「やーい! 弱虫毛虫ウラシキ!! どーせスケベな目ん玉で今も覗き見してんだろ!? おっちゃんにビビッて逃げた惨めなヘタレ野郎!! どーせオレにビビッてションベンチビって、動けねーんだろうけどな!! だってお前は馬鹿でアホで間抜けだもんなぁ!? それもしかたねぇか!? ウラシキ! お前は所詮、前の戦いの”敗北者”だもんなぁ!? わざわざ遠くから木ノ葉くんだりまで出向いて!! 最初は強そうな雰囲気出して空に君臨してたけど!! オレも攫えず何も得ず!! しまいにゃオレの”お父さん”、五代目火影に阻まれて!! ぼっこぼこのぎったぎたにされて!! 泣きべそかいて逃げ出して!! こそこそ隠れて逃げ惑う!! お前ってば、めちゃくちゃ情けねーってばよ!! めちゃくちゃみっともねぇってばよ!! お前木ノ葉に何しに来たの? 普通に観光しに来たの!? 生きてて恥ずかしくないの!? 家族に申し訳なくないの!? 糞雑魚ナメクジですみませんって、謝ったらどうだってばよ!! 今なら土下座してオレの尻を舐めれば半殺しで許してやるってばよ!! どうしたどうしたウラシキ!! 悔しかったら掛かって来いよ!! ほら来いよウラシキ!! 輪廻眼なんて捨てて掛かって来い!!」
「……」
ナルトが言った罵詈雑言が、草原を走り去る。
ナルトは片手は握りこぶしを作り、立てた親指を下に向け、もう片方の握り拳の中指を上に上げて虚空へと示し、人相悪く舌をだらんと垂らしている。
そんなナルトの隣に立つ畳間は、無言でナルトを見つめていた。
どこでそんな汚い動きと煽り文句を覚えたのか問い詰めたい畳間であるが、孤児院の兄弟たちはその出生ゆえか、割と口が悪い子が多いので、そこから覚えたのかもしれないとも思う。
「――――!!」
突如、音が聞き取れないほどの上空から、声が近づいて来る。
―――来るのか。いや……あれだけ言われたら来るわな、そりゃ……。
意識を、切り替える。
畳間は万華鏡写輪眼を浮かべ、空を凝視する。豆粒ほどだった黒点は徐々に大きくなり、その全容を把握する。
―――ウラシキだ。
憤怒の形相を浮かべている。
見開かれた眼は血走り、額には破裂しそうなほどに隆起した血管、そして裂けんばかりに開かれた口。
「うずまきナルトォおォおォおおおおおお!!」
さながら砲弾のような勢いで、上空から直角に、地面へと突っ込んで来る。
「―――影分身の術」
畳間の影分身が現れる。影分身は本体の畳間の身体を掴み、接近するウラシキへ目掛けて投げ飛ばした。
「邪魔だああああ!! ―――ボごォ!?」
本体の畳間は突貫してくるウラシキに急接近し、激突の瞬間に体をひねり、地面に叩きつけるような角度で、ウラシキの顔面に膝蹴りを叩き込んだ。
ウラシキは血反吐を巻き散らしながら地面に吹き飛ばされ―――
「オラァ!!」
―――突如現れた空間の裂け目から出て来た白い細腕に、殴り飛ばされる。
ウラシキの身体は、地面を激突しては跳ねながら、錐もみ回転をして吹き飛んでいく。
その先には、両掌を前に出す畳間が立ちはだかっている。
「行くぞ綱!!」
「応!!」
畳間の呼びかけに応じた綱手。
その脚が美しい半月を描き、天へと持ち上げられる。
「―――飛雷神の術・転送!!」
吹き飛んできたウラシキの身体に畳間の掌が触れた瞬間、ウラシキの姿が消え―――再び、綱手の前に現れる。飛雷神の術で、綱手につけられたマーキングへと転送されたのである。
「―――痛天脚!!」
綱手は、突如目の前に現れたウラシキの腹部へ、踵落としを叩きつけた。宙に浮いていたウラシキの身体は地面に叩きつけられ、血反吐を巻き散らす。ウラシキを中心に地面は陥没し、周囲にも浅くない亀裂が入る。
