綱手の兄貴は転生者   作:ポルポル

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最近忙しくて更新遅れてます。待ってくれている方は申し訳ない。
今回は少し短め。幕間というか、赦せねぇ!!マダラぶっ殺してやる!!
の最後の一押しを作者にするためのものというか。
不定期更新(7年)を耐え忍んできた者達ならば、きっと分かってくれるはず。


破滅の光

「さあ、この世を照らせ。無限月読」

 

 遂にあと一歩―――封印術による拘束が可能なほどに―――うちはマダラを追い詰めた綱手と畳間だったが、目的達成のため、なりふり構わぬ遁走を見せたマダラにあと一歩で追いつけず、究極幻術・無限月読が起動した。

 

 夜空を照らす月に、巨大な瞳―――輪廻写輪眼が出現した。

 

 天を仰ぎ、畳間は表情を顰めた。

 無限月読は始動した。解除する手段はあっても、今、その発動を止める術はない。

 今攻撃すればマダラは倒せるかもしれないが、発動した無限月読は、マダラが死んだところで止まらない。このまま襲撃を仕掛け、マダラ打倒を為し遂げても、畳間もまた幻術の中に墜ちることになる。そうなれば、術を解き放つことが出来る者がいなくなり、世界は幻の中―――永久に醒めぬ微睡の中で揺蕩うことになる。

 

 畳間は究極体・須佐能乎を展開し己の体を覆うと、下方へと視線を向ける。

 真下には、困惑と共に空を見上げている綱手の姿。

 少し離れた場所には、疲労と負傷によって動けなくなっているのか、蹲っているカカシ。

 そしてさらに離れた場所に、我愛羅を先頭にこちらへ向かってきている連合の生き残り達の姿がある。

 

 須佐能乎で庇える人数には限りがある。

 今、守るべき者は―――畳間は一瞬で思考を終えると、カカシのもとへと、急降下した。

 

 

 

 

 

 

「なにが、起きているんだ……」

 

 我愛羅は浮遊する砂の上に乗り、空を見上げていた。

 真数千手同士の激突が終わり、一筋の赤光が空を駆けたと思えば、二つの真数千手の上半身が一瞬で爆散し、外道魔像(巨大な何か)がどこぞへと吸い込まれるように消えた。

 その少し後、残った尾獣たち(八尾と七尾)が現れたと思えば消えて、さらに九尾まで姿を見せたと思えば、やはりまたすぐに消えた。

 

 九尾の人柱力は、うずまきナルトである。

 であれば、あの九尾はナルトのものであるはずだ。

 我愛羅は、ナルトの身に何かあったのかと焦燥を抱いたが、いのが涙ながらに「あの九尾はナルトじゃない」と告げたことで平静を取り戻す。

 何故いのが泣いているのか、それを我愛羅は聞かなかった。

 いや、聞こうとはしたのだが、聞こうとした直後に、今度は巨大な須佐能乎の刀が現れたと同時に振り下ろされた。

 凄まじい殺意、怒気、そういったものが込められた一撃だった。遠方にいる我愛羅ですら、死の実感を抱かされ、本能的な死への恐怖により息を呑まされた、負の究極とも言える一撃だった。

 

 ―――綱手様!!

 

 いのが絶叫した。それによって、我愛羅はあの須佐能乎の先には綱手が居て、今、その息の根を止められようとしているのだと理解したが、しかしどうしようもない。

 綱手の口寄せ獣であるカツユからの治癒とチャクラの施しによって一命を取り留めている者は大勢いる。精神的支柱としても、支援戦力としても、綱手の喪失は、敗戦に直結すると断じざるを得なかった。

 

 終わったと、そう思ったのもつかの間。

 巨大な須佐能乎の腕が出現して、振り下ろされた巨大な須佐能乎が振るう、巨大な太刀を食い止めた。

 

 何が起きているのか、我愛羅は改めて、いのへと尋ねた。

 ―――いのは嗚咽混じりで泣いており、中々答えない。答えられなかった。

 う゛う゛う゛、と汚い嗚咽を漏らし、しかしそれを必死に耐えようとしているいのを責めることは我愛羅には出来なかったが、しかし状況確認は急務である。

 優しさと実務を天秤に掛けて、我愛羅が悩んでいるうちに、溢れる感情を堪え切ったいのから、その言葉が告げられた。

 

 ―――増援です!! 増援が、到着しました!!

