綱手の兄貴は転生者   作:ポルポル

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木ノ葉は

 第二次忍界大戦の終結から数年の時が流れ、木の葉の里では、戦争の傷が少しづつだが、癒え始めようとしていた。

 一方で、畳間と綱手の祖母であるミトが、高齢であること、また子、孫を亡くした心労もあり、遂に逝去した。その身に宿っていた九尾はかねての予定通りうずまきクシナを器として封印され、木の葉は新たな人柱力を擁することとなる。

 一方、終戦後、里に戻り縄樹の死を知った綱手は、畳間に抱き着いて人目をはばからずに泣いた。しばらく家に閉じこもったが、その後、下忍時よりの友人であるダンの励ましもあり、時を経て立ち直った綱手は、二度と幼い命が失われないよう、医療忍者の育成に力を入れ始めた。その発案は三代目火影に受け入れられ、医療忍者部隊の責任者として、忙しいながらも充実した日々を過ごしている。近頃は、加藤ダンとの仲を深めており、里内では理想のカップルとして密かな人気を博しているが―――。

 

「いや、正直オレはくっつくなら自来也だと思ってたんだよね。意外だった」

 

 とは、店外の喧騒から聞こえてきた噂話に反応した、兄・畳間の弁である。里内では一定数いる自来也×綱手派筆頭のお言葉である。なまじ幼いころから不器用ながらアプローチを繰り返していた自来也を見守っていたから、ひいき目で見ていることもある。

 

「まあ私も自来也のことはよく知っているから、お前の言わんとすることはわかるが……。あいつのアプローチは如何せんわかりづらいというか……。女の気を引くにはちと行動がずれてるというかなんというか……。そもそも戦後、長く里に帰って来ておらんしな」

 

「綱が言うには、小さい子供たちが独り立ちするまで面倒見るって、雨隠れに残ったらしいな。面倒見のいいあいつらしいし、オレとしては綱に待っててやって欲しいと思わんでもないんだが……」

 

「仕方あるまい。縄樹のこともある。当時はお前も、綱手のメンタルケアに手を回せるほど余裕も無かった。その心の隙間にうまく合致したのがダンだったのだろう。今の綱手を支えているのは、ダンだ。お前だって(・・・・・)、似たようなものじゃないか」

 

「……どういう意味でだ?」

 

「そういう意味で」

 

 昼下がりの喫茶店。丸いテーブルに向かい合わせで座り、氷が浮かぶジュースをストローでからからとかき混ぜながら、畳間とアカリが話をしている。互いにラフな着流しのような格好で、非番であることがわかる。

 

「要はタイミングということだ。お前も、私も」

 

 アカリはグラスの中で回る氷を見つめる。畳間は悲しげに目を伏せた。

 

「……」

 

「戦争が終わったからかもしれんが……結婚ブームみたいだな、今」

 

「……」

 

「ミナトとクシナも、戦後のあれこれが落ち着いた段階で、籍を入れるらしいと聞いた」

 

 じっと氷を掻き混ぜながら、アカリが淡々と続ける。

 

「強請っているわけではない。互いに忘れるには大きすぎる存在だし、忘れる必要もない。それに、私たちには一族のこともある……」

 

「わかってる。いやな時代に生まれたもんだな、お互い」

 

「ああ……」

 

 しんみりと、互いにグラスを見つめた。気まずそうに店員のお姉さんが注文されたパンケーキをテーブルに置いて去っていく。

 

「しかし、ミナトか……」

 

 畳間の呟きに、アカリが顔をあげて、伺うように視線を向ける。

 

「いいのか? “四代目火影”の件。ミナトがまだ若いということもある。将来的には、ということを踏まえても、今はお前をと、推す声もあるようだが? 実際、三代目雷影を押し返した功績は大きい。渦の件で消えてしまったが、二代目火影の仇を討ったという実績もある」

 

 第二次忍界大戦。その犠牲はあまりに多く、三代目火影はその責任能力を問われ、進退が揺らいでいる。三代目火影もまた、自身の力不足で戦線が開かれ、多くの若い命を己の命で死地へ送り出し、帰らぬものとしてしまったという自責の念に晒されている。火影を退くという選択を、ヒルゼンは受け入れようとしていた。そして当のヒルゼンは、ミナトを四代目に推しつつも、生前の初代火影、二代目火影を知り、またその教えを受けた畳間を中継ぎに、とも考えている節があった。戦乱で荒れた今の忍界を背負うには、アカリが言ったように、波風ミナトはまだ若い。重責に押しつぶされないとも限らないからだ。

