SCPとブルーアーカイブ   作:麻婆mabo

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老人

次のコンテナは空中に浮いていてボコッボコッと溶岩がわくような音がしていた。

 

そのコンテナへの入り方を二人で探ってると、表面の一部が赤黒く変色している。腐食だ。

 

金属が急速に形を変えてひび割れ錆びていく音は、”濡れた落ち葉が燃えるような弱く掠れた音”だった。

 

饐えた林檎のにおいがあたりに充満していく。

 

サチがそれに気づき、イチの肩を引く。

 

「……やばくない?」

 

「うん」

 

腐食の中心に、小さな穴が開いた。

 

その瞬間——

 

ズルッ

 

何かが、その穴の中から這い出してくる。

 

いや、這い出すというより、流れ出すと言ったほうが正しい。

 

黒ずんだ影が、磁性流体のようにコンテナの表面を伝いながら、ゆっくりとした動きで形を成していく。どこか曖昧な輪郭を持っていた。

 

やがて、それは「老人」の形を取った。

 

その顔には、感情というものが一切浮かんでいない。

 

手の指はぐちゃちゃで、足はいびつにねじ曲がっていた。

 

踏む床が崩れた苺キャンディーだ。

 

ただただ、不気味に歪んだ口元が、何かを試すようにわずかに吊り上がっている。

 

 

 

サチは、喉がひゅっと鳴るのを感じた。

 

妹のイチも、珍しく言葉を失っていた。

 

化け物は、一歩踏み出す。

 

床が今度は早回しのように腐食し、まるでタールのように沈み込んでいく。

 

「……姉ちゃん、これどうする?」

 

「ちょっと待って」

 

老人の視線が、まるで彼女たちの存在を「確認した」かのようにゆっくりと動く。

 

サチは即座にイチの手を引いた。

 

次の瞬間、それが笑った。

 

……そして、彼女たちの目の前で、コンテナのドアが腐食し、崩れ落ちた。

 

イチの手を強く引いて、後ずさる。だが、腐食は彼女たちの想定よりも速く広がっていた。

 

後退すればするほど、溶けていく。甘い臭気が混じり合い、喉にまとわりつく。

 

老人は一歩、また一歩と近づいてくる。その動きは、まるで時間の概念を無視したような、不自然な遅さと確実性を持っていた。

 

腸を引きずり、腕をわずかに上げ、指をくねらせる。

 

サチは目を細め、イチを背に庇うように立った。

 

──だが、異変が起きた。

 

動きが、止まる。

 

サチたちを見下ろすその黒ずんだ顔に、わずかな疑問のような影が差した。

 

「……?」

 

イチが息を呑む。

 

その瞬間、老人は笑った。

 

ぞわり、と二人の背筋が凍る。

 

「……」

 

老人は再び前進しようとする。

 

だが、なぜか、ほんの一瞬だけ、その足が躊躇うように動きを鈍らせた。

 

サチはそれを見逃さなかった。

 

「も、もしかして……」

 

呟いた瞬間、彼女は決意したように一歩前へ出る。

 

「は、はじめ、まして」

 

「え!? お姉ちゃん!?」

 

イチの驚きが横から聞こえるが、サチは気にせず、まっすぐに"オールドマン"を見つめた。

 

彼がただ仲良くしたいだけのようにサチには見えたのだ。

 

彼は彼女の顔を覗き込むように見てくる。火事で大やけどを負ったお爺ちゃんのような顔だった。

 

イチは姉の背中に隠れるようにして彼が見えないようにした。

 

「なんていう名前?」

 

老人はそっぽを向く。興味がなさそうだ。

 

かと思えば、自身の床下をパン生地みたいにして手を突っ込む。

 

取り出した時、握りしめられていたのは──大量の人間の歯と骨だった。

 

それらを腐食していない床にきれいに並べる。大きさがそろって種類分けされてた。

 

そして、まるでオオアリクイゾンビの威嚇のような格好をする。

 

「くれるの?」

 

老人はホオジロザメのような目を、蓄光板のごとく光らせた。

 

床からさらに何かを取り出そうとする。

 

「あっ、じゃあ歯をちょっともらうね」

 

サチは十個ほどお土産をいただく。これ以上このご老体に物をせびっている様に勘違いされるのは嫌だった。彼女の良心の呵責だ。

 

「えー私も何か欲しい!」

 

現金な妹だ。危険でないと知るや否や、報酬を求める。あの歯のどこに刺さる要素があったのだろう。

 

老人は、イチの顔を静かに見た。

 

イチは不安で、少しのけぞる。やっぱりスプラッタな見た目が怖いのだ。

 

老人は床に突っ込んだ手をそのまま取り出す。

 

その掌には──ぐるぐるの錆びた有刺鉄線が握られていた。

 

「くれるの? やったー!」

 

お土産のセンスが壊滅的な親戚の叔父さんは、姪っ子に喜ばれて嬉しいようだ。

 

歯をもらって喜ぶのは、ケニアの呪術師ぐらいだろう。

 

彼は笑っているようだった。苦痛で歪みに歪んだような表情にしか見えなかったが。

 

老人は、そのまま元居た場所へ戻っていった。

 

二人にとっては台風一過だった。少し疲れた四肢をプラプラしてほぐす。

 

「……帰る?」

 

「うーん、うん!」

 

まだまだへんてこなコンテナはたくさん残っていたが、

 

既に彼女らはおなかいっぱいだった。

 

 

 

──戦利品:歯十個と有刺鉄線、名前。

 

なんだそれは。

 

 

 

 

 

彼女らの冒険はここで中断となった。彼らは少し錆ているエレベータのボタンを押して、帰りの迎えを待っている。




この作品は、SCP-106 - "The Old Man"(著: Dr Gears)を基にしており、SCP財団のクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CC BY-SA 3.0)の下に提供されています。
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