 

 連合の者達の大半が、「増援?」と訝しむ。

 戦力はすべて投入している。司令および後方支援として、いのいちやシカクと言った頭脳派が雲隠れの里付近にいるが、間に合うとも思えないし、今更彼らが来たところで役に立つとは思えない。頭のキレるシカクはともかくとして、山中の秘術においては、二代目火影よりチャクラの譲渡が行われた山中いのの方が、練度はともかくとして、出力はいのいちを超えるだろう。

 よって、現存する戦力での増援は、焼け石に水である。

 

 だが、この場にいる感知タイプの忍者―――とりわけ、木ノ葉隠れの里出身の者は、そうは思わなかった。

 その『増援』から溢れ出るチャクラが、強大で、馴染み深いものだったからだ。

 

 もう、ダメだと思った。

 マイト・ガイがうちはマダラを仕留めきれなかったことは、マダラのチャクラを感知できる者であれば、語られずとも理解できる。

 もう、ダメだと思った。

 時空間忍術で新たに現れたチャクラは、それ単体で影に匹敵する。四影や、自来也イタチと言った連合の影クラスとの通信が途絶え、真数千手の背中を以て、何を語らずとも連合の者達の精神的支柱となっており、また先ほど奮起を促した千手柱間すら呆気なく封じられ、切り札たるガイすら届かなかった状態で、敵の増援が到着したのだ。

 

 ―――もう、ダメだと思った。

 

 もうダメだと、誰しもが思ったのだ。

 もうダメだと、誰しもが―――。

 

 だからこそ、『増援』の正体に気づいた者達は、その瞳から溢れる涙を堪えられず、嗚咽を漏らしながら、体を震わせている。

 何が起きているか分からない困惑と、最後の希望が差し込んだことへの感涙。

 

 そして、いのが叫んだ。

 

 ―――五代目火影様です!! 五代目火影様が、増援に到着されました!! ……ッ!!

 

 いのが堪えるように息を呑み込んで、再び叫んだ。

 

 ―――皆さん! 諦めないでください……ッ!! まだ、終わってません! 私たちは、まだ、終わってませんッ!!! 

 

 死んだとされていた、当代最強の忍者の増援。

 ゆっくりと、皆の心を希望の光が照らし出す。

 もうダメだと、心が絶望に包まれたときに挿しこんだその光の、なんと輝かしいことか。

 いのの言葉が、連合の者達の脳に染みわたっていく。

 

 ―――五代目火影様が戦っています!! まだ、まだ―――ッ!!

 

 マダラと畳間の姿は見えずとも、鳴り響く戦闘や、天地を揺るがす忍術のぶつかり合いと、その余波と衝撃は届く。地形は破壊され、空間が揺れ動く。あるいは、神々の戦いとはこういうものなのかと、戦いを見守る者達の脳裏を過った。

 

 期待、高揚。直前まで胸中に渦巻いていた絶望の大きさがゆえに、それらが反転したものも大きくなる。

 興奮した様子で戦いの実況を行ういのに対し、我愛羅は「落ち着け」と冷静に伝えた。

 

「五代目火影がどのようにして戻られた(・・・・)のかは、この際、置いておく。……勝てるのか? あの、うちはマダラを相手に」

 

 それは五代目火影の勝利を疑っての言葉ではない。必要であれば、増援に動くという意味の言葉だった。戦いは最終局面に移った。マイト・ガイによる強襲が終わり、足場を必要とする者がいなくなった以上、もはや我愛羅だけが戦えない理由も無い。妨害という意味では、自由自在に動き回る我愛羅の砂は非常に有効な手段だろう。

 

 我愛羅の言葉に、いのも取り乱している己に気が付いたのか、一つ大きく息を吐き、続けた。

 

 ―――互角よ。マダラと火影様は、互角に戦ってる。でも……ガイ先生がマダラに与えた負傷が、少しずつ癒え始めてるのを感じるの。それだけじゃない。マダラのチャクラが……徐々に変質してる(・・・・)。何か……、別の何かに……なろうとしてる……?

