綱手の兄貴は転生者   作:ポルポル

74 / 156
影を生きる者達

「わざわざこんなところまで、ご苦労なことねぇ? ……自来也。そんなに”友”が……いえ、そうね……。畳間先輩風にいうなら、”家族”が恋しかったかしら?」

 

「ほざけ。お前はもう―――友でも、家族でもないのォ」

 

 赤い隈取を施し、額に”油”を掲げた大男―――自来也。

 青白い肌に黒い長髪の細身の男―――大蛇丸。

 雷の国の辺境―――霜の国との国境に近い森の中で、二人の忍びは相対した。

 

「ふふ。酷いこと言うじゃない。哀しくなるわね」

 

「……どの口でほざきやがる」

 

 自来也と大蛇丸は皮肉を言い合いながら、互いに隙を探っている。

 片や木ノ葉隠れの里における”闇”の統括”根”のトップに君臨した男。

 片や妙木山の蝦蟇仙人たちの教えを受けた仙人にして、九尾事件の英雄。 

 

 幼馴染であり、好敵手であり、友であった二人は、互いの実力を見誤ることはない。大蛇丸の駆使する無数の術による絡め手は凶悪であり、自来也の”仙人”としての力は強大。互いに、油断などできるものでは無い。

 ”自来也の弟子がいずれ世界の未来を大きく変える”という予言を大蝦蟇仙人より授かったことで、自来也はその予言の子を探すための旅に出ており、第三次忍界大戦に参戦することが出来なかった。師の戦死の報を聞いてなお―――いや、だからこそ、一刻も早く平和への種を見つけなければならないと、使命を優先する道を選んだ己と違い、里のために戦い続ける大蛇丸を、自来也は友として誇りに思い、強い尊敬の念すら抱いた。かつて抱いていた、類稀な才能を誇る大蛇丸への劣等感は既に無く、ただ厚い信頼がそこにはあった。大蛇丸がいれば木ノ葉隠れの里は大丈夫だと―――そう思ってすらいたのに。

 

「大蛇丸……。里の忍びの何人かを実験のために手に掛けたことは、調べがついておる。貴様、なぜ木ノ葉を……畳の兄さんを裏切った!? 畳の兄さんがどれほどお前を……お前のことを……っ!!」

 

「愚問ね自来也。簡単なことよ。木ノ葉にいては、私の”夢”は果たせないと思った。ただ、それだけのことよ。……あのとき、四大国に包囲され、サクモ先輩やミナトを失った木ノ葉が生き残れるとは到底思えなかったもの。泥船に乗って沈むつもりは無いわ。初代火影の孫で、私の最も尊敬する火影―――扉間様の御弟子とは到底思えないほどか弱い(・・・)畳間先輩が、あの逆境を打ち破れるとは……とてもとても。ふふふ……」

 

「大蛇丸……ッ!!」

 

 決戦を終え、治療を終えた畳間より、自来也は大蛇丸の里抜けを聞かされた。大蛇丸の裏切り―――戦時下において行方不明となっていた木ノ葉忍びたちの何名かが大蛇丸によって捕獲され人体実験の材料とされていたこと、そして大蛇丸のもとへ送った暗部が皆殺しに合ったことを伝える畳間の表情は酷く憔悴していたことを思い出す。

 畳間の五代目火影襲名の披露口上を聞いた自来也は、信じ可愛がっていた後輩である大蛇丸の裏切りすらも耐え忍ぼうとする強い覚悟を感じ取り―――強い哀しみと憤りを覚えた。

 

「畳の兄さんがどれほどの想いを耐え忍んできたか……、傍にいたお前が一番わかっとるんじゃぁないのか!? 畳の兄さんが里や木ノ葉の家族への被害を考えず、その気になれば(・・・・・・・)、兄貴分である猿飛先生を奪った岩隠れ、ご両親を殺した雲隠れを滅ぼすことなど容易だった!!」

 

