綱手の兄貴は転生者   作:ポルポル

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頑張れ下忍編ニュージェネレーションズ
霧隠れの■■


 照りつける太陽。厚着の中、汗で蒸し立ち込める熱気。止めどなく流れる汗が頬を伝う。

 握りしめた木の棒の先を地面に突き刺して、ナルトは達成感と共に空を仰いだ。

 

「「「「「「「「「やり遂げたってばよ……!」」」」」」」」」

 

 数十人の影分身たちの声が重なり合った。

 

「ナルトずるーい!!」

 

 麦わら帽子を被り、手ぬぐいを首に巻いたサクラが、たいして疲れた様子も無いナルトたちを非難するように、しかし甘えるような声音で言った。

 サクラと同じように麦わら帽子を被り、手ぬぐいを首に巻いた数十人のナルトたちは、手に持った木の棒―――鍬を肩に担ぎ、太陽のような笑みを浮かべる。

 

「サクラのも手伝ってやるってばよ!!」 

 

 ナルトたち第七班は現在、広大な畑を耕すという、お手伝いの任務に就いている。  

 サスケとサクラが自分たちに振り分けられた範囲を地道に耕していた一方で、ナルトは多重影分身の術による人海戦術で瞬く間に耕起を終わらせた。

 担当上忍であるカカシは土遁を用い、ナルトよりも速やかに広範囲の耕起を終えており、現在は木陰で愛読書を読みふけっている。これまで何度も行ってきた”お手伝い”任務において、カカシがナルトたちを手伝ってくれたことは一度たりとも無く、彼らはすでにカカシに助けを求めることは諦めていた。

 

「ナルトってばさすがね! ほんと、そういうところなのよねぇ……」

 

 サクラは拝むように鍬の後端を掌で包み、嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

「なにが?」

 

「ううん! 何でもないの!!」

 

「そう? まあ、オレってば掃除とかよく兄ちゃんたちに手伝ってもらってたからさ!! うち(・・)では助け合うのは当たり前だってばよ」

 

「ナルトぉ……。それに比べて……」

 

 サクラはナルトへ向けていた笑みを下げ、非難めいた視線をカカシに向ける。木陰に腰を下ろし、読書の時間を優雅に満喫しているカカシは、やはり班員の任務を手伝うつもりは無いようだ。

 

「これもチームワークの訓練だぞー」

 

「「はい、ウソ!!」」

 

 片手を小さく振りながら悪びれも無く言って見せたカカシにサクラとナルトが食い気味に言うが、カカシはこれ以上話をする気はないようで、本から視線を外すことは無かった。

 

「はやく終わらせて休むってばよー」

 

 ナルトは柔らかい土を踏みしめてサクラの方へ歩き出す。

 サクラの隣に立ったナルトは、むせるような土の匂いがする空気を肺一杯に吸い込んで、再び鍬を振るった。

 

「……」

 

 なんだかんだと楽しそうに耕起を続けているサクラとナルトだが、一方で汗水たらし一人黙々と耕起を続けているのがサスケである。サスケは頻繁にナルトへ視線を向けているが、しかし好敵手(ライバル)には素直に助けを求められない年ごろであり、迷うように口を開いては閉じ、一歩踏み出そうとしては足を戻す。しかし結局言い出せないサスケは、諦めた様に鍬を振るった。

 

 ―――仲間なんていねェ。

 

 サスケは思う。

 

 ―――オレは一人で任務をやり遂げる。火影とはすなわち、孤独に闇を背負う者……。

 

「サスケェ! こっち終わったら手伝ってやるってばよ!!」

 

「ナルトォ!!」

 

 煌めく汗を零し、朗らかに手を振るナルトに、サスケは輝かんばかりの笑みを向けた。

 カカシの思惑通り、チームワークは順調に育まれているようである。

 

 ―――数日後。

 

「カカシ、ナルト、サクラ、サスケ。任務ご苦労だった。依頼主はお前たちの仕事ぶりにいたく満足しているようだぞ」

 

 火影邸内にある任務受付所。その中央に座す五代目火影畳間が、任務より帰還した第七班を微笑みを以て出迎えた。

 春とはいえ、長く畑仕事に従事していれば、肌も焼ける。太陽の光が降り注ぐ大空の下、広大で肥沃な土地の耕起を終えたナルトたちは、その肌を健康的な小麦色に焼いている。

 

「さて、お前たちの次の任務だが……。ジャガイモ畑の経営者が―――」

 

「五代目。また畑仕事か……?」

 

「なんだサスケ。不服か?」 

 

「オレ達は他の班よりも実力があると自負している。もっとマシな任務をくれても良いんだぞ」

 

「サスケ、よせ。すみません、五代目」

 

「ふむ……」

 

 火影になると常々言っているサスケからすれば、もっと”忍者らしい任務”に就きたいということだろう。

 カカシはサスケを窘めるが、畳間は顎を摩り考えに耽った。

 

