綱手の兄貴は転生者   作:ポルポル

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本来の使い方

 一つ、二つと、ヒルゼンが歩みだす。俯いた姿勢からはその表情は読み取れないが、自来也にとってはそれが有難かった。大蛇丸を背に庇う位置取りで立ち止まったヒルゼンに、自来也は今の表情を見られたくなかった。

 幼いころ、自来也が大蛇丸との組手に負けたとき、加減が苦手な大蛇丸がやり過ぎないように、ヒルゼンはよく自来也を背に庇ってくれた。あの大きな背中を、自来也は否が応でも思い出してしまう。

 弟子を庇う先生と、対峙する弟子。かつてと構図は同じでも、その立ち位置は逆転した。里を守り抜いたあの偉大な背中は今、里の脅威を守ろうとしている。守らされようとしている。

 その現実は、言葉に出来ぬ痛みを自来也に与えた。

 

「猿飛先生……」

 

 先の戦争で、うちはアカリを―――後の五代目火影の”光”を守るために散った、偉大な火影。うちはアカリがあのとき命を落としていたとすれば、きっと、今の木ノ葉隠れの里はない。里の者達が火の意志を抱くことも、子供たちが何の憂いも無く輝かしい青春を過ごせる時も、きっと無かっただろう。

 今の木ノ葉隠れの里があるのは、確かに”五代目火影”千手畳間の功績が大きい。しかし畳間がそこに辿り着けたのは、三代目火影という道標があってこそ。三代目火影はその命を燃やし、平和へ続く道を照らしたのだ。その炎は火の意志となり、今もなお、畳間や自来也の心に生き続けている。

 自来也にとってヒルゼンは、歴代の誰よりも偉大な火影だった。里の狂気と呼ばれた自身を、時に叱り、時に笑い合い、時には共に覗きをし、導いてくれた敬愛する偉大な師。

 

 自来也にとってヒルゼンは、畳間にとっての扉間と同義。

 自来也は自身の掲げる忍道も、人としての生き方も、すべてこの人から教わったのだ。そんな人に期待されていながら、それに応えることが出来なかった不肖の弟子にとって―――この邂逅は、あまりに残酷なものだった。

 

「三代目火影!? 死んだんじゃなかったんかいのォ!?」

 

「……これは穢土転生。死者を黄泉から呼んで縛る……大蛇丸の卑劣な術だ」

 

 ブン太の驚きの声に呆然自失から戻った自来也が、すでに死んでいるはずのヒルゼンがここにいる理由を説明する。

 

「んならつまり……ここにおるんは本物の三代目火影っちゅうことかいのォ!? まずいんとちゃうんかこりゃァ……」

 

「……そうだな」

 

 口寄せ・穢土転生によって黄泉から呼び出される死者は、その本来の実力から大きく劣る状態で世に現れる。仮に戦国時代において忍界最強と謳われた初代火影や、忍界最速を誇った二代目火影が呼び出されたとしても、世界を揺るがす脅威とは成り得ない。

 

 戦国時代が終わり、忍びたちは世代を経るごとに弱体化していると囁かれる。仙法を発動した千手畳間を除いて、現在の五影たちは、初代五影に遠く及ばない。しかしそれでも、現代の五影たちは穢土転生体の初代五影たちを問題なく処理できるだろう。それほどに、穢土転生で呼び出された死者は弱体化するのだ。

 

 ゆえに一対一であれば、自来也とて劣化した死者であるヒルゼンに敗北することは無いだろう。だが自来也はヒルゼンだけでなく、もともと自来也と実力が拮抗する大蛇丸の相手もしなければならない。しかもヒルゼンの強みは体術だけでなく、木ノ葉のすべての術を修めたと謳われたその手数の多さにある。自来也すら知らぬ術で翻弄され隙を作られれば、大蛇丸はそれを見逃さないだろう。

 

 それだけではない。封印術で封印しなければ終わらない亡者との戦いは、自来也のスタミナを削るだろう。大蛇丸が封印術を発動することを許すはずも無く、終わらない戦いを強いられる。やがて自来也は疲弊し、いずれは隙を突かれ大蛇丸に殺されることになる。