「お前は長門では無いのォ!! ―――口寄せ・屋台崩しの術!!」
綱手が、ウラシキの腹部を踏みにじる様にして地面を蹴り飛ばし後方へ飛んだと同時、その上空から巨大な蝦蟇がウラシキの上に堕ちて来た。ウラシキは逃げる間もなく巨大蝦蟇に圧し潰され、地面へとめり込んだ。
「神羅天征!!」
―――突如、蝦蟇が空中へと吹き飛ばされる。
「例の障壁の術か!!」
目を細め、舞い上がる土埃から目を守るために腕を顔にかざしながら、畳間が言った。
凄まじい勢いで、ウラシキが宙へと飛び出した。血塗れの体。その傷は深く、戻し切れていないようである。
「逃がすな!! 仕留めろ―――ガイ!!」
「―――第七驚門・開!! 真・木ノ葉蓮華!!」
突如、空間の裂け目から飛び出して来た緑の人影―――マイト・ガイが、地面をすさまじい勢いで蹴りつけた。地面が陥没し、暴風が発生する。同時、ガイの姿が消えた。
空間の裂け目から、ガイに続いて出ようとしていたボルトがその風圧で吹き飛び、空間の中へと戻され―――サスケに足を掴まれて、放り出された。可哀そうである。
「―――壱足!!」
ガイの咆哮。
加速したガイの足底は、宙へ飛び上がろうとしていたウラシキの顔面を捉えた。凄まじい威力―――ウラシキの歯が数本飛び出して宙を舞い、鼻の角度が変わる。
ウラシキは空へ逃げること叶わず、ガイに蹴りつけられた方角へ、地面と平行を保ったまま、吹き飛んで行く。
しかし、ガイの蓮華は終わらない。
「―――弐足!!」
ウラシキを蹴り飛ばしたガイは無理やり足を地面を叩きつけると、それを起点に再び加速する。
地面が陥没し、地響きが起きて―――ガイの姿が消える。それはまるで、飛雷神の術で瞬間移動したかのような、常人では視認不可能な速度であった。
爆速で動くガイは、自身で蹴り飛ばしたウラシキを瞬く間に通り過ぎると、輪廻眼の能力で時を戻し傷を無くそうとしているウラシキの胸部に膝を叩きつけ、蹴り上げる。
ウラシキのあばら骨が粉砕され、肺が破裂した。ウラシキは血反吐を巻き散らす。
「―――参足!!」
ウラシキが地面から直角に、宙へと飛んでいく。ウラシキの呻き声すら置き去りにし―――ガイはウラシキの呻き声を鼓膜が捉えるよりも早く、再びその姿を消した。深く陥没した地面は、その威力を物語っていた。
「な ん だ こ の ば け も の は―――」
ウラシキの身体は、凄まじい勢いで天空へ駆け昇らせられる。その様はまるで、宙に投げ捨てられた糸の切れた操り人形のようである。あるいは軟体動物とでも言おうか―――その手足は力なく放り出されて、不気味に、そして哀れに揺れている。
ガイが、ウラシキより少し上空に出現した。
両手の拳を合わせ、槌を作り出したガイは、渾身の力でそれを振り下ろす。
空気の壁を突き破り、摩擦によって生み出された炎と共に、ガイの拳槌が、ウラシキの腹部に叩きつけられる。ウラシキの腹部表面が
「―――肆足!!」
空間に分厚い壁が生み出される。ガイは、”空”を蹴り飛ばした。
次の瞬間―――ガイは、地上に立っていた。しかしそれも、常人には視認できないほどの一瞬のことであり、地上に立っていたはずのガイの姿は、次の瞬間にはその場から消えていた。
「―――伍促!!」
突如、地面にクレーターが発生する。それはガイが地面を蹴りつけ、宙へ向かって飛んだが故に発生したものであった。
ガイが拳を天に掲げ、一本の槍と化した自身の肉体を、ウラシキへ向けて解き放つ。八門遁甲によって活性化された下肢筋肉は、バネの様な”しなり”を以て、ガイの身体を打ち出したのである。
「―――夕象!!!」
(なんだなんんだんあんだんなんだんだこのばけものは!?)