 冷戦に縺れ込んだ、第三次忍界大戦の終盤―――鉱遁を習得し、うちはと千手の魂を真の意味で融合させた畳間は、真数千手こそまだ使えずとも、四大国の里一つを相手取ってなお勝利できる実力をすでに有していた。戦国時代から時が流れ、現在の忍びたちには想像も出来ないような”化け物染みた実力者”たちが軒並み世を去った現代において、千手畳間は名実ともに最強の忍びである。それどころか、戦国時代においてもトップクラス―――伝説に謳われる初代火影柱間や、うちはマダラにすら匹敵するのではないかと、自来也は考えている。

 そんな畳間が動かなかったのは、なにも冷戦に移行したからという理由だけではない。畳間が里を不在とした隙を、敵に狙われることを避けるためだった。家族を―――守るためだった。

 事実、畳間が不在の時を狙って行われた九尾事件において四代目火影は―――自来也の弟子であるミナトは若くして命を落とし、里は壊滅的打撃を受けた。当時、いかなる理由でミナトが動けなかったのか―――その理由は自来也には分からない。だが、ミナトが九尾が暴れ出そうとしたときに、里に居なかったことは事実である。

 ゆえに自来也がいなければ、木ノ葉隠れの里は尾獣玉の直撃を受け、消滅していた可能性が高い。里の総力を挙げ、そして普段里におらず、たまたま里に戻っていた自来也の奮戦があってようやく、木ノ葉は間一髪のところで、最悪の被害を免れることが出来たのだ。

 しかし逆を言えば、それだけ自来也の力が強大であるとも言える。それはつまり、仮に戦時下において自来也が里に居れば、畳間はもっと自由に動けたということでもある。

 自来也は、知らぬうちに里全体に掛けていた不自由を、戦後ようやく自覚した。木ノ葉の仲間でありながら、その苦境において何の力にもなれなかった自分の愚かさを知った。自来也は、予言の子の捜索が間違っているとは思っていないし、畳間もまた自来也の考えを受け入れているが、それでも―――己を責めざるを得なかった。

 畳間は、三代目火影という先達を亡くした若き四代目火影に、本来は直接の師である自来也が示すべき”険しい道の歩き方”を、孤独に示し続けた。彼は歯を食いしばり涙をこらえ、痛みも憎しみも耐え忍び、迷い苦しみながら、それでも一人先頭に立ち、後に続く者のために道を作り続けて来た。畳間も先達を失いながら、しかし若くして多くの重責を背負わざるを得なかったミナトにとっては唯一残る”先達”として、その責務を果たそうとした。 

 

 だからこそ、自来也は自身が兄貴分と慕う畳間の信頼を裏切り、その心を傷つけた大蛇丸を許すことが出来ない。自分がしたくとも出来なかった畳間の右腕という立場を容易に捨て去り、今は亡き師の信頼を踏みにじり、我欲を優先した大蛇丸を容認することができない。

 

「大蛇丸、教えてくれ。お前の夢ってのは、なんなんだ。畳の兄さんや猿飛先生の信頼を裏切ってなお、叶えるべきものなのか?」

 

 しかしそれでも、幼少期を共に過ごした大蛇丸に、自来也は望みを掛けたかった。また綱手も含めた三人で笑い合い、畳間の下に集える未来を、自来也は捨て去ることは出来なかったのだ。だが自来也の淡い希望は、他ならぬ大蛇丸によって、踏みにじられる。

 

猿飛先生の(・・・・・)木ノ葉を守ること―――とでも言えば満足かしら? それとも、子供たちの未来を守るため、なんてどうかしら? 畳間先輩は、それはそれは喜んでくれたけど。自来也、あなたはなんて言ってほしいのかしらねぇ? そうね……こういうのはどうかしら? 偉大なる初代火影より受け継いだ火の意志を胸に、この痛みを耐え忍び―――」

 

「―――もういい、大蛇丸。それ以上喋るな。よく分かったのォ。お前は―――木ノ葉の敵だ」

 

 畳間の五代目火影襲名の挨拶すらも侮辱した大蛇丸の物言いは、自来也の逆鱗に触れた。

 その眼は鋭く吊り上がり、怒りの色がにじみ出て居る。

 

