

 劣勢に追い込まれた連合に合流したのは―――『三代目火影』猿飛ヒルゼン。

 

 穢土転生がゆえに己の損傷を省みなくともよい上に、強大な力を持つヒルゼンの参戦により、尾獣たちがチャクラの回復を達成するための時間を稼ぎ切ることが叶い―――再び放たれた尾獣玉により、マダラの分身達は消滅した。

 

 逆を言えば、尾獣の放つ尾獣玉が無ければ分身一体満足に消し去ることが出来ないほどの力の差が横たわることを理解させられたわけだが―――それは却って、人々の尾獣への感謝、尊敬を強めることになった。

 人柱力や、尾獣は、どこか胸を張っているように見える。

 

 そんな中、突如として現れた化け物に、尾獣が僅かに怯え、あるいは焦りを見せた。

 そしてそれは伝播する。アレ(・・)が見た目通りの化け物だということを、人々は尾獣たちの反応を見て理解する。

 そして、あの巨大な化物の顔の前に、最初は巨大な猫、次に巨大な亀が放り出されるように現れた。その二体は落下することなく、あの巨大な化物―――外道魔像の口の中へ、吸い込まれていく。

 

 それを見たカカシは、訝し気に呟き、隣で大きく肩で息をしている綱手が、反応する。

 

 ふー、ふー、と繰り返し息をして呼吸を整えている綱手の、その腕に負った火傷と裂傷がみるみるうちに修復されていく。

 やがて完治した腕の感覚を確かめるために軽く数度振りながら、綱手がカカシへと近づいて行く。

 綱手が顔についた誰のとも分からぬ血を、腕で豪快に拭う。揺れるべきところが、柔らかそうに揺れる。

 

 ―――綱手の衣服が破れている。綱手の乳房が零れ落ちそうであるッ。

 

「あの、綱手様。前を……」

 

「何だカカシ。童●でもあるまいし」

 

 呆れた様に目を細めた綱手は、戦闘の中でボロボロになっていた己の外套の裾を脱いで縦に破り、長い布として胸部へと巻き付けた。ぎゅ、と結ばれた布によって、乳房が押しつぶされる。

 

「……」

 

「なんだ」

 

「いえ、オレは別にどちらでも構わないのですが。ここには若い男も多いので」

 

「何を言ってる。アンタも十分若いでしょう。年寄りのマネは、10年早い」

 

 腕の調子を確かめるようにぐるぐると回す綱手。久方ぶりの戦闘である。体の鈍りを感じ、まだ続く戦闘に備えて解しているのだろう。

 

 ―――揺れる揺れる。

 

「あの、わざとやってます?」

 

「なにが?」

 

 ド天然である。 

 さすがこの年まで独身を貫く女だ。うら若き男への配慮が無い。

 

 とはいえ、綱手の存在が起爆剤になっていることも否めない。

 戦場に女がいると、男は英雄願望が爆発し無謀な行動を取る傾向があるとされている。

 しかし、マダラという恐怖に竦んでも仕方がない強大な悪を相手にするには、それくらいの奮起が必要だろう。綱手ほどの美女(なお五十代)はそうはいない。そんな美女が共に戦っているというのは、奮い立つ理由の一つにはなる―――はずだ。

 男だけではない。くノ一も、綱手という長い間前線で命を張って来た数少ないくノ一の雄姿に奮起している。

 男に媚びないその勝気な姿勢も、メイ達若い(・・)世代からは好評である。

 

「それより、カカシ。今のが三尾とは、本当か?」

 

「ええ。霧隠れで見た姿と同じでした。もう一方の、猫の方は……」

 

「遠かったが……恐らく雲隠れの二尾で間違いない。昔、戦場で見たことがある」

 

「尾獣が二体吸い込まれた……」

 

 カカシが思案する。

 綱手が低い声で言った。

 

「カカシ、問題は……そっちじゃない(・・・・・・・)

 

「分かってます。二代目様と合流するために発った水影殿に封じられた三尾が、あの場にいたということは―――」

 

「イタチ達は……失敗した、ということだ。……自来也。アンタ……」

 

 小さく呟くように言った綱手の言葉が、カカシの肩に重く圧し掛かる。

 言った綱手自身も、その事の重大さにそれ以上の言葉が無いようである。

 

(いの。二代目様からの連絡は?)

