SCPとブルーアーカイブ   作:麻婆mabo

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ピエロのボブル

時は千夏が病室を離れた直後に遡る。

 

姉妹は酒池肉林であった。お菓子の。

 

子供であることを配慮して部屋は選ばれていた。壁や床周りの色合いも多少パステルだがカラフルだ。

 

「先に食べてみるね」

 

姉は妹の危機に関して敏感だ。毒見検分を買って出た。重要で無い局面において頭はなお回るものだ。

 

「えー」

 

妹は不平だ。だが同時に姉の利己性より公平さを信じていた。なのでそのまま先陣を譲る。

 

姉は紫の飴玉を一つ頂くことにした。

 

「おいしい」

 

目がキラキラしてる。幸せとはかくあるべきだ。

 

それを見て妹も水色の粒粒のキャンディを口にポイっと放り込む。

 

「ぱちぱち~」

 

噛むと口の中ではじけるのが愉快だった。

 

彼女らはトレイを挟んでベッドの上でお菓子パーティを催してる。

 

 

 

さて、菓子を5個食べたときだろう。

 

病室の壁際のテレビがパチリと点いた。

 

姉妹はテレビを意識していなかったものだから、鏡のごとく全く同じ動作で首をそちらに向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

画面が一瞬、ざらつくように乱れたかと思うと、 カラフルなタイトルロゴが弾けるように飛び出した。

 

”ボブルのハイスクールタイム!”

 

軽快なジングルとともに、画面に現れたのは奇妙なピエロ。 フラッシュアニメのようだ。

 

体の各パーツが折り紙をレイヤーで張り付けたように浮いてる。

 

真白に塗った顔にピンクの丸鼻、 その笑みは引き攣れ、固定されたように動かない。

 

金髪に青と緑が左右にわかれた服、まっすぐ白い線が真ん中にが入っている。

 

胸元に鼻と同じ色の蝶ネクタイをつけていた。服と逆の配色の手袋で素肌は全く見えない。

 

 

 

「やあ、ボクはボブル! みんな、今日も元気かい?」

 

ボブルは教壇で両手を振ってる。

 

明るく弾む声。だがどこか作り物めいた響きがあった。

 

画面が切り替わる。 そこには制服姿の子供たちが並んでいた。 舞台は典型的な日本の学園の教室。

 

しかし、何かがおかしい。

 

壁に掛かった時計は針を失い、 窓の外はぼやけた靄に包まれている。

 

「今日のテーマは……『ハイスクールのルール』だよ!」

 

ボブルが手を広げると、 黒板にチョークの音もなく文字が浮かび上がった。

 

『★正しいカーストを守ろう★』

 

「学校には、暗黙のルールがあるんだ。ねぇみんな?」

 

子供たちはこくりと頷く。 ぎこちない動作。 笑顔が貼り付いていた。

 

「うーん、じゃあ,教室でいっちばん面白い人といっちばん影が薄い人は?」

 

ボブルが手を叩くと、 教室の片隅に立っていたひとりの小太りの生徒が前へ押し出された。

 

それに合わせてそばかすのついた少し大人びた女子生徒も前へ出る。

 

「わかったよ! ここにいるトニーくんが、奴隷!キャシーちゃんが女王様だ!」

 

画面に映る少年。 しかし、彼の姿はどこかぼやけていて、 焦点が合わない。 まるで現実に存在していないかのようだった。

 

「仲良くできない子で、遊んじゃおう!」

 

子供たちが一斉に頷く。 そして、黒板の文字がゆっくりと変化する。

 

『♪いじめよう♪』

 

「よーし、トニーくん! がんばってね!」

 

トニーは無感情にうなずく。

 

ボブルは両手の親指を立てる。ダブルグッドサインだ。何もグッドじゃない。

 

「さぁ,女王様。ほやほやの奴隷の目玉を召し上がれ」

 

ボブルはミュージカルのように両手を斜めに死て言う。

 

右手の親指以外の四本指をトニーのこめかみにおいた。無造作に彼の眼窩に親指を立てる。

 

そのまま目玉を——

 

 

 

ブチッ。

 

 

 

画面が消えた。

 

「おもしろくない」

 

どこから探したのかリモコンを握った姉が、 何の感慨もなく電源を切った。

 

部屋には静寂が戻る。

 

妹がぽかんとした顔で姉を見る。

 

「……え?」

 

「おもしろくない」

 

それだけ言って、姉は再び”あめだま”を口に放り込んだ。良く舐めれるものだ。

 

姉妹にとっては先ほどのことよりまだ食べていないお菓子のほうが重要だった。

 