「あら、心外ねぇ。私は本当のことしか、言っていないのに」

 

「大蛇丸……。忍びの世のため、木ノ葉のため……お前はワシが―――ここで殺す」

 

 畳間にかつての同胞殺しを、これ以上させるわけにはいかない。その心に、これ以上の重責と痛みを与えることは、自来也には出来ない。大蛇丸の友として、そして五代目火影の弟分として、自来也はそれが己の責務だと認識する。

 自来也は木ノ葉隠れの里を出て再び旅に出ると畳間に伝えた際、その本心を隠した。畳間には旅に出る理由を、『予言の子の再捜索』とだけ伝え、それを信じた畳間は自来也の旅の幸運を祈り、宴会まで開き送り出してくれた。自来也は畳間の優しさが嬉しかったが、同時に心が痛んだ。

 『予言の子』の捜索―――それは確かに事実であり、自来也のこれまでの旅の目的であったことに間違いはない。しかし今回の旅においては、違う。自来也にとって、旅の目的はそれだけではなかったのである。自来也には一つだけ、目的が増えていた。それこそが、自来也の心に針を刺した理由。すなわち―――大蛇丸の捜索と、殺害だった。

 千手畳間は戦争において山中イナを―――かつての木ノ葉の同胞であり、憎からず思っていた女性を殺害している。第二次忍界大戦において畳間と綱手の弟縄樹を殺し、畳間の同期たちを殺害した―――とされる女性。木ノ葉の裏切り者の抜け忍。

 自来也からすれば、そんなものは嘘っぱちである。片腹痛い。あの優しい人が、千手畳間という男を裏切るわけが無い。絶対にありえない。そんなものは畳間とイナへの最大の侮辱だ。山中イナは少なくとも、己が意思で木ノ葉を裏切ってはいない。自来也はそれを断言できる。

 しかし畳間はイナを抜け忍として処理することを黙認した。

 自来也はそんな畳間や上層部に憤りも感じたが、しかし何か譲れぬ理由があるのだろうと、詰め寄ることは自重した。畳間の心の内を想えば、そんな真似は出来なかった。

 多くの痛みを耐え忍ぶ、『畳の兄さん』。彼は今里を守るため、五代目火影として、日夜憎しみと戦っている。子供たちの存在が畳間を癒しているが、しかし戦争で負った心の傷は大きく、深い。自来也とて本当は、偉大な火影となった畳間を、傍で支えたかった。

 

 だが、今世界は平和へと歩み始めたばかりであり、抜け忍とはいえ、かつて木ノ葉の忍びであった大蛇丸を放置することはあまりに危険だと自来也は考える。

 五代目火影は強く、他の里も木ノ葉に直接的に干渉することは難しい。だが一方で、畳間は自身が『情け深いがために感情に左右されやすい』ことを自覚しているがゆえに、公の場では条約を順守する傾向にあった。当然のことと言えば当然のことであり、むしろ過去容易にそれを破った他里の方が可笑しいのだが―――無法を相手に法は盾とならない。ゆえに里には”闇”があり、憎しみが生まれる。

 今の畳間は穏やかで優しく、初代火影を彷彿とさせる人物へと成長しているが、同時に、冷たさを併せ持っていることを、自来也は知っていた。かつて過激だったがゆえに身内を切り離せず激情に呑まれた畳間は、穏やかになったがゆえに―――里のためであれば、友であっても我が子であっても、苦悩の末には切り捨てるだろう。かつて初代火影が、マダラを殺害したように。

 その覚悟が今の畳間にはある。しかし、それは決して、里の利益のためなどではないし、断じて利己的な理由からではない。”里の存続”という根本的な問題に直面した時にのみ、他に手が無いのならば、厭わないと言うだけだ。だがこれまでの他里は、平然とそれを木ノ葉に突きつけて来た。これからはそうしないなどという保証はどこにも無い。

 