 

「……かつて三代目に言われた通り、オレのうちにある闇は確かに危ういものだった。憎しみを耐え忍ぶことは出来るようになっても、忘れることはできない。オレの手は、もはや血に濡れ過ぎた。すべてを背負う強さは、オレにはきっとない。すぐ調子に乗るタイプだしな。だが、ミナトは違う。確かにあいつはまだ若いが……オレがこの年になってようやく得た“火の意志”……その答えを、あいつはすでに理解している。たいしたやつだ。加えて、実力も、人徳もある。心配されているのは経験だが、そこは、オレ達で支えればいい。後見ならば、猿の兄貴だっているわけだし。オレの……いや、オレ達の夢は、あいつを支えるなかで、きっと叶うだろう。オレも、もう迷わない。全力で、あいつを支えるつもりだ」

 

 ―――1人で背負い込まず、救いを求め、力を貸す。助け合う大切さを、お前のおかげで思い出した。

 

 そんな言葉を恥ずかしさから飲み込んで、それに……と、畳間は気まずげに顔を上げた。

 

「……だいたいオレのせいだから、自分で言うのは正直つらいところなんだが……、千手にかつての名声はないし、戦争で多くの一族を失った。うちはとも相変わらずだしな。一族の立て直しに忙しいってのもある。それに、やるべきこともある」

 

「……うちはマダラ、か?」

 

「ああ。オレにこの瞳を持ってきたのは、間違いなく、かつての兄・うちはマダラの手の者だ。あの人は、まだこの世界のどこかで生きている。何をするつもりかまだわからないが、かつてあの人を闇に引きずり込んでしまった者として……もしも誤った道を行こうとしているなら、止めなければならない」

 

「火影になれば身動きが取れなくなる、か」

 

「そういうことだ。だからと言って、ミナトに里のすべてを押し付けるわけじゃない。さっきも言ったが、オレのすべてで、あいつを支えるつもりだ。あの時語った夢をあきらめたわけじゃない。オレ達の代で届かなくても、後に続く者のために……出来ることをしたい」

 

「そうか。……変わったな、お前も」

 

「変わったんじゃない。戻ったんだよ」

 

 肩をすくめた畳間に、アカリは優しげに目元を緩めた。

 

 

 

 

 

 アカリと別れた畳間は、その足でもう一人の友―――はたけサクモの家へと向かっていた。

 先日、はたけサクモが里に帰還した。戦後すぐに里へ戻れなかったのは、前線での業務に従事するように、三代目火影が指示したからだった。“掟を破った”サクモへの批判の声は想像以上に多く、すぐに里に戻れば戦争の中で高ぶったその悪意がサクモをより傷つけるだろうことを憂いてのことだった。ただでさえ命を救ったはずの者たちからも叱責され、心身ともに疲弊していたサクモを、針の筵のような状態の里に戻すことは憚られた。戦後、里の復興とともに戦火の中で燃え上がった、人を無自覚に攻撃し非難する一種の闘争心のようなものが下火になり始めた今になって、サクモはようやく里へ戻ることが出来るようになったのである。

 畳間はミトの死後、唯一の木遁の使い手として、ミナトとともに新たな人柱力の守護と監視の任務があり、アカリもまた三代目火影の弟子として―――実際には猿魔と契約しただけであるが、うちは一族の増長を政府側から抑える役目を担わざるを得ず、里を離れることが出来なかった。孤軍奮闘を終え、里へ帰還し、追って沙汰があるまで自宅待機となったサクモに、畳間は会いに行こうとしていた。

 

 屋敷につく。小さな一軒家だ。呼び鈴を鳴らす。出てくる様子はない。息子であるカカシはアカデミーへ行っている時間帯だが、しかし、サクモがいないはずもない。畳間は扉を無理やりこじ開けると、すたすたと中へ入った。

 人の気配を感じて、部屋の扉を開ける。サクモの背中が、うなだれていた。

 

「オレだ」

 

「畳間か……。何しに来た? お前も……」

 

―――オレを責めに来たのか?

