SCPとブルーアーカイブ   作:麻婆mabo

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εに深い意味はありません。
ただ数字を特定しないためだと思ってください。


インタビュー

エディ博士はたった今ミーティングが終わったところだ。

 

まず、彼らのナンバリングはSCP-1000+εに決まったようだ。後ろに-1と-2をつけて二体を呼び分けることになってる。

 

今後のSCP-1000+εの処遇について、同サイトのエリア管理官や民俗学者、反ミーム保護の専門家など、多様な人間と“有意義”な議論を交わしてきた。もっとも、その有意義さは、彼にとっては皮肉以外の何物でもなかった。

 

「脱走を防ぐために彼女らに目隠しをするのはどうか」 「いや、首輪のほうが適しているのでは?」

 

そんな馬鹿げた意見が飛び交う場を、果たして“議論”と呼んでいいものか。 途中から聞き流していたので経緯は定かではないが、そんな案が採用されるはずもない。 無論ビキニなど論外。

 

倫理委員会にどう説明する気だ。千夏が聞けば、間違いなく天誅を下しに来るだろう。

 

「はぁ…はぁ…博士…」

 

噂をすれば、そのスーパーウーマンがやってきた。ヒーローは遅れてやってくるものだが、この場合はヒロインか。しかし、彼女の姿は疲労困憊の満身創痍。息が切れている。既に大ピンチだ。

 

「大変そうだな。どうした?」

 

珍しく煙草を持っていなかったが、それは単なるタイミングの問題だ。会議室では吸えない。

 

彼はあまり関心なさげに問いかける。さっきの会議で少々不機嫌なだけだ。

 

「ここに…いらっしゃったんですね、はぁ、探し…ました…」

 

だからどうしたと聞いているのだが、彼女は息を整えることで精一杯のようだ。

 

だが、彼にはおおよそ察しがついていた。

 

「ああ、SCP-1000+εになったぞ。お前の担当」

 

この急ぎっぷりを見るにさしずめSCP-1000+εが起きたのだろう。我が助手の念願のSCPだ。

 

早速名前が決まったことを教える。

 

「そうなんですね! 彼女らは起きたn——」

 

千夏は喜色満面になった。そのまま彼女らの起床を報告しようとするが、博士はもう彼女が何を言いたいのか察しているので会話を切った。

 

「よし、早速始めるぞ。倉庫D-7と私のオフィスから必要なものを取ってきてくれ。ヒト型実体用だ。病室で落ち合おう。あと、薬も忘れずにな」

 

話を遮るのが得意な博士は、千夏にテキパキと指示を出す。珍しく冗談を挟まず、実務的だった。

 

さて、読者の中には「解析は治療中に済ませたのではないか」と考える者もいるかもしれない。だが、それは違う。ヒト型SCPの場合、覚醒後の行動や発話内容、認識能力の変化を細かく観察するのが基本だ。財団には「最初は普通に会話できるが、5分後には相手の言葉が脳にこびりついて離れなくなる」異常を持つ存在もいる。

 

だから、最初の段階で異常性を見極めるのが何より重要なのだ。

 

博士が指示したものは、三脚付きのカメラ、記録用紙、レコーダー、薬、そして拳銃。拳銃はもちろん、自衛のための措置である。SCP相手に無力だろうと、武装の有無が生死を分けることは往々にしてある。

 

「わかりま…した」

 

千夏の返事は少し濁った。話を遮られるのは博士との会話では日常茶飯事だ。

 

それで言葉が詰まったのではない。今からまた走らされるのかと、未来の自分に思いを馳せたからだ。急ぐ必要も、走る必要もない。 だが、彼女の性格上、手を抜く自分はあり得なかった。

 

 

 

病室の前で博士と助手は再会した。

 

二人とも薬を飲んで準備は万全だ。

 

ただ千夏はかなり緊張していた。肩がわずかに上がり、唇を少しきつく結んでいる。 単純に疲れてもいる。

 

「緊張してるのか」

 

見かねた博士は少しそれを解こうと話しかけた。ヘラッと笑ってみせる。

 

「博士が初めての時どうだったんですか?」

 

実は今まで彼女は博士のお付きとして働いていた。つまり千夏にとってSCiPをしっかり担当するのはこれが初めてだ。初仕事である。危険を考慮し、博士が補助や代役を務めることもあるが、それでも不安は拭えないようだ。気分を紛らわせるのと任務の成功のために博士に質問した。

 

「あー…」

 

博士は一瞬、返答に詰まった。 博士としてはこれは非常にまずい質問だった。

 

「何ですかその反応。大失敗でもしでかしたんですか?」

 

多少は実になることが聞けると思ったのに情報量がない反応で彼女は不思議そうだ。

 

「まあ、そんなところだ」

 

苦笑しながら言った。実をいうと彼の初担当のSCiPは、名前を呼んだだけで脳が焼かれる代物だった。

 

たまたま呼びかける前に異常性を解析できたから生き延びたものの、あれは今思い出してもゾッとする。

 