 ナルトたちが下忍になって数か月経ち、第七班はいくつか任務を遂行してきたが、その内容はと言えば、畑仕事のお手伝いのみであり、そろそろそういった不満が出て来ても不思議ではない頃だとは、畳間も思っていた。

 ナルトとカカシが多重影分身の術を扱えるため、広大な面積を少人数で耕さなければいけない畑仕事は、他の下忍たちよりは第七班の方が向いている。くわえて、担当上忍であるカカシが土遁を得意としていることも、判断材料としては大きかった。

 

 木ノ葉隠れの里の忍びは、そのほとんどが火の性質変化を得意としている。

 火の性質変化を得意とする忍びは、可能ならば土の性質変化を修めるのが良いとアカデミーでは教わるのだが、それは性質変化の相性的に、火が水の性質変化を苦手としていることから、水に強く出られる土の性質変化が、相性補完の面で優れているからである。

 しかし五つある性質変化は、その一つを極めるだけでも至難であり、並みの忍びであれば、努力して二つが限界である。天才と呼ばれる者で3つ、天才と呼ばれる者がよく努力してようやく4つといったところで、5つの性質変化を同時に修めるともなれば、それこそ影クラスの実力と才能、そして弛まぬ努力が必要となる。

 ゆえに性質変化においては、中途半端に多くを修めるよりも、一つの性質変化を極限まで研ぎ澄ませた方が、効率が良いとされている。なぜなら、風遁を寄せ付けない雷影の雷遁、あるいは水遁を凌駕するアカリの火遁のように、極限まで極めた一つの性質変化は、”不利相性”という忍術の常識を覆すからだ。だからこそ、若くして五つの性質変化を極めた三代目火影は、二代目火影を越える天才と謳われたのである。

 

 前述した相性補完の面から、火を得意とする者が多い木ノ葉隠れの里では、同時に土遁を得意とする者も多い。しかし土遁を高い練度で扱える者は、二つ以上の性質変化を修めることの難しさから、その多くが上忍、あるいは中忍階級であるため、畑仕事のようなDランク任務に駆り出せる立場にいないのである。

 任務は上から順にS、A、B、C、Dと階級分けされ、任務を請け負える忍びの階級もそれぞれ決められている。千手柱間の、子らが実力に見合わない任務を引き受けその命を無為に落とすことが無いように―――と言う願いを始まりとして構想を練り、千手扉間が作り上げた制度であり、これは木ノ葉における”絶対の掟”でもある。カカシのような上忍が畑仕事のようなDランク任務を請け負うことなど本来は在りえないことであり、下忍を育成する”担当上忍”という役職に就いているからこそ起きた特異な事例でしかない。

 

 中には生まれ持った得意属性が”土”である者もいるが、そういった者は畑仕事などの簡単な任務よりも、土木系の任務に就けた方が効率が良い。”畑仕事のお手伝い”は例年多く見られる依頼の一つだが、その拘束期間と労働量の多さに比べて報酬金は多いとは言えず、人気とは言い難い任務である。任務の振り分けをする立場にいる者が毎年頭を抱えているのが、こういった任務の取り扱いだった。

 しかし今年は人海戦術を可能とするナルトがおり、またDランク任務を請け終える立場に土遁を得意とする上忍が存在したため、溜まる前に消化してしまおうと言うのが、畳間の考えだった。

 

「というわけで、オレは別に寒いおやじギャグでカカシ班を”はたけ”仕事に就けたわけじゃないんだ」

 

「それは聞いてませんけど……」

 

 サクラが疲れた様に言った。

 本来諫めるべき立場のカカシも、内心では「もっと言ってやれ」とサスケに同意している。それはカカシの身なりがゆえの不満であった。

 カカシは普段から右目を除いて、その顔を額当てとマスクで覆い隠している。つまり日当たりが良い場所に長くいると、右目の周辺だけが日焼けしてしまうため、自宅に帰るとそれはもう面白い顔の自分を鏡越しに見てしまうことになる。

 カカシが速やかに自分のノルマを終わらせて木陰に避難するのは、そういった切実な事情がゆえであった。カカシとて上忍。Dランク任務の重要性も当然理解している。ただ単に畑仕事が嫌なだけだった。

 

「うーん……」

 

「どうした、ナルト? お前も不満があるのか?」

 

 唸るナルトを見て、畳間が言う。

 

「あのさあのさ。サスケの言いたいことも分かるんだけども。オレってば別に畑仕事も嫌いじゃないってばよ。依頼人の爺ちゃんもすげー喜んでたし。このまま跡継ぎにって言われたときは困ったけども!!」

 

「それは……」

 

「まあ……」

 

「……」

 

 ナルトの言葉に各々思うところがあったのか、サクラとサスケは歯切れ悪くも同意を示す。最初から何も言っていなかったカカシは知らぬ顔をして佇んでいた。

 