 畳間が大蛇丸討伐隊の編成を渋ったのは、そのリスクがあまりに大きすぎたが故であったのだろうことを、自来也は痛感する。

 

「自来也……」

 

「……っ!」

 

 もはや二度と聞けぬはずだった、懐かしい声。二度と見れぬはずだったその姿。溢れ出る感情と滲む涙を、自来也は抑えることが出来ない。

 

「……先生! 先生!! 先生!!! 猿飛先生……っ!!! ワシは……っ! あなたに受けた恩を……何も返せず……っ!!」

 

 

「そんなことはない……。自来也……。ワシの自慢の弟子よ……。ワシはお前を……誇りに思っておる……。”諦めねぇど根性”―――いつまでも……見守っておるぞ……」

 

「猿飛先生……!」

 

 抑揚が無く感情の籠らない言葉が、表情のないヒルゼンの口から紡がれる。しかしそれでも、自来也にとっては、二度と聞くことが無いはずだった師の言葉である。湧き出す温もりは溢れんばかりに自来也の心を満たした。

 

「ふふ……」

 

「大蛇丸!! 何が可笑しい!」

 

 自来也の怒声に、大蛇丸が見下すような笑みを浮かべる。

 

「いえ……。つい、ねぇ? 大根役者に三文芝居……こうもヘタクソな見世物では、思わず笑ってしまうというものよ。それに……感動の再会なんて気取るときでもないでしょう。今、これから―――」

 

 大蛇丸が手を挙げると同時に、ヒルゼンの体がぴくりと跳ねる。

 

「―――殺し合うのだからねぇ!!」

 

 直後、大蛇丸とヒルゼンが左右に散開し、駆けだした。

 

「自来也ァ!! カシラを呼ぶんじゃァ!!」

 

 ブン太が自来也を庇いヒルゼンの前に立ちふさがった。

 唸りをあげて振るわれる腕、風を切る”ドス”。一撃一撃が重く、当たれば一たまりもない攻撃である。

 しかしヒルゼンは悉くを避け、ブン太の顔を蹴り上げた。

 ブン太は呻き声をあげて吹き飛ばされるが、すぐに空中で体勢を立て直し、水の弾丸を口内から吐き飛ばした。

 

 ヒルゼンは地面を蹴り上げ、”土くれ”が宙に舞う。

 

「土遁・土砂崩れの術!!」

 

 宙に舞った”土くれ”たちは水の弾丸に触れた途端、それらをすさまじい勢いで吸収し肥大化する。

 肥大化し面積を増やした”土くれ”はさらに多くの水弾に触れてその全てを吸収し―――やがて巨大な土砂となって、地面に着地したブン太に上空から降り注ぐように襲い掛かった。

 

「あれは畳の兄さんの……!」

 

 大蛇丸の攻撃を避け、あるいは受け止めながら、ブン太と交戦するヒルゼンを見て自来也が思わず言葉を漏らす。

 

 土遁・土砂崩れの術。

 かつて幼き日の畳間が、水遁を多用する対・扉間用に生み出した術であり、この術の本質は、水遁への圧倒的防御力にある。しかし扉間は”対うちは”が長かったがゆえに水遁を多用する癖があるというだけで、他の性質変化が使えないという訳ではないし、むしろ並みの上忍よりはるかに高いレベルで他の性質変化も扱えた。当時の畳間が抱いた『この術で扉間を完封する』という目論見は、この術の性質に気づいた扉間の放った雷遁で容易に突破されたことで失敗しており、ゆえに畳間自身の”土砂崩れの術”への評価はあまり高くないが、扉間やヒルゼンはこの術を高く評価していた。

 

 頑強に固めることで攻防一体の盾となり矛となる一般的な土遁の術と比べると脆いこの術は、しかし水を吸収する性質を有する。

 もともと性質変化の相性的に土が水に勝ることもあり、”水を堰き止め、吸収する”この術を、水遁で突破することは至難である。扉間があえて優位属性である雷遁を使って幼い畳間をねじ伏せたのは、性質変化の優劣や、その対策を学ばせるという意図もあったのだが、幼い畳間は気づけなかった。