 

(ありません……)

 

 そして、二代目火影からの通信も途切れた。

 綱手とカカシの話を、山中の秘術で聞いていたいのの言葉は弱弱しく震えている。

 

「どうする……」 

 

(考えろ……。どうすればこの状況を打破できる……ッ? 分身との戦いで連合のみんなは既に満身創痍だ。輪墓へ向かった精鋭部隊との交信は途絶え……こちらの戦力は初代様と三代目様、人柱力の方たちと……切り札のガイのみ。ガイを除いた戦力で対応できるのは、マダラか、あの化け物のどちらか一方が限界だ。こうなっては、やはりガイを……。だが、マダラにガイの存在を知られては、あるいは対策を……。しかし状況がそれを許さない。もはや隠し通すのは―――)

 

 ―――輪墓・辺獄。

 

 突如、何の予兆も無く、尾獣達の体が空中へと跳ね上がった。攻撃を受けたのだ。

 苦悶の声が尾獣たちの数だけ空に響き、倒れ伏した巨体が地響きを轟かせる。

 

「何が起きた!?」

 

「恐らくマダラの攻撃です!! 輪墓の中から……ッ!」

 

 綱手の動揺に、カカシが切羽詰まった様子で声を絞り出す。

 綱手は悲痛に表情を歪めた。

 

「ではやはりイタチ達は―――ッ! 急げカカシ! 彼らを守―――」

 

 でも、どうやって? 

 輪墓からの攻撃が行われたということは、輪墓を攻略する唯一の手段を持つイタチ達がやられたということに他ならないというのに。

 カカシ達が尾獣の支援に向かって、何ができる?

 

 尾獣玉の発射砲台としての役割を持っていた彼らは、本体から少し離れた場所にいる。到着まで時間が掛かってしまう。間に合うはずもない。

 それでも、動かないよりは―――。

 

「―――いいのか? ここを離れてしまって」

 

「な―――」

 

 駆け出そうとした綱手と、一足早く動き始めていたカカシは、耳に届いた愉悦を含む声に立ち止まり、振り向いた。

 そこには―――うねる木々の上に乗る、うちはマダラの姿。マダラの乗るその木々には、大きく鮮やかな花が咲いていた。

 綱手はそれを見て、驚愕と―――どうしようもない絶望に、声を震わせた。

 

「花樹界……」

 

「アレは五代目の……。皆、花粉を吸うな! 毒にやられる!!」

 

 いのを経由して全軍に伝えた情報が、果たして何の役に立つだろう。

 花粉ほどの粒子を吸うなとは、息を吸うなと同じ意味を持つ。防毒マスクで、果たしてどこまで防ぎ切れるものか。

 

 そしてカカシは―――遠方で、化け物から延びたチャクラの縄に絡め取られ、次々に吸い寄せられていく尾獣たちの姿を目の当たりにする。

 

「ああ……ッ!! やめろ、マダラァ!!」

 

 怒り、絶望、恐怖―――声を震わせて叫ぶカカシを、楽し気に見下ろすマダラが、手を振り上げた。

 波打つ木々が立ち上がり、花弁が開く。膨大な量の花粉が噴き出され―――連合の者達の頭上から降り注いだ。

 連合の火遁使いは、合わせた炎で消し飛ばさんとするが、あまりに巨大な質量を前に、木々の最上部に位置する花々にまで、炎がまるで届かない。三代目火影は空飛ぶ砂の絨毯に乗り、一人花の焼却をしているが、次々に咲き誇る花を前には、焼け石に水だ。毒が周囲に満ちることを阻止するには、火力が足りない。

 

 花粉の毒を吸い込み、次々に倒れていく連合の仲間たち。動けなくなった者達は、自分たちの繰り出した火遁の火が周囲の幹を燃やし、勢いを増した炎の中、やがて苦しみ抜いて息絶えるだろう。

 

(どうすれば良い!? どうすれば―――ッ!!)