支離滅裂な思考の中、ウラシキはこの一撃をまともに喰らえば、時を戻す間もなく殺されると理解する。
ウラシキの輪廻眼が怪しく輝き、空間に裂け目が生まれ―――瞬く間に消滅した。
「うちはサスケェエエエエエ!!」
ウラシキの輪廻眼には、輪廻写輪眼を輝かせるうちはサスケの姿が映り込む。ウラシキの時空間忍術の発動を、サスケが妨害しているのである。
(ころされる!!!)
「―――神羅天征!!」
目に見えぬ障壁が発生する。あらゆるものを吹き飛ばす、斥力。
不可視の障壁と、ガイの拳が激突する。
一瞬の停滞―――ガイの拳が、前へ進んでいく。
(ああああああああああああ!!)
ウラシキの眼球から血の涙が流れだし―――斥力が爆発的に増加する。
遂にガイが弾き飛ばされる。自身の威力を反射されたガイは、凄まじい勢いで地面へと叩きつけられ―――
「―――天手力」
「がああああああ!!」
―――ウラシキが地面に叩きつけられ、地面へ向かっていたはずのガイが、天空へと飛んで行く。
宙にいるウラシキの位置と、吹き飛ばされたガイの位置を、サスケが入れ替えたのである。
「木人の術!!」
畳間が
「―――!! 貰ったぞそのチャクラ!!」
地面にめり込んでいたウラシキが、勝機を得たりと、満面の笑みで起き上がり、木人の術に釣竿を振るい、針を投げ飛ばす。
木人の身体に突き刺さった針は、木人を解体し、そのチャクラを奪う―――ことは無かった。
「え?」
「うちの娘は優秀でな。封印術のキレは、オレの全盛期を越える」
「ふ、封印術……!? ”術”に封印術!?」
―――木人の身体に、五行封印の陣が浮かび上がった。
そう―――畳間は今、木人を作り出したのではない。この木人は、事前に里で生み出し、今、口寄せの術で呼び出したもの。そしてこの”木人の術”には、畳間が言うように、畳間の全盛期を越えるキレを見せる、
焦るウラシキが、その眼をぎょろりと動かす。その視線の先には―――うずまきナルトの姿。
「狐ェええええええ!!」
ウラシキがナルトへ向けて突貫する。
途中、ウラシキが釣り竿を振るい、その先端の針をナルトへと投げ飛ばした。
釣り竿の針が、ナルトの腹に直撃する。
「ナルト!!」
一歩遅れて、カカシが飛び出し、ウラシキに肉弾戦を仕掛ける。
「―――邪魔だああああ!!」
ウラシキを中心に不可視の障壁が生み出され、カカシが吹き飛ばされる。
ウラシキは後ずさるナルトの腹に手を叩き込み、その体内のチャクラを奪おうと、チャクラ体の腕を体内に侵入させる。
「な、封印術が!! ―――
ボルトが叫ぶ。
ナルトの腹に八卦封印の術式が浮かび、そして無残にも砕け散った様を、ボルトの瞳は捉えてしまったのである。
「その封印術はとうに見た!!」
ウラシキは最初の交戦以後、ナルトの封印術を解除するために、開印術を開発していたのだ。そしてその成果は成り、ナルトに施された封印術は解除された。
「貰ったぞ狐エエエエ!! ……え?」
しかしウラシキは、引きずり出した自身の腕を見て、力なく呟いた。その握りこぶしには、何も、握られていなかったのである。
「これは……何が……っ! 封印術式は、確かに破ったはず……っ!! なんで……。
―――ま、まさか!! ふ、封印術に……封印術の重ね掛けを……っ?!」
「―――言っただろう。オレの娘は、
ウラシキの背筋が凍る。寒気がして、ぶるりと体が震える。その声は、ウラシキの背後から、聞こえて来たものだった。