 かつての二代目水影戦。畳間がもしも憎しみに囚われず、己の持つ術やその性質を見つめ、師の教えを思い出していれば―――あれほど無様に敗北することは無かっただろう。扱う者によってその練度が変わることは当然だが、この術はそれだけの素養を秘めていた。今の畳間であれば、敵の水遁を吸収し、自身のチャクラを節約しながら木遁乱舞を行えると思われる。

 ゆえにそんな便利な術を、”木ノ葉のすべての忍術を扱う”と謳われたヒルゼンが習得していないはずもない。水遁を主力とする蝦蟇たちにとって―――この術は天敵となる。

 

 ブン太は”ドス”をヒルゼンに投げつけ、横に飛んで土砂の雨を回避しようと行動する。

 しかしヒルゼンは土遁の槍をぶつけて”ドス”の軌道を変え、その場から動くことなくそれを避けると、土砂を回避しようと動くブン太の進行方向に火遁を飛ばした。直後―――追加で放たれた風遁が炎を加速させ、その規模が膨れ上がり、炎の壁となってブン太の行く手を遮った。

 

 ブン太は土砂の直撃を受けざるを得ない状況となり、手で顔を覆った状態で土砂の中に呑み込まれる。

 しかしヒルゼンの攻撃はそれで終わりはしなかった。ブン太を呑み込んだ土砂の上から水遁を放ち、水遁を吸収し膨張した土砂は濁流となり、ブン太を押し流した。

 

「―――ブン太!! くそっ……!!」

 

 自来也は迫る大蛇丸の回し蹴りを両手で受け止め掴む。体を回転させながら、ブン太を退け迫るヒルゼンに向かって、大蛇丸を投げ飛ばした。しかしヒルゼンは容易にそれを避けて減速することなく肉薄し、自来也へ攻撃を仕掛けた。

 自来也はヒルゼンの拳を掃い、肘鉄を受け止め、蹴りを飛び下がって避けるが―――。

 

「―――先生っ!?」

 

 ―――直後鎌鼬が吹き荒れ、自来也の目の前でヒルゼンの体が上下に裂けた。大蛇丸の風遁である。ヒルゼンの体を切り裂いてなお威力の衰えぬ鎌鼬は、そのまま自来也の体に深い傷を刻んだ。

 

「があ……っ!!」

 

 自来也の体が勢いよく地面を転がっていく。

 しかし自来也は追撃を避けるために衝撃と痛みを耐えて印を結び、前方に広範囲の底なし沼を生成する。塵が集まり修復されていくヒルゼンの体が沼に堕ち、木の上に降り立った大蛇丸が、ヒルゼンを回収するために腕を伸ばした。

 

「退け自来也ァ! ここは任せぇ!!」

 

「すまん、ブン太!!」

 

 血まみれで、腕が一本圧し折れた状態で土砂の中から飛び出したブン太が怒声を張り上げる。

 ブン太の怒声を聞き、自来也が口寄せで大蝦蟇を一匹呼び出した。

 

「ブン太、ガマケンさん! たのむ、時間を稼いでくれ!!」

 

「自分、不器用ですが……」

 

 自来也は叫び、両手を合わせると、その場から駆けだした。

 妙木山に暮らす蝦蟇夫婦の助力がなければ、自来也は仙人モードに入ることは出来ない。そして蝦蟇夫婦を口寄せで呼び出すには、膨大なチャクラが必要になる。

 ブン太はそれを知っており、自来也がチャクラを練る時間を稼ぐために、そして大蛇丸に逃げられぬように、囮になると言ったのである。しかし相手は三忍の一人大蛇丸と、いくら穢土転生で劣化していると言えども、かつては二代目火影を越える天才と謳われ、木ノ葉のすべての術を扱えると称えられた”プロフェッサー”三代目火影。ブン太一人で止め切れるものでは無い。ゆえに自来也は戦力を増やしたうえで姿を眩ませたのである。

 

「ふふ……。しょうがないわね……。付き合ってあげるわ!!」

 

 大蛇丸とヒルゼンが木の上から飛び降り、蝦蟇たちに襲い掛かった。

 

 

 

 

「小僧! そう頻繁に呼び出されても、ワシ等だって暇じゃないっちゅうんじゃ!」

 

「そう怒らんでください、姐さん。それに前にお呼びしたのは6年ほど前だったと思いますが……」

 