 自来也が危惧しているのは、大蛇丸の存在と条約を盾に、再び他里が木ノ葉に詰め寄るのではないかということだ。大蛇丸の存在が、精神的にも肉体的にも成長し、忍界最強と謳われるようになった千手畳間唯一の弱点となりかねない。

 

 「追い忍を」と詰め寄った自来也の言葉を、今の里に大蛇丸を殺せる忍びも、追い忍を出せる余裕もないことを理由に、畳間は受け入れはしなかった。ならば自分がと言えば、「友を殺すようなことはさせたくない」と悲しげに言った。

 大蛇丸を殺せるのは、実力的に見て、畳間か自来也の二人。畳間の言葉の裏には、「いつか自分が始末する」という意志が見て取れた。

 だが自来也は、可愛がっていた後輩を殺すようなことを畳間にさせたくない。うぬぼれとも言えるかもしれない。火影―――里の父である畳間に、子供が何を生意気なことをと、師であるヒルゼンには怒られるかもしれない。畳間も、自来也が大蛇丸を殺したと言えば、受け入れはすれども、そうさせた自身の非力を嘆くだろう。

 ゆえに自来也は旅立ちの時、その真意を口にすることをしなかった。大蛇丸を殺しても、自来也は畳間にそれを告げることは生涯無いだろう。ある時を境に大蛇丸は消息を絶つ―――それで良いのだ。それで終わりだ。時の流れと共に畳間の中で大蛇丸の記憶は薄れ、忘れ去られていく。

 

 子供たちと本当に楽しそうに、そして嬉しそうに戯れる畳間を見て、自来也は誓ったのだ。里で過ごす大切な人々の穏やかな日常を、ようやく訪れた平和な日々を、決して壊させはしない。

 戦時中に何もできなかった不肖の弟分として、そして大蛇丸の変質に気づけなかった愚かな友として、『畳の兄さん』が二度と哀しみ苦しまぬよう、大蛇丸を―――殺す。

 ただ里の”影”として、木ノ葉を守る。自来也はもう、かつて憧れた英雄に成れずとも構わなかった。

 

 闇で動き、影で里の敵を処理する。奇しくも―――二代目火影が志村ダンゾウに求めたものを正しく受け継いだのは、ヒルゼンの弟子である自来也だった。

 

「ブン太ァ!! 油だァ!!」

 

 口寄せの術。妙木山より呼び出された大蝦蟇―――蝦蟇文太は、自来也の声と目前の大蛇丸の存在により状況を即座に把握し、瞬時に口内で練り上げた蝦蟇の油を射出する。

 

「火遁・蝦蟇油炎弾!!」

 

 自来也の放った火遁・炎弾は、蝦蟇文太の放つ蝦蟇油弾に引火し、爆発的な炎上を起こしながら、大蛇丸へ向かっていく。

 

「土遁・土流壁!!」

 

 大蛇丸の前に見上げるほどに巨大な土の壁が出現し、その威力に崩れ落ちながらも、蝦蟇油炎弾を堰き止める。

側面―――爆炎と黒煙の中から、螺旋丸を構築した自来也が飛び出してくる。

 大蛇丸は目前に迫る自来也の腕を片手で弾き上げて軌道を変えると、もう一方の手のひらに小型の暴風を生み出し収束させる。

 

「烈風掌!!」

 

 直撃の軌道。しかし、突如自来也の髪がうごめき、鋭利な針山の壁となった。

 髪の壁を突き抜けた風圧に自来也が吹き飛び、大蛇丸の手に無数の穴が開いて血まみれになる。

 上空から巨大な短刀を振りかざしながら、文太が飛び降りて来る。

 大蛇丸は後方に飛びながら腕を伸ばす。その手は人間とは思えない長さにまで伸び続け、蛇のように蠢きながら、ブン太の両後ろ足に凄まじい勢いで何重にも巻き付き、縛り上げた。バランスを崩したブン太が倒れ、大蛇丸の手が”蛇”へと変わり、分離する。人間のものに戻った両手で印を結び、口から不可視の風刃を吐き出した。

