雷を纏った槍が振り下ろされる。
体を逸らしてかわすが、そのまま斬り上げに繋げられる。
両手に持った枝で防ぐが、体の軽さゆえに空中に弾き飛ばされる。
しかし、このまま負けるわけには行かない。
事前に草元素は蒔いた。指カメラを相手の方に向ける。
「蔓延──〈バチバチバチ!〉
指カメラに写ったのは雷元素を纏った槍の穂先──
──
「いや、無理じゃないかい?」
「スメールを守るのならば少なくとも俺よりは強い必要があるだろう」
「それはそうなんだけどさ」
彼はセノ。大マハマトラという役職の人だ。警察というかなんというか、とにかく罪を犯した人間を捕まえたり罰したりする仕事だ。
僕はそんな彼に指導をしてもらっている。
「傷は治ったわよ」
気づいたら僕はナヒーダの眷属でこの国の守護者になっていた。
「ありがとう」
「自分では治せないのか?」
「確かにそれもできるようになった方が良いな…」
「できるとは思うけれど…先に今の元素の使い方の練度を上げた方が良いんじゃないかしら」
「今日はここまでだ。俺は他の仕事に行く」
「ありがとう、セノ」
「私からも、感謝してるわ」
「…」
セノは無言でスラサタンナ聖処を去っていった。
「セノってちょっと冷たくないかい?」
「閉じ込められていた私が出てきたことを含めて、少なからず懐疑的に思っているのでしょう。大マハマトラとして正しい行動ね」
「まあそうか。じゃあ、今日も元素のお勉強を教えてもらおうかな」
「今日は休日にしないかしら。あんまり詰め込みすぎるのも良くないわ」
「先生が良いからそんなに苦に感じないけどね。けど、ナヒーダがそういうなら。どこかに行く?」
「そうね…」
──
「クラクサナリデビ様に眷属の嬢ちゃん!お一ついかがですか!」
「僕にもアルドっていう名前があるんだけどなあ」
「ハッハッハ、これはすまねぇ。お詫びにこれをどうぞ」
「これは?」
白い直方体の中に茶色い具が入っている
「これはナツメヤシキャンディって言うお菓子だ、クラクサナリデビ様もお一つどうぞ」
「私までもらえないわ。物事には正当な対価が払われるべきだもの」
「クラクサナリデビ様が食べたって情報だけで宣伝として十分な対価ですよ!どうぞ!」
「わかったわ、頂きましょう」
「ありがとうございます!クラクサナリデビ様!」
「甘すぎなくて美味しいね」
「美味しいわ…」
ナヒーダが至福のひとときみたいな雰囲気を醸し出している。そんなに好きなのかな?
「ここはいつきても賑やかで良いところだね」
「そうね、笑顔と活気に溢れていて素晴らしいところよ」
「え、あの子が噂のクラクサナリデビ様なの!?」
大きな声が聞こえてふり向くと踊り子衣装に身を包んだ女の子がいた。
「あ、あの時の踊り子さん」
「こんにちは、ニィロウ」
「ク、クラクサナリデビ様!私の踊りを見にきたこととかって…ありますか?」
「うーん、私の姿を舞台で見かけたのだとしら、それは私じゃなくてこっちのアルドね」
「すごく綺麗だったよ。天使みたいっていうのも烏滸がましいくらいで、なんだか救われたような気持ちになる踊りだった」
「えへへ、私の踊りがあなたの悩みの手助けになれたならよかった」
「ナヒーダは見たことないのかい?」
「この体で直接はないけれど、見たことはあるわ。あなたの踊りはとても素晴らしいものだった。そしてたくさんの人がその心を救われていた。この国の神としてとても感謝しているわ」
「えーっ!クラクサナリデビ様が私の踊りを!?えへへへ…」
ステージの上で天使みたいな顔をしていたニィロウは、惚けた顔で固まってしまった。
「ニィロウ?おーい、ニィロウ?」
目の前で手を振ってみる。
「は、いけないいけない。嬉しすぎて固まっちゃってた。私もすごく感謝してます。ぜひ次の花神誕祭に来て…いや、やっぱり緊張しちゃうな…うーん…とにかくありがとうございます!」
「ふふ。ありがとう、ニィロウ。これからも頑張って頂戴」
「はい!」
「またニィロウの踊りを見てみたいなあ」
「アルドは私との接続が切られている時に見に行ったのかしら?」
「ああ、ナヒーダがいなくて不安なのをティナリに見破られちゃってね、僕を連れていってくれたんだ」
「そんなに不安にさせてしまったのね、ティナリには感謝しなくちゃいけないわね」
「ナヒーダは何にも悪くないだろ?それにしてもティナリには色々助けれちゃったな。かっこいいしかわいいし、好きかも」
「え?」
「ケモ耳とか実は夢だったんだよなあ。けどこの体って成長するのかな」
「…」
「ナヒーダ?」
「…ええ、成長は可能よ。けれど、普通に成長するわけではないから時間のスケールは人間と大きく変わってくるわ」
「まあ、そもそもそんなに合える機会もないし難しいか。けど、感謝の言葉くらいは伝えに行かないとな」
「…そろそろ帰りましょうか」
「確かにもう良い時間だね、帰ろうか」
僕達の家は現状スラサタンナ聖処、ということになる。
この体は寝なくても死にはしないらしいのだが、精神衛生上流石に寝たいという話を通すと、ベッドをもらえた。
その上に眠っているのだが…なんか落ち着かない。一人暮らしにはなれているけれど、こんな広い空間の中にポツンとベッドがあるというのはなんとも慣れない。
何より、横にナヒーダがいる。寝る必要はないらしいけど、他に何もないのでナヒーダも一緒に横になっている。
ここまで一緒にいると神様っていうより、一人の人間という感覚がはっきりとしてくる。いやまあ、人間ではないんだけど。
こんなの寝れるわけない。
え、子守唄を歌ってくれるって?
いやいや、本当に子供じゃないんだからそんな…すやぁ
──
疲れていたのか、アルドは子守唄を聞いてすぐに眠ってしまった。
「ふふっ、可愛いわね」
アルドとナヒーダは同じ体ではあるが、筋肉の使い方や、感情の動きでまた違った顔に見える。
「にしても、ティナリが好きなんて…」
なんだか心にモヤモヤとしたものを感じた。アルドが
「ずっと一緒よ、アルド」
これで第一幕完、といったところでしょうか。
ナヒーダとの恋愛が書きたくて始めたのに随分と時間がかかってしまった…
ここからしばらくはゆったりナヒーダとアルドのお話を書いていこうと思います。
初めての作品ですが、予想以上にお気に入りを頂いて励みになっております。
ナヒーダに飢えている方がたくさんいらっしゃるのですね。私も飢えているのですが…この文章を読んでいるあなた、そうそこの方。あなたもナヒーダの二次創作を書きませんか?