「本来なら叱るべきところなんだろうが……サスケ。お前の言いたいことも分かる。オレ達も……そうだな……。あれから……もう(・・)40年にもなるのか(・・・・・・・・・)……」

 

 畳間は一人、昔を懐かしむように目を閉じた。

 少し置いて目を開くと、困惑している様子の子供たちがいて、畳間は微笑みを浮かべて語り掛けた。

 

「―――許せ。少し、感傷に浸った。”オレ達”の初めての任務のことを思い出してな」

 

「おっちゃんの?」

 

「火影様の?」

 

「五代目の?」

 

 子供たちが各々興味深そうな反応を示す。千手畳間という忍びは子供たちから、悪く言えば舐められて、良く言えば親しみを以て受け入れられているが、”火影”とは本来、里の頂点に君臨する忍びである。そんな”火影”の初めての任務と言う言葉に、子供たちは惹きつけられた。

 

「下忍となったオレの初任務は、”終末の谷”の治水および環境整備だった。オレは班員であった親友と共にその任務の有用性に気づき、チャクラコントロールの修業の場として活用させて貰ったが、もう一人の班員(・・・・・・・)は……。まあ、不満を隠さなかった」

 

 含み笑いを零しながら、畳間が言った。

 子供たちは顔を見合わせる。

 

「火影さまの班員で親友って……」

 

「カカシ先生の父ちゃんだってばよ」

 

「もう一人っていうのは……。ナルト、お前の……?」

 

「おば……姉ちゃんだってばよ」

 

 上から順にサクラ、ナルト、サスケが顔を見合わせて小声で話し合っている。

 

「当時は、ダダをこねる妻を(・・・・・・・・)サクモと一緒に諫めたものだが(・・・・・・・・・・・・・・)、オレとて思うところが無かったわけではない。”やりたいこと”があって、それが出来ない辛さと言うのも、分かってるつもりだ。そこでだが……」

 

 畳間は積み重なった書類をめくり、目当ての書類を見つけると指先で摘まんで引き出し、机の一番上に置いた。

 

「ジャガイモ畑の耕起をやってもらいたい」

 

「!?」

 

「!?」

 

「今の流れって絶対別の任務に行くやつだったでしょ!?」

 

「ははっ、すまんすまん。この任務の依頼主は、先の依頼主の紹介でな。是非お前たちに頼みたいと、指名料もつけてくれている。信用を買うという意味でも、これだけはやってもらいたい。それが終われば、お前たちの望む任務を見繕う」

 

「や―――」

 

「やったあああ!!」

 

 サスケの歓喜を押し留めて、ナルトが飛び上がって喜んだ。タイミングを逃したサスケは上げようとしていた手を下ろして、ポケットに入れた。

 

「なんだナルト。畑仕事で良かったんじゃなかったのか?」

 

「へへ。それはそれ、これはこれ、だってばよ!」

 

「ふっ……。では、それを以て、次の任務の報酬とする。これまた広い土地のようだから、熱中症と日焼け対策は充分にな」

 

「……五代目。二代目の定めた”絶対の掟”……なのでは?」

 

「ふ……」

 

(こりゃこの人、分かってて破ってるなぁ……。二代目のことを尊敬してるのかそうでないのか……。五代目とも長い付き合いだけど、その辺はどうも分かんないね……未だに) 

 

 カカシの問いに、畳間は影のある笑いを浮かべる。

 元気よく返事をする子供たちの傍で、カカシは表情には出さず、内心で「またかー」と思いながら、右目の下にそっと触れた。

 

 

 

 

「わしは橋つくりの超名人”タズナ”というもんじゃわい。わしが国に帰って橋を完成させるまでの間、命をかけて超護衛してもらう!」

 

 再度の畑仕事を終え、意気揚々と帰還した第七班の面々を待っていたのは、酒を片手に頬を赤らめた尊大な態度の老人だった。

 護衛部隊として紹介された第七班の面子を見て「ガキばかりで大丈夫か」と問うたタズナに、「大丈夫だ、問題ない」と返した五代目火影に送り出され、第七班は里を発った。

 

「うーん、顔がひりひりしてるってばよ」

 

「私もー。えい!」

 

「いて! こんにゃろ!」

 

「やーん! すけべー!」

 

「……」

 

「……」

 

 日焼けした頬をさするナルトの頬を、サクラが指先で(つつ)き、ナルトが怒ったようにサクラの頬を突き返そうとする。サクラは嬉しそうに逃げ出して、ナルトがそれを追い駆ける。

 二人はカカシの周りをぐるぐると回り、カカシとサスケはそんな二人を呆れたように見つめた。

 

「おい! 遠足じゃねーんだぞ! 本当にこんなガキで大丈夫なのかよ!」 

 

「だ―――上忍の私がついてますから、そう心配はいりませんよ。すみませんね」

 

 同行するタズナが怒りながら不安を口にする。

 大丈夫とは断言しかねたカカシは、タズナに申し訳なさそうに言うと、はしゃぐ二人に真剣な表情を向ける。

 

