綱手の兄貴は転生者   作:ポルポル

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「キャー!! シスイ様キャー!!」

 

 観客席。

 退場していくシスイを立ちあがって見送るいのが、興奮した様子で黄色い声援を飛ばしている。

 その隣には、シカマルが唖然とした様子で座っており、チョウジはお菓子を食べていた。

 

「あのよ……」

 

「なに、シカマル?」

 

「やっぱ、オレ達の一期上やばくね?」

 

「そうだね」

 

 シカマルは凄まじいものを見たと、続いた試合に興奮冷めやらぬ中、隣に座るチョウジへと声を掛けた。チョウジはマイペースにお菓子を食べている。シカマルとしては滅多なことでは自分を見失わないチョウジに、ある種の尊敬を向けていた。

 

「こりゃ、負けといて正解だったかもな……。いくらなんでも、今年は魔境だ……」

 

 ロック・リーの極まった体術。敵を牢獄へ閉じ込める次郎坊。シカマルたちの世代におけるアカデミー主席を破ったシスイ。風遁乱舞を見せたテマリに、凄まじい武器の数々を振るって見せたテンテン。

 これで最近の下忍は戦争当時に比べて衰退したというのだから恐ろしい。

 シカマルは観戦による精神的疲労を隠そうともせず、椅子へ深く腰かける。

 そんなシカマルを見ながら、お菓子を呑み込んで、チョウジが言った。

 

「でも、僕らの世代も捨てたもんじゃないでしょ? ナルトは負けちゃったみたいだけど、我愛羅って、僕らと同世代だし」

 

「つっても他里だしな……。我愛羅って言や、ありゃあ一体何だったんだ? あのバカでけェ蛙と狸。五代目が血相変えて飛び出してった所を見るに、かなりやべェもんだっつーことは分かるけどよ……」

 

「……シカマル、アンタ気づかなかったの? あの恐ろしさ……」

 

「あ? なにがだよ。そりゃ、迫力はすげぇあったけどよ」

 

 一回戦で繰り広げられた怪獣大決戦。その話に触れると、騒いでいたいののテンションが急激に下がり、表情を曇らせる。

 山中一族の者は、その多くがチャクラを感知する能力を生まれ持つ。シカマルやチョウジが持たず、いののみが持つその力によって、いのは何を感じ取っていたのか―――シカマルは普段の強気な女から一変、恐怖に怯えたように小さく座るいのの様子に、あの狸の恐ろしさを再確認し、生唾を呑み込んだ。

 

「……そんなにか?」

 

「蛙の方もかなり凄かったけど……あの狸、あれ、やべェ(・・・)どころの騒ぎじゃないわよ……。私、始めて見た……あんな……」

 

「ああ。ありゃ正真正銘のバケモンだ……。オレ達が束になったって、勝てる相手じゃねぇ……」

 

 恐怖に青ざめるいのの言葉を受け、チョウジの隣に座っていたキバが、神妙な表情で言葉を口にする。

 

「……そんなに?」

 

 普段、サスケやナルト相手にだって強気な姿勢を崩さないキバが、震えている。その頭の上に座る赤丸もまた、思い出したのかキバのフードの中に隠れ、恐怖に耐えるように震えていた。獣ゆえの本能で、生物としての規格の違いを敏感に察しているのだ。

 普段勝気な、あるいは能天気な二人のしおらしい姿に、シカマルは戸惑いを隠せない。

 

「オレもキバやいのに同意する。なぜなら、虫たちが酷くざわめいていたからだ。通常、そんなことはありえない」

 

「たぶんだけど……。あのまま暴れられたら、死人が出てたかも……。正直、次元が違い過ぎて分からないけど、たぶん、アスマ先生でもあの狸は……」

 

「……マジかよ」

 

 シノの言葉を受けて、ナルトが戦っていた狸がどれほど危険な存在かを再認識し、シカマルは背筋に寒気を覚える。

 

「何が起きてたんだ……マジで……」

 