博士は仕事の能力に対して特にプライドがあるわけでもない。だからこそ、千夏の反応に便乗した。

 

そもそも、職員同士の身の上話は事故の火種になりかねない。だから、本来なら避けるべきだった。

 

だが、博士も見習いのころはこういうミスで始末書をたくさん書いてきた記憶があるので、可愛い後輩を咎める気はあまりなかった。習うより慣れろ、が彼の考えだ。本当に命が惜しければ、叱るべきなのだが。

 

「へー、博士にもそんな時代があるんですね」

 

彼女も自分でこの話題を出しておいて、後になってこの会話の危うさに気付いたようだ。彼の歯切れの悪さも相まって、それ以上の追及はやめた。

 

「まあ、とにかく。こういうのは人間関係と同じだ。ファーストインプレッションが大事。 刺激を与えないように。そして、行動をつぶさに観察することだな。最初さえ上手くいけば、少なくとも命は大丈夫だ」

 

「はい」

 

実用的なアドバイスをもらえたので、彼女は少しできる気がしてきた。最後の一言が物騒だがそれも仕方ない。財団の研究員という職業は人死にが多い。昨日まで隣で働いていた同僚が、翌日には精神病院送りになったり、文字通り真っ二つになったり、異世界の住人になっていたりする。

 

「まあ、SCP-1000+εに限っては危険性はほぼない。大丈夫だ。」

 

あの二人の能力は普段の化け物に比べると可愛いものだ。聞いたところによると反ミーム性が少しあるだけらしい。要は幼気な恥ずかしがり屋さんだ。いまだに眠っている方の能力はまだよく判明していないが今までの状況を考慮するに、そこまで強大なものでは無さそうだった。

 

もっとも、そうやってSCPを舐めているとよく痛い目を見ることになるが。

 

彼女はこれから対峙するアノマリーの考察を頭の中で巡らせているようだった。考え込んでしまったのか、返事をしない。だが博士は気にせず続ける。

 

「道具を準備しろ。入るぞ」

 

 

 

 

 

妹の寝顔をじっと見つめる。静寂を裂くように、扉が軋む音を立てて開いた。彼女にとってここがどこなのかわからない。けれど、妹が静かに眠っているうちは、今は大丈夫なのだと思いたかった。

 

だが、その平穏は長くは続かない。 足音が近づく。入ってきたのは、先ほどの黒いスーツの女と、白衣を纏った男だった。二人の姿を目にした途端、彼女の背筋が強張る。本能的に妹の前に身を乗り出し、無意識に手を伸ばす。まるで遮るように。喉が渇き、呼吸が詰まる。スーツの女の口元がわずかに歪んだ。彼女にはそれがひどく不気味に映った。

 

二人は何かを話している。けれど、耳に届く声は遠く、言葉の意味が掴めない。白衣の男が床に散らばった紙を拾い集める。その仕草を見ながら、彼女は必死に決意を固める。話しかけなければ。確かめなければならないことがある。

 

彼女は震えて。声が出ない。もし言葉を間違えたら、姉妹もろとも化け物の餌になるのではないかと想像する。目の前の大人達が実際以上に大きく見えていた。視界が滲む。喉が詰まり、胸の奥で膨れ上がるものがある。涙がこぼれそうになるのを必死に堪えていた。

 

 

 

時計が夜の10時を指してる。

 

 

 

千夏は講習と全然違う場の雰囲気に飲まれていた。いわゆる本番の魔物というやつだ。

 

緩んでる博士はカメラをセッティングしながら、ちらりとアノマリーの目を確認する。潤んでいた。

 

「おい、千夏。対象とのコミュニケーションはもう始まってるぞ。まさか泣かせるのが手順のうちじゃないよな?」

 

博士お得意の皮肉に千夏は小さく肩をすくめるしかなかった。情けない声が出る。

 

「えええ…で、でも、どうすれば」

 

千夏は頭が真っ白になった。接触開始10秒足らずのうちに目線で博士に助けを求める。

 

だが、博士は応じない。素知らぬふりをして、カメラを調整し続ける。彼女のためでもあった。

 

仕方なく、千夏は目の前の少女を観察する。もう一人の子を自分の背に置くように体が私たち向いてる。

 

化け物相手なら彼女もやり方はわかるのだが、可愛い子供には非常に弱かった。

 

もっと怪物然としてた方がきっとかえってやりやすい。いっそのこと今から彼女らが化け物に変貌しないだろうか。彼女はパイプ椅子に座りながらそんなことを無為に願う。起きるわけがない。

 

さらに不運は重なる。

 

彼女はカメラの前が苦手だ。極度の緊張状態だった。

 

 

 

博士はカメラの録画ボタンを押しインタビューログの撮影を開始する。レコーダーも問題ない。

 

後輩の初SCP 体験はかなり不安だがまあ大丈夫だろう。

 

博士は必死に方法を模索している見習いを見ながら後方でくつろぐ。

 