 

 動かなくなっていく体、鈍る思考。カカシは必死に考えを巡らせるが、瞬く間に体から自由が奪われて、膝をつく。

 腕を地面について、必死に体を支えるが―――その腕も、震えて安定しない。立ち上がることは出来ない。

 

(諦めるな。考えろ。考えろ―――)

 

 神威で消すか―――無理だ。規模がでかすぎる。消せて花の一つや二つ。意味が無い。

 水遁で押し流す―――周囲一帯に降り注ぐ花粉を押し流すには、チャクラが足りない。出来てその場しのぎ。根本の花と、花を咲かせる木々を何とかしなければ、意味が無い。

 雷遁と土遁では、相性が悪すぎる。

 

(―――せめて)

 

 カカシがチャクラを練り上げる。

 切り札の飛雷神の術を使うつもりだ。この場から一人退却することに対して、あまりに重い自責の念を抱く。

 だが、諸共滅び去るよりも、一人だけでも生き延びて、再起を―――図れると思うか? 

 マダラを相手に、たった一人生き残って。今以上の戦力を再び用意し、決起できるか?

 

 ―――意味があるのか?

 

 ちちち、とカカシの脚に雷が宿る。呼吸を止める。

 ぐわんぐわんと揺れる脳を雷によって奮い立た(狂わ)せ、一時的に毒を無視する。

 今、目の前にいるマダラは本体か? 分身か?

 分からない。だが、奴を消さなければ、この花樹界降臨は終わらない。

 

 ―――狙うは心臓。最大最速の一撃を以て、マダラの命を穿ち抜く。玉砕覚悟。木ノ葉の白い牙の、究極の一撃。

 

「……」

 

 カカシがチャクラを練り始めたのを見下ろして、マダラは静かに目を細める。組んでいた腕を解き、須佐能乎を纏う。

 

 ―――興味深い。面白そうだ。それに、親友の子であるお前を殺せば、考えを改めるかもしれない。その後は―――あの小娘(アカリ)だ。

 

 ―――ただ一振りの、牙として。

 

 雷鳴が轟く。

 

 地上から、斜線。真っすぐに、電光石火が迸る。

 

「―――」

 

 マダラの体を貫き、カカシは天を突き抜けた。

 花の動きが止まった。花粉の噴出は終わったようだ。直に、皆も動けるようになるだろう。

 そして、カカシは天空にて振り返り、マダラの体の変化(・・)を目の当たりにして―――絶望に顔を歪めた。

 マダラの体は樹木へと変貌し、その体から伸びた角材のようなものが、滞空するカカシの脚を掴み取る。

 

(飛雷神の術を……)

 

 チャクラが練れない。

 花の動きが再び始まった。

 見れば―――樹へと還ったマダラの隣に、新たなマダラが現れている。

 

(こんなもの……ッ。どうしろというんだ……ッ。こんなもの(・・・・・)を……ッ!!)

 

 そして、足を縛られたカカシは天空にて振り回されて、大地へと叩きつけられる。

 木の幹が粉砕され、大地が割れるほどの衝撃。カカシはマスクの下で血反吐を吐いて、目を裏返した。しかし痺れた体ゆえに、何の受け身も対応も出来ず、再び持ち上げられた体に感じる浮遊感に不快さを抱きながら、再度体を襲った衝撃と痛みを、甘んじて受ける他に無かった。

 

「カカシ!!」

 

 砂の足場に乗るヒルゼンが、カカシの救出のために急降下を開始する。

 だが蠢く木々がヒルゼンに次々に襲い掛かり、その進行を阻む。ヒルゼンは金剛如意を振り回し、木々を次々に粉砕しながら突き進む。

 

 しかし―――確かに、穢土転生であるヒルゼンに毒は聞かない。だが、その得物(・・)である猿魔は―――変化しているだけの、生き物だ。

 遂に花粉の毒に耐えきれなくなった猿魔の変化が解かれ、口寄せが解除される。得物を失ったヒルゼンは巻物を広げ、新たな武器を呼び出そうとして―――開いた花弁から無数に吐き出された挿し木によって、その体を次々に串刺しにされながら、来た道を押し戻されていく。

 

「―――ぐッ」

 

 痛みは感じない。だがその心は焦燥する。

 そして、背後から鞭のようにしなり叩きつけられた巨大な木によって、ヒルゼンは地面に激突し、埋め込まれた。その上部から長く細く鋭い鋭利な木の杭が、ヒルゼンを押しつぶす巨木に突き刺さり、巨木ごとヒルゼンを縫い付けた。

  

 綱手を始めとして、倒れ伏す連合の者達。

 脚を縛られた状態で空高く持ち上げられ、マダラの前に逆さに釣られたカカシは、血を滴らせながら、微動だにしない。

 