 五代目火影がナルトと我愛羅を連れて姿を消し、しばらくするとナルトは意識を失った状態で五代目に横抱きにされて帰還した。三人が姿を消していた間、一体何が起きていたのか―――かなり興味はある。しかしめんどうくさがりのシカマルは、下手に首を突っ込んで面倒に巻き込まれたくは無いので、その好奇心を自制する。

 

「オレ達の世代も大概だったってことか……。はあ、めんどくせぇ」

 

 シカマルは気だるげにため息を吐いて、しかしどこか嬉しそうに言った。

 

「まあでも、火影様が何とかしてくれたんでしょ? 帰ってきたら二人とも普通な感じだったし。ナルトは寝てたけど……。だからきっと大丈夫だよ」

 

「あんたはマイペースねぇ……。でも、そうね。火影様がいれば、木ノ葉は大丈夫ね!!」

 

 いのは、お菓子を食べ始めたチョウジの言葉に呆れた様子を見せながら、しかし安心したように頷いた。

 キバも「さすが火影様だぜ!!」と拳を振り上げて、五代目火影への尊敬をこれまで以上に深めているようだった。

 

「普段は頼りないが、いざと言うときには信頼できる。なぜなら五代目火影は、オレの父の師だからだ。……絶対に怒らせるなとは、常日頃言われているが」

 

「そういえば火影様の怒ったところって、見たことないわね」

 

 シノの言葉に、いのが思い出すように言う。

 

「怒りそうにないよなぁ。ナルトの我儘も笑って受け入れてるみたいだし、アカデミーでサボってたオレ達にも怒ったことなかったもんなぁ。めんどくさくなくてありがたかったぜ」

 

 畳間は時折、フラっとアカデミーを訪れることがあった。たまたま悪戯小僧たちの悪だくみに出くわした際も、授業をサボって昼寝していたところを見られた時も、特に怒りはしなかった。シカマルはそれがどういう意味かは分からないが、「よきかなよきかな」と笑いながら去っていったこともある。

 戦争中、アカデミーの子供たちは飛び級を強いられ、余裕無く戦いの準備に明け暮れていた。授業を抜け出したり、思うがままに生きる子供たちの姿は、畳間にとって「よきかな」と笑いたくなる光景なのである。

 

「……シスイさんは怒ったら怖そうだけどよ」

 

 サスケを一方的に蹂躙した―――ようにしか見えなかった五代目火影の息子の試合を思い出し、シカマルが恐ろし気に口にする。

 しかしそれを、いのが激しい口調で反論して見せる。

 

「バッカマル!! 分かってないわねぇ。あれが良いんじゃないの!! 普段は優しくて、穏やかで、素敵なお兄さんなのに……ここぞというときには強い意思を見せる……!! ああ……、私も多由也さんがされてたあの”ゾクってするやつ”されてみたい!!」

 

「重症だぜこりゃあ……。ったく……めんどくせぇな……」

 

 男たちは皆呆れた様子で、頬が赤らみ緩んだ表情を浮かべるいのを見つめた。

 

 

 

 

 第五試合。

 木ノ葉隠れ―――日向ネジvs砂隠れ―――カンクロウ。

 

「……」

 

「……おっかねぇじゃん」

 

 サスケとシスイの闘いを見て、敗れ去ったサスケの健闘を讃えたネジは、闘争心が滾っている。ネジの体から沸き立つその揺らぎが眼に見えるようだった。

 白眼を発現させているネジは、本人にその気が無かったとしても、見つめられているカンクロウからすれば、凄まじい形相で睨まれているように感じる。口の端を引きつらせるように、カンクロウは笑った。

 

 ―――試合開始。

 

 その合図とともに、カンクロウは巻物を開放し、二体の傀儡を呼び出した。 

 名を、クロアリと、サンショウウオ。

 

「……なるほどな」

 

 ネジは柔拳の型を構え、白眼で静かにカンクロウを観察する。

 カンクロウが傀儡を動かして、ネジに襲い掛かった。

 ネジの掌底により発生した真空波をサンショウウオで受け止めて身を守ったカンクロウは、クロアリの腹部を開放し、ネジへと迫らせる。

 敵をその腹部に拘束し、刀で串刺しにする、残虐な傀儡。カンクロウもさすがにそこまでするつもりは無いが、しかし行動不能になる程度の傷は与えさせてもらう―――。

 