―――ナルトの中に封じられた九尾。
その封印を司る封印式は、八卦の陣である。それは封印術において、畳間を越える才能を誇った、四代目火影夫婦の遺産。
そして畳間の愛娘―――うずまき一族の血を濃く受け継ぐ天才―――うずまきカリンもまた、封印術の才能だけで言えば、千手畳間を凌駕する。
四代目火影が命懸けで組み上げた八卦の封印術式を解析したカリンは、その上から、さらに八卦封印を重ね掛けしたのである。
四代目火影が作り上げた九尾の封印術式は、ナルトの中の九尾のチャクラを、
カリンが四代目火影の封印術の上から、さらに封印術を重ね掛けすれば、確かに九尾の封印自体は強固には成るものの、そのチャクラはナルトへ還元されることなく、完全に遮断されることになる。生まれた時から付き合って来たチャクラのバランスが崩れたナルトは、これまで以上にチャクラの操作が困難となり、今まで使えていた忍術すらも、使うことが出来なくなる。つまり、完全に非力な子供になるということである。
ナルトは、畳間との会話の後、無い頭を必死に稼働させた。
しかし一人では思いつかなかったので、ナルトは信頼できる友人に相談することにした。この数日の間隙の中、ナルトは畳間から「周りには黙っているように」と釘を刺されたのにも関わらず、戦術眼では一歩も二歩も先を行くサクラを頼り、相談したのである。そして、ナルトを(守るために)ストーキングしていたサスケも合流し、三人で知恵を絞った。三人寄れば文殊の知恵とも言う。
結果―――三人は、木ノ葉側が万全の体制を築いてウラシキを迎え撃つように、ウラシキもまた、何かしらの準備をしてくるだろうと、考えた。もしかしたら、一度見られた封印術を解析し、解除する術を編み出しているかもしれない―――そう考えたのである。
そこでナルトは畳間に自分たちの考えを伝え―――畳間やサスケは、目から鱗と言うような思いで、その案を採用した。
封印術を施せば大丈夫と言う油断が、二人には確かにあった。しかしいくら封印術が得意な畳間と言えども、八卦封印の重ね掛けは難しく―――そこに現れたのが、立ち聞きしていたうずまきカリンである。
―――べ、別に? ウチは別に? ナルトのことはき、嫌いじゃないし、家族だし? 大変だって言うなら……その……あの……。
と、サクラとの戦いを経て、ナルトに素直に歩み寄ろうと決意したカリンは―――それでもすぐには変わり切れず、まごつきながらも、力になりたいと現れたのである。
ウラシキがナルトの中の九尾を狙うというのなら、絶対に命だけは奪われない。なぜなら、ナルトが死ねば、九尾も一緒に死ぬからである。
一種の賭けではあったが、ナルトは戦う力を捨てて、完全に”囮”になることを選択した。ナルトの決意に対し、畳間は「もはや何も言うまい」と受け入れて、この戦いに臨んだのである。あの盛大な煽りも、自分には戦う力が無いと理解した上で、”おっちゃん”たちを信じての、決死の煽りであった。
―――結果。”非力なクソガキ”である”本物のナルト”からの、暴力にも似た煽りに釣られたウラシキは、この一瞬の隙を、晒す羽目となった。
攻撃に攻撃を重ね、追い詰めに追い詰めて、時空間忍術ですら逃げられない状況を作れば、ウラシキは必ず、死に物狂いでナルトの中の九尾を狙うだろうという”読み”。
「ま―――」
「五行封印!!」
