SCPとブルーアーカイブ   作:麻婆mabo

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顛末と処遇

エディ博士は煙草も吸えないほど焦っていた。

 

財団の精鋭たちは「異常存在の収容違反」という極限状況に立たされている。

 

「おい、なんでどこの監視カメラにも映ってない?」

 

「なんでといわれましても…」

 

カメラ映像を見張っていた警備員を見当違いに詰めてしまうほどに彼は焦っていた。

 

SCPが予測不可能なのは日常茶飯事なのだ。

 

SCP-1000+εは病室の扉を開けたのは,10:01:32の時点。

 

病室の廊下の監視カメラは10:00:00から10:10:00まで早送りしても”何も動いてない”。

 

それどころか,ドクターが病室の扉を開ける10:30:27まで延ばしても”変化なし”。

 

オブジェクト共はどうやら我々にまだ明かしていない能力を持っているらしい。

 

「はぁ…常駐の部隊はまだか?」

 

博士は自身の肩が小さく震えているのを感じた。

 

現在、全職員は一部を除いて動かないように通達されてる。業務の停滞も著しい。

 

「エディ博士、そろそろ部屋に戻ってください。もうすぐ部隊が突入します」

 

偶然別のオブジェクトの件で居合わせた機動隊員(アルファ)がエディ博士を監視塔へ送っていた。

 

ちなみに千夏は事情聴取を受けている。

 

「……わかった」

 

病室の監視カメラではSCP-993(ピエロのボブル)がSCP-1000+εとクロスオーバー{SCP同士の接触}をしているのが確認された。大問題である。もう一個人で対処しきれる規模をとうに越していた。

 

いくつもの”予測不能”は見てきた。だが”監視カメラすら欺くSCP”と”予想外のクロスオーバー”が同時に発生するケースは、彼のキャリアの中でも数えるほどしかない。

 

そもそもSCP-993は収容方法が確立されてるはずだった。何が起きてるのか。

 

「博士、こちらへ」

 

「ああ」

 

彼らはB1フロアにいた。監視塔の人員はすぐに地上に出れるようになっている。

 

アルファは異常事態時の対応方法をマニュアル通りにこなしてる。そのせいで心なしか機械染みて。

 

エレベータは偶然地下1階に向かっていた。一行は特に待つこともなかった。

 

彼はエレベータの待ち時間の幸運を別のところに充ててほしいと心の中で神に悪態をついていた。

 

彼はこう見えて有神論者だ。敬うかは別として。

 

というか自称神と会ったことがある。

 

チーン

 

エレベータがやってきた。先客がいたようだ。B1に行きたがるやつというのは珍しい。

 

監視カメラ映像マニアぐらいのものだろう。とんだ酔狂だ。

 

エレベータの扉が開いた。

 

 

 

ウィーン

 

 

 

時が止まった。

 

——もちろん、物理的な意味ではなく。

 

エディ博士はこの瞬間、自分が見ている光景が現実であることを脳が受け入れるのを拒否しているのを感じた。

 

さて、ここで問題が発生する。

 

第一に、SCP-1000+εは「見つかっていない」はずである。

 

第二に、SCP-1000+εは「この場にいる」ことを、監視カメラは一切認識していない。

 

第三に、SCP-1000+εは「非常に楽しそう」だった。

 

いずれも、財団の倫理規定には抵触しないが、収容規定には大いに抵触する。

 

エディ博士の喉が鳴った。

 

アルファが反射的に手を武器に伸ばした。

 

SCP-1000+ε-1が、チラリとこちらを見た。

 

「……あっ」

 

肩車されたSCP-1000+ε-1は「閉じる」ボタンを連打し、SCP-1000+ε-2はその太ももに頬ずりしている。彼らは完全にこちらの存在を無かったことにしていた。病院服は少し黒く汚れてる。

 

連打する指に、迷いはなかった。

 

世界はかくも理不尽に満ちている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

===== O5評議会 会議記録 =====

 

O5-3「SCP-1000+εの扱いについて議論する。我々は、過去の記録と同じ轍を踏まないよう慎重に進めなければならない」

 

世界の裏側を統べる十三人、O5評議会。SCP財団の最高指導者たちであり、地球規模の危機をも独断で決定する存在。 その影は深く、噂によれば、さらにその上の存在すら囁かれている。

 

O5-6 「収容違反を繰り返したオブジェクトに『優しさ』が必要とはね」

 

O5-7 「O5-3、あなたはいつの話をしてる?」

 

O5-9 「人類の敵とされていたオブジェクトが、時に最良の協力者となることもある」

 

O5-4 「要は『手懐けろ』ってことだろ?」

 

O5-1「そう単純な話ではない。我々はただの人道主義者ではないし、ましてや収容違反を容認するわけでもない」

 

O5-12 「しかし、現時点での被害は最小限だ。収容違反は発生しているが、敵意のある攻撃行動は確認されていない。むしろ財団職員との接触を求めている節すらある」

 

O5-2 「異常存在が”友好的”だからといって、それを全面的に信用するのは愚策だ。だが……有効活用の道があるなら、慎重に探るべきだろう」

 