 迫るクロアリを僅かな体捌きで避けたネジは、その傀儡の体に触れ―――チャクラを流し込む。

 

「―――なに!?」

 

 カンクロウが声をあげる。

 咄嗟に、クロアリに繋がったチャクラ糸を切り離した。

 カンクロウに冷や汗が流れる。あと少し糸を切り離すのが遅ければ、ネジの流し込んだチャクラが糸を伝わってカンクロウのもとへ辿り着き、糸を操る指先を破壊されていた。

 

 数歩カンクロウに歩み寄ったネジが眼を細める。その視線はカンクロウを越えて―――その背中に背負われている”包帯で包まれた何か”へと向けられていた。

 

 繋がりを失い地に転がったクロアリへ向けて、カンクロウは目視することも難しいほどに細いチャクラ糸を伸ばした。ネジがクロアリから目を背けている今、クロアリを再度操って、ネジへと奇襲を仕掛けようという腹積もりである。

 極細のチャクラ糸がクロアリに繋がった瞬間―――ネジはそのチャクラ糸を手刀で切断した。

 

「なんだと!?」

 

 カンクロウの驚愕の声。見えるはずのない糸を視認され、触れることすら難しいそれを切断された。傀儡師としての先輩と、チャクラ糸による操作合戦を行ったことはある。しかしそれは傀儡師同士、チャクラ糸を操る者同士だからこその闘いだ。普通、チャクラ糸は視認できるようなものでは無い。

 

 だが、現実、カンクロウのチャクラ糸は問答無用で切断された。

 それどころか―――ネジは切断され宙を舞ったチャクラ糸をすさまじい速さで掴み取り、再びチャクラを流し込む。カンクロウは咄嗟にチャクラ糸を切断し、ネジがその隙に距離を詰めた。

 カンクロウにとってこの状況は、人生で初めてのものであった。

 

 ネジの白眼は、チャクラの点穴を見抜く。それは白眼の極みの一つであり―――そこに至っているネジにとって、傀儡に繋がる細いチャクラ糸や、身を隠す標的を見つけ出すなど、わけない(・・・・)ことだ。

 

 再びチャクラ糸を伸ばせば切断され、チャクラを流される。

 そして、ネジはまた数歩前に進んだ。

 

 チャクラ糸をネジから遠く放し、遠回しにクロアリへ向けて伸ばしても、ネジはそちらを見ることすらなく、糸へ向けて手刀を放ち―――そのチャクラの衝撃刃が糸を切断した。

 そして、また近づいて来る。

 

 恐怖に表情を引きつらせたカンクロウは、サンショウウオをチャクラ糸で操作して、ネジへと襲い掛かった。

 ネジは裏拳を上方向へと放ち、暖簾を避けるような所作で、サンショウウオの顎に当て―――弾き飛ばした。

 

「ば、バケモンかお前!!」

 

 カンクロウの表情が恐怖で強張る。

 

「失敬な……」

 

 ネジは不服そうに表情を顰めた。バケモンはもっと別にいるということである。

 

「降参しろ。お前はオレには勝てん」

 

「く……うおおおおおお!!」

 

 サンショウウオとの繋がりすら断ち切られたカンクロウが雄たけびを上げ、破れかぶれといった様子でネジへと駆け寄り殴りかかった。

 ネジはその拳を回し受けによって逸らすと、入り身によってそのその脇に入り込み、カンクロウ―――が”背負う(・・・)”包帯で包まれた何か”へと、熊手を打ち込んだ。

 

「があああああああああああああ!!」

 

 激痛にあえぐ声が響く。

 

「脇腹にある激痛を起こす点穴を突いた。死にはしない」

 

 ”包帯で包まれた何か”の包帯が解け、中から男が―――カンクロウが痛みに呻きながら転がるように現れた。同時に、”カンクロウだったもの”を覆っていた砂が崩れ落ちて、その中から不気味な傀儡が現れる。