 

 最後まで続かなかったその言葉は、しかし畳間にははっきりと聞こえた。

 畳間は、その小さく見える背を見下ろした。

 

「お前の、上忍階位はく奪が決まった。砂隠れ最前線における掟破り、その罪は重い」

 

 びくり、とサクモの背が揺れる。畳間は沈痛な面持ちでその背を見つめた。

 戦争中、守るべき規範というものは確かにあり、信賞必罰は厳守されるべきものだ。それが揺らげば、土台も揺らぐ。掟破りは、それがどのような理由で行われたにせよ、罰せられなければならない。

 そして、それを理解してないサクモではなかったはずだ。それでもサクモは、自分で“その道”を選んだ。ならば前提として、今の状況はその行動の結果であり、自業自得。周囲の反応も、当然のものであると理解すべきだった。サクモが今の状況に耐えられないのだとすれば、それはその覚悟がなかったか、あるいは軽く考えていたということだ。

 

 ―――だが、ここまで過酷な状況にまで追い詰められてしまったのは、戦時中の畳間の悪手がゆえである。甘ったれた同情が周りを焚き付け、余計にサクモを苦しめる結果になることに気づかなかった。罰するならば、すぐに実行するべきだったのだ。

 掟を破れば、罰を受ける。子供でも知っている、当然のことだ。特に、サクモは二代目時代から里の執行部に近い存在だった。下の者に示しを付けるためにも、けじめは取らなければならなかったのに。中途半端に許せば―――、いや中途半端に許したからこそ、“身内贔屓”と噂され、今の状態になってしまった。本来は三代目火影と畳間自身が最も厳しく接するべきで、その後に(わだかま)りなく接し、サクモの実力を以て再度重用する姿を、里の者に見せつけるべきだった。そうすれば皆は何も言えなかったし、仮にまだ言う者がいたとしても、“明らかな罰を受けたのにネチネチ言うな”と、表立ってサクモを庇える者だって多く現れたはずだ。

 しかし、だからこそ畳間はサクモに同情することは許されない。それはサクモが“仲間を助けた”という事実すらも含めて、行動すべてを否定することになるからだ。

 

「お前も、“掟”が大切だと、そう言うのか? 仲間を見殺しにすることが正解だったと、そういうのか……?」

 

「いや……。サクモ……掟と仲間の重さを量る天秤は、オレたちが忍として生きていく以上、必ずついて回るものだ。はっきり言って、正しい、間違っているなんて、正否を問えるような簡単な事柄じゃない。……サクモ、覚えてるか? オレとお前、そしてアカリ……三人がチームになった、あの試験のことを」

 

 掟とは忍を縛り、道を誤らせないための道しるべであり、すべからく守るべきものである。

 甘さが目立つ初代火影に代わって、木の葉における多くの厳しい規律と掟を定めたのが、二代目火影・千手扉間である。扉間は、誰よりも掟には厳格で、それを破る者には誰が相手であろうとも厳罰を以て応じる、掟の体現者として知られていた。

 しかし、そんな彼を語るうえで、一つ、矛盾することがある。それが、扉間が手掛けた最大の事業である忍者養成施設、その最終試験―――三人一組(スリーマンセル)

 扉間はあの最終試験において、仲間を見捨てなければ合格することが出来ないという(ルール)の中に、それを破らせる仕掛けを施した。施設の創設者として、子供たちに忍の掟を叩き込み、厳守させることを徹底させておきながら、未来を担う若き火の意志たちへ、扉間が最後の最後に授けたのは―――“掟を破れ”という教えだった。考えるべきは、その意味。

 

「あのとき、オレたちは二代目火影に奇襲をかけた。それがとんでもない掟破りだとも、オレたちは知っていた。施設だけの掟じゃない。火影に攻撃を仕掛けるなんて、“里”の掟を破るような大罪だ。あのころ、オレたちはまだ若く、思慮も浅いガキだったがそれでも…… “その覚悟”をして、あの道を選んだ」

 

 規模も状況も異なるが、その本質は同じだった。

 あの時、周りの大人たちは厳しくもやさしかった。軽い罰則で許してもらうことが出来た。だがそれは、“仲間のためだったから”などという理由からではない。それが試験の本題であったし、畳間たちがまだ庇護されるべき子供だったから、それだけの理由だ。大人になり、子供たちを導く側に立った者が、掟破りという大罪を犯し、厳罰を受けないなど許されることではない。

