綱手の兄貴は転生者   作:ポルポル

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家族を守る、千の手に

 九尾事件から数日。この数日は、畳間の人生の中でも、最も過酷な日々となった。

 影分身や木分身を各所の拠点へ送り出し、木の葉壊滅の報告に加えて、拠点を棄てよと、撤退の指示を告げる。現実を受け入れられず逆上する者や、呆然と立ち尽くす者、我を失い慌てふためく者もいたが、怒鳴りつけ殴りつけてでも里へ連れ戻した。

 開発者であるがゆえにその効率的な運用法を熟知していた扉間や、時空間忍術に卓越した才能を見せ扉間すら上回る練度を誇ったミナトと違い、畳間は飛雷神の術を得意とはしていない。一人二人であれば問題ないが、多人数をまとめて飛ばすには、封印術を応用した時空間結界の範囲内にその者を収め、移動に必要なチャクラを、人数分消費しなければならない。畳間はそれを、影分身で乱用した。

 影分身は、本体と比べて性能が大幅に低下するという弱点がある。水分身や土分身と比べれば上等なものだが、それでも、本体と比べればその性能は大きく落ちる。そして、影分身での飛雷神の術の使用には、凄まじい量のチャクラを使用した。一度使えば、分身を構築するチャクラの大半を消費し、分身は時を置かず消滅してしまうほど。

 加えて、影分身の術は、術者の体と脳に、分身体が経験した情報をフィードバックするという能力がある。つまり、チャクラを消費し疲弊した影分身の疲労は、その身を消滅させた瞬間、すべて畳間の体へと叩きつけられるということである。

 土、風、水、雷。四つの大国に隣接する国境周辺に位置する多くの拠点―――そのすべてに影分身を送り込み、畳間はそこに配置された木の葉の忍びたちを回収していった。綱手を始めとする木の葉の優秀な医療忍者が常に本体の畳間の傍で医療忍術を発動しその体力を回復し続けていたが、畳間の体の限界が近いことは明白だった。綱手や自来也ですら、もうやめてくれと懇願したが、それでも畳間は、疲労で内臓を痛め吐血し、細い血管が破れ鼻血を流しても、救援を送ることを止めようとはしなかった。すべては、里の家族―――その命を守るために。

 だが、畳間のしていることは、それだけではなかった。現在、木の葉隠れの里は、その周辺を巨大な金剛石の壁で覆われている。それは畳間の鉱遁によって作られた、最硬の防御壁。木の葉全体を覆う山中一族の感知結界に重ねるように展開されたそれは、木の葉隠れの忍びリストにチャクラを登録していない者が触れた瞬間、自動的に金剛の槍が生成されて攻撃し、触れた者を撃滅する超攻撃型の感知結界。それがあるがゆえに、木の葉の忍たちにとって、現在、木の葉隠れの里は最も安全な場所となっている。

 畳間は九尾襲撃の夜から、敵の先遣隊や遊撃隊の侵入を阻止するためにその壁を展開し、チャクラを使用し続けていた。しかし、いくら尾獣ほどのチャクラを誇る畳間であっても、里全土を覆い敵に反応し攻撃する結界を決戦の時まで維持することは不可能に近い。ゆえに、畳間は里の仲間たちに願ったのだ。

 現在、畳間の背中から、無数の木の枝が伸びている。そしてその枝葉は、多くの木の葉の忍びたちに握りしめられていた。木遁は他者のチャクラを吸収する性質を持ち、畳間は木遁を介し、木の葉の忍びたちからチャクラの供給を受けているのである。

 夫のそんな姿を見て居られず、アカリは防衛のため、うちは一族とともに里を走り回っている。瓦礫に埋もれた者や、人気のないところで助けを待っている里の仲間を助けるために。

 

 そして、決戦の朝が訪れる。

 白い牙と謳われるサクモ、父の傍にいることを望んだカカシや、ライバルとともに戦地に残ることを選んだガイなど、畳間のいた拠点に残った殿部隊を除き―――すべての拠点から木の葉の忍びが帰還する。