見事なジャパニーズイングリッシュを彼女はしゃべってる。

 

「ソ,ソ~リ~」

 

英語がいつもなら普通に通じるレベルなのに、今はなぜか酷い。

 

というか、千夏は何に謝っている。 いや、きっと本人も分かってない。

 

インタビュー講習通りの手順で初めからやればいい。

 

SCP-1000+ε-1は黙りこくって鼻をすする。

 

「アイル スタートゥ インタビュー」

 

それは始めすぎる。博士は内心で頭を抱えた。片言に拍車がかかってる。第一声だ。よく考えてほしい。 SCP-1000+ε-1が震えだした。

 

「...... Sorry, I didn't mean to startle you.」

 

おおっと、神林、ここで対応を変える。見事なキメ顔。しかし なにも おこらなかった。

 

もはやふざけてる。大喜利ではないのだ。本当にどうした。

 

SCP-1000+ε-1の涙のダムはもう決壊寸前だぞ。

 

様子がおかしい千夏を前に、博士は目をつむる。仕方ないと。少し手を貸すことにした。

 

「インタビュー講習では最初何をしたんだ?まず自分から確認するべきことがあったな」

 

大ヒントだ。というか答えだ。これで行ってほしい。なぜ今日に限って千夏はこんなにへたってるのか。もしかして本番に弱いタイプかもしれない。私の喫煙をとがめる時の雄弁さはどこへやら。

 

このままじゃ本当に灰皿専門部署に回されかねない。

 

彼女は、博士の助言にハッとする。

 

「ワ、ワッツ ユア ネーム?」

 

「あ”う”ぅ」

 

こりゃだめだ。

 

案の定オブジェクトはパニック状態。現在、状況は悪化の一途をたどっている。

 

涙で寝台のシーツが濡れていく。まあ、初めてにしては頑張った方なのかもしれない。

 

博士は頬杖を突く。

 

正解は、”こちらの言葉が通じるかどうかの確認”だ。これをして話が通じるなら会話と命名をはじめ、そうでない場合は何に反応するかを確かめる。基本だ。

 

しかし千夏はもう完全にテンパっていて気付いていない。

 

博士は内心で、彼女の人事評価をどう取り繕うかを既に考え始めていた。敗戦処理中である。

 

しかしこれはもう援護のしようがない。カメラはもう回してる。千夏には申し訳ないが今回は自己責任ということで諦めようか。彼女なら甘んじて受け入れそうだがこちらも最初に少し放任した手前すこし悪い気もする。いっそなかったことにするか。

 

「あ、ぐすっ、あの、い、いも”うどは、ずずっ、ゆ、ゆうじでくださぃ」

 

「えっ!」

 

一旦仕切り直そうとした、その時だ。

 

千夏が雷に打たれたように驚いている。博士は千夏の驚きを見て、黙って様子をうかがう。

 

初手の謝罪が最善のコミュニケーションだったとは認めがたいが、少なくとも予想外の進展だ。

 

きっと長丁場になる。博士は一旦もたれてポケットをまさぐった。煙草を探しながら、未だに目を見開いたままフリーズしている彼女を見かねて、ぼそりと言う。

 

「千夏、どうした。」

 

博士の言葉に漸くフリーズした脳が回転し始める。いまだに先ほどの衝撃は抜けない。

 

彼女はぎこちなく首を博士の方へ向けた。そして、まるでゾンビのように呟く。

 

「博士、この娘、日本語、話す」

 

この喋りで目の前の泣いてる少女を襲えば立派にホラー映画だ。 確か人肉缶詰のSCPもちょうどいる。

 

「ら”、らんぼう”ば、わだじだげにじでほじい”でず。」

 

千夏曰く日本語らしいが何を言ってるかわからない。SCP-1000+ε-1は必死なようだ。

 

千夏はずいぶんなことをオブジェクトに言ったらしい。

 

そのまま姿勢を千夏に向き直し、頭をベッドの上で下げようとする。いわゆる土下座か。始めて見る。

 

…日本語?

 

「ちょちょちょ、待って、待って、悪いことしないから。大丈夫だよー?だいじょーぶだいじょーぶ」

 

謝るSCPを止める職員という意味不明な構図をよそに、博士はオブジェクトが日本語を話すことについて考察を伸ばす。この新情報で懸念点が浮かび上がった。

 

「ゔぇ~ん、なんでも”じまず」

 

SCP-1000+ε-1はもう泣くのに必死でこちらの言うことをよく聞いていなかった。

 

千夏は見事にドツボにはまっている。なだめようとすると怖がられてしまう悪循環だ。

 

せめて彼女がもう少しインタビュー対象をSCPと割り切って無慈悲に接することができれば結果は違ったのかもしれない。まあ、無理だろう。

 

だがそんなことより確認を取らなければ。

 

「神林」

 

「はい!?」

 

千夏は少しパンク気味だ。鼻水が服につくのもいとわずアノマリーをなだめてる。

 