O5-8 「前例はある。SCP-239、SCP-105、SCP-343……」

 

O5-5 「そのうちの何体が制御下にある?」

 

(沈黙)

 

O5-4 「……だからこそ、慎重に『優しく』扱えってことだろう?」

 

O5-7「そも今回の事案、過去の報告と比較したところ、類似点が多すぎる。まるで歴史そのものが繰り返されているように見える」

 

O5-5「それは統計的な偶然では? たまたま同じような異常が発生しているだけだと考えるべきでしょう」

 

O5-1「そう言えればよかったのだがな。残念ながら、確保・収容・保護の観点から見ても、あの姉妹の存在は無視できない。少なくとも、対処を誤れば最悪の事態を招く可能性がある」

 

O5-5「最悪の事態とは、具体的には?」

 

O5-1「……そのデータにはアクセスできない者もいる。そのため、詳細は伏せるが、かつてSCP-2718群との『対立』が発生した際、事態は収束せずK-クラスシナリオが起こった記録がある。」

 

O5-8「よく覚えてる。LK-クラスやZK-クラス、IK-クラス……どれも確かに“起こった”。そして今なお、我々は『その余波』を処理し続けている 」

 

O5-10「そんなバカな。公式記録にそんな記述はないはずだ」

 

O5-1「公式記録にはな。だが、記録にないデータも存在する。問題は、その事実をどう扱うかだ」

 

O5-6「……つまり、姉妹が敵対した場合、人類の存続すら危ぶまれる可能性がある、そうだね? 」

 

O5-11 「誤ったアプローチは、組織そのものの瓦解につながる。我々が恐れるべきは、収容違反そのものではない。このオブジェクトが我々の『味方』であると勘違いすることだ」

 

O5-1「可能性の範疇の話だ。だが、無視するには危険すぎる」

 

O5-3「ならばO5評議会としての決定を下す。我々の対応方針は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その部屋はまるで学校の校長室のようだった。

 

「で、確認されている限り、オブジェクトの複数の収容違反、および事故的なクロスオーバー、と」

 

雪蘭(シュエラン)エリア管理官は、書類を閉じ、静かに言った。

 

「エディ博士。おわかりですか?」

 

書類の角を博士に指す。上司と部下の関係にしては少しカジュアルだ。

 

「はは、こりゃまた容赦ないな」

 

エディ博士も気安く話しかけてる。

 

そこは威厳を醸すために意図的に選ばれたであろう重厚な木製のデスク、磨かれた書類棚、壁には規律を重んじる標語の額縁が掛けられている。しかし、その上には監視カメラのレンズが黒々と光り、威圧感をさらに強めていた。ここには、おそらく「知りすぎてはいけない何か」が収められているのだろう。ここはただの事務室ではない。命令が下れば、一瞬で誰かの人生が変わる場所――上層部の意向が届く領域だった。

 

書類の山と並んで置かれたコーヒーカップには飲みかけの跡があり、壁際のホワイトボードには管理区域のマップが貼られている。換気の悪い空間にはコーヒーとインクの匂いが混ざり、かすかに煙草の香りが漂っていた。

 

雪蘭は睨みながら続ける。

 

「あなたの職務態度が許されているのは、実務をしっかりこなしているからです。どうか、お忘れなく」

 

「その『許される』がいつまで続くかは分からないけどな?」

 

軽口を叩く。彼の気分はそこまで沈痛なものではなかった。

 

「ただでさえ人手不足なのです。冗談はやめてください」

 

静かに叱責を受けながらも、エディ博士は口元を緩めた。

 

「悲しいよ、蘭总(ランゾン)。『やめて』なんて、昔は言わないじゃないか」

 

立場を弁えた上での嫌味だった。二人はもっと若い頃、研究員と助手として二年間を共に過ごしていたのだった。 「蘭总」は彼女をわざとらしく上司扱いした呼び方だ。

 

「あのですね。その呼び方も、やめてください」

 

彼女は腕を組み、鋭い視線を送ると、ひとつ息をつき、エディの胸の中心を指先で軽く押した。

 

雪蘭は28歳にしてエリア管理官の座についた。

 

この地位に上り詰めた彼女は、才覚と実力を兼ね備えた管理官だった。

 

きっちり着こなした黒スーツに、チャイナボタン付きのジャケット。装飾には赤と金が使われている。

 

茶髪を低く束ねたメッシーバンからは、すっきりとしたうなじが覗いている。

 

スリット入りのタイトスカートにロングブーツ。クリアランスレベル4のバッジとIDカードが、彼女がこの現場で最高権限を持つことを示していた。

 

丁寧に化粧された細い眉と、わずかに垂れた大きな目が特徴的だ。

 

彼女はエディ博士と違った合理性を持ってる。O5直々の命令が下っている以上いつも以上に慎重な対応を迫られていた。中間管理職の性だ。

 

キャリアに傷がつくのは癪だ。別エリアへの転任を控えていた。有終の美を飾るためにも、今回の件は慎重に処理したかった。だからこその、いつもよりきつく当たってしまう。

 