 

「……綱。サクモ……たちは……?」

 

「……」

 

 数日ぶりに立ち上がった畳間が、ふらつきながら、綱手に声を掛ける。綱手は畳間の声掛けに力なく首を振り、畳間もまた「そうか……」と力なく呟いた。

 任務中行方不明となった友たち。そして―――自ら行方を眩ませた一人の忍びのことを思う。

 

(大蛇丸……何故だ……)

 

 砂隠れの里へ偵察に出ていた大蛇丸に、木の葉壊滅の報告と、里での総力戦を行うため帰還せよという招集命令を持ち込んだ暗部たちが、他ならぬ大蛇丸の手によって皆殺しの憂き目にあった。死の間際、口寄せ動物にその報を託した勇敢な木の葉の忍の功績によって、畳間はその事実を知る。

 ―――最近、大蛇丸に関するよからぬ噂を耳にしていた畳間は、その噂が本当であったことを知り、ミナト達の死を知った時と同等以上の哀しみに襲われた。

 なぜ、大蛇丸は里を棄てたのか。敵に寝返ったのか、他に目的があるのか―――それは分からないが、大蛇丸という忍びが木の葉を棄てて身を隠したということだけは、覆りようのない事実であった。

 

「猿の兄貴……」

 

 隠しても隠し切れていなかった、大蛇丸の三代目火影への執着。畳間はそれを、師の意志を継ごうとする火の意志だと受け取っていた。

 実際、大蛇丸は、よく戦ってくれた。木の葉隠れのために、本当に、よく戦ってくれていたのだ。それがすべて演技だったというのだろうか。邪悪な目的を秘め、穢土転生を始めとする木の葉の禁術を手に入れるためだけに、周囲をだまし続けていたのだろうか。木の葉を棄ててでも叶えたい目的が、大蛇丸にはあるのだろうか。いつからだ。ずっと、里を抜けるタイミングを見計らっていたのか。それとも、木の葉が九尾によって壊滅し、滅亡の憂き目に立たされたがゆえに、木の葉では”野望”を叶えられないと考え、里を棄てたのか。

 大蛇丸を心の底から信頼していた畳間が心に負った傷は大きい。それでも、畳間は四代目火影亡き今、里の最高司令の立場にいる。私情に囚われ、立ち止まることは許されない。決戦の時は、間近に迫っているのだから。

 畳間はその悲報を、綱手と自来也を始め、誰にも話していない。根の最高責任者の裏切りは、今、決戦を前にしてギリギリのところで踏みとどまっている里の仲間たちを絶望の闇へ叩き落すことになる。畳間はただ一人、胸にその苦しみを抱え込む。

 だが、もう、畳間が折れることはない。折れるには、その身を支える絆が増え過ぎた。

 

「綱……。自来也と、アカリを呼んでくれ。準備を始める」

 

 綱手は畳間の言葉に力強く頷き、その場を駆けだした。

 

「頼む、みんな……。時間を、稼いでくれ」

 

 走り去る綱手の背を見送った畳間は、これより死地となる場所へ、祈りを込めて視線を向けた。

 

 

 

 

「うちは一族よ!! 我ら木の葉警務隊!! 木の葉を守る『最後の砦』!! 心せよ!! 同胞たちの誰よりも先に倒れるべきは我らであり!! 我らが倒れなければ、同胞たちが倒れることはない!! 誇り高きうちは一族よ!! 死してなおその責務を果たせ!! 今ここに!! 戦国最強を謳われた、我らうちはの名を示せ!!」

 

「おおおおおおおお!!」

 

 うちはフガクを先頭に、うちは一族の総力を結集した部隊が、金剛石の壁唯一の出入り口である木の葉の正門前に立ち並ぶ。フガクの声に、一族は雄々しい雄たけびを上げる。

 うちは一族の後ろに、日向、秋道、奈良、山中、油目―――木の葉隠れが誇る名門一族たちが立ち並ぶ。

 