「ナルト、サクラ。遊びじゃないんだ。そろそろ切り替えろ」

 

「カカシの言う通りだ。この任務はオレ達が頼み、”五代目”が託したもの。本来は受けられないランクの任務を、オレ達ならばと五代目は許可を出したんだ。つまりこの任務の失敗は五代目の評価に直結する。”火影”の名に泥を塗る気か?」

 

「!?」

 

「お前も忍者なら、そろそろ”父”への甘えは捨てろ」

 

「悔しいけど……サスケの言う通りだってばよ……。オレってばまだまだだった……」

 

「分かればいい。気を抜くな。どこに忍びがいるかも分らない」

 

 写輪眼を動かして周囲を警戒するサスケに倣い、ナルトもまた首を動かして周辺へ視線を向ける。

 

「サスケ! お前より早く見つけてやるってばよ!!」

 

「フン。やってみろウスラトンカチ。オレの眼より早く見つけられたら、褒めてやる!」

 

「……」

 

「……」

 

 気を張って周囲を見るナルトと、写輪眼で周りを見渡すサスケ。

 二人のやり取りを聞きながら、サクラが微妙な表情を浮かべる。

 言っていることはもっともであるし、サクラも浮かれていたことは反省しているが、ことあるごとに父と兄の話を持ち出すサスケが「父への甘えを捨てろ」などと言うのは、どうにも素直には受け入れ難いものがあった。

 

 カカシはと言えば、微笑まし気に二人を見つめている。そもそも波の国に忍者は居ないことを知っているがゆえの笑みだった。

 

「カカシ先生。波の国はどんな忍者がいるの? 大丈夫なのかな……?」

 

「……ん? ああ、そりゃそうか」

 

 忍者との戦いを想像したのか、サクラは少し怯えたような表情を浮かべている。

 カカシは不思議そうに首を傾げ、すぐにサクラの考えに思い至ったのか一人で頷いた。下忍になって一年にも満たないうちに他の里の忍との交戦の可能性を示唆されれば、サクラのように不安を覚えるのが普通だろう。もしかすれば殺されるかもしれないのだから、戦争を知らない今の子供たちが怯えるのも無理はない。

 ナルトとサスケの実力が今の木ノ葉の下忍の平均と比べると飛びぬけているせいで、サクラが今の木ノ葉の一般的な下忍であることを忘れていた。

 

「波の国に忍者は居ない。が、たいていの国には隠れ里が存在し、忍者がいる。忍者ってのは国の軍事力にあたり、それで隣接する他国との関係を保ってるんだが……。他国からの干渉を受けにくい島国なんかでは忍者が必要でない場合もあって、波の国がそれにあたる。それぞれの忍びの里の中でも、特に木ノ葉、雲、岩、霧、砂が存在する五か国は国土も大きく力も絶大なため、”忍び五大国”とも呼ばれ―――里の長が”影”の名を語れるのも、この五大国だけだ」

 

「あ、それは知ってます。火影、水影、雷影、風影、土影―――いわゆる”五影”ですよね?」

 

「ああ。さすがだな、サクラ。よく勉強してる」

 

「えへへ」

 

 サクラはカカシに頭を撫でられながら褒められ、嬉しそうに笑う。

 

「付け加えると―――その”五影”は全世界各国何万の忍者の頂点に君臨する忍者たちというわけだが……。中でも、五代目火影は別格だ。かつての大戦において、五代目は他の大国の影たち全員を相手に勝利し、”木ノ葉隠れの里”を守り抜いた実績もある。歴代最強の火影とも謳われる英雄なんだぞ、火影様は。ま、本人は否定するけどね」

 

 ―――やめろぉ!!

 

 ―――うぐ、ひぐ……入学おめでどう゛!!

 

 ―――アカリ、オレも……。え、だめ? そんなぁ……。

 

 ―――ナルトォ!!

 

「へぇ……火影様って、やっぱりすごいんだぁ!」

 

 脳裏を過った記憶を押し留め、サクラは満面の笑顔を浮かべて、カカシに言った。

 

「お前今火影様疑ったろ」

 

「あはは……」

 

 無理はないけど、とは口には出さず、カカシは先行するサスケとナルトへ視線を向け、二人の少し先にある水たまりを細めた眼で見つめた。

 

「じゃあ、つよーい火影様がいる火の国って安泰なんですね!」

 

「……うーん、それだけってわけじゃあないんだけど……」

 

「?」

 

 含みのあるカカシの言葉をよく分かっていないサクラが、可愛らしく小首を傾げている。

 カカシは遠い空を見つめる。脳裏を過るのは、戦争が終わってしばらく経った、あの日(・・・)の光景。

 

 ―――どうか……っ! どうか……っ!!