「ワシ等にゃそんなもん欠伸する程度の時間じゃ!」

 

「欠伸する程度には暇なんじゃぁ……」

 

「やかましい!」

 

「母ちゃんの方がやかましいんとちゃうか……?」

 

「父ちゃんはだあっとれ!!」

 

「すいませんのォ姐さん。いかんせんことがことなもので……」

 

 真剣な声音の自来也に、何か良からぬことが起きていることをを察した蝦蟇の翁―――フカサクが目を細める。

 

「……何が起きとる? 木ノ葉でもないようじゃし、畳間ちゃんに仙術チャクラを渡すっちゅうわけでもないんじゃろ?」

 

「はい。……大蛇丸が三代目火影を黄泉より呼び出しました」

 

「三代目火影とな!? そりゃ小僧の先生じゃありゃせんか!」

 

 フカサクの妻―――シマが驚きの声をあげる。

 

「大蛇丸いうんは確か自来也ちゃんの友達じゃったな……」

 

「いえ……もはや友ではありません……」

 

 自来也はフカサクの言葉に訂正を入れた。

 フカサクは詳しい事情は分からずとも、自来也の心中を察し何も言わず、話を変える。

 

「……死んだはずの三代目火影を呼び出したっちゅうんは、二代目火影の穢土転生の術か? 確かに、あれはあまり良い術とはいえんかったが……。自来也ちゃんに三代目火影をぶつけるっちゅうんは……これまた、大蛇丸とかいう小僧もえげつない使い方をしよるのぉ」

 

「今、穢土転生は木ノ葉だけではなく、忍界全体で禁術と指定されています。木ノ葉から流出した穢土転生を乱用されては木ノ葉の害となりますゆえ……」

 

「ふむ。それで大蛇丸を消すためにワシ等の力を借りようと言うんじゃな。かつての友を手に掛けようとすることには何も言わん。お主も相応の覚悟があってのことじゃろうからな」

 

「ご配慮痛み入ります」

 

「相手が三代目火影っちゅうんなら、ワシ等も最初から全力でいかんといけんのォ。母ちゃんや、あれをやるぞい」

 

「……またかいの」

 

 九尾事件で行われた蝦蟇夫婦の秘術『魔幻・蝦蟇臨唱』。

 聴覚を通して敵を幻術に嵌める、蝦蟇夫婦の奥義である。この術の発動には、蝦蟇夫婦の鳴き声を共鳴させる必要があるため、シマはこの術を夫フカサクとの”デュエット”と認識し、忌避している。

 

「……! お二人とも、ブン太とガマケンさんの口寄せが解けました。来ますぞ」

 

「……しょうがないのぉ!!」

 

 シマの諦めとともに開始される”デュエット”。

 蝦蟇夫婦の歌声を聞き自来也たちの場所を正確に把握した大蛇丸とヒルゼンが凄まじい速さで接近してくることを、仙法によるチャクラ感知によって自来也は把握する。

 そして森の中から二人が姿を現した瞬間、自来也はありったけのチャクラを込めて、術を発動する。

 

「仙法―――火遁・超大炎弾!!」

 

 小山にも匹敵しうる巨大な炎の塊が二人を迎え撃つ。ヒルゼンは水遁で火の塊を迎え撃ったが、穢土転生で劣化した状態で放たれた水遁は、仙法で強化された火遁を打ち消すには至らず、威力を少し下げただけに留まり、瞬く間に蒸発し、ヒルゼンもまた炎に呑み込まれて塵と化した。大蛇丸はヒルゼンが稼いだ時間を使い退避しながら、水遁で炎弾の威力と規模を下げて直撃を避ける。

 

 そして―――ヒルゼンの体が再構築されたタイミングで、蝦蟇夫婦の術が完成する。

 

「魔幻・蝦蟇臨唱!!」

 

 着地した状態のまま動かなくなった大蛇丸と、再構築され棒立ちのまま停止するヒルゼン。幻術に落ち、金縛りに掛かったのである。

 

「終わったか……。さようなら……猿飛先生……。どうか安らかに……」

 