本来SCPとの接触は認可がないとできないのだが、後の祭りだ。

 

「ゆ”、ゆるじでやっでぐだざい」

 

「どんな日本語だ」

 

「シー セイド フォー フォーギブネス!」

 

千夏は迫真の顔だ。至って真面目に皆目見当違いなことを言う。

 

博士は彼女渾身のボケにも反応せず真剣な顔だ。

 

「違う、そうじゃない。…標準語か?」

 

彼女は泣いてるオブジェクトを前に手を動かしてあわただしい。

 

SCP-1000+ε-1ももはや号哭だ。

 

「ゔわえええああ”あ”あ”ん”ん”」

 

「イエァ、スタンダード……ラ、ランゲージ、えっと、おち、おちついてー、はぁ、now no、よしよし 」

 

千夏にマルチタスク能力はない。まして英語と日本語の瞬時の切り替えなどなおさらだ。彼女の頭の中は完全に混乱していた。もはやどっちにどっちで喋ればいいのかわからなくなってしまってる。

 

さらにはアクセントも壊れている。

 

「ゔぇぇぇぇん」

 

「標準語?訛りなし?(Standard? No accent at all?) 」

 

博士はさらに情報を求める。

 

「あーーーー、イエス、落ち着いて~、ほら、そう、お姉さん怖くないから、ね?」

 

千夏の方としては、これ以上自分に負荷をかけてほしくない。

 

彼女のCPUではもう処理が追い付いてない。

 

「うう”ぅ」

 

「ん?あっ違っ、ノッ ,ちょっ、そう、ノー、ダズント、すーはーしようねー、アク、アクセント 」

 

返答も言語も何もかもめちゃくちゃだ。

 

しかし、千夏は三単現のsを助動詞に付ける余裕はまだあるらしい。

 

おかしい。どうやら標準語で訛りもなく日本語を話すようだ。いよいよきな臭い。

 

 

 

SCPインタビューログ傑作選に加えられそうな珍インタビューを監督しながら、博士は考え込んだ。 日本語を、しかも訛りもなく話すというのは出自と照らし合わせると妙だ。発生した土地とかみ合っていない。なまじ未知の言語ではないから彼女たちが誰かに意図的に作られ、財団が把握していないバックグラウンドを持つ可能性がある。そうだとしたらこの存在は非常に危険だ。

 

博士はいつの間にか取り出した煙草を口に咥える。溜息とともに深く吸い込む。そうなると、千夏だけでは対応しきれない可能性が高い。"日本支部"に連絡するのが先決か……まあ、それより煙草だ。

 

博士は思考を切り上げ、黙って煙草を取り出した。どうせ千夏の適性を試す機会にもなるし、なるようになる。

 

重要なのはそれより休憩時間の確保だ。 千夏のインタビューは上手く進んでいるようだし(?)、どうせ大した情報も得られまい。”ミスター・スモーキング”の異名をもはや欲しいままにする博士は、千夏の安全より煙草休憩を優先した。

 

「千夏、後は頼んだ」

 

女の子座りのまま、膝の上に小さな手を乗せ、泣きじゃくる少女。

 

牡丹の花が雨に打たれたように、しょんぼりとうなだれている。

 

千夏は長距離走を走り切ったような疲れ具合だ。

 

先輩博士は”後輩の奮闘”を見守るべく席を颯爽と立ち去った。

 

「えっ?ちょっと」

 

ガチャッ

 

…実際、煙草中毒の言い訳なのだが。

 

しかし、千夏はの絶望的状況にむしろ力が漲っていた。

 

やる気が出て目に光が宿った。

 

そう、彼女はこの言葉を都合よく解釈してしまった。

 

文句なしのインタビュー技術だ、と。

 

異常存在交流課所属職員見習い・神林千夏、ここで頼まれた事もできなかったら漢が廃る、と。

 

いや、それどころかこのままトップに登り詰める未来まで見えてきた。

 

ちなみに、漢ではない。

 

千夏は自分が考えてるより上手くいってるらしいと考えた。だから自信を取り戻した。

 

この調子で行けばいいと考えた。次へ進もうとしてる。 気を取り直して命名だ。

 

千夏は改めて少女に向き直る。少し泣きの波が凪ぐ。チャンスだ。

 

「これからあなたをSCP-1000+ε-1と呼びます。よろしいですか?」

 

やっと財団職員ぽいセリフが言えた。彼女は心の中でガッツポーズを決める。

 

至って見た目は平静そうだが。

 

「ひっく…うぅ、ゔぅ」

 

しかし、また泣きそうだ。助けてくれ。千夏は心の中で神に祈った。

 

目の前の幼気な少女を泣き止ませてくれと。祈る規模が小さい。彼女のつつましさか余裕のなさのおかげか。

 

「んぅ…」

 

しかしそうこうしてる間に隣のベッドのSCP-1000+ε-2が目を覚ましてしまった。頭上に月と太陽のような光輪がチカリと点く。千夏の中で嫌な予感がする。

 

