"それ"は突然だった。
穢れた枝は、世界樹に突如として現れた。
"それ" は異質だった。
穢れた枝は、世界樹に、
"それ"は弱かった。
穢れた枝は、強大な意思を持たず、拒絶されるままに拒絶され、縛られるままに縛られていた。
「どうしようかしら。」
草神クラクサナリデビは迷った。
その枝に残る"彼"の記憶はこの世界のものではない。放置していれば拒絶が世界樹にも影響を与える。
しかし、その枝は魂のようなものだ。切除すれば拒絶は魂と結びついた彼の体に影響を与える。普通の体では死んでしまうだろう。
そこで、クラクサナリデビはその枝自体を新たな存在として生まれ変わせた。
「ごめんなさい…」
元の体を捨てさせる行為であり、ある意味では殺すようなものだ。これを知れば拒絶されてしまうかも知れない。贖罪としても、せめて、この世界で一人で生きていけるようになってもらおう。
──
彼は転生したばかりだというのに適応力が高かった。世界樹に縛られていた彼の記憶にも転生が出てくる創作物はあったがその影響か。
彼はすぐに頭を回して言った。
"この声は、いやあなたは、僕を転生させてくれた神様なのでしょうか?"
間違ってはいない。しかし、彼の記憶の中の創作物に出てくるような神ではない。
スメールをまともに治めることもできていない自分が、何も知らない彼に神として尊敬されるのは申し訳なかった。
『私のことはナヒーダと呼んでくれないかしら。』
せめて、神として以外の名前を呼んでもらいたい。
そうして、彼との物語は始まった。
──
彼に傷を負わせてしまった。
体への傷ならよい。いずれはなくなり、草元素力で治すこともできる。
負わせたのは心の傷だ。
知識はあった。
ヒルチャールは弱い魔物だ。元素力が使えれば普通のヒルチャールは敵ではない。
彼は弱くない。予想外にも、自分と同じ姿であり、草神としての権能も一部有していた。
だが、人の心を理解していなかった。
ヒルチャールを倒した時、嫌な思いをする彼を感じた。しかし、些細なことだと考え、続けさせ、大きなトラウマとなった。
贖罪どころではない。
神でありながら人を一人救うことすらできなかった。
──
彼は強かった。そのトラウマをほとんど見せず生活を送り、子供たちとも楽しそうに交流した。
その様は見ていて快く、心が癒されていった。
──
彼はファデュイに襲われた。
ファデュイは彼を狙っていた。ファデュイが襲ってきたのは、自分と同じ姿であることに、間違いなく関係があるだろう。
これ以上隠すことはできない。
彼は強い。ファデュイとの戦闘でトラウマを乗り越えた。
彼はもう一人でも生きていけるだろう。彼に真実を打ち明けようとした。
“ ずっと一緒か。安心だね。"
その言葉に深い意味はなく、単に戦闘や知識が頼りになる、という程度だろう。
しかし、その言葉は、500年の時間をかけ、乾き切った心には、どうしようもなく優しい
『…そうね。』
──
彼との生活は楽しかった。子供たちが笑い、彼と私も笑った。
その生活は、真実を伝えれば消えてしまう、夢のように儚い時間だったかも知れないけれど、幸せだった。
──
突然にそれは終わりを告げた。
意識は暗闇の中に閉ざされた。彼に意識を繋ぐこともできず、外の端末に意識を繋ぐこともできなくなった。
草神の意識を封じるなど、賢者が関知していないはずがない。これが民の選択ならば、やはり自分には草神としての器がないのではないか…
──
意識が繋がった。
『アルド!』
彼の体はぼろぼろに傷つけられていた。
「君に聞きたいことがある。」
烏面の男の男が写真を出した。
そこには、彼の記憶の中の姿が写っていた。
彼を世界樹に縛りつけたのはファデュイだったのか、いや、そんなことより、
「君はその神に殺されたのだよ。」
「信じられるか!ナヒーダ、どうなんだ!」
『…彼の言っていることは本当よ。けど、』
途中で意識が再び暗闇に閉ざされる。
けど、
自分は何を言おうとしたのだろうか。言い訳するか?謝罪でもするのか?
何を言っても事実は変わらない。
民にも認められず、一人の人間を救うこともできない。
草神としての価値などあるのか…
ナヒーダの意識は閉じられ、外からの干渉をも拒絶していく。
「ごめんなさい…」