 体勢を立て直した自来也が土遁の壁を作って文太を守りつつ、大蛇丸に肉薄する。

 

 自来也が大蛇丸の頭部へ掌底を放ち、大蛇丸がそれを片手の回し受けで回避する。大蛇丸の片手での抜き手を自来也がもう片方の手で叩き落し、流れる動作で膝蹴りを放てば、大蛇丸もまた膝蹴りによって迎え撃った。

 大蛇丸の顔の側面を狙う自来也の肘打ちを大蛇丸がしゃがみ込んで避け、自来也は大蛇丸の逆立ちからの蹴り上げを半歩下がって回避する。

 裏拳、正拳、肘打ち、回し蹴り、膝蹴り―――互いに打たれれば下がって避け、下がれば打ち返した。あるいは放たれた拳や蹴りを受け止めて、それを相手の隙として、急所へ向けて拳や蹴りを放つ。

 自来也の影分身が木の陰から飛び出し、螺旋丸を放った。気づいた大蛇丸は目の前の自来也からの攻撃を敢えて体に受け、その衝撃を利用して後方へ飛んだ。風遁で影分身を潰しながら、本体の追撃をけん制する。自来也は髪を動かして体を覆い、大蛇丸の風遁から身を守る。

 その隙に大蛇丸は飛び下がりながら体制を立て直すために、しゃがんで滑りながら減速し、ゆっくりと立ち上がる。

 同時に、自来也の隣に拘束から抜け出した文太が大きな音を立てて着地し、立ち並んだ。

 

「……強くなったわね、自来也。子供の頃は、私の圧勝だったと思ったけど」

 

「……なぜ口寄せでマンダを呼ばん」

 

「あの子、気性が荒いでしょう? あとで生贄なんて要求してくるんだもの……。ふふ……たまらないわ(・・・・・・)

 

「そいつぁ、どっちの意味だのォ」

 

 嗜虐的な笑みを浮かべる大蛇丸に、自来也が吐き捨てるように言う。

 

「ブン太も厄介だし……。仙術もまだあるんでしょう? これは私も分が悪いかしら」

 

「……」

 

 言葉通りに受け取るほど、自来也は愚かではない。何か策があるとみて、注意深く大蛇丸の動きを見つめる。

 

「しょうがないわよねぇ? あなたは九尾事件の英雄で、”木ノ葉の三仙”の一人」

 

 畳間、アカリ、自来也―――木ノ葉隠れの里において仙術を扱えるのは、この三名だけである。ゆえに木ノ葉隠れの人々は敬意をもって、この三人を”木ノ葉の三仙”と呼ぶ。

 互いにほとんど傷を負わず、現状実力は互角と言って良い。大蛇丸は余力を残してはいるが、しかし自来也には仙術があり、戦闘力をもう一段階引き上げることが出来る。素の状態では大蛇丸の方が強くとも、仙術を使われればその力の差は逆転する。高い実力に加えて絡め手を得意とする大蛇丸は攻防に隙が無く、忍界を見渡しても上から数えた方が早い実力者であるが、仙人を相手に勝てる実力は持ち合わせていない。ゆえに―――。

 

「私も口寄せを使わせて貰おうかしら……」

 

「来るぞ、ブン太!」

 

「おうよ。マンダの野郎、ここで決着付けてやるけぇのォ」

 

「―――口寄せの術!!」

 

 現れたのは、自来也の想像していたものでは無かった。

 それは、「三」と記された棺桶が、一つ。

 その文字を見てすべてを察した自来也が驚愕に目を見開き、唇を震わせる。

 

「まさか……」

 

「ふふ……。羨ましいわね、自来也。師を越える喜びというものを……あなたは味わえるのだから」

 

 きしむ音を立てながら開く棺桶から現れたのは―――黒い戦装束を身にまとった、木ノ葉の額当てを付けた男。自来也が敬愛した恩師。

 ―――三代目火影・猿飛ヒルゼンの、亡霊だった。

 

「―――大蛇丸貴様ァァアア!!!」

 

 自来也の怒声が、森の中に響く。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。