 掟破りが罰せられることは当然のことだ。だとするならば、サクモは仲間を見捨てるべきだったのか―――それもまた違う。

 

「掟破りがどのような末路を辿るか、お前は知っていたはずだ。それでも、サクモ……お前は仲間の命を取った。それが間違いだったのか、正しかったのか……それはいつかオレ達が老いさらばえ、表舞台から消えた後―――後に続く者たちが判断することだ」

 

「……」

 

「聞いてくれ、サクモ。確かに、忍の世界において、掟を破るやつはクズ呼ばわりされる。里の家族から後ろ指を指される苦痛と恐怖、想像に難くない。だけど、だけどな……もしも同じ状況に置かれたとすれば―――サクモ、オレだってそうしたぜ(・・・・・・・・・・)

 

 畳間が苦しむ友に掛けるべき言葉は何か。

 掟破りは正しかったという賞賛か。サクモを批判する者への怒りか。今の状況への嘆きか。力不足への謝罪か。掟は守るべきだったという叱責か。落ち込むなという激励か。あるいはく慰めか。

 畳間が選んだのは、肯定も否定もない―――共感の言葉だった。

 

 サクモがはっと頭を上げ、驚いたように振り返った。その眼元にはクマが出来、その表情は、今にも自害してしまいそうなほどに追い詰められていたように感じた。けれども、穏やかに微笑む畳間の顔を見て、サクモがゆっくりと目を見開いていく。

 

「掟を破れば、罰を受ける。しょうがないことだ。だったら、罰も甘んじて受けていこうじゃねえか。掟を破り、罰を受け、周囲に叱責されて孤立してもなお……守るべき大切なもの(忍道)がある。そのことを教えてくれたのは、ほかでもない―――オレ達が畏怖し憧れた、二代目火影・千手扉間だった」

 

 サクモの唇が、震えていた。 

 

「マイト・ダイを覚えてるか? あいつはまだ下忍で、戦争でも足手まといだったらしい。だがあいつは周りから才能がないと笑われてもなお挫けず、己が大切な者を守り抜くという忍道を貫くために、耐え忍ぶ戦いをしている。あいつはな、最初から一貫して、お前を庇い続けてたそうだ。なあサクモ、この里には、そんなやつもいるんだ。たとえそれが間違いだったとしても、その“選択”には意味があったのだと―――胸を張ろう」

 

 畳間が静かにしゃがみ、サクモに目線を合わせた。

 

「執行部で―――長く掟に触れ過ぎて、大切なことを見失っていた。だが今、オレの、執行部としての役割は終わった。お前は今、掟破りの罰を受けた。だからもう、誰にも何も言わせない。失敗ばっかりで、迷惑ばかり掛けてきたが……それでも、それでもお前が許してくれるのなら。オレは……今度は友として、お前と共に……」

 

 畳間はサクモの肩に優しく手を置いて、泣きそうな顔で微笑みかけた。サクモは静かに……泣いていた。

 

 

 

 

「畳間、よかったのか?」

 

「……サクモのことか?」

 

 火影の執務室。火の文字が描かれた傘を頭に被り、キセルをふかしながら、三代目火影・ヒルゼンが問うた。畳間は入口近くの壁に背を預け、腕を組んで瞑想していたが、ヒルゼンの声に片目を開ける。

沈黙を以て肯定するヒルゼンに、畳間はふうと小さく息を吐く。

 

「あいつが覚悟のうえで決めた道だ。オレは友として、それを支えるだけだよ」

 

 はたけサクモは畳間との会話の後、数日悩んだ末、忍を引退することを表明した。今後は父として、息子であるカカシのために生きていくことを決めたらしい。サクモの選択と、父に対する里の者の反応を幼心で理解しきれず、カカシは父への反発を見せているらしいが、それでもいつか分かり合える日が来ると信じて、共にある道を選んだらしい。

 

「これから進む道を語ったサクモの顔は、重荷をすべておろしたみたいに、穏やかだった。正直言うと、少しうらやましくも感じた。まあそれは、火影引退を表明してるあんたにも言えることだけどな。猿の兄貴」

