帰宅(1)
「1ヶ月も経ってないのに懐かしく感じるなあ」
ナヒーダの案内に従ってアビディアの森を進んでいく。
「そうね、けれど新鮮にも感じるわ」
僕達はティナリ達へ無事を伝えるのを兼ねてガンヴァルダー村に向かっていた。
「ナヒーダは直接見たことはなかったのかい?」
「私が初めて目を覚ましたのは森の中だったから見たことはあるわよ。とはいえ、500年前とは森の様子も変わっているもの。それに」
「それに?」
「あなたと見るというだけで新鮮な体験だもの」
「ハハッ、じゃあしばらくは全部新鮮だね」
歩いていると遠目に焚き火と影が見えてきた。
「ヒルチャールね、迂回しましょうか?」
以前の苦い思い出が蘇るが、今ではもう過去の話だ。
とはいえ
「そうだね、こっちから仕掛ける必要も── 「「「ya!」」」
「え?気づかれた?」
ヒルチャール達が声をあげて立ち上がったと思うと、こちらには一瞥もくれず走っていった。
「他の誰かを見つけたようね」
「追おうか。スメールの守護者にもなってたことだしね」
ヒルチャール向かった場所へ走る。
以前と比べると随分とこの体にも慣れてきた感じがする。
「──」
「──」
近づくと人の声が聞こえてきた。荷物をくくりつけた動物が目に入ってくる。こちらからは動物に隠れて見えない。
「大丈夫ですか?」
動物の後ろに回ろうとすると、キツネのような尻尾が目に入る。キツネの耳も携えて弓を構えている。
「ティナリ!」
「アルド!?」
「yaya!」
もう他は倒されたのか一体のヒルチャールがこちらに襲ってくる。
とはいえ、以前よりは強くなった僕にとって問題はない。
「dala?」
地面から生えた根がヒルチャールの両足から巻きついていく。
「磔刑」
槍がまっすぐにヒルチャールを貫いて声を上げることもなく絶命させる。
トラウマを克服したとしてもやっぱり気分は良くない。
「大丈夫よ、アルド」
ナヒーダが手をぎゅっと握ってきてくれる。
「これくらいのことで気遣う必要なんてないよ」
なんだか気恥ずかして手を払う。
ティナリの方を見ると微笑ましそうな目をこちらに向けていた。
そりゃ傍から見ると双子の幼女みたいなもんだから正しい目線だけどさ…
「嬢ちゃんか?」
ティナリの後ろに隠れていた商人が声をかけてくる。
「ナタまで連れて行こうとしてくれた商人さんじゃないですか!」
「おうよ、嬢ちゃんが無事でよかったぜ」
申し訳ない気持ちになる。
あれは僕が巻き込んだようなものだ、それに商人さんは無事のようだが護衛は殺されてしまった。
「おいおい、そう湿気た顔すんじゃない。嬢ちゃんに責任があるわけじゃねえよ」
ナヒーダの手が僕の右手に添えられる。
「ところで、その子はアルドのお姉さんか何かかい?」
話題を変えようとティナリが質問する。
「私はクラクサナリデビ。この国、スメールを収める草神よ」
「おいおい、可愛いからって流石に不敬だぜ?」
商人が幼い子供を嗜めるように言う。
「そう思うのも仕方ないわね」
ナヒーダがそういうと同時に、空気が変わる。
草元素力が溢れ出し、足元の草の丈が伸びていく、
「も、申し訳ありやせんでした。草神様」
「し、失礼いたしました、草神様」
商人とティナリがナヒーダに向かって頭を下げる。
「気にする必要はないわ。頭を上げてちょうだい」
「もしかして、最近の噂は…」
ティナリが目線を僕に向ける。
「多分噂通りだよ。僕、草神の眷属とスメールの守護者になったんだよね」
「申し訳ありませんでした眷属様、今までご無礼を…」
「さっき見たよその流れ、気にせずにこれからもアルドと呼んでほしいな。それにティナリには本当に助けられたんだ」
「はは…それなら、これからもよろしく。アルド」
ティナリが気まずそうに笑いながら言う。
「よろしく、ティナリ」
ティナリ達も村に向かうところだったので共に道を歩いていく。
「そういえば、この森って道があったんだ」
「シティと村を繋ぐ道は整備されているはずだけど…どういうルートで行こうとしてたの?」
「僕はナヒーダの案内に従ってたから…」
ナヒーダに視線を向ける。
「シティからまっすぐ突き進んだだけよ?」
「ええ…普通道があったらそっち使わない?」
「私達なら多少の障害は無視できるもの、私が迷うことはないのだからこちらの方が合理的じゃないかしら」
「まあ確かに…」
そろそろ村が近づいてきて、その中に緑髪の女の子も見える。
「コレイー!」
コレイがこちらを振り返って固まった。
「コレイ?」
近づいて話しかけてみる。
「…どうやって戻ってきたんだ!?何かされなかったか!?怪我はないのか!?」
「えっと…」
堰を切ったように喋り出すコレイを前にしてたじろぐ。
「コレイはアルドのことをすごく心配してたんだよ?君がファデュイに攫われたって話を聞いた時には、砂漠に飛び出す勢いで止めるのが大変だったんだから」
「師匠!?」
顔を真っ赤に染めたコレイがティナリに反応する。
そのおかげで落ち着いたのか改めてこちらを向いた。
「とにかく、アルドが無事で良かった」
よく見れば目も真っ赤にして僕に抱きつくコレイ。
僕は一瞬驚いたが、一呼吸おいて抱き返す。
「心配かけてごめん。ファデュイにはそこまで何かされる前に逃げ出したから大丈夫だよ」
「よかった…」
「心配してくれて、ありがとう」