 

「……」

 

 憎しみを耐え忍ぶ道を選び、しかし堪えられぬ哀しみに涙を零しながら、それでもと歯を食いしばった偉大な火影の姿。

 

 ―――この苦しみは……っ、あまりに辛い!! 我らに続く者達に……オレは……こんな思いを、知って欲しくない……っ!!

 

 ”木ノ葉隠れの里”が憎しみではなく、愛を子供たちに伝えることを選んだ、あの日の記憶。

 

「今はそれでいいのかもね」

 

 ―――もどかしい。

 若い世代に舐められる五代目火影を見て、カカシがそう感じたことは、これまで何度もあった。

 カカシにとって、五代目火影とは目標であり、憧れである。

 痛みと憎しみを耐え忍び、今に至る平和を築いた英雄にして、火の意志の体現者。あの戦争を知る世代は、皆畳間を最高の火影と称える。しかし一方で、若い世代は千手畳間という忍者の本当の偉業を知らない。

 

 五代目火影は太陽のような笑みで子供たちを見守り、子供たちは太陽を仰ぎ見て純粋に育っているが、しかしその背には今もなお、先の時代の”痛み”と”憎しみ”が押し寄せている。その災禍が子供たちに降り注がないように、畳間は傷だらけの背の痛みを堪え、何でもないような顔をして、その背で濁流を堰き止めている。

 千手畳間と言う仕切りで分かたれた、清流と濁流。

 清流の中に生きる子供たちは、仕切りの向こう側のそれに気づくことは無い。その仕切りが崩れ落ちない限り、知ることは無いのだ。子供たちは仕切りの情けなさだけに目を向けるが、しかしそうではない。血と涙の濁流を、そして押し流されて消えた多くの命を知るからこそ、傷だらけのその仕切り(おとなたち)は、清流を自由に泳ぐ命を慈しみ、尊ぶ。

 憎しみと痛みを耐え忍ぶという選択が、どれほどの覚悟の上に成り立ったものなのか、若い世代は考えたことがあるのだろうか。自分たちが軽んじる火影と言う存在が、どれほど深く大きな愛情を注いでくれているのか、考えたことがあるのだろうか。

 若い世代は、五代目火影の本当の偉業を―――知らないでいる。

 カカシが我儘な子供を苦手とする理由としては、それが一番大きいと言えるだろう。

 

 カカシとて、畳間の思いは分かる。自身の”それ”が、子供染みた思いだということも理解している。

 五代目火影がどれ程偉大な忍者であったのかを子供たちが知るのは、自分が死んだ後で良い―――そう言った畳間の気持ちは、それこそ、痛いほどに。だが、それでは遅いのだ。親孝行したいときに親は無しとも言う。カカシはすでに、父を失っていた。

 

 ―――オレが子供たちに”そう”見えているのなら、それでいい。子供たちは純粋だ。その純粋な眼が”そう”判断したのなら……それでいい。それこそが―――”五代目火影”のやってきたことが間違いではなかったということの証。憎しみと痛みを断ち切ったという、証明なのだ。

 

 若い世代が畳間の力を知るということは、知らなければならないということは―――すなわち、かつての地獄の再演の時。

 かつて、畳間たちが初代火影柱間の愛を注がれていたころ。柱間はただの”情けないお爺ちゃん”で、その背に背負う痛みと哀しみのことは何一つ知らなかったし、知ろうともしなかった。その偉大さを本当の意味で知ったのは戦争がはじまり、憎しみと痛みに蝕まれてからのこと。だとするならば、そんなものは知らなくていい。痛みと憎しみがいつの日か忘れ去られ、”手を取り合うことが当たり前となる日”を、先人たちは夢見て来た。

 子供たちは純粋であっていいのだ。太陽に目を輝かせ、川のせせらぎに心を委ね、何気ない日々を謳歌する。畳間にとって子供たちの屈託のない笑い声こそが、どれだけの美辞麗句を並べられるよりも心打つ報酬だった。

 

 そしてそれは、カカシたちに対しても言えることである。曲がりなりにも青春を送れた畳間たちと違い、戦時下で幼少期を過ごしたカカシたちにこそ、畳間は穏やかな日々を過ごして欲しかった。故に畳間は”適材適所”を重視し、仕事中は徹底的にこき使い、反面、可能ならば休みを取らせ、羽目を外させた。失った青春を取り戻せと言わんばかりに旅行なども斡旋し、長期休暇もよく勧めた。

 

 カカシは本当に、千手畳間と言う”大人”を尊敬している。だからこそ、もっと五代目火影を知って欲しいという、子供染みたもどかしさを感じる時もあったが―――。

 そんな”つまらない”ことに心を悩ませられる日々もまた、カカシにとっては大切な日々だった。

 それに今では、カカシも理解している。その”生意気さ”こそが、畳間の求めているものなのだということを。

 大人の顔色を窺い、守られている自覚を持ち、卑屈にその身を縮ませるのではなく―――かつての自分のように、自由奔放に生きて欲しいという畳間の願い。

 願わくば自身もそうで在りたかったと思うからこそ、カカシは嫉妬にも似た感情を抱き―――その守るべき尊い輝きの眩しさに、目を細めるのだ。だからこそ、その輝きを守る五代目火影の右腕で在れることを―――カカシは誇りに思う。