 カンクロウは、傀儡を自身に擬態させ、自身はその後ろに隠れ、機会を伺っていた。しかし相手は日向が誇る天才―――すべてを見抜く白眼のスペシャリストである。最初から、カンクロウの企みは見抜かれていた。

 

「こ、こうさ―――」

 

 言い終わらぬうちに、カンクロウは痛みに耐え、自身に擬態させていた傀儡―――カラスを操作して、ネジへと襲い掛からせた。カンクロウ、意地での最後の攻撃であった。

 しかしネジはその場で回転し、チャクラを全身から放出。そのチャクラの風圧でカラスを吹き飛ばし、カンクロウもまたその勢いに押され、地面を転がった。

 

「―――オレに死角は無い」

 

 残心を見せて、ネジが呟く。

 痛みに呻き、立ち上がれる様子の無いカンクロウに、試験官がネジの勝利を判断。

 ここに、第五試合は幕を下ろした。

 

 

 

 

「兄さん……姉さん……」

 

 戦いを観ていた我愛羅が、敗退していった姉と兄を思い、その無念の思いを感じて、呟いた。

 カンクロウはネジに突かれた点穴を解除され、伸ばされた手を掴んで立ち上がり、そのまま硬い握手を交わしているところである。

 「痛いじゃん」、「すまない」と、言葉を交わしている二人の雰囲気は悪いものでは無いが、我愛羅にとって尊敬する兄姉が敗退したことは残念なことであった。

 掌を見つめた我愛羅は、その掌を力強く握りしめる。

 

「勝ち進み、強さを証明する……」

 

 五代目火影に言われた言葉を、反芻する。我愛羅は眼を閉じた。

 

 ―――オレの勝利は、みんなのために。

 

「守鶴……。お前とオレで……証明しよう。仲良し人柱力の強さを。そして、オレ達の兄姉の強さを」

 

(仲良しじゃねーよ!! 兄姉でもねーよ!!)

 

 我愛羅の言葉に、守鶴がむきになって反論した。

 

 

 

 

 続く第六試合。

 春野サクラvs香憐。

 

「……」

 

「……」

 

 試験官を挟み、二人は無言で見つめ合っている。

 

「ねえ、香憐」

 

「なんだ」

 

 恐る恐る、伺うような仕草で、サクラが問いかけた。

 香憐は仏頂面で応じる。

 

「アカデミーにいるとき、私たちってそこまで差は無かったわよね?」

 

「……まあ、そうだな」

 

「今、あんたってシスイさんと一緒の班にいるのよね?」

 

「……そうだけど?」

 

「シスイさんたちと同期、なのよね?」

 

「……畳間さんの傍に行きたくて飛び級したからな。できればイタチさんみたいにすぐ傍付きになりたかったけど……。でも先生が……つーか、さっきからなんだよ、サクラ」

 

 サクラの主旨の分からない質問に、香憐が苛立たし気な表情を浮かべる。

 サクラが戸惑いつつも、意を決して質問を口にした。

 

「……もしかしてだけど。実はあんたもあの人たちくらい強かったりするの?」

 

 サクラ、壮絶な覚悟を伴った質問であった

 YESと答えようものなら、光の速さで降参する。その覚悟が、サクラにはあった。

 

「んなわけねーだろ!! あんな化け物野郎どもと一緒にすんな!!」

 

「よかったぁ。じゃあ大丈夫ね」

 

「……は?」

 

 あからさまに安堵の息を吐いたサクラに、香憐が苛立たし気に眉を寄せる。

 

「なんだ? もしかして、私になら勝てるって言いたいのか?」

 

「あれ、そう聞こえなかった? 素直になれないお子様程度、私でも十分だって言ったんだけど……分かりづらくてごめんね?」

 

「てめーぶっころす」

 

「いい加減、私もイライラしてんのよ。……ねえ。あんたさ、本当はナルトのこと好きでしょ」

 

「は、はあ!? はあ!? はあああああ!?」

 