振り返り、制止の言葉を吐こうとするウラシキの言葉を無視した畳間は、その腹に渾身の一撃を叩き込む。
「が……は……っ!!」
ウラシキの口から、唾が巻き散らされる。ウラシキは数歩後ずさり、腹を押さえて蹲った。
チャクラが―――肉体と精神のエネルギーが分断される感覚。ウラシキの眼から、”瞳術”が失われていく。手の力が抜け、釣り竿が地面に落ち、チャクラで作られていた糸と針が消滅する。
「―――終わりだ」
畳間は口寄せで忍者刀を呼び出し、両手で握り締め、振りかぶる。封印術でチャクラを練れない状態にはしたが、チャクラを吸収する術まで封じたかどうかは分からない。確実に、かつリスクなくウラシキを殺すため、畳間は馴染んだ忍者刀を使うことを選んだのである。
「―――なめんじゃねェ……!! 猿共が!!」
忍者刀を振り下ろした畳間の耳に、地獄の底から響くような、憎悪と怒りが滲む声が届いた。
「―――こいつ……っ!! 自分の眼を……!?」
頭を上げたウラシキの顔には―――眼球が、存在しなかった。その暗い眼孔からは血が流れ、口元には、夥しい量の血が付着している。
畳間が振り下ろした刀がウラシキの首に直撃し―――その刃身が圧し折れる。
―――新調した刀が!!
そんなしょうもない悲嘆を内心に隠し、畳間はナルトを連れて、飛雷神の術で綱手の下へ飛んだ。
直後、ウラシキの周囲に巨大なクレーターが発生し―――チャクラの暴風が吹き荒れた。ウラシキの顔には、見慣れない文様が浮かび、その眼は黄色く淀んでいる。口元は嗜虐的に歪んでおり、「てめェら全員ぶち殺してやる!!」と、吐き出す言葉には凶暴さが滲み出て居た。
「……姿が変わった? 変身か……
「父さん!! アレは、ヤバイ!!」
サスケの近くにいたシスイが、焦燥を浮かべた顔で言った。
畳間は綱手にナルトを渡し、皆を庇うように手を翳し、前に出た。ちらと、周囲の気配を探る。先ほど吹き飛ばされたカカシはガイと合流し、肩を貸しているようだ。カカシはまだまだ戦えるが、ガイはもう戦える状態ではないだろう。激しい筋肉痛に蝕まれている。立っているのもやっと、といった状態のようだ。参戦は期待できない。
「てめェらァ!! オレが回復するからって好き放題やりやがって!! いてェいてェいてェ!! ぜってェ許さねェ!! てめェら纏めてぶっ殺してやる!!」
凄まじい形相で、ウラシキが凄んだ。
「……とんでもないチャクラだ」
シスイが戦慄するように言う。
安っぽいウラシキの怒声だが、ウラシキの邪悪な雰囲気が滲み出るチャクラの量が凄まじく、周囲の空気を振動させる。
仙術チャクラを以て、ウラシキの身体から立ち上るチャクラの凶悪さを感知しているシスイは、心臓を握られたかのような冷たい感覚すらも、感じてしまう。
「
「……初めて見る。あれが、奴の奥の手だろう」
「……そうか」
少し離れた後方のサスケに、畳間が声を飛ばす。サスケも緊張した様子を隠し切れておらず、一筋の汗を流している。サスケのその様子が、ウラシキの奥の手がどれほど規格外なものかを、如実に表していた。
「五行封印は解かれたか……。だが―――」
―――畳間の姿が消える。
―――直後、畳間がウラシキの背後に現れた。
「―――飛雷神斬り!!」
顔の前に小さく構えたクナイを振るい、畳間がウラシキの背後から奇襲をかける。
「おせェ!!」
紙一重で畳間の奇襲を避けたウラシキが、畳間の腕を掴もうとし―――再び、畳間の姿が消える。