 そしてその正面に立ち並ぶのは、木の葉の数倍の勢力を誇る、人型の白い化け物たち。そして、その奥に控える軍勢もまた、木の葉の数倍の勢力を誇る、対木の葉連合軍の忍びたち。その先頭に立つのは、四代目雷影、四代目風影、三代目水影、そして三代目土影。

 

「ふん。既に満身創痍で、良く言うもんじゃぜ。まあ確かに、この里を覆う大結界は大したもんじゃった。よもや、ワシの塵遁すら通さん……術に対する無敵の守りを誇るとは」

 

 三代目土影が鼻を鳴らす。

 事実、その通りだった。九尾襲撃の傷は癒えず、里の忍びたちは拠点より帰還した者達を除いて、その身はボロボロだった。それでも折れぬ意志は、掻き消えぬ火の意志は―――誰よりも過酷な戦いをしている、千手畳間という一人の忍びを信じるがゆえのもの。

 最後の帰還者を受け入れた段階で、畳間の自動防御結界はその能力を失い、ただ硬いだけの壁となった。オオノキの塵遁すら通さないその城壁は、その能力を失おうとも生半な方法で破れるものではない。しかし、籠城は悪手だった。壊滅した里にどれほどの食料が残っているのか疑問であるし、里を包囲されれば食料の供給が絶たれ、いつか飢えで命を落とすことになる。すべての戦力を集結させた今こそが、最初にして最後の―――勝利の機会。

 

「しかしオオノキよ。信用できるのか、この白い奴らは」

 

「さて、の。木の葉に恨みがあるという者たちの……砂の傀儡の術にも似た妙な術の操り人形ということらしいがの。”昇り龍”の去った木の葉の拠点を陥落させておる。信頼は出来んが、信用はしてよいじゃろう」

 

 四代目エーの言葉に、オオノキが応える。

 

「私たちも参戦した方がよいのではないか?」

 

 木の葉に奪われた砂金を取り戻すという切実な事情を抱えた風影が他の影たちに参戦を促すが、オオノキが首を振る。

 

「いつ、昇り龍が出て来るとも限らん。奴は、手強い。ワシ等四影で処理する必要がある」

 

「ふむ……」

 

 父を殺された四代目雷影。一対一で敗北した風影と、翻弄されるに終わった土影。彼らは皆一様に千手畳間への警戒心を強く持っており、畳間の参戦までその力を保持しておく算段だった。

 

「だが、この白いのは誰の指示で動く? もともと指揮を執っていた木の葉の抜け忍とかいうくノ一は、先の戦いで”昇り龍”に殺されたと聞く」

 

「黒いのがどっかにおるんじゃぜ。そいつが、指揮を取る」

 

「なるほどな……」

 

 オオノキの言葉に、エーが頷く。その隣で、八尾の人柱力たるビーが、普段の陽気さを感じさせない深刻な様子で、「嫌な予感がする」と言った。それを言っているのは、正確にはビーの中にいる八尾のようだが、エーがそれを聞き返す前に、白い化け物の軍勢が動き出す。

 

「そろそろ、始まるようじゃぜ」

 

 ―――二つの軍勢が、激突する。

 

 うちは一族を相手にするには、二人以上で掛かるべし。一対一なら必ず逃げろという言い伝えがある。写輪眼は目を合わせただけで対象を幻術に叩き落すことが出来る瞳術であるが―――うちはどころか、木の葉の総力を集めてなお、敵は数倍の数を誇った。

 火遁・豪火球の術。うちは一族は同時に火遁の印を結び、術を発動する。合わさった火の玉はともすれば尾獣玉に匹敵する巨大さへと成長し、先頭の白い人型たち―――白ゼツを焼き尽くす。しかし、仲間の死体を乗り越えて、次々に白ゼツの軍勢が押し寄せた。

 フガクの隣に立っていた者が、白ゼツの突進を受け、白ゼツとともに倒れ伏した。助ける間もなく、次々と白ゼツたちは覆いかぶさり、倒れたうちはの者を圧死させる。フガクは苦無を振るい首を切り裂くが、視線を動かした途端、死角から新たな白ゼツが現れる。