 

 マダラから感じるおぞましいチャクラ。本能的な恐怖が、いのの中で渦巻いていた。しかしいのはそれを呑み込んで、言葉を続けた。

 

(きっと、火影様もそれに気づいてる)

 

 通信の先で、いのが悩むように目を伏せた。

 

(火影様が決着を急いでるのは、確かだと思う。でも……)

 

 ―――互角。マダラを倒すには、一手が足りない。

 

 それを聞いた我愛羅は、「まだ戦える者はオレに続け」と雄たけびを上げ、駆けだしたのだ。

 そして―――通信を聞いていた、綱手が立ち上がった。

 

 綱手はガイを優しく地面へと横たえ、一目散に駆けだした。

 その途中、綱手は、地面に転がるそれ(・・)を見つけ、引っ手繰るように拾った。

 涙は風に流れ、へし折られていたはずの心は、再び灯を宿す。心が燃えているかのように、胸が熱かった。憎しみも、怒りも、綱手の心の中には無かったのだ。

 綱手の心にあったのは、このままでは終われないという悔しさ。そして、忍界の未来を守るため、今現在たった一人で必死に戦っている、綱手の唯一残った肉親()を、守りたいという思い。

 

 そして二人の姿をその視界に捉えた綱手は、助走の力を利用し、片足を空高く持ち上げて、それ(・・)を握った拳を振りかぶった。

 地面に叩きつけられるように振り下ろされた脚は、激しい轟音と共に岩盤を砕き、めり込んだ。

 腕が引きちぎれるほどの遠心力が、凄まじい勢いで振り下ろされる腕に圧し掛かる。

 

 そして綱手は、それ(・・)から、手を離した。

 淡い翡翠色の光を放つそれ(・・)は、凄まじい勢いで、マダラへと飛来する。

 それはかつて、綱手が祖父より譲り受けたもの。

 それはかつて、愛する弟に贈り、絶望と共に綱手の胸元へ戻って来たものである。そして、愛する甥に贈り、絶望と共に綱手のもとへ戻って来たものでもある。

 

 ―――お兄様ッ!!

 

 そしてそれは今、初代火影の後継者―――『初代火影の再来』と謳われる男の下へと、託される。

 

 ―――それすなわち、初代火影の首飾り。

 

 マダラにとってそれは、攻撃と呼ぶことすら烏滸がましいものだった。それでも、それにマダラの意識が割かれたのは、そこに、千手柱間の気配を感じたからだ。

 

 マダラに直撃し、そして砕け散った首飾りの破片を、畳間は視界に捉えた。

 九尾のチャクラに呼応する性質を持つ以外は、何の変哲もない首飾りだ。マダラに対して、有効的に働く効果など何もない。

 だが、それは、畳間にこれまでの人生を想起させるに十分な代物であった。

 

 ―――もう二度と、こんなことが起こらぬように。

 

 弟の夢が、息子の思いが、妹の願いが、畳間のチャクラを奮い立たせ、限界を超えさせる。

 

 ―――そして必殺の一撃が、うちはマダラを貫いたのだ。

 

 その様子をいのが我愛羅達に実況し、それを聞いた者達の胸に、勝利の歓喜が宿った直後―――突如として、天を穿つ大樹が出現し、そして夜空に浮かぶ月に瞳が現れた。

 我愛羅を始め、駆けていた連合の者達は立ち止まり、呆然と空を見上げた。

 

「なんだ、アレは……幻術か? いや、違う……。幻術じゃない……。いや、幻術か? 何だあれは……」

 

 ―――今度こそ幻術なのか……?

 

 この戦いにおいて、幻術は使われていない。しかし続く戦いの様相は、幻術と言われればすんなりと受け入れられる。あるいは、幻術でなければ信じられないような、これまでの忍界における戦いの常識を崩しかねない規模の激戦だった。

 そして月に現れた巨大な瞳は、いくつもの巴を禍々しく浮かび上がらせて、地上を見つめている。

 

 ―――あれではまるで、月そのものが瞳に変貌したかのような。

  

 月を仰ぎ見た者達の誰もがそう思った。

 そして、気づいたのだ。月から、目が離せなくなっていることを。

 体が動かない。眼球すらも、動かせない。まばたきも出来ない。巨大な月の瞳に、彼らは吸い寄せられていた。

 