 顔を染めて目を見開きながら威嚇なのか、戸惑いなのか、声を荒げる香憐に、サクラが畳み掛ける。

 実際、香憐がナルトを男女の意味で好きなのかは、サクラには分からない。しかし少なくとも、家族として一定以上の信愛を抱いていることは明らかである。

 好きな子に意地悪をする小さな男の子と変わらない香憐は、大人からすれば微笑ましくも見えるものだが、同世代であり苛めを嫌うサクラにとっては、いささか目障りなものだった。

 

「明らかに意識してんのに、いつもいつもあの態度! ナルトが可哀そうよ。あんなの、いじめと変わらないわ。ナルトが優しいからって、甘えるのはその辺にしとけっての」

 

 ―――私、苛めって大嫌いなの。

 

 言い終わったサクラは、狼狽する香憐を捨ておいて、試験官に「始めてください」と小さく言う。

 試験官はサクラの意図を察し、試合開始の宣言をする。

 

 ―――同時、サクラが駆けだして、未だ混乱による狼狽から脱出できていない香憐の鳩尾へ向けて、全力の拳を叩き込んだ。

 

「ごぼお!!」

 

「……牛蒡?」

 

 唾をまき散らし、女の子の出す音程でない呻き声を漏らし、くの字に折れ曲がった香憐の体が、僅かに宙に浮いた。

 

 サクラは香憐の腹に突き刺さった腕を引き抜き、両手を合わせて槌を作ると、その背中へと振り下ろす。

 背中に殴打を喰らった香憐の体は、地面に叩きつけられる。

 

 サクラは倒れ伏した香憐に冷ややかな目を向けた。

 サクラは香憐の混乱を誘ったのだ。試合開始と共に、その実力を出し切られる前に勝負を決める。第二試験―――シカマルには、良いことを学ばせてもらった。 

 

「―――らああああああああああ!!」

 

 倒れ伏していた香憐が突如起き上がり、サクラへ向けて殴りかかった。

 顔を殴られたサクラは、口の中を切ったのか血を吹き出しながら、数歩後ずさる。

 

「いった……。あれで、倒れないなんて……」

 

 男前な所作で口の端に流れた血を拭いながら、サクラが驚愕に目を見開く。

 香憐もまた男前な所作で、胃液混じりの唾を吐き出しながら、憎らし気にサクラを睨みつけた。

 

「”うずまき”舐めんなよ、ゲスマンやろー!!」

 

「げ、ゲスマンって……」

 

 あまりに汚い言葉使いである。

 その意味を知る耳年増なサクラは頬を染めつつ、口の端を引きつらせた。

 

「なんだァ!? おぼこのサクラちゃんはこんな言葉も恥ずかしいってか!? おこちゃまでちゅねー?」

 

 顎に着いた胃液を袖で拭いながら、香憐が煽る様に言う。

 

「なによビッチ!! 阿婆擦れ自慢してもダサいだけよ!!」

 

「あ、あ、あば、あばずれぇ!? この頭桃色淫乱女が!! 年中発情してんじゃねーよタコ!!」

 

「タコはアンタでしょ!! ゆで上がったタコみたいな頭してるくせに!!」

 

女郎(・・)ぶっころしてやる!!」 

 

「こっちのセリフじゃしゃんなろーーー!!」

 

 駆けだした二人が互いの頬を殴りつける。

 今までの闘いと比べ地味な、見た目可憐な少女二人の闘いは、多くの観客たちの心配を誘った。

 一方、一部の観客は盛大な盛り上がりを見せていた。

 

 サクラも、伊達にサスケやカカシと共に修業をしていたわけではない。雷遁活性による超スピードを間近で見続けたこの一か月は、サクラの動体視力の成長を促していた。 

 香憐の攻撃を、サクラは何発か貰いながらも、躱せるものは躱していた。サクラはカカシより教わった幻術を駆使しながら、虚実を織り交ぜて攻撃を仕掛ける。

 一方の香憐とて、伊達に一年早く下忍になってはいない。サクラの虚実の入り混じった攻撃を、やはり体で喰らいながらも、生まれ持った感知タイプとしての能力を駆使し、避けられるものは避けていた。

 

 クロスカウンター。

 互いの拳が互いの顎に突き刺さり、二人の顔が跳ね上がり、体が仰け反った。

 

 ―――今!!