非常に良くない。千夏としてはさっさと一人目との接触を済ませてしまいたいところだった。これではSCPの順番待ちという奇妙な状態だ。二人の接触も時間の問題である。

 

というかそもそも”なぜ”アノマリー二人を同じ病室に入れてるのかわからない。手順書に従ったのか。事故の元だ。財団のプロトコルなら、異常存在は基本的に個別収容が原則のはず。

 

一瞬、あの道徳がなさそうな医者(か博士)の判断ミスを疑ったが、そんなわけもない。なぜだろう。

 

…と考えていたが、目の前の事態に追われて、それどころじゃなかった。

 

「ん、お、お姉ちゃん?お姉ちゃん!」

 

長い眠りから覚めたSCP-1000+ε-2は周りの環境の変化に見向きもせず、点滴がブチッっと取れるのにも反応せず飛び出す。その拍子に点滴台がごとりと倒れた。

 

妹は姉以外眼中無い。

 

「え”ぇぇん、ん”?」

 

また少し泣き出したSCP-1000+ε-1がびくりと反応した。驚いて後ろへ振り向こうとする。

 

「キャッ」

 

SCP-1000+ε-2は布団からガバッとSCP-1000+ε-1の背中へ飛びついた。布団が舞う。

 

受けるのが間に合わなかったようだ。

 

「おねえちゃ~ん!! うえぇぇん!! 」

 

スフィンクスの背にベア・ラグがかかっているような状態、正面から見るとトーテムポールだ。

 

そのまま妹(たぶん)は、姉(おそらく)のうなじに顔をうずめた。

 

「ず、ずびばぜん。だいぢな、こ、こなん”ぜず」

 

顔面崩壊トーテムはそのままほぼ土下座の格好で千夏に決死のお願いをしてる。

 

千夏はそこで正気に戻った。収拾をうまくつけなければと。そうしないといよいよこの二人に勘違いされて恨まれかねない。異常存在と対話する職員見習いの試練は、始まったばかりだ。

 

「う~ん。あ、あのね、私たちは悪い奴じゃないよ」

 

その言葉に反応したグリズリー・ラグちゃんは、一瞬こちらを睨み、それから姉の上体をグイッと引き起こした。まるで自分より大きなクマのぬいぐるみを抱えるように、姉の左脇にしがみつく。

 

そこから怒った顔を覗かせる。熊が熊を抱いているという訳だ。

 

千夏からすれば、泣き顔も睨み顔もひたすら愛らしく、まるで子猫の威嚇を見ている気分だった。

 

改めて姉妹の顔を見てみる。

 

曙の髪、浅葱の絹糸の梳き透り、瞳は蘇芳が萌えていた。陰陽の逢瀬を果たしてる。

 

黄昏の髪、紅桔梗の花の咲き壯り、瞳は熨斗目が燃えていた。金環の密会を果たしてる。

 

多少、髪型や配色の違いこそあれ、彼女らは瓜二つだった。

 

炎に炙られた鉄のような肌。それでも、ファラオの秘宝のような気品。

 

鼻筋は定規で測ったかのようにまっすぐ通り、その造形は彫刻の静謐を宿す 。

 

血のつながりを疑う余地はない。

 

「うそだ。わるい人はね、わるい人のことね、わるい人じゃないってゆう」

 

”ゆう”の発音があやうい。警戒心を強めた”ベリベリロングべア”はぬいぐるみお姉ちゃんを抱きしめる力を強める。さっき泣いたせいで少し目が腫れてた。

 

ギュウ

 

もう泣き止んだ赤肌のテディベアは満更でもない。

 

まだ黒スーツをモンスターの眷属だと思っているのか、慎重な視線を向けている。

 

妹の頭を撫でながら言った。

 

「ずずっ、あなたたちは、ひっく、悪いんじゃないn、です?」

 

泣くのは収まった。しかし今度はしゃっくりと鼻水が止まらなくなった。無理して敬語を使う。

 

千夏の中で彼女らへの可愛さが有り余っていった。庇護欲がぐんぐん増していく。

 

この天使の姉妹とお近づきになりたい――だが、そんな甘いことを考えてはいけない。

 

千夏は自分の頬を両手でぺしぺし叩いた。SCP-1000+ε、予想以上の強敵だ。

 

「そうだよ。あなたたちのこと知りたいな」

 

やっとインタビューの本筋に戻った。なんとか彼女の職員としてのプライドは保たれた。

 

いっそ捨てられれば楽だが。努めてにこにこしているが、その笑顔が彼女らの疑心を逆に刺激していることに気付いていない。

 

姉がコクリと頷く。よく見定めてる。妹は無言で訝しげに見てくる。

 

妹のお姉ちゃん守るフィルターは随分甘い作りのようだ。千夏からすればありがたい。

 

「まずね、あなたたちが、どこから来たのか知りたいの」

 

二人とも首をかしげる。きょとんとしてる。

 