 ―――光が、降り注ぐ。

 

 月から発せられた光は、地上を呑み込んだ。

 建造物による遮蔽など意味を為さなかった。

 人間も、動物も、知性の有無も関係なく、生きとし生けるすべての生命は、分け隔てなくその光で包み込まれた。

 それは、あらゆる生命を幸福な夢の中へと導く暖かな光だった。それは個々が望む幸福を与え、あらゆる未来を遮断し、無数の可能性を終わらせる―――破滅の光。

 

 その光に晒された者達の瞳には、等しく輪廻眼が浮かび上がった。

 浸食されていく思考。暗闇に沈んでいく理性。怒涛の様に、存在しない記憶が押し寄せた。

 

 人々が最初に抱いたのは、恐怖だった。

 

 それは、今の自分が呑み込まれ、消滅することへの恐怖。心の底では『幸せな夢』を望んでいて、しかしそれが叶わないことを理解し、現実を受け入れ必死に前へと進もうとしていた『自分』が、消えていくことへの恐怖。

 あるいはいつか『夢』を叶えんと、未来へ向けて励んでいた『自分』が失われ、否定される(・・・・・)ことへの恐怖。

 

 しかしそれは、濁流の様に押し寄せる多幸感によって掻き消される。死に別れた大切な人が、まるで生きているかのように―――そんな不幸が無かったかのように、傍に居た。

 いつか叶えると誓った夢が、今目の前で、為し遂げられている世界に、『自分』がいた。望んだものが全て手に入る。そんな夢の世界に引きずり込まれることから―――人々は、逃れることが出来なかった。 

 

 ―――再不斬さん。そこに、いたんですね。

 

 目の前で惨殺され、そしてその亡骸すら辱められた大切な人が、傍で柔らかく笑い、『白』と己の名を呼んでいる。

 

 ―――ナルト君。ぼくらを、頼みます。

 

 溺れていく少年の理性が、最後の願いを、胸の中で呟いた。

 そして、少年は優しく微笑んで―――殺されたと勘違いしていた(・・・・・・・)大切な人の下へ、歩み寄った。

 

 ―――父様。姉さま。兄さま。叔父さま。

 

 うちはマダラによって虐殺された砂隠れの者達が、少年を囲んでいる。彼らに、愛情と親しみを以て抱きしめられ、少年はもみくちゃにされることに照れながら笑い―――そして、腹の中から聞こえてくる声の主の―――親友の名を呼んで、微笑んだ。

 

 

 次々と幻術の中へと溺れていく者達。

 それは、眼球を失っている者も、例外では無かった。

 この光を浴びた者は、皆おしなべて、幻術の中に沈み込む。逃れる術はない。

 

 幻術に呑み込まれる間際、ある女は近くにいた幼子二人を、降り注ぐ光から守る様に、その胸の中へ掻き抱いた。

 女は、ぎゅっと、強く強く、幼子二人を抱きしめる。しかし、降り注ぐ光は女の体すらも透過して、無慈悲にも、幼子二人を光へと呑み込んだ。幼子二人は、不安か戸惑いか、震える唇を動かして、「お母さん」と、そう告げることすら出来ぬまま、幻の波に押し流される。

 

 ―――お兄ちゃん……? お父さん? お母さん? あれ……?

 

 女が気付いたとき、女の周囲にはかつて看取った兄と、幼くして死に別れた両親が傍にいた。両親は慈愛の笑みを浮かべて、女の頭を、優しく撫でてくれている。

 女は戸惑いを抱くことすら忘れ、ただ嬉しそうにはにかんだ。

 

 女がさらに周囲を見れば、愛する夫と、自信が腹を痛めて産んだ子供達の姿があった。それだけではない。孤児院で育てて来た、愛しい養い子たちもいる。亡くしたと勘違い(・・・・)していた、友人たちの姿もあった。

 女は彼らの姿を見て(・・)、安心したように笑った。

 女の背は、気づけば少し縮んでいるようだった。しかし女はそれを、疑問にも思わない。

 女はその小さくなった背を伸ばすように、兄と両親を見上げて、揺れる二房の髪(ツインテール)が自分の肩を擽る感覚を覚えながら、無垢だった子供の頃のように、微笑んで言った。

 