 

「何がうらやましいじゃ。ワシは二代目様から受け継いだ役割を、何一つ全うできなんだ。あげく戦争が終わったからと言って、若い世代に任せて、身を引こうとしておる。卑怯者と言われても、仕方ない男だ」

 

 煙を吐き出し俯いたヒルゼンに、畳間が眉根を上げる。

 

「それを言われればオレもだが……。だけど……少なくとも、あなたは一つ役目を果たしたじゃないか。自来也、綱手、大蛇丸。そして、ミナト。里を慕い、次代を託せる者を育てた。……激動の時代だった。里が崩壊する危険だってあった。でも、あなたは里を守り抜き、戦争を終わらせ、次に繋いだ。それで、十分だ。あなたの苦悩……今なら分かる」

 

 畳間は壁から背を話し、直立になると、深く深く、頭を下げた。

 

「……オレは不甲斐ない側近でした。三代目火影様……長い間、本当に―――お疲れさまでした」

 

 傘を深く被りなおしたヒルゼンの表情は、畳間からは伺えない。畳間はヒルゼンに背を向けると。静かに扉を開けて、火影室を出た。鼻をすする音が聞こえたが、畳間は振り返らなかった。

 

 ―――少し歩き、不意に感じた気配に、畳間は立ち止まった。

 

「畳間様、情報部の者より火急の報告が」

 

「ミナトか」

 

 影から現れたミナトは、暗部の面をつけており、その表情をうかがい知ることは出来ない。しかしその雰囲気は重く、ろくでもない話なのは想像に難くなかった。

 

「……三代目風影が、行方不明になった? 確かなのか」

 

 ミナトが語ったのは、砂隠れに起きた異変。磁遁と呼ばれる血継限界を用い、磁力で砂鉄を自在に操り、初代、二代目風影を凌ぐ歴代最強と謳われる男だ。木の葉隠れの忍も多く彼の手によって殺害されている。そんな男が行方不明になった。にわかには信じがたい話である。

 

「はい。もう、姿を消してから長いようです。緘口令が敷かれていたようですが、その捜索範囲を拡大するにあたって、隠し切れなくなった様です」

 

「その口ぶりだと、死体は見つかってないのか。影が里抜けすることも考えにくい。となれば、何者かによって殺されたか、連れ去られたか。しかし証拠も残さず、一里の長を消すことが出来る者など……。いや……待て……。―――ミナト、まさか」

 

 畳間が目を見開き、ミナトが静かにうなずいた。

 

「はい。時空間忍術―――それがあれば可能だと……砂隠れは考えているようです」

 

「―――つまり、お前が三代目ではなく、まずオレのところに話を持ってきたのは……。砂隠れが下手人として疑っているのは……」

 

「はい。二代目火影様より瞬身―――飛雷神の術を直々に授かった唯一の忍。千手畳間様―――あなたです」

 

「……また、オレか。霧に、渦に、今度は砂か。次から次へと……嫌になるな」

 

 畳間は片手で顔を覆い、深くため息をつく。己のかつての不明が、今なお尾を引いている。弁解は、届かないだろう。今の畳間を知っているならばともかく、かつての畳間しか―――殺意と憎しみに囚われ、己の強さに己惚れていた畳間しか知らない他里の者が、弁明を聞き届けるはずがない。そして、先の戦争で三代目雷影を単身退けたという実績が、“出来るかもしれない”という裏付けとなってしまう。

 

「―――畳間様!!」

 

「今度はなんだ」

 

 慌ただしく掛けてきた忍に、畳間が辟易とした表情で声を掛ける。

 

「せ……」

 

「せ?」

 

「宣戦布告です!!」

 

「……早いな。砂か?」

 

「砂だけではありません! 岩、霧、雲―――木の葉を除くすべての五大里が、宣戦を布告!!!」

 

「嘘だろ……」

 

 畳間が呆然とし、ミナトが息を呑む。

 

 猿飛ヒルゼン、志村ダンゾウ、千手畳間、うちはアカリ、はたけサクモ、波風ミナト。三忍と謳われ始めた自来也、綱手、大蛇丸。若き九尾の人柱力。

 

 ―――木の葉包囲網。木の葉は、強くなり過ぎた。

 


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