すぐにとんちきピエロ のことは忘れてしまった。

 

 

 

しかし、

 

 

 

真っ黒だったテレビが再びパチリとつく。

 

姉妹は先ほどより無関心だ。

 

ボブルの口角がさっきよりも鋭くなってた。

 

彼の両手の手袋は、赤と黄色の液体で染まっていたが、それを誇らしげに掲げていた。

 

先ほどのトニーが目を抑えて跪いてるが、抑えてる手からはぽたぽたと血がこぼれていた。

 

片目を抑えたまま四つん這いで画面外にはけてく。

 

また遠くから数秒ほどビチャビチャと音がした。

 

学校机やいすが倒れて散乱している。

 

「おやおや!もう飽きちゃったのかい!?じゃあ……特別な授業を始めよう!」

 

ボブルの声は弾んでいる。まるでプレゼントを開封する子供のような、純粋な喜び。

 

テレビの画面が砂嵐になり、次の瞬間、ド派手なファンファーレとともに新たなタイトルが浮かび上がった。

 

 

 

”ボブルたちの大脱走!”

 

 

 

「お菓子食べよ」

 

「うん…」

 

画面は大惨事であった、にも関わらず姉はお菓子を選びながらの流し見だ。というか見てない。

 

妹は興味津々だ。瞬きせず見てる。

 

口うるさいピエロが解説を始める。

 

「まずは手錠を外してみよう!細い金属はなんでもピッキングツールになるよ!ねじるのも効果的だ!」

 

しかし、視聴者様は海鮮煎餅の食べ比べのほうが大事である。

 

「扉のロックは隙間に固いものを差し込むんだ!カギに穴をあけるのも有効さ!」

 

ふと姉はテレビを見やった。一通りお菓子を全種類食べ終わったからだ。

 

 

 

姉妹に似てるキャラクターが二人いる。そこは病室に2台のベッドとその間に棚と大量のお菓子…

 

 

 

ぎょっとしてあたりを見回す。

 

けれど、そこに妹以外いる気配はない。

 

もう一度テレビを見る。

 

画面の姉妹が、こっちを見て笑った気がした。

 

いや、そんなはずはない。

 

画面はただの映像だ。

 

でも、姉妹の肩越しにある棚に、まったく同じ海鮮煎餅の袋が置いてあるのは、どういうことだ?

 

 

 

 

 

次の瞬間。

 

 

 

 

 

ガタッ

 

 

 

 

 

姉の背後から、だ。

 

けれど、そこには何もないはずだった。

 

テレビのスピーカーは前面にしかない。

 

なら、今の音は何?

 

姉は唾を飲み込んだ。

 

それがやけに大きな音に聞こえる。

 

 

 

ふと、視界の端で動くものがあった。

 

 

 

そこに、妹がいた。

 

床に座り込んでいる。

 

いつの間に?

 

まるで最初から、そこにいたかのように。

 

 

 

 

 

足元には、千切れた拘束具の鎖が転がっている。

 

「あはは、お姉ちゃん!みてー」

 

姉が昨日まで見たこともない、鋭い目つきがあった。

 

「んー、これね、こうやるとね……」

 

妹がゆっくりと両手に力を込める。

 

鎖がきしみ、軋み――

 

バキッ

 

姉は息を飲んだ。

 

妹の足元に、千切れた鎖が転がる。

 

まるで、最初から壊れていたかのように。

 

 

 

拘束具が、ねじ切れた。

 

 

 

姉は我に返った。慌ててテレビに目を戻す。

 

 

 

「ナタリア博士はいつも昼休憩が長いんだ!その間がチャン……」

 

 

 

ボブルはこの施設の各フロアを歩いて紹介をしてる。

 

 

 

「お姉ちゃん、遊びにいこう!」

 

「ええ、でも…」

 

「えー、いこうよー」

 

妹は姉の両手を握り、冒険に胸を躍らせて無邪気に笑ってる。姉にとって妹の素直な笑みを見るのは久しぶりだった。ゆえに平時利くはずの自制心はまるで霧のように消え失せた。

 

「ちょっとだけ……行く?」

 

口をついた言葉は確認のためだった。 正直あの”教育”番組がやかましい。

 

「行く?行く!」

 

未知に胸が膨らむ。姉の手を引っ張る。長い髪が、床を這うように揺れてる。

 

扉へ向かった。

 

鍵はかかってなかった。

 

チナツも不用心だ。

 

部屋には道化師の声だけが響く。




この作品は、SCP-993 - ボブルの子供向けテレビ番組(著: TheCakeMaster)を基にしており、SCP財団のクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CC BY-SA 3.0)の下に提供されています。
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