 ただ一つ心配なことは、ある日突然、その”仕切り”が崩れ落ちること。濁流を知らぬ子供たちは、果たして突如としてそれが押し寄せたとき、耐えきることが出来るのだろうか。

 サスケ、ナルト、サクラ。

 この子たちがそれを知る日が来ないことを、カカシは祈る。

 

「カカシ先生……?」

 

「ん……悪いね。ちょっと考え事」

 

「そうですか? 何かよくないことでもあるんじゃ……」 

 

「ああ、大丈夫大丈夫。玄関の鍵閉めたか心配になっちゃってさ」

 

「きっと大丈夫ですよ! それに、忍者の家に泥棒に入る人なんていませんって!」

 

「それもそうね」

 

 カカシの言葉を真に受けたのか励ますようなことをいうサクラに、カカシが微笑みを向ける。 

 

「ま、ともかく、Cランク任務で忍者対決なんてしやしないよ。それに今は里同士の同盟もある。暗殺と護衛なんてので上忍同士がカチ合うことは今もよくあるけど、そんなのはAランク以上! 賊退治任務の標的に忍者が混ざってた、なんてことは稀にあるが、今ではBランクでも、大規模なインフラ整備の任務とか、調査の方が多いかな。火山帯とか大渓谷、未踏の山中みたいな、危険地域への出向とかさ。中忍になってもDランク―――なんて最近は揶揄されたりもするけど、平和なのが一番!ってのが五代目の考えでね。まあ……それはそれで、火遁使いが多い木ノ葉としては悩ましい案件なんだけど。アカデミーで習わなかった?」

 

「習いました! 戦闘技術も大事だけど、生産技術を磨くようにって」

 

「そ。だから岩隠れが結構台頭してて、木ノ葉隠れとしても大変なのよこれが」

 

「はぁ~そうなんですか」

 

「―――あ、この水たまり怪しいってばよ!!」

 

 二人の会話を遮るように、先行していたナルトが、足元の水たまりを指さして言った。

 

「ナルト、適当言ってんじゃ……っ。ナルト!!」

 

「マジだったってばよっ!」

 

 呆れたように言ったサスケの言葉が終わらぬうちに水たまりが蠢き、重力に逆らって宙へ浮き上がると瞬く間に人間二人へと姿を変え、ナルトへ凄まじい速さで手を伸ばした。

 サスケがホルスターから手裏剣を引き抜き、ナルトが印を結ぼうとするが、驚きに一手遅れた二人は間に合わず―――。

 

「……下忍を狙うなって”約束”。知らないってことはないでしょ?」

 

 カカシの手によって、水たまりから現れた二人は瞬きの間も無く地べたに這いずることとなった。

 

「……すげぇ」

 

「これが”上忍”……か……」

 

「いつの間に……」

 

 ナルトとサスケがカカシの手際の良さに驚き、サクラは隣にいたはずのカカシが先行していた二人の傍に立っていることに目を丸くした。

 地面に倒れた二人の忍びのうち、カカシは一人の首を踏み折って殺害し、もう一人の忍びの髪の毛を持って首をあげると、その目線を無理やり合わせる。

 

「―――万華鏡写輪眼」

 

 幻術に落とされた忍びの体から、力が抜ける。

 カカシは次々に質問を行い、あらかた聞き終えると、子供たちに見えないように苦無で首を裂くと土遁で作った穴の中に二人を落とし、穴を塞いだ。

 

「超手際良いな……」

 

「なんというか……そこまでしなくても……」

 

 怖気づいているサクラとタズナ。口には出していないが、ナルトとサスケもまた、始めて見た”殺し”に尻込みしているようだった。

 

「ま、忍者だしね」

 

「……」 

 

(”甘さ”の弊害か)

 

 無慈悲にも見えるが、しかしカカシは有情な方である。

 もしもナルトを―――下忍を狙ったと畳間が知れば、恐らくこの程度ではすまないだろう。

 情報を吐かせた後、二人の死体を所属する組織に手ずから送り届け、そのまま組織を壊滅させ、そのうえで”出資者”を探し出して消すくらいは平気でやる。実際はどうか知らないが、カカシはそう思っている。

 普段の畳間の態度で時折忘れそうになることもあるが、畳間は本気で怒ると怖いのである。若いころは過激なタカ派で通っていたし、火影にすら物怖じず噛みつくような狂犬にして問題児が畳間である。恥ずかしい過去として畳間は忌避しているし、もはやその片鱗すら出さないが、カカシは、かつて畳間が一度だけ他の忍びに向けて放った”威圧”の恐怖を覚えている。

 

「こいつらは霧隠れの抜け忍。狙いは……どうやらタズナさん、あなたのようですね」

 