 仙人モードを解除した自来也が、静かに弔いの言葉を口にする。

 大蛇丸は師を越える喜びを味わえると言ったが、今、自来也の胸に喜びなどありはしない。あるのは虚しさと哀しみだけだった。

 輪唱を終え強く咳き込むフカサクとシマに労わりの声を掛けつつ、自来也はヒルゼンの足元に土遁・黄泉沼を発動した。ゆっくりと底なし沼へ沈んでいくヒルゼンに自来也は痛ましげな視線を送るが、かつての恩師のそんな姿を見て居られず、すぐに視線を逸らした。

 

「そして―――これで終わりだ。大蛇丸」

 

 幻術による金縛りから逃れられず、今もなお着地した姿勢で硬直する大蛇丸に、自来也は近づいていく。腰のホルスターから抜いた巻物を広げ、口寄せによって巨大な剣を取り出すと、大蛇丸の首に据えた。

 

「さらばだ―――友よ……。何―――!?」

 

 突如、自来也の背後で爆発音が響く。

 弾かれるように背後を見れば、底なし沼の上で次々と爆発が繰り返されている。

 

「猿飛先生!?」

 

 爆風に晒され、目をしっかりと開けられず、音も聞こえない中、自来也は師の名前を叫ぶ。穢土転生であると分かっていても、目の前で敬愛する人の体が爆散する姿を見て、冷静を保てる者は忍界広しと言えどもそうはいない。畳間であっても、目の前で柱間や扉間が爆発四散すれば、動揺で思考が一瞬停止するだろう。

 そしてそれは大きな隙となり―――この場には、冷静を保てる側の人間がいた。

 

「―――さよならはまだ先になりそうねぇ……自来也?」

 

「があ……っ!?」

 

「自来也ちゃん!! これは草薙の剣か!?」

 

「小僧!!」

 

 突如顔をあげた大蛇丸の口が裂けた様に開き、そこから飛び出した刀が、自来也の背中から腹部へと貫通した。自来也は自身の腹から生える刀を見下ろしながら吐血し、痛みに緩んだ手から大剣が滑り落ち、よろめくように数歩前進する。

 

「バカな!? この小僧は確実に幻術に落ちとったはず!!」

 

「そうね。私は(・・)……ね?」

 

「まさか!?」

 

 フカサクが背後を見れば、底なし沼に浮かぶヒルゼンの片腕が、指先を丸めたような奇妙な印を結んでいる。 

 

「あの印……。山中一族の心転身の術か……!?」

 

 うずくまり、手を地面につけて体を支えてる自来也が、痛みを堪えながら吐き捨てるようにいった。

 

「ありえん! 三代目火影も幻術に落ちとったはずじゃ! 自力で解除はできん!!」

 

「ええ。だから、一度死んでもらったの(・・・・・・・・・・・)

 

「あの爆発は……幻術を解除するための!?」

 

「札が札を口寄せし起爆し続ける『互乗起爆札』。私のチャクラが練れなくなったタイミングで発動するように仕掛けをしておいたのよ。巻物に書いてあったのだけど……穢土転生の術は本来、こう使うらしくてねぇ。仙人であるあなたに真っ向からぶつかって勝てるとは思ってなかったし、揺さぶりを掛けられれば御の字程度に考えていたけど……ふふ、まだまだ甘いわね、自来也」

 

「大蛇丸……てめぇ、猿飛先生を……師をなんだと思ってやがる!!」

 

「死人……でしょ? 私が口寄せした死人を、私がどう使おうと……、私の勝手じゃない」

 

 幻術に落ちたタイミングで発動した最初の爆発がヒルゼンを殺し、一度死亡し幻術から解放されたヒルゼンは再生しながら心転身の術を発動。

 大蛇丸に掛けられた幻術を、内側から解いたのである。そして精神攻撃を仕掛けられて隙が生まれた自来也を、大蛇丸は背後から攻撃した。

 

「外道が……!」

 

 大蛇丸の所業は、自来也の放ったこの一言に尽きた。

 

「ぐぁ……っ!!」

 

「自来也ちゃん!!」

 

「小僧!!」

 

 大蛇丸は、うずくまる自来也の頭を足で踏みつけて、地面に擦り付けた。そして、する必要もないと言うのに、大蛇丸はわざわざ自来也の頭を踏みつける足に力を込めて、乱暴に草薙の剣の引き抜く。その際に傷が広がり、自来也は苦悶の声を零し、フカサクとシマは焦ったように自来也の名を呼んだ。