「ゎかんぬい」

 

「ふふっ、ふっ」

 

妹が抱きしめたお姉ちゃんの背中に顔を埋めながら言うので、声が少しこもる。それを受けて姉はくすぐったいのか声を抑えて鼻だけで笑う。そのせいで少し頬が緩んでる。

 

出来ることならこの天国をずっと眺めていたい千夏だったが、さらに質問をすることにした。

 

「じゃあいままでどこにいたのかおぼえてる?」

 

この質問は報告では彼女たちのトラウマに抵触するかもしれない。千夏は努めて優しく、ゆっくりと聞いた。

 

「うー…」「…ぅわー」

 

姉は伏し目がちになる。いや、泣きそうだ。目線を合わせたがらなくなる。

 

妹はきっと聞こえているはずなのに気付かないふりをした。

 

姉の背中に顔をうずめ、くすくすと笑う。まるで遊びに夢中なふりをすることで誤魔化すように。

 

過剰適応か。良くない。

 

千夏は、他のSCPの報告書を読んだことがあった。もちろん、許可された安全なものだけだが。

 

財団の手口には、不快なものも少なくなかった。

 

確かに、SCP財団の非情さは「必要悪」なのかもしれない。

 

だが、それでも、許容できない。

 

彼女は財団に向いていない。

 

まるで仏陀のような人道主義者だった。

 

だからこそ、この目の前の姉妹の身の上に、普通の職員以上に同情し、親身になってしまうきらいがあった。

 

千夏は、次の質問にさっさと移ることにする。

 

「じゃあ、あなたたちのなm――」

 

バタン。

 

扉が開いた。博士が戻ってきた。

 

断っておくが、彼は一応、千夏を遠目で見守っていた。

 

決して――決して、煙草を吸っていただけではない。

 

姉の警戒心が、一瞬で鋭くなる。

 

まるでおんぶするように、SCP-1000+ε-2を背中にかばった。

 

だが、千夏にとってはむしろラッキーだった。

 

さっきの気まずい空気を、なかったことにできる。

 

博士と、SCP-1000+ε-1の視線が交錯する。

 

少女らは、針のように怯えていた。

 

一方、博士にとっては、ただの「二体のアノマリー」にすぎない。

 

むしろ、彼が気にしたのは千夏の方だった。

 

「……上手くやれてるじゃないか」

 

笑顔で言ったが、同時に少し驚いてもいた。

 

千夏の不出来は、自分がいたせいだったのかと、彼は勘違いした。

 

睨まれるわ、話は通じないわ、助手は働かないわで、三拍子そろっていた。

 

少し寂しい気もするが、それよりも清々しさが勝った。

 

「大丈夫そうだな。がんばれよ」

 

そう言い残し、博士は踵を返す。

 

何か、大事なことを忘れている気もするが……まあ、いい。

 

――ニコチンと踊る時間だ。

 

 

 

 

 

千夏には謎だった。

 

あのニコチン選手は、一体何をしに来たのだろうか。

 

しかし、助けられた事実を思えば、些事に過ぎぬ。

 

彼女は、さっきどこまでインタビューを進めたか、記憶をたどった。

 

地雷かもしれないが、なおも踏み込む覚悟を決める。

 

なるべく彼女らのトラウマは刺激せず、慎重に。

 

わざとらしく咳き込んで、空気を正す。

 

「コホン。なんで、怖いところを歩いてたの?」

 

 

 

「さー?」

 

「わからn、です」

 

また妹の顔が、お姉ちゃんの脇から生えた。

 

飽きたのだろう。体勢を変え、お姉ちゃんが正座し、その腹に妹が顔をうずめる。

 

まるで耳かきだ。

 

拘束具の鎖がガチャガチャと鳴る。

 

やはり、かわいい。

 

千夏は口調を優しく整え、少しずつ核心に迫る。

 

「ねえ、私たち、不思議な魔法や超能力を使ってる人を集めてるの。

 

 二人とも、不思議な力を持ってるでしょ? それについて教えてほしいな」

 

「……」

 

「……」

 

姉妹そろって、嘘を隠すのが下手だった。

 

お姉ちゃんは露骨に妹の頭で遊び始め、妹は正座したその股の間にぐりぐりと顔を突っ込む。

 

千夏は思案した。

 

誰だって、聞かれたくないことはある。

 

だが、それを明かすのが、財団の務め。背に腹は代えられない。

 

彼女は、覚悟を決めた。

 

「もし、教えてくれたら、助けてあげる」

 

姉妹は、わかりやすく動揺した。

 

妹が、姉の体をよじ登り始める。

 

――ああ、私は悪い大人だ。

 

自分たちの利益のため、この娘たちに、SCP-1000+εに、断れない選択肢を突きつけている。

 

そのまま、ベッドの上で妹が姉を押し倒す形になった。

 

長い髪が重力に従い、寝汗で微かに湿り気を帯びながら、肌に吸いつくように流れ落ちた。

 