 ―――お兄ちゃん、お父さん、お母さん。話したいことが、たくさんあるの。

 

 女はいつの間にか、小さな子供の姿となっていた。女は、その姿に見合ったあどけない笑みを、兄と両親へ向けている。

 

 ―――あの子たちはみんな、私の子供達なんだ。あっちの子たちは、友達で……。

 

 女は指先を動かしながら、名前を口にしていく。

 長い時間が掛かったような、一瞬で終わったような、曖昧な時間感覚の中でそれを終え、女は一番近くにいる青年の手を握った。

 

 ―――そして、この子は、私が産んだ子で……名前は、止水といって……。

 

 小さな子供の姿で、齢20にも成ろうかという青年を産み、育てて来たなど、矛盾甚だしいことだ。

 しかし女はやはり、それを疑問にも思えなかった(・・・・・・)

 

 女の両親は、幸せそうに語る女へ、「よかったね」と微笑みかけた。

 女は喜びに頬を赤らめ、本当に、嬉しそうに笑った。

 それは、物心ついたときから、女がこれまで、ずっと持ち続けていたものだった。

 幼い子供が当然持つ、親に甘えたいという欲求。そして己が叶わなくなったからこそ、養い子たちには寂しい思いをして欲しくないと、子供たちに与えて来たもの。それは女にとって、幸福の象徴の一つである。

 一方で、大人となり、愛する人と結ばれ、子供を設けたという幸福も、女の中にはある。

 女が求めてやまず、しかし決して重なることのない二つの幸福が、幻術の中で、矛盾すら押し潰して混ざり合う。

 酷く歪んだ幻の中、女はやはり、歪みを、歪みと認識することすら許されかった。無限月読の世界において、その程度の矛盾は、矛盾足り得ない。それが在りえない、矛盾しているというのなら、女の精神を書き換えて、それを認識できなくすれば良い話だ。

 

 ―――これからは、家族みんな、一緒にいよう。ずっと、一緒に……。ずっと、ずーっと……。

 

 女が静かに目を閉じて、家族を抱きしめる。その頬を、猫がすりすりと甘えるように、その頬を大切な人の幻影に擦り付けながら、その身を委ねる。優しい温もりが、女を満たす。

 

 ―――だいたいのことは、千手が悪い!!

 

 ―――なんなんだこの高揚感は……ッ!!

 

 ―――あのバカ野郎は私が止める。

 

 ―――だから人は、同じ夢を見るんだよ。

 

 ―――私は、幸せだ。

 

 ―――私たちの火影様。今まで、お疲れさまでした。

 

 これまでの生の中、歯を喰いしばり、涙を呑んで耐え忍び、耐え難き痛みを乗り越えて、ようやく掴んだ幸せが、幻によって押し潰されていく。辛いことも多かったが、確かにあった喜びすら否定され、必死に進んできた道が、濁流に呑み込まれ、消失する。

 抗うことは出来なかった。

 

 女は幸福な夢の中にその精神を呑み込まれた。

 『夢』は女を逃がさぬように、暖かな夢で女を包み、その外側を、漆黒の闇で覆う。

 

 そして、現実。

 巨大な木の根が、地面を引き裂いて現れた。その根から派生した蔓が、幻術に呑まれ、硬直した女の体を縛り上げていく。女と、女が抱きしめていた幼子二人は引き剥がされた。

 体が硬直した女は、幼子二人を抱きしめる腕の力を強くすることも、離れていく幼子たちに手を差し伸べることも許されない。

 幼子たちと引き裂かれることを、女は無抵抗のまま受け入れる。

 根が蠢き、蔓によって女の体が持ち上げられ、宙へと浮かぶ。そしてその体は蔓によって雁字搦めにされ、全身が蔓に覆われる。

 女は、その体を蔓の繭に呑み込まれた。最後の隙間が閉じられて、女は暗闇に覆われる。体に纏っていた仙術チャクラが霧散し、女は感知が不可能となり、女の感覚は、外界から遮断された。

 

 ―――しかし、恐れることは無い。幸福は、暗闇()の中にある。

 

 そんな声が聞こえて来たような気がした。

 女の失った瞳から、一筋の雫が流れ落ちる。それは、決して―――幸福に浸る、喜びの涙では無かった。

 

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