「―――飛雷神斬り!!」
「無駄ァ!!」
再び畳間の奇襲を避けたウラシキが、畳間の腕を掴もうとし―――再び、畳間の姿が消える。
「―――飛雷神斬り!!」
「うぜェ!! 鬱陶しい!!」
チャクラの暴風。それは、体内のチャクラを開放し、物理的に爆風を生み出す―――術などではない、純粋な暴力であった。
「お兄様!!」
「……」
綱手の下に戻った畳間は、注意深くウラシキを観察している。
「綱。今のあいつは、時空間忍術……恐らくは輪廻眼の能力を使えない」
「それは……?」
「飛雷神の
畳間が少しだけ視線をシスイの方へと向けた瞬間、ウラシキが突撃を開始した。
一瞬で肉薄してくるウラシキに対し、畳間はナルトを抱き上げた綱手を蹴り飛ばし、木遁分身を後方に一体排出すると、本体の畳間でその突撃を受け止める。
「っぐ……! 力もあるッ……!」
「おっちゃん!!」
頭から突っ込んできたウラシキの肩を片足で押さえた畳間を支える、もう片方の足が地面にめり込み、ずり下がる。畳間はその頭部に逆手に持ったクナイを振り下ろそうとするが、ウラシキの肩を押さえていた足を握り締められる。
畳間の身体が、ウラシキによって持ち上げられ、凄まじい勢いで振り回された。
「―――
「―――承知!! ―――大玉螺旋丸!!」
宙を振り回された畳間の身体が、地面に叩きつけられる。
同時―――自来也が畳間の木分身に向かって、大玉螺旋丸を放った。
「何をやって……? ―――ぐっあァ……っ!! なにィ……っ!?」
―――直後。
ウラシキの目の前に、大玉螺旋丸が出現し、その体に激突する。
「飛雷神・互瞬回しの術!!」
飛雷神・互瞬回しの術。
術者が敵に触れた状態で、もう片方の術者が味方の術をわざと受け、直後に互いの位置を入れ替えることで、敵が術を受けざるを得ない状況を、強制的に作り出す術である。二代目火影の得意技でもあった。
「ぐっ……こんなもの……っ!!」
ウラシキは片腕で体を庇い、螺旋丸の直撃を辛うじて食い止める。
畳間は、螺旋丸の直撃を受けたウラシキの握力が弱まったと同時に、地面を蹴りつけて飛び下がった。
「しゃらくせェ!!」
ウラシキが大玉螺旋丸を片腕で払い飛ばし、地面を蹴って駆けだした。
目指す先は―――後方へ撤退した畳間。
「―――天手力!!」
「―――うぜェ!!」
畳間に肉薄したウラシキが拳を振るう。
畳間の腹部に直撃する瞬間―――畳間の姿が消えた。そして現れたのは、巨大な青白いチャクラの塊―――大玉螺旋丸。
サスケが瞳術によって、畳間と螺旋丸の位置を入れ替えたのである。
ウラシキは大玉螺旋丸をその拳で殴りつけて破壊すると、苛立たし気に振り返る。
―――同時、畳間、自来也、サスケが突貫する。
自来也の蹴りを避けたウラシキは、その足を掴んで振り回し、畳間に投げつける。畳間は飛雷神の術でウラシキの背後に飛び、自来也を避けると、掌を広げ―――その掌に青白いチャクラ球体が出現する。
「螺旋丸―――挿し木の術!!」
「何度も喰らうかァ!! タコォ!!」
畳間の攻撃を読んだウラシキは、振り返り様に畳間の腕を掴み、螺旋丸の直撃を止める。そして振り返ったことで死角となった個所からサスケが放った蹴りを、ウラシキはサスケの方を見ないまま避けると、カウンターでサスケの腹に蹴りを叩き込む。