 ―――少し離れた、真数千手の上。

 杭に打ち付けられ、身動きが取れない状態でその光景を目の当たりにさせられている柱間と、その隣で楽し気に見つめているマダラの本体が、そこにいた。

 

「これが……お前の夢の終焉だ」

 

「マダラ―――ッ。貴様―――ッ!! マダラァ……ッ!!」

 

「柱間。お前の気持ちはわかる。オレも……かつて夢破れた時、同じ思いを抱いた」

 

 一緒にするなと、柱間ですら思った。

 あの時―――『初代火影は推薦で選ぶ』と言った扉間の言葉は、これ以上無いほどに正論だった。ゆえに柱間も思うところはあれど、受け入れた。

 マダラが選ばれなかったのは、柱間としても遺憾ではあった。しかし、仕方のないことだった。里を安定させ、長く続けていくには―――夢の先を目指すには、耐え忍ぶ他に選択肢の無いことだった。

 それに、柱間は心の底から信じていたし、感じていたのだ。

 自身(柱間)を里創設の立役者、英雄だと人々が呼ぶのならば―――マダラもまた、平和のために痛みを耐え忍び、千手と手を結ぶことを選んだ英雄なのだと。だからこそ柱間は言った。『時期に皆、お前の良さに気づく』と。

 弟を失った憎しみを抱いてなお、一族を守るという約束のために千手一族との和解を受け入れたその心を。里の創設と成長に、戸惑いながらも、心から喜んでいた、マダラという男の優しさを。

 きっと、もう少しだけ待てば、マダラという男の良さに皆が気づくと―――柱間は心の底から信じていた。

 きっと、もう少しだけ耐え忍んでいれば。マダラが答えと結果を、急ぎすぎなければ(・・・・・・・・)

 

 ―――それはいつの日か、畳間が陥りそうになっていた()の先にあるもので。今、マダラの手によって破壊されていく夢の終わりとは、決定的に違うものだ。

 

「これで、有象無象共は終わりだ。畜生どもは……まだ七尾と八尾が残っているか。存外、粘る。だが……」

 

 ずずず、とマダラの前の空間に亀裂が入る。

 そして、マダラの体から、新たな木分身が生み出され―――その歪みの中へと入り込んでいく。 

 

「終わりだ」

 

 マダラ側の増援が放たれた。

 

 ―――シュート。

 

 それ(・・)を寸前で避けられたのは、マダラが常に『勝利を確信した瞬間を狙う者』との戦いを、考慮していたからだ。

 チャクラの動き、風のうねり、匂いの流れ、温度の変化、音の響き。そういったものを感じ取る術に、マダラが長けていたからである。

 例え両目を失っていたとしても、それらを以て、人の眼球の形すら感じ取ることが出来るのが、うちはマダラという『伝説』であった。

 

「また、大蛇丸とかいう忍か……。―――認めよう。お前は中々、目障りだ」

 

 避け切れなかったがゆえに抉られた耳から滴り落ちる血液を気にせず、マダラは振り返った。

 マダラからかなり距離を取った空中で、マダラを見下ろしながらいやらしく笑う大蛇丸の額に、じんわりと汗が滲んだ。

 

(やっぱり、『次』は無かったわね……。でも―――。一端距離を取って、また―――)

 

 動き出す砂の足場と共に、大蛇丸が上空へ退避しようとする。

 しかし、マダラはそれを許さない。

 

 ―――万象天引。

 

 急激に発生した引力が、大蛇丸を引き寄せる。

 大蛇丸は驚愕を抱いた。これ以上近づけばそれ(・・)の射程距離に入ってしまうからと、本来ならばもっと近づいてマダラの頭を狙いたかったところを断念し、ギリギリの距離からの狙撃を選んだというのに―――つまりマダラの万象天引の射程は、長門を遥かに凌駕しているということ。

 ならばもう、これ以上の策は―――無い。ここが、最後の機会。これ以上は、ただ戦力が削られるのみ。マダラが輪廻眼の能力を使った(・・・・・・・・・・)上で、意識が大きく裂かれ、マダラの座標が分かる(・・・・・・)『今』が、正真正銘、最後の機会。これを逃せば、後は無い。

 

「―――今よッ!!」

 

「……何を―――」

 