「……」

 

 カカシたちは―――さらにいえば畳間も、タズナと言う橋職人が忍びから狙われているとは聞いていない。

 依頼の内容は、ギャングや盗賊のようなただの武装集団からの護衛と、橋を造るまでの支援であり、当然忍者との戦いは含まれない。忍者との戦いが想定される任務はBランク以上に位置し、下忍を含む班が請け負うことは許されていない。

 

「タズナさん。この事がそのまま五代目火影に伝われば、以後、波の国からの依頼を一切受けないということにも成りかねない。情報はあらかた引き出しましたが……あなたの口から言うことがあるなら、聞いておきましょう」

 

 カカシの追及に、タズナは顔を伏せて黙り込む。

 

「……この任務、私たちには早いと思うの。やめましょう? ね、あんたたちもそう思うでしょ?」

 

「いや……」 

 

 サクラが怯えた様子でサスケとナルトに同意を求めるが、サスケが短くそれを否定する。ナルトもまた同じ気持ちなのか、静かにカカシを見つめていた。

 

「火影になるためには……いつかは通る”道”だ。このまま、任務は続行する」

 

 任務続行を宣言したサスケと、サスケの言葉に力強く頷いたナルトに、カカシが困ったように頭を掻き、サクラの顔から血の気が引く。

 

「あのさあのさ。カカシ先生。その、なんか……事情があると思うんだってばよ」

 

「ナルト……あなた……」

 

 タズナを思いやる、ナルトの優しい言葉。

 サクラは気の抜けたようなため息を吐き、そして―――覚悟を決めた女の顔を見せる。

 

「そうよ! タズナさん。困ってるなら、言ってもらわないと分からないわ」

 

「そういうの、あんまりよくないんだけどねぇ……。困ったねどうも……」

 

 もはや決定事項とでも言いたげな三人の生徒たち。ここでカカシが帰ると言っても、三人だけでタズナに付いて行きかねない。担当上忍として放っておくことも出来ず、カカシは諦めた様にため息をついた。

 これもまた、”甘さ”の弊害と言えるだろう。ただひたすらに”里の太陽”であり続けている五代目火影の背を、子供たちはよく見て育ったということだ。であるならば、芽吹かんとする木ノ葉を守ることこそが、カカシの役目。

 ナルトたちに説教をして、無理やり里に連れ帰るのは容易だが、その行いはきっと、この子たちの心に影を落とすことになる。”守る”とは、ただ力を以て庇護することではないと、そう説いたのは、他ならぬ畳間だったから―――その右腕を自負するカカシが、子供たちを見捨てるわけにもいかないだろう。

 畳間を”甘い”と窘めるカカシもまた、その意思に強く影響を受けているということだ。

 

(あーあ……。こりゃ後でどやされんなオレ)

 

「……騙していたことは、謝る」

 

 小さく、タズナが話し始めた。

 タズナを狙うのは、世界有数の大富豪と謳われる、海運会社”ガトーカンパニー”総帥ガトー。表向きは海運会社として活躍しているが、その裏ではギャングや忍者を使い、麻薬や禁制品の密売、企業や国の乗っ取りといった悪童商売を生業としている男である。

 ガトーは一年ほど前から波の国に目を付け、財力と暴力を盾に政治経済に入り込み、島のすべての海上交通と運搬を牛耳った。小さな島国を掌握し、裏の王として君臨するガトーが今最も恐れることが、タズナが建築しようとしている”橋”の完成だった。外部との交流を容易にするタズナの橋は、流通を牛耳るガトーにとって目の上の瘤となり得るものであり、ゆえにその職人であるタズナが、ガトーより命を狙われることとなったのである。

 波の国は貧しく、大名ですら裕福とは言えない状態だった。タズナのような一職人に、高額なBランク任務を依頼するような資金は無い。そのためにタズナは、ウソをついたという訳である。

 

「うーん……。どうも思ってたより危険なにおい(・・・)が……」

 

 カカシの言葉に焦りを感じたのか、タズナが早口に話し出した。

 

「なーに! お前らが気にすることは無い。お前らが断っても、ワシが殺されるだけ!! それにワシが死んでも、10歳になるかわいい孫が一日中泣くだけじゃ!! それにワシの娘も―――」

 

「タ―――」

 

「―――もうそれ以上言わなくていい」

 

 開き直るようなタズナの言葉。里を―――五代目火影を騙しておいてあまりに無礼な物言いである。

 カカシが叱責しようと口を開こうとして、しかしそれを止めるように、ナルトが口を挟んだ。

 

「そんなこと言わなくても、おっちゃんのことは、オレ達がぜってェ守るってばよ。おっちゃんも自分の故郷を守るために必死だったんだってば? それくらい、オレにも分かるってばよ」

 

 タズナは息を呑みナルトを見つめると、耐えきれぬように目を反らし、笠で表情を隠した。

 