鼻が触れ合う距離、小声で何かを話している。

 

 

 

……聞こえているのだが。

 

 

 

現在姉妹は緊急会議中だった。議題は私の能力についてだ。

 

「おねえちゃん、だいじょーぶ?」

 

姉は”人を避ける”能力があった。性格の話ではない。物理的に、人を遠ざける異能だ。

 

最初のうちは、人が少し寄り付きにくくなる程度だった。

 

だが、いつからか――望めば、人を弾く力へと変わっていた。

 

まるで同極の磁石のように。

 

戦場の混乱、迫る暴力。それらを避けるために得た力。

 

そのおかげで、姉妹は生き延びてきた。

 

……なのに。

 

この黒服女(千夏)には、なぜか効かない。

 

あの臭い眼鏡男は、ぐぅと念じた瞬間、そそくさと退散した。

 

つまり能力が廃れたわけではない。この女にだけ、効かないのだ。

 

何故だ。

 

せっかく築き上げた力を、こいつはまるでアリの巣穴に水を流し込むように、

 

簡単に崩してしまったというのか。

 

だが、助けてくれるらしい。

 

乗らない手はない。

 

私程度で、妹の安全が保証されるなら――願ったり叶ったりだ。

 

「私は大丈夫だよ」

 

やさしく微笑んだ。

 

妹はふざけて、額にキスをする。

 

……その純粋さよ、永遠なれ。

 

姉妹は子供である。

 

この取引が最初から不平等なものであることには、気づかない。

 

さらに、財団が本当に約束を守るのかも分からない。

 

だが、今までの不幸の揺り戻しと考えれば、これは悪くない賭けだった。

 

少なくとも、財団は協力すれば多少の融通を利かせてくれる組織だった。

 

結果的には、これが最善の選択だった。

 

 

 

一方そのころ、千夏は思った。

 

……姉妹の距離が近い。

 

妹が姉に覆いかぶさり、顔を寄せ合うその光景。

 

まるで恋人同士のようにも見える。

 

千夏は わずかに 目をそらした。

 

いやいや、そういう意味じゃない。

 

これはただのスキンシップだ。

 

分かってはいるのに、どこか 「二人だけの空間」 に感じてしまい、妙に落ち着かない。

 

胸の奥がざわついた。あほか。

 

「……あのね、お姉さん」

 

姉妹は そのままの体勢で 顔だけ千夏の方に向けた。

 

「千夏って呼んでほしいなー」

 

私情だ。

 

「…千夏さん」

 

すぐに訂正するあたり、姉はわりと真面目らしい。

 

「私、人がどっかいくことができるの」「どっかどっか」

 

「どっかって?」

 

「私、こっち来ないようにね、できるの」

 

「二人から離れていくんだね?」

 

「そうだy、す」「どっか」

 

妹はお姉ちゃんの首に顔をはめてる。姉はそのせいで少し喋りにくそうだ。

 

「うんうん、どうやってその能力を使うの?」

 

千夏はわざとらしくうなずいて続きを促す。

 

「グッてやるの」

 

姉は眉に力を込めて少し首を前に突き出すポーズをする。

 

「ぐっ?」

 

千夏は思わず眉を上げた。頬を掻く。

 

「そのとき、どこか痛かったり、変だったりする?」

 

「うーん……」

 

姉が少し首をひねる。

 

妹も、同じように真似をする。

 

どうやら、わからないらしい。

 

……要実験だ。

 

千夏は次の質問に移る。

 

「いつでもつかえる?」

 

人差し指を上げながら聞いた。

 

「うん」

 

すぐに頷く。

 

次は周りに異常性を見られてないかの確認だが、見た目が見た目なので今回は質問を省く。

 

彼女らは様様な場所を彷徨してた。どうせ戦地一帯に記憶処理剤をまいてるだろう。

 

次は能力行使の理由だ。まあおおよそ想像ががつく。妹を守るためなのだろう。姉妹愛だ。

 

「なんでその力を使ったの?」

 

「危ないから」

 

「危ない?」

 

「ほかの人があぶない」

 

姉妹の顔は至って平気そうだ。それがかえって異常に見えた。

 

現場の証言から推測するに、酷いことがあったのだろう。これ以上聞くのは彼女らに酷だ。

 

次は最後の質問だ。

 

ここが一番重要だった。

 

「最後に、私たちに保護されて、協力してくれる?」

 

 

 

「ほご」「ほごぉ」

 

 

 

……しまった。

 

伝わってない。

 

姉妹は、語感だけで遊び始める。「o」の口が面白いらしい。悪戯ににやけた顔だ。

 

確かに”保護”で伝わるわけがない。

 

「ほごほご」

 

かわいい……ではなくて。言い方を変えよう。

 

「千夏たちといっしょにいてくれる? たすけてほしいの」

 

一音一音を丁寧に、今度は伝わるように言った。なるべく誠意と先ほどの謝罪を込めて。

 

「うーん…………」

 