 その襲撃を別のうちはの者が阻止し、今度は襲撃を阻止したうちはの者が、白ゼツの雪崩に呑み込まれる。呑み込まれたものを助けようと刀を振るううちはの者が、さらに白ゼツの波に攫われた。

 

「怯むな!! 進めえええ!!」

 

 写輪眼を万華鏡へと至らせ、フガクが術を発動する。

 

 ―――天照。

 

 白ゼツの一体が燃え上がるが、しかし白ゼツたちは怯むことなく、燃えながらでもフガクへと突進する。

 

 ―――白ゼツの群れが、ぴたりと止まる。

 その足元から延びる影。奈良一族の影縛りの術。

 同時に、フガクの後ろから轟く巨大な足音。秋道一族の倍化の術である。巨大な掌が白ゼツの真上から叩き落され、山中の者に操られた白ゼツたちが自らその身を掌底の下へ投げ出した。押しつぶされる直前、黒い影は繋がりを解き、同時に、白ゼツたちが潰される。

 だが―――巨大な掌が白ゼツたちを押しつぶした瞬間、さらに多くの白ゼツたちが飴に集る蟻のようにその掌に群がり、巨大化した秋道一族の者の体を白い波で呑み込んだ。

 

「―――八卦・百二十八掌!!」

 

 別の場所では、日向一族の者が一族の奥義・八卦六十四掌すら越えた体術を繰り出すが、白ゼツはその身を朽ちさせながら日向の者にしがみつき、身動きの取れなくなったところを、大勢で蹂躙した。油目一族の虫が白ゼツの体に群がりチャクラを吸収し始め、あるいは毒を注ぎ始めるが、滅びる前にその体が飛散する。

 直後、多くの木の葉の忍びの体から、白ゼツが生えだした(・・・・・)。混乱する忍びたちが、その隙を突かれ、白い波に呑まれる。

 

「こいつら、寄生するぞ!! 火遁を使え!! 燃やすんだ!!」

 

 そう言いながら、起爆札と火薬玉で己の体を燃やす木の葉の忍び。体の自由を奪われ、新たに生まれようとする白ゼツの誕生を阻止するため、己の命を犠牲にしたのである。

 

 

「―――丸!!」

 

 生まれた時から一緒だった相棒の忍犬が寄生され、見るも無残な姿へ貶められた姿を見て、犬塚の者が悲鳴を上げる。そして、その者もまた、白い波に呑み込まれた。

 

 蹂躙。それは、蹂躙と呼ぶにふさわしい、地獄絵図の如き光景だった。

 

 火遁を得意とするうちは、猿飛一族は懸命に火遁の術で白ゼツたちを燃やし続けるが、まるでゾンビのように、燃えながらなお白ゼツたちが近づいてくる。そして前線を押し上げる白ゼツの後ろから、またさらなる白ゼツが怒涛のように押し寄せるのだ。 

 木の葉の忍びたちが、徐々にその数を減らしている。白ゼツもまたそれ以上の数を減らしているというのに、戦力差はまだ歴然だった。

 そして、前線が突破される。後方支援をしている山中・奈良一族の下へ、怒涛の如き勢いで押し寄せる白ゼツ。影縛りでも、心乱身の術でも、数が多すぎて対処しきれない。支援部隊が崩壊すれば、前線もまた崩壊するは必至。うちはの者たちが火遁でこれらを撃滅せんとするが、数が多すぎる―――。

 

「―――昼虎ァ!!」

 

「雷切!!」

 

 突如として現れた巨大な青い猛獣(トラ)が白ゼツの大軍を横殴りに押しつぶし、雷の一閃が白ゼツの大軍を切り裂き、薙ぎ払った。

 

「木の葉の気高き青い猛獣!! マイト・ガイ見参!!」

 

「ガイ! 名乗りなんてしてる余裕……無いでしょ!!」

 

「カカシ! ガイ!!」

 

「お前たちがいるということは、サクモさんは!?」

 