「……火影様(・・・)がお前らを推薦した理由が超分かったわい。……ガキと馬鹿にしたのは、取り消す。すまなかった。謀ったことも、後でどんな”罰”でも受け入れる。じゃから改めて頼む。どうか……ワシの生まれた国を……ワシの家族を……救ってくれ……。頼む。他に……もう打つ手がないんじゃ……」

 

 タズナは深く頭を下げて見せる。

 自分よりも遥かに年上の男性に頭を下げられた経験など無いサクラは、困ったようにカカシへ視線を向ける。

 カカシは諦めた様に頷き、サクラがぱあっと笑顔を浮かべる。

 

「へへ! 任されたってばよ! オレってば火影になる男だからな!」

 

「わ、私もその、えっと……頑張ります!」

 

「火影になるのはオレだ!」

 

「なにおう!!」

 

「やっぱ超ガキじゃった……」

 

 言い争いを始めたナルトとサスケを見て、タズナは呆れたように肩を落とした。

 

「あれ? カカシ先生? どこいくの?」

 

「ん? 便所」

 

「あ、そう……」

 

 草むらに入っていくカカシを、サクラは呆れたように見送った。

 

 

 

 

 タズナの協力者の支援を受けて波の国に入った第七班一行は、タズナの家を目指して歩みを進めていた。先ほどのように後れを取らぬよう、サスケもナルトも騒ぐことなく警戒を行っており、サクラもまた二人には劣るものの、精一杯の警備を続けていた。

 

「止まれ」

 

 カカシの冷たい色を宿した言葉に、一行は瞬時に停止する。

 

「卍の陣だ。タズナさんを守れ。決して戦闘には参加するな。それがここでのチームワークだ」

 

 カカシに言われた通り、下忍たちが編成を組む。ナルトが影分身の術を発動し、卍の陣を組んだ三人の周囲に肉の壁を作り上げた。

 誰のものかは分からないが、唾を呑み込む音がする。

 あたりに立ち込め始めた霧が、敵の出現を報せる戦いの狼煙であると気づけたのは、カカシ一人。カカシへの信頼が、下忍たちに瞬時の行動を可能とさせた。

 

 濃霧の中、カカシが飛び上がる。その足元を巨大な”何か”が通り過ぎ、霧を削り取った。

 飛び上がったカカシは濃霧へ向けて蹴りを放つが、それは霧を切り裂いただけで終わる。

 

 カカシは左に滑り、右へ跳ね、下へ屈み、体を反らす。濃霧の中、カカシはまるでそれが見えているかのような動きで、自身を削り取ろうとする”何か”を避け続けた。

 

「カカシ先生……!! どこ……? 支援に……」

 

「動くなサクラ。ナルトの影分身の壁と、カカシが牽制してるからこっちに来ないだけ(・・・・・・・・・)だ! 動けば……殺されるぞ!!」

 

「うそ……」

 

 青ざめた表情で言うサスケ。

 サクラが横にいるナルトの顔を見れば、ナルトもまた顔を青ざめさせていた。サクラには感じない殺気の塊を、ある程度の実力があるがゆえに感じている二人は、今の状況を正確に把握していた。

 ナルトの影分身の壁―――これが消えた時、カカシは敵の居場所を正確に判断し、攻勢に転じることが出来る。ゆえに正体不明の敵は、ナルトたちの方へは近づかない。

 そしてもう一つ。サスケが言ったように、カカシは濃霧の攻防の中、音や匂いで敵の居場所を”推測”し、カカシの後方へ進めないように牽制を入れている。だから敵は標的であるタズナへは近づけず、先にカカシを排除しようとしているのである。くわえて、距離があるナルトたちには見えていないが、広がって円を描くナルトの影分身の周囲を覆うように、カカシは土遁による防御壁を築いていた。

 

(霧の向こうから放たれる殺気、チャクラの圧。まず間違いない。襲撃者の実力は―――”影”クラス)

 

 カカシは左目を覆う額当てを上にずらした。

 濃霧の中、見えない敵との戦いは、精神と体力を削る。カカシがギリギリのところで避けている”何か”も、威力や速さからして、直撃は絶対に避けなければならない類のものだ。気は抜けない。

 このまま長期戦となれば、いずれ隙が生まれ、タズナは殺される。

 まずは霧を消し、敵を認識。可能ならばナルトたちを逃がす。

 それが、カカシの判断だった。

 

「―――神威!!」

 

 カカシの左の眼は万華鏡の文様を刻み―――周辺の濃霧のすべてを異空間へと吸い込んだ。

 

「ほう、私の霧を……。あなた、面白い術を使いますねぇ」

 

 現れたのは、赤い雲の文様が描かれた黒い外套を羽織りし長身の男。

 

「”木ノ葉の白い牙”とお見受けします。私は干柿鬼鮫(・・・・)。以後―――お見知りおきを」

 

 不気味な笑みの奥―――鮫のような鋭い歯が、鈍く光った。


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