次の日の午前10時。
SCP-1000+ε、もといサチとイチは、中脅威度ヒト型収容室にいる。B10-1024。
天井の照明は蛍光灯ではない。
床には、特殊な“動物の死体”を素材に加工した敷物。
机や椅子も、金属でも木材でもない。それらの異質な素材が、わずかに臭いを放っている。
本棚には"教育"のための資料。DVD、書籍、そしておそらく、それ以外の何か。
……怖く書いてみたが、子供部屋だ。
ビーズクッションに乗って、くつろぐ二人。
姉のサチは体育座りで、妹のイチはうつぶせにだらんと乗っている。
二人とも新しい入院服の格好だ。
千夏はしゃがみ込み、これからの生活スケジュールを伝えようとしていた。
「いい? わたしが是からあなたたちを担当する神林千夏です。改めてよろしくね」
目線は姉妹と同じまま、ぺこりと頭を下げた。
「おねがいします」「よろしくー」
姉妹はふんぞり返っている。貫禄すら漂う。将来、大物になるに違いない。
千夏は、昨日の夜遅くまで事件の始末書を書いていた。
隈で笑顔がより一層怖い。もはやモンスターだ。
……が、姉妹にとっては、昨夜の“老人”のほうがよほど怖かった。
千夏はそれを「懐かれた」と勘違いしたのだった。
「ねえねえ、チナツ」
やはり、妹の呼び捨てはかわいらしい。
「どうしたの?」
「私イチ!」
「いち?」
姉も、イチを見倣って続ける。
「私サチ!」
「さち?サチ!」
千夏は有頂天だった。
昨日のお菓子大作戦(仮)、大成功。
つまり、物で釣れたのだと——そう、愚かにも確信してしまった。
「よろしくねぇ! イチぃ! サチぃ!」
そのまま、二人を抱きしめようとする千夏。
だが、器用に離れる。クッションを盾に隠れた。戦場仕込みだ。動きが違う。
……まだ、そこまで心を許したわけではない。
かくして姉妹とSCP財団の不思議な日々は始まった。
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この宇宙のどこでもない場所。そこには、ひび割れた体の黒スーツと双頭のデッサン人形と首なしのステッキを持ったコート服と後ろ向きのシルクハットの絵画がいた。全員少なくとも人間ではない。
誰も色彩に乏しい黒っぽい見た目だ。
”楽園に辿り着きし者の真実を、証明することはできるのか?”
「黒服、其方はこの古則公案を如何に考虑する」
「……私の専門外ですが、
この命題には合理的意思解釈が求められる」
「不適だな。『生きるか死ぬか、それが問題だ』と訳するようなものだ。
それでは古則を言葉遊びへと矮小化することになる」
「……ですが、用語の定義に関し、明確性を欠いているのでは?」
「暗喩と見るならば、文脈を添えねばならぬ。
だが、この古則はすでにひとつの孤高に刻まれたodeとして、
意義を抱え、ただ静かに佇んでいる。 」
「必然的に矛盾が生じます。古則の成立そのものが、
楽園の存立を根本から否定しているのです。 」
「是に私は芸術を見出している。して、その心は?」
「マエストロ、文学を文学以外の観点で解釈するとは、それは主観の極みだ」
「ゴルコンダよ、芸術のための芸術は、具象を削ぎ落とすことで完成する。
シンボルとして其方が切り落とすのは、もはや枝葉末節ではない」
「テクストの解釈に落とし込めば、網の目を拡げられる。違いますか?」
「二人とも、私はそも楽園の存在に懐疑的なのです。
従って、先の設問の見解を述べましょう」
「横槍を入れる形になってしまいました。すみません」
「私の考えでは、楽園の存否を疑う時点でそこは既に楽園ではない。
楽園ならざる何かに、無意識のうちに気づいているのだから。
加えて、“楽園”および“真実”の定義は明確に規定されておらず、
何を指すのか曖昧なのです。あまりに多義すぎる」
「ふむ。賛同しよう」
「では、楽園を“万物に永久に最大限の幸福を与えることが可能な場所ないし状況”
と定義するのはどうです。
先ほどよりも明確で、論理的な整理がなされていると言えましょう。 」
「……まあ良いだろう」
「“辿り着きし者の真実”なのですから、
“楽園に辿り着きし者”には我々の想定と異なる何かがあるのでしょう。
そして、それはわざわざ言及される以上、必ずしも一般に好ましいものではない」
「しかし、一意に定まるのか? 解釈の余地が含まれるからこそ、
この文章は耐えているのではないのか。楽園は遍く万人に門戸を開く。
楽園を定義することは、その門を閉ざすことに等しい。
私の発言も矛盾してるのだがな」
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1章終わりです
最終話まで構想と設定は完全に立ってます
ブルアカ要素はしばらく出せません(悲しい)
暫くお時間をいただきます
またいつか一気に投稿します