 

 二人はありったけのチャクラを拳に込めると、背筋腹筋体幹を全力で駆使し、仰け反った体を引きずり戻すと、互いの腹へと全力で拳を打ち放った。

 

 互いに唾液を吐き散らしながら、二人の体は反発する磁石のように吹っ飛んだ。

 サクラは土埃を巻き上げながら地を転がって、摩擦に服を破りながら制止する。

 香憐は地面を踏みしめて堪えると、サクラへ向かって走り出した。

 サクラは煙球を香憐へ向かって放ち、目くらましをすることで追撃を避ける。さらにダメ押しに、直前に幻術を仕掛け、一瞬だけ香憐の呼吸を乱した。

 香憐は苛立たし気に、その幻術を一瞬で解除したが、煙幕によって足止めを喰らう。

 

 煙が張れると同時、よろめきながら立ち上がるサクラが姿を現した。その服はところどころが破れ、傷を負った肌が露出している。特に激しい殴り合いを続けた上半身の服の破れ方は激しく、肩はむき出しとなっていた。サラシには血が滲んでいる。痛ましいものだった。

 

 互いに荒い息を吐き、睨みつけ合った。息も絶え絶えなサクラと比べ、香憐にはまだ余裕があった。

 悔し気な表情のサクラが駆けだし―――二人増えた。

 

「影分身!?」

 

 香憐が驚愕する。しかし増えた左右のサクラからはチャクラを感じない。ただの分身の術であることに安堵する。多用する者が近くにいて感覚が麻痺するのも無理はないが、多重影分身は本来禁術である。サクラが使える道理はない。

 

「舐めんな!!」

 

 本体を容易に見つけ出した香憐は分身を無視し、本体へと突貫する。スタミナの面でサクラに大きく勝る香憐の動きは、サクラに比べてまだキレがある。

 

「―――ご」

 

 体の頑丈さには自信がある香憐は、弱ったサクラの放つ拳を敢えて避けずに顔面に受けることでその動きを制止させると、体を仰け反らせながら印を結び、とっておきの封印術を開放した。

 

「―――五行封印!!」

 

 サクラの丹田へ向けて放たれた熊手は、指先に淡いチャクラの炎を宿し、その肉へと突き刺さ―――る直前、サクラの体が煙と共に消えた。

 

「か、かげぶ―――」

 

 直後。サクラの影分身のいた場所に桃色の可愛らしいパンティが一枚ひらひらと落ち、それが煙をあげると―――サクラ本体が現れた。

 香憐が感知タイプの忍者であることを、サクラは知っている。影分身を作り出しても、本体から離せばそのチャクラを感知され、”二人いる”ことに気づかれる。故にサクラは文字通り肌身離さず影分身にくっ付いていられるものを、変化の術の対象として選んだ。サクラは煙の中でパンティとなったのである。

 

 香憐を幻術に掛け一瞬の隙を作ったサクラは、煙幕に包まれると同時に影分身を生み出すと、自身を履かせて影分身の体に、その身を匿わせた。そして突貫と共に生み出した分身の術によって香憐の油断を誘ったのである。

 感知タイプの自分に分身などしゃらくさい―――香憐にそう思わせた。香憐は感情の起伏が激しいタイプだ。必ず、この煽りに乗ってくると、サクラは踏んでいた。

 

「幻術―――」

 

 攻撃によって消滅する前に解除された影分身は、そのチャクラをサクラへと還元させる性質を持つ。戻ったチャクラと、本体に残っていたチャクラのすべてを練り上げて、サクラは術を発動する。

 殴り合いでは、いずれ体力で劣るサクラが負ける。香憐に勝つには、動きを封じる他に手はない。ゆえにサクラは木ノ葉のくノ一の間で流行っている”怪力”を捨て、最初で最後、とっておきの幻術による決着を選んだ。これを破られれば、もはやサクラに勝機は無い。だからこそ、ありったけを―――。