サスケの身体は吹き飛ばされるが、その隙に態勢を立て直した自来也が突貫。サスケを蹴り飛ばし伸び切った足にしがみつき、突貫の勢いを利用して体を回転させ、ウラシキの脚をねじ切ろうと力を入れる。
ウラシキは自来也にしがみつかれたまま足を振り下ろし、自来也ごと地面に叩きつける。自来也は衝撃に耐えきれず、ウラシキの脚から手を放してしまう。
さらにウラシキは畳間の腕を掴んだ手を手前に勢いよく引き、畳間を引きずり倒した。自来也の身体に畳間の螺旋丸が直撃する―――直前、畳間が消え、サスケが現れる。サスケの瞳術である。
「―――千鳥!!」
ウラシキが畳間の腕を握っていた拳には、現在、服のみが握られている。サスケには片腕が無い。
(
「―――水断波!!」
再びウラシキの後ろに現れた畳間が、握られたサスケの服を水の刃で切り飛ばし、そのままウラシキの胴体を切断しようと首を動かした。
しかしウラシキは凄まじい速さと勢いで体を回転させ、サスケと畳間の身体を蹴り飛ばす。
「「ぐ……ァっ!!」」
サスケの千鳥は空を切り、地面を転がっていく。
畳間は水断波でサスケの身体を切断してしまいそうになり、咄嗟に術を解除し―――サスケと同じように地面を転がりながらも態勢を整え、片膝立ちで静止した。
「―――っ!?」
直後、畳間の眼前にウラシキが現れ、畳間の顔を蹴り飛ばす。しかし畳間も仰け反りながらブリッジの態勢を取り、逆手を地面を叩きつけ、ウラシキの顎を蹴り上げた。畳間のつま先がウラシキの顎先を掠り、ウラシキはふらついて数歩後ずさる。
しかしウラシキは螺旋丸にも似た紫のチャクラの球体を掌に生み出し、畳間の背中に叩きつける。畳間の身体は再び地面を転がりながら吹き飛んで行き―――消えたかと思うと、片膝立ちで俯いた状態で、綱手の傍に現れた。その肩は大きく上下し、消耗していることが分かる。
「お兄様!!」
綱手が畳間の意図を察し、ナルトを地面に放すと、その背に掌仙術を掛け始めた。
「……おっちゃん!!」
ナルトが、泣きそうな声で畳間を呼ぶ。
ウラシキは畳間に顎先を蹴られ脳震盪を起こしているのか、ふらつきながら、しかし見下すような下劣な笑みで、ナルトを見つめる。
「てめェは守られてばっかりじゃねえェか!! ああ!? どうしたよ狐ェ!! 最初の威勢はどうしたァ!? みっともねェ!! 生きてて恥ずかしくねェのかてめェは!! どうだァ!? 今ならオレの足の指を舐めて泣いて許しを請えば、てめェだけは許してやるぜェ!? ―――そこの野郎は殺すがなァ!!」
―――あいつ、根に持ってやがる。
畳間は鋭い視線をウラシキへ向ける。
「て、てめェ……!!」
ナルトの瞳孔が鋭く吊り上がる。眼が赤く染まり、頬にある三本のひげが厚さを増し、その体の表面を赤いチャクラが覆い出す。
「―――ナルト!!」
ナルトの指がぴくりと動いた瞬間、畳間の一喝が飛び、ナルトはびくりと体を弾ませて、畳間の方へと視線を向けた。
「……大丈夫だ。―――任せておけ」
「おっちゃん……」
立ち上がった畳間。肩越しに振り返る畳間が浮かべる笑みを見て、ナルトは目を丸くして、瞬きをする。同時に、ナルトの身体の表面を纏っていた赤いチャクラが失われていく。
ウラシキが舌打ちをする。
畳間は、大きく息を吐いた。
「ウラシキ。口ばかり達者だが……オレ達の誰一人、未だ殺せていないようだが? やはりお前は口だけか? ナルトの言葉も、あながち間違いではなかったらしい」
ぷちりと、何かが切れる音が、ウラシキから漏れ出した。