えっ、

 

即答じゃない。

 

千夏は自身の信用度を過大評価していた。

 

息をのむ。この緊張感は財団の最終面接以来だ。

 

「うん、いいよ」

 

よかった。

 

そう思った次の瞬間。

 

 

 

「ほご…ほご……ほごほごほごほごほご………」

 

なぜ増えた。

 

妹が姉の胸に顔を埋めてうりぼーのように掘ってる。

 

…やっぱりかわいい。

 

さっきの間はなんだったんだ。千夏は思わず肩の力を抜いた。

 

一気に体が緩む。背が丸くなった。

 

これでインタビューは終わりだ。

 

……いや、違う。

 

名前を聞いてない。

 

「もう一個聞いていいかな?」

 

「ほご」

 

多分肯定だ。

 

「あなたたちのお名前は?」

 

 

 

その瞬間、全てがピタっと止まる。

 

 

 

姉妹そろってこちらを向いて微妙そうな反応だ。眉を下げて明らかに困ってる。口もへの字だ。

 

だが、トラウマ的ではない。

 

おそらく単純に言いたくないだけだろう。

 

嫌われるのを恐れた千夏は焦って口が早くなる。

 

「ごめんねごめんね。冗談だから。ははは」

 

謎の言い訳。名前を聞くのに冗談なんてない。

 

彼女は急いでこの場を離れたくなった。そそくさとカメラを止めにいく。

 

さっきまではあんなにここが天国だととらえていたのに。

 

実際彼女がここにいる理由はもうなくなった。後は上司に報告しに行くだけだ。

 

そしてパンツのポケットに何かを詰め込みながら三脚を短く折りたたんでいく。

 

去り際に彼女らへのご褒美のことを思い出した。

 

「あ、お菓子は食べていいからね!」

 

ガチャッ カチッ

 

閉じて扉にカギをかけた。

 

姉妹はベッドの間にある棚の上のトレーの大量のお菓子に顔を向けた。

 

だが、それらを見たまま動かない。

 

先ほどまでの「ほごほご」のような無邪気な反応はない。

 

しばらくして、姉がぽつりとつぶやいた。

 

「……これって、もらっていいの?」

 

妹は姉を見た。

 

その声音は、なぜか少し不安げに聞こえた。

 

まるで、ここにいない誰かに許可を求めているように。

 

姉妹は今までの経験から無償の供与を信じていなかった。

 

 

 

…それはそれとして金銀財宝の山であった。

 

 

 

千夏は扉の窓越しにSCP姉妹を覗いた。

 

とてもはしゃいでる。チョコとクッキーを食べさせ合いっこしてるようだ。

 

それを受けて千夏はにやにやしてる。ほぼ犯罪者だ。

 

とりあえず一件落着だ、と彼女は安堵のため息をついた。

 

最初のほうは(大)失態があったものの、博士が去ってからは相当うまくいった。我ながら合格点だ。

 

少し甘い気もするが、実際博士の補助輪もほぼなしなら相当うまくいってるだろう。

 

ちなみにこの一か月後、財団主催インタビューログ傑作選に見事ノミネートをされ,

 

なんと最優秀賞を争うことになるのだが…これはまた別のお話だ。

 

千夏はこっそりくすねてきた金貨チョコをいただく。ちゃっかりしてるものだ。

 

「…ん?」

 

ポケットの感触に記憶のない物がある。くすねたのは一枚のはずだがなぜかコロコロしたものが,

 

…2つ?

 

間違えてお菓子を余計に盗ったのだろう。先にチョコをいただくことにする。

 

金箔に覆われたチョコであった。

 

ラベルには”ミスター・とりっくあんどとりーと監修!爆発するほどおいしいお菓子!”と書かれてる。

 

ご丁寧にチョコの表面には”W”のロゴが惑星を模して刻まれてる。

 

彼女は金ぴかを楽しむ子供らしさを持ち合わせていた。甘くておいしい。

 

そのままポケットをまさぐり次弾を準備する。

 

人は思いがけない幸運と巡り合うと実際以上に満たされるものだ。

 

彼女もご多分に漏れない。

 

 

 

ポケットから取り出したのは,

 

 

 

2錠の抗反ミーム剤。

 

「……え?」

 

手のひらに乗せたまま、千夏は瞬きをした。

 

抗反ミーム剤?

 

金貨チョコを入れたのは間違いない。じゃあ、もうひとつのは……。

 

ふと、思い出す。博士に渡されていた薬。

 

記憶処理剤と、抗反ミーム剤。

 

……まさか

 

彼女の脳裏に、博士のぼんやりした顔がよぎる。

 

そういえば、博士さっきから変だったような。

 

いや、いつも変だが。

 

千夏は、ごくりと喉を鳴らした。

 

(……じゃあ、博士が飲んだのって? )




本作品は、SCP-345-JP(著: Kyomei)を基にしており、SCP財団のクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CC BY-SA 3.0)の下に提供されています。
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