 ぞくり、とマダラの背筋に寒気が走る。

 それは、これまでの生で感じたことが無い感覚だった。柱間との戦いですら感じなかった、正真正銘の―――『恐怖』。

 マダラは大蛇丸へ黒い杭を投げつけ、その心臓を貫くと同時に、大蛇丸の拘束を解き―――発生した気配の、その正体(・・・・)を確かめるべく、凄まじい速さで気配の発生源へと振り向いた。

 

 ―――赤い蒸気が、遠く離れた空で立ち上っている。

 

「赤い蒸気……!? まさか、アレは……ッ」

 

 マダラが驚愕に眼を見開く。

 感じる威圧感は、今のマダラすら凌駕する代物だった。

 

 マダラの瞳が、その蒸気を放つ存在を捕える。緑のタイツ、オカッパ状の黒い髪、太い眉毛。

 既視感を覚えたマダラは、訝し気に眉を寄せる。心当たりが、思い浮かばない(・・・・・・・)。だが、確かに、既視感はあるのだ。どこかで、あの姿を―――あの姿に似た誰かを、見たことがある様な。

 

 ―――まずいな。

 

 つまらぬ思考を置いて、マダラは一歩、後退する。

 アレ(・・)は、『今』は、相手にしてはならないものだ。目的である人柱力化した後ならば話は違うが、今はまだ外道魔像は完全ではないし、人柱力となるには距離があり過ぎる。

 

 ―――死門・八門遁甲の陣。

 

 血の蒸気を有する、最終形態。まるで秋に散り朽ちる枯葉色―――落ち葉のような色だ。

 だがそれは、ただ朽ち落ちるわけではない。それは新たな、青葉の養分となる。そして青葉が芽吹く新たな春へ繋がるその時こそが、青春の最高潮。深紅に燃え上がる炎の意志。

 

「―――父さん(・・・)

 

 ―――今こそ、大切なものを、死んでも守り抜く時。

 

 かつて交わした亡き父との誓いを胸に。

 

 赤い蒸気を立ち昇らせて、砂の足場の上に立つガイが、静かに体を屈め、型を取る。

 山中の秘術により、正体不明(・・・・)の忍者の位置が、正確に感じ取れる。そしてその者は言っているのだ。

 

 ―――己とガイの直線上に、うちはマダラはいる、と。

 

 つまり今、その『正体不明の忍』目掛けて一直線に進めば、その者諸共、うちはマダラ本体へ攻撃を当てられる。

 徹底的に身を隠し、あらゆる犠牲を払ってマダラの意識を逸らし、油断を生み出して―――ようやく掴み取った、最初で最後の『一本線』。

 

 ―――決して、無駄にはせん。

 

 ガイの体から、更なる紅蓮の蒸気が立ち上る。筋肉が膨れ上がり、チャクラは凄まじい速さで体内を駆け巡る。

 

 ―――カカシ。先に逝く。

 

 共に木ノ葉の先を―――新たな青葉の芽吹きを―――見守るという青春の誓い。それを果たせなかったことは、唯一の心残りだ。

 

 だが、謝りはしない。友を信じ、託すのみ。カカシが尊敬し、目標とした、『木ノ葉の白い牙』はたけカカシならば。きっと―――。

 そう信じるからこそ、ガイは往く。己の忍道を貫き、守り通すため。

 

 ―――親友(とも)よッ! いざ、さらばッ!!

 

「―――夜ガイッ!!」

 

 赤い彗星が、天を駆け抜けた。足場であった砂ははじけ飛び、空気が破裂する。

 一直線に突き進む彗星は、空気の壁を突き破り、炎すら纏い、マダラ目掛けて直進する。それは―――単なるロケット頭突き。

 

「―――須佐能乎・頂上化物ッ!!」

 

 マダラの出現させた真数千手が起動し、その赤き彗星へ全力の攻撃を仕掛けた。

 同時に、マダラは柱間の真数千手の頭へ手を叩きつけ、その操作権を奪うと、須佐能乎を纏わせ、迎撃を行わせる。

 

 背負いし呪い―――その数、二千。

 すべての拳を、迫りくる陽光の彗星へと叩き込む。

 

「―――おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 

「―――おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 

 マダラとガイの雄たけび。

 空中へ降り注ぐ二千の拳。

 対するはただ一本の槍。

 