 行方不明となっていた、若き忍びたち―――マイト・ガイと、はたけカカシの帰還。

 山中一族の当代となったイノイチが喜びの声を上げ、奈良一族の当代・奈良シカクが、カカシの父であるはたけサクモの行方を聞く。三忍すら越えると言われる、木の葉の白い牙。一時は掟破りの誹謗中傷を受け引退すら考えたが、里の危機に立ち上がった男。そんな男が参戦してくれればと―――期待を抱き問いかけた。

 

「―――父さんは、最期までオレの英雄だった。オレは、その意思を継ぐ……っ!!」

 

 三つ巴を越え、万華鏡へと至った写輪眼を、カカシは白ゼツの大軍へ向ける。カカシの言葉にはたけサクモという一人の忍びの終わりを悟る。

 若き、しかし次代を担うに値する者たちの参戦は―――微々たるものだったが、それでも、木の葉は勢いづいた。木の葉は数を減らしたが、それでも、木の葉は白ゼツの数を減らし続ける。

 

 木の葉隠れの忍びたちの奮戦によって、白ゼツの戦力を、遂に木の葉の忍びが上回る。死地の中で活気づく木の葉の忍びたち。

 そして―――

 

「仕方あるまい。―――出るぞ」

 

 ―――影が動き出す。

 

 凄まじい勢いで突っ込んでくる人影に反応できたのは、はたけカカシただ一人。カカシは雷を纏った片腕で、その突撃を押し留める。

 

「”白い牙”の息子!! 奴には手を焼かされた!!」

 

「四代目雷影……っ!!」

 

 全身を雷遁で活性化させた雷影に対し、カカシは片腕のみで対応を強要される。

 カカシの危機を救わんと、ガイが凄まじい速さで駆けだすが、突如として足元から突き出した黄金の槍がその足を止める。ガイは後方へ飛ぶが、それを追うように次々と黄金の槍は生み出されていく。

 

「風影か……!!」

 

 カカシと引きはがされることにガイは歯噛みをするが、相手は砂隠れの里の頂点に君臨する男。七門を無理やり解き放ったとて、未だ若いガイには荷が重い相手だった。その剛力を以て地面を蹴り、風影に肉薄しようとするが、黄金と黒鉄の壁がガイの前に立ちふさがる。ガイは心血を込めた拳でその壁を何度も何度も殴打し、また踏みつけるように蹴りを打ち込むが、これを打ち破ることは出来ず―――拳は血に染まり出す。そして、砂鉄に触れた拳と足は磁気を帯び―――ガイの両腕両足は、気づけば砂鉄によって封じられていた。そして、ガイの腹部を、黄金の槍が貫いた。

 

「―――ガ……ッ」

 

「ガイッ!!」

 

 血反吐を吐き出すガイを見て、カカシが叫ぶ。だが―――。

 

「よそ見を……するなァ!!」

 

 雷影の拳が、カカシを殴り付ける。

 カカシが、地面に激突を繰り返しながら、吹き飛んでいく。拳の直撃は、両手を交差することで寸前で阻止したが、胴体を守った腕は圧し折れ、もはや使い物にならなくなった。

 吹っ飛んだカカシに、雷影が追撃を仕掛ける。

 雷影が放つ技は、その父・三代目エーが得意とした体術。―――雷遁抜き手。

 

「カカシ……!!」

 

 ガイの呻きにも似た悲鳴。

 

 倒れ伏すカカシを、雷影の攻撃が迫る。だが―――。

 

「―――神威!!」

 

 空間を捻じ曲げ対象を異空間へ葬り去るカカシの万華鏡写輪眼―――神威。

 だが、痛みによる視力の低下と、雷影の速度によりその焦点は合致せず、左腕を奪うに留まった。

 

「ぐ……っ」

 

 雷影は呻き声を上げる。しかし、雷影は走ることを止めなかった。腕一本失ったというのに、反対の腕で、カカシを仕留めようとしている。

 

「カカシ、逃げろ!!」

 

 ガイが叫ぶが、カカシは倒れ伏したまま動かない。意識はある。しかし、神威を使うためにチャクラを大量に消費した反動で、体が言うことを聞かなくなってしまっていた。

 