ウラシキの眼が見開かれ、凶悪な笑みがその顔に浮かぶ。
「いいぜェ!! だったら、今!! 殺してやるよ!!」
ウラシキが宙へ飛び、天空へ掌を向けた。ウラシキの掌から、発光する赤紫のチャクラの球体が現れ、天へと駆け上る。
「―――
天へ駆け昇った赤紫色のチャクラは、巨大な”蛇”の姿を象り、天を呑み込むほどの巨大な口を開き、ウラシキの頭上を駆け回った。そしてその蛇は上空で、畳間たちを見下ろすように停止すると、その巨大な口に、赤紫色の巨大なチャクラの球体を発生させる。
「……昔のオレを見てるようだな」
煽りにすぐ乗る。天を掛ける龍―――ウラシキの場合は蛇だが―――で、
畳間は若き日の記憶―――二代目水影との戦いを思い出す。煽りに乗って、相手に最後の切り札があることを、察知することが出来なかった。
自嘲するように小さな笑みを浮かべて、小さく呟いた畳間は、次の瞬間表情を真剣なものに変え、叫んだ。
「―――集まれ!!」
畳間の大声。
それを聞いた木ノ葉の者達はその意図を察し、畳間の傍に駆け寄った。
「
畳間の言葉を受け、サスケは畳間の足元の小石と自分の位置を入れ替える。
それを確認した畳間は、―――パンッ、と両掌を合わせ、瞑目する。畳間の心臓が、大きく鼓動する。
「サス―――サラダさん!!」
綱手の傍に居たボルトが、サスケに駆け寄った。
「死ねェ!! 千手畳間ァ!!」
宙に浮かぶウラシキが、嗜虐的な笑みを浮かべて、掌を振り下ろした。ウラシキ最強の一撃。これを以て、皆殺しにする。九尾も死んでしまうことなど、今のウラシキの頭には欠片も残っていない。
ただ、憎い敵を殺したくて仕方がない。そんな状態であった。
―――だから、足元を掬われる。
「―――仙法」
畳間が眼を開く。その顔には―――隈取が、浮かび上がっている。
「―――木遁」
畳間のチャクラが、爆発的に膨れ上がる。
突風が巻き起こり、火影装束がはためいた。
「―――真数千手ッ!!」
――――は?
突如として現れた、超巨大な千の手を持つ仏像。
ウラシキは目を丸くし、瞬きをした。それは現実逃避だった。目の前の現実を受け入れられない―――現実逃避から来る間隙であった。
―――奴らはどこに?
ウラシキの思考は、酷く落ち着いて、ゆっくりとしていた。そう―――それはまるで、命の危険に晒されたとき、世界がスローに見えるという、ウラシキには生涯縁のないはずの、くだらない噂話のようだった。
―――ああ、あの仏像の頭の上か。奴ら、全員あそこにいやがる……。
仏像の背後に聳え立つ千の手が、拳を持ち上げた。
やはり、やけにゆっくりと視える。
―――吸収しなければ……。ああ、そうか。輪廻眼も、チャクラを吸収する壺も……無くなっちまったんだった……。
主人が呆然としている間―――チャクラの大蛇は主人を守るために真数千手に牙を向き、しかして叩き潰された。数百の腕を道連れにしたが、真数千手は、まさに”千の手”を持つ者。数百程度失ったところで、ウラシキを殺すには十分である。
―――なんで、こんなことに……。狐を……狐が弱い時代に遡って、楽に狐を手に入れるはずだったのに……。
目前に、数百の拳が迫る。
「馬鹿な……っ!!」
そうしてようやく呆然自失から立ち直ったウラシキは―――
「―――これは、大筒木の……ッ!!!」
―――その言葉を最後に、拳の流星群に呑み込まれ―――絶命した。