 パンティから人間に戻ったサクラは、単なる体当たりで香憐の体を押し倒そうとする。

 香憐は踏みとどまり、サクラに肘打ちを喰らわせようと、腕を振り上げて―――香憐のすべてが、闇に染まった。

 

「―――黒暗行の術!!」

 

 二代目火影より畳間に受け継がれ、そしてカカシへと伝わった幻術である。

 

 一瞬の闇の訪れ―――その直後、香憐に光が戻る。超高等忍術である黒暗行の術は、今のサクラにとってその維持が非常に難しいものであり、すぐにその幻術は解けた。

 だが、少しの間すべての感覚を遮断されていた香憐は、光を取り戻した時、自分が地面に仰向けに倒れ込んでいることと、首筋に当たる冷たい感覚に、この勝負―――その勝敗の行方を理解した。

 

「―――勝者!! 春野サクラ!!」

 

 会場が沸き上がる。傍目には単なる殴り合いにしか見えず、その下忍にしては高度な読み合いを理解した者は少ないが、しかし血と泥に塗れて戦い抜いた二人の少女へ、観客たちは惜しみない拍手を送る。

 

 ―――香憐の頬を、一筋の涙が零れた。

 

 言いようのない感覚が、香憐の胸中を埋め尽くす。

 サクラはふらつきながら香憐から退くと、痛ましげに香憐を見下ろしたが、しかし敗者への同情はよくないと本で読んだ。それに、そんな甘い関係でもない。

 サクラは何かを振り切るように首を振ると、背中を向けて言った。

 

「もしもあんたが影分身の術を使ってれば、私はきっと勝てなかった」

 

 サクラからの厳しい指摘に、香憐が息を呑む。

 影分身の術。それは畳間よりナルトへと伝授された、ナルトのフェイバリット忍術。

 ナルトに対して可愛らしい敵愾心を抱く香憐は、その術を頑なに覚えようとはしなかった。

 誰がナルトと同じ術を―――そんなつまらない意地を張って、香憐はナルトが興味を持っていない、封印術の修業に力を入れていた。

 それが、この勝負の行方を分けた。

 

「ずっとそこ(・・)にいたいなら、そうすれば良いわ。私は、先に進む(・・・・)から」

 

 地に倒れる香憐から、サクラは視線を逸らした。その向けられた視線の先には、里を見守る火影岩。

 かつて下忍となった日に、五代目火影によって連れられて見たあの景色をサクラは思い出す。

 

 波の国との戦いの後、そして第二試験で為すすべなく吹き飛ばされ意識を失った後、そして敗北はしてしまったが、この一か月で急激に成長した二人の班員たちの背中を見て、サクラは考えるようになった。

 

 ―――自身の進むべき道を。

 

 幼少期にはナルトに救われ、下忍となってからはサスケに背中を押してもらった。貰ってばかりのこの身だが、火影になると叫ぶ二人の班員として胸を張るためにも、これ以上置いていかれるわけにはいかない。

 たとえ少しずつでも、前に進む。アカデミー時代から変わろうとしていない香憐に、サクラは決して、負けるわけにはいかなかった。火影になると誓う二人の少年―――その仲間として、その支えとなるために。

 

 きっと、あの二人は火影になる。どちらが火影となるかは、今のサクラには予想も出来ないが、しかし、きっとどちらかの少年は大人となって、いつか、この里を背負う時が来る。

 ならばその忍道を―――忍者としての始まりから、あの少年たちを見守る栄誉を賜った自分がしたいと思うことは、一つだけ。

 

 ―――自分の足で。いつか私は、あの火影岩の上に立つ。いつか里を背負う偉大な火影(馬鹿な少年)―――その(かたわ)らに、寄り添って。

 

 血に濡れた桃色の後ろ髪が風に靡く。

 サクラは流し目に香憐を映し、額に張り付く髪の毛を手で掻き上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――チャクラを使い過ぎた。

 

 締まらないなと自嘲して、サクラは意識を失った。

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