ただし、怒ってもあまり怖くない。千夏と違って。

 

「まあまあ,”普段の職務態度”に免じて許してくれ」

 

そういいながら、黒箱を取り出そうとポケットをまさぐる。

 

博士の方が先輩だが、彼の出世嫌いが原因で地位が逆転した。

 

典型的な”研究者”だった。結果は出してるからクビにされるわけがない、と彼は踏んでいる。

 

彼女は睨み顔のまま何もないほうを見つめて考えた後さらに口調を強めた。

 

「千夏さんの対応もひどいものです。あなたもいい年なのですから部下の育成にご自身のリソースを込めていただきたいです。煙草なぞではなく」

 

正論パンチだ。

 

「…まあ…そうだな」

 

弁慶の泣き所だ。博士の目が泳いだ。

 

「第一、鍵をかけ忘れていたとはなんなんですか。初歩的なミスで私たち全員が死んでいたのかもしれませんよ」

 

実際誤ってSCPの扉を開けてしまい、大量の人材が亡くなるというインシデントは過去に他サイトで存在した。うっかりしていたでは到底済まされない。

 

「まあまあ、お前もゾンビウイルスを麻婆豆腐に混入しかけたことが…」

 

彼は煙草を吸いながら長話をし始めようとする。話をそらすために。

 

「関係ないですよね?」

 

雪蘭の声のトーンが少し低くなる。彼の都合の悪いところから目をそらす癖を良く思っていなかった。

 

自分の大事なものに関しては誤魔化すのだ。煙草とか煙草とか煙草とか。

 

「誰しも間違えるもんだ、て言いたいだけだ。寛大に行こう。雪蘭」

 

驕った態度でどこ吹く風。叱られてる立場だというのに雪蘭を煽って焚きつける始末だ。

 

彼女は頬が片方だけピクピク引き攣ってる。

 

が、”彼女の理性は目の前の煙草人間をぶん殴りたい衝動を見事腹におしこめたようだ”。

 

彼の歴代バディはみなきっと苦労したのだ。

 

「…まあいいです。それともう二つ通達があります」

 

彼女はふとニヤリとした。自分がマウントをとったような余裕の態度に戻った。実際優位のはずだが。

 

今からの話は、“irony”の心を持つ博士への銀の弾丸だった。鉄も、皮肉も貫く。

 

「O5からです。『SCP-1000+εは、優しく丁重に扱う』そうです」

 

「ああ、ついにO5もとち狂ったか。きっと明日終末だな」

 

もちろん世界の終末だ。文字通り。誤字ではない。

 

彼にとって収容違反を一回でも起こしたオブジェクトに人権(?)は無い。それが人類の保護のためになるのだから。

 

「O5が詳細を明かさない以上、私たちは従うしかない。とはいえ、可愛い少女を過剰に危険視するのもどうかと。 」

 

実際、これだけの収容違反を起こしても、直接的な被害や現実改変は確認されていない。だからこそ、O5は『優しく丁重に扱う』と命じたのだろう、と雪蘭は考えていた。

 

また,一連の事件をSCP-1000+εは反省していた。

 

「ふん、人肉テディベアも足長カモさんも可愛いから安全、とでも言いたいのか?」

 

どちらも見た目によらず人間に残虐なことができるアノマリーの最たる例だ。

 

「私はただ事実を述べているだけです。もう少し、友好的なSCPの可能性を考えてみたらどうです? 」

 

バランス感覚があるからこそこの地位までのぼりつめれたのだ。彼女は中庸だった。

 

「いーや。無理だ。絶対に」

 

彼は今まで何度もSCPに裏切られてきた。そして彼は詩人というより歴史家だった。

 

両者は平行線だ。

 

雪蘭は瞑目した。

 

「…よくわかりました。それともう一つ」

 

両者とも余裕顔だ。

 

 

 

 

 

「二か月、給与半分です」

 

 

 

 

 

「え」

 

 

 

 

 

煙草の灰が彼を代弁するかのように落下した。

 

 

 

 

 

 

 

「二か月、給与半分です」

 

雪蘭は積年の恨みをぶつけていた。これぐらいはしても許されるだろうと。

 

博士のことを彼女はかなり好いていた。が、それとこれとは別だ。

 

仕事とプライベートは分ける性格なのだ。




本作品は、SCP-239(著: Lt Masipag)を基にしており、SCP財団のクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CC BY-SA 3.0)の下に提供されています。

本作品は、SCP-105(著: Aelanna)を基にしており、SCP財団のクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CC BY-SA 3.0)の下に提供されています。

本作品は、SCP-343(著: Kain Pathos Crow)を基にしており、SCP財団のクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CC BY-SA 3.0)の下に提供されています。

本作品は、SCP-2718(著: Metaphysician)を基にしており、SCP財団のクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CC BY-SA 3.0)の下に提供されています。

本作品は、SCP-993(著: Djkaktus)を基にしており、SCP財団のクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CC BY-SA 3.0)の下に提供されています。
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