 

「鬱陶しいわね」

 

「ぐあ!!」

 

「父ちゃん! ぐぅっ……」

 

「頭……姐さん……っ!! ……っ!!」

 

 蝦蟇夫婦が大蛇丸によって蹴り飛ばされ、自来也の肩から離れる。

 頭を地面に擦り付けられながらもなんとか動こうとする自来也だったが、大蛇丸が背中の傷口を勢いよく踏みにじったことで、その動きを止められた。

 そして痛みで動きが取れない自来也の首筋に、大蛇丸は草薙の剣を添える。その口元には嗜虐的な笑みが浮かび、冷たい目は自来也を蔑むように見下ろしている。

 

「自来也、さっきまでの威勢はどうしたのかしら? あの爆発は一度起きると私でも止められなくてね……。もう、猿飛先生の参戦はないわよ? よかったわねぇ。これで私と一対一……いざ尋常に勝負、と行きましょうか?」

 

「大蛇丸……てめェは地獄行きだのォ」

 

「……。だったら地獄で待ってて貰おうかしらね。さて……名残惜しいけど……さようなら!!」

 

 ―――大蛇丸が刀を振りかぶり、振り下ろした。 

 

「火遁・灰積焼!!」

 

 自来也の口から吐き出された高熱の灰が大蛇丸の周囲に立ち込める。灰を吸い込んでしまった大蛇丸は激しく咳き込み、生理現象で涙を滲ませながら口元を裾で抑えて蹲る。

 

「―――螺旋丸!!」

 

 力の抜けた大蛇丸の足。自来也は傷の痛みに耐えて起き上がり、足場が無くなりよろめいた大蛇丸へ向けて、振り向きざまに螺旋丸を叩き込んだ。

 大蛇丸の腹に直撃した螺旋丸。

 大蛇丸は吹き飛び、森の中に消えた。

 

「ぐ……」

 

「自来也ちゃん、撤退じゃ!!」

 

「死んでもうたら元も子もなかろう!!」

 

 力が抜けて再び倒れた自来也の駆けつけた蝦蟇夫婦の言葉を受け、自来也は頷いた。仙術で肉体を強化したフカサクとシマに抱えられ、悔しさに歯を食いしばりながら―――自来也は戦地を後にする。

 自来也を安全な場所まで運んだ蝦蟇夫婦は一度妙木山へと戻った。直後、逆口寄せによって自来也を妙木山へと呼び出すと、傷ついた手厚く手当てをし、完治するまで保護することとした。

 

 ―――後日。

 雷の国の辺境で発生した巨大な爆発と森林火災について知っていることはないかと、木ノ葉隠れの里に雲隠れより使いの者が訪れた。

 情報を掴んでいるのかいないのか、五代目火影は「知らぬ存ぜぬ」を押し通したうえで、必要なら自身の木遁で復興すると素知らぬ顔で提案してみせた。くわえて、和平条約の締結の進展について話し合いたいと、雲と木ノ葉の会談要望をしたためた巻物を手渡した。その巻物には四代目雷影の弟分であるビーのサインが記されており、使者としても持ち帰らざるを得ず、巻物は無事に雷影の下へと渡る。

 

 ビーが木ノ葉へ貸し出されて六年。

 さすがに愛する弟と離れ離れになり続けるのは応えたのか、あるいはこの森林火災と爆発が木ノ葉の謀略であり、「自然環境は木遁で修復できるから、応じないならもっとやる」という五代目火影からの強迫と受け取ったのか、雷影は会談に応じた。

 雷影からビーを返して欲しいという要望を受けたが、畳間は条約を締結しない以上、それは出来ないと突っぱねる。そして数日に渡る会談の末、雷影は遂に折れ、和平条約は締結されることとなった。

 雷影の強い要請を受けた畳間は譲歩し、条約締結が反故にされぬよう、ビーに飛雷神のマーキングを付けるという条件で、条約締結前におけるビーの雲への帰還の許可を出す。

 

 そして数か月後―――遂に、雲隠れの里と木ノ葉隠れの里に、和平条約が結ばれた。

 


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