 ―――激突。

 

 凄まじい衝撃波が、天空を揺らし、大地へと響き渡る。

 見上げる者達は、世界の終焉、あるいは超新星爆発(新たな世界の誕生の時)かと錯覚するほどの、激しい衝撃だった。

 

 だが、その爆発の中で、マイト・ガイは止まらない。

 

 放たれた千の拳を覆う須佐能乎の装甲が剥がれ飛ぶ。

 

 千の拳が砕け散る。

 

 さらに千の拳が砕け散る。

 

 まるで硬い壁に猛スピードで激突した荷馬車のように、ひしゃげ、粉砕され、木片が飛び散った。

 赤い彗星は、止まらない。

 

「―――輪墓・辺獄ッ!! 木分身!!」

 

 輪墓側、こちら側問わず、マダラの分身を可能な限り生み出して、突撃させる。

 

「―――空間が捻じ曲がっただとッ!?」

 

 木分身は容易に粉砕され、本来攻撃が当たらないはずの輪墓の分身すら、ガイが生み出した正真正銘の空間の捻じれに巻き込まれ、ひしゃげ潰される。

 

「―――ッ」

 

 マダラは輪廻写輪眼にチャクラを込め、時空の歪みを作り出す。そこに入り込み、あの攻撃を避けようというのだ。そこへ飛び込もうとしたマダラは―――一歩、引きずり戻された。

 胴体に絡みつくのは―――無数の蛇。その蛇は長く、どこかへと続いている。

 それを追って視線を動かした先に―――血まみれで、砂の足場にしがみ付く、大蛇丸。

 

「貴様―――ッ!!」

 

「―――ふふ」

 

 大蛇丸は生来の青ざめた顔を更に青白く染め上げ、ただ力なく笑った。

 

 マダラは己に巻き付く蛇を引きちぎった。

 その反動が伝わり、大蛇丸が地面へと墜落していく。

 そしてマダラは時空の歪みに入ろうとして、目の前でそれ(・・)が消滅する。ガイが生み出す空間の歪みに巻き込まれ、押し潰されたのだ。

 

 まるで星が如き引力が、迫っている。掛かる圧があまりに重い。マダラはもはや、跳躍することも出来ない。避けられない。

 

 ―――神羅天征。

 

 マダラが発動した斥力の壁。

 だが、そんなものに何の意味もない。

 

 ガイの一撃はそれを容易に突き破り―――マダラは壮絶に、笑った。

 

「―――このうちはマダラがッ!! お前を、最強と呼んでやるッ!!」

 

 ―――イザナギ。

 

 両目から、写輪眼の能力が消える。

 

 ガイの一撃が、マダラをすり抜けた。

 

 ―――父さんッ!!

 

 空中で急激な反転。ガイの体中の骨が砕け散る。だが、ガイは体中の筋肉を引き締めて、砕け散った骨を無理やり固定し、空間を蹴りつける(・・・・・)

 激痛が、ガイの体を駆け巡る。ガイが思ったのは、父の最期。その背中。皆を守るために散った、偉大な忍者の生き様(死に様)だ。

 

 ―――オレも、父さんのような、立派な忍者に。オレが憧れたカカシを超える(・・・・・・・)、立派な、忍者に……。

 

「―――そうか。こいつ、あの時の」

 

 あの速度で、あの威力で、この男は進行方向を真反対に変えた。

 もはや、人間の動きではない。

 そしてマダラは、思い出した。あのとき―――語られぬ死闘―――にて、千手扉間がその背に庇った、名も知らぬジャリ(・・・)の姿を。

 

 ―――あのとき。殺しておくべきだった。

 

 殺そうとはしていた。だが、邪魔された。

 千手扉間があの時に守ったのは、千手畳間(イズナ)の未来だけでは無かったのだ。

 今この時―――うちはマダラを打倒し得る最強の矛の生誕を。あの男は―――。

 

「―――扉間ァ!!」

 

 凄まじい咆哮を上げるマダラの口から、血反吐が漏れる。ダメージが、消し切れていない。

 イザナギによる現実改変すら、この八門遁甲の陣は捻じ曲げたのだ。

 

「―――()(ダイ)ッ!!」

 

 空間を蹴りつけ、再加速したガイの一撃が―――うちはマダラの体を、貫いた。

 




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