「―――死門」

 

 友を死なせない。死なせたくない。ガイは父より受け継いだ禁術を解き放とうとするが、両腕が砂鉄に塞がれて、死門を開くことが出来ない。

 

「カカシ!! 逃げろ!!」

 

 ―――影の参戦。

 

 ―――白ゼツの増殖。

 

 絶望的な状況の中、倒れていく仲間たちをフガクは目の当たりにする。自身もまた血と泥に薄汚れ、万華鏡写輪眼を酷使した両目からは、血涙が流れ落ちている。

 日向の当主も、奈良の当主も、山中の当主も、秋道の当主も―――若き忍びたちも、木の葉のあらゆる者が、血みどろになって戦っている。必死に、文字通りの覚悟を以て戦っている。それでも、それでも―――足りない。

 

「こうなっては仕方ないのぉ。終わらせるとするか。この―――戦争を」

 

 頭上から、声が聞こえた。

 見れば、ふよふよと宙を浮かぶ忍びの姿。

 

 ―――両天秤のオオノキ。

 

 その男を、フガクは知っていた。その術の恐ろしさを、フガクは知っていた。血継淘汰・塵遁。あらゆるものを原子レベルで分解する、凶悪な殺人忍術。今それを放たれれば、木の葉隠れの里は、真の意味で壊滅する。

 是が非でも阻止しようと万華鏡にチャクラを込めるが、生き残っていた白ゼツが盾となり、その黒炎は届かない。

 

 ―――絶望が、押し寄せる。

 

「畳間ァァアア!!」

 

 フガクが、雄たけびを上げる。

 

「もう遅い。―――塵遁」

 

 その時―――

 

「鉱遁・金剛槍破!!」

 

 ―――頭上から、数え切れないほどの金剛の槍が降り注いだ。

 木の葉の忍びたちを避け、その無数の槍は敵を狙い撃つ。白ゼツたちは為すすべなく串刺しにされ、胞子に成ろうとした白ゼツたちは、槍から形状を変え球体となった巨大な金剛石の中に拘束される。

 カカシを狙っていた雷影は後退を余儀なくされ、風影は飛び下がりながらその身を砂鉄の壁で守り、土影は術を解除して空へ回避する。

 

 そして―――上空から、一人の男が舞い降りた。

 

 火影装束にも似た紫の外套を閃かせ、古ぼけた木の葉隠れの額あてを鈍く輝かせたその男―――千手畳間が、そこにいた。

 

 畳間が周囲を見渡す。荒れ果てた大地。倒れ伏した木の葉の家族たち。

 

「……カカシ、ガイ。良くぞ、生きて戻った。……サクモのチャクラを感じないが……あいつは……?」

 

「……」

 

「そうか……」 

 

 カカシの無言の返答に、畳間が静かに目を伏せる。

 

「”昇り龍”。今更来たところで、遅いというもんじゃぜ。今更、何をしに来た?」

 

 ―――この戦争を、終わらせに。

 

 オオノキの言葉に、畳間が返す。

 確かに、畳間が死ねば戦争は終わると、オオノキが言う。

 

 畳間はそんなオオノキの挑発を無視し、静かに両掌を合わせ、目を閉じた。同時に、畳間の足元から、封印術の術式が展開される。術式の範囲内に木の葉の忍びたちすべてを収め―――次の瞬間、木の葉の忍びたちがその場から消えた。

 ―――そして、畳間が目を開く。

 

「―――それは……っ!!」

 

 畳間の顔を見たオオノキが、驚愕に目を見開く。

 

 ―――仙法

 

「く……っ!」

 

 畳間がしようとしていることを察し、それだけは阻止すると、オオノキが両掌を合わせた。

 

「塵遁―――」

 

 オオノキが両掌を合わせ、塵遁の発動を開始する。

 

 ―――木遁・

 

「原界―――」

 

 

 ―――真数千手

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――その日、数多の犠牲を生み出した第三